転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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※こちらは転ラプの外伝作品です。本編とは同一世界ではありますが、本筋よりは若干脱線したお話となるため名前のあるモブキャラ等が多数登場します。ホロメンや架空キャラクター同士などの絡みが苦手な方はご注意ください。また一応この外伝シリーズは本編に影響のない範囲でお話を組んでおりますので、小話程度の感覚でお楽しみ頂けると嬉しいです。


大変長らくお待たせいたしました。
筆者の私生活がだいぶ落ち着きましたので、今回よりまた活動を再開します。今後ともぜひよろしくお願い致します。


さて、今回は総帥ラプラス・ダークネスを守る私用隊として発足した秘密特殊部隊【ラプツナズ】の隊員視点でのお話になります。お相手は、先日の暗殺部門救出任務に置いてラプ様の護衛をしていた女性隊員。ラプツナズの隊員らの名前は偉い順からα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)、η(エータ)、θ(シータ)と呼ばれ、今話ではイプシロンの目線を負って行きます。
また、同時にルイ友であり”鷹嶺ルイの秘書”でもある女性が登場します。名前は【ミント】、彼女は本編でも度々登場するのですがその性格は主人とかなり近いようですね。
それでは、どうぞ本編をお楽しみください。



↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) twitter/Suiyoueki_suba



転ラプ外伝⑤ holoXerの若輩者

 

 ……秘密結社holoXは拡大を続けている。

 

 

 全構成員、総勢数百万人。それらが集う惑星型宇宙母艦の人口密度は一国の都心部に並ぶレベルに及び、規模的に見ても一つの『”国”』と言っても差し支えない程である。無論、それら全ての構成員が常にこの船に乗り込んでいるという訳ではなく、征服が済んだ各支部拠点や駐屯地にも彼ら彼女らは存在していた。

 

 

 しかし、それに伴って起こりえるのが総本部内での”土地不足”である。ここは広大な宇宙を漂う巨大な宇宙船、ともすれば活用できる敷地には限りがあった。しかも組織全体が偉大なる総帥に仕え奉仕している関係上、その他の構成員達の生活環境は劣悪とは言わないまでもある程度の窮屈を強いられる状況である。そして、それはここholoXで優秀な成績を収める中層以上四天王以下の上層構成員達も例外では無く、その者達もまた相応の縛りの中で日々業務に勤しんでいるのであった。

 

 

 

 

 

 ―――秘密結社holoX上層構成員用、社員寮。

 

 広さ自体はそこそこに、部屋に個人用の風呂トイレが設けられた二人部屋。決して優雅とは言えないが、それでも他と比べれば幾分か良い暮らしがそこにはあった。……もっとも、多忙故にその生活を享受できる程の余裕がある者はあまりいないのであるが。

 

 

 ―――、―――、―――。

 

 

 眠る前に設定していたアラーム音が鳴り響き、起床すべき時が訪れたことを報せる。それがちょうど三回、繰り返されたところで彼女は布団の中から手を伸ばした。

 

 

「……7時……丁度、ね……」

 

 

 七時、そう表現するべき時間は二通り存在する。しかし今回は所謂『朝』と呼ばれる、午前七時を意味して発せられた言葉であった。

 

 

「交代の時間……起きなくちゃ……」

 

 

 大体五~六時間ほどの睡眠を取れたことを確認し、彼女は上体を起こす。今日は睡眠の質が良かったのか、いつもと同じ時間でもより疲れが取れているような気がした。……いや、気のせいかな。

 

 

「……あら、起きたの?”イプシロン”」

 

 

 寝起きの低血圧の影響で、薄っすら痛みが走る頭に私は手を当てる。すると、隣からカチャカチャと何か作業をしているような音共に、自分の名を呼ぶ声が届いた。その主は、私と同室で暮らしているholoXerで”ルイ友”の【ミント】さん。なんと彼女は、あの鷹嶺ルイ様の『秘書』を務めているとてもすごい人なのである。

 

 そんな相手に、まだ若輩者である私は口の中だけで欠伸を噛み殺しながら挨拶を返した。

 

 

「あ、はい、おはようございます……今起きました……」

 

 

「おはよう。……今日もこの後はラプラス様の護衛?」

 

 

「はい、そうです。早く準備しなくちゃ……」

 

 

 彼女からの問いに私はそう返事を返し、急いでベッドを出る。そして、ミントさんが座っていたのとは反対側に設置されていたドレッサーの前に座って朝の身支度を始めた。…………ん?”ミントさんが座っていた”?

 

 

「あれ……ミントさん、今日はお休みって言ってませんでしたか?」

 

 

 手元に濡れタオルと、化粧道具を用意しつつ私は彼女に尋ねる。というのも、私の記憶が正しければ彼女は今日『非番』であるはずなのだ。しかし、何故か彼女はそうであるにも関わらず私と同様にドレッサーの前に座り朝早くから外出の準備をしていた。

 

 

 

 ――私は、秘密結社holoX内に存在する秘密特殊部隊【ラプツナズ】の一員である。それは偉大なる総帥ラプラス・ダークネス様の護衛兼私用部隊として発足した、各自が得意な分野を持つ極秘の武装集団。私はその中でも主に『戦闘』を担当しており、先日の『暗殺部門救出任務』では光栄なことにラプラス様の付添人を任された実績を持っている。組織全体で見れば設立されてからまだ日が浅いこともあり上層構成員内でも若輩者集団として扱われる我々ではあるが、それでも確かな実力と実績を持ち組織内での地位や重要度も徐々に高いものになってきている。

 

 もっとも、どれだけその働きを評価されようとも我々が存在する理由の全ては我らが総帥様にある。故に、我らラプツナズは励む時も、挑む時も、そして散る時も只ラプラス・ダークネス様だけに従事し共に在るだけなのである。

 

 

 

 ……そんなうえで、先日絶対の主君様がとある制度を執行された。内容はholoXに勤務する全構成員が対象の『週休二日制度』と呼ばれる、その名の通り週に二回程の休みを設けるというものである。かの御方はアナウンスによる公布の際こう仰られていた、『本当は完全週休二日制にしたかったんだが……』と。その主君の発言通り、この制度は業務の多忙さによっては必ずしも休みが設けられるというわけでは無い。だが、それでも職種によっては年中ほぼ休みが取れないなど日常茶飯事であるholoXにおいては革命的な出来事であると言えた。

 

 そして、その公布から数日の後無事holoXの全部門で週休二日制度が導入された。またそれに伴って、普段から大幹部様と共に多忙を極めているミントさんは今日記念すべき初の『非番の日』となっていた。……しかし、そんな彼女は何故か私よりも早くに目を覚ましている。しかもそれだけになく、恐らくは仕事等の外出用として身なりを整えているのだ。そのことに、私は自身の支度を急ぎながらも疑問を持ったのであった。

 

 

「ええ、今日私は非番を貰ってるわ。でも、だからと言って休みの日をいつまでも怠惰に寝て過ごすつもりは無い。普段の仕事に差し支えないよういつも通りの生活時間を守りたいし、この機にやっておきたいこともある。……それに、今日はルイ様と一緒に休日を過ごす約束があるの」

 

 

「な、なるほどですね……って、えっ!?」

 

 

 彼女の発した言葉に驚き、私は寝起きの顔を拭いていたタオルを思わず落としてしまいそうになった。

 私達にとって、ラプラス様は勿論その主君が自らお選びになった四天王と呼ばれる御四方もまた敬い慕う対象である。故にただ共に仕事を出来るというだけでも光栄な事であり、ましてやプライベートもとなると”恐れ多い”という意味合いで遠慮したくなるほどである。

 

 しかし、そんな中彼女は今日ルイ様と共に休日を過ごされるらしい。それはいくら大幹部様の秘書とは言え、我々の様な他のholoXerからすればあまりにも恵まれた待遇であると言えた。……あの方々の側近レベルになると、そんな栄誉まで頂けるものなのだろうか。

 

 

「る、ルイ様と一緒に、ですか……凄いですね、何をされるのですか?」

 

 

「さぁ、詳しいことはまだ決まってないわ。けど午後にはアジト内の厨房を借りて、いろは様も一緒にお菓子作りをするみたい」

 

 

 ミントさんの言葉に、私はまたしても目を見開くほど驚いた。ルイ様だけに留まらず、まさかあのいろは元帥殿まで……元かざま隊兼戦闘斥候部門所属であった私としては、正直羨ましいことこの上ない話だ。私だって、本音を言うなら是非風真いろは元帥殿と一緒に休日を過ごしてみたい。それこそ、あの方の訓練の相手に……いや、ただの”動く的”扱いだって構いはしないから。

 

 ――あ、それで思い出した。

 確か、私がまだ軍に居た時噂で『いろは様はお菓子作りが好きらしい』ということを聞いたことがある。それにミントさんも、前に甘いお菓子を食べるのが好きだって言っていた。明らかにお固そうなその見た目に反し、可愛らしい趣味を持っていると思ったからよく覚えている。その上、何でも器用にこなされるルイ様が加わるのだ。恐らく、お菓子作りやその手のことも得意であるに違いない。

 

 つまり、本日アジト内で行われるのは我々holoXerにとっては拝見するだけでもあまりにも恐れ多い、四天王様方兼その側近による『女子会』であるということ。

 

 

「……それは、大変羨ましい話ですね……」

 

 

 何処にぶつけるでもない僅かな嫉妬の心根が、私の口をついた。願わくば、私もいつかその様な機会を賜りたい……。

 

 しかし、そんな独り言のように呟いた私の言葉には特に返事等は返ってこなかった。もっとも言った本人である私も相手の反応を期待しての発言ではなく、その後何も無かったかのように目の前の鏡に向き直った。

 準備していた濡れタオルで起きたばかりの肌に十分な水気を与え、少し温める。そこに保湿の為オイルとクリームの混じった化粧水を塗って、更に瑞々しさを足していく。続いて下地を薄く張って、化粧のノリが良くなるよう優しく粉を塗せばひとまずの基礎は完璧だろう。

 

 

「……ねぇ、あなたは今の組織をどう思ってる?」

 

 

「えっ?」

 

 

 化粧の前段階が終わり、そのまま目元の加工に移ろうとした矢先。突然、再び背後から話しかけられたことに私は声を上げる。ミントさんは暫く静寂を貫いていたのに、いきなりどうしたんだろう……それに、範囲が大きすぎて的を得ない上に意図が分からない質問だ。

 

 

「そ、それは……どういう意味でですか……?」

 

 

「別に、なんでもいいのよ。ただの雑談の類、あなたが最近のholoXを見てなにか感じたことや考えたことはないか聞きたかっただけ」

 

 

 彼女から発せられた、漠然としたそんな問い。しかしそれを言うミントさんは作業の手を留めず、こちらに目も向けていない。本人の言う通り何か深い意味があるわけでは無く、本当にただの雑談のつもりだったようだ。

 だからこそ、私も特に深く考えず何となく思ったことを答えることにした。

 

 

「そうですね……これはあくまで私個人の感想ですが、最近のholoXは少し活気が溢れているような気がします」

 

 

「へぇ…?」

 

 

 そう答えた私に、ミントさんは少しだけ興味がありそうな反応を示した。そして勿論、私がそんな風に思ったのにはきちんとした根拠があってのことである。

 

 先日から導入された『週休二日制度』、実はそれと同時期にルイ様から発令された”とある指示”が最近他部門内での話題を呼んでいた。それは、惑星型母艦外で行われる任務への出撃を大幅に制限する『外部任務への規制指令』である。この施策は本部内に在中する構成員達を増やすことを目的にしていると思われ、実際に主に戦闘斥候部門や暗殺部門などでは待機中の戦闘員が多くなっていると聞いている。また、それに伴って各拠点や支部に勤務する同位のholoXerや戦いとは関係のない技術者までもが出来る限りの帰還を命じられているそうだ。我々はこれらの大幅な人事異動に対し、ルイ様から『先日の宝鐘海賊団による襲撃の一件を受け、本部内の守りをより厚くする為の施策』と説明されている。

 

 ともあれ、その施策の影響により現在のholoXは順調に人が溢れていた。そして共に作用するのは、ラプラス様ご本人から公布された週休制度。多くの人が居て、更に休暇が設けられ自由な時間がある。そうなれば本部内にも活気満ち、組織全体が前向きになるのはもはや必然の事であろう。

 

 

「休日制度と外出規制、それらが合わさってのことだと思います。生憎、私はまだお休みを頂けていないので自分で確かめたわけじゃないですけど、たまに会う他のholoXer達の話だとここ数日の娯楽街はどこも人の出入りが多くなっているそうですよ」

 

 

「えぇ、でしょうね。ルイ様は休日を作ったことにより仕事が滞ったり、業務が破綻することを恐れていたけど……今のところ、そういった話もほとんど聞かない。おそらく、『休暇』というアメを与えることで逆に皆の作業効率が上がったんでしょ。実際、働いている構成員達もやる気に満ちているようだし」

 

 

 彼女の話に、私はなるほどと納得を重ねる。確かに、今までは働いていたはずの時間を削り休みを設けるとなると、必然的に処理できる業務量や活動できる時間が減ってしまう事になるだろう。だが、休日という癒しをチラつかせたことで逆に構成員達のやる気が上がり、その結果作業効率も上がる。そうすれば今までと同じ量の仕事を消化しつつ、休みを気兼ねなく過ごすことが出来るようになるというわけだ。

 当然、全ての現場がそうであるとは言えないしずっとそのアメの影響が出続けるという訳でもない。しかし、少なくとも全体で見れば今まで出来ていたものは通常通りに進行しており、その上で時間と人の心に余裕を生むことが出来ている。仕事と私生活とのメリハリが付き、holoXで働く者にとってはより良い仕事環境になったと言えるのだろう。

 

 

「ちょっと現金ですが、でも悪いことじゃないですよね。ラプラス様のために働けることは至上の喜びですが、その上でholoXを内部から盛り上げることも大切な事な気がします。組織内に活気が溢れれば、その分征服活動や任務の質も良くなるはずですので」

 

 

「へー?……じゃあ、あなたは今の組織の状態を『良好』だと思ってるわけ?」

 

 

「…?……まあ、そうですね。少なくとも悪くはないと思ってます。皆がやる気に満ちることはいいことだと思いますし、その分ラプラス様の理想に貢献できるということなので」

 

 

 我々holoXerは組織のため、ひいてはラプラス様のために働けることを至高の喜びと感じている。でなければholoXに所属し、日々身を捧げたりなどしていない。あの方の目指す場所、望む世界を作りだすための一助となれるのなら、これ以上に光栄なことは無いのだ。

 しかし、それを踏まえた上でそれらの質が上がるに越したことなないだろう。生物として当然に必要な休息と、ありふれた娯楽。それを得られるからこそ皆に気力が満ち、日々の仕事が捗るようになる。さすれば、それは秘密結社holoXの更なる発展につながるのだ。そんな状況を良いと表現せずに、何と言葉にするというのか。

 

 

 確かな事実と根拠に基づいた、私の意見。これはある程度状況を理解している構成員達の間では共通の認識でだろうし、実際に起きている真実と言えるだろう。

 ……しかし、そんな私の考えに対し彼女は

 

 

「ふーん、あなたは”そっち側”なのね。……私はそうは思わないわ」

 

 

 と、ハッキリ否定していた。

 

 

「えっ……な、なぜですか?」

 

 

 雑談の類と言われて話し出したのに、まさかそんな真っ正面から否定されるとは思わず私は面食らってしまう。しかし、ミントさんの言葉の強さはそれなりの理由があっての事のように思えた。

 

 

「何故?そんなの、決まってるでしょ。……この状況を作りだし、我々の活気が溢れるよう誘導しているのは”あの”ラプラス様自身なのよ」

 

 

 その言葉に、私の身は僅かに強張った。それは、彼女の言わんとしていることが即座に分かったからでは無い。ただ、”あの方が作り出した状況”と聞いて私には何か気付かなければいけない事実があるのだと知ったからだった。そして、それを以ても尚私にはこの状況に一体どんな問題があるのかさっぱり理解できなかった。…そのことに、私は酷い危機感を覚える。

 

 

「これについては、あなたの様に気付いていない構成員が殆ど。でも、あなたや私の様な四天王の方々のすぐ側で働く者ならすぐに気付かなければならない事実。……この休暇制度、そして外出規制が何を意味しているのか」

 

 

「まさか……これらの一連の指示には、何か他の理由があるってことですか?」

 

 

 ラプラス様より定められた休暇制度、そして今全構成員を対象に行われている外出規制。後者の本題はそれとは違うにしても、これらは一見我々構成員達にある程度の休息を与える為に設けられた、『holoXerに寄り添った政策』の様に思える。実際、それに甘んじている者も多く、またそれに伴って日々の仕事効率も上がり互いにとって成功している制度と言えた。

 

 ……だが、これが仮に何らかの意図を持って作られた総帥様の策略の一部であったなら。或いは、他に何か別の目的があってこの制度を設けられたということは無いだろうか。我々holoXerに対する単なるアメだけではなく、今後の組織のため予め打っていた布石だとすれば……否、あの御方なら充分有り得る話なのだ。

 

 

「当たり前でしょ。でなきゃ基本我々holoXerに無関与なラプラス様が、わざわざこんなことするはずが無いわ。……恐らく、先日の事件を経て何かを企んでいるのでしょう。いえ、もしかしたらあれすらもあの御方の手の平の上での出来事だったのかもしれない」

 

 

 彼女の話を聞く私の手は、思わず止まってしまっていた。

 

 ミントさんの言う『先日の事件』とは、クロヱ様及び暗殺部門の救出から始まった宝鐘海賊団との抗争の件だ。結果としては正直、我々holoXは宝鐘海賊団に対し敗北を喫したというのが妥当な見方だろう。当然、ラプラス様が指揮を担当されたクロヱ様一行の救出の方に関してはそのほぼ全てをあの方一人でこなされていたので任務を失敗するわけが無い。しかし、その間に裏で起こってしまった本部での出来事の方は……組織にとっても、悪い意味で印象に残った事件であっただろう。勿論その件に関する爪痕は未だ本部内に残っていて、戻らぬ被害もあった。今のholoXは常時に比べ活気が溢れてはいるが、それでもあの事件が起こってしまった事を忘れたわけじゃない。

 

 

 ……しかし、それとは別にミントさんの言うようにラプラス様の反応に少し疑問を持ったのは事実だった。

 否、理解はしている。あの御方の行動に疑問どころか違和感を持つことすら恐れ多いことであると。だが事実として、この事件に関しラプラス様が大した言葉を残さなかったというのがあるのだ。珍しく取り乱されるルイ様に、逸れにつられ責任を感じていたこより様にいろは様。けれどそんな皆様に対し、ラプラス様は責めるようなことは何も言わず、それどころか罰すら与えなかった。そんな主君に私はお優しい方なのだなと思った反面、起こってしまった事件に対し何の対策も講じないのだろうかとその時は思ってしまったのだ。

 

 だが、これら全ての行動が彼女の発言通り既に仕組まれたあの方の策略なのだとすれば話は大きく変わってくる。事件に対して罰則も与えず、対策もしない。それどころか休暇を与え、同時に本部に在中する人を増やした。だがもし、これらの一連の出来事にラプラス様なりの考えがあるのだとすれば……全部に納得がいく。全てがそうなるように仕向けられたものであるならば、わざわざ叱責をしたり何かに備える必要などないのだから。

 

 

「なるほど……実に興味深い話です。あの御方らしい、ラプラス様なりの考えがあっての行動ということですか。…………でも、それなら一体何を考えての事なんでしょう。休暇の件もそうですが、私はあんなことがあったのに宝鐘海賊団と手を組むと言い出されたラプラス様のお考えを、未だに理解できてません。ラプラス様だってあの船の中で潤羽るしあに襲われ、被害を受けたというのに……」

 

 

 あの場に居た私たち構成員を最も困惑させたであろうことは、ラプラス様自らが言い出された『宝鐘海賊団との協力関係の構築』である。それまで対立していた宝鐘海賊団に、こちらは暗殺部門の捕縛と本部に対する攻撃行為という被害を受けた。対する彼女らはと言うと、主に未確認生物であるホロベーダ―により船を破壊されたことと、後は本部に乗り込んで来た三番船の面々がいろは様によって撃退されたという位のものだ。つまり、どう見たって被害の程度で言えばholoXの方が大きいと言える。そしてその事実は、私達にとっては今後どれだけ宝鐘海賊団がholoXに貢献をしようとも”割に合わない”という本音を持たせるには十分だった。

 また、それらを受けた上で『ラプラス様が仰られたから』とこの事態を無理矢理飲み込んだ者が一定数居るという事実も忘れてはならない。

 

 

「……あら、今の発言はラプツナズの隊員として言っていいのかしら。ラプラス様の決定を理解できない、イコール納得できないと捉えられても仕方のないことよ……このこと、ルイ様辺りに報告したらあなたはどうなっちゃうのでしょうね」

 

 

「ッ?!……ちょ、ちょっと待って下さいよっ!今のはただ、言葉の綾で……私は決して、ラプラス様の決められたことに不満があるわけじゃっ……!!」

 

 

 私が思わず吐いてしまった本音を、ミントさんは都合の悪い部分だけを切り取って挙げた。しかも、その話をあの方の右腕であるルイ様に報告してしまうかもと言い出す始末。そ、そんなことをされたら私はholoXに居られなくなってしまう……ッ!!

 

 

「ふっ、冗談よ。あなたは揶揄い甲斐があるわね。……安心して、少なくとも私はイプシロンのラプラス様に対する忠誠を疑ってないから」

 

 

「も、もう……ミントさんってば、酷いです。私なんか虐めても楽しくないですよ……」

 

 

 心臓に悪い冗談により、私は口を尖らせる。すると、それも含めて可笑しいのか彼女はまた笑っていた。

 

 そして、ひとしきり笑い終えた後ミントさんは徐に椅子から立ち上る。

 

 

「でもまあ、一応発言には気を付けた方が良いわ。どこで誰が聞いてるかわからないし、さっきのだって捉え方によってはそう聞こえてしまう。……それに、ラプラス様に何か考えがあるらしいって話もあまり公にせず私達の中だけにしまっておくべきね」

 

 

 メイクを施し、髪を整え、そしていつものルイ友さん特有の三角型サングラスを彼女はかける。今日のミントさんは仕事に行くときの格好と殆ど変わらなかったが、それでもいつもと比べれば流石に幾分か浮かれているようにも見受けられた。

 

 

「……けれど、常に主君の考えを汲み取ろうとする努力は怠らない事ね。ルイ様から発令された外出任務の規制の件は、先日の総帥と四天王だけで行われた上層部会議以降に出てきた話よ。つまり、そこであの方はラプラス様より何らかの指示を受けその様な指令を下した」

 

 

「ッ!」

 

 

 社員寮から外出する為、部屋を出ようとする最中彼女はそう言った。先日の秘密結社holoX上層部会議、それはそこに集う面々の関係上公には明かされていない一種の密会の様に扱われている。しかしミントさんやその他の四天王側近の方々、そして総帥を護衛する役割も持つ我々ラプツナズには当然のように既に知れ渡った事項である。勿論その内容については詳しく知ることは許されず、常に交代交代で主君の側に潜む我々ですらあの時ばかりは少し離れた場所で待機していた。

 

 だが、ミントさんの話が真実ならばその場でラプラス様から四天王の方々に対し何らかの指示があったことは明白だろう。そして、それを踏まえた上で今の組織の状況、またこれから起こるであろうことを常に予測しラプラス様の御意志に少しでも添わなければならないということだろう。

 

 

「……ミントさん、ありがとうございます」

 

 

「あら、何よいきなり」

 

 

 幾つかの書類と、ほんの少しの荷物を持ち彼女は部屋の扉に手をかける。そんなミントさんに、自分も支度を終えながらにお礼を言った。

 

 

「何って……馬鹿で察しの悪い私の為に、わざわざ教えてくれたんですよね。浮かれてる場合じゃないぞって」

 

 

 私の仕事内容が特殊である関係上、私とミントさんは同室と言ってもさほどよく顔を合わせるわけじゃなかった。部屋に戻っても既にどっちかが寝ている時もあるし、完全に入れ替わりの時もある。だから、こうして朝から二人で話すのは少々珍しいことなのだ。

 

 そして、そんな珍しい時間を使って彼女は私に教えてくれた。雑談の類だなんて銘打って、私が気付けていないだろうことをこっそり気付かせてくれたのだ。遠回しでも、その優しさに私は感謝している。

 

 

「……さぁ?何のことか分からないわ。そんなこと言ってる暇があるなら、あなたもとっとと上司のところに向かいなさい」

 

 

 彼女は扉を後ろ手に閉めながら、最後にそうとだけ残していった。

 一人になってしまった相部屋で、私はそそくさと着替えを済ませ使い慣れた刀を腰に差す。最初は私も普通の鉄剣を使っていたけれど、いつからかあの天使の様な方に憧れてそれを持つようになってしまった。

 

 

「あっ、しまった。時間……急がないとっ」

 

 

 部屋の電気を消して、私は出入り口の扉をくぐる。相変わらず殺風景で、寂しい部屋だな。まあ私もミントさんもあまり部屋には戻らないし、小物を飾るような趣味もない。強いていうならあの人の趣味で作った裁縫があるくらいで……結構可愛いんだよなぁ。

 

 

 私はそんなことを思いながら、扉の鍵を閉めたことを確認し廊下を駆け出したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 社員寮を出て、私は総本部内のアジトビルを目指して走った。本来なら飛空車等の足もあるのだが、私は普段から身体が鈍らないよう自分の足で全速力で走って通勤することが多かった。

 

 そして、着いた先でまずは更衣室に向かい仕事着に着替える。場所は敢えて他の一般的なholoXer達と同じ場所を使っており、更にここでは一度普通の【ぷらすめいと】と同じ制服を身につける。その他の装備については各自別の場所に保管しており、こうすることで私達が特別な部隊所属の隊員であることを隠しつつアジト内に潜むことが出来た。平時、我々が待機している場所はラプラス様にすら知らせていない。ただ、私達はそこに居て主君の身の安全を守る。そして、先日の一件のようにごく稀にラプラス様に呼ばれた暁には何処からともなく参上し、主君の命に従うだけの兵隊と化す。それこそが、我らラプツナズの仕事であり日常なのであった。

 

 

 

 ――秘密結社holoXアジト、総帥執務室……近くの廊下。

 

 

「おはようございます、隊長。交代の時間です」

 

 

 出勤してきたアジト内にて、私は少し遠回りをしつつラプラス様のお仕事部屋の近くまでやって来た。そして、そこで特に目立ったところも無く只廊下を掃除していただけの清掃員にそう声をかける。驚くべきかな、今この廊下をモップで磨いている男性こそ我らがラプツナズの隊長なのであった。

 

 

「……おい、隊長と呼ぶな。俺は今はただの清掃員だ」

 

 

「?……大丈夫です、周囲に他の構成員たちが居ないことは予め確認していますから」

 

 

「いや、そう言う問題じゃなくてだな……」

 

 

 総帥護衛の任について、その交代時間を報せに来たというのに隊長は少し呆れた様子を見せた。深いため息を吐き出し、手に持っていたモップに体重を寄せる。……そんな彼は、よく見ると目の下に少しの隈が出来ていた。

 

 

「隊長、お疲れのようですね。少し休んだ方が良いです」

 

 

「あぁ、それは自分が一番わかってる。……だがな、先日の宝鐘海賊団の一件以来気を張り続けてしまっててな。これは俺の悪い所だ。本当なら、こういう時こそ非常事態に備えて休息はしっかり取っておくべきだというのに……」

 

 

 そう言った隊長は眠そうな目を擦りながら、眉間に人差し指と親指を当てていた。

 

 先日の襲撃事件以来、アジト並びにラプラス様付近での警戒網が強くなったのは事実である。当然その余波は我々ラプツナズにも及んでおり、元々の部隊の性質上表立ってラプラス様の警護に付けるわけは無く必然的に護衛の難易度が上がってしまっていた。しかしそれを押してもラプラス様の守りを薄くするわけにもいかず、結果我々は半数に手分けをしていつでも主君の呼び出しに応えられるよう備えているのだった。……もっとも、ウチの部隊が奇数であるため隊長は他の隊員より少しばかり多く働いているのだが。

 

 

「そうですね、隊長は働き過ぎです。我々の司令官はラプラス様ですが、上官はあなたです。隊長がもしいざって時に倒れでもしたら私達は困ってしまいます。……ですので、今すぐ休んでください。後は他の隊員でやりますので」

 

 

「ふっ……イプシロン、お前は相変わらずはっきりものを言うんだな。そういうところ、俺は嫌いじゃないが直した方が良いぞ」

 

 

「……上官命令ということであれば、そうします。…………そういえば、隊長に一つ確認したいことがありました」

 

 

 隊長を労ったつもりが、私の言い方を注意されてしまった。まあ、確かに、自分でも少し不躾な言い方をよくしてしまうとは思っているけど……。

 

 しかし、そんな話をする過程で一つ思い出したことがあった。それは今朝ミントさんとの話題に出た、『週休二日制度』についてのことである。

 

 

「ん?なんだ」

 

 

「先日、ラプラス様より公布された週休制度についてです。あれは私達の様な特殊な役割を持つ構成員にも適応されるのでしょうか?」

 

 

「あぁ、そのことか……安心しろ。大幹部様に確認を取ったところ、ラプラス様の要望は『holoXに所属する全構成員を対象に』ということだったらしく、他の連中と同じように我々にも休みを頂けるようだ。流石に他の者と同じように週休二日で、という訳にはいかないが代わりに連続した休日を数カ月に一度取れるようになるらしい」

 

 

 隊長からの回答を聞いて、私は半分ホッとしそしてもう半分で不安を抱えた。きっと、昨日までの私なら休暇を貰えることに手放しで喜んでいただろう。しかし、今の私はそうできずにどうしても今朝のミントさんの話が頭をよぎってしまうのだ。

 

 ラプラス様には、ラプラス様なりの考えがある……そんな中、私は与えられた休日に素直に興じていてもいいのだろうか。

 

 

「……ん?どうした、そんな浮かない顔をして」

 

 

 他と変わらず休暇を与えられると聞いて、されど私が明るい表情をしなかったことに隊長は疑問を持ったようだった。まあ、私は元々感情がそんなに表に出る方ではないけど。

 

 

「いえ……ただ、それを素直に喜んでいいのかと思って……どうしてラプラス様は、私達に休日を与えたのでしょうか」

 

 

「……ふむ、なるほどな。理由の分からんアメを与えられて、困惑しているわけか……確かに、俺も最初は同じことを思ったよ」

 

 

 自分が抱いた疑問を、私はそのまま隊長に問いかける。もしかしたら、上官であるこの人ならあの方の意思を私よりは理解しているかもしれないという淡い期待を抱きながら。

 

 

「最初は……?……隊長は、何か答えを得ているのですか?」

 

 

「うーん、どうだかな。答えというか、自分なりの結論だ。――――あの方の考えを、我々がいくら考えたところで分かるわけが無いって」

 

 

「ふっ」

 

 

 隊長のその言葉を聞いて、私は自然と笑みが零れてしまった。それは、彼の出した『答え』が妙に的を得ていると思ったから。言われてみれば、そうだった……ラプラス様のお考えを私達が知ることなど、出来るはずがなかった。

 

 

「確かに、そうですね」

 

 

「ああ。……だが、勿論それで考えることを放棄するつもりはないがな。あくまでラプラス様の御考えを読むことはできないから、その分こっちはあらゆる事態に備えるって話だ」

 

 

「はい、わかってます。……今朝、同室の方にも同じことを言われました」

 

 

 つい一時間ほど前にも言われた、同じような言葉。隊長やミントさんのように私よりも優秀で、より組織に貢献している人達が当たり前の様に持っているその考え。当然私にもその姿勢が無いわけじゃないが、やはり自分はここでまだまだ学ばなけらばならないことが多いようだ。

 

 

「さて……それじゃあ、俺は忠告通り部屋に戻って休むとするよ。後のことはお前達に任せた」

 

 

「わかりました、ゆっくり休んでください。……あ、最後に一つ。私以外の隊員は今?」

 

 

「稼働してるのは、お前以外にベータとデルタとシータの計四人だ。今どこにいるかまでは知らんがな……後、俺以外の他二名は先に部屋に戻ってるらしい」

 

 

「そうですか、了解です」

 

 

 ラプツナズの隊員は全部で七名。その内四人がすでに出勤し、そして残りの三人の内二人はもう休んでいると。ということは、この時間は四人での仕事となるわけだ。……まあ、それでも非常事態には全員集まらなければいけない決まりなのだが。普段はラプラス様を陰ながら護衛するぐらいしか役割が無い私達だが、極稀に招集がかかることがある。先日の暗殺部門救出の時に呼び出されたのがそれに該当するのだが、あの時は本当に偶々部隊全員が稼働していたのだ。

 

 

「じゃあ、ふぁ……俺は寝る。何かあったら叩き起こしに来てくれ。……それと、業務の前に”ラプラス様への挨拶”を忘れずにな」

 

 

「わかりました。直ぐに済ませてきます」

 

 

 欠伸を噛み殺し、それでも漏れ出してしまう隊長。足取りはふらふらとしていて、こちらを一度振り返った際は目が開いているのかも怪しかった。

 

 けれども、隊長は最後にそう言い残しこの場を去る。また、私はその指示を了承し速やかに主様の部屋に向かうのであった。

 

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