転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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転ラプ第二章、幕間その3です。今回は前回の幕間②からの続きになります。また、この辺りで取り敢えず幕間シリーズは終了の予定です。この後は暫く外伝をやり、それがある程度落ち着いたら第三章を書いていこうかと思います。

※転ラプシリーズにおける『幕間』は、本編に直接関係のある話を書いています。よって本編と変わらずストーリーの進行や伏線等がありますので今まで通りお楽しみください。


【追記】
今回の深堀シリーズはお休みですが、またしても本編裏側の一幕を載せておきます。内容は前回の幕間②でラプ様が食堂に来る前に行われていたるー様とあくたんとの会話です。この二人はパラレル世界において特に仲がいいという訳ではありませんが、かと言って悪いというわけでもありません。言うなれば【宝鐘マリン】という共通の知り合いを持つ同僚といった感じでしょうか。そんな二人の会話は扱いに困る感じなので、こうして本編外で発散しておくことにします。


―――――

「……驚きなのです。まさか、あくあさんの方が先に起きてるなんて……」

「あっ……ウ、ウン…るしあちゃん、おはよ……な、んか…今日は目が覚めちゃって……」

「そ、そうですか……マリンが聞いたらきっとびっくりしちゃうのです」

「……船長…………ねぇ、るしあちゃん…どうして、ラプラスちゃんを信じる気になったの?」

「えっ…なんですか、いきなり……そんなの、簡単なのです。ラプラスがるしあの疑いを払って、自分は信用できる人間だって証明してくれたからなのです。……まあ、ラプラスは人間じゃなくて悪魔だけど」

「……そ、っか……なら、コメットに帰れたらその話を皆にちゃんとしないと、だね……多分、船長はるしあちゃんの話なら何でも聞いてくれると思うけど……」

「……そうですね。出来るだけ早く本部に戻って、今度こそ故郷を取り戻さないといけないのです」

「う、うん……私も、頑張るから……」





「…………”今度こそ”、か……」

―――――


最後の一言はあくたんのものです。彼女は今までに一度も惑星ふぁんたじあの奪還を目的とした遠征に参加したことはありません。


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第二章幕間③ 秘密結社holoXの上層部会議その2

 

本邸にて朝食を食べ終え、アジトへ赴く準備も整った頃。迎えの車が到着したと報告を受けたラプラスは邸宅玄関口へと足を運んでいた。

 

 

 

 

「おはよーでござるーっ!!ラプ殿、迎えに来たでござるよー!!」

 

 

 

 

玄関ホールに続く長い階段を降りていると、既に開け放たれていた外界と内側を繋ぐ大扉が視界に入る。そして、その前辺りで数名のholoXerたちと一際目立つ和服を纏った陽気な少女が屯っていた。

 

 

「ああ、おはよういろは。お前は相変わらず朝から元気だな」

 

 

手すりを伝いながら段差を下り、最後の地に足がついたところでラプラスはそう言った。元々早寝遅起き気味な吾輩からすれば、朝食の時間を過ぎた頃だとしてもこんなに元気いっぱいないろはには驚きと尊敬の念を抱くところだ。まあと言いつつ、吾輩もこっちの世界に来てからは毎日部下たちのせいで朝早くに起こされているわけなんだが。お陰ですっかり生活リズムが整っちゃったぞ。

 

 

「ふふん、元気と体力の多さが風真の自慢でござる!」

 

 

「確かに、言えてるな。…………あれ?そう言えばクロヱは?一緒じゃなかったのか?」

 

 

ラプラスの言葉に対し、自身の発言通り自慢げに答えた彼女はえっへんと胸を張っていた。しかし、そんな彼女の周りを見て”本来ならばそこに居る筈であった”新人の姿がないことに悪魔は疑問符を浮かべた。

風真いろはがわざわざ迎えとしてこの場に出向いている理由、それはひとえに『総帥ラプラス・ダークネスの護衛』の為であった。先日の宝鐘海賊団襲来の一件以降、例え本部内であっても警戒を怠るべきではないという風潮が強くなっている。またここ本邸で宝鐘の一味を匿っている点、そして組織の重役である総帥がこの場所からアジト内まで移動しなければならないという点を考慮し、暫くの間は例え本部内であったとしても総帥には組織二大戦力のどちらかを護衛につけろというお達しを受けたのだ。ちなみにそれを言い出したのは当然あの大幹部鷹嶺ルイであり、また総帥以外の四天王たちが全会一致でそうするべきだという結論に至ったのだった。

 

 

ただし、本日の”出勤”に限ってのみその後の最初の業務が『秘密結社holoX上層部会議』ということでいろはとクロヱの両方が吾輩に同行するという話になっていた。よって本来の予定通りならばこの場には新人も一緒に同席していたはずなのである。しかし見渡した限り、そこには彼女の姿だけが無いのであった。

 

 

「あ~……沙花叉は、その、言いにくいんでござるが…………”寝坊”でござる…」

 

 

「・・・・・・あーね、なるほど。なんかいつも通りのアイツみたいで安心したわ」

 

 

正直な話、吾輩は少しばかりクロヱのことを心配していた。それは彼女が数日前まで連続した任務に赴いており、更にそこから長い監禁生活を送っていたためである。一応本部に戻った後に色々健康面等をチェックされたらしいし、食事も睡眠も十分にとれる環境ではあるため大丈夫だろうとは思っていたのだが……それでもちゃんと気には掛けていたのだ。

しかし、侍の反応を見るにそれは無用の心配だったらしい。どうやら沙花叉はこの世界でも変わらずのらりくらり自分のペースで生きているようだった。

 

 

「まあ、流石に会議までには起きてくるだろ。吾輩達も遅れて幹部にどやされる前にアジトに向かうぞ。いろは、道中の護衛は頼んだからな」

 

 

「了解でござるっ!どんな敵からでも総帥の用心棒として、ラプ殿を守ってみせるでござるよ!」

 

 

妙に張り切っている様子の侍を見て、悪魔は自分で言った手前これだけ警備網が敷かれた本部内で一体誰に襲われるというのかと内心で思う。しかし、自身に与えらえた役目をしっかりこなそうとする彼女が微笑ましい事には変わりないと余計なことを口にすることは憚った。

 

 

そして彼女達は、その他の眷属たちも連れアジト行きの飛行車両へと乗り込んだのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

明かりの乏しい長い廊下を突き当り、そこにポツンと存在する重苦しい二つ揃いの扉。そこに漂う視覚的特徴に似合った不気味で異様な雰囲気は、扉の先に広がる空間とその部屋の用途に由来する相乗効果を伴っていた。

 

 

この先には、その大きな集団内でも限りなく上位に位置した者達しか足を踏み入ることを許されない。故に、途中でその他の同行者を捨て二人だけになった少女たちは前方の暗室へと続く道を歩いていた。

 

 

「ここだよな……」

 

 

誰に向けたでもない小言を漏らし、悪魔は眼前の扉に手をかける。そうして開かれた空間には既に二人の人物が席に着いていた。

 

 

 

 

「―――来たわね、ラプ。時間ぴったりだわ」

 

 

 

 

室内の最奥、正面に張り付けられた『holoX』の文字が浮かぶ巨大なスクリーン。それを背景に、部屋の中央には五つの席が用意された大型の円卓が置かれている。また天井は上下の感覚を失いそうな程に高く、周囲の壁は実際の広さを錯覚しそうな程に漆黒であった。ここは以前holoXとフレンズ王国の同盟について部下たちに説明したときに用いたのと同じ部屋であるが、相変わらず悪の組織の会議室としてはあまりにも相応しい様態を成していた。

 

 

「ルイ姉、お待たせでござる~!ちゃんとラプ殿を此処まで連れてきたでござるよっ!」

 

 

「えぇ、いろはもご苦労様。あなたが居てくれて本当に助かってるわ。……先日の一件以来、例え本部内であっても安全とは言えないもの。総帥の護衛なんて多いに越したことはないわ」

 

 

空いた中央の席を挟み込むようにして座る彼女たちの片割れ、向かって右側の席に着いている大幹部【鷹嶺ルイ】が自分達の到着を歓迎していた。またそれに対し、彼女から総帥の護衛を任されていたらしいいろはが元気に任務完了の旨を伝える。

そして、そんな二人のやり取りを見ていたもう一人の先着者が同じく口を開いた。

 

 

「――おはよーいろはちゃん、今日も元気だねぇ。……まあでもいろはちゃんも総帥も居て、ついでにクロたんも居る平時のholoXなら流石に怖いものなんてないんじゃない?」

 

 

円卓の上に上体を乗り上げ、両手で頬杖をついている可愛らしい【博衣こより】がそう言っていた。総帥ラプラス・ダークネス、用心棒風真いろは、そして掃除屋沙花叉クロヱ、このholoXを代表する三大戦力が在中している現在の組織の防衛力は最大値であると言って差し支えない。よって先日の様にこの三人が任務等で外出しているような有事の際を除けば、本来holoXは鉄壁の布陣であるはずなのだ。

……しかし、それは少々浅慮であると大幹部は訴える。

 

 

「こより、さっきも言った通り警戒しすぎるに越したことは無いわ。本部が万全の状態とはいえ、警備や護衛は怠らないようにしないと。…………ね、ラプ?」

 

 

「えっ?……あー、うん、そうだな?」

 

 

まさかいきなり話しを振られると思っていなかったラプラスは、思わず適当な返事を口にしてしまった。だが正直な話、今回の場合はどちらかと言えばルイの意見に賛同したいところではある。彼女の言う通り有事に備えるのは大切なことだろうし、そもそも”総帥がいるから大丈夫”なんて言われても普通に困るのだ。そんな大いに期待されてもそれに応えられる自信なんてないし、危ない橋をいろはやクロヱに渡らせるわけにもいかない。……まあもっとも、向こうからやってくる災いに関してはどっちにしろ何とか対処するしか方法は無いのだが。

 

 

「ッ……そ、そうだよね……総帥やルイ姉の言う通り、油断なんてしちゃダメだよね……こないだもそれで問題になったばっかりなのに、こよったら何考えてるんだろう……ごめんなさい……」

 

 

ラプラスがそう思いそれを言葉にしようとした矢先、一瞬目が合った博士がそう言って縮こまってしまった。先程まで卓の上にあった手を膝の上に下ろし、まるで怒られた子供の様に肩とケモ耳がシュンと垂れている。顔もこちらから避けるように俯いてしまい、されどそれに反して背筋だけは伸ばして精一杯反省しているのを見せている様子であった。……しかし、それはさっきの発言だけを省みての行動にしてはあまりにも重く、傍から見ても何かしらの”他の要因”があってそうしているようにしか思えないのだった。

 

 

……だが、その原因を吾輩は理解していた。彼女が今のやり取りだけでこうも尻込みした理由、それには勿論先日の一件が関係しているというのも大いにあるだろう。こよりは宝鐘海賊団がこの本部に襲撃し、被害を被ってしまった事に対し深い自責の念を感じていた。ただし、その件については吾輩からもちゃんと言葉を残したしある程度は博士の心を補完できていたはずだ。よってここでの彼女の反応の主因はそこにあるのではなく、昨日密かに起きてしまった吾輩と博士との”とあるやり取り”にあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――本部への帰還から翌日。

他組織の宇宙船内や見知らぬ惑星でしばらくを過ごした吾輩は他の同じ境遇の者たちと同様に、医務室棟で未知の病原体や感染症に罹っていないか等の検査を受けていた。またそれは長期の任務に出ていた構成員達の健康診断なども併せて行われており、本人の多忙さや患者の秘匿性の観点から吾輩及び新人に関してだけはその全てを博士によって行われていた。

 

そして、一通りの調べが終わった頃にそれは起きてしまった。

 

 

 

「……よし、終わったよラプちゃん」

 

 

 

病院などでよく見る診察室のような一室、そこで吾輩は博士からの検査を受けていた。よくわからない器具を使い、何を調べているのかすら見当もつかない診察をされることしばしば。それらの作業がようやく終わったことを伝えてくれた博士はこちらに向き直った。

 

 

「やっとか、随分長かったな」

 

 

「仕方ないでしょ、総帥にもしものことがあったらって細かい所まで調べてたんだから……でも、特に問題無かったよ。まさに健康そのものだし、クロたんの言ってた右手がどうのっていうのも診てみたけど変わったところは見つからなかったかな」

 

 

対面に座る彼女のその言葉に、吾輩は一瞬ドキッとしていた。

あの場に居たクロヱにすら教えなかった自身の右手の真実。吾輩がるしあとの交渉による犠牲として差し出したそれの不調を新人は鋭く見抜いていた。しかもそれを指摘され、その時は何とか誤魔化したものの彼女の心にはずっと疑問が残っていたのだろう。そして、同時に心配もしていたクロヱはその旨を博士に事前に伝えていたようだ。まあその結果は、『特に問題なし』ということで早々に決着がついたようなのだが。

 

 

「そ、そうか、それはよかったな~……」

 

 

冷や汗が垂れているのを隠しつつ、ラプラスは自身の右側の手をさすった。流石に、あの天才科学者である博衣こよりをもってしても”魂が関係した”怪我に関しては調べようがないようだ。しかもその患部は既に処置が済んでおり、傍から見たりその肉体を骨まで透かして見たとしても原因が分かるようなものでも無い。やはり科学の分野で神がかり的な才を見せる彼女であっても、魂や魔法といった不可思議でスピリチュアルなものには太刀打ちできないのだろう。……ということは、案の定あの魂が絶たれた状態の腕を博士に診て貰ったところで完全な治療を受けるのは期待できなかったということだ。つくづく、あそこでるしあからの疑いを晴らし信頼を勝ち得ることが出来て良かったと心の底から思う。

 

 

「……それじゃ、検査も終わったなら吾輩は戻るぞ。幹部のやつが休んでる合間にでもいいから報告書を書けってうるさいからな」

 

 

例え総帥であったとしても、任務に赴いたのであればその報告書を書くようにと吾輩は幹部から言われていた。しかも『捕らわれた暗殺部門の救出』という緊急性の高い内容であったことと今後の宝鐘海賊団との関係構築にも繋がるというのを理由とし、早急に仕上げろとのことだった。よって本当に心底面倒ではあるのだが、吾輩はこれから数日間に渡って机に向い書類作成という慣れない仕事をしなければならないのだった。

 

 

そう思ったラプラスは疲労と怠惰で重い身体に鞭を打って、執務室に戻ろうと席から立ち上ろうとした。しかしその瞬間、博士が口を開きこちらを呼び止める。

 

 

「あ、待ってラプちゃん。戻る前に、ちょっと話があるんだけど……」

 

 

「ん?どうかしたのか?」

 

 

一度半分まで持ち上げた腰を再び椅子の上に戻し、ラプラスは何事だろうかと軽い気持ちで彼女に向き直った。……だが、その時ぶつかり合ったこよりの瞳が嫌に真っすぐで、それを見たラプラスは一瞬ときめくように何かが脈打ったのを感じる。例えるなら彼女ののそれはこれから愛の告白をしようとしている乙女のような面持ちで、妙に色気と圧倒的な可愛さを漂わせていた。……いや、それは流石に誇張しすぎか。吾輩どんだけこよりのこと好きなんだよ。

 

 

「あっ……えっ、と……あのね……」

 

 

しかし、そんな能天気な思考を巡らせるラプラスを他所に、彼女は今の悪魔にとってはあまりにも”望まない”言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「――――ねぇ、ラプちゃん……ラプちゃんが任務に行く前にこよに話そうとしてくれてたこと……”相談”って何の話だったの?」

 

 

 

 

 

そう言った彼女の後、二人だけの空間がピシャリと静まり返ったの感じた。……そう、だ……そういえば、吾輩は……”あのこと”を、こよりに話そうとしていたんだった……。

 

(……すっかり……忘れていた……)

 

出来れば思い出したくなかった、気付きたくなかった事実に悪魔の脳内は侵食される。

どうして、こんな大事なことを今の今まで忘れてしまっていたのか。大変だったから?忙しかったから?多くの問題や任務に直面してそれどころでは無かったから?……いや、そんなのは全て言い訳だ。吾輩は、自分にとって”都合が悪かった”から無かったことにしたかったんだ。忘れていたのは本当だったとしても、それでも無意識下でわざと忘れようとしていたのかもしれない。だって……吾輩は今ここでそれを思い出してしまった事を、酷く後悔しているのだから。

 

 

「約束、だったでしょ?……あとで必ず聞くからって」

 

 

「―――。」

 

 

そう言って何故か縋るようにしてこちらに迫る博士に対し、吾輩は言葉を返せなかった。あの時と同じ感覚だ。それまでは本当に、どうにか自身の秘密を彼女に話して助けを乞おうとしていた。あの世界でも、この世界でも天才と謳われる彼女であれば今の自分を救ってくれるだろうと思ったから。……でも、同時にカノジョ達に悲観されるのが怖くなった。偽物の吾輩など受け入れられない、本物ではないラプラスをカノジョ達は否定するのではないかと……腰が引けてしまったんだ。

―――そして、それは恐らく現実になるだろう事をあの掃除屋は提言していた。

 

 

「……なあ、こより」

 

 

一瞬意識と言葉を喪失した悪魔は、それを相手に悟られぬよう努めている。いつものワタシの様に、おちゃらけて能天気なただの〖ラプラス・ダークネス〗を必死に取り繕いながら。

 

 

「うん、ラプちゃん……大丈夫。こよ、”総帥の話だったら”何だって聞くから」

 

 

悪魔からの言葉にそう続けた彼女は、まるで祈りを捧げているかのように両手を合わせた。

それは、博衣こよりにとっての謂わば願いである。目の前の御方があの時は話そうとしてくれたその言葉を、今の大きな過ちを犯してしまった後の自分に対しても同じように与えて欲しいという傲慢で強欲的な欲望だった。そんなことを望む資格すら今の自分には無いと分かっていながらも、まだ”使ってくれる”と言ってくれたこの悪魔に甘えようとしていたのだった。

……しかし、そんな切なる願いに反し悪魔は目の前の少女から目を背けた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――そんな話、吾輩したっけかな?」

 

 

 

 

 

 

 

ラプラスにそう告げられたこよりは、悲痛のあまり目を見開いた。

 

 

「え…………い、言ったよ、確かに言った!僕に、大切な相談があるってラプちゃんが……」

 

 

「ん~?そうだったか?……悪い、色々忙しくて忘れちゃったぞ」

 

 

妙に自分の口が軽く感じた悪魔は、早急にこの部屋を出ようと後ろを振り返った。……これ以上、彼女の視線に耐えられない。

 

 

「そんな……だって、ルイ姉にも言えない話って、そう言って……」

 

 

今にも泣き出してしまいそうな、消えてしまいそうな声でこちらに手を伸ばす少女。自分に積まれていた信頼が崩れていくような感覚に陥り、それを必死にかき集めようと悪魔に縋る。……それが届くかどうすらも、全ては彼女の”都合次第”であるというのに。

 

 

「ルイにも言えない話ぃ?そんなのあるはず無いだろ。……それじゃ、用がそれだけなら吾輩はもう行くからな」

 

 

最低を吐き出し始めてから一度も相手と目を合わせずに、ラプラスはそう言ってその場を離れる。振り返ることなど出来るはずもなく、只々早くここから居なくなりたいと解放の取っ手に手をかけていた。

 

 

 

「……そっかぁ……僕には、言えなくなっちゃったんだ……」

 

 

 

悪魔が部屋の敷居を跨ぐ瞬間、背後からそんな耳を塞ぎたくなるような声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

……そんなことがあり、こよりは昨日のそれを引きずっているが故に先程のような反応を見せたのだろう。勿論その全ては吾輩の我儘のせいであるが、それにより彼女は吾輩に対し示す態度や言葉を見失っているのかもしれない。……本当に、吾輩は最低で最悪な救いようのない総帥だと思う。自分が皆に見捨てられるのが怖くて耐えられないからと、それと同じだけの恐怖を大切な部下に押し付けているだけなのだから。

 

 

「こより……あ、いや…………まあ、そんなに気にする必要ない、だろ。今は博士の言う通り皆いるんだし、きっと何があっても大丈夫だ……」

 

 

そう自分を吐き捨てたラプラスは、目を伏せたままのこよりを気遣うように言葉を続ける。だがそれも、どう紡げばこれ以上彼女を傷つけることなく励ませられるのかわからなくて……ただ意味も無い空虚なことだけを口走っていた。

 

 

 

ラプラスが言葉を発したのを最後に、会議室は静寂に包まれる。この場に居る誰も悪魔の言を否定などせず、故に無意味な戯言であってもただ総帥の意思として浸透するだけであった。当然、そんな苦し紛れの言葉を誰にも咎められない事すらもラプラスにとっては重くのしかかる罰となる。せめて、誰かが『この自分勝手で最低な悪魔め』と罵ってくれたのならどんなに楽だろうかと……。

 

 

 

 

 

「――――だぁーーっ!!もうお嬢ッ!しっかりしてくださいってばっ!!!」

 

 

 

 

 

誰一人口を開かない気まず過ぎる空気が流れ始めた最中、突然出入り口の扉を跨いだ先の廊下からそんな男の叫びが聞こえた。またそれを受け、その声に何となく心当たりのあった一同は一斉にその出所の方へと振り返る。

 

 

「もぉ~うるさいなぁ、私の”飼育員”のくせに……ふぁ~…」

 

 

続けて、今度は間違いなく聞き覚えのある腑抜けた声が聞こえてきた。トン、トンとゆったりとした足音を響かせて、欠伸をする余裕さえあるらしいその人物。本来なら既にこの場に居なければいけないはずの”彼女”は、未だ辿り着かぬ会議室の前まで迫っているようだった。

 

 

「うるさいじゃないですって、早く急いでください。会議開始の時間はもう過ぎてて……ていうか、いい加減自分で歩いてくれませんかねッ?!私だってケガ人でまだ治ってないんですよッ!それに、この先は本来四天王の方々以外は立ち入り禁止で……」

 

 

「そーゆうのい・い・か・ら!どーせあのラプラスが時間通りに来てるわけないんだし、”沙花叉”はもうお説教は懲り懲りなの。今回の事で私がルイ姉にどれだけ怒られたと思ってるのさ」

 

 

「だったら尚更、こういうところで反省の色を見せてくださいよ……」

 

 

などと、非常に微笑ましく、されどルイ姉やいろは辺りが頭を抱えたくなるような会話が聞こえてきた。いや、実際に席に着いている幹部は額に手を当てて眉間に皺を寄せているし、近くに立っているいろはは『はぁ……』とため息をついている。まあ流石に、今回ばかりは遅刻してきたアイツが悪いと言わざるを得ないのだろうが。

 

 

ラプラスはそんなことを思いつつ、再度入口の方に視線を移す。すると、徐々に近づいてきていた二者の声がもう目の前まで差し掛かっているのが分かった。そうしてお通や状態であった空気感が若干緩んだところに、彼女は堂々とその扉を破って現れたのだった。

 

 

 

 

「はいはーい、ばくばくばくー。皆様遅れましたおはようございます、掃除屋の沙花叉クロヱちゃんでー…………す……」

 

 

 

 

だらだらと長ったらしく、まるで反省が見られない様子の掃除屋はそう言葉を並べていた。だがそれも、部屋に入って直ぐのところに居たとある人物が視界に映ったことにより全ての動きが停止する。

 

 

「……あー……おはよう、クロヱ。その調子だと任務の疲れとかはすっかり大丈夫みたいだな……」

 

 

ドアノブに手をかけ、扉を開けたところでそのままこちらを見つめながら固まるクロヱ。吾輩と彼女の視線は宙でバチンとぶつかり合い、そしてゆっくりと相手の顔から血の気が引いていくのが分かった。

 

 

「そ……総帥…?……な、何で、こんなに早く起きて…………いやていうか、あれ、ラプラスがここに居るってことは……沙花叉ってば、もしかして総帥の護衛の任務すっぽかして……」

 

 

みるみる青くなっていく彼女を見て、怒るのを通り越して少し可哀想になってしまった。何故なら、さっきから背後で何も言わずただ沙花叉に視線を向けているだけのその鬼……いや”鷹”が、きっとこれから物凄く彼女を叱るのだろうから。

 

 

 

 

「―――――沙花叉、会議が終わったら私の部屋に来なさい。」

 

 

 

 

「……ひゃっ……ひゃい……」

 

 

何はともあれ、こうして悪の組織の会議室に全役者が揃ったのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

漆黒の闇を纏う部屋の中央に、まるで陣取るように置かれた円卓。それを囲むのは、全宇宙を股にかけ泣く子も頭を垂れると恐れられた悪の組織【秘密結社holoX】の総帥及び最高上位構成員通称『四天王』と呼ばれる者達であった。

 

 

「それじゃ、ようやく全員が揃ったところで……会議を始めるぞ!」

 

 

自分達の置かれた状況や、その為話し合う内容に反し少しばかり浮かれ気味であるラプラスがそう言った。思えば、全員がこうして同じ机を囲み顔を合わせて話すというのは随分と久しぶりの事だ。それこそ向こうの世界では毎日のように会っていたわけだが、こっちの世界ではholoXの規模のデカさや任務の内容的に必ずしも日に一度会うという訳では無いらしいからな。

 

 

「今日の議題は、簡潔に言えばこれまでに起った出来事の報告、そしてこれからのholoXの方針についての共有だ」

 

 

ラプラスはそう言うと、手元にあったこの場に居る各々が作成してきた資料に視線を落とした。まず初めに行うのが、ここ最近にholoX内で起きた大きな出来事の報告会だ。それには当然いろはやクロヱが不在だった間に起きたフレンズ王国との同盟の件も含まれており、また件の宝鐘海賊団との抗争についても各視点で起きたことを報告し事実確認をするのであった。

 

 

「なるほどぉ、あの星の一国と同盟を結んだんでござるか……うーん、なんというか複雑な気持ちでござるなぁ」

 

 

「ねー、それに折角征服した星なのに隷属じゃないなんて珍しー。しかも対等な立場として扱うとからしくないじゃん。……これってラプラスが言い出したことなわけ?」

 

 

当時現場等に居合わせなかった二人が、報告を受けそれぞれの感想を口にしていた。しかしそれについての概ねの見解は、両者とも反対はせずとも賛成もしていないと言った様子である。特にいろはに関しては先遣隊としてフブキ先輩たちの星に攻め込んでいたこともあり、更にあやめ先輩との件もあって言葉通り複雑な心境にあるらしい。そりゃ国をたった一人で滅ぼし、加えて自身の手で母親を殺してしまった相手と今後同盟関係になると言われても反応に困るところだろう。それこそいろはは恐らくもう一人の吾輩に命令され任務としてそれをやっただけだろうし、本人がやろうと思った事でもなければむしろ一人の構成員として良かれと思ってやったことである。だがそれがあやめ先輩の心を深く抉ったことも理解しているだろうしで、とりあえず当面の間は二人を会わせるわけにはいかないだろうという感じであった。

逆に、クロヱはこの件にほとんど関わってないとしてほとんど興味が無いと言った様子だった。但し、その騒動の処理の仕方や結末が今までのラプラスとは違うというところにだけは疑問を持っているらしい。

 

 

「無論、全てはラプが選んだことよ。それに今後のフレンズ王国の使用用途についても既に総帥から指示を貰ってるし、その為の準備も順次進めてる。確かに今までのholoXのやり方にはそぐわないかもしれないけど、それでもラプの望みというならそれが全てでしょ?」

 

 

「ふ~ん……そうなの?ラプラス」

 

 

クロヱからの疑問を受け、幹部は追加で補足的に説明をする。しかしそれを聞いても尚何かを言いたげな彼女は、確認の意も込めてこちらに話の先を向けた。

 

 

「ああそうだぞ。吾輩はあの国、あの星を我らholoXの第二の拠点として使うつもりだ。その為にわざわざ吾輩が現地まで赴いて同盟を結んだんだし、必要な人材なんかももう派遣してある。確かにいろはとかにしてみれば命を懸けて戦ってた相手と仲良くとか色々やりづらいとは思うが、それでも総帥の我儘としてなんとか飲み込んで欲しい」

 

 

彼女たちの不満にも似た喉の詰まりを解消するように、ラプラスはハッキリとそう口にする。それは諸々の問題やわだかまりをすっ飛ばして、その結果は総帥の望みであるのだから納得しろと言う悪魔からの我儘と言う名の『命令』であった。そして、それを否定したり拒否する者などこの場にはいない。

 

 

「あっ!別にラプ殿の決定に文句があるとかじゃないんでござるよ!ただちょっと、”あの子”に合わせる顔が無いってだけで……勿論風真は総帥の意向というならば全く問題無いでござる!」

 

 

「へーそーだったんだ。そういうことならとーぜん、沙花叉も異議なーし♪」

 

 

いろはは慌てて不満げだった態度を改めて、またクロヱはコロッと表情と声音を変えてそう言っていた。幹部や博士を含め、holoX全体で見ればこの決定にそれぞれ思うことがあるだろう。それこそクロヱの言った疑問や疑念、いろはの持った不満も当たり前のことだし理解も出来る。だが、彼ら彼女にとってはそれ以上に総帥の言こそが第一であるのだ。ならばここはそれに甘え、『総帥の望みだから』という大義名分を言い訳に吾輩の願いを通させてもらおう。既にこの件についてはルイとこよりは一応納得してくれてるし、今回で残りのいろはやクロヱも表面上だけでも受け入れてくれたということになるだろう。

 

 

「それじゃ、二人にフレンズ王国のことを説明したところで……次は本題の宝鐘海賊団との件だな」

 

 

総帥のその発言を皮切りに、その場にいた者達は次の議題へと意識を移した。先日の一件は全体を通しても、皆に情報共有しておかなければいけないことがあまりにも多すぎる。しかもそれは吾輩ら暗殺部門救出隊の視点でもそうだし、本部で待機してくれていた幹部たちの方も当然そうであろう。一応あの岩の惑星に居た時に互いの状況を話したりはしたが、事が済んでから改めて確認の意味も含めて情報を整理しておきたいのだ。

 

そう思ったラプラスは、まずは幹部ら本部待機組の三人が作成した資料に再び目を通した。

 

 

「……宝鐘海賊艦隊、一番船と三番船の急襲。本部の位置を特定された我々は宝鐘マリン率いる艦隊に攻撃を受けた……あ。そう言えばるしあに聞いたんだが、ウチの場所を特定するのにはやっぱり”例の発信機”を使ったらしいな」

 

 

それは吾輩たちが本部に戻り、ある程度の休息を取った後に彼女本人から聞いた話である。事態が起きてから終息するまで、結局マリン先輩たちがどうやってこの本部の居場所を特定したのかが分からないままであった。最も怪しいとされたのは任務から戻った宇宙船内で見つかったという小型の発信機だったが、それも天才科学者である博衣こよりの手によって無力化されていた上母艦自体もその場にとどまり続けたわけでもない。にも関わらず、彼女ら宝鐘海賊団は寸分狂わずholoXの前に姿を現した……それを特に博士が強く疑問に思っていた。

しかし、後にるしあからの話を聞いたところどうやらその手法は彼女特有の”初見殺し”だったということが判明したのだ。そもそも、一度捕えた暗殺部門の宇宙船に細工をしようと言い出したのは彼女自身だったらしい。遠距離で本部と交信し即座に助けが呼べないよう船の通信システムを一部破壊し、更にただ無造作に荒らしたように見せる為宇宙を航海するには差し支えない程度に外装を傷つけた。そしてそれをカモフラージュに、発見が出来るだけ遅れるようにとエンジン機構の奥底に小さな箱型の通信機を設置したらしい。しかも、それ自体にも我々に見つかった後壊されたり無力化されようとも問題の無いような細工を施して。

 

 

「るしあの話じゃ、その発信機が薄紫色に光ってたのは”本人の魔力を宿している”かららしい。しかもそれをどんなに離れていても探知し、それが存在する方向を教えてくれる魔法具……いや魔法生物?を仲間達に託していたんだと。だから宝鐘マリンはそれを使ってウチを特定しここまで来たってわけだな」

 

 

「なるほど、そういうことだったのね。どおりで電波を遮断する部屋に保管していたのに意味が無かった訳だわ。魔法を用いた不可視の糸を手繰って、彼女たちはここまで攻め込んで来た……とんだ手品だわ」

 

 

そう言う幹部はここを取り仕切る立場として頭を抱えている様子だった。『魔法』、それは科学的な説明が付けられず、超常的で非現実的な力だ。それを相手が振りかざし、そんな発想すら湧かないような手段で索敵されるなど大幹部である彼女にとってはあまりにも深刻な問題だろう。そうなるとるしあは、やはり理不尽で初見殺しな罠が多すぎる。二番船内で潜入に特化したクロヱ達が発見されて捕まった件もそうだが、魔法が使えたり魂が見えたりとか諸々最強で最恐な権能だよな。……まあ、『ラプラスの悪魔』である吾輩も一応は魔法を使えるんだけど。

 

 

 

 

 

 

「…………”魔法”……」

 

 

―――ラプラスとルイが話をしている最中、小さな声でそう呟く少女がいた。

 

 

「……こんこよ?どうかした?」

 

 

「えっ……あ…な、なんでもないよっ!大丈夫……」

 

 

「いや、それ絶対何かあるやつじゃん。……まぁ、言いたくないなら沙花叉は無理には聞かないけど」

 

 

円卓の中央に座る総帥の右隣、更にその隣に座る彼女たちの間では密かにそんな会話が成されていた。だがそれも、掃除屋が説明を強いないと言ったのを最後に直ぐに幕を閉じてしまう。そしてそれは、他の誰の耳にも入ることは無かった。

 

 

 

 

 

……そして、ルイ・こより・いろはによる待機組の報告を終えた後、今度は捕らわれた暗殺部門の救出に赴いたラプラスが自分達の方で何があったのかを説明し始めた。その全容はラプラスの海賊船内での孤立に始まりまず最初に一番船副船長湊あくあの協力の取り付けたこと、その後彼女に力を借り沙花叉クロヱ及び暗殺部門の者達を救出したこと、そして最後に相対した潤羽るしあとの交渉についてが語られた。……だがそのどれを話すにしても、絶対に避けては通れぬ”ある存在”がそこにはあったのだ。

 

 

 

「皆……特に幹部か博士に聞きたい。吾輩達が今回の任務で遭遇した奇怪な存在……【ホロベーダー】って奴を聞いたこと無いか?」

 

 

 

ラプラスが全員を見渡しながら、一人一人を確認するような口調でそう言った。先輩方の故郷を奪った侵略者ホロベーダー、それこそがこれから吾輩たちが向き合わなければならない最大の問題なのである。

 

 

「これは今後のholoXの方針とかにも関係してくることなんだが……今回の任務の途中、吾輩達は宇宙のある地点でホロベーダーと呼ばれる生物に遭遇した。いや、実際には生物かどうかも怪しい蠢く物体だ。その表皮は黒く、目に映るものすべてを壊そうとする破壊衝動を持ち、そして宝鐘海賊団の海賊船より一回り位大きな存在。吾輩達がやむを得ず海賊船を放棄してあの星に不時着してたのも、突然そいつに襲われたのが理由だったんだ」

 

 

自分達の身に起きた出来事を語るラプラスの言葉に、誰もが耳を傾ける。それは総帥の口から出た大切な言であることもあるが、それ以上に彼女が真剣な面持ちでそのことを語っているからこそだったのだろう。

 

 

「……力を解放して暴走してたラプラスよりは、実際に見てた沙花叉の方がその見た目とかには詳しいかも。って言っても何に例えていいのかよくわかんないんだけど……なんかこうウヨウヨクネクネ動いてて、まるで軟体生物みたいだった。顔っぽい部分はあった気がするけど目も口もどこなのか定かじゃない。しかも総帥の言う通り如何にも凶暴そうで、正直一兵卒じゃ相手にならないって感じだったかな。……まあ、枷を外したラプラスやいろはちゃんにとってはそんなのも雑魚同然なんだろうけど」

 

 

またラプラスの説明に付け加えるように、実際に奴を目の当たりにしたクロヱがそう言った。吾輩が見たのは、海賊船内の操舵室でモニター越しに真っ黒な宇宙空間を背景に映っていたホロベーダーの姿だけだ。よってその容姿なんかについては正気を失っていた吾輩よりも、その場で見ていたクロエや部下たちの方がかなり詳しいだろう。

 

 

「そして、そのホロベーダーについての最大の問題となるのが、奴等が宝鐘海賊団船長らの故郷を襲った張本人だってことだ。奴等は何処からともなくるしあ達の故郷である惑星『ふぁんたじあ』」に現れ侵略行為を働いた。またホロベーダーは破壊衝動を持つだけに留まらず、特殊な繁殖方法を使ってその数を増やすらしい」

 

 

それもまた、今回の件を通し吾輩が知った事実であった。ホロベーダーは現に海賊船を襲ったように破壊衝動を持つだけではなく、生物の魂を喰らって増殖するという信じがたい繁殖を行うのだ。その脅威はすさまじく、例え強い先輩方であっても撤退せざるを得ない状況に陥っている。……しかしだからこそ、吾輩は先輩皆を助けるためにこれからの行動を考えなければならないのだ。

 

 

「そこで、改めて皆に聞きたいんだが……この中にホロベーダーについて何か知ってるやつはいないか?勿論似たような話を聞いたとかでもいいし、どんな些細な事でも構わないんだが」

 

 

ラプラスはそう言うと、再度部下たちを見渡した。実際に吾輩がるしあにホロベーダーを倒そうと持ちかけた際、一つ疑問に思った事がある。星を喰うとさえ言われるホロベーダーの存在を、同じく星々を侵略するholoXが果たしてその存在を知らないのだろうかと。当然この広大な宇宙のことをすべて把握するなど出来るわけもないし、知らなくてもしょうがないことなのだが……それでも奴等のことに関して少しでも情報が掴めれば、後々必ず役に立つはずである。

 

ラプラスはそう思い、部下たちからの発言を待った。しかし暫くしても誰からも声が上がらず、その中でも可能性のありそうだった幹部や博士も首を横に振っていた。

 

 

「……ごめん、ラプちゃん……僕はそんな話、今まで一度も聞いたこと無い……期待に応えられなくてごめん……」

 

 

「私も知らないわね。というか宇宙に出てからずっとあなたと一緒に居たのに、ラプが知らないことを私達が知ってると思う?」

 

 

と言って、こちらの質問に対しむしろ問いかける形で返されてしまった。だが彼女たちの反応的に、やはりホロベーダーというのはこのholoX内でも認知されている存在では無いということだろう。となれば今後の課題としては、予定通り惑星ふぁんたじあの場所の特定を急ぎつつ侵略者ホロベーダーについての情報収集。さらにこれからの戦いに備え戦力増強と、るしあ達を家に帰した後は惑星ふぁんたじあ奪還の為に尽力を尽くすというところになるだろう。

 

 

「そうか、まあ知らないならしょうがないよな。…………それよりも、皆聞いて欲しい。さっきのホロベーダーの件に関連して、今後holoXがどのように活動していくのかその指針をこの場に居る全員に話しておく」

 

 

ラプラスは目の前の彼女たちに堂々とそう告げて、徐に席から立ち上る。

 

 

「先の通信でも話した通り、我々は宝鐘海賊団の二番船船長潤羽るしあ及び一番船副船長湊あくあと協力関係を結んだ。その具体的な目的についてはずばり言えば『ホロベーダーの殲滅』だ。吾輩はそれを成し得るために彼女たちの持つ知識と力を借り、代わりに彼女たちにとっての故郷を奪還するのに協力すると約束した」

 

 

それは吾輩がるしあに対し交わした約束。正確に言えば吾輩はホロベーダーを滅ぼし故郷を奪い返したい先輩方に協力したいのだが、それを体よく『吾輩がホロベーダーを滅ぼしたいと思っていて、丁度そこにいた被害者でありかつ彼らとの戦闘経験のある彼女たちに協力させることにした』という言い訳を作る。そうすれば此度の吾輩の働きが宝鐘海賊団を助けたかったわけでは無く、自身の望みの為に敢えて利用しているという形が成り立つのだ。当然この言い訳は既にるしあには共有済みだし、彼女も『故郷を取り戻してくれるならなんだって構わない』と言ってくれている。ならば吾輩は自身の置かれた立場に沿ったholoXの総帥として、彼女たちに命を下すだけでいいのだ。

 

 

「その為に、まずはるしあ達を家に帰す……もとい、ホロベーダーが巣くっている星を見つけ出す。またもし仮に標的の居場所を突き止められたとして、情報も無く無策で挑むのは危険だし愚行もいいところだ。だからそれに付随してさっき言ってたことを頼りにホロベーダーの情報を集める。この辺りは幹部や博士が先導してやってくれると助かるな」

 

 

「……了解。」

 

 

「わ……わかった!こよも頑張るっ…」

 

 

吾輩からの指示に対し、彼女らはそう言って頷いた。何故か幹部だけが何かを言いたげであったが、一先ず了承したということで話を続ける。

 

 

「次にその星の特定や情報収集も終えて、晴れてホロベーダーを発見した後のことなんだが……さっきも言った通り、我々holoXはその持てる力全てを賭して奴等を殲滅する。よって、その為に必要な戦力をそれまでに揃えなくちゃならない。この辺については多分侍や新人辺りに任せておけば大丈夫だよな?もしそれだけの人手が足りないって言うなら幹部と相談して各地に散ってる構成員達を一度集めてくれてもいい」

 

 

「なるほど、了解でござる!ルイ姉に確認して貰って戦闘斥候部門の駐在人数を増やしておくでござるね」

 

 

「あ、いろはちゃんそれついでに暗殺部門の分もやっといてくれないー?流石に人数多すぎてちょー面倒だからさ。……てゆーかラプラス、いい加減沙花叉のこと”新人”って呼ぶの辞めてよ。もう私ちゃんと掃除屋として立派にやってるんですケド」

 

 

ならせめて自分の仕事ぐらいは自分でやれよと、吾輩は思ったが口にはしなかった。ともかく戦力増強についてもウチの戦闘員筆頭である二人に任せておけば問題ないだろう。若干クロヱの方が気にはなるが、それでもいざって時はしっかりしてくれるだろうしな。

 

 

「とまあ、これが今後holoXがやっていこうと思ってることだ。吾輩の望みの為に宝鐘海賊団に協力し、ホロベーダーを倒すための準備を進める。……それには、お前達の力が必要だ。これまでだってお前達は散々吾輩の我儘を聞いてあれこれやってくれたわけだが、これからも引き続き吾輩に力を貸して欲しい」

 

 

ラプラスは最後にそう言って締めくくり、再び席に座った。吾輩の望み……先輩方を助け、皆を救うという願いの為にこれからも変わらず部下たちの力を借りる。勿論そんな彼女達が向けるその尊敬も、羨望も、全ては【吾輩】に対して向けられたものじゃない。だから例えどんな理由があれど吾輩が”カノジョ達”に力を借りることは、大切な部下たちの気持ちを裏切り騙しているということに違いない。それでも、無力な吾輩は自身の勝手な望みを叶えるためにみんなの力が必要なのだ。……当然、借りたソレを返す算段すらないくせに、身勝手すぎるということは重々承知している。

 

 

「……ねぇラプ、最後に一ついいかしら」

 

 

これまでの報告や今後の方針についてを粗方話し終え、そろそろ会議も終わりだろうかとラプラスが思っていた頃。そこで突然、先程何かを言いたげであったルイがそう言ってスッと手を上げた。

 

 

「なんだ?」

 

 

「ラプ……あなたはさっき、これからholoXはそのホロベーダーとやらを滅ぼすと言ったわよね?それが、あなたの”望み”だって」

 

 

まるで何かを確かめるように。彼女はこちらを覗き込むようにして口を開く。また同時に、自身に向けらているその瞳には得体の知れない謎の光が宿っているように思えた。

だが、何故かラプラスはそれに気がついてはいけない気がして、必死に見ないふりをして答える。

 

 

「……あぁ、そうだ。それが吾輩の望みで、したいことだ。……何か不満か?」

 

 

どうして彼女がそんなことを聞いてくるのかわからなくて、一瞬だけ悩んだ挙句結局一番当たり障りのない解答を口にする。ホロベーダーを倒したいという言葉に嘘はない。実際に自分たちが被害にあって、大切な先輩方を傷つけられて、しかもその事実を知ってしまって黙って見過ごせるわけがない。だから吾輩はホロベーダーを何としてでも倒さなきゃいけないし、その為に尽力することも覚悟の上だ。……ただ、”ホロベーダーを倒したい”という事項が一番の望みでは無いというだけのこと。

 

 

 

 

「――――いえ、わかったわ。……総帥がそれを望むのなら、私はあなたを信じる」

 

 

 

 

悪魔からの返答に対し、彼女がそう答えたのを最後に会議は幕を閉じたのであった。

 

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