転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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転ラプ第二章、幕間その1です。今回は前話の第71話の続きとなっています。久しぶりに緩めの雰囲気で安心して読めますが、所々重要そう?な場面も混ざってます。是非お楽しみください。

※転ラプシリーズにおける『幕間』は、本編に関係のあるお話を書いています。つまり言葉通りの章ごとにある間の話となっていますので、今まで通りに読んで頂けるとこの先のストーリー展開を理解できると思いますのでその辺りよろしくお願いします。


【追記】
今回の深堀シリーズは、前回ラプ様とるー様の結んだ【親交の契約】についてです。この転ラプ世界における契約の概念については所々で出ていますが、今一度整理しておきましょう。


この世界における『契約』とは、特定の個人間もしくは特定の団体の代表者同士の結ぶ”魔法絡みの約束事”のことを指す。前提条件として契約を結ぶにはある程度の魔法の知識を持つ者が必要であり、逆にそれさえ用意できれば大抵誰でも結ぶことが出来る。但し、それは単なる口約束のようなものとは程遠く、契約には必ず『契約内容』、『制約事項』、そして『違反制裁』が付きまとう事になる。例としてラプラスの体を縛る枷はその昔”悪魔本人”と”誰か”によって結ばれた契約であり、『ラプラス・ダークネスのその力を枷で封印する』という契約内容の下、『その封印をいかなる理由でも解いてはならない』という制約事項を持ちながら、万が一破った場合には『徐々にその封印が弱まり力が放出する』という違反制裁が下されることになっている。このように三つの要素を持ち合わせるのが契約であり、その内容については結ばれる際に決められるのが定石である。ちなみに、拘束力の高い契約内容であればあるほどより多くの魔力を消費する。また、それが魔法を介して結ぶ性質上場合によっては”互いの承諾が無くとも”契約を成立させることが可能である。
そして、今回ラプラスとるしあの結んだ『親交の契約』は幾ら緩いものと言えど互いの魂を介した立派な契約であった。その内容は『未来永劫彼女たちは友好的である』ものとし、制約として『出来る限り仲良くするよう努める』ことが求められ、もし違反があった場合『どちらかがとても悲しい思いをする』というのが親交の契約の全貌であった。しかしその契約を結ぼうと提案してきたるしあの思惑としては、それの内容云々はともかく魂を介した契約である以上例え相手がどんな姿であったとしてもそれを”契約相手であると認識できること”が重要であった。結果、その話を聞いたラプラスはその申し出を承諾。そして現在、二人は契約で結ばれた半永久的な友人となったわけであった。


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二章幕間~番外編
第二章幕間① 久々の邂逅


 

 

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………誰か、来るな。

 

 

 

 

 

 

 

「~~~!」

 

「~~。」

 

 

 

 

 

 

 

二人居る。

一人は……あぁ、なんだラプラスか。相も変わらず、その力に見合わぬ小さな歩幅で可愛いなぁ。

 

 

 

 

 

「……って訳だ……だから被害は……と思う」

 

「なる…ど。……のです…」

 

 

 

 

 

ということは、この一緒に居るやたらと総帥の足並みに似たやつは……あの性悪魔法使いか。二人が一緒に戻ってきたところを見るに、話とやらは無事に終わったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……吾輩も、まさか宝鐘海賊団が直接ウチに攻め込んでくるとは思って無くてな。一応穏便に済んでるとは思うんだが……部下たちがそっちに被害出してたら本当にすまん」

 

 

 

「謝ること無いのです。その時点でのそれは、お互い様だったわけだし……ていうか、ラプラスの話的にむしろそっちの方が大事でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

地べたに座り込み、岩肌に背中を預けていた掃除屋……【沙花叉クロヱ】の下に、そんな事を言い合う二人の少女たちがやってきていた。その事実を理解する頃には彼女の脳も完全に覚醒しており、怠惰を貪っていた意識を無理矢理自立させている。長い監禁状態と、それに続く任務により流石に身体に疲労が出てしまっていたようだ。

 

 

「まあ、それはそうかもしれないが……」

 

 

「だから、その辺の埋め合わせについてもコメットに戻ってから皆で話すのです。るしあ達の関係と、両陣営の和解はまた別の話だと思うから」

 

 

「まあ……それもそうか。今吾輩達だけで話したところで現状もわからないしな。それについては色々と落ち着いてからまた考えることにしよう。…………っと、居た居た。おーいクロヱー?」

 

 

暫く少女たちの会話を遠目で聞いていると、突然ラプラスが私の名を呼んでこちらに駆け寄ってくるのが分かった。あ~もう!そうやってパタパタ走るところも可愛いんだからっ♪

 

 

「……ラプラス、話は終わった……の?」

 

 

気怠げに装う彼女は、自らが付けた白黒の仮面越しに悪魔を見据える。しかし、そこでクロヱは”ラプラスの表情”の大きな変化に気が付いた。確かに総帥は、先程までその立場に似合わぬまるで絶望に打ちひしがれている人のような顔色を浮かべていた。しかも、それを自分達には何となく隠すようにしてこの悪魔は振舞っていたのだ。

だが、今の彼女からはそういったものを殆ど感じない。血色も少し良くなったような気がするし、表情も柔らかくなった。私が席を外した後に、一体何があったというのだ。

 

 

「あぁ、終わったぞ。待たせて悪いな、思ったより長くなって……ん?もしかして寝てたか?」

 

 

「……一応総帥の護衛っていう任務中だよ?寝てるわけないじゃん。この体勢だって、何かあれば直ぐ飛んで行けるように備えてるんだから」

 

 

彼女はそう嘯きつつ、徐にその場から立ち上がった。そしてスカートに付いた土埃を軽く払い、総帥に向き直る。

 

 

「……で、二人は何の話をしてたわけ?随分時間かかってたみたいだけど」

 

 

二人だけの内緒話というくらいなのだから、その内容を向こうから言わない限りわざわざ聞くのは良くないと分かっていた。しかし、こうも総帥の様子が変化しているところを見ると流石にどんな話をしていたのか気になってしまう。まあどうせ全部は教えてくれないだろうけど、せめて触りくらいは知っておきたい。

 

 

「えっ?……あー……えっ…と、だな……」

 

 

質問をした本人が予測していたように、そう聞かれた悪魔はしどろもどろに相応しい言い訳を探しているようであった。ラプラス……そんなあからさまにはぐらかされると、逆に気になっちゃうよ……。

 

 

 

「――るしあが、今回の件についてラプラスに謝罪してただけなのです。あとは、今後の両陣営の付き合い方についての協議を少しだけ……ね?ラプラス」

 

 

 

「―――そ、そうなんだよ!他にもウチが宝鐘海賊団の船に部隊を潜入させたことの理由とか、本部であった件についての説明をしててな!」

 

 

 

言葉に詰まるラプラスを見て、まず初めにるしあが全くそれらしい文句を並べた。そして続けざまに、その援護に乗っかるようにして総帥がそう言っていた。だが当然、その内容については私が納得するようなものでは無かった。

 

 

……しかし、今のやり取りを見て私にはラプラスの表情が変わった理由が何となくわかってしまった。傍から見て誰でもわかるくらいに両肩を落としていたあの総帥が、たった数十分ほどの間でこうも明るくなった理由……それは、この性悪魔法使いのせいに違いない。いや、そもそもの始まりは全てこの女……【潤羽るしあ】の存在によるものだったのだろう。ラプラスは今回の件を通し、”彼女達”に今まで見たことが無いような態度を見せていた。またholoXの総帥として相応しくないやり方で、悪魔として相応しくない結果を望んでいた。本当に”彼女らしくない”、いつもの総帥であればもし『宝鐘海賊団が欲しい』としてもそれなら力ずくで奪えばいいだけの話なのだから。あの悪魔になら、私達にならそれが出来る。手段を顧みず、犠牲をいとわずにただ総帥の命令通りに動いていればそれくらい出来たはずなのだ。

 

でも、今回ラプラスはそうはしなかった。それについて沙花叉は、きっと”それではいけない”何かしらの訳があったのだと思っていた。実際、そうでなければあのラプラスが和解などと言う腑抜けたことを言うはずがない。そんなことをせずとも、欲しいだけなら何とでも出来るのだから。……そして、その謎が今解けた。先程のやり取りの中で、あの性悪魔法使いが”悪魔に向けていた視線”を見て全てを察してしまったのだ。私の慕う悪魔様が、この件で一体何を得ようとしていたのか。

 

(なるほど……要は、”沙花叉たちみたいなの”が欲しかったってことか)

 

心からの信頼を寄せてくれる、完全に心を掌握した上での使える『駒』。あの女が総帥に向けていた眼は、ウチではよく見るそれとよく似ていた。一体どんな手品を使ったのか知らないが、ラプラスは見事潤羽るしあという一人の女の運命を握ったのだ。

 

 

「……そ。まあ総帥がその話し合いで満足したなら、良かったよ」

 

 

あの総帥がここまでして手に入れたモノ。それをこの先、彼女はどのように使うつもりなのだろうか。また今回の事を通して、ラプラスがどう”次”に繋げようとしているのか……やはり気になってしまう。あの人が何を目指しているのか、それをせめて最後の時まで傍で見ていたい。

 

 

 

……そう、密かに彼女は願う。

例えこの先、自身の主が自分をどのように扱おうと図っていようとも。その命が尽きるまではこの人に仕え、悪魔の野望の果てを臨みたいと。

そんな”切望”を、沙花叉クロヱは心の内に抱いていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

―――本部との通信から、約三十六時間後。

遂に人工惑星母艦より、この惑星に向け迎えの船が出発したとの報告があった。

 

 

 

 

その迎えが来るまでの長い間、我々は一時的な休息に勤しんでいた。といっても自由に休めたのは吾輩と、一応の”護衛対象”になっていたるしあとあくあ先輩だけで、クロヱを含めたその他の者達は交代制でそれぞれ任務と休憩を繰り返し行っていた。また『任務』の具体的な内容としては仮拠点の見張り、本部との定期連絡、そして総帥及び先輩方二人の護衛が主であった。

 

 

 

 

そして、決して部下たちの前では口にできない『暇』と言う名の呪縛から解放されたのは、遥か上空より飛来する我らholoXのマークを携えた大型の宇宙船の姿を認識したときであった。

 

 

「――やっと来たな。」

 

 

遥か上空を覆う巨大な球体の何か。それはあまりにも荘厳で、まるでその辺り一帯だけが夜になったような錯覚にさえ陥る。また、その母体から産み落とされた数個の飛行物体はゆっくりと高度を落としていき、徐々にその存在感を確かなものにしていた。それは吾輩たちがフレンズ王国に赴いた際に乗っていたものと同じ型のようで、規模だけで見ればあの宝鐘海賊団の海賊船より更に一回り大きいように感じられた。

 

 

周囲の砂埃をこれでもかと巻き上げ、その宇宙船は大地と接触する。開口したその乗り場には何人かの見覚えのある人物と、それらの周りには十数人程のholoXer達が控えていた。何はともあれ、こうして迎えが来てくれた以上我々の遭難状態もこれで終了となるだろう。

 

 

「幹部!ようやく来てくれたか、待ちくたびれたz――「…あなた達、宝鐘の一味を捕えなさい」」

 

 

船から降りてきた者達の中に幹部……【鷹嶺ルイ】の姿を見つけ、ラプラスは声をかける。だが、それを遮るようにして彼女は共に降りてきた構成員達にそう指示を出していた。よく見ると一緒に居る連中はどいつもこいつも”武装”をしているようで、自分達が固まって立っているその周辺の上空には何台もの小型の宇宙船が飛び交っていた。

 

 

「ヒッ!……あ、え…と……そ、そのっ!……スゥー……」

 

 

「……。」

 

 

ラプラスがその事実を認識していると、その間に目にも留まらぬ速さで彼らは吾輩たちの近くに立っていたるしあとあくあ先輩の二人を囲んでいた。またその手に持つ銃の先を彼女たちに向け、明らかな警戒態勢をとっている。まずいな、協力関係になるって話は軽く伝えたはずなんだが……。

 

 

「おいおい!ちょっと待てお前らっ!」

 

 

「あっ……ら、ラプラスちゃん!タスケテ……」

 

 

銃口を標的に構え包囲するholoXer達の隙間を掻い潜り、ラプラスは彼らと少女二人の間に割って入る。その時、さり気なくいつかの時の様にあくあ先輩が吾輩の背にそっと身を寄せてきていた。

 

 

「全員、銃を下ろせ!この二人は吾輩の客人兼護衛対象だ。誰も危害を加えることは許さないぞ」

 

 

バッと片腕を水平に上げ、先輩方を守るようにして吾輩は立つ。またそんな自分からの指示により、彼らは一度構えたその手を直ぐに下げてくれていた。先んじて二人のことを伝えなかったのは吾輩のミスではあるが、それでもいきなり敵意を向けるなんて流石に失礼過ぎるだろう。

 

 

「悪いなるしあ、あくあさん……吾輩が先に二人のことを部下たちに伝えとくべきだった」

 

 

「んーん……大丈夫。るしあは気にしてないのです、ラプラス」

 

 

銃口を向けられ命を危険に晒されたというのに、るしあはそう言って庇った吾輩に優しく微笑みかけてくれた。その眩しい表情はこれまでの彼女に対する印象を丸っきり上書きするようで、今ある吾輩達の関係はるしあにとっても大切なモノになったのだと強く実感する。ぐ、ぐぅう……可愛いじゃねぇかよ。

 

 

「おい幹部、先に通信で言ったはずだぞ。吾輩達は今後宝鐘海賊団と手を組むことになるってな。なのに、これはどうゆう了見だ」

 

 

「えぇ、わかっているわ。……でも、それは警戒しない理由にはならない。これまでの彼女たちの行動を鑑みれば当然だと思うけど?」

 

 

周りを囲んでいたholoXer達の背後、そこに立つルイに振り返りラプラスは指示の意図を聞きだす。しかし彼女はハッキリとした口調で、『手を組むこと』即ち”信頼に値する”ではないと提言した。あの通信の時の様子から察するに、多少傷心を引きずっていると思っていたんだが……どうにも、いつもの調子の幹部のように見える。まあそれに、こいつの言っていることも間違いってわけでは無いからな。

 

 

「……だが、それでも警戒は無用だ。その辺りについての話は既に吾輩とるしあとで済んでるし、こいつらはもう敵じゃない……いいな?」

 

 

しかし、その上でラプラスは口調を強めてそう言った。それは傍から見れば組織を束ねる”総帥らしい”言動で、他の意よりも最も優先されるべきは悪魔の言であるとその場の全員に理解させていた。

 

 

「……わかった。あなたがそう言うなら、一先ずその見解で処理する…………ところで、その二人はウチで引き取るるもりなの?見たところ近くに”足”が無いみたいだけど」

 

 

「ああ、るしあ達の宇宙船は吾輩が魔法で壊しちゃったからな。帰れる目途が立つまでしばらくウチで面倒見るつもりだ……吾輩直々の客人だ、超VIP待遇で頼むぞ」

 

 

これについては、既にるしあとの話し合いの上決まっていた事であった。彼女達宝鐘海賊団二番船の現状としては、船長潤羽るしあ及び助っ人として船に乗っていた一番船副船長の湊あくあのみが生存しておりそれ以外の者達は元来の性質上この場にはいない。また彼女たちの足であり家でもある海賊船に関しては、宇宙空間から受けていたホロベーダーからの襲撃と枷を外しもう一人の吾輩として顕現していたラプラス・ダークネスにより完全に大破してしまった。つまり、先輩方二人は例えholoXとの遺恨が解消されたとしてもこの星を出て本部に帰るどころか、彼女たちだけでは明日生きていくことすらままならない状況になってしまっているわけだ。しかし、それは二人の後輩として、彼女の”友人”として当然見過ごせるものでは無い。そこで吾輩は、るしあに衛星コメットに帰る算段がつくまでウチで面倒を見るのはどうだろうかと申し出たのだ。そして、それを彼女は若干躊躇いつつも承諾してくれた。「るしあ達は色々恨まれてるだろうし、正直邪魔だとは思うけど……」なんて本人は言っていたが、契約を結んだ吾輩たちの間にそんな遠慮など無用なのだ。

 

 

「”びっぷ待遇”…?……よくわからないけど、とにかく丁重に扱えってことね。了解」

 

 

「ああ、そういうことだ。…………あ、それとあっちの方に海賊船の残骸が落ちてると思うからその回収も頼む。結構散乱しちゃってたり、壊れてるとは思うんだが……出来る限り集めてくれると助かる」

 

 

数々の妨害を受け、結局辿り着く事が出来なかった衛星コメット。その星への道筋も海賊船と共に途絶え、吾輩達はこの広大な宇宙で完全に指針を見失ってしまっていた。だがそんな中でも僅かな可能性として、破壊され残された船の片割れに何かしらのヒントが残っているかもしれないのだ。航海記録、宇宙船のエンジン、あるいはコンピュータ云々、仮にそれらの”復元”が可能なのであれば引き続き吾輩たちは航海を続行することが出来る。……それに、もしかしたら埋もれてしまった瓦礫の中に先輩方の大切なモノが残っているかもしれないしな。

 

 

「わかったわ、そのように手配しておく。…………でもその前に、ラプ達を母艦まで送るわね。長い任務で流石のあなたも疲れたでしょ?」

 

 

ラプラスからの指示を聞き、ルイはそれを二つ返事で了承する。……そして、それまで至極真面目気味だった彼女の表情が少し和らいだ。どうやら先輩たちを捕まえろと言ったことや、その後の対応については組織の大幹部としての発言や行動だったらしい。だがそれが済んだ後の今では、ただの鷹嶺ルイとして吾輩たちを労ってくれるようであった。

 

 

「あー、やっぱ幹部にはわかっちゃうか?……正直、もうクッタクタだったんだ。今すぐ布団に入って泥のように眠りたいぐらいに」

 

 

「ふふっ、いつものあなたらしいわね。安心して、元々ラプが使ってた部屋は壊れちゃったけどあなたの別荘……いや、”本家”の方はちゃんと残ってるから」

 

 

しれっと彼女が言った言葉に、ラプラスは内心首を傾げた。別荘……本家?何の話だ?

 

 

 

 

「―――で、ラプラス、ルイ姉。まじめな方の話は終わった?」

 

 

 

 

聞き馴染みのない単語に疑問符を浮かべるラプラスを他所に、自身の背後からそんな声が聞こえた。その持ち主は空気を読み一旦大人しく事の成り行きを見守っていたらしい、今回の事の発端である沙花叉クロヱであった。

 

 

「クロヱ……はぁ、元はと言えばあなたが任務に失敗したから始まった事なのよ?ちゃんと反省してる?……帰ったら色々と説明してもらうから」

 

 

「えっ!?あー……いや、そのー……それについてはラプラスともう話済んでるし、ちゃんとごめんなさいしたし…………ルイ姉のお説教長いんだよなぁ……」

 

 

今回吾輩たちが現場に向かう事になった原因であるクロヱの太々しい態度を見て、ルイがため息をつきつつお叱りモードでそう言っていた。またそれに対し、クロヱは雰囲気的に怒られるとは思っていなかったらしくぶつぶつと何かを嘆いている。……しかし、そんな中彼女の姿を確認した鷹嶺ルイの表情が”安心した”と訴えていたのを悪魔は見逃さなかった。

 

 

「……まあともかく、あなたも一度休みなさい。話はそれからね。…………っと、その前にラプ。あの子達にも顔を見せてあげて?」

 

 

ルイはそう言うと、片方の足を半歩下げ身を横に広げた。そして彼女の動作に惹かれるようにしてマントが翻り、それによりその先に待機していた者達の姿が露わになる。

 

 

 

 

「ラプ殿っ!沙花叉っ!任務お疲れ様でござるーっ!」

 

 

 

 

まず最初に視界に飛び込んできたのは、見るからに明るくそして元気いっぱいな少女……【風真いろは】であった。その姿は吾輩の良く知る彼女と遜色がなく、この世界で初めて侍に会えたという歓喜に震えざるを得ない。いろはもまた、この世界で皆と同じように存在しているのだ。

 

 

「いろは…っ!……なんか、すっごく久しぶりにお前にあった気がするぞ」

 

 

思わず口元が緩みそうになるのを堪えつつ、ラプラスは彼女の像を頭のてっぺんからつま先まで流れるように眺めていた。

 

 

「……いろは?」

 

 

……しかし、そのふとしたところで吾輩の目線と彼女の視線とがバチンとぶつかった。その瞳はまるで何かを確かめているように、探るように、そして”この世のものとは思えないものを目撃したような驚きの感情”を添えて、緑青に輝くそれはこちらを覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

「――――戻って……る…?」

 

 

 

 

 

誰に向けたでもない、そんな少女の独り言が静かに世界に流れ出した。

 

 

「ん?今なんて?」

 

 

「……あっ…………い、いや、何でも無いでござるよ、ラプ殿っ!」

 

 

何故か吾輩を見ながらボーっとしていた彼女に対し、ラプラスはその真意を聞いた。だが侍は少ししてからハッとし、そして取り繕うようにして何でもないと言い出す。どうしたんだ一体?

 

 

「おー、私もなんかいろはちゃんを久しぶりに見た気がする。元気だったー、holoX最強殿ー?」

 

 

「沙花叉……元気だった?はこっちのセリフでござるよ。それに、任務をしくじるなんてどういうことでござるか」

 

 

「えへ、ちょっとヘマしちゃってさー。……流石に、今回ばっかりは沙花叉も反省したよ」

 

 

疑問の残る吾輩を置き去りに、彼女達はそう言って他愛もない話に花を咲かせていた。二人は組織内での立場上、共に任務に赴いたり背中合わせで仕事をすることが多い。その為、クロヱの実力を一番理解しているのはある意味いろはなのであろう。そして、その上でクロヱ程の人物が任務を失敗するなど何かしらの理由があったに違いないと侍は思っているらしかった。

 

 

「……はぐらかさないってことは、何かあったんでござるな?……後でちゃんと聞かせてね」

 

 

「……まあ、気が向いたらねー」

 

 

真実を話さないクロヱに対し、いろはそう返していた。きっと、この世界においても二人だけにしかない関係性というものがあるのだろう。沙花叉も今回は色々あったわけだし、落ち着いた後にでもゆっくり侍と語り合ったりするのかもしれないな。

 

 

世界が違くとも変わらず、組織の前衛職達は彼女達なりの仲があるようであった。そんな二人を隣で眺めつつ、ラプラスは嬉しいような少し寂しいような気持ちを抱く。そんな時、後ろ手に裾をクイクイと引っ張られたことで悪魔は後ろを振り返った。

 

 

「あっ……ら、ラプちゃん、その……お仕事、お疲れ様……」

 

 

後ろを向きその先に居たのは、随分としおらしくなってしまった博士の姿であった。よく見ると彼女の目元は少し赤くなっており、その頬には涙が幾度も伝った跡がうっすらと残っている。あぁ……吾輩はまた、大好きなこよりのことを悲しませてしまったのだろうか。

 

 

「こより……お前も、お前なりに頑張ったんだろ?なら、”お疲れ”はお互い様だな。かく言う吾輩もそれはもうちょー疲れたぞ!」

 

 

「っ!…………ラプ……ちゃぁ˝ぁ˝ん……」

 

 

吾輩よりデカいくせして小さく縮こまり、まるで子供の様にべそをかく彼女に吾輩はそうって笑いかけた。すると、博士はいつかの様にその瞳に溜め込んでいたものを放出しながらこちらに抱き着いてきた。毎度のことながらこよりにくっつかれるのは嬉しい反面、そのズビズビになった鼻水だけはどうにかしてほしいと思う。

 

 

「我らが主君、ラプラス様!」

 

 

そして、この世界でようやく全員顔を合わせた吾輩達の元に、大変見覚えのある何人かの眷属たちも近寄ってくる。それは普段吾輩の世話係を担当していた男や、その他身の回りの世話をしてくれる【ぷらすめいと】たちであった。

 

 

「この度は長期任務ご苦労様です、ラプラス様!しかし四天王の方々との再会大変喜ばしい事態ではありますが、可能であれば是非とも早急に本部に戻り身体を休ませてくださいませ。主君の本邸では既に食事、湯あみ等の用意は済んでおります。ベットメイキングについても当然抜かりなく!」

 

 

嬉しいのか、悲しいのか、よくわからない感情で泣き出すこよりにもみくちゃにされる吾輩に対し、眷属の男はそう言った。本邸って……あぁ、さっき幹部の言ってた『本家』ってそういう意味か。要はアジト内に用意されていた吾輩の寝室とは別に、本当の家みたいなものがあるってことなのだろう。

 

 

「……まあ、でもそうだな。早く”吾輩たちの家”に帰ろう」

 

 

今の自分を囲むのは、悪魔の知る本当の彼女たちではない。されど、辺りを見渡してラプラスは思う。大好きで、大切な部下達。吾輩を慕い、尽くしてくれる眷属たち。そして、苦労して信頼を勝ち得た先輩……と友人。そんな皆に必要とされ、例え嘘であっても受け入れられるこの『今』を……もっと、大切にするべきなのではないかと。勿論これには終わりがある。自身の嘘で塗り固められた真実がある限り、その結末は必ず最悪なものになると分かり切っているのだ。……それでも、今この瞬間だけはそんな心地の良い夢に揺られていたい。

 

 

そう思った悪魔は、はるか上空で佇む第二の家目指し鉄の箱舟へと乗り込んだのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――何もない荒野にて、一匹の鳥は果てた大地に視線を落とす。その先には、既に破壊し尽された鉄くずが散乱していた。

 

 

 

「……ホロベーダーか……あぁ、俺もそう思うよ。懐かしいな」

 

 

 

誰に届かない……否、”誰にも聞こえないようにした声”をその小動物は発する。しかしその言葉は、【悪魔】が数刻前に彼に対して言ったことへの『返答』であった。

 

 

「もう……お前と見ることなんて無いと思ってた。そんなこと、起こるわけが……」

 

 

澄み渡った空を見上げながら、その漆黒の生物は昔を懐かしむように言葉を刻む。そこにどんな意味があるのか、どんな思いがあるのか、それは今も当事者たちにしか知り得ぬこと。

 

 

 

 

 

 

 

「――――なぁ、”親友”。……俺はまだ、諦めてないからな」

 

 

 

 

 

 

 

彼はそう言って、大空へと両翼を羽ばたかせ行く。だがその小さくつぶらな瞳には、確かな鋭い光が宿っていた。

 

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