転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
今回はシリアスかつ急展開な感じとなっておりますので、好みが分かれるかと思います。しかし、それは今後の展開の為ですので安心してご覧ください。
それと、実は先日この『転ラプ』シリーズに関する感想コメントを数件頂きました。本当に嬉しくて、スクショして毎日見てます()。"高評価"を付けていただけるだけでも励みになりますので、良かったらお願い致します。
【追記】
前回に引き続き、今回も設定を深堀していきますよ!
今回のテーマは『パラレル世界のholoXの役職と部門』についてです。ストーリー上で何回か出てきているholoXの部門や四天王たちの役職についてなのですが、結構分かりづらいと思うのでここで解説していきます。
まず初めに、holoXの最高指揮官である"総帥"【ラプラス・ダークネス】がいます。
その下にはholoXの実務などの実質的統括を行っている"大幹部"【鷹嶺ルイ】さんがいます。ただの幹部から出世して大幹部となりました。holoXが大きくなっているので当然ですね。(未だにラプラスからは幹部と呼ばれている)
また、同時に雑務部門の代表もしています。holoXで役職の肩書きが二つあるのはルイ姉だけです。ちなみに雑務部門の構成員のほとんどが【ルイ友】です。
次に、四天王の一人である"研究部門代表"【博衣こより】です。彼女は『holoXの頭脳』や『博士』などとラプラスから呼ばれていますが、それは役職の名前ではなくこよりのポテンシャルからくる二つ名の様なものなのでholoX内での正しい肩書名はこちらとなっております。
また、holoXには科学関係の部門として技術部門・建設部門・開発部門・生物部門・微生物部門・医療部門・健康保険部門・衛生管理部門・食事栄養管理部門・危険物取扱部門などがあります。それぞれにちゃんと代表がいるのですが、こよちゃんが優秀過ぎてそれらの仕事もやってたりします。これら全てに精通しているなら、確かに一人で世界征服できそうですね……。
残りの四天王二人については、それぞれ"戦闘斥候部門代表"【風真いろは】と"暗殺部門代表"【沙花叉クロヱ】となっています。ラプちゃんは二人のことを『用心棒・侍』や『掃除屋・新人・インターン』なんて呼んでいますが、こちらも正しい肩書名ではなく通り名みたいな感じです。また、戦闘斥候部門には【かざま隊】、暗殺部門には【飼育員】がそれぞれ多く配属されているようです。詳しいことはまた今後分かってくるかもしれませんね。
最後に余談なのですが"四天王直下の部門"、及び"総帥のお世話係"あたりの仕事がholoX内では大人気なのだそうです。推しの下で働けるなんて最高ですよねっ!
何処までも続く大自然。
その上を、時代にあまりにもそぐわない無数の金属の塊が飛んで行く。
今吾輩たちは、holoXの技術部門が開発した『飛空車(ひくうしゃ)』と呼ばれる一言でいえば『空を飛ぶ馬車』のような乗り物に乗っている。飛空車は比較的短距離(惑星内の半分程度)を移動するために作られた、素速いかつ少人数を乗せるために作られたモノである。なので勿論本当に馬が牽いているわけではなく、実際には動力源と羽根が付いておりそれで飛行している。
一応この車には攻撃手段が装備されている。しかし、流石に一機だけで敵陣の城に乗り込むには安全上に少々問題があった。そこで、ラプラス・博士・黒様などを乗せたメインの飛空車を取り囲むように隊列を組み、計5機で目的地であるフブキ王の治める【フレンズ国】を目指していた。
「す、すげぇ……本当に、こんな鉄の塊が空を飛んでる……」
初めて見る飛行する乗り物に、黒様は捕虜という立場でありながらも驚いている様子だった。
飛空車は運転席の後ろ側に乗員用の座席が用意されており、そこに吾輩・博士、その向かい側に黒様とその世話係の眷属という形で座っている。この車の乗員制限は十五人程なので、さほど狭いという訳でもなく他にも眷属たちが数名乗っていた。
「何言ってんだ黒、ここに来るときも宇宙船に乗ってただろ。あれも飛んでたじゃんか」
「いや、そうだけどよ……なんていうか、こう……近くに地面が見えてると、飛んでる実感がわくというか…………お前ら、やっぱり凄いんだな」
数日ぶりに会った黒様だったが、何故か吾輩に対する警戒心がかなり薄れていた。
はて、何か心境の変化でもあったのだろうか?どっちにしても、黒様と普通に話せるというだけで嬉しくなってしまう。初めて会ったときは、それはもう酷いものだったから。
「ふふん、そうでしょうとも!何たってこの飛空車の図面を引いたのは、何を隠そうこのholoXの頭脳博衣こよりなのだからっ!」
holoXの技術力に驚いている黒様に対し、徐に立ち上がったピンク色のコヨーテが自慢げに言った。確か例の男の眷属の話じゃ、コレを作ったのは技術部門のやつらだって話だったが……もしかしてこいつ、他の部門の仕事も請け負ってんのか……?
仕事ができる優秀人なのは結構だが、一応飛行機みたいなものでかなり揺れるんだから大人しく座ってろよ。
「はいはい、博士はすごいなー。危ないから、ちゃんと座っとけ」
「あー!ラプちゃん、そうやって僕を蔑ろにしていいのかー!?こよは、いじけたらちょーめんどくさいぞぉ!!」
そう言いながら、頬を膨らませたこよりが吾輩に体を寄せてきた。そんな文句を言いつつも、吾輩の隣に座れた博士は随分と嬉しそうだ。朝食の時くらいから思っていたが、この世界の博士はどうにもスキンシップが多い気がする。純粋に好かれているという事が伝わってくるので、嫌ではないが……少しばかりドギマギしてしまう。
若干の気まずさを感じ、ラプラスは話題転換をする。
「そういえば黒……その服、着てくれたんだな」
「…………流石にフブキに会うのに、適当な布切れ一枚というわけにはいかないだろ」
不満そうに言っている黒様だったが、その後ろについている尻尾が満更でもなさそうに揺れているのを吾輩は見逃さなかった。
実は宇宙船に乗る初日から黒様に洋服を渡すように眷属に言っていたのだが、本人が「洋服なんて隠れてさえいれば何でもいい」と言って包帯と布一枚を身に着けているだけだったのだ。移動中などは部屋から出るわけでもなかったのでまあいいと思ったのだが、外に出かけるとなったら流石の女の子にその格好は酷だと思った。そこで、吾輩セレクトで元の世界の黒様が着ていたような服を見繕ってもらったのだ。流石に全く同じものは用意できなかったが、黒を基調とした袖の空いている動きやすい服をチョイスした。結構気に入ってもらえているようでよかったな。
「ラプラス様!黒様はこんなことを仰ってますが、着られる際に「悪くないなぁ…」って言ってましたよっ」
「おいお前っ!余計なこと言うんじゃねぇよ!!」
そんな二人のやり取りを見て、ラプラスは少しばかり驚いてしまった。
どうやら、黒様の警戒心が薄くなったのはこの眷属の影響もあるようだ。少し抜けているところがあって心配だったが、こいつに世話係を任せて正解だったみたいだな。
「……なんだかラプちゃん、この捕虜と随分と仲良しなんだねぇ」
黒様と女眷属との会話を和やかな気持ちで見ていると、突然博士が小声でそんなことを言ってきた。
黒様とは、確かに少しはこちらと会話をしてくれるようになってきたが……だからと言って仲がいいわけではない。あくまで総帥とその捕虜という関係だ。
「えっ?いや、別に仲がいいってわけじゃないぞ。ただ、ちょっと……気に掛けてるだけだ」
「………………ふうん……そうなんだぁ……」
吾輩が黒様との関係について答えると、博士が今までに聞いたことも無いような低く冷たい声で言った。その声色にゾッとして、こよりの方を見る。すると、向こうもこっちに気が付いて直ぐにパッと表情を明るくして見せた。
「んー?どうしたのラプちゃん♪そんなに見つめられると、照れちゃうよぉ」
「…………いや、別になんでもないぞ……」
ほんの一瞬だったが、こよりが酷く冷めたような顔をしていたのが見えた。
その表情に、吾輩は見覚えが無くて…………まるで、この目の前の人物がラプラスの知っている”博衣こより”と全く別人に思えてしまった。
……………それが急に怖くなり、吾輩はそれを見なかったことにしてしまった。
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拠点を出発してから小一時間ほどで目的地に辿り着いた。
フレンズ国に近づくにつれ、黒様が「ここ……見覚えあるぞ……」と言っていたので間違いなさそうだ。
国境を越えて最初に見えた街の第一印象は、古代中国と和の合体した街並みといった感じだった。歴史書なんかで見覚えのある江戸の町のような建築様式なのだが、何処か外国にいるような独特な雰囲気も醸し出している。まるで、鎖国していた日本が霊力という不思議な力を授かり、独自の発展を遂げたような……そんな感じだった。
恐らく首都であろうと思われる街の上空に差し掛かったあたりで、黒様が一つの建物群を指差した。
そこには大きな和風の城が真ん中に立っており、その屋根は瓦造りで天辺には小さな狐の置物が飾り付けられていた。本殿と思われるそれの周りには別邸などの小さめな建物も立っており、その近くには大きな池なんかも見えた。そして、それらの後ろに見える山の一部を取り囲むようにして塀が建てられていた。
「あの街の奥の方にある、一番デカい建物がフブキのいる城だ。広い中庭があるから、そこになら降りられると思う」
黒様にそう言われ、吾輩は車を操縦している眷属にそれに従うように指示を出す。
他の機体に本殿から少し離れた上空で待機させるように命令し、ラプラスたちを乗せていたメイン機だけが城の敷地内と思われる開けた場所に降下していく。すると、城内と中庭を繋いでいると思われる門から数名の獣人たちが現れた。飛空車の窓から外を眺めていた吾輩は、その中に見覚えのある人物を発見して内心テンションが上がった。
飛空車が完全に着陸したことを確認し、ラプラス・博士・黒上フブキ・世話係の眷属・いつもの男の眷属とその部下二人の計七名が船から降りる。すると、それらを迎え出るように獣人たちが一列に並んでいた。
そして、その中の一人がこちらに近づいてきて膝をつき頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました。私は獣人部隊で隊長をしております、【大神ミオ】と申します」
そう名乗った狼型の獣人は、吾輩の良く知るミオ先輩そのものであった。服装すら元の世界の先輩のイメージと遜色のない黒い和服に、犬科の大きな耳と黄色い半月型の髪飾りを付けていた。
「ミオっ!良かった……お前、無事だったんだなっ!!」
「っ!!…………黒ちゃん……黒ちゃんも、無事でよかった……」
船から降りた黒様が、ミオ先輩を見つけた途端傍に駆けて行った。その感動的な再開に、二人の関係を知る吾輩だけが胸を熱くした。黒様がフブキ先輩と親友ならば、その友達であるミオ先輩ともまた友好的であったはずだ。その二人が久しぶりに会えたのなら、それだけで嬉しくなってしまうものだ。
……しかし、何故だろう……なんか、ミオ先輩があんまり喜んでいないように見える。どちらかというと、悲しそうな顔をしているというか……吾輩の勘違いか?
そんな吾輩の考えをよそに、こちらの視線に気が付いたミオ先輩が向き直る。
「初めましてだな、大神ミオ。昨日送った手紙は読んだか?」
しかしその顔は冷めきっていて、吾輩を確実に敵視しているものだった。
ラプラスはその表情に若干のショックを受けつつも、holoXの総帥としての体面を保つ。これは、我々が彼女らにしてしまったことへの代償なのだから、受け入れなくては……。
「……はい、拝見しました。うちの黒がお世話になったそうで…………貴方が、ラプラス・ダークネス様ですか?」
「ああ、そうだ。手紙に書いてあったと思うが、今日はフブキ王に会いに来た」
そういえば、この場にフブキ先輩の姿が見えないな。こっちの目的は知ってるはずだし、それに普通敗戦国に勝者側の代表が会いに来るって言ったら王様が出迎えるのが礼儀じゃないのか?まあ別に、吾輩はそういう細かいことは気にしないけど……。
「……そういえば、フブキ王は何処にいるんですかー?狐型の獣人って聞いてたんですけど、姿が見えないですよね?私たちの代表がわざわざ会いに来てあげているというのに、肝心の王が出迎えに来ないなんてちょっとおかしな話じゃないです?舐めてるんですか?我々holoXのことを」
吾輩が疑問に思っていたことを、博士が代わりに言ってくれた。でもこより、その言い方はちょっと刺がないか?折角黒様とも少しずつ和解できてきたんだから、出来ればミオ先輩とかとも仲良くしたい。だからそんな攻撃的なこと言うなよ……。
「博士、吾輩は別に気にしてない。余計なことを言うな」
「……はーい、総帥」
博士の発言に対し、ラプラスは軽く叱咤する。すると、いつものふざけた様子とは違った真面目な態度でそれを聞き入れる。博士は、こういうところのメリハリはきちんと区別してくれている。聞き分けもいいし、察しもいいな。
「うちの奴が失礼したな。戯言として流してもらえると助かる」
ラプラスが部下の発言に対する謝罪をすると、ミオ先輩が気にしていないといった様子で首を横に振った。
「いえ、構いませんよ。それに、貴方々がここに来た理由は存じております。………………ですが」
しかしそこまで言って、何故かミオ先輩が吾輩たちから少し離れた。
どうしたのだろうと思って見ていると、突然その場で右手の人差し指を上に突き上げた。
「…………ですが、我らの王は貴方達に会う気は無いそうです」
そう言ったミオ先輩が、同時に空へと赤い霊力の弾を撃ち上げた。
それを合図に、周りに立っていたはずの獣人たちが素早くラプラスの周りを取り囲んでくる。そして、そのまま予め準備していたらしい魔法陣の様なものに霊力を流し始めた。
「ラプちゃんっ!!離れてっ!!!」
「……へ?」
博士からその場を離れるように叫ばれるが、咄嗟のことでラプラスは反応が遅れてしまう。その間にも、ラプラスの足元に展開された魔法陣が獣人たちの霊力を受けて紫色に光だしていた。
「ラプラス様っ!お前達、直ぐにそこの獣人どもを止めよッ!」
「「は、はいっ!!」」
主人の危機を察知し、眷属の男が部下二人に指示を出す。
しかし彼らが動きだそうとしたその時、城の上空付近で大気が揺れるほどの爆発が四ヵ所同時に起こった。何事かと思い、その場にいたミオ先輩達以外の全員が空を見上げる。
「あっ!!!あ、あれ、見てくださいっ!!!」
世話係の眷属がそう叫び、先程までその他の飛空車が飛んでいた辺りを指差した。
しかし、その空には何もなく…………代わりに、煙を上げている”鉄の塊”が街の方へと落ちていくのが見えた。
「ど、どうなってるんだ……!?」
突如4機の飛空車が撃墜され、ラプラスは放心状態になる。しかし、その事実を飲み込もうとするのもつかの間に、今度は先ほどの魔法陣が完全に発動し効力を発揮させた。
それはまるで、魔法で作られた檻のようであった。標的である吾輩自体を囲うようにできたそれは、紫色でビリビリとした網目状のもので、見るからに結界の役割を果たしている。
ラプラスはそこからの脱出を図ろうと、その端に触れようとした。
「ラプちゃんっ、それに触っちゃダメだよ!!」
しかし、それを寸でのところでこよりに止められる。吾輩はこう見えても『ラプラトン星』というところの生まれであり、かなり頑丈な方だ。それを知っているはずの博士が止めるという事は……これは、あまりにも強力な結界という事だろう。
「触れなくて正解ッ!それに触ったら、痛いだけじゃ済まない余!」
ラプラスがどうしたものかと頭を悩ませていると、いきなり上空の方から声を掛けられた。その独特な語尾に聞き覚えのあったラプラスは、直ぐに上を見上げる。すると、細くて白い角の生えた”鬼”が刀を二本携えて降ってきた。
「……”百鬼……あやめ”…………」
ラプラスは、思わずつぶやいてしまった。彼女こそ、まごうこと無きホロライブの二期生【百鬼あやめ】その人であった。
どうしてこんなところに先輩がいるのか、という疑問は一旦置いておこう。それよりも、何故彼女は既に刀を抜いていて、そして空から降ってきたのか。
そのラプラスの疑問は、博士の発言によって解決する事になる。
「その霊力………貴方だね、こよの子供たちを切り墜としたのは」
「ん?あのさっきまで鬱陶しく空を飛んでたやつのことか?そうだぞっ!」
まさかとは思ったが、あの上空に飛行していた物体を四つとも同時に撃墜させたというのか。恐らく、彼女こそがこの星で最も強い戦士なのだろう。holoXのかざま隊のやつらがこの惑星を侵略していた時、どうして彼女の存在が判明していなかったのかは知らないが……これらの行動は、明らかに吾輩たちに対する攻撃行為だ。
……今更、吾輩たちと戦争でもしようというのか?
「お前は……あやめか!?一体どういうつもりなんだよ!!」
ほんの数秒の出来事に、同じく理解が追い付かないらしい黒様が叫んだ。
全く疑っていなかったが、やはり黒様はこの件に関りが無いのだろう。
「お前らの国は確か、主要国の中じゃ一番初めに降伏宣言してただろっ!今更こんなことして……holoXと戦争でも起こす気かっ!?」
吾輩の疑問を、黒様が代弁してくれる。確かに吾輩からしても、あやめ先輩たちの行動の意図がわからない。それにこれは、本当にフブキ王の意図していることなのだろうか……?
「降伏宣言は、王である父百鬼が勝手にやったことだ。余ははなから、コイツ等に屈したつもりはないぞ?……それに、別に余達も全面戦争を望んでいるわけじゃない。なっ?ミオちゃん!」
あやめ先輩がそう言いながら、ミオ先輩の方を見た。すると、ミオ先輩も頷いてその意見に同意していた。
「……私達の要求はただ一つ、貴方達holoXに私達の星から完全に手を引いてもらうこと。未来永劫この地に干渉しないという不可侵条約を結んでもらうことです」
ミオ先輩が今までに見たこと無いような、怒りに満ちた瞳を吾輩達に向けてきていた。なるほど……先輩たちは、我々holoXとの関係を完全に断ち切ることを望んでいるのか……。
正直、ここまで拒否されるとは思っていなかった。あの状態だった黒様とも、少しは心を通じ合わせられるようになってきたのだ。だからきっと、彼女達ともそうできるはずだと信じていた…………しかしそれは、とんだ思い上がりであったようだ。
でも……それも仕方のないことか。吾輩たちが先輩たちの星にしてしまったことは、きっともっと酷いことだったのだろうから。彼女たちがそれを望むなら、吾輩たちの行動の代償だと思って身を引くべきなのかもしれない……。
しかし、そんなラプラスの考えに反して、それを良しとしない者達がいた。
「……で、貴方達の言いたいことはそれだけ?もしそうなら、取るに足らない敗者の戯言だね」
あやめ先輩達の要求を吞んでも構わないと思っていたラプラスを他所に、博士率いるその場にいた眷属たち全員がその意見を否定していた。吾輩たちの後ろの方に着陸させてある飛空車に乗っている眷属たちすら、大まかな状況を理解しているらしく機体に備え付けてある銃口を先輩たちに向けていた。
「貴方達の行為は、支配者である我々holoXに対する明らかな反発行為……死ぬ覚悟ができてるってことだよね?」
「おいおいそんな物騒なこと言うな余、先に手を出してきたのはそっちだぞ?」
そう言ったこよりは、腰につけていた試験管を数本取り出して完全に臨戦態勢だ。それに対し、あやめ先輩も刀を構えている。ま、まずい……このままでは、戦いになってしまうっ!
「お、おいあやめっ!ちょっと待ってくれ!!こいつらは、そんなつもりで来たんじゃない!ちゃんと話し合いに来たんだ。手紙に書いてあっただろっ!?」
博士の行動を止めるためにラプラスが叫ぼうとすると、先に黒様があやめに声をかけてくれた。そうだ、吾輩が黒様に頼んで書いてもらった手紙にこちらの意図がちゃんと書いてあったはずだ。眷属が昨日ちゃんと届けてくれたはずなんだが……。
「ああ……うん、ミオちゃんに見させてもらって読んだ余。で、黒ちゃんが自分で書いてたじゃんか……『私は今holoXの捕虜になっていて、この手紙を書かされている。明日holoXの総帥であるラプラス・ダークネスがフブキの城に行くらしいので準備をよろしく頼む』って。これってつまり、チャンスだから罠にかける準備をしておけってことだ余ね?」
……………………どうやら、手紙の中身を確認するべきだったようだ。そういえば黒様は、かなりの口下手だったっけ……。
「はっ?……え、いや、ちがっ……そういう意味じゃなくって…………」
「……なるほど、そういう事だったの。やっぱり、捕虜なんて信用するべきじゃなかったね」
黒様の書いてしまった紛らわしすぎる手紙の内容を受け、博士が黒様に対しても敵視を始めてしまった。吾輩だけがその真実に気が付いているので、早急に事態の収拾に努める。
「は、博士、ちょっと待て!……なあ大神ミオ、百鬼あやめ聞いてくれ!吾輩たちは、もうお前達と戦うことを望んでないっ!!それを伝えるための話し合いをするつもりだったんだ!……そうだ、フブキ王を呼んでくれ!あいつに直接吾輩から話すから……」
「……誰が、敵の話をはいそうですかと聞き入れるんですか?それに……さっきも言ったでしょ、フブキは貴方達と話すつもりは無いって」
こちらの意図が誤解であったことを、必死に説明しようとする。
しかし、当の先輩たちは吾輩の言葉に耳を貸すつもりは無いらしい。このままじゃ話が平行線だ。それに、撃墜してしまった飛空車に乗っていた眷属たちのことも気になる。
ラプラスがどうしたらわかってもらえるかと考えていると、ミオ先輩の発言を受けて黒様が話し始めた。
「…………いや、それは嘘だ。ミオ、あやめ……お前ら、私達に何か隠してるだろ?あの平和主義のフブキが……どんな理由があろうとも、こんなことを良しとするはずがない」
それは、吾輩も気になっていたところだ。
ここに居ないこともそうだが、吾輩達と停戦を望んでいる割にはやり方が過激すぎだ。あの温厚で優しいフブキ先輩のやることじゃない気がする。
「黒ちゃん………ごめんね、後でちゃんと説明するかろ。今は…黙って、ウチたちに従ってほしい」
「ミオ……」
やはり、何か事情があるようだ。そうとなれば、やはり吾輩たちは話し合いをしなければならない。
……しかし、相手にそのつもりが無いのにどうすればいいのか。それに、こっちにもそうしようとしてくれないヤツがいる。
「ほら、何が違うって言うの?貴方達、やっぱりグルなんじゃん。……ラプちゃんから大神ミオには手を出さないように言われてたけど、そっちがその気なら仕方ないよね?」
そう言いながら、博士が小型の端末を取り出した。
それを片手で少し操作してから、口元に運んで話始める。
「…………『この惑星に点在する全てのholoX構成員に告ぐ。現在最高指揮官であるラプラス・ダークネスが敵性存在に捕らえられたことにより、一時的に指揮権を移行します。只今より”研究部門代表”【博衣こより】の権限で、フレンズ国のその全てに対する殲滅攻撃を命じる。ただし、現在総帥の囚われている王城のみその攻撃目標から一時除外とする。それらを、直ちに実行せよ!!』…………あなた達も、聞こえた?」
「「「 !!! YES MY DARK !!! 」」」
現在のholoXの全指揮権は、総帥であるラプラス・ダークネスにある。
しかし、普段前線に出ることの少ない吾輩に変わり現地での指揮権を一部その場の代表者に与える決まりになっている。また、ラプラス以外のholoXの初期メンバーにはそれに加え、総帥の非常事態の際にその権限を一時的に行使することが認められている。現状囚われている吾輩に変わって、博士がholoXに命令を下すことは間違ったことではない。
でも、ダメだこより……そんなこと、吾輩は望んでないっ!!!
ここで戦いになってしまったら、また悲しむ人が大勢出てきてしまう。そうしたら、もう二度と先輩たちと手を取り合うという未来はやってこない。
「ちょっとちょっと、何勝手なこと言ってるんだ余っ!ここに人質がいるの、見えないのか!?」
そう言いながら、百鬼あやめがラプラスに対して刃を突きつけた。
その光景に、博衣こよりの全身の毛が逆立ったのが傍から見ていても分かった。
「…………るな……」
「ん?なんて?」
「……こよの、大切な人に…………そんな物を、気安く向けるなっ!!!」
博士が物凄い形相で怒っていた。
それは今にも目の前の相手を、本能のままに噛み殺してしまいそうな……そんな、とても知的な科学者とは思えない、ただの『 獣 』そのものであった。
「おっ?怒っとる怒っとる……そんなにこいつが大事なら、ちゃんと大人しくしてろ余。お前たちも全員拘束するんだからなっ!」
しかし、博士のその様子を見てもあやめ先輩は怯む様子が無い。その佇まいからは、自分の強さに対する絶対的な自信が伺えた。対してこよりは、冷静ではないうえにそもそも前衛で戦える人材ではないのだ。そんなやつが、この鬼に純粋な力勝負で勝てるわけがない。それに、この星のholoXの基地から応援が来るとしても最低一時間はかかるだろう。つまり……今ここで戦いを始めてしまうことはholoXの重役二人を同時に失うだけではなく、この現状を誰も正しく本部に伝えることができなくなってしまう。
そうなれば……holoXという組織の継続すら、危ぶまれる結果となってしまうだろう。
「おい、あやめ……やめろって……ミオも、あやめに何とか言ってくれよ……」
「……ごめんね、黒ちゃん。わかって。」
今にもぶつかってしまいそうな二人を止めるために、黒様が声をかける。しかし、それは普段の黒様からは想像もできないような小さく、弱々しいものだった。きっと、感情と状況が追い付いてないんだろう。
そんなミオ先輩に見放された黒様が、今度は縋るように……吾輩の方を見つめながら呟いた。
「…………ラプラス……」
その顔には、自分の無念さからか……大粒の涙が溜まっていた。
これは、吾輩が撒いた種だ。
吾輩が黒様に頼んで手紙を書かせ、根拠もないのに白上フブキたちのことを信じきってしまった。本当は幹部にも博士にも、さりげなく忠告をされていたのだ。吾輩自らが敵陣に行くなんてことは、あまりにも危険すぎると……それを、無理やり押し切ってここまで来てしまった。この失態は、吾輩が招いたことだ。
……ならば、吾輩自身が責任を取るのが当然の条里だろ。
「今すぐ貴方を殺して、ラプちゃんをそこから出してあげる……!!」
「…………殺すなんて、そんな簡単に言うな余。お前達には、残された者達の気持ちがわからないのか?」
そう言って、両者はお互いの距離を詰める為に走り出した。
しかしその直後、いきなり上げた吾輩の悲鳴によって二人は直ぐに足を止めてしまうことになる。
「うわぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「ラ、ラプちゃんっ!?何してるのっ!!」
ラプラスは、さっきから目の前を鬱陶しく揺れていた檻に自ら手を突っ込んだのだ。それにより、まるで雷にでも打たれたような衝撃が全身を伝った。一瞬で筋肉が硬直する感覚に陥り、激痛が走る。確かにこれは、触ったらタダでは済まなそうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ…………どいつもこいつも……誰も、吾輩の話を聞かないで……!!!」
未だ残る痺れと痛みに耐えながら、ラプラスは言葉を絞り出す。
「研究部門代表、博衣こよりっ!!総帥命令だっ!!!はぁ、はぁ…………今すぐ、さっきの命令を取り下げろっ!拒否は認めない!!」
「ラプちゃんっ……なんで…………」
ラプラスの行動が理解できないこよりが、吾輩の命令に困惑する。でも、察しの良いこいつならきっとわかってくれるだろう。
ラプラスはそう思い、今度はミオ先輩とあやめ先輩の方に向き直った。
「……大神ミオ、百鬼あやめ。後生だ……吾輩は、何の抵抗もしない。大人しく捕まれと言うならそうする。…………だから、こいつらのことは見逃してくれ…………頼む。」
吾輩はそう言って、二人に頭を下げた。
この世界に来てから、何度も誰かに頭を下げられたことがあった。しかし、自分自身がそうしたのは初めてだった。
そんなラプラスの姿を見て、あやめも困惑したような表情を浮かべた。
「……って言ってるけど、ミオちゃんどうする?余は……ミオちゃんに任せる余」
そう言われたミオ先輩も、流石の吾輩の行動に驚いているようだった。
そして、少し考えてから静かにこう言った。
「…………わかりました、いいでしょう。貴方の身柄を拘束する代わりに、他の人達は見逃します」
「……恩にきる。」
吾輩がやってしまった失敗なのだから、吾輩が責任を取る。当然のことだ。
それに、愛する部下たちを巻き込むわけにはいかない。
「そういう訳だ、博士。墜落した眷属たちを拾って、今すぐ基地に帰ってくれ」
先程の結界の影響で、傷だらけになってしまったラプラスがこよりの方を見て言った。
最初は文句を言おうとしていたらしいこよりも、吾輩のその訴えかけるような目を向けられて押し黙る。
「………………『全holoX構成員に告ぐ。先程の命令は中止する。繰り返す、先程の命令は中止する。……各員、基地を最高防衛状態にして待機せよ。』……これでいい?ラプちゃん」
「ああ、怒鳴って悪かったな。……この場にいる眷属たちも、全員速やかに基地へ帰還しろ」
吾輩からの命令に対し、初めて眷属たちが不満のありそうな顔をしていた。
しかし、その指示を渋々聞い入れ帰還の準備を始める。どうやらこの場は、吾輩の顔を立てて従ってくれるらしい。
「……ラプちゃん…………ラプちゃんの命令だから、今だけは聞いてあげる。…………でも、一つだけ約束して?」
全体命令を終えた後のこよりが、悔しさを飲み込んだような顔で吾輩に言ってきた。自分の愚直な行動が、この結果を招いてしまったとでも思っているのだろうか。
そんな部下のお願いを、無下にするわけにはいかないか。
「絶対は無理だが……まあ、聞くだけなら」
「…………もし、本当に危なくなったら……”右手のそれ”を必ず外して。………それと…………絶対、助けに来るから」
そんなことを、博士が涙を流しながら言ってきた。
右手のそれって、この拘束具のことか?…………まあでも、助けに来るというなら……吾輩からも、伝えなければいけないことがある。
「ああ、わかった。なら、吾輩からも一ついいか?…………''幹部に''、『早まるな』って伝えてくれ」
その言葉を聞いて、博士がハッとした。
どうやら、吾輩の言わんとしていることを察してくれたらしい。本当に、優秀な奴だな。
その後、こよりたちが飛空車に乗り込むのを吾輩は結界の中から最後まで見届けた。その間、ミオ先輩たちは約束通りそれを何もせずにいてくれた。
ラプラスはそのことに感謝しつつ、城の地下牢へと幽閉されることになったのだった…………。
この作品にモブキャラが登場することに関して、どのように思いますか?(1番近いものに投票してください)
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特に思うことは無い
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物語が面白くなるなら出してもいい
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特定の名前などが無ければ出してもいい
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できるだけ出さないで欲しい
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絶対に出さないで欲しい