転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
転ラプ外伝part2です。今回は前回の幕間③の続き辺りになります(内容的には読まなくても問題はない)。時間軸としても上層部会議が終わったすぐ後で、今回は四天王だけの会議的な内容になっています。その為他のholoXerなどは登場せず、また一見本編とも関りが無いとも言い切れないようなものなので、正直これを外伝として書くべきかは暫く悩みました。ですが今話以降の外伝を書く上で必要であると感じ、これも外伝に入れちゃえー!という感じに行き着きました。という訳であまり深く考えず、ここからどんな感じで外伝が続くのかと思いながらお楽しみください。
それでは本編へどうぞ!
↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) twitter/Suiyoueki_suba
「……ねぇラプ?悪いんだけど、この後会議室を使ってもいいかしら?」
holoXの上層部会議を終えて、ラプラスは部屋を後にしようとしていた。しかしその矢先に、突然高嶺ルイ大幹部がそんなことを言い出す。
「えっ?……まぁ、別にそれは構わないが……何をするんだ?」
「勿論、今後のholoXに必要な”会議”をするのよ。……あ、でも心配しないでね。ここを使っていいのはあなたや私達四天王だけってルールはちゃんと守るから」
会議室の使用権が欲しいと言うルイに対し、総帥はその用途を問う。すると、彼女は当たり前のようにその部屋の本来の存在意義であり、かつ従来通りの使い方をすると答えた。今後の組織に必要な会議……はて、まさしくそれをついさっきまでここで行っていたんじゃなかったのか?
「それならさっきまでここでやってただろ」
「あぁいや、確かにそうなんだけど……より具体的に、あなたの話してくれた指針を実現するための段取りなんかを決めるのよ。例えば、そのホロベーダーたちと戦いを起こすために必要な人材を集めるとして実際にどこからどの程度召集するべきなのか、とかね」
つい先程まで行われていた上層部会議、それを終えたばかりだというのにすぐ別の会議をすると言い出す彼女にラプラスは更に疑問が浮かんだ。だが、これから行うのは先程総帥からの意向により定まった『組織のこれから』について、より具体的で現実的な決め事をしていくのだという。詰まるところ、実際に部下たちがそれらを行動に移すための詳しい指示なんかをこれから下していくということなんだろうな。
「なるほどな……よーし、そういうことならもうちょっとだけ頑張るとするか!吾輩もその会議に参加した方が良いだろ?」
それを理解したラプラスは『納得した』という意思を込め、軽く頷いた。そして凝り固まった身体の筋をぐぐーっと伸ばすように反らし、これから再び続くであろうデスクワークに対し負けない熱意を示す。
「あ、別にラプは居なくてもいいわよ?」
……しかし、そう意気込んだ悪魔に彼女はサラッとそう言い放った。
「へ?」
「これから話すことは色々細かい事になるし、きっと時間的にも結構かかっちゃうと思うの……でもラプ、そういうの苦手でしょ?だからいつもみたいに先に部屋に戻ってていいわ。大丈夫、心配しなくても後はこっちでちゃんとやっておくから」
全くの悪意無く、むしろ相手の為を思っての発言。こういった難しい話を長々とされたり、窮屈な椅子に長時間拘束されることを総帥が何よりも嫌うと理解している大幹部。故に、既に自身の考えを話してくれたということだけで十分であり、後は自分達下っ端がやるべき雑務であるとルイは考えていた。……その実が、確かに退屈な会議が苦手だとしても……皆が話し合いをしていて、自分だけが仲間外れにされることに少女が寂しさを感じているとは知らずに。
「え、あ……」
ただ純粋に、善意のみでそう言ってくれる彼女にラプラスは返す言葉が見つからなかった。ここで変に残りたがることは〖ラプラス〗としては少々不自然なことであり、憚られる行為である。加えて、もし仮に彼女たちが自分達だけで話したいことがあるのだとしたら、そういう機会を奪ってしまうのはあまり良い事とは言えない。……だからこれは、本当に仕方の無いことなんだ。
「…………う、うん……そっか、気遣ってくれてありがとう…………吾輩、要らないか……」
自分を想ってくれるルイに悪魔は礼を言いつつ、最後の言葉は誰にも届くことはない。仕方が無かったと自分を正当化し、内心浮かんでしまった寂しさは奥底へと無理矢理しまい込む。
そうして結局、会議室に居た五人の内総帥だけがその場を後にしたのだった。
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円形に並ぶ五つの席を四つ程埋めた、悪の組織の秘密企て室。今ここに、もはや何度目になるかわからぬ『秘密結社holoX四天王会議』が開かれていた。
「……ここに残っている皆に、私から話しておかなきゃいけない大事な話があるわ。……これは、今後のholoXの存続にすら関わることだから」
両手で腕組みをし、加えて両足を重ねて座席に腰かける女大幹部。総帥が退出したこの場において、彼女こそが最も位が高くそして最も広い発言権を有している者であった。
「holoXの存続とは、随分と仰々しいでござるな……一体なんでござる?」
「……まあ、一言で言えば”この組織の脆弱性について”かしら。今回の騒動を経て私達に足りないものが色々と露見したわけだし」
その場にいた他の四天王たちを代表し、議題を持ち出した張本人にその真意を問う風真いろは。そして、そんな彼女を含めた全員に呼び掛けるようにして鷹はこう話を切り出す。
「私達秘密結社holoXにおける、無視できない程大きな脆弱性……それは、”大幅な戦力の偏り”よ」
仕事が出来る女の、ハッキリと言い切る言葉には妙な説得力があった。
「……なるほど、ルイ姉が何の話をしたいのかわかったよ。つまり、さっき僕が言ってたような『ラプちゃんやいろはちゃんやクロたんがいるから大丈夫』っていう状態自体が良くないんじゃないかって言いたいんでしょ?」
「ええ、その通りだわこより。これだけ大きく成長した組織において、過度な戦力や負担の偏りはあまり好ましいとは言えない……いえ、むしろ最優先で対処すべきことだと私は考えている。本来、完璧な集団組織というのは構成員同士が出来る出来ないを補完し合える状態であるべきなの」
大幹部鷹嶺ルイの提唱する秘密結社holoXの弱み、それは組織内の各分野における力の大きすぎる偏りであった。例を挙げれば、純粋な戦力で言えば総帥ラプラス・ダークネスか用心棒風真いろはに、研究分野における仕事量で言えば科学者博衣こよりに、holoXは無視できない程大きく傾いているのである。それは一強が居るという意味では非常に心強いものの、集団でそれを見た時途端に酷く脆いもののように感じられる。故に、彼女はその問題をいち早く解決するべきだと思っていたのだ。
……しかし、そんなルイの意見にも当然の様に反論が出ることもある。
「ちょっとこんこよさ、その二人の並びに沙花叉を入れないでよ。私にラプラスやいろはちゃんと同じようなことが出来るわけないでしょ。……それに、それってそんなに問題視すること?確かにそういう事実があるのは認めるケド、強い人材がいるに越したことは無いじゃん。実際戦闘はいろはちゃん、発明はこんこよ、指揮はルイ姉で回ってるわけだし」
そう言うクロヱの意見もまた、理解のできるものではあった。現状、holoXはこれまでのやり方で順調に勢力を伸ばすことが出来ていた。それは総帥の導きによるものが大半であろうが、それでもそれに付随して働いてくれる優秀な彼女たちの存在があったからなのは疑いようのない事実である。そして、それがあったからこその今の秘密結社holoXなのだ。
だが、それも先日の一件で限界を迎えつつあるのではないかと私は思っていた。人員が溢れ、兵力が飽和した集団組織。だからこそ、頭一つ抜けた光る何かを持つ者は優遇される。そして、優遇されるからこそ更なる責任や負担を抱えることになってしまうのではないだろうか。加えて、結成当初から各分野の前線を走り続けるのが身内だけというのもあまりよい状況とは言えない。
「……いいえ、これだけ成長した組織で私達の名前しか上がらない事自体が良くないわ。私達は個人ではなく集団組織、ならば各分野の負担は出来るだけ分け合い均衡が保てている状態こそが好ましい。でないと、先日のような非常事態に私達は対処できなくなってしまう。……それに、なによりこれを最初に問題視したのは総帥自身なの」
ルイの発したその一言により、聞いていた者達の目付きが急激に移ろった。
「うん、絶対問題でしょ。誰かに頼り切るなんて良くないに決まってるじゃん。ルイ姉早く、その問題だか脆弱性だかを解決する方法を……いやていうか、沙花叉が何をしたらいいのかを教えて早く」
ラプラスの名前が出た途端、その手の平を返したように態度が豹変するクロヱを見てルイは若干の苦笑を漏らす。しかし、彼女の意見はどうあれ総帥がこれを問題視していたのは事実であった。中枢指令室にてクロヱ及び暗殺部門が宝鐘海賊団に捕らえられたと知った時、彼女はその救出に向かうメンバーを選抜する際に表情に陰りを見せた。それは潜入任務等のエキスパートである彼らを、更にはholoXの二大戦力であるあのクロヱを下した宝鐘海賊団にぶつけるのにふさわしい人材が不足していたからである。現に私もその適任としていろはの名前しか上げることが出来ず、その選べる択が少ないことが問題になっていた。……もし、仮にあの時、いろは以外の他の選択肢を私が用意できていたのなら……もしかしたら、総帥自らが作戦地域に赴くようなことにもならなかったのかもしれない。
「逸る気持ちは分かるけど、落ち着いてクロヱ。……あの時、もし他にクロヱ達を助けに行くのに適した人材がいれば、ラプがわざわざその負担を背負う必要はなかった。そして、その必要が無けなれば恐らく私達は宝鐘海賊団の奇襲という非常事態にも対処出来ていたはずなの。……何故なら、その場合本部にはあの子が居るということになるから」
ルイがこの課題を思い立ったのは、まさにその”仮の未来”に気が付いた時であった。あの場にいろはが、或いはそれに準じた人材がいれば。そして奇襲を受けた際、そこにあの総帥が居てくれたのならば。これらの問題はきっと、もっと丸く収まっていたのではないだろうか。例え今回の結果が総帥ラプラス・ダークネスの想定内であったとしても、或いは彼女もまた他に道が無かったからこそこの結末を選んだのではないだろうか。
「……よって、今回の失態を省みて私が必要だと思ったのはまず何よりも『組織の強化』に注力すること。勿論それは今までにもやってきたことだけど、これからは組織の拡大だけを重視していた人員の補充ではなく、より優秀で使える人材を得られるようにしていきたい。それはスカウトだって構わないし、後進育成という手もあるわ」
より強大で、より実力の高い人材の獲得。ラプラスへの忠誠や忠義は前提として、今後も変わらず下されるであろう総帥の指示に100%応えられるような者たちがもっと多く必要なのだ。それは優秀な人員をヘッドハンティングするというのも一つの方法であるし、今この瞬間にもこのholoX内で働いてくれているholoXer達をより教育したり強化することでもそれは叶うことである。ともかく、私はそういった努力を総帥が気にも留めぬほど当たり前に行えるようにしていきたいのだ。
「後進育成……つまり、日々の鍛錬をもっと頑張ろうってことでござるなっ!」
「いや、そーゆう単純な話じゃないでしょ。”努力だけ”じゃいろはちゃんみたいになれないのは沙花叉が証明してるわけだし、そもそもそーゆー才能がない人にはどう教育したって無駄だって。……だから、せめて最強ちゃんの足下に及べるぐらいに皆の戦力水準を上げる方法を考えるべきでしょ。いや無理くない?」
「そんなの、やってみないと分からないでござるよ。かざま隊にだってつよつよな人達も居るし、もっといっぱい頑張ればきっとルイ姉が納得するくらいの人材も出てくるはずでござる!」
「……脳筋め……」
後進育成と聞き自分なりの回答を示すいろは。だが、それを否定するようにクロヱは悪態をついていた。まあ確かに、私自身も努力のみでいろはのような強者が生まれるとは思っていないが……それでも、彼女や沙花叉の持つ”技術”を他の者達に伝授することで多少の変化はあるんじゃないかと思っている。だからこそいろはが『強くなるには訓練が必要だ』というのであれば、多少予算を割いてでもそれに力を注ぐのもやぶさかではない。
「る、ルイ姉、僕はっ?……僕は、みんなの為に何をしたらいい…?」
「うーん、そうねぇ……こよりなら、例えば一般戦闘員向けの新兵器を作ってみるっていうのはどう?クロヱの言う通り、私もその人の持つ能力は生まれ持っての才覚が大いに関係していると思ってる。けど、そういう足りないところを補えるものこそが道具であり、ここで言うところの『兵器』じゃないかしら。しかも、それは私達の中じゃあなたにしか出来ないアプローチの仕方でしょ?」
「新、兵器……そういえば、ずっと作ろうと思ってたものがあるんだよね。予算の兼ね合いと優先度的に後回しにしてたんだけど……今こそ作ってみようかなっ」
そう言うこよりには、彼女なりの考えがあるようであった。私は最近のこよりを見ていると、本当に胸を締め付けられるような気持ちにさせられる。この子は普段から、私から見ても頑張り過ぎなくらい一生懸命で真剣に業務に取り組んでくれている。その結果彼女の存在はこの組織を支える大きな支柱の役割をしており、現にもし彼女が抜ければ対策も虚しく即座にholoXは瓦解することになるだろう。それだけ、こよりの存在は大きくまた本人もそれに応えようと必死なのだ。……だが、ここ最近では噛み合わせの悪いことに彼女の目まぐるしい努力が報われない場面が多すぎるように感じる。勿論、鬼の幹部としては総帥の希望に添えないのであればどんな努力も無駄だと一蹴しなければならない時もある。だが一人の仲間としては、どうにかこよりの頑張りが正当に評価されて欲しいと思う限りなのだ。今日も何故か”ラプを見た途端”委縮してしまっていたようだけど……せめて、これから彼女がやろうとしている頑張りがあの子の望みに沿えることを願うばかりである。
「……まあとにかく、そういうわけだから皆にはさっき総帥から話されたことに追加して私が今言った事をやって欲しいの。ラプが今後のholoXの指針を示してくれた以上、あの子はこれから何かを始めようとしている。ならば私達は、総帥が何を言い出してもそれを実行できるように備える必要があるわ」
総帥ラプラス・ダークネスの居ぬ間に行われる、彼女を慕うばかりの者達の会合。そこで彼女らは、これから訪れるであろう『何か』に備えるべきだと唱える。それがどれだけ大きく、無謀な事であろうとも……彼女が望むのであれば、それを叶えることこそが自分達の役割であるから。
「ちょうどいい機会ね。ラプからあなた達の休暇を作って欲しいと言われていたし、今一度組織の制度を見直していきましょう。宝鐘海賊団の本部があるという星を見つけるまでの束の間に、holoXを一新させるわ」
この広大な宇宙から手掛かりはあれどたった一つの惑星を見つけるまでには、それ相応の時間がかかるだろう。ならば、此度生まれたこの時間をうまく使わない手はない。暫くはholoX本部内からの人員の放出を制限し、今できる最大の備えを用意する。戦闘員を鍛え、武器を生産し、体制を整える。それで、もしほんの少しでも総帥からの信頼を取り戻すことが出来たのならば儲けものだろう。
「所謂、修業期間ってことでござるな……風真もこの機会に鍛錬を積み直すでござるか。日々の努力が強靭な肉体を作り出す!的なね」
「今以上に強くなったら、いよいよ化け物の類でしょ。……まあでも、お休み貰えるのはいいよね。合法的にサボれるじゃ~ん♪」
「いやあくまで戦略的な休暇でしょ?ラプちゃんは優しいからこよたちに休みをくれたんだろうけど……それでも、それをどう使うかは僕たち次第なんだから」
指針、備え、休暇……彼女たちもまた、それぞれの要素に想いを巡らせていることだろう。しかしあの子が指摘し、私が提起した以上これらはholoX全体でこなさなければならない絶対の課題となる。これを僅かな時間の中で、総帥が満足するまで可能な限り現実に近づけていくのだ。……そして、その指揮をとり彼女たちをまとめることこそが私の役目である。
「まあ、あなた達以外のholoXer達にも休みはあげるし、それを定期的に設けるようにもラプ言われているわ。どう過ごすかは個人の自由だけれど、あまり思い詰め過ぎず偶には羽を伸ばすこと。いいわね?…………さて。それじゃあここまでの話を踏まえて、具体的な行動について話しましょうか。何をするにも必要な手順と予算や人手の調整がいるわけだし」
彼女、大幹部鷹嶺ルイはそう言って頭を切り替える。こうしたい、ああしたい、これをやるべき、本来そう口にするだけが私達の仕事では無く、それを実際に行動に移すことこそが我々下っ端の業務である。あの子の望みを叶えるために、まずは誰がどうやって『その星』を見つけるのか段取りを組みましょうか。
そうして、総帥が去った後の会議室でもまた彼女たちの長い話し合いが続いて行くのであった。
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「……ねぇ、ちょっといい?」
正午。朝から続いた会議と言う名の業務をようやく終え、他の者達がテキパキと撤収していった後。同じく通常業務に戻るところであっただろう彼女に私は声をかけた。
「なに?どうしたのクロたん」
これだけ人の溢れたアジト内でも数少ない、ほとんど人気の無い廊下。その先に続く部屋の性質上他の構成員達は近寄らず、現に皆が去った後のこの場所は文字通り私と彼女の二人だけであった。
「あのさ、少し相談……いや、頼みがあるんだけど」
私が『相談』という言葉を口にした時、何故か彼女は一瞬悲痛そうな表情を浮かべた。何かの地雷か?と即座に察した私は言い方を改め、相手が余計な気持ちに翻弄される前にとこちらの本題を持ち出した。
「――――”こより”、お願い。……沙花叉に、新しい武器を作って欲しい」
出来るだけ真剣に、真っ直ぐ彼女を見て、私はハッキリとそう言った。
「……新しい、武器?……そんなの無くたって、クロたんは戦えるでしょ」
しかし、私の普段の態度が祟ってか彼女はあまり乗り気では無いようだった。その言い方から多少なりともこちらの誠意は伝わっているようだが、それでもその必要性を相手は感じていないらしい。
「うん。そりゃあんたや、他の一般のholoXer達と比べたらね。……でも、それじゃ足りないの」
だが、私自身はその必要性を大いに感じている。先日の一件を通し、またこれから起こるであろう多くの事象に対し、私は自身の無力さを痛感した。holoX二大戦力などと呼称されるには、あまりにも滑稽で度し難い。私を見つけてくれたあの人の役に立つためには、今の自分のままではいられないのだ。
「……報告書にも書いてあったでしょ。私はあの船の中で、今うちで匿ってる湊あくあと戦闘になったって」
「そうらしいね。それでクロたんはその戦いの中であの子を拘束して、その後ラプちゃんの指示で逃走を補助したんでしょ?なら最終的な結果どうあれ、過程を見ればクロたんは相手との戦いに勝ててるじゃん」
「いや、そうじゃないの。……アイツは、私との戦いに思いっきり手を抜いてた。詳しいことは本人たちから聞いてないから知らないけど、あの時のあくあはラプラスと結託して何かを企んでたんだよ。私はその過程で戦う相手に宛がわれただけで、本気の戦闘にはなってない」
海賊船内の長い廊下でやつと鉢合わせた時、既に私以外の二人は何かを通じ合っている様子だった。恐らくは敵対している相手として、ちゃんとぶつかり合っているという”体”が必要だったのだろう。だからあの時のラプラスは無理だと分かっている無謀な作戦を言い出し、それを私に強要した。何故ならあの戦いの本質は勝ち負けにあるのではなく、その過程が、その事実が、その姿勢が必要だっただけであり、現にラプラスはその場を見逃され現在の結果を招いている。
……けど、本当の問題はそこじゃない。私が今訴えたいのは、例え見せかけだけの戦いだったとしてもあの時私は”本気で戦っていた”という事実だ。相手には端から私を殺す気が無かった、そして私自身もまたラプラスの命令で相手を殺すことが許されなかった。だが、それでも私は本気で戦っていた。彼女を前にし、一切の油断なく全身全霊で戦闘に身を注いでいた。仮に監禁明けで本調子では無く、更に武器も制限された狭い空間内での不利な戦闘だったとしても……私はその時出せる最大限を、彼女にぶつけていた。
……そして、その上で大きく手を抜かれた相手に勝ってしまったという現実に私は耐えられなかった。
「もし、あの時あくあが本気で私を殺そうとしてたのなら……今ここに沙花叉は居られなかった。相手が有利な状況だとか、備えが無かったからとか、そんな言い訳は関係ない。私の努力も、誓いも積み重ねも……今この瞬間、ラプラスに求められて力を発揮できないようじゃ意味が無いの」
あの人の役に立ちたい、それが私の願いだった。私を見つけてくれた、私を救ってくれたあの人に、私は報いたい。けれど、そんなラプラスにいざ求められた時その期待に十分に応えられないようじゃ私の願いには何の意味も無い。いついかなる時でもあの人の、総帥の望みに沿えぬようじゃ沙花叉クロヱの存在価値など無いに等しいのだ。
「それに、それだけじゃない。……ラプラスはこれからあのホロベーダーと戦う事になるって言ってた。でも、今の沙花叉じゃ何体も同時に相手にすることなんて出来ない。技術も、火力も、手数も、今の私じゃ何もかもが足りないの」
「……だから、こよに新しい武器を作ってもらって強くなりたいって?足りない火力と手数を道具で補って、ラプちゃんの為に戦えるようになりたいってこと?」
「そう!勿論自分でもできることをするし、訓練だって……前みたいにするつもりでいる。この”技術”だけは、いろはちゃんに唯一勝てるものだから」
似た役割を持つ相手として、私はいろはちゃんにありとあらゆる分野で負けている。戦う強さは当然のことながら、走る速さや跳べる高さだって私は一度も彼女に勝てたことが無い。……だが、それでも暗殺に付随する『掃除屋としての技術』だけは負けていない。棒切れ一本で大抵のことを解決できちゃう彼女であっても、求められるものによっては沙花叉の方が相応しい場合だってある。従って、後はあの巨大な生物にも打ち勝てる力と手段さえあれば、私だって少なくともあの子の足元くらいには及べるはずなのだ。
「……だから、お願い……私にこよりの力を貸して」
そう言って、沙花叉は頭を深々と下げた。ラプラス以外には滅多に見せない謙った態度で、誠実に相手に懇願する。自身の弱さを理解しているからこそ、こういう時だけは本心からの言葉を伝えるよう心掛けていた。
「……はぁ……ホント、勝手なこと言うんだから……」
そんな私に対し、彼女はため息をつきながらそう言った。その言葉にどんな意図があったのかはわからないが、『勝手なこと』と言うあたり私の願いに対し何か思うところがあることだけは分かってしまう。
「……ねぇクロたん、先に誤解の無いように言っておくんだけど……僕はラプちゃんの為になるなら、そのための協力は惜しまないつもりだよ。理由はどんなでも、クロたんがラプちゃんの為に行動するって言うならこよの力なんていくらでも貸してあげる。だって僕のこれは総帥の、”みんな”のためのモノだから」
私からの願いを受け、彼女は口を開く。まず大前提として、博衣こより自身もまたあのラプラス・ダークネスの為ならばその協力は全く惜しむつもりは無いと。
「それに、全部は無理でも少しはクロたんの気持ちもわかってあげられると思う。僕は元々戦えないし、昔はいろはちゃんやクロたんみたいになりたくてそういう道具も作ってたぐらいだから。……誰かと比べて、酷く劣って見える自分が嫌になるのはよくわかるよ」
その言葉は、恐らく彼女にとっての永遠の課題だったのだろう。私は良く知っている、彼女が私や他の皆と比べて自分が圧倒的に非力で劣っていると思い込み嘆いていることを。初めて出会った時からずっと、博衣こよりは自分の弱さを恨み強さを求めていた。自分に自信が持てなくて、なのにラプラスや皆からは必要だって優しくされて、その狭間で彼女が無力さに苦しんでいたことを私は知っている。……必死に強がる彼女を見て、私は昔の自分の姿と重なり随分と嫌な思いをしたっけ。
「……だからね、本音を言うならその珍しいクロたんからのお願いを僕は叶えてあげたい。それがラプちゃんやみんなの役に立つって言うなら尚更ね。……でも、ごめん。こよはそれを直ぐに『いいよ』って答えてあげられないの」
長い前置きを経て、それでも私からの要望を即座に肯定は出来ないと彼女は言い放った。
「……理由は?」
「単純な話。武器……いや、新しい『兵器』を作るって言うならまずはラプちゃんとルイ姉の許可を取らないといけないでしょ。それにクロたんの言うようなホロベーダーに通用する程の火力を持つ兵器ならそれ相応の予算も掛かるし、開発や試行錯誤をする時間もかかる。でもこよの持つ頭脳や時間は全部ラプちゃんに捧げてるものだから、僕が勝手な判断で使ったりはできないの」
それは、もっともな意見だった。博衣こよりの持つ圧倒的な頭脳も、それを現実に具現化させる時間も、加えてそれに掛かる費用さえも全ては本人の裁量だけで扱えるものでは無い。彼女が組織に、あの総帥に身を捧げている以上それらはholoXに帰属しているものなのだ。であれば、彼女の言う通り私達だけで決められるものでは無いのだろう。
しかし、それならば……。
「……なら、ラプラスやルイ姉の許可を貰ったら作ってくれる?もし予算が問題になるって言うなら沙花叉の給料から出してもいいし、こんこよが忙しいって言うなら私も協力するから……」
「いや、クロたん自分のお金いつも全部娯楽街で使っちゃってるんでしょ?それに協力って言ったって、クロたんにもやらなきゃいけないことがあるじゃん。総帥の為に強くなるっていうのは大事だけど、それでラプちゃんやルイ姉からの指示を聞けないなんて本末転倒になっちゃうよ」
「ッ……それは、そうだけど……」
正論しかない彼女の言葉に、私は何も言い返せなかった。いくら普段不真面目で居るからと言っても、腐っても私はholoXの四天王の末席に座る掃除屋沙花叉クロヱなのだ。であれば当然それに準じた業務があるわけで、更に言えばこれから鷹嶺ルイはうちに大きな変革をもたらそうとしているらしい。そんな忙しいときに、いつも真剣に働いていない沙花叉がどの面下げて自分の要望を聞いてもらおうというのか。
「…………」
帰す言葉が見つからず、反論も思いつかない私は口を紡いでしまった。これからのことを考えれば、自分自身の強化は絶対に必要になる事だ。だが、今の沙花叉にはその手段も、それを誰かに協力して貰える口実も持ち合わせていない。日々の仕事すらまともにこなさない私には、誰かの時間を奪う資格などあるはずが無いのだ。
身の程も弁えず、あまつさえ自分の望みだけを口にしてしまったクロヱは自責を通り越して恥ずかしさすら感じていた。もはや真っ直ぐ相手を見ることすら憚られて、何も言えず只々俯いてしまう。
……しかし、そんな怠惰な私に優しい彼女は少しばかりの優しさを見せてくれた。
「……はぁ~……もうクロたん、調子狂っちゃうよ。どうしたの?いつものクロたんならもっと強気に、グイグイくるじゃん。…………でも、そっか。あのクロたんがそんなに思い詰めるくらい今回は真剣だってことだよね」
「……こんこよ……?」
下を向いていた私に寄り添うように、僅かに彼女の声音が和らいだのが分かった。
「ねぇクロたん、まずはさっきも言った通り二人にちゃんと話を通してきて。予算なら僕も折半してあげるし、その為にちゃんと開発計画も立ててあげるから」
「ッ!」
「……だから、クロたんは総帥やルイ姉に言われた仕事をちゃんとやって。その上できちんと頼んだら、きっと二人もいいよって言ってくれると思うから。……大丈夫、もしそれでもダメって言われたら僕も一緒にお願いしに行くよ」
そう言って、こよちゃんは私に微笑んだ。いつも二人だけの時はいがみ合ったりする間柄の彼女が、今ばかりは私を気遣ってくれているのだ。……その事実に、沙花叉は言葉にならない喜びの感情が沸き上がる。
「あっ、でもこれだけは約束して?――――戦えない僕の分まで、ちゃんとラプちゃんを守るって」
こよちゃんは一瞬だけ見せた笑顔を直ぐにしまって、今度は至極真面目な表情を浮かべる。またそう言いながら、スッとこちらに右手の小指を差し出してきた。
「……なに、その手」
「これ?これはね、ラプちゃんが教えてくれたおまじない。お互いの指を絡ませて、絶対約束を守るっていう誓いを立てるんだって。……さっき僕が言った事、守ってくれるって言うなら今ここでちゃんと約束して」
それは、彼女なりの最大限の譲歩だったのだろう。現に、ただ望むだけの私にこよちゃんは手を差し伸べ、それを実現させる協力をしてくれると言ってくれた。であれば、今沙花叉がすべきことは一つしかない。彼女の底知れぬ優しさに応えるために、私は私に出来ることをするのみである
「―――――わかった。……それ、何があっても絶対に守るから」
私はそう言って、そっと彼女の小指に指を絡めたのだった。