転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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 第73話です。前回に引き続き今回もリハビリがてらに書きました。多少文章が拙いところもありますが、ご了承ください。書きながらもうゲシュタルト崩壊起こしまくって困っています。

 さて、前回は久々のフブキ先輩たちの登場から始まり、後半ではクロヱのご機嫌取りからのふぁんたじあ発見まで話が進みました。第三章は始まりから怒涛ですね。るしあ達にとっては念願である惑星の発見、そこからどう物語が進んで行くのか……彼女たちは一カ月前の通信にて、衛星コメットの異変を察知しています。その後そちらがどうなったのかも気になる所ですね。

【追記】
 今回はholoXの本部内の娯楽街にある、賭博場について少々。どこかで話したかもしれませんが、この娯楽街を代表する大きなカジノは街を作る際に一番最初に作られた施設となります。それは当然前任ラプラスの要望だったのですが、実はそこに沙花叉がどっぷり嵌ってしまった原因もまた彼女にあります。その昔、出来たばかりのカジノでラプラスが遊んでいたところを仕事をサボっていたクロヱが発見。そこで彼女は最初は意外にも乗り気ではありませんでしたが、ラプラスに誘われる形でほんの少しだけ手を出してしまいました。その結果無事大沼に嵌り、今でも一人で通い詰めることになってしまったそうです。……勿論、その理由の一部に『ここでならラプラスが遊んでくれるから』という気持ちがあったりなかったりもしています。

↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
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第73話 欠けた惑星

 

 

 翌日、幹部から招集が掛かった。

 場所は秘密結社holoXのアジト内に存在する、『天体観測室』。また呼び出された対象は総帥と、その他の四天王と呼ばれる組織の初期メンバーたち。

 

 ……そして、何故かうちで匿われていた筈の客人二名であった。

 

「──幹部、どうしたんだいきなり。こんな朝から呼び出しなんて」

 

 朝、総帥執務室に入ったとほぼ同時、ルイから呼び出しを受けていると眷属からの報告があった。まだぼんやりと眠たげな瞼を擦る吾輩であったが、珍しい彼女からの指名という事で即座に該当の場所へと足を運んだ。

 

「……来たわね。ごめんなさい、急ぎラプにも報告しないといけないと思ったから」

 

 部屋に入ると、招集を掛けた本人は既に到着しているようだった。今回指定されたのはholoXのアジトの中にある、天体観測室と呼ばれる場所。実際に足を運ぶのは今回が初めてであるが、確かここはその名の通り母艦から観測できる宇宙空間のあらゆる事象を記録する役割を持っていると聞いている。

 ……しかし、そんな場所にこんな時間から呼び出すなんて……一体何の用だ?

 

「おっはよーでござる、ルイ姉! 珍しいでござるね、風真たち皆も呼び出しなんて!」

 

 吾輩が足を止めてそんなことを考えていると、共に部屋に入った侍が元気過ぎる挨拶を口にした。彼女はこの時間の総帥担当であり、護衛として吾輩が家を出る時から一緒に行動をしている。また都合の良いことに、いろはも今回の招集メンバーの一員に含まれているのだった。

 

 吾輩やその他の連中も呼んでるという時点で、幹部の要件はそれなりに重要なものなのだろう。……だが、それにしたってなんで”あの二人”まで……。

 

「おはよういろは、総帥の護衛任務ご苦労様。ちょっと、かなり重要なことになると思って他の四天王たちにも声を掛けたの。あなたも忙しいのにごめんね?」

 

「なるほど、そーいう事でござるか! まあ風真の方は、呼ばれたことに文句はないんだけど……」

 

 そこまでを言った侍が、何故か何かを気にしたようにチラッとこちらに視線を向けた。それは恐らく、ここに来るまでの道中を眠そうにしていた吾輩を心配してくれてのことだろう。……或いは、先程からある事に疑問を抱いている様子の吾輩を見て、それを気に掛けてくれたのか。しかしどちらにしたって、吾輩自身も別にルイから招集されたこと自体に文句があるわけでは無いのだ。

 

「あ? いや別に吾輩も無いぞ。ただ──いいのか? ”るしあやあくあさんにも同席して欲しい”って聞いたが」

 

 それこそが、ラプラスがずっと煮え切らないでいた理由であった。

 今回の幹部からの呼び出し、その該当メンバーには吾輩の他にいろは達は勿論……何故か、るしあやあくあ先輩の名前まで挙がっていたのだ。しかし今のルイから見て、二人は一応の客人扱いではあるものの警戒すべき相手として認識しているはず。であれば、いくら大事な用件があろうと彼女たちがアジトの敷居を跨ぐことすら嫌いそうなものだが……。

 

 

「──あっ、ごめん。それについては僕の意見なんだ」

 

 

 ラプラスはそう考えて、自分の中に湧いた疑問をルイにぶつけた。すると、本人からの回答を待たずして突如背後の自動扉が開かれる。また皆がそれにつられて振り返ると、同時に室内に入って来たこよりがそんなことを口にした。……いつも通り、とても可愛らしい彼女はピンと立ったケモ耳やふかふかそうな尻尾を携えている。

 

「博士……おはよう、今日も可愛いな。で、僕の意見ってのは?」

 

「うん、おはようラプちゃん。それはね────えっ?!?!///」

 

 普段のノリの一環で、そんな軽口を叩くラプラス。当然それは本人からしてみれば至極真面目な本心であり、絶対的な本音。しかし相手からしてみればその言い方や反応も相まって、結果的にラプラス側が気持ち悪がられあしらわれるまでがテンプレであった。

 

 ……が、この世界ではその限りでは無かった。

 ほんの挨拶程度の気持ちで放ったラプラスに対し、まさかそんなことを言って貰えるなどとは思ってもいなかったらしいこよりは反応に遅れる。またようやく言葉の意味を理解した頃には、眼を見開き赤面しながらの再び硬直。そして直後、乙女のような恥じらいと共に驚きの声を上げた。

 

「ちょっ?! ……ら、ラプちゃんっ!? い、いぃい今なんてっ?!」

 

「ん? いや、るしあ達を呼んだのがこよりの意見ってのは、どういうことかって……」

 

「ちっ、違うよ! そっちじゃなくて、今こよのことを……か、可愛いって……!!」

 

 博士自身が連れて来た助手くんや、周りの者たちをそっちのけにして彼女はラプラスに迫る。それは凄く焦った様子で、それでも心底嬉しそうに、博衣こよりの女の子としての部分を表していた。

 

「え? うん、こよりはいつでも可愛いぞ。……じゃなくて、話の続きを……」

 

 だが、何故かその原因を作り出した張本人があまりピンと来ていない様子であった。それは常日頃から似たようなことを口にしていることと、どんな姿の彼女でも可愛いと思っているラプラスの思考に起因している。故に、それよりも本題についての疑問の方が本人の中ではずっと優先度の高いものとなっていた。

 

「はぁ、まったく……ラプ。あの客人二人にも招集を掛けたのは、実際に当の本人達に確認してもらった方が早いと思ったからなの。勿論必要な警戒はしてるし、迎えには監視役も兼ねてクロヱに行ってもらってるわ」

 

「本人に、確認……?」

 

 取り乱すこよりに代わって説明をしてくれるルイの言葉に、それでもラプラスは再度首を傾げた。突然の呼び出しに、本意ではない人物の招集……しかも、るしあ達が当人となる報告って……?

 

「……ほらこより、ここからはあなたが報告なさい。あなたの手柄でしょう?」

 

「ラプちゃんが、可愛いって……僕のことを可愛いなんて、そんな……///」

 

 皆から顔を背け、背中を晒す彼女。しかしその頬は紅潮して、立派な尻尾をぶんぶんと振り回していた。

 

 ……けれど、そんな様子のこよりに対しルイは少し咎めるような口調で報告義務を促す。するとようやく彼女はハッと我に返り、そしてコホンと咳ばらいをしてから改めて悪魔の方へと向き直った。

 

「ご、ごめん、取り乱して────報告します、総帥。以前から捜索せよと指示があった、例の惑星……それと思しき星を発見しました」

 

「なっ!?」

 

 博士が徐に放ったその言葉に、ラプラスは思わず目を見開く。

 先輩二人が当の本人とされる、”例の惑星”の発見……それは即ち、るしあ達の故郷の星を遂に見つけたって事かっ?!

 

「ほっ、本当かこより!?」

 

「……あくまで、まだそれらしい星ってだけだけどね。でも、今のところラプちゃんやるしあさんから聞いてた惑星の特徴と一致するの。復元した航海データとも照合が取れたし」

 

 その話を聞いて、ラプラスは無性に喜び目を輝かせた。

 

 吾輩がひと月前から博士に頼んでいたこと、それはるしあ達の故郷である惑星【ふぁんたじあ】の捜索だった。例の一件以来、吾輩とるしあとの間には幾つかの約束が交わされている。【親交の契約】もその一つであるが、その中で最も重要且つ最優先で行わなければいけないのが『先輩方の故郷の奪還』であった。

 ホロベーダ―という侵略者に蝕まれた惑星を取り戻す。それはるしあを含めた先輩方皆の悲願であり、それに全力をもって協力するというのが吾輩達が最初に交わした約束である。

 故に、それを果たすために我々は件の星を目指していたのだ。

 

 ……けれど、それには一つ大きな問題があった。それはるしあ達の故郷であるふぁんたじあやその衛星である【コメット】において、その正確な位置が分からなかったこと。先輩方は元々宝鐘海賊団の海賊船に乗り宇宙を渡り歩いてきたが、その際の細かな軌道修正や実際の移動については全てコックピット内の記憶データを元に行っていたという。

 しかし、その肝心の船は先日の事件の最中に宇宙を放浪していた一匹のホロベーダ―によって破壊されてしまった。加えて、崩壊した船の残骸に関しては吾輩の魔力に中てられた結果原型を留めることが叶わなかった。当然、星々を航海してきたるしあ達でもまっさらな状態からどの方角に故郷の星があるかを示すことなど出来ず、結果我々は完全に帰路を見失っていたのだ。

 

 だがここに来て、ようやくそれが打破されたと博士によって報される。

 あまり詳しいことは理解できていないのだが、どうやら吾輩の魔力には近くに存在する物質を別の物体に変化させてしまう力があるらしい。しかしその影響を受けていた筈の船の残骸についても、彼女の素晴らしい頭脳によって復元に成功。更にはそこに残っていた航海データを読み取り、なんと目的としていた惑星の発見を実現させてしまったのだった。

 

「さ、流石だな博士……! でもなるほど、本人たちに確認を取って欲しいってそういうことか」

 

「……うん、そうなの。僕たちだけじゃそれが本当にその星か判断できないからね……」

 

 大手柄を打ち立ててくれたこよりを、ラプラスは手放しで褒め称える。またそれと同時に、先程のルイの言葉にも納得がいったようであった。

 

「そっ、それじゃあ早速、その星が本当にふぁんたじあかるしあに確認を……おい、クロヱのやつは何をやってるんだっ。早く二人を連れて来てくれ!」

 

 本人にとっても待望であったその報告を受け、若干興奮気味なラプラス。またその答え合わせが待ちきれないと、結論を急かすようにそう言った。

 

「──。」

 

「……ん?」

 

 ……しかし、それにつられぬ周りを見てラプラスはキョトンとした顔をする。こんなにも嬉しい、喜ばしい報せであるはずなのにどうしてこうも皆の反応が薄いのかと。

 特に、先に事情を知っていたらしいルイとこよりの反応がラプラスには不可解であった。自身と同じくここに来て初めてその話を聞いたいろはは抜きにしても、何故か視線を伏せ気味に何も言わない二人に流石に違和感を覚える。折角の朗報だってのに、何をそんな暗い顔をしてるんだ……?

 

 そう不思議に思ったラプラスは、素直にその訳を本人達に問おうとした。

 ──とその時、遅れて再び背後の自動扉が開かれる。

 

「……ねぇールイ姉、言われた通り”捕虜”二人連れて来たけどー? てゆーか、何でこれ沙花叉の仕事なわけ? 護衛の時間交代で私これから寝るところだったんだけど」

 

 何故か漂い始めていた少し不穏な空気をぶち壊しつつ、文句を垂れながら気怠げに入って来たのは沙花叉クロヱであった。しかもそう言い放った後に、即座にふわぁっと大きな欠伸を挟む。どうやら今回だけは本当に休む直前に呼び出されてしまったらしく、その赤い瞳の下には薄っすら隈が出来始めていた。

 

「あら、ごめんなさいねクロヱ。でもあなたにも共有しておきたいことだったから呼んだのよ」

 

「だからってわざわざこの時間じゃなくてもいいじゃーん。……それに、私の部屋からラプラスの家まで遠いんだよ。皆は寝てたかもしれないけどさ、沙花叉は夜遅くまでラプラスのお守りしてて疲れてるしー」

 

「……へぇ、そう。それは悪いことしたわね。私はてっきり、”昨晩は総帥と二人で賭博場で遊んでた”って聞いてたから元気が有り余ってるんだと思ったわ」

 

「…………何で知ってるの……」

 

 いきなり呼び出してしまった事をルイは謝罪するが、それでもクロヱの愚痴は止まらなかった。実際には本人達もまた同じように遅くまで業務をこなしていたのであるが、そんなことは知らぬ掃除屋が一方的に不満を口にする。……結果大幹部は、彼女に最も効くであろう言葉を放っていた。

 

 

「──あの、入り口で止まられると入れないのです」

 

 

 総帥との密かな逢瀬がバレていたと知り、愕然と固まるクロヱ。

 すると、そんな彼女の背後で凛とした声が響いた。

 

「……あーごめんごめん。根暗で影が薄いから気付かなかったわー」

 

 呆気に取られていたクロヱであったが、そう声を掛けられたことで自身が通行の邪魔をしていたことを知る。

 ──が、彼女はそれを知った上でなお非常にわざとらしい嫌味を並べた。更にそれだけに留まらず、より相手の道を塞ぐように敢えて振り返ってから仁王立ちをし始める。……ふんっと鼻を鳴らし、偉そうに腕を組む姿は見ているこっちまでイラっとさせられるな。

 

「……。」

 

「……チッ、ちょっとは何か言い返せよ」

 

 けれど、そんなあからさまないびりにも動じずその者は静かに相手を見据えていた。しかもその瞳は嫌になるほど真っすぐで、見られている掃除屋の方が目を逸らしたくなるほどである。

 結果、数秒も経たぬうちにクロヱがつまらないとでも言いたげに舌打ちを鳴らし、その場から捌けて行くのであった。

 

「はぁ、まったく……悪いなるしあ、うちのヤツが変に突っ掛かって」

 

「んーん、気にしてないのです。……そんなことより、いいの? るしあ達がここに入っちゃって」

 

 目の前で行われた部下による虐めの現場を見て、ラプラスはハァとため息を吐き出す。そして、離れて行ってしまった新人に代わりその者への謝罪を口にした。しかし、肝心の被害者である筈の彼女……潤羽るしあは、問題無いと優しく首を振る。

 

 その上で、本人はそれよりも外部の人間である自分達が組織の重要な機関に足を踏み入れても良いのかと疑問を持っているようであった。

 

「あぁ、ちょっと大事な用があってな……ウチの部下が”二人に”確認して欲しいことがあるらしい。これに関しては言葉よりも、実際に見てもらった方が早いからここに呼ばせてもらったんだ。……ということなんで、すみませんねあくあさん?」

 

「…ッ…」

 

 るしあのその厚意と心の広さに甘えつつ、ラプラスは早速本題について話し始める。またその過程でクロヱ、るしあに続き彼女たちの更に後ろで隠れていたもう一人の客人へと視線を移した。

 しかしその者は、皆からの注目が集まったと察知するとビクっと身体を跳ねつかせてから、おずおずと後ろに下がって行く。……暫くのここでの生活である程度は慣れてくれたと思っていたが、やはりこれだけの人数に一気に見られたりすると流石に気後れしてしまうらしい。

 

「こんな落ち着かない場所に呼んでしまって申し訳ないです、あくあさん……でもとっても重要なことなんで、少しだけ付き合ってください」

 

「えっ、あ……う、ううん、大丈夫……いきなりクロヱちゃんに呼ばれて、びっくりしちゃってる……だけだから……」

 

 相変わらずの引っ込み思案で、注目の場には出たがらないであろうあくあ先輩。けれど意外にも突然の呼び出しに不満があるというわけでは無く、どちらかと言えば新人が自身を呼びに来たことに驚いたらしかった。

 

 ……また、そう言った先輩は何故かいじけて捌けて行ったはずのクロヱの方に視線を送っていた。それについて当の本人は後頭部の後ろで手を組み背中を向けているので、気が付いているのか定かではない。まあ、仮に知っていたとしてもあの新人ならきっとその上で見向きもしないだろう……だが、そんなクロヱの様子を見て何故かあくあ先輩が薄っすら笑っているようであった。

 

 

 ──何というか、この二人はこの世界でだけの特有な関係を築いている気がする。なんでも話によると、クロヱとあくあ先輩に関しては驚くべきことに吾輩すら知らない所で定期的に会っているらしいのだ。そこで一体何をしているのか、詳しいことは聞いていないが話の出所であるいろはによれば『二人で訓練をしている』らしい。……その構図だと新人の我儘で無理矢理連れ出され、そして泣きながら走らされているあくあさんの姿が容易に想像できるな。

 

「……それじゃあ、全員集まった事だし……早速いいか? 博士」

 

「……うん、了解。」

 

 改めて室内を見渡し、幹部からの呼び出しに該当する者が全員集まったことを確認する。吾輩と吾輩の護衛の侍、次いで発起人の幹部と博士、そして客人の二人とそれらを連れて来た新人の計七名。現在のholoXに存在する重鎮たちが一堂に会し、これから我々が志す”その場所”への公開が待たれていた。

 

 

「──皆、集まってくれてありがとう。僕から一つ、この場に居る全員に報告したいことがあります。……総帥から指示があった、惑星ふぁんたじあの捜索について進展がありました。つきましては、僕が見つけた該当の星が本当にふぁんたじあであるかの確認を客人のお二人にして欲しいです」

 

 

「「「……ッ!!」」」

 

 

 一拍置いてから、博士がそう言って話を切り出す。るしあ達にとっては悲願であり宿願であり、どうしても故郷を取り戻したいという切実な願いへの重要な足掛かり。その痕跡を見つけるというだけで早一カ月、本人達にとっては永遠にも感じたであろう時間……それが遂に動き出したと知って、彼女たちは言葉にもならない衝撃に見舞われていた。

 

「は……マジで? こんこよ……!!」

 

 そして、何故か最初にそう言葉を漏らしたのは当の本人達と同相当の驚きを得る新人であった。しかもそれは驚き自体よりも、幾分か”喜び”の感情の方が多いように思える。確かに吾輩たちの中じゃまだこの話を聞いていなかったのは沙花叉だけだが、それにしたってなんでこいつが嬉しそうにしてるんだ……?

 

「まだ、可能性のある星ってだけだけどね。……個人的には、”そうじゃない可能性”を信じたいくらいなんだけど……」

 

「はぁ? 何それ。よくわかんないけど、あんたが見つけたんでしょ? ならほぼそれで間違いないじゃん! ……ようやくか。私さっさとその星掃除しに行きたいんですけど!」

 

「まあ、落ち着きなさいクロヱ。その確認の為に客人にも来てもらったんだから、まずは見て貰わないと」

 

 まだそうであると確定したわけでも無いのに、変わらず興奮気味な掃除屋。だから、何でこいつがそんな妙に張り切ってるんだ?仮に本当にその星がふぁんたじあであるならば、吾輩たちはこれからその故郷奪還の為に動くことになっている……しかしそれが、クロヱにとって嬉しいことであるとは考えずらいのだが。

 

 ────それに、さっきから話をする博士の口調が少し暗いのも気になる。

 

 

「──本当に、見つけたのです……?」

 

 

 衝撃的な報告の後、最初に口を開いたのがクロヱなのも相まって実際の該当者たち抜きで話が進む。……だが、そんな中でぽつりと溢す様に放たれたその言葉を、ラプラスは聞き逃さなかった。

 

「……るしあ……」

 

 彼女が漏らした、確かめるようなその一言。恐らくそれには、その言葉以上に多くの意味が込められていたのだと思う。

 

 彼女にとって、ここでの生活は本当に窮屈で居心地の悪いものだったはずだ。当然、出来うる限りそうならないよう吾輩は尽くしていたが、それでも元の関係が敵であり今なお周りの部下たちから警戒されていることに変わりはない。そんな多くのプレッシャーに晒される中でいつ見つかるかも、本当に見つかるかも分からない故郷の捜索を待たされている時間は、そう語る以上に辛いものであったはずだ。

 ……加えて言えば、るしあ達は元々宝鐘海賊団が活動拠点としている衛星コメットで異変があったと連絡があり、その帰路についている途中だったのだ。そんな最中でホロベーダ―に遭遇し、船を失ってしまった。その後肝心の侵略者は退いたものの、行く宛も無くなってしまった結果そうせざるを得なくなりholoXで匿うことになったのである。

 

 

 ……本当に、嫌だったはずだ。

 苦しくて、歯痒くて、居ても立っても居られなかったはず……けれど、そんな悔しい思いをする立場にしか、吾輩はるしあたちを置いてやることが出来なかった。

 

 

 しかし、だからこそこの報告が彼女たちにとっての朗報になって欲しい。まだ確定した事実では無くても、それでもせめてこのお二人を家に帰すための手掛かりになってくれれば……!!

 

「……るしあちゃん……」

 

「──こよりさん、早速ですが……見せて欲しいのです。その星を」

 

 あくあ先輩が、少々放心状態であったるしあに声を掛ける。すると彼女はハッとして、博士に向き直った。そして、湧き出た色んな感情を無理矢理飲み込こんで、何よりもまずは確認すべきだとそう申し出る。

 

「わかりました。それでは前のモニターに、こよが観測した惑星の外観を映します……」

 

 そう言った後、博士が近くに居た助手くんに声をかけ映像の準備に入る。その間、その場に居たほとんどの者達が視線を少し上に上げ眼前に設置された大きなスクリーンを見つめていた。……現在、そこには何もないただの星々が浮かぶ宇宙空間が映し出されている。

 

「──ごめんね、らぷちゃん……僕は総帥の期待に応えられなかったかもしれない……」

 

「え……」

 

 刹那、皆と同じように上を見上げていなかった博士がそんなことを口にした。その声音は嫌に静かで、そして悲しげでもある。一体、何をそんなに──。

 

 

「博士、それはどういう意味──────え。」

 

 

 彼女の反応が気になって、ラプラスはその真意を問おうとした。

 けれど、それを聞きだすよりも早くスクリーンが切り替わり、件の惑星と思しき星の外観を見せる。

 

 ……そしてその疑問は、眼前に映し出された光景によりいとも容易くかき消されてしまった。

 

「な……なんだ、これ……」

 

 静寂に包まれる、天体観測室。その中で、唯一言葉を漏らしたのは悪魔だけであった。

 

 薄暗い部屋の中で、ぼんやり光る大きなモニター。そこから発せられるブルーのライトに照らされながら、彼女達は観る────暗雲が立ち込める、球体の一部が欠けてしまった黄褐色な惑星を。

 

「──、──。」

 

 その光景を前に、ラプラス以外の全員が口を噤んだ。事の発端であるこよりは俯き、ルイは眼を伏せる。クロヱは険しい顔で睨むようにその映像を見ていて、いろは真顔ながらも真剣な表情で画面を直視している。

 そして、肝心の二人は──。

 

「……は、博士……本当に、この星なのか? 間違いないのか……?」

 

「……僕が調べた限りでは、間違いない、と思う。復元した航路、データに基づいて計測しても……あれ以外に該当の星は見つからなかった……」

 

「…ッ…」

 

 いやむしろ、それに該当するものとしてあれが見つかったという方が正しいのだろう。

 

 この感情を何と表現したらいいのか分からなかった。だってきっと、先輩たちが住む星は、住んでいた星は……すごく綺麗なもののはずだ。人が幸せに暮らせる環境で、先輩方が取り返したいと願う故郷は、それはそれは素晴らしい美しい惑星のはず……でも、今目の前に映るこれは、あまりにも……。

 

「……るしあ……」

 

 はっきりと思ってしまった事を口に出すことが出来ず、ラプラスはただ近くに立つ友人の名前を呼ぶ。先程まで抱いていた想いとは真逆の、何かの間違いであって欲しい願って──だが、現実は意外と最も残酷な結果が真実なものである。

 

 

「────間違いじゃ、ないのです。ラプラス、あれが私たちの星……いや、故郷なのです」

 

 

 どんな想いを持っていたのか、当事者ではない吾輩では決して計り知れない。

 それでも、とにかく優しくて、そして儚げな表情を浮かべたまま彼女は静かにそう言った。

 

「……ねぇ。あれ、どうなってんの? あの欠けた部分」

 

「……ゆっくり、崩壊していってるって……るしあちゃんは言ってた。……ホロベーダ―が惑星の核からエネルギーを吸って、徐々に星が枯れていくんだって……」

 

 普段とは違う至極真面目な口調で、クロヱが問う。すると、あくあ先輩はぽつりぽつりと口を開いた。惑星ふぁんたじあを襲う外敵宇宙生命体、侵略者【ホロベーダ―】。奴等は星を犯し、害する敵……その被害にあった星は、長い年月を掛けてあのようになっていくらしい。

 

「……その星に存在する命を喰らい、数を増やす。増えたら地表を削って核へと至り、やがて全ての生命力や活力をゆっくりと吸い尽くす。枯れた大地からは緑が消え、揺らぐ惑星の重力から海は荒れる。大気には澱んだ魂の欠片と瘴気が入り交じって、黒い有毒の雲を発生させる。生きとし生ける全ての生物は絶え、そこには広大な荒野だけが残り────ただ、終わりのその時を待っている。……それが今のふぁんたじあ。ホロベーダ―の標的とされた星の成れの果てなのです」

 

 淡々とそう語るるしあは、言い切った後強く唇を噛み締めた。血が薄っすら滲む程、重ね続けた悔しさに耐えるように。

 

「────。」

 

 誰も、口を開かなかった。

 否、開けなかったという方が正しい。きっと吾輩以外の殆どがるしあ達のことも、宝鐘海賊団のことも良く思ってはいないのだろう。しかし、だからといってこの現状を目の当たりにし戯言を吐くような者などこの場には居ない。特に、比較的彼女たちとの付き合いが多い吾輩やクロヱは軽い言葉を口にするわけにはいかなかった。また、そんな自分たちの様子を見て他の皆も空気を読んでくれていたのかもしれない。

 

 ……けれど、そんな静寂を破ったのは意外な人物であった。

 

「──ラプ殿。……風真たちは、総帥の命令に従うでござるよ」

 

 それはずっと静観を貫いていた、侍によるもの。俯き暗い顔をしてしまいそうになっていた吾輩を元気づける、力強い言葉であった。

 

「……いろは……」

 

「……ラプ殿の望みをそのまま言えばいいんでござる。その為の風真たちなんだから……みんなも一緒の気持ち」

 

 そう言ったいろはは、吾輩を誘導する様に視線を動かした。またそれにつられて自身も目をやると、視界に映るのは他の部下たちの姿。……そして、皆がこちらを見つめていた。まるで彼女と同じ決意を持っていると示すかの様に。

 

「……そうだよな。最初から、やりたいことは決めてたんだ。現実がどんなだって絶対にやり遂げる──そういう、約束なんだから」

 

 誰に言うでもなく、そう呟いたラプラスはすぅっと空気を吸い込んだ。そして、ハァーと大きく吐き出してから、意を決したように声を上げた。

 

 

 

「────秘密結社holoX、そこに所属する全ての構成員に告ぐ。各員、我々の持つ全ての力を賭し惑星ふぁんたじあをホロベーダ―の魔の手から奪還するぞッ!!」

 

 

 

「「「──YES MY DARK!!」」」

 

 

 ラプラスは大きく高らかに、そう宣言した。

 またそれを受け、その場に居た全ての該当者たちが声を上げる。四天王は勿論のこと、その他の助手くんや観測室を管理するholoXerに至るまで。全員が、総帥ラプラス・ダークネスの命に準ずる覚悟を表していた。

 

「……湿っぽい空気にして悪かったなるしあ。でも、安心して欲しい。例えどんな状況でも吾輩達がやるべきことは変わらないよな……絶対に約束は守る。吾輩の名において!」

 

 先程までとは違う、真っ直ぐと決意を込めた視線を彼女に向ける。きっと、本人達からすれば”何が起きたのかを知らないから言えるんだ”と、そう思うかもしれない。奪還などと軽く言うものの、それが何十年も果たされていないのだと嘆きたいことだろう。

 

 ……でも、それでも吾輩はやると決めた。るしあの心を掴むためだけじゃない、吾輩がそうしたい、そうすべきだと思ったからする。ただ、それだけのことだ。

 

「ラプラス…………うん。頼りにしてるのです」

 

 また、そんなラプラスの想いにるしあはそう答えてくれた。決して満開の笑顔ではない、それでも彼女の表情は先程よりは明らかに和らいでいた。

 願わくば、それと同じようにるしあの心の不安が少しでも消えてくれていればよいのだが……。

 

「……ねぇ、クロヱちゃん……クロヱちゃんも、あてぃしにあぁいう事……言ってくれても、いいんだよ?」

 

 ラプラスとるしあの会話の傍ら、あくあは密かにそう言った。その相手は彼女がいつの間にか近づいていたクロヱであり、けれどもその言葉に掃除屋は怪訝な表情を浮かべる。

 

「はぁ? なんで私が……」

 

「? だって、ラプラスちゃんの命令、なんでしょ……?」

 

 まるで何を言われているのか分からないクロヱに対し、同じく何故疑問に思うのか分からないあくあ。しかし後者のメイドは、それでもキョトンとした顔を崩さなかった。

 

「……だとしても、なんで沙花叉がお前にそんなこと言わないといけないの」

 

「……なんとなく、クロヱちゃんが……あてぃしを気にしてくれてる気がしたから、かな ……きっと、クロヱちゃんならラプラスちゃんみたいなああいうカッコイイこと、言ってくれると思って……」

 

「はっ、あんた私を何だと思ってんの? どうでもいいよ、お前のことなんか。……沙花叉はただラプラスの命令に従うだけだから。その結果であくあが助かっても、それは私には関係ない」

 

「……そっか、ありがとう」

 

 その文脈、言い方からは決して読み取ることのできない優しさを感じ、あくあは礼儀正しく感謝を述べた。けれどもそれを聞いたクロヱは非常に嫌そうな顔をしつつ、再び盛大に舌を打つ……それさえ彼女らしい照れ隠しであると、そのメイドは想いながら。

 

「よーし、そうと決まれば……幹部! 今すぐこの星に向かってくれ!」

 

 そして、彼女たちのそんなやり取りを傍目にラプラスは皆に指示を出す。すると幹部はそれに答えるように、軽く相槌を返した。

 

「了解、総帥。同時に全ての戦闘員に準備を進めさせておくわね」

 

「あぁ、頼んだぞ!」

 

 ラプラスの宣言によりholoX全体の意思が決定し、同時に行き先が定まる。具体的なことをどうするにしたって、まずは現地に行かねば何も始まらない。先にるしあ達をふぁんたじあの衛星であるコメットに送らねばならないというのもあるし、善は急げだろう。

 

 

 ────こうして、遂に念願の星を見つけたラプラス達はその方角へと舵を切る。そして、今出し得る全速力をもって組織を乗せた巨大な母艦は歩み始めたのだった。

 

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