転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

87 / 92
 第75話です。早めの投稿をしようと思っていたのですが、気付けば三週間弱経ってしまっていました。時の流れが速すぎて困惑せざるを得ませんね。

 さて、前回はラプ様がこの世界で初めてマリン船長と対話しました。それは多くの者たちが聞いている中での通信だったので互いに本心は語り合えませんでしたが、それでもラプ様にとっては非常に嬉しい出来事でした。(多分)
 しかし、その通信はいつも通り穏便に済むはずも無く、危く新たな火種を生むところでもありました。ラプ様が口下手であり、かつ船長もまた思い込みが激しいところから一歩間違えればまたしても戦いに発展していたかもしれませんね。ですが、今回はそんな煩わしいすれ違いを未然に回避してくれたのが前章で契約を交わしたるーちゃんでした。彼女の優秀且つ、物怖じしない性格によりマリン船長を強制的に黙らせ、要らぬ誤解を解消することが出来ました。(かなり無理矢理でしたが……)
 ともあれ、これでようやくラプ様たちは衛星コメットに赴くことが出来ます。果たして、その先では一体何が起きるのか……。

【追記】
 今回も深堀シリーズはお休みです。
 というより、最近また書き始めて気が付いたのですが、(なんか深堀りしたいこと無いな~)と思ってたんですけど多分これここに書くことが無いくらい本編で色々書いてるってことだと思うんですよ。今までここでは本編に書き切れないor書くほどでもないことを深掘っていたのですが、最近妙に本編の文字数が増えてそれ故に書きたいこと全部書いてるのが原因だと思うんですよね。

 よって、暫くこの欄は設けないようにして、書きたいことが出来たらその話にだけ書くようにしようと思います。また感想等で質問などあればここで答えるのもいいかもしれませんね。

↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第75話 上陸、新生ぺこランド!

 

 秘密結社holoXの中枢司令室、そして宝鐘海賊団の一番船とを繋いでいた短距離通信会話。それが終了して暫くの後、先方から『準備完了』との報せが入った。

 

 

『──大変お待たせしました、秘密結社holoXの皆様。こちら受け入れの準備が整いましたことをご報告させていただきます。先導はこの私、宝鐘マリンが担当させていただきます。我らが【新生ぺこランド】の住民一同、心より皆様のご来訪をお待ちしております』

 

 

 まるでマニュアル通りの言葉の羅列。一部聞き覚えのある単語が含まれていたものの、基本は単なる社交辞令で上っ面だけの台詞の並び。

 しかし、不思議とそこから敵意や悪意のようなものは感じられなかった。

 

 故に吾輩たちは彼女達からの誘いを『問題無し』と判断し、幹部らの用意してくれた宇宙船に乗り込んだ。そのわざとらしく、怪しさ万歳の海賊たちに導かれるように──。

 

 

 ******

 

 

 ルイの指示で、本部から多くの宇宙船が出動した。その数なんと、大中小合わせ計十八機。

 その内、吾輩たちが乗っている本艦は最も大きな宇宙船であり、それと同等なものが左右に一隻ずつ自分たちを挟むように存在していた。更にその外側には中型、小型の順に船が飛行し隊列を組んでいる。

 その光景はまさに、宇宙を漂う大艦隊であった。

 

 加えて、その背後には巨大な宇宙母艦。彼女は我々の目的地である衛星コメットの少し外側の軌道を並列して回り、この艦隊の援護を担当している。仮に、この場で誰かが不審な動きを見せようものなら、突出した砲口から即座に砲撃することを可能としていた。

 

 それだけの重護送、見ての通りネズミ一匹通さぬような鉄壁の布陣。そんな彼らに守られながら、吾輩たちは少し先を進む小さな海賊船の後を追っていた。更にそこに同船するは、鷹嶺ルイ・博衣こより・風真いろは・沙花叉クロヱ、そして組織の客人待遇である潤羽るしあと湊あくあ。それは今出来うる限りの最大戦力を有しており、その安心感は例えこの道中で突如ホロベーダーが現れようとも返り討ちに出来るだろうという気さえ感じさせた。

 

 

 ……しかし、そんな慎重に慎重を重ねた航行は特に大きな問題が起ることも無く進行する。そして遂に、目的としていた場所へ大きく接近した。

 

 宇宙船のモニターから見える外側の景色には、辺り一面の”灰色の大地”が広がっていた。所々の岩肌が抉れ、何か強い衝撃を受けたような凹凸。恐らくクレーターであろうそれは飛来した隕石の痕跡であり、この衛星が長年惑星本体を守る役割を果たしてきただろうことが窺える。

 

 そして、その灰色で何もない大地に場違いのようにポツンと存在していたのが、『超巨大なドーム状の光』の集合体であった。中央には国一つを丸々覆えそうな程大きな半球体、そこから上下左右に一本の線が伸びて先端に一回り小さな円が連なった十字型を形成している。

 同乗していたるしあ曰く、ドーム状に光るそれは魔法によって作られた結界なのだそうだ。その主な役割は空気をその場に留めたり、温度を一定に保ったり、その他有害なものを遮断する機能を持っているらしい。更には物理的耐性も備えているらしく、万が一の侵略者からの攻撃を防ぐ防御壁としての役割も担っている。

 そして、そんな結界の中に存在するたった一つの”国”こそが、彼女ら宝鐘海賊団の本拠地……そして、もう一つの故郷。

 

 

 ────衛星コメット唯一の生存可能領域。女王【兎田ぺこら】の治める、『新生ぺこランド』であった。

 

 

「……凄いな。星の表面に、兎の女王が治める国か……」

 

 holoXの総本部を出発してから、僅か数十分。間もなく本船はコメットに到着し、念願の帰還が叶おうとしていた。

 されど初めての土地への着陸には相応の時間と用意が必要らしく、実際に着いてからも吾輩達には宇宙船内での多少の待ち時間が発生する。しかし逆にその僅かに生じた余暇を有効活用しようと、吾輩は隣に座るるしあからこの星や国のことについてを雑談程度に聞いていた。

 

 その過程で知った(と表向きはしている)女王様の実態、兎田ぺこらという兎の獣人がこの国を治めているという話。それを聞いて、吾輩は場違いにも『月にはうさぎがいる』という日本の昔話を思い出していた。まさかこんな遠く離れた土地で、そんな空想を本当に実現させているなんてな。

 

「大昔のふぁんたじあでは、元々コメットにはある種族が住んでいるという言い伝えがあったのです。それが”青人”と呼ばれる人たち……ぺこらは、その末裔とふぁんたじあの住人両方の血を引いてるのです。だからホロベーダーの襲来によって入り交じってしまった彼らの橋渡し的な意味も含めて、あの子が先導者として一番の適任だった」

 

「せい、と……?」

 

 膨大なエネルギーを用いて、出来る限り少ない衝撃で宇宙船が地表への着陸を果たす。結果その揺れは走っていた電車が駅に着いたくらいの感覚に収まり、特別触れる話題でも無かった。

 故に吾輩は、彼女の説明の中で最も気になった単語について聞き返す。

 

「青人族、今は青い人って呼ぶのが一般的。青っぽい髪に超人的な身体能力、おまけに少ないエネルギーで長期的に生命活動を維持できる凄い種族なのです」

 

「ほぇー、それが月の……いや、コメットの兎ってわけか? 凄いんだな」

 

「あぁ、いや……兎人の性質はふぁんたじあの方。そもそもぺこら自身はただの混血で、一番色濃く両者の血を引いていたのはあの子のお母さんなのです。聞いた話だとぺこらのおじいさんが兎人族で、おばあさんが青人族だって言ってたかな。どんな経緯でその二人が出会ったのかまでは知らないけど……だから、少なからずぺこらもぺこらのお母さんもその特性を引き継いでいるのです」

 

 なるほど、どうやらぺこら先輩の生まれは少々複雑なようだ。

 要約すると、その昔何らかの経緯で兎人の男性と青人の女性が出会い、結ばれた。そしてその娘としてマミーさんが生まれ、更にそこからぺこらさんが生まれたと。つまりはママさんが両種族のハーフで、ぺこら先輩がクォーターというわけだ。とすれば確かに、ふぁんたじあとコメットを纏める人物として先輩は適任かもしれないな。

 ……ていうか、この世界にもぺこらマミーさんいるのか。なにそれ超絶会いたいんだけど。

 

「……まあでも、この話題はあんまり外では出さない方が良いかも。特に、青い人たちの話は……」

 

「え? なんでだ?」

 

 ラプラスがまだ見ぬ他人の母に想いを馳せていると、るしあがそんなことを言い出した。しかもその表情は非常に硬く難しげで、言うなれば”困りごと”のように思えた。

 

「……るしあ達ふぁんたじあの勢力がこっちに逃げてきてから、もう数十年。それでも未だに確執や揉め事が起きるのです。彼らにも歴史や文化があって、私達はそこにお邪魔させてもらってる身だから……」

 

 その言葉を聞き、ラプラスはほんの僅かだが話を出してはいけないという理由を理解した気がした。要するに、これまでの経歴や所属の違いによる問題を助長してしまう可能性があるという事だろう。

 ホロベーダ―に星を追われ、コメットに逃げてくるしかなかったふぁんたじあの人々。けれど、それが元々ここに住んでいた青人族の生活を圧迫することに繋がるだろうことは想像に難くない。それでも両者の血を引くぺこら先輩が先導している以上あからさまな格差はないかもしれないが、それを抜きにしたって上手く事が運ばないのが人間関係というものだ。

 

 種族も違う。故郷も違う。文化も、歴史も違う。……それでも今、皆が一つにまとまりここで暮らしているのは……ひとえに、ホロベーダ―という共通の敵を持っているからかもしれないな。

 

「……わかった。軽はずみに口にしないようにする」

 

「その方が賢明なのです。……さて、そろそろ降りられそう?」

 

 そこまでで話を打ち切り、完全に停止したらしい宇宙船を見てるしあがそう言った。するとその声を聞いてか聞かずか、吾輩たちの近くに立っていた眷属が一人そっとこちらに近寄ってくる。

 

「……ラプラス様、少々よろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

 しかし、その男は何故か何かを訝しんだような険しい顔をしていた。そして「一応お伝えしておこうかと……」と前置きをしつつ、吾輩にだけ聞こえるように少し屈んで──

 

『──これだけの艦隊を迎えるには、出張ってくる人数が明らかに少ないようです』

 

 と、耳打ちをしてきた。

 出てくる人数が少ない……?それってつまり、これだけの艦隊を出迎えるにしては先輩たち側の人員が少ないって意味か?んー……その理由はよくわからないが、そこまで気にすることかなぁ。単に今人手が足りないのか、或いはそれだけ信用してくれてるってだけかもしれないし……。

 

「わかった、一応気には留めておく。引き続きこの宇宙船と”衛星の付近”を見張れ。……降りるの自体はもう行けるか?」

 

 一先ずはその報告を頭に入れておくとし、ラプラスは継続して他の宇宙船による護衛体制を崩さぬよう促す。当然、それには自分達も含まれていたが、同時にこの”衛星コメット自体”をも対象としていた。

 

 ──忘れてはならない。ホロベーダ―は、宇宙空間を自由に浮遊できる。そして今、吾輩達は奴等に侵略された惑星のすぐそばに居るのだ。またいつ突然襲われるかも分からないし、警戒するに越したことは無いだろう。

 

「了解しました。……はい、たった今下船の準備が整いました。外界の環境も問題ありませんので、いつでも出られます」

 

「よし。……だそうだ皆、早速会いに行ってみようじゃないか」

 

 その場に居た全員に視線を向けつつ、ラプラスはおもむろに口を開いた。するとそれを聞いた彼女たちが、待ってましたと言わんばかりに席から立ち上がる。

 

「……ようやく、帰ってきた。早くぺこらたちに事情を説明しないと……」

 

「そ、それに……せんちょー、達にも話ししないと……スゥー……皆、心配してただろうし……」

 

 るしあが長かった旅の終わりを噛みしめつつ、これからの行動について考える。対しあくあは、ずっと連絡することが出来なかった仲間たちを案じていた。

 

「兎の女王、青人、そしてホロベーダ―……警戒すべきことが多いけれど、こっちにも準備がある。──まずは、”彼女”に色々と聞かせてもらわないとね」

 

「ん? それってあの、空気の読めないなんたらマリンって人のこと? ……そーいえば、確かに。沙花叉にも”もう一人”借りを返さなきゃいけない奴が居たっけ」

 

 新天地を前に警戒を怠らず、その上で知りたいことが山ほどあると暗黒に笑うルイ。またそれに合わせるように、クロヱにも他に恨むべき相手が居たと拳を鳴らした。

 

「……む? こよちゃん、何を見てるでござるか? ……あの街を覆ってる光がどうかしたの?」

 

「え? あぁ、ちょっとね。さっきるしあさんが結界で大気の調整をしてるって言ってて、どういう仕組みか気になってたの。……魔法について、こよも勉強しないといけないと思って」

 

 皆が少しずつ操縦室を出ようとしている最中、侍はその場から動かずずっとモニターを見上げていたこよりに気が付いた。すると彼女は、自前のメモ帳に何かを書き記しつつそう答える。……その瞳には、科学者としての熱い何かが灯って。

 

 

 ────こうして、彼女達はそれぞれの想いを胸に灰色の星へと足を踏み出したのだった。

 

~~~~~~

 

 

 吾輩達が宇宙船から降りると、すぐに透明なガラスのような何か覆われた通路に出た。

 気温は少し肌寒いくらいで、思ったよりも高くない印象。また上を見上げれば、広大な星々の海を背景にどんより澱んだ惑星ふぁんたじあが視界一杯に浮かんでいた。

 

 話によると、この星の停泊場の仕組みはまず宇宙船を着陸させた後その出入り口を覆うようにしてチューブ型の道を被せるのだとか。例えるなら飛行機の搭乗・降機の方式に近く、こうすれば空気の薄いコメットの外気に触れることなくドームの内側に入ることができるらしい。……ただ、その最中に覗けてしまった壁の向こう側の景色は、ずっと先まで何もないとても寂しいものだった。

 

 

 そして吾輩達は、たった今連結されたばかりの廊下をぞろぞろと奥へ進んだ。非常に殺風景で、自分達の歩み以外に音が無い道。薄暗いこともあって余計に気温の低さを感じていたが、それも開けた場所に出る頃にはさほど気にならなくなっていた。

 

 ──狭い廊下から、急に広い広場のような場所に着く。すると、そこには既に複数名の集団が並んで立っていた。

 そして、その中でも特に目立ったある人物が一人、こちらに歩み出てくる。

 

 

「──Ahoy~! 秘密結社holoXの皆様、直接会うのは始めまして。私が宝鐘海賊団総督、船長宝鐘マリンでございますぅ~♪」

 

 

 黒い右目の眼帯に、♡マークの付いた海賊ハット。赤と黒のコートに半分程度両腕を通した赤い髪の女性が、少し色っぽい声でそう言った。

 

「「「……。」」」

 

 しかし、そんな彼女の行動や言動を見ても誰も何も言わなかった。いや、正確にはその場に居た全員が何と反応したら良いのかわからなかったというのが正しい。特に初対面であるはずの吾輩たちと違って、彼女と親しい筈のるしあ達が何も返さないことでより一層対応に困らされた。

 

「……。」

 

「……あっ! るぅたん! 本当に無事だったんですね~♪ 船長すっごく心配したんだワ~♡」

 

 けれど、肝心の本人はそんなことは全く気に掛けていない様子であった。それどころか、るしあの存在に気が付いたらしいその人は追い打ちわざとらしい撫で声を披露する。そして、パタパタと長い裾を振りながらこちらに駆け寄ってきた。

 

 ……だが、そんな彼女に対し名を呼ばれた者は──

 

 

「────キツイから、やめて」

 

 

 と、心底鬱陶しそうな顔で言っていた。

 

「がーんっ! ……うぅ……折角の感動的な再会なのに、るぅたんったら相変わらず素っ気ない……かくなる上は、もう一人のウチの子を……」

 

 鋭い眼光で舌打ちを鳴らし、本当に嫌そうなるしあ。だがその者は彼女のそんな邪険な扱いにもめげたりはしなかった。それどころか、るしあがダメならと次の標的を探すべく横に並ぶ吾輩たちの方に視線を移す。

 

 ……そして直後、新人の後ろに隠れていたお目当ての人物を発見し、飛び掛かった。

 

「あっくたーんっ!! 見ぃ~つけた! もーすっごく心配したんですよ~? ちゃんと夜更かしせず、毎日しっかりご飯食べてたの~♪」

 

「あっ、わわ……ちょ、ちょっと、船長……」

 

 折角身を潜めていたのに、その甲斐虚しく呆気なく捕まるあくあ先輩。そして皆の前で抱き着かれ、そのままぶんぶんと振り回されていた。

 

 ……しかし、その者の行動を見てラプラスは若干ホッとしていた。なんか、この人は相変わらずだな。立場や環境による違いを若干警戒していたけど、どうやら根っこの部分では吾輩のよく知るあの人とてんで違いはないらしい。

 

「せ、船長っ……やめ、皆見てるし……」

 

「ほら、マリン! 恥ずかしいところ見せないで。大事な話があるんだから早く案内してよっ!!」

 

「あくた~ん♡ 相変わらず小っちゃくて可愛いですね~♪ あっ! るしあたんがこっち見てくれた♡」

 

 誰彼構わず愛想を振りまき、というより愛をばら撒くその人物。それを外野である吾輩達は少々呆れたり、不思議に思いつつも黙って見ていることしか出来なかった。

 

 けれど最終的には、本気でキレだしたるしあにグーで殴られたことによって、その者──【宝鐘マリン】先輩の暴走は止まったのだった。

 

 

 ******

 

 

「────えー、コホン。恥ずかしいところをお見せしました。……改めまして、宝鐘マリンです。holoXの皆様、この度は我が同胞をこの地まで送り届けて頂けたこと心より感謝いたします。積もる話もあるかと思いますので、まずはこの場の全員を議会の席にご案内します。──そちらの方が、御噂のラプラス様ですか?」

 

 気を取り直し、再び礼儀正しい姿勢を取るマリン船長。そしてきちんとした言葉運びの下、囲われる護衛の中心に立っていた吾輩に向かってそう尋ねてきた。

 

「あぁ、初めましてマリン船長。吾輩が秘密結社holoXの総帥ラプラス・ダークネスだ。……不躾な訪問で悪かったな」

 

「いえいえ、とんでもございません。最初こそ警戒いたしましたが、先刻の通信でその必要は無いと理解しました。……詳しい話をまだ聞けていない為恐縮ではございますが、どうやらウチの船員二名を助けていただいたご様子。その慈悲には感謝の念が絶えません、本当にありがとうございました」

 

 彼女からの質問に答えるように、吾輩は自身の肩書を明かす。すると船長は引き続きより丁寧且つ、相手を敬う姿勢を見せた。それは言葉だけに留まらず、なんと吾輩の前まで歩み寄って来てから片膝をつき、そして頭を垂れながら両手を合わせ感謝を伝えてくる。……その姿は、先程までの明るくおちゃらけた彼女とは一線を画している。宝鐘海賊団という組織の長として、受けた恩に対する正しい態度を示していた。

 

「……いや、気にしないでくれ。不慮の事故があったというか、海賊船の件に関しては半分こっちも悪いみたいなもんなんだ。……取り敢えず、吾輩達からもるしあ達からも話を聞きたいだろうしその議会の席?とやらに案内してくれ」

 

「了解しました。議会には我らが”女王”もお越しになるとのことなので、何があったかはその場でお話頂ければと思います。……それでは、どうぞこちらへ」

 

 ラプラスがそう申し出ると、マリンはそれを直ぐに承諾し案内を開始した。

 吾輩達が船を出て辿り着いた先はだだっ広いターミナルの様になっていた場所で、流石に何の案内も無ければ迷ってしまいそうな構造をしている。けれど静かすぎる以外に特に気になる点は無くて、強いて言えば思った以上に清潔感があり綺麗な見た目をしていたというくらいだった。

 

「……あ、キミたち。先に王城に行って、これからholoXの方たちを連れて行くってペこらに伝えてください。それと送迎船の準備も」

 

「はい、わかりました船長!」

 

 歩き始めたマリン先輩が、引き連れていた何人かの部下と思われる人たちの内の一人に対しそう言った。彼らは恐らく、その身なりや態度から宝鐘海賊団の乗組員であり、言うなれば【一味】というやつだろう。

 それに、吾輩的には『王城』という言葉も聞き捨てならなかった。

 

「……なあ、マリン船長。今から王城に向かうのか?」

 

「はい、そのつもりです。ここから城までは多少距離がありますので、魔動船を手配しております。そちらに乗って頂き、皆様を話し合いの場までお連れします」

 

「魔動船?」

 

 透き通る幕に覆われた道を大勢で歩きながら、その中心を歩くラプラスは雑談程度に話しかける。するとマリン先輩は、前を進みながらも律儀に振り返ってそう答えてくれた。

 しかし、その過程でラプラスの中には更なる疑問が湧く。

 

「魔力を動力源とした、人の力を使わず自動で動く船なのです。ぺこランド内はそこそこ広いから、長距離を移動するときは基本的に乗り物に乗るのが一般的。今回乗るのはたぶん王族の私用車だけど、街中には市民が乗れる用の定期便なんかもあるのです」

 

 なるほど、要するに自動車やバス、電車みたいなものだろう。それの魔法で動く版として、その『魔動船』が存在するらしい。確かにコメット全体やふぁんたじあの規模からすれば小さいが、それでもこの国はかなりの面積を有しているはずだ。その中を徒歩だけの移動となると、確かにかなり無茶な話かもしれないな。

 

「──魔法で動く、船……」

 

「……こよりさん、興味があるのです?」

 

 聞き慣れない言葉に理解を示し、納得したラプラス。されど、その疑問は別の人物が引き継いだようだった。しかもるしあのその説明を聞いたうえで、彼女はより一層の興味を表す。

 

 

 ──実は、博士とるしあには奇妙な接点があった。

 それは、るしあとあくあ先輩がうちに来て大体二週間が経った頃のこと。なんと驚くべきことに、あの博士から「るしあさんと話をしてみたい」と吾輩に要望があったのだった。それを聞いた時は正直かなりびっくりしたのだが、本人に理由を聞くと「確かに僕はまだ宝鐘海賊団を許せてないし、敵だと思ってる……けど、それを抜きにすれば『魔法』という未知の知識を持つあの人には色々聞いてみたいことがあるし、それだけは尊敬に値する」とのこと。

 そして、その話を聞いた吾輩は妙に納得したのだった。

 

 魔法と科学、それは決して結びつく事は無いけれど全くの無関係とはいえない幻想的かつ現象的な代物。そして、その二つそれぞれの第一人者であるるしあとこよりは、特に博士の方が相手の分野に興味を示し知見を深めようとした。

 当然、るしあの方にもそう言っている部下が居るんだがどうだろうと話を持ち掛けた。すると「るしあは問題ない、むしろどうやって二番船の位置を特定したのか知りたかったから丁度良かったのです」とあっさり承諾。結果彼女たちは幹部の許可も取りつつ、決して二人きりにならないことを条件に何度か顔を突き合わせることになったのだった。

 

 

 それにより、こよりたちがどのような影響や刺激を与えあったのかは分からない。だが、少なくともそれ以降彼女たちはお互いを”さん”付けで呼び合い、高位な科学者や魔法使いに対し必要な敬意を払って接している。

 そして、それが良くないものであったなどとは吾輩は微塵も思っていなかった。

 

「あっ。はい、少し……失礼ながら、この国はるしあさんから聞いていた話を含めて鑑みても、とても人が長い間過ごせるような環境だとは思えません。けれど実際にこの眼で見て、現実には生命が活動し私の知らない文化や常識の中で生きていると分かった……その根本にもし魔法や魔力が関係してるなら、私はそれについてもっと知らないといけないと思ったから……」

 

「……落ち着いたら、こっちの文献とか色々教えてあげるのです。魔動船についてもアレを作るのにはるしあも少し手を貸したから、多少の質問には答えられると思う」

 

「っ……ありがとうございます、助かります」

 

 余所余所しく、それでも相手を敬いながらの頭脳たちの会話。二人とも各分野のエキスパートであり、コメットでも熱い討論が繰り広げられるかもしれないな。

 ──そういう時間を心置きなく過ごす為にも、まずはふぁんたじあを取り戻さなければ。

 

「……さて皆様、お待たせしました。この先の長い階段を下った先に船を停めてありますので、そちらにお乗りください」

 

 マリン船長の案内でターミナルを歩くこと数分。一度外側が見えなくなった分厚い壁の廊下を進むと、奥から眩しい光が見え始めた。

 

 そして、対照的に暗くなっていた通路を抜けたその先の景色を見て……吾輩は、驚きの声を上げる。

 

 

「おぉっ──これが、新生ぺこランド!」

 

 

 一気に抜けた出口の先、そこは地面から続く長い階段の上にある高台であった。その結果、ラプラス一行は高い位置から眼下に広がる街を見下ろす形となり、そしてその”美しさ”に圧倒された。

 

 空を見上げれば、薄紫色にぼんやり光る結界とその向こう側に暗黒の惑星。それらの明かりと星空に照らされるのは、白を基調とした家々が立ち並ぶ大きな街。通りには多種多様な種族が行き交っているのが見え、人々の活気を感じさせる。更にその中央を大通りに沿ってまっすぐ進んだところには、天井に人参らしきオブジェがぶっ刺さったこれまた立派であからさまな居城が立っている。

 微かに光るドーム状の魔法を反射して、幻想的に輝く都市がそこには存在していた。

 

「ほぇー! 凄い、綺麗でござるなー!」

 

「そうね、幻想的……あ、あそこに飛んでるのが例の魔動船じゃない?」

 

「ふーん……まあ、まぁまぁじゃない? ウチの方が凄いと思うけど……てか、城になんで人参?」

 

 いろは、ルイ、クロヱの三人がそれぞれの感想を口にする。だが、内容はともかく皆一同にこの星の外観に興味を持ったらしいことは事実であった。いや実際、その気持ちは大いにわかる。とても侵略者たちに怯えて暮らす人々が住まう国とは思えない、素晴らしい都だ。

 

「ようこそ、ここが我々の本拠地ぺこランドでございます。これから皆様をあちらに見える兎田ぺこら女王の住まう城にお連れします。足元にお気をつけて、眼下の船にお乗りください」

 

 マリン先輩にそう促され、吾輩たちは前に続く階段のすぐ下に目をやる。すると、そこには大型バス程の大きさで僅かに宙に浮かぶ船が停まっていた。幾何学的な魔方陣を下船部に展開し、見るからに魔法で動いていますよという風体をしている。

 

「……あの城に、ぺこらさんが居るのか……」

 

 長い下り階段に足を掛けながら、何となく上げた視線でラプラスは思う。自分達はこれから大きな仕事を果たさなければいけないのに、それなのにどうしてこんなにも嬉しい気持ちになってしまうのかと。るしあ達を含め、皆ホロベーダーに傷つけられ苦しめられているというのに……それを度外視に、吾輩は今喜んでしまっている。ぺこら先輩に、それからすいせい先輩やみこ先輩……もしかしたら、他の先輩方にも会えるかもしれないのだから。

 

「……? ……どうしたのです、ラプラス。行かないの?」

 

「え? ……あぁいや、今行く」

 

 無意識に止まってしまった足で、ラプラスは立ち尽くす。すると少し進んだ下からそんな声が聞こえて、我に返った。

 そして、再び歩き出した彼女の歩みは異様に軽く、まるで弾むような足取りで階段を下りたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。