転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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転ラプ第二章、幕間その2です。今回は外伝を飛ばし幕間①からの続きになっています。全体的に緩い雰囲気ですので終始気軽に楽しめるかと思います。

※転ラプシリーズにおける『幕間』は、本編に直接関係のある話を書いています。よって今まで通りに読んで頂けた方がこの先のストーリーを理解できると思いますので、その辺りよろしくお願いします。


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みです。次話も既に下書きを終えているのですが、今回も次回もどちらも本編がとてつもなく長くなってしまった影響です。仕方がありませんね。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba



第二章幕間② 朝のひと時

 

秘密結社holoX総本部、惑星型母艦内【総帥邸宅】。

 

 

 

その場所は、総帥ラプラス・ダークネスの所有する”本邸”として存在していた。各種施設へのアクセスが最もし易く、かつ母艦内でも住宅としては類を見ない程広大な土地を携えた一等地。外装は白を基調とした西欧御屋敷風の建築様式で、要所要所に『コヨリ二ウム』を混ぜ込んだ紫色の大理石が使われている。また名目上の総帥の邸宅ということもあり、それに似合った警備網が敷かれていた。敷地内に足を踏み入れられるのはほんの僅かな限られた者達だけであり、例え上官クラスであっても四天王未満の構成員であれば赴く際に許可証が必要なほどである。

 

しかし、そんな恵まれた本邸に対し肝心の〖本人〗が『帰るのが面倒』と称し、普段の寝泊まりをアジト内の自寝室で過ごしていた結果事実上は『別邸』という扱いになっていた。

 

 

 

 

……だが、先日の宝鐘海賊団襲撃事件によりそのアジト内にあった総帥の部屋は全壊。その為、任務から帰った【ラプラス】は”一昨日”からの日々を慣れない豪邸で過ごしているのであった。

 

 

「……ラプラス様、起きてください?早くしないと朝食が冷めてしまいますよ」

 

 

しわがれた声の下、未だベッドの上で惰眠を貪る悪魔の名を呼ぶ一人の女性。高齢により白く変わり果てた髪を束ね、使用人として相応しいスカート丈の長い仕事着を完全に着こなしている。また皺の目立つその手で部屋のカーテンを開くと、窓の先には既に朝の刻であるにも関わらず圧倒的な星空が広がっていた。……しかしそれこそが、宇宙空間を漂うここ秘密結社holoXでの日常なのであった。

 

 

 

「んんっ…………もう、すこし…ねかせて……」

 

 

 

自らの眠る枕の横辺りから起床を促す声が聞こえ、されど悪魔は意識を覚醒させることを拒んでいた。それは彼女の持つ怠惰な一面が作用している結果のようであり、と言いつつ一昨日まで連日行っていた任務の影響が全くないとは言えないものであった。

だが、そんな彼女の願いを一刀両断するかの如く使用人の婦人はハッキリと言い放つ。

 

 

「いけませんよ、ラプラス様。本日は四天王の方々との大切な会議があると窺っています。そのようにいつまでも寝ているようだと、公務に遅れてしまいますよ。…………それに、”お客様”も既に食堂にて朝食を取られていますから」

 

 

「…んっ……あぁ…………わかった…起きるよ……」

 

 

優しく肩を揺さぶられ、無理矢理にも覚醒を促されたことでようやくラプラスは起床を宣言する。まるで縫い付けられているように離れ難い布団に両手を突き立て、強引にそこから上体を剥がす。そのまま重い身体を引きずりながらベッドの縁まで移動し、そしてすぐ傍に設置されていたドレッサーの前に腰を下ろした。眠い眼を擦りながら見る目の前の鏡に映った自分は、疲れと寝起きが掛け合った最悪な顔をしている。しかし、そんな悪魔を見兼ねてか背後に立った婦人は慣れた手つきで彼女の長い髪を梳かし始めていた。

 

 

 

 

「――――ンがっ?……んだよ、もう朝かぁ…?」

 

 

 

 

寝ぼけた脳みそのまま椅子に座り、朝の支度を施されるラプラス。そんな彼女とベッドの間には小テーブルが置かれており、その上にはクンションを敷いただけの簡易的なベッドが作られていた。そして、更にその上で涎を垂らし眠りこけていた小動物が悪魔らの話し声により目を覚ましてしまったようだった。

 

 

「ふぁ~~ぁ……起きたか?からす……おはよ……」

 

 

「あぁ、あるじ様……起きたってーか、起こされたって感じだけどな……」

 

 

傍から見て、あくまでペットに自然体で独り言を語りかけているように。他者には聞こえぬ声を放つ相棒に対し悪魔はそれと無い感じで朝の挨拶を済ませていた。

 

 

 

 

 

―――二日前、我々暗殺部門救出隊は迎えに来た幹部たちと合流の後その任務を終えた。本部を出発した時点から換算して約三日間程に及んだ此度の騒動、その僅かな期間の内に我々holoXは大きな変化に見舞われていた。しかしその数々の事件を吾輩達は乗り越え、現在holoXでは束の間の休息が訪れている。といってもそれは任務に赴いていた者達の健康診断、及び疲労回復などに充てられた猶予であり、現に我らholoXは本日からまた通常運転に戻ることとなっていた。

 

そして、その手始めとして今日は吾輩がこの世界に来てから二度目となる『秘密結社holoXの上層部会議』が行われる手筈となっていた。その議題は主にこれまでの各方面で起きた出来事の共有、そして今後の組織の活動方針を定めようというものである。それには当然宝鐘海賊団との事も含まれており、そこで吾輩は改めて部下たちに自分の望むところを伝えるつもりでいるのだ。またこれからやるべきこととしては、一先ず道筋を失ってしまった衛星『コメット』の所在を探ろうと思っていた。その手掛かりになりそうなものとして崩壊してしまった宝鐘海賊団二番船から可能な限り回収した残骸があり、そこから漏れ出すデータを復元してもらうよう既に博士には頼んである。だが、そこに関しては正直どこまで収穫があるのかわからないので一旦保留となる可能性も高かった。

 

だが、もし仮に我々が衛星コメットに辿り着けるようなことがあった暁には、吾輩は”彼女”との約束に従いやらねばならないことがあった。それは此度の騒動の中心人物であった【潤羽るしあ】先輩と交わした、『彼女たちの故郷の星を取り戻すこと』である。現在、彼女たちの故郷である惑星『ふぁんたじあ』は外敵生命体、侵略者【ホロベーダー】により征服されていた。その戦いは何十年にも及ぶものであり、その永く続く争いの為に宝鐘海賊団は他の星での略奪行為などを行っていたのだ。しかし、そんな業を背負うるしあ達に対し吾輩はある種の共闘を持ち掛けた。その結果、吾輩達は友好関係を築くことが叶いこれから共に奴等を打ち滅ぼそうとしているのである。

 

 

 

 

 

……というのが、ここ数日で起きた怒涛の出来事の全貌だった。またこの騒動に伴い、吾輩と契約を交わし正しい意味での『友人』となったるしあ、及びその仲間であるあくあ先輩は現在我らがholoXの本部内で面倒を見ている。というか、今髪を梳かしているぷらすめいとの婦人が先程言っていた”客人”というのが、まさしく彼女たちの事であるのだが……。

 

 

「――ハイ。終わりましたよ、ラプラス様」

 

 

寝起きで動きの鈍くなっていた脳を解す為、ここ最近で起きた出来事を脳内でまとめていたラプラスに対し彼女はそう言った。またその言葉を受け再び眼前の鏡を覗き込むと、そこには髪どころか全ての準備を整えたいつもの自分が映っていた。

 

 

「あぁ、ありがとう。……昨日も思ったが、えらく手際がいいな」

 

 

「お褒めいただき、恐縮です。……それではラプラス様、どうぞ食堂の方へ。直ぐに朝食をお持ちしますので」

 

 

使用人の婦人はそう言うと身支度の済んだ吾輩を置いてそそくさと部屋を出て行ってしまった。しかしその彼女の佇まいは、普段相手にしているholoXの構成員達とは若干異なっているように感じられる。勿論、当然の様に吾輩に対し敬意を払っているのだが、それを抜きにしてもどこか彼らよりも距離感が近いように感じられる。二日前に初めて会った時には『この総帥邸宅の使用人長であり、ぷらすめいとの……』と自己紹介していたので吾輩の眷属というのは間違いないのだが……構成員や部下というよりは、まるで世話焼き係の”ばあや”という感じだ。別にそれ自体に問題があるというわけでは無いが、正直母親のような振る舞いをされているところに若干のやりづらさがあるのを否めない。

 

 

「……っと、そんなことはどうでもいいな。早く”るしあ達”のところに行かないと……来い、烏」

 

 

「へいへ~い」

 

 

すっかり整えられてしまった衣服を翻し、ドレッサーの前から立ち上がったラプラスは相棒にそう声をかける。そして、それに気怠げに答えた彼が自身の頭の上という定位置についたのを確認してから、彼女は広すぎる寝室を飛び出して行ったのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

自身が横に寝ころび手足を伸ばしたとしても両端に届かぬほど幅のある廊下を、一人の悪魔と一匹の烏は歩いていた。白く硬い石づくりの地面にはふかふかで真紫色のカーペットが敷かれており、また等間隔に並んだ窓からは星明り以上の何かが差し込み屋敷全体の雰囲気を煌びやかに輝かせている。本当に、ここもバカみたいに金のかかっていそうな建物だなぁ……。

 

 

「いや~、それにしてもあるじ様よぉ……よく、あの”魂の魔女”を懐柔できたもんだよなぁ」

 

 

気を抜けば迷ってしまいそうな道を朧気に辿っていると、頭上で我が物顔で座る烏が突然そう言い出した。こいつの言う『魂の魔女』というのは、恐らくるしあの事だろう。確かに、”あの場に居なかった”烏からすればとても信じ難いことだろうな。

 

 

「それってるしあの事か?」

 

 

「ああそうだよ。あの魔女、船で見かけた時はあんなにあるじ様を恨んでるみたいだったのにさ。気が付けばあっという間に仲良くなってやがんの。……そんなに秘密の共有ってのは重要なもんなのかね」

 

 

そう言った相棒は、まるで理解ができないというように首を傾げていた。

 

 

件の二日前、吾輩と宝鐘海賊団二番船の船長潤羽るしあは和解し『親交の契約』というものを結んでいた。その内容は、要は今後吾輩たちは互いに友好的でいようという誓いのようなものであるのだが、それが魂を介した契約であるというところに大きな意味があった。所謂パラレル世界から意識のみがこちらに迷い込んでしまった状態である吾輩、それを『魂』という不変的なもので彼女と結ぶことにより例え吾輩がどんな姿になろうともそれを【ラプラス・ダークネス】であると認識できる恩恵があるのだ。またその過程で、るしあには自身の正体についての大部分を語り今まで相棒以外の誰にも言えなかった『秘密』の共有を果たしていた。

 

しかし、彼女とその話をしていた場に何故か烏は居なかったのだ。というより、吾輩が不時着した『岩の惑星』で目を覚ました頃にはすでに彼の姿は無く、再び烏を見たのは吾輩たちが帰りの宇宙船に乗り込む直前辺りであった。しかもその再会の際にヤツにどこに行っていたのかを訪ねても、『まぁ……軽い水浴びだ。ほら、ナントカの行水って言うだろ?』と言ってはぐらかされてしまうのだ。まあどうせ、小腹が空いてたから自分だけ食べものを探しに行ってたとかそんな軽い理由なんだろうけど……。

 

ともかく、そういうわけで行方知らずであった烏は本人の帰還という形で発見することが出来たのだった。また二人きりになれた空いた時間などを使い、既に吾輩自身の秘密をるしあに共有したことをコイツには伝えてある。ただ、逆にるしあの方にも秘密の共有者が他にもいること自体は伝えているのだが、何故か烏が『俺が話せることは外部の人間には伝えるな』と言うのでその正体についてまでは伏せたままにしていた。しかし、何はともあれこれで現状吾輩の秘密を知る協力者たちが一人と一匹になったわけだった

 

……だが、そんな相棒に対し吾輩はたった一つだけ”隠し事”をしていた。

 

 

「まあ、吾輩が腹割って話したわけだからな。人間ってのは案外同じ秘密を共有すると仲良くなれるもんだぞ」

 

 

「うーん、そんな単純なもんかねぇ…………本当は、他にも何かあったんじゃないか?」

 

 

烏にそう聞き返され、吾輩は思わず体が反応してしまいそうなのを必死に抑えていた。

吾輩が烏に対ししている隠し事、それは”るしあ先輩と契約を結んだこと”であった。無論、その理由に特に後ろめたいものがあるわけでは無い。だが、これはるしあ本人から頼まれたことゆえ仕方のないことであった。あの日、吾輩とるしあが契約を結んだ直後彼女は最初にこう言ったのだ、『――この契約は、出来れば私達だけの秘密にして欲しい』と。またそのわけを聞くと、『仮にラプラスを見つけようとした時それがるしあだけにしか分からないようにしないと意味が無いから』とのことだ。それを聞いた吾輩は一種の独占欲のような類かとも思ったのだが、その時の彼女の真剣な表情を見て一先ずそれを了承したのだった。

 

 

という訳で、吾輩はこの契約の件について仲間はおろか長年連れ添った烏にすら内緒にしている。それには若干の申し訳なさを感じているのだが、それでもるしあと友人になってから一番最初に言われたお願いを無下にするわけにはいかないのだった。

 

 

「べ…別に、何も無いぞ。ちゃんと話して、吾輩のことをわかってもらっただけだ。…………ほら、もう食堂についたぞ。ここからは返事できないからな」

 

 

烏からの質問をそう誤魔化しつつ、ラプラスは廊下の突き当りにあった一際大きな扉の前で足を止めた。そこはアジトにあったモノと比べると幾らか洋風の体を成しており、目の前のそれは手動で開く両開きの作りとなっている。また中からは人の気配がするものの話し声などは聞こえず、されど食器同士が僅かにぶつかる音が響いていた。

 

そして、ラプラスはその事実に得も言えぬ喜びを感じつつ扉をバッと開け放つ。すると、食事の合間に突然現れた悪魔の存在に既に席に座っていた”二人の少女”が注目していた。

 

 

 

 

「―――おはようなのです、ラプラス」

 

 

 

 

入って左側、クロスの掛かった長テーブルに向かい座る彼女……潤羽るしあがそう言った。

 

 

「あぁ、おはよう。昨日もそうだったが、るしあ達は朝早いんだな。…………”あくあさん”も、おはようございます」

 

 

るしあへの挨拶を返し、続いて彼女の対面側に座る少女【湊あくあ】にラプラスは声をかける。すると、彼女は一瞬ビクっと体が跳ね上がった後、恐る恐ると言った風にこちらに視線を向けた。

 

 

「アッ……うん、おはよ…ラプラスちゃん……フヘッ…」

 

 

相も変わらず小動物のような挙動に、蚊の鳴くような声であくあ先輩はそう言った。しかし、それはさておきまさかこの二人と朝から顔を合わせ一緒に食事を取ることがあるなど夢にも思わなかった。

 

 

現在、宝鐘海賊団の二番船船長潤羽るしあ、及び一番船副船長湊あくあの二人は我がholoXで面倒を見ることとなっていた。それは彼女たちが本部である衛星コメットに帰還途中で海賊船を失ってしまった為であったが、その原因の一端を吾輩が担っているというのと単純に友人や元の世界で先輩だった二人をみすみす放って置けないという理由からそうしているのである。

しかし、そこで問題となったのが彼女たちが家に帰れる目途が立つまで寝泊まりする場所であった。勿論これだけ広い本部であれば部屋などいくらでも用意できるのだろうが、二人の立場や我々holoXが宝鐘海賊団から受けた仕打ちを考えればむやみやたらに過ごす場所を選ぶわけにはいかなかった。当然、構成員達には先輩方に手を出さないよう伝えてはいるのだが、吾輩自身も大切な二人を目の届かぬところに置くことには少々不安があった。そこで、吾輩自らこのバカ広い邸宅でるしあ達を寝泊まりさせようと言い出したのだ。それには当然幹部たちが猛反対していたのだが、最終的には総帥自らの”お願い”ということで渋々承諾してくれたのだった。

 

しかし、代わりにそれを許す条件としてより一層の警備強化をする許可を求められてしまったのである。まあ、それで納得してくれるなら別に構わないとその時の吾輩は思っていたのだが……いざ実行してみると、どこに居ても監視されている気がして正直全く落ち着かなくなってしまったのだ。またそれは恐らくるしあ達も同様だと思われ、特にあくあ先輩なんかは極度の人見知りであるがためにここに居る間は心が休まらないのではないかと吾輩は心配していた。

 

 

 

……けれど、まだ二日目ではあるが今のところ先輩たちに特別問題は無いようだった。あくあ先輩はいつも通り引っ込み思案ながらも顔色が良くきちんと眠れているようだし、るしあに至っては優雅にお茶かなんかを嗜んでいる始末だ。むしろ、慣れない豪邸での暮らしで気疲れしているのは吾輩の方なのかもしれない。

 

ラプラスはそう思いつつ、その部屋の最奥に設置された席まで移動しテーブルに向かう。すると丁度、再び準備が完了したらしい良い匂いの香る食事達が運ばれてきていた。どうやら本日の朝食はいつかの時のような肉料理が中心のメニューのようだ。見知らぬ土地に来て、そこで出された食事が口に合わない……なんて話はよく聞くが、ここholoXでは主に総帥の食べられるものを主軸に料理が作られているためか大抵どれを食べても文句のつけようがない位に美味しい。またこうして毎日当たり前のように食事にありつけることはこれ以上ない程に恵まれた感謝すべきことなのだろう。…………ただ、一つだけ本音を言うのであれば……そろそろ、あの食べ慣れた幹部の作ってくれたご飯が食べたい。

 

 

「ここのご飯はふつーにめちゃ美味しいんだが……それとこれとは話が別なんだよなぁ……」

 

 

もっとも、作ってもらっている手前文句など言えるはずもない。よってそれは誰に向けたでもない小さな独り言として、静かに漏れ出すだけであった。

しかし、それをすぐ傍に居て尚且つ悪魔の行動に終始注目していた”彼女”だけが気付き口を開く。

 

 

「どうかしたのです?ラプラス。……もしかして、あなたみたいな悪魔でも食べ物の好き嫌いとかあるの?」

 

 

「えっ?……あ、まあ、それくらい吾輩にも普通にあるけど……いやじゃなくて、別にご飯に文句があったわけじゃないぞ。ただ、ちょっと前に食べた好物のことを思い出してただけで……」

 

 

まさか聞かれていたとは思わず、咄嗟によくわからない言い訳を並べてしまった。だがそれもあながち間違っているわけでは無いし、そもそも何が食べたい云々というのは吾輩の子供じみた我儘なわけで食事係の人にわざわざ言うつもりもないことであった。

 

 

「ふっ、なにそれ。……でも、ここのご飯はとっても美味しいのです。新鮮なお野菜に、柔らかいお肉……宇宙の旅が当たり前だったるしあ達には、どれも贅沢品だから」

 

 

そう言ったるしあは、既に空っぽになり片付けられ始めていた皿たちに視線を落としていた。holoXで食べられる食材は、そのほとんどがここで”人工的に作られた”ものなのである。母艦内にある限られた敷地の中で全構成員の食を賄えるほどの農地や牧畜を用意することなど不可能で、本物の土を使って育てた野菜や生きた生物の肉を食べられるのはごく限られたお偉い方だけである。だが、同時にここには不可能を可能とする”天才”が存在しており、彼女の腕で実物と全く遜色の無い、かつ元となる原材料もたいして使わない魔法のような『食材』を作り出す機構が存在しているらしいのだ。それにより一度に大量の食糧を確保することができ、多くの従業員を乗せるこの船があらゆる意味で破綻しない理由でもあった。

しかし、先の通り一応の嗜好品的な扱いとして実際に育てられた食材も流通しており、当然の如く吾輩が日々口にしている料理には大抵それらが使われていた。そしてそれは今目の前にある朝食も同様であり、また同じ食卓に置かれている以上るしあ達の食べているものもそうだろうと思われる。となれば、やはりここでは所謂”良い材料”を使った、他の構成員達ではおいそれと口にできない一品であることに変わりはないのだ。更にそれをウチでも選りすぐりの料理人が作っているとなれば、どうあがいても美味しくないものなど出てくるはずもなかった。

 

加えて、彼女達の境遇も相まりこの朝食は正しく贅沢品と言えるのだろう。先輩方は普段宇宙を航海する海賊であり、そのほとんどを『略奪行為』によって生計を立てている。となれば当然生鮮食品にありつける機会など限られているはずであり、普段は非常食や保存食等の生活が当たり前なのだろう。もっと言えば、宝鐘海賊団の本部もとい第二の故郷である衛星コメットではあくまで予測内ではあるものの豊富な食糧があるわけでは無いだろうと思われる。彼女達はその星に追いやられた結果移住したという経緯があり、望んでその地に足をつけたわけでは無い。加えて、普段から他の星々への略奪行為をしているのを見るに基本全ての物資を不足させているはずだ。

そんな彼女たちからすれば、ここにある物や食事はあらゆる意味で希少に感じられるのかもしれない。

 

 

「……るしあ、ここに居る間は好きに過ごしてくれていいからな。監視の目とか、部下たちからの圧力とか色々心休まらない理由があるとは思うが……出来る限り、二人が安心していられるように吾輩が気を配るから」

 

 

これまで多くの苦労をしてきただろう彼女を気遣うように、ラプラスは自身の思いの丈を吐き出す。事実は打つ手が無くただその場で足踏みしているだけの状態だったとしても、せめて星に帰れる目途が立つまでの間は何も気にせずに過ごして欲しいと悪魔はそう願っていた。

 

 

「……うん。ありがとう、ラプラス。…………でも、そんなに心配してくれなくても大丈夫なのです。こう見えて、あなたのお陰で私もあくあさんも絶好調だから……ね?あくあさん」

 

 

「えっ?!……アッ…うん、エヘ……ご、ご飯美味しいし、ベッドもふかふかで寝心地いい…よ……」

 

 

「ほらね?ちなみにあくあさんがこんな時間に起きてるなんて本当に珍しいし、あの人がまだ食べ終わってないのは二回目のおかわりだからなのです」

 

 

「ちょっ!…と、るしあちゃん!……スゥー……ラプラスちゃん、あてぃし別に食いしん坊じゃないからねっっ……」

 

 

そんな二人のやり取りを見て、ラプラスは目を丸くしていた。思えば、元の世界でもるしあとあくあ先輩が一緒に居たところや仲良く話しているのをあまり見たことが無い気がする。それはあくあ先輩の内気な性格が理由な気がしなくも無いが、どちらかというと特別接点が無かったという印象が強い。その認識はこの世界でも割と引きずっているところがあり、最初に二人の会話を船で盗み聞いた時はあくまで同僚への業務連絡の延長みたいな感じであった。

だが、少なくとも仲が悪いというわけでは無いのだろう。それは先程のやり取りが明々白々と物語っているわけだし、『星の奪還』という同じ目標を持つ関係上この世界の二人はそれなりに親しい間柄なのかもしれないな。

 

 

「あくあさん、気にしなくても大丈夫ですよ。吾輩と沙花叉も船の中ではあくあさんにご馳走になりましたし、その恩返しだと思ってここに居る間は好きなだけ食っちゃ寝してください」

 

 

まあ、その食事を用意するのも部屋を準備するのも吾輩じゃなくてholoXer達なんだけどな。本当に、毎日勤勉で滅茶苦茶働いてくれている部下たちには感謝以外の言葉が見つからないな。

 

********************

 

 

「……そういえば、ラプラス。別に急かしてるってわけじゃないんだけど……”星の捜索”の進捗具合はどんな感じなのです?」

 

 

出された食事に舌鼓を打つ作業も佳境に入り、元々小食だったラプラスが若干の苦しさを感じる頃。突然、るしあがそんなことを言い出した。

 

 

「あぁそうだ、そのことなんだが……悪い、博士の話じゃ思ってたより難航しそうなんだ」

 

 

遅くに食堂に来た吾輩や同じものを計三皿平らげたあくあ先輩と違い、るしあは何杯目かの食後の紅茶を楽しんでいる様子だった。しかし、ある程度落ち着いたところで自分たちの”本来の目的”を思い起こしたらしい。それは当然、件の衛星コメットへの帰還の為その帰路を探し出すことである。だが、それは吾輩の発言通り幸先不安であると言わざるを得ない状況なのであった。

 

 

「吾輩も詳しいことはよくわかってないんだが、確か船の残骸が”吾輩の魔力”と結合して既に別の物質に変化してるとか何とかで……要はデータの復元や解析には相応の時間がかかっちゃうみたいなんだよ」

 

 

昨日疲労等で眠い目を擦りながら聞いた天才科学者博衣こよりからの説明を、ラプラスは出来る限りなぞって口にしていた。彼女曰く、ラプラス・ダークネスの発する魔法には科学的には証明のできない未知の特性が宿っているんだとか。それは爆発的に発生した魔力が霧散する際に生成されるものであり、周囲にあるごく一般的な物質と結びついた結果全く異なる特異的な『化合物』を生成するらしいのだ。それをここでは【コヨリ二ウム】と呼んでいるらしく、更にそれを別の物質と掛け合わせることでそのものの性質を増大させる効力を持っているというのだ。

しかし、そんなコヨリ二ウムには二つほど大きな欠点があった。一つは他の物質と掛け合わせる前のコヨリ二ウムそれ自体は生命に対し”有害”であること。そして、もう一つが魔法が発生した際に近くにあった物体が”勝手に”コヨリ二ウムに変化してしまうことであった。つまりラプラス本人や第三者の意思によりコヨリ二ウムが誕生するのではなく、悪魔が力を使えば周囲の物質を無作為にコヨリ二ウムにしてしまうのだ。それにより今回問題となるのが、ホロベーダーを葬った時その現場近くに海賊船の成れの果てが落ちていたことにある。回収班の話によると、拾えた残骸の内実に8割近くが既にコヨリ二ウムに成っていたとのことだった。

 

 

「それに、るしあ達の話じゃ星の重力の関係云々で航路を選んでたんだろ?つまり真っ直ぐ直線で向かってたわけじゃないってことで、吾輩たちが追ってた宇宙船の航宙記録を見てもあんまり参考にならないらしくてな。……最悪、コメットを発見するまでに数年数か月とかかる可能性もあるって……」

 

 

「…ッ…………そりゃあ……そう…なのです。この広い宇宙から、手掛かりも無しにたった一つの星を探し出すなんて……」

 

 

非常に言いづらい事実を話すラプラスに対し、それを聞いたるしあは僅かに眉をひそめた。しかしそれもほんの一瞬だけで、直ぐにそれを吾輩から隠すように諦観の表情を浮かべ直していた。

だが、彼女の反応も当然のことだろう。今は吾輩を気遣って平然を装ってはいるが、いざあの窮地を生き延びれたとなれば次に脳内を支配するのは本部の安否であるはずだ。元々、彼女達は第二の故郷である衛星コメットに居る筈の無いホロベーダーが現れたという報告を受け帰還を急いでいるところだったのだ。それを道中で吾輩達やご本人様に妨害されたせいで今はこうしているわけだが、本来なら今頃コメット内でその問題等の解明に着手していたはずだ。るしあにしてみれば結果的には吾輩たちholoXという味方を作れたわけはであるが、それでも本部やそこに居る仲間たちのことが気になってしまうのはまた別の話だろう。

 

 

「……ごめん、るしあ……全部吾輩のせいだ。吾輩がホロベーダーを倒すのに”力”に頼ったりしなければ……いや、そもそもウチがお前達の船に潜入したりしなかったら、るしあもホロベーダーにちゃんと対処出来て事前に問題を回避できたかもしれなかったのに……ホント、その……ごめん……」

 

 

「ッ!…ちょっと、やめてよラプラス!るしあはあなたに感謝してるし、そんなこと微塵も思ってないのですっ!……言ったでしょ、私が生きてるのはラプラスのお陰だって。確かに本部へ帰る道は失ったかもしれないけど……代わりに、もっと大きなものを得たんだから」

 

 

彼女たちがこんな状況に陥ってしまったのは自分の責任であると、ラプラスは自責の念と共に精一杯の謝罪する。しかし、そんな悪魔を見たるしあは少し声を張り上げて、それを強く否定していた。どんな結末であろうとも、あの海賊船がホロベーダーと接触する運命であった以上この危機は避けられるものでは無かった。そして、あの場にラプラス達がいなければ彼女たちは船もろとも宇宙の藻屑になっていたことだろう。だがそれを防ぎ、彼女達を生かしたのは紛れもない今頭を下げているこの悪魔なのだ。であればるしあは彼女たちに感謝することはあれど、責めることなどあるはずもないのであった。

……加えて、るしあ自身にとってもこの【ラプラス・ダークネス】との出会いは何ものにも代えがたいとても大きな成果なのである。

 

 

「むしろ、るしあの方こそごめんなさい。ラプラスはちゃんとわかってて協力してくれてるのにそれを急かすようなこと言っちゃって……あなたが私達のために頑張ってくれてること、本当に感謝してるのです。この恩もいつか絶対に返すから……だから今だけは、ラプラスのその優しさに甘えさせて欲しいのです」

 

 

自分を責める吾輩に対し、るしあがそう言って微笑んでくれた。何度も思うが、あんなにholoXを恨んでいた彼女からすれば考えられないような態度や発言だ。いや、むしろこんなるしあをあれだけ怒らせるほどホロベーダーという存在が憎いということなのかもしれない。だがともかく、ここまで言ってくれる『友人』に対し吾輩は協力を惜しむわけにはいかないんだ。

 

 

「るしあ……ふん、何言ってるんだ。困ってる”友達”を助けるのなんて、当たり前のことだろ?吾輩に任せといてくれ」

 

 

「んふっ。もう、ラプラスったら調子いいのです……でも、頼りにしてるから」

 

 

相手の気持ちを汲むつもりで、ラプラスはビシッと親指を立てながらそう答えた。またそんな悪魔を見てるしあは思わず吹き出しつつも、彼女を頼るとちゃんと口にする。その様子は、関係のない第三者が傍から見ても微笑ましく惚けてしまいそうな光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか……”船長”が見たら、嫉妬とか驚きとかの色々で……卒倒しちゃいそう……」

 

 

そんな二人のやり取りを見ていた湊あくあは、当事者たちには聞こえない程の声量でそう呟いた。それは潤羽るしあの本来の相棒である”一人の女性”を思い立ててのものであり、彼女が今この場に居たなら恐らく大変な事になっていただろうという想像の下の発言である。あの警戒心の強いるしあちゃんが、まさかあんなにラプラスちゃんと仲良くなるなんて……。

 

 

 

 

 

ともあれ、そんな朝のひと時がここ総帥邸での暫くの日常となるのであった―――。

 

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