転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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第71話、転ラプ第二章最終話です。ここまで本当に長くなりました。


今回は前回のあらすじを致しません。そのまま本編にお進みください。


【追記】
前回のタイトル、そして今回……刮目して見よ。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第71話 契約

 

 

「一度の生が終わった魂が、新たな宿り先を見つけ全く新しい二度目の生を送る……人はこれを、転生と呼ぶのです」

 

 

 

あまりにも受け入れがたい真実が、悪魔の心を犯していた。

 

 

 

「……そもそも魂とは、本来現世と黄泉の世界を循環するもの。この現実世界で肉体という名の器との結びが解かれ、失われた魂は一度黄泉の世界へと赴きその存在を洗われる」

 

 

 

途切れず、彼女は言葉を続ける。

 

 

 

「その後、まっさらな状態となった初心な魂は再び現世へと戻りまた新たな器と結ばれこれを繰り返す。こうして魂は二つの世界を行き来しながら、生と死の螺旋に囚われているのです。……俗に、これを『輪廻』と呼ぶ」

 

 

 

もう、やめてくれ……。

思わず耳を塞ぎたくなる衝動に、悪魔は駆られていた。

 

 

 

「ただ、時にその流れには”バグ”が生じることがある。さっきも言った通り、魂は現世と黄泉という二つの世界を往来できるように、他世界に干渉できる性質……と言っても差し支えないものが備わっているのです」

 

 

 

やめてくれ、聞きたくない……。

絶えず、高位な降霊術師は事実だけを紡ぐ。

 

 

 

「そして、そんな曖昧で乱れやすい魂は先のある特定の条件下……二つの魂と器の対、その両者の死によって共鳴する」

 

 

 

やめてくれッ!!

 

 

 

 

 

「―――それが、ラプラスの聞いてきたるしあなりの”心当たり”。魂は肉体の死の後に起こる『転生』によって、世界を股に掛けることがあるのです」

 

 

 

 

 

向かい合うネクロマンサーが、最後にそう言葉を綴った。

 

 

「……まあ当然、そうなった時の魂の”自意識の有無”はその時その場合によるのです。仮に本当に別世界からの転生を果たしていたとしても、そこに所謂前世の記憶が伴ってるとは限らない。そして勿論、そう言う場合に限ってはそもそも転生してきたかどうかの区別はつかないのです。……だから、現実にはもっと一定数以上の転生者が居たっておかしくは無い」

 

 

俯き気味に、前髪で顔を隠す悪魔の表情が彼女には見えていなかった。ただ、そんな少女の反応から恐らく自分が話した話は本人の期待に添えるものでは無かっただろうことだけは伺えた。

 

 

「もっとも……死という条件だけが、唯一それを成立させる条件とは限らない…のです。要は魂と器、これが呼応し合う二つのペアが同時に相方を失う時に起る可能性がある現象なわけで……つまり、”死”以外の何かしらの理由で魂が肉体を離れていれば条件は満たしている、と思うのです……」

 

 

下を向いたまま、何も言わぬ悪魔に流石のるしあも少々気遣いの心が言葉に出てしまう。しかし、それでもここで嘘を言う方がもっと残酷なような気がして、彼女は自分の知る限りの真実しか口にはしなかった。

 

 

「……ただ……るしあは今のところ、”それ”以外に魂と器が離別する事例を……知らないけど……」

 

 

そこまで言ったるしあに対し、やはり悪魔は口を開かなかった。

何故、彼女は自分にそんなことを聞いてきたのだろうか。そんな疑問がるしあの心に湧きだす。あの強情で、堂々としていて、その上敵であったはずの私からの条件を素直に呑み痛みを伴う証明をしたあの悪魔が、どうしてこんな突拍子もない話を持ち出したのだろうか。

 

 

「……で、この例え話が一体何の関係があるのです」

 

 

何も言わない彼女に、るしあはそう声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……対して、その悪魔……【ラプラス・ダークネス】の心には、もはや言葉では及ばぬ限界点が見えていた。

 

(そう、か……そういうこと、だったのか……)

 

未だ真実だとは確定はしていない、されど酷く的を得ていたるしあの話にラプラスは力なく首を折る。二つの器と魂の同時の死、それはつまり今の吾輩とこの世界の吾輩の【器】と〖魂〗が同時に失われたことを意味する。この世界のラプラス・ダークネスの器に吾輩が入り込むことが出来たのは、この世界の悪魔の魂が何かしらの理由で失われたからだろう。またそれと同じように、元々の吾輩の肉体も”既に死んでいる”ということになる。それは即ち、そうなった原因を理解したところで……もう、”取り返しのつかない事態になってしまっている”ということだ。

 

 

 

 

「―――そっか…………吾輩は、もう……」

 

 

 

 

誰に向けたでもない、絶望と諦めの混じる言葉が漏れだした。

 

 

「……ラプラス?」

 

 

独り言のように口を開いた悪魔を見て、るしあは訝しんだような表情を浮かべる。……ただ、さっきの言葉は確かに聞こえていた。

 

 

「……ありがとう、るしあ。色々教えてくれて。……お陰で助かった」

 

 

力無く、かすれた声で思ってもいないだろうことを言い出す悪魔。それに対し、彼女は益々疑問符が浮かんだ。さっきまでの話が、一体何だというのだ。自分が話したのは、本来ではあるはずもないほんの一部の界隈で囁かれている都市伝説的な扱いをされている程度のものだ。勿論それが100%起きないという確証も無いが、それでも普通そんなことが起きるわけがない机上の妄想。そんな与太話が、この全宇宙を支配する『ラプラスの悪魔』に何の関係が……。

 

 

「もう、何なのですラプラス。そんな反応されると、こっちだって気になるから!というか、大体こんな話あなたと何の関係が――――」

 

 

そこまで言って、るしあの心にはある言葉が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――吾輩は、潤羽るしあを”ここで出会う前”からずっと信じてるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、あの船の中でラプラスが私に言った台詞であった。

 

 

 

『わからない……そんなの、おかしいのですッ!るしあと会う前からるしあのことを信用してるなんて、そんなデタラメな話が……』

 

 

 

『いいや、おかしくない。……吾輩は、お前を知ってる。お前がどんな星の下に生まれて、どんな人生を送って来たのかは知らない。話に聞いたホロベーダーのことだって、実際にまだ現物を見てないしお前らがどんな目に合わされたのか具体的には何も知らない。……でも、吾輩は知ってる。潤羽るしあが心底仲間想いで、少し嫉妬深いただの普通の女の子だってな!』

 

 

 

その言葉は、何も知らない悪魔が放ったにしては随分と的を得ていた。

 

 

……それだけじゃない。

 

 

 

 

 

 

『舐めるなよ、潤羽るしあ!!お前がどんなに突き放そうとも、吾輩はこれからもずっと潤羽るしあを信じてる!!―――だからお前も、吾輩を信じろッ!!!』

 

 

 

 

 

 

『……吾輩は、何もしてない……私じゃないんだ……』

 

 

 

 

 

 

『……そっか……吾輩は、もう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――そう言えば……あのキッズ、なんで魂を”二つ”も持ってたんだろう……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

度重なった違和感が、少女を真実へと誘う。どうして、この悪魔は自分を”まるで最初から知っていた”ようだったのか。どうして、全宇宙を股にかけあの巨大組織秘密結社holoXを束ねる彼女がこうも虚ろ気で悲し気な表情を浮かべていたのか。どうして、この悪魔は――――”同色”の、二つの魂を持ち合わせていたのか。

 

 

「ラプラスッ!…………あなた、まさか……ッ!!」

 

 

彼女の反応を見て、ラプラスはやはりバレてしまったかと天を仰いだ。

 

 

「…………他の、”みんな”には……黙っててくれ……」

 

 

もはやそれに何の意味があるのか、それは言っている本人にすらわからなかった。だが、例え覆しようのない事実だとしても、それでもラプラスはカノジョ達に嫌われることだけは避けたかった。それ故に、無駄な足掻きと知りつつもるしあに懇願する。

 

 

「……別に、他人の秘密をベラベラ話す様な趣味は無いのです。ただ、信じられない……ラプラス、あなたは本当に他の平行世界から……?」

 

 

「……まあ、そんな感じだ。気付いたら、こんな世界に来てて……吾輩はこの世界での自分として存在してたんだ……」

 

 

観念と諦め、断念の心からラプラスはあれだけ噤んでいた事実をタラタラと喋り出す。どうせもう、彼女以外には二度と話せないことだろうから。

 

 

「―――。……何が、あったのです。ちゃんと聞かせて」

 

 

しかし、そんな悪魔に少女は寄り添っていた。今にも崩れてしまいそうなラプラスを見て、るしあは急いで駆け寄り声をかける。そんな彼女の優しさに、ラプラスもせめて応えてやるべきかと止まらぬ口を塞がなかった。

 

 

「……実は、な―――」

 

 

……そうして、ラプラスは自分の知りうる限りを彼女に話した。元の世界で、自分は同じく沙花叉クロヱ等の部下を連れた秘密結社holoXの総帥をしていた事。そんな中で征服対象として選んだ『エデンの星』で、”アイドル”という人々を笑顔にする為の活動をしていた事。しかしある時、優秀な部下の発明品に勝手に触れてしまい気を失ってしまった事。そして、気が付いた時にはもうこの世界に迷い込んでいて、しかもこの宇宙を牛耳る”もう一人の”〖ラプラス・ダークネス〗に憑依してしまっていた事を。……但し、話しづらい真実から潤羽るしあとの関係は”ちょっとした知り合いだった”と説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。そういうことだったのです」

 

 

終始黙々と話を聞いていてくれたるしあ先輩が、そう言って頷いた。すんなり話を受け入れた、にしては何かを考えているような表情を浮かべている。まあ当然、こんな空虚な話まともに信じてもらえるわけないか。

 

 

「……突拍子もない、信じがたい話だろ……吾輩も、何が何だかわからないんだ……」

 

 

自分から持ち出した手前であはあるが、どうせ信用してもらえるとは思っていなかった。むしろこの話を理解しようとしてくれただけ、先輩はやはり根は優しいんだなとさえ思う。

 

―――しかし、そんな卑屈になるラプラスを両断するかの如くるしあは言った。

 

 

 

 

「別に、信じるのです。むしろ、その話を聞いてようやく色々納得できて安心した気持ち…………ラプラス、るしあはもうあなたを疑ってないよ」

 

 

 

 

彼女の言葉に、冷たく冷めきった悪魔の心が僅かに動いた。

 

 

「……えっ……」

 

 

「……るしあはもう、ラプラスを疑わない。何も事情を知らなかったけど、既にあなたはその行動をもって証明しるしあを信じさせてみせた…………必ず、私達を救ってくれるんでしょ?」

 

 

るしあにそう言われて、ラプラスは黄色い瞳を大きく見開いた。

”疑わない”、彼女の何気ないその一言は悪魔に計り知れない救いを与える。

 

 

「それに……まだ、結論を急ぐ必要は無いのです。ラプラスの事情と、るしあの知る話を総合して色々考えてみたんだけど……どうにも、いくつか”おかしな点”があるのです」

 

 

彼女のその言葉により、再び悪魔の心は動き出そうとしていた。

 

 

「おっ……おかしな点って……何、が……」

 

 

「まず、大前提として……その元いた世界でも最強の”らぷらとんせいじん”であったラプラスが、どうやって死ねるのです?」

 

 

それは、先程知った自身の境遇の可能性を根幹から揺るがすものであった。確かに、言われてみればその通りだ。あの世界でも変わらず、宇宙最強生命体であった吾輩がそう易々と肉体的死を迎えるものだろうか。仮に、あの博士の作っていた装置が地球を滅ぼすほどの爆弾であったとしても吾輩なら恐らく耐えられていただろう。それに、もしそれ以上の威力を持つ何かだったとしても前兆も無しに吾輩が死んでしまうものだろうか。

 

 

「それに、そもそもるしあの言っていた条件に今のラプラスは当て嵌まっていないのです。……どうやらその様子だとあなた自身も気が付いていないみたいだけど、その器には”二つの魂”が宿っている。……恐らくは、”元のそのカラダの持ち主”のものが」

 

 

「……は?」

 

 

それに関しては、本当に全く知らない事実であった。今のこの肉体に、二つの魂が……?ていうか、元の体の持ち主ってこの世界の〖吾輩〗ってことかっ!?

 

 

「ちょ、ちょっと待て……え、今の吾輩って魂二つ持ってるのか?!一体いつからっ!?」

 

 

「いつからとかは知らないけど、少なくともラプラスと初めて会った時には既にあったのです。るしあはてっきり、それがあまりにも似通った魂だったからあなたは特別そういう体質なのかと思ってたんだけど……」

 

 

似通った魂、それはつまり高位のネクロマンサーである彼女をもってして”見分けはつくが同じ人物のものと考えてもおかしくはない”程のものということだ。それならば先輩の言う通り、全く違う似た誰かの魂というよりは平行世界の同一人物の魂と言った方が幾らか納得できる部分がある。

 

 

「まさか……〖お前〗、ずっと……吾輩の中に居たのか……?」

 

 

ラプラスはそう言いつつ、そっと”自分の胸”に手を当てた。ずっと、気にならなかった訳じゃない。今の吾輩がこの世界のラプラスとなった時、この世界の吾輩は一体何処へ行ってしまったのかと疑問をもった。順当に考えれば向こうに置いてきた吾輩の肉体に入り込み、所謂入れ替わりを果たしているのではないかと思っていた。また自身を縛る枷を外した時に現れる、”昔の私”との関係性も曖昧だった。烏の話的には元々の吾輩が同じように契約を破った際にも出てきたということだったし、具体的な関連性は分からないものの全くの無関係では無いだろうと考えてい。

しかしここに来て、ようやくこの世界の〖ラプラス〗の所在を掴んだのだ。

 

 

「……ともかく、そういうワケで今のラプラスはるしあの知る『転生』とは状態が違うのです。勿論、まだ私の把握していなかった別の事例って線も捨てきれないけど……これだけ相違点があるなら、全く他の要因だって可能性の方がずっと高い」

 

 

るしあ先輩はそう言って、優しくこちらに微笑みかけてきた。そして彼女からそんな表情を向けられたという嬉しさと、まだ希望を捨てるには早いという事実にラプラスは徐々にその眼に光を取り戻す。

 

 

「そう、か……そうだよな。まだ……諦めるには早いのか」

 

 

「そうなのです。本当は、その現象が転生によるものだった場合元に戻るみたいなことは正直期待できないんだけど……まだ原因が定かではない以上、まだまだ可能性はあるのです」

 

 

当然、既に手遅れという事実が完全に消えたわけでは無い。吾輩がこの世界に来てしまった原因が仮に転生によるものだったとしても、また別の理由があったとしてももう無事に元の世界に戻ることは叶わないかもしれない。……それでも、帰れる可能性がゼロではないだけマシだ。またあの世界のみんなに会えるという希望が、少しでも残っているなら……膝を折るには、まだ早いんだ。

 

 

「……ありがとな、るしあ。少しだけ元気が出た」

 

 

「気にしなくていいのです。るしあはただ、真実を言ってるだけだから」

 

 

僅かに生まれた希望が、悪魔の心を安定させる。安堵するにはあまりにも希薄な道だとしても、まだ縋れる光があるだけ十分だった。仮に本当の真実が絶望だとしても、それを証明するまでは諦めずもう少しだけ進んでいられる。

 

―――それに、徐々に生まれつつある”新たな彼女との関係性”だけは、吾輩がこの世界で自らの力で作りだしたものということに変わりは無いのだから。

 

 

 

 

「……ところでラプラス。少し前の話に戻るんだけど……まだ、るしあがここに来た本当の目的を言ってなかったのです」

 

 

 

 

いきなり、彼女はそう言って再び自分から距離を置いた。はて、先輩がここに来た目的って……吾輩の腕を治してくれるためじゃなかったのか?

 

 

「目的って……吾輩の手を治すって約束の為じゃなかったのか?」

 

 

「それは最初からしてた約束を果たしただけで、本題は別にあるのです。本当はそこまでしなくてもいいと思ってたし、ずっと迷ってたんだけど……さっきの話を聞いて、心が決まったの」

 

 

また距離が空き、互いが見つめ合うような状態。そんな中、いきなりるしあ先輩がペコっと頭を下げた。

 

 

「……ラプラス。まだ、ちゃんと言ってなかったのです。…………私と、あくあさんを助けてくれて”ありがとう”」

 

 

感謝の言葉を口にする彼女に、悪魔は耳を疑った。

 

 

「そして……ごめんなさい、なのです。証拠もないのに、ただ噂話だけであなたを悪魔だと決めつけて、ホロベーダーを仕向けた張本人と疑ってしまって……」

 

 

あまりの衝撃に固まるラプラスを差し置いて、続いて彼女は謝罪を口にする。碌な事実確認もせず、あれだけ噂話は宛にならないと言っておきながら、自身の弱さゆえに要らぬ疑いをかけてしまったことを彼女は悔いていた。

 

 

「……それなのに、あなたは迷わずるしあとあくあさんを助けてくれた。例え他の世界で交流があったからだとしても、今のるしあが生きているのは紛れもない【ラプラス】のお陰」

 

 

言葉を続ける彼女に、悪魔は驚き過ぎて何の反応も示せないでいた。……だが、同時に確かな喜びを感じてもいた。自分が今までしてきたこと、頑張ってきたことは決して無駄では無かったのだと。

 

 

「……だから、るしあなりのお礼をさせて欲しいのです。もしかしたらラプラスは望まないかもしれないけど……でもきっと、いつかあなたの助けにもなると思うから」

 

 

そこまで言ってるしあは口を噤んだ。一度目を閉じて、それから何かを決心したように再びゆっくりと瞼を開く。その上で一拍置いてから、彼女は言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ラプラス。この私、潤羽るしあと…………『”契約”』して欲しいのです」

 

 

 

 

 

 

 

リンと鳴る鈴の音の様に、透き通った声で少女はそう言った。

 

********************

 

 

 

「……るしあと、契約……?」

 

 

 

彼女の言葉に、悪魔は幾度目かもわからない疑問を抱いた。

 

 

「そう。るしあと、”親交の契約”を交わして欲しいのです」

 

 

契約、そう聞いてラプラスは嫌でも身構えざるを得なかった。自身を縛り、最低最悪な気分にされる楔の契約。それは今尚自身の体を蝕み、縛り付ける吾輩を決して逃がさない。またそれを特例的に破ろうものなら、恐ろしい契約違反が待っている。そんな強くて恐ろしい約束を、彼女と結ぶなんて……。

 

 

「あー……えっと、るしあ……それは、どういう……」

 

 

「あ、勘違いしないで欲しいのです。別にそれでラプラスをどうこう縛ろうって気持ちは全くなくて……どちらかと言えば、未来永劫るしあ達は”友好的で居よう”っていう誓いみたいなものなのです」

 

 

るしあ先輩の説明を受け、それでも吾輩はあまりピンと来ていなかった。親交の契約、その言葉の意味は理解できる。だが具体的に、お互い何をしなければいけなくて何をしてはいけないのか。そういう制約が付きまとうものを、契約と呼ぶのではないのか……。

 

 

「そ、れを…るしあと結んだとして……吾輩は、何をしなきゃいけないんだ……?」

 

 

「特に、”しなきゃいけない”ということは無いのです。ただ、強いて言うなら今後るしあと仲良くしてくれればいいってだけで……しかも、そこにはあくまで『契約』があるから互いに無用な疑いを持ったりしなくて済む。だから本当に純粋な気持ちでただ信用して、信頼し合おうって誓いなのです」

 

 

彼女の言葉に、ラプラスは本気で驚愕していた。あれだけ嫌って、あれだけ恨んで、あれだけ疑っていたこの吾輩と……るしあ先輩が、仲良くしたいって?そう言う誓いを、契約を、吾輩と結びたがっているなんて……。

 

 

「そんな……そんなのって……」

 

 

「勿論、無理に結んでくれとは言わないけど……これには、ラプラスにもちゃんと利がある話なのです。るしあが結ぶ契約は、互いの器に宿る魂同士を介した契約……つまり時間や空間、世界や肉体に頼らない特定の個人間による契約」

 

 

それは、ラプラスの迷いを晴らす力を持っていた。魂同士による、何ものにも縛られない永劫の契約。それは、即ち―――。

 

 

 

 

 

「――――だからもし、この契約を結んだなら……るしあはこの先、ラプラスがどんな姿になろうともあなたを見つけ出すことが出来る」

 

 

 

 

 

それが、潤羽るしあなりの最大の謳い文句であった。

魂を介する契約であれば、自分の”ガワ”がどんなものであっても関係ない。例えこれから先、今回の様にある日突然別の自分になっていたとしても、るしあ先輩だけは吾輩だと気付いてくれる。その為の親交、その為の契約、そう言う誓いを立てようというのが彼女からの提案であった。

 

 

「ラプラス、今度はるしあの番なのです。……あなたがるしあを受け入れてくれるなら、これから先私は何があってもラプラスの”友人”でいる。例えこの世界の悪魔が何をして、今まであなたという悪魔が何をしてきたのだとしても、るしあは今のラプラスを見るのです」

 

 

彼女はそう言うと、そっと手を前に上げこちらに差し出した。それは吾輩があの海賊船の中で先輩にしたことの反対で、次は彼女の方から差し伸べられた吾輩の『救い』であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ラプラス、私はあなたを信じる。これから先、あなたが何をしようとも今日言ってくれたこと、してくれたことをるしあは忘れない。―――――だからあなたも、私を信じて」

 

 

 

 

 

 

 

るしあからのその申し出に、ラプラスは思わずここまで我慢していた涙が溢れ出しそうになってしまった。自分が彼女にしたように、今度は相手から齎された確かな救い。そして、それに対する答えなど当の昔から決まっていた。あぁ……これだけの結果に辿り着くのに、自分はどれだけ苦労したのだろうか。

 

 

 

「――勿論だ、”るしあ”。吾輩は今までも、そしてこれからだってお前を信じてるぞ」

 

 

 

そうして、悪魔はその小さな導きをゆっくり手に取ったのであった。

 

 

********************

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ねぇ、ラプラス。契約の前に……あなたの本当の名前を教えて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?いきなりなんだ。本当の名前も何も、吾輩はラプラス・ダークネスだ。平行世界の同一人物なんだから、こっちの世界でもあっちの世界でも同じだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは分かってるのです。ただ、悪魔というくらいだから他の正式名称……”真名”でもあるかと思って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、そういうことか……それなら、吾輩は【ラプラス・ディア・ハイエストデス・サーティン・ダイナアートオブ・インパクト・サイン・皇・ロード・オブ・The・ダークネス】だ。くっそ長いから普段はラプラス・ダークネスって名乗ってる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほど……ふふっ、確かにとっても長いのです。それなら、これからも変わらず”ラプラス”って呼ぶようにするね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ!!…………そっ、そーいえばるしあも魔界の出身ってことは、吾輩みたいに真の名みたいなの持ってるのかっ?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

るしあ?……うん、あるよ。ラプラスになら教えてあげる。るしあの本当の名前はね――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







【あとがき】

ご無沙汰しております、飽和水溶液と申します。この度は【転生したらラプラス・ダークネスだった件 第二章】をお読みいただきありがとうございました。気が付けば、二章一話目の『第21話 秘密結社holoXの上層部会議』を投稿してから一年と四ヵ月あまりの月日が流れていました。いやーホント、書き始めた当初想定していた期間の二倍くらいかかってしまいましたね。一章が20話分で終わったのを見る限り、多くても30話分くらいの第50話辺りで追われると思っていたらなんと今話で71話目です。本当に信じられません。しかも文量も平均して増えており、そりゃ時間かかるわという感じでした。
しかし、私が今回書きたかった内容は全て詰め込めたと思っています。沙花叉クロヱの過去に触れつつ、パラレル世界での彼女の在り方や総帥に対する気持ちを思う存分描けました。またストーリーに関わるところの進展や、次の章への伏線もしっかり残せて大変満足です。まあもっとも、書き切るのが大変だったことは否定しませんが……。


さて、先の通りこれにて転ラプの二章は終わりとなります。しかし、未だ疑問に残ることやそもそものラプ様の今後の運命に関してなど気になる事が盛りだくさんだと思います。そんな読者の皆様、ご安心ください。なんと予定通り、今後も引き続き『転ラプ第三章』を書いていく所存でございます。次章は十中八九、宝鐘海賊団及び衛星コメットの勢力と秘密結社holoXによる和解の道?が注目ポイントとなると思います。また次は出来るだけ、holoXの初期メンバー全員にスポットライトを当ててのストーリー展開を考えていますので是非楽しみにしていてください。

……と、その前に幕間としてもう少しお話を書くつもりです。また以前あるサイトのアンケートにて載せていた『holoX所属の構成員目線の小話』を思いつく限り書こうと思っています。その形態や何話作ろうなどはまだ検討中ですが、それが落ち着き次第順次第三章へと進んで行こうと思います。


それでは、長くなりましたが今後もこの【転ラプ】をどうぞよろしくお願いします。また次のパラレル世界でお会いいたしましょう。
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