転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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 第74話です。今回は前回から少し期間が開いてしまいましたね。下書きまでは終わっていたのですが、途中で少し書き直しをしていたので遅くなってしまいました。

 さて、前回はラプラス達の下にようやく惑星ふぁんたじあを見つけたという報告が届きました。遂に他のホロメンに会えるのか!?と思いきや、あまりにも悲惨な故郷の現状を目の当たりにしラプラスがショックを受けていましたね。枯れた大地、欠けた惑星、空を覆う瘴気を含んだ黒雲、どうやらホロベーダーという存在は想像以上に厄介なもののようです。
 しかし、我らが総帥はそんな現実を前にしても折れない宣言をしました。友人であるるーしあと交わした約束を果たす為、彼女は奪われたその星を目指すことを誓ったのでした。果たして、その星で待ち受けているものとは……の前に、先に衛星コメットに向かうようですよ。

【追記】
 今回の深堀りはお休みです。特に書きたいことが思いつきませんでした。また近いうちに次話を投稿できたらなと思います。


↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第74話 行き過ぎた誤解

 

 

 ────総帥、ラプラス・ダークネスより指針決定の命が下された。

 

 それに伴って、悪の秘密結社を乗せた巨大な方舟も歩み出す。長らく探し求めた、侵略者たちに奪われてしまったその惑星を目指して。

 

 

 件の暗殺部門救出作戦から約一カ月の期間、holoXが総本部を置く母艦はある星の近くに滞在していた。それは総帥らがホロベーダーとの接敵の際不時着した、例の【岩の惑星】。当時大幹部率いる本部組は作戦地域に展開していたラプラスらの迎えの為にその地を訪れており、以降惑星ふぁんたじあの捜索の間もそこから大きく移動することは無かった。その理由は単純に、”本部に帰還途中であった宝鐘海賊団の二番船が最後まで飛行していた地点”だからである。

 

 ひと月前の事件の最中、るしあ達は現本部を置く衛星コメット内にて異変が起きたとの報せを受ける。そして、その原因究明また解決の為に拠点への帰還途中であった。その後結果から言えばホロベーダーと遭遇しそうすることは叶わなくなってしまったが、難を逃れた今重要となったのは彼女たちが”その経路を辿って家に帰ろうとしていた”ということ。要するに、あらゆる事象を考慮した上でその惑星付近を通ることが衛星コメットまでの最短ルートであったということである。

 

 従って、ホロベーダーという障害を排除した後でも目的地の方角が分からない以上その場所から大きく動くべきではないという結論に至った。故に彼女達は任務完了からここまでの期間、ほぼ一定の位置で観測と停滞をしながら惑星の捜索を続けていたのである。

 

 

 しかし、そんな静寂も総帥の命により破られることとなり、現在のholoXは少々慌ただしい状況となっていた。

 惑星ふぁんたじあを目指すということ、それは即ち兼ねてよりラプラス・ダークネスの希望であった『惑星奪還作戦』が始動することを意味する。それに向けこれまでの滞在期間にも彼女達は準備を進めてきたが、現地入りが目前まで迫ったということで最後の調整段階に入ろうとしていた。

 

 

 まずは軍部、指揮を執るのは戦闘斥候部門代表の風真いろは元帥。また、その下には彼女の側近部隊である【ござる親衛隊】が並んでいる。彼らの仕事は組織自体の副司令官である大幹部鷹嶺ルイの協力の下兵士の招集や再配置を行い、同時に武器等の物資配給やその確認を担っている。未知の土地に出向き、見知らぬ敵と対峙することを想定し出来うる限りの戦闘準備を進めていた。

 

 

 次にそんな彼らに物資を提供する技術班、及び宇宙母艦の運行や観測を担う科学班。指揮は組織内でも圧倒的頭脳を持つ研究部門代表の博衣こより所長が執っており、彼女らの仕事は文字通り武器の製作や補充等である。本来の予定通りに事が進むのであれば、これからholoXは総帥の希望に沿い星一つを他の生命体から奪い返すことになっている。それを可能にするには大型の兵器や宇宙船が必要となるため、それらの整備に技術班が充たっていた。

 

 加えて、科学班は目的地までのルートを作成し実際の母艦操縦を行っていた。先日発見された惑星ふぁんたじあは現地点からそこそこ離れた場所に位置し、そこまでの運行や経路選びにもそれに適した人材を要するのである。

 

 ……更に、博衣こよりは単独で水面下で進められていたとある『新兵器』の調整も行っていた。総帥から許諾が下りたその兵器を実戦投入する為、より多くの情報を”第一号に学習させる”必要があるのである。

 

 

 そして、最後に外交的な問題に対する策を練る対策班。指揮は総帥ラプラス・ダークネス……と、宝鐘海賊団二番船船長潤羽るしあが執っていた。

 

 ある意味、惑星奪還作戦に置いて最も繊細かつラプラスにとって重要度の高いものが衛星コメット勢力との外交問題であった。現地に着き実際にホロベーダーと対峙して行く上でも、まずは宝鐘海賊団の残党と彼女らを含めた【新生ぺこランド】の住人と協力関係を結ぶことが一番望ましい。だが、それを行うには両陣営の確執があまりにも大きく、今回の騒動の始りともいえるその因縁が対外的な意味での結束を困難にさせるだろうと予想された。

 

 そこで彼女が協力を求めたのが、相手陣営の重役に位置する潤羽るしあである。ラプラスがこの件を率直に相談したところ、本人は「るしあが何とかする」と言い出した。結果彼女には厳重な見張りをつけることを条件に、一部アジト内の施設に踏み入ることと対策班に所属する許可が下される。また現地に着いた際には総帥の近くでの発言を許され、コメット勢力に対する説明と説得を任されることとなった。……更に、その段取りを組むため総帥、鷹嶺ルイと潤羽るしあ、湊あくあとを交えた数度の話し合いを設けるに至る

 

 

 ……そうして準備期間を確保しながら宇宙を漂うこと二日。ようやく彼女たちは、目的地であるその惑星へと辿り着いたのだった────。

 

 

 ******

 

 

 ……もう間もなく惑星ふぁんたじあに到着すると聞き、アジト内の中枢司令室にて吾輩達は集まっていた。

 

「──惑星ふぁんたじあの現在位置を確認、数分後観測室からの視認領域に入ります」

 

 その場に居た誰とも知らぬ管制官がそう言ったのを皮切りに、現場には僅かな緊張が走る。現在、この部屋には観測士や操縦官等を含めた多くの構成員達も同室していたが、全員が全員神妙な面持ちでその時を待っていた。当然、それは司令官席に座る吾輩も例外では無く、自分に特に何ができるわけでも無いのにとにかく気を張ってしまって仕方がなかった。

 

「……なあ、るしあ。向こうはもう吾輩たちの存在に気付いてるのか?」

 

 その重い空気に耐えられなかった吾輩は、思わず右隣に立つ彼女にそう声を掛けた。るしあは先輩方との橋渡し、交渉役として必要な存在であるためこの場に居ることを許されている。またコメットの勢力らとの会話は通信で行うことを想定しているため、司令室内で唯一外部マイクのある司令官席の近くに配置されていた。……ちなみに、吾輩の左隣には幹部が居て、その後ろには他三名とあくあさんが並んでいる。

 

「恐らくは……ホロベーダーの接近に即座に気が付けるように、コメットでは付近に飛行する物体には異様に敏感なのです。ある程度の範囲なら常に観測を続けているはずだから、通常通りならそろそろ知られていてもおかしくない。……でも……」

 

 そこまでを言って、るしあは口を噤んだ。

 

 ……実は、彼女には一つの大きな懸念があった。

 それは、まだ吾輩達が出会う前にしていた別動隊との通信。るしあ曰く、元々宝鐘海賊団の二番船はコメットで起きた不測の事態に対しその対処を行う為に帰路を急いでいる途中だった。またその際に会話を行っていた相手があの宝鐘マリン船長であり、それが彼女との最後の通信だという。それから何も出来ず、何も報せることができないまま早一カ月。結局コメットで起きたらしい不測の事態の結末も分からず仕舞いで、それにより発生してしまった被害や別れた仲間たちの安否を彼女はずっと気に掛けていたのだ。

 

「……心配、だよな」

 

「──いや、心配かけたなって気持ちの方が大きいのです。マリン達からしてみればるしあたちは何の連絡も無しに突然消息を絶ったってことになってると思うから……だからまずは、こっちで起きたことをちゃんと話さないと」

 

 吾輩にはその言葉が、彼女が抱いていた最も大きな気持ちであったのかを計り知れなかった。自分が心配だと思う気持ちと、相手に心配をかけてしまったと思う気持ち。そのどちらも彼女の中にあるというのに嘘は無いのだろうが、果たして今のるしあを本当に苦しめているのはどちらなのか……。

 

 そう考えてしまったラプラスは、何とか彼女を元気づけようと掛けるべき言葉を探す。だが、どれを取っても部外者の単なる無責任な言葉のような気がしてしまって、結局何も言い出せなかった。

 

 ────しかし代わりに、どこからともなく上がった声に彼女は僅かに希望の光を灯した。

 

 

「ッ……報告! 衛星コメットと思しき星から発射された、飛行物体を確認! ────あれは、宝鐘海賊団の宇宙船の様です!」

 

 

 その報告が聞こえたのとほぼ同時、その場の全員が中央前方のモニターへと視線を移した。そこには母艦がふぁんたじあに接近する少し前から星の外観が映っていたのだが、同様に付近にあった衛星コメットの様子もワイプによって映し出されていた。

 そして、そこから画面越しの肉眼でもわかる程度の小さな何かが、星の中から飛び出してくるのがわかったのだ。

 

「……どうやらお出ましのようね。各員、戦闘態勢を維持したまま通信の準備を。……どーせ、”彼女”が出てくるでしょうから」

 

 それが宝鐘海賊団のシンボルを掲げた海賊船型の宇宙船であると理解するよりも早く、幹部がそう言って部下たちに指示を出した。彼女からの話じゃ、吾輩達が留守の間来襲した宝鐘海賊団と既に一度通信でコンタクトを取ったことがあるらしい。そのことから考えれば、我々の接近にいち早く気付き飛び出してきた相手が例の”その人”である可能性は十分にあり得るだろう。

 

「こっちの存在に気付いてからの、迅速な対応……少なくとも指揮系統に問題がある感じでは無さそうだな」

 

「……マリン……」

 

 わざと隣のるしあに聞こえるように、吾輩はそんな言葉を並べた。

 けれど実際、これらの行動は相手側にある程度の余裕が無ければ出来ないものだと思われる。所属の分からない、或いは目的の分からない飛行物体を確認した途端その対処の為人員を割き接近して来た。つまりはそれを指示する指揮系統や、それに宛がう人材が順当に回っていることを意味している。勿論るしあを元気づける意味合いも十二分にあったが、同時に何日も前に起きたらしい異常事態に対しては何らかの解決が成されているんだろう。ともすれば、その件に関して一旦そこまで深刻に考える必要もないかもしれないな。

 

「……って言っても、船”二隻”しか出てこないよ? このでっかい丸いのを見て、あんなぽっちで対抗しようとしてくるかな普通」

 

「確か、宝鐘海賊団は全部で三隻から成る艦隊……そう言えば、どっちの船も見覚えがあるでござるな。あっちが一番船で、後ろに続いて来るのが三番船……でござるよね? あくあ殿」

 

「えっ? ……スゥー……う、うん、そうだよ……」

 

 吾輩の背後で、そんな会話が聞こえた。当たり前のようにそう尋ねるいろはと、殆ど話したことが無い中でいきなり声を掛けられ驚いた様子のあくあ先輩。またクロヱの言う通り、思ってみればこの巨大な母艦を前にたった宇宙船二隻で近寄ってくるのは流石というか肝が据わり過ぎているような気もした。

 

 ……或いは、それ以上の人員を避けないという事なのか……。

 

「──報告、たった今宇宙船が短距離通信可能範囲に入りました。……既に、向こうから前回と同じ回線での放送を受信しています」

 

「了解。では音声再生の準備をしつつ、応答要請を出して。こちらに『敵意は無い』ことも伝えていいわ」

 

「御意」

 

 再び上がったその報告により、場の空気は最高潮に張り詰める。かくいう吾輩も額に冷や汗を滲ませて、鼓動が急激に速くなるのを感じていた。大丈夫、落ち着け……今のところ、会っていきなり戦闘になるみたいなことにはなってない。なら後は、相手にこっちには戦う気が無いってことが伝わってくれれば、少なくとも聞く耳ぐらいは持ってくれるはずだ……。

 

「……相手側の通信要請、受諾を確認。向こうの音声を流します」

 

 一人のholoXerがそう言った後、室内に小さなノイズ音が走った。

 

 

 

『────あー、あー……あっ、Aho-y……え、えーっと、holoXの皆さん? 遠路はるばる、どうしてこのような場所にいらっしゃったんでしょーかー……?』

 

 

 

 スピーカー越しに聞こえてきた弱々しくもその懐かしい声音に、吾輩は少しだけ目を輝かせてしまった。あぁ……なんか、随分と久しぶりにこの人の声を聞いた気がする。

 

『……あら、お久しぶりですね。その節はどうも、宝鐘マリンさん?』

 

『っ! ……こ、これはこれは、鷹嶺ルイさん……いえいえ、こちらこそ大変お世話になりまして……』

 

 まずは手始めに、以前の邂逅にて既に話をしたことがある幹部が応対する。敬語ながらに妙に威圧感のある幹部と、それに怯えるように下手に出ているマリン先輩。吾輩の世界とは真逆のその光景を前に、しかし何故か先輩の性格上凄くしっくりくるように感じられてしまった。

 

『……あー、えっとー、それでー……私達の様な弱小で矮小な組織に、一体何の御用でしょうか……?』

 

『宝鐘マリンさん、本日我々は偉大で崇高なる大悪魔様の命によりこの地を訪れました。……総帥、ラプラス・ダークネスがあなたとの対話を希望です』

 

 そこまでを言うと、幹部が自分に向いていたマイクを吾輩の方に譲ってきた。そして同時に、にこっと微笑みながら目で『話してどうぞ』と訴えかけてくる。……いや、ちょっと待って!?こんなところで譲りますかね普通?!

 

『…………。』

 

 しかし空気を読むように、向こうもまた何も言わず黙ってこちらの応答を待っていた。くそっ。ここまでされたら、総帥である吾輩が話さない訳にはいかないか……元々、本題については吾輩とるしあで説明することになってるしな。

 

 そう思ったラプラスは、意を決してゆっくりと口を開く。まずは、自分達が何のためにこの場所に来たのかを説明しなくては。

 

 

『──刮目せよ、吾輩は……秘密結社holoX総帥、ラプラス・ダークネスだ』

 

 

 初めに何と話を切り出していいのか分からず、困った悪魔は一先ずいつも通りの口上を述べた。

 

『はっ……ははぁー、お初にお目に掛かりますラプラス様っ! 本日は、えっと御日柄も良く、こんな辺鄙な星に直接足を運んでいただけるなんて……お、お話は兼ね兼ね窺っております、はい! この度はどういったご用件でございましょうかー……』

 

 早口で、捲し立てるようにそう言う彼女に吾輩は若干気圧される。ノリと勢いで乗り切ろうとするところが、かなり先輩らしい。……でもやっぱり、そんな余所余所しい感じで話されると傷付くな……。

 

『……今日はお前ら宝鐘海賊団に話があって来た。一先ずこちらに敵意は無いから、耳を傾けてくれると助かる』

 

『話っ! 話ですね! 一体どんなお話でしょうか、我々にわざわざ言いたいこと……あっ! もしかして例のお仲間の件ですかっ? それに関しては本当に申し訳ないんですが、こっちの管轄外というか……何というか……』

 

 まず一番初めに、こちらに敵意が無いことを相手に説明する。けれど、向こうはそれを信じきれないのか早々に話を切り上げたそうにしていた。うーん、出来ればもう少しだけ聞く耳を持ってほしいんだけど……。色々と事情が事情なだけに、こっちもちゃんと順序だてて話をしたいし……それに、例のお仲間って何のことだ?

 

『仲間の件?』

 

『あー……えーっと、その件でいらしたんじゃないんですかー……? ほら、こちらが捕らえてしまったと言いますか、事故と言いますか、一応人質だか何だかにしてしまったあの……』

 

 突然持ち出されたその言葉にいまいちピンとこなかったラプラス。が、続けて聞いたそれでようやく重要なことを思い出した。

 そう言えば、向こうからしてみればるしあ達の安否が分からない=護送していた筈の人質の行方も分からなくなってるって認識なのか。そしてこっちのドッグタグの存在を知らない以上、吾輩達が完全に孤立していたるしあ達の下に辿り着けるわけがないと思っている筈。つまり、捕虜ごと仲間が消息不明となり、またそれを知らない吾輩達がクロヱ達を助けに来たんじゃないかと考えてるってわけか。

 なるほど。なら、まずはその誤解を解いておいた方が良さそうだ。

 

『あー、そのことか。それに関しては既に解決してるから心配いらないぞ。沙花叉クロヱを含めたウチの部下たちは、全員ひと月前に無事救出してるからな』

 

 話の混濁を防ぐため、ラプラスは先に相手の誤解を正そうと試みる。事実、宝鐘海賊団に捕らえられていた暗殺部門所属の構成員は皆総帥によって保護されていた。

 

 

『────は? ……ひと月前に、救出……?』

 

 

 だが、そう思ったラプラスの思惑とは裏腹に、一瞬宝鐘マリンの声音が重くなった。

 

『……お聞きしたいのですが、ラプラス様。”救出した”とはどういう意味でしょうか。……確か、こちらで捕虜としていたあなた方の仲間は、ウチの部下が護衛していた筈ですが』

 

『ん? どういう意味も何も、そのままの意味だが? 潤羽るしあ管轄の海賊船に吾輩自ら出向いて、全員を助け出しただけだ。……まあ、その時に色々あって船の方は壊れてしまったが』

 

 ありのまま、起こったことを話すラプラス。実際その中に嘘は無く総帥自ら現地に向かった事も、その際不可抗力で海賊船を破壊してしまった事も本当のことであった。

 

 ──だが、真実は時として、話す者の話し方と相手の捉え方によって最悪な認識へとすり替わる。

 

『……なるほど、そういうことですか。だからるしあたちとの連絡が……ちなみにもう一つ尋ねたいのですが、その時現場にウチの仲間が二名程いませんでしたか?』

 

『あぁ、居たぞ。潤羽るしあと湊あくあだろ? ……安心しろ、二人ともこっちで保護してるから』

 

『ッ!!?』

 

 マイク越しにでも分かるほど、マリン先輩の息が詰まったのを感じた。

 やはり、これまでずっと行方不明であったはずの二人が今生きていると分かって、恐らく先輩は嬉しさのあまり言葉を失っているんだろう。途中から真剣な口調になってたし、きっとそれだけるしあ達のことを大切に想ってるんだろうな。

 

『……さて、それじゃあ本題だ。最初にも言った通り、吾輩達は争いに来たんじゃなく話をしに──』

 

 仲間想いである彼女に感動しつつ、ラプラスは言葉を続ける。……未だ秘密結社holoXを襲来した敵であると認識している宝鐘マリンに対し、大悪魔ラプラス・ダークネスがその大切な仲間二人を”保護している”という言葉の意味も考えぬままに。

 

 

『────理解したんだワ。よーするに……船長たちがやった事への、仕返しってことですよね? 捕虜を護送していたウチの二番船を襲撃し、”こっちの仲間を人質に取って”!!』

 

 

『……ん?』

 

 突然、何かが腑に落ちたような反応を示す船長。

 同時に、今度は何故か強気の口調でそう言い出した。その声音は、明らかに怒りを抱いている人のそれである。

 

『は? え、ちょっと待て……何の話?』

 

『とぼけなくていいですよ。そりゃあそうですよね、あの天下のholoX様があの時船長たちをみすみす逃がしてくれるなんておかしいと思いました。……船長たちがその本拠地を訪れた時、既に裏では別の作戦が動いていたってことですよね。……ッ! だからあの時、通信に出たのが鷹嶺ルイさんだけだったってこと!?』

 

『???』

 

 いきなり心当たりの無い怒りをぶつけられ、ラプラスは混乱のあまり抱いた疑問をそのまま口に出す。けれど、それすら悪魔の話術の一環であるとしてマリンは更に怒りを強くした。

 

 結果、先走った感情と共に思い込みが加速する。

 

『あー……ちょっと、一旦落ち着けマリン船長。何か勘違いしてないか……?』

 

『勘違いなんてしてないですよ。そっちがるしあ達を人質に、今度は我々宝鐘海賊団に要求を呑むように強要しに来たってことですよね? ……あぁ、それとも『勘違いするな、holoXはお前達みたいな弱小組織を潰すのに人質なんていらない』って意味ですかっ!?』

 

『…………あ。』

 

 未だ理解の及ばない中、ラプラスは一度話を整理すべく落ち着くようマリンに促す。けれど相手は、自分は至極冷静であるといった具合で語気をより強めた。話し方も段々饒舌となり、敬語が混じりながらもいつもの彼女の調子に戻って行く。

 

 ……そして、その過程で拾った単語を組み合わせラプラスはようやく彼女の過ぎた思い込みに気が付いた。けれどそれは思い返せば、確かに自分の言い方があまりにも悪すぎた結果である。部下を救出した、船を壊した、お仲間を二人保護した……それは捉え方によっては、吾輩が部下を助け出すために二番船を襲撃し、その際ついでにるしあ達を捕縛したと思われても仕方ないではないかと。

 

 加えて、自分が相手からどう思われているかの認識が甘すぎた。いきなり現れた悪の組織の親玉にそんなことを言われたら、そりゃ勘違いも起きるしあまりにも良くない方向に話が進んでしまうのも当然だ。

 

『……ま、待て待てマリン船長。さっき吾輩が言ったのはそういう意味じゃなくてだな、単にこっちが部下を助けに言った時に海賊船がホロベーダ―に襲われて、それを助けたというか……』

 

『ホロベーダ―……ッ!!? ま、まさか、あの外敵もあなた達の差し金!?』

 

 ああーっ!マズい、超マズい!吾輩が喋れば喋るほど、どんどんマリンさんの勘違いが加速してる気がする!!違う、そーいう事じゃなくて、吾輩はただるしあ達を家まで送りに来たかっただけで……!!

 

 混乱のあまりうまく誤解を解けないラプラスと、思い込みが激しくなるマリン。そんな両者の話し合いは平行線で、むしろ最悪の一途を辿ろうとしていた。

 

 

 ──とその時、慌てる悪魔の肩にポンと誰かの手が乗った感触が走る。

 

 そのことに驚きつつラプラスが振り返ると、そこには呆れたような顔をする友人の姿。そして、「どうした?」と問うよりも先に彼女はマイクの先端を自分の方に向け大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

『────マリンッ!!! いいから、とっととるしあ達を通して欲しいのです!!』

 

 

 

 キーンと音が鳴るほどに、るしあは大声でそう叫んだ。

 

『へ……え、あ……る、るしあ……?』

 

『マリンっ! 何を勘違いしてるのか知らないけど、るしあ達は別にラプラスに何にもされてないのです! むしろ、すっごく良くして貰ったし助けてもらったんだから。……だから取り敢えず、さっさとそこを通して! 詳しい話はちゃんと面と向かって話すからッ!!』

 

 酷く困惑した様子を見せるマリン先輩に対し、そんなことはお構いなしにるしあは続ける。それはまるで言葉で殴るようであり、あまりに話を理解しない彼女を無理矢理納得させようとしていた。

 

『ちょ、ちょっと、どういう事? るしあ……あっ! も、もしかしてholoXに脅されて喋らされてるとかっ? そういうことならもう大丈夫! 船長が必ずるしあ達を助けるし────』

 

『あ゛? ……聞こえなかったのマリン。早く通せつってんだよ』

 

『……あ、はい……。』

 

 言葉の圧に任せ、一方的に話を終わらせるるしあ。そんな友人の姿を目の当たりにし、吾輩は正直若干引いてしまっていた。えー……るしあって、マリンさんとかの前だとそういう感じなのか……。

 

「……あ、ごめんラプラス。あまりにももどかしくて、つい口を挟んじゃったのです」

 

「えっ? あ、いや……まあ、それは別にいいんだけど……」

 

 言いたいことを言えてすっきりしたのか、るしあはそう言いつつマイクをこちらに戻してくる。けれど、どうしても吾輩は先程の彼女の様子が忘れられないでいた。

 

「……ていうか、ラプラスもラプラスなのです。さっきの言い方は誤解されても仕方ないでしょ。ちゃんと馬鹿なマリンにも伝わるように話さないと」

 

「えぇ?! ……あー、まあ、そうだな……すみません……」

 

 しかもその過程で、とばっちりの如く吾輩もまたるしあに怒られてしまった。まあ確かに、吾輩もだいぶ言い方とか悪かったけどさ……いや、怒鳴られないだけまだマシと思うべきか……。

 

『あー……えっと、コホン。と、ということでマリン船長? 吾輩達はただ本当の意味で、こっちで保護したるしあとあくあさんを家まで送りに来ただけなんだ……あ、あとついでで話したいこともあって、出来れば直接会って話をさせてくれないかな……と……』

 

 自分のところに戻って来たマイクを前に、今度はラプラスの方がたどたどしくそう説明をする。その際終始言葉に気を付けつつ、かつ隣に立つるしあの顔色を窺っていた。

 

『あ、はい、そういうことでしたか……な、なんというか、すみませんでしたこちらも……。えっと、ではこちらの船で着陸場まで誘導しますので、そちらで宇宙船を出していただけたら……』

 

『あ、はい。お願いします……。あっ、それと一応そこそこの人数を護衛として引き連れて行くんですけど、念のためというか、流石に無防備に総帥を行かせるわけにはいかないって言う部下の計らいなんで、あんまり気にしないでいただけると嬉しくて……』

 

『あ、わかりました、了解です。……で、ではこちらも一度本部にその旨を報告しますので、準備が整い次第またご連絡させていただきますぅ……』

 

 先程までと打って変わり、彼女達はなんとも余所余所しくまるで慣れないビジネスシーンのような会話を繰り広げる。そして一先ずの段取りを説明した後、一度話を持ち帰り準備をするというところで通信は終了となった。……なんか、色んな意味でどっと疲れた気がする……。

 

「はぁ……まあこれで、一旦は話をする場を設けてもらえるか……」

 

 マイクの入力をオフにし、一気に肩の力を抜いたラプラスは椅子の背もたれに項垂れる。そして天井を見上げながら、ハァ~とため息を吐き出した。

 

「お疲れ様なのです、ラプラス。……途中、ちょっと冷や冷やしたけど」

 

「えっ!? あ、あぁ、そうだなー……も、もう少し端的に話すべきだった……」

 

「そうなのです。二番船の中でるしあを口説いてくれた、あの時のカッコいいラプラスはどこに行ったの。……それに、まだ終わりじゃないんだからしっかりしてよね」

 

 脱力するラプラスであったが、再びるしあから声を掛けられたことによりビクっと身体を跳ねさせる。そして、咎めながらも真っすぐで熱い視線を向けてくる彼女に更に気圧されてしまった。

 るしあに期待されたり、頼りにされることは心底嬉しい筈なのだが……あれ、もしかして吾輩の知らないうちにそれがだいぶ大きくなっちゃってない?

 

「……ラプ? 落ち着いたところ悪いんだけど、ちょっといい? 向こうからの連絡を待っている間に、こっちも色々準備をしておきたいの」

 

「え? あ、あぁそうだな……幹部、宇宙船の手配をしてくれ。それと、本船には吾輩とるしあとあくあさんは決定で、それ以外の乗る人員はそっちに任せる。ついでに他に護衛の船を出すならそれもお前の采配でやってくれ」

 

「了解、総帥。直ぐに用意するわね」

 

 そう言って、幹部は颯爽と部屋から出て行った。その際こよりといろはを一緒に連れて行き、司令室には吾輩とるしあ、クロヱとあくあさんだけが残る。

 ……結果、残された者達は前者後者の二人ずつで少量の言葉を交わした。けれどそれは本当に他愛もない、ほんの雑談程度のもので──

 

 

 ────それ以降は、皆静かに両陣営の準備が整うを待っているのであった。

 

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