転生したらラプラス・ダークネスだった件   作:飽和水溶液_pixiv

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 第76話です。久しぶりの二話連続投稿ですね、少し更新の間が開きましたのでお納めくださいませ。

 前回はラプ様たちが遂にコメット星、その唯一の国であるぺこランドへと到着いたしました。未だマリン船長以外の先輩方には出会えていないものの、少なくともあともう少しでぺこーら女王には出会えそうですね。
 また、るーちゃん及びあくたんは約一カ月ぶりに船長との再会を果たしました。前者の二人はそれに際しかなりドライな感じでしたが、それでも普段通りの仲間の様子を見てかなり安心はしたようです。むしろその気持ちが表に出ないようにするための、照れ隠しの部分もあったのでしょう。(そうだと嬉しい)
 最後に、ぺこランドへ向かう道中でラプラスはかなり興味深い話をるしあから聞きました。元々コメットに住んでいたという、『青人族』。果たしてそれらが今後どのように物語に絡んでくるのでしょうか……この章、恐らく長くなると思われます。

↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba


第76話 兎の国の暴君たち

 

 停泊していた魔動船に乗って、ラプラス一行は兎田ぺこら女王の居城を目指していた。

 その道中は殆ど揺れが無く、快適な航行。地面から少し高い位置を飛んでいたため安全面にも問題は無く、彼女達は初めて訪れるその都市の風景を眺めていた。

 

 この街の建造物の多くに白色が使われているのは、数少ない光を効率的に反射し街の明るさを保とうとする理由があるらしい。同時に、夜が訪れる際には結界の色の濃度が濃くなり街灯以外がほぼ真っ暗になるのだとか。つまりここぺこランドは手動で朝と夜が切り替わる仕組みで、一定の間隔で昼夜を繰り返していた。

 

 また、そんな都市を行き交うのはどこか見覚えのある多種多様な種族たち。その多くは獣人であるが、中には亜人や一見何の変哲もない普通の人間のような見た目をした者までいる。また人混みの中には髪が青い者達の姿もちらほら見え、それが俗に言う『青い人』なのだろうとラプラスは内心で思っていた。

 

 

 ……そんな過程を楽しみつつ、進むこと十数分。

 突然船が急上昇したかと思えば、城の上部にある張り出した部分の上でゆっくりと停止した。曰く、この広場は『女王の客人専用の魔動船発着場』とのことらしい。

 

「──ターミナルからの長旅、ご苦労様でした。たった今到着しましたのが女王の住まう城にございます。この後はそのまま、件の議会の席までご案内しますので私についてきてください」

 

 停車した魔動船から先輩が立ち上がると、そう言って引き続き吾輩達を先導する。またその誘導に従い船を降りると、若干高さのある城のバルコニーらしき場所へと出た。

 

「うお、結構高いな……それに、ここからだと城の先端にぶっ刺さった人参のオブジェがよく見える……」

 

「……どういうセンスなのかしら。女王の趣味?」

 

「兎と言えば人参、ってこと? もしそうだとすると、自己顕示欲の塊だねぇ~……」

 

「んーでも、風真はいいと思うでござるけどな。野菜を摂るのは大切だし」

 

「えー、いろはちゃん悪趣味ィー。普通にダサいってー」

 

 城内に降り立った吾輩達は、上を見上げたり下を見下ろしたりしつつ各々思った事を口にする。その殆どは主にマイナス面だった気もするが、それでも共通して前を歩くマリン先輩の後には続いていた。

 

 今回、この場に連れて来たのは幹部と博士と侍と新人、それから護衛のholoXerがざっと数名。加えて、共に歩いているのがるしあにあくあ先輩と、後は船長が連れてきていた一味が若干名である。

 そんな大所帯の中、我々は招かれた城へと入って行った。

 

「……この先が議会の席です。もう少しお付き合いください」

 

 そう言うマリン先輩に連れられ、吾輩達は長い廊下を進む。石に似た材質で作られた、どちらかと言えば西洋風のお城。こちらも白や淡い水色を基本とした外装をしており、城下町との統一感も感じられた。また城内には少数の護衛らしき全身甲冑を身に着けた者達が立っていたが、何故か皆神妙な面持ちで警備にあたっているようであった。

 

 ……いや、何故も何も吾輩達という正体不明のよそ者が入り込んでいるとなれば、警戒するのが当然か。

 

 そう思ったラプラスは、それ以上のことは考えないようにした。それは不要な詮索であると判断したこともあるが……それ以上に、ようやく目的の部屋に辿り着いたからでもあった。

 

「──はい、到着いたしました。ここが議会の席です」

 

 歩いてきた廊下から木製の扉を抜け、開けた場所に出る。すると、その部屋は中央に円卓の置かれたまさに会議室という見た目をしていた。

 

 ……しかし、それにしては少々おかしな造りになっている部分もあった。周りに壁はあるものの窓が多く、加えて天井が吹き抜けな開放的な空間。更にこの部屋へ続く道が吾輩達の入って来たものの他にあと二つもあり、多方向からの出入りを可能としている。

 総合的に言えばつまり、風が抜けすぎてあまり落ち着かない場所であった。

 

「……何というか……独特な作りの部屋だな」

 

「ここはぺこらの……女王の要望なのです。あの子は閉鎖的な空間に大勢人が居るのが苦手だから」

 

 いや、だからと言ってこれはやり過ぎだろうという感想が湧いた。確かに見晴らしはいいし、開放的ではあるが……それって、ぺこら先輩がただ人見知りなだけじゃないのか?

 

 そう思ったラプラスは、彼女の素性を知るが故に呆れつつも室内へと足を踏み入れようとする。

 ────が、その一歩を、何故かいろはによって遮られてしまった。

 

 

 

「──沙花叉。」

 

 

 

 そんな彼女の行動を不思議に思い当人の方を見るラプラスであったが、肝心の彼女はこちらに目もくれない。それどころか、その場に居た”もう一人の戦闘員”の名を呼んでいた。

 

 

「……うん、わかってるよー。」

 

 

 また、その声に気怠げな掃除屋が応える。

 そして、またもどういうわけか今度はクロヱが吾輩の両肩を掴んで自分の方に引き寄せてきた。

 

「え……えっ? なに、何だ二人とも、どうし……」

 

「はいはーい、ラプラスは下がってねー。……”危ないから”」

 

 クロヱはそう言うと吾輩を後ろから完全に抱きかかえるようにして、数歩後退る。更に、侍がそんな吾輩たちの様子を背中で感じ取りつつ背負う鞘から刀を抜き放った。

 

 ──それとほぼ同時、吹き抜けた天井から”何か”が降ってくる。

 

 

 

「────久しぶりじゃんっ、 風真いろはッ!! ……今度こそ殺してやるよ!!」

 

 

 

 荒々しくも分かりやすい殺気の籠った声。それが聞こえた直後、抜いた刀とその者が振りかぶった金色の斧とがぶつかって大きな衝撃を生んだ。

 

「──ッ」

 

 ガキンッ、と金属同士がぶつかった音が響き、単なる鍔競り合いで起きたとは思えぬ突風が吹く。まるでその瞬間だけ時が止まってしまったかのように、ジリジリと震える空気が自身の肌を刺激した。……な、なんだ、いきなり何が起こったっ?!

 

「……やっぱり、すいせい殿でござるか。突然切りかかってくるなんて、危ないでござるよ」

 

「出た、そのいい子ちゃんぶり。相変わらず神経逆撫でしてくるなぁ……その余裕な態度もムカつくしッ!!」

 

 そう言って、突如空から現れた魔人はいろは目掛けて戦斧を振り下ろす。それはまるで戦場を舞う姫の様に、非常に慣れた手つきで華麗に襲い掛かっていた。

 

「ッ……ほら、これならどうッ?!」

 

「なんのっ!」

 

 ……しかし、その全てをいろはは最小限の動きで器用に捌く。

 

 曲線を描きながら迫った横振りを、彼女は完璧な間合いを保ちつつほんの数センチ手前で躱した。更にそれを見越して相手が一歩前に踏み出せば、斧の刃の付け根に刀を添わせて『てこの原理』で薙ぎ払う。

 傍から見れば危機的で、間一髪の攻防。だが、それをやってのける侍の額には汗一つ出てはいなかった。

 

「な……なんなんだ、いきなり……」

 

 そして、そんな強者同士の戦闘の最中事態を飲み込めぬラプラスは大きな動揺を見せる。話し合いの場として案内された部屋に入ったかと思えば、突然仕掛けられた奇襲。しかも、それを行った人物がこれまた自分の良く知る相手であり余計に困惑せざるを得なかった。あれって……やっぱり、すいせいさんだよな?何でいきなり吾輩たちを襲ってきたんだ……?

 しかも、滅茶苦茶見覚えのある金色の斧振り回してるし。

 

「……あ、悪いなクロヱ。助かったぞ」

 

「ん~? なにが♪」

 

 驚きつつも、何とか状況を理解しようとラプラスは務める。またその過程で、先程侍と一緒に自分を守ってくれた彼女にお礼を言った。クロヱ達がすいせい先輩の攻撃に気付いて吾輩の身を引いてくれなかったら危なかったかもしれないからな。

 だが、肝心のクロヱは上機嫌ながらも何故かとぼけた口調であった。

 

「……つーか、何で吾輩達いきなり攻撃されてるんだ?」

 

 未だ眼前で、防戦一方の攻防が続いている。激しく攻撃を仕掛けるのがすいせい先輩であり、それをいろはが一歩も引かずに受け止めていた。その侍の姿にはholoXの最大戦力として賞賛を送りたいところだが……取り敢えず、何故吾輩たちは今襲われているのだろうか。

 

「──確かに。……どういうことか説明してもらいましょうか? 宝鐘マリンさ……」

 

 吾輩と同じく、少し離れたところで戦況を見守っていた幹部がおもむろに口を開く。それは静かに冷静で、そして明らかに相手を咎めるような口調。しかしそれは当然といえば当然で、いきなりの訪問とはいえ招き入れた客人に対し手を出すなど本来あってはならない事だ。

 ともすれば、仮にそれに正当な理由があるのであればそれを説明してもらわないと、吾輩はともかく他の連中は納得できないというもので──。

 

 

 

「────っっっッ……ッとうに!! ……すみませんッ!!!」

 

 

 

 瞬間、マリン船長がものすごい勢いで土下座を繰り出してきた。

 

「すみませんすみませんすみませんっ!! 違うんです、全然そんなつもりは無くって! 本当に! あの子、ちょっとやんちゃというか船長の命令直ぐ無視して勝手に行動しちゃう癖があって……!! だからほんのじゃれ合いと言いますか、スキンシップみたいな感じと言いますか……も、勿論っ、私達にはこれっぽっちもあなた方に敵意なんて無いんですぅ!!」

 

 思いっきり飛び込んで、床の上をスライドしながら這いつくばる。その上先輩はこれでもかと額を地面に擦り付けながら、何度も何度も頭を下げてきた。な、なんか逆にその勢いが怖いんですけど……。

 

「はー? そんなのこっちには関係ないでしょー。アレの躾ができてないのはそっちの問題なんだし、いろはちゃんがいるから絶対大丈夫だけどもし仮にさっきの戦いの余波で総帥が尻餅でもついたらどう責任取るつもりなのさー?」

 

「えぇ、沙花叉の言う通りね。理由はともあれこちらに危害を加えようとしたことに変わりはない。その落とし前は付けてもらわないと」

 

「は、はわ……くふぅ~ん……」

 

 頭を下げて謝るマリン船長に対し、されどそれで許されることではないとルイと沙花叉が彼女を責め立てる。特に沙花叉はまるでいやな上司の詰め方のようで、幹部もまた地面に突っ伏した先輩を見下しながらそのセリフを吐いていた。

 結果、船長は怯えた小動物のようなよくわからない声を上げる。

 

「はぁ……まったく……」

 

 そして、そんな彼女たちの様子を見てラプラスは半分呆れながらにため息をついた。

 まったく、どうしてこう組織の下の連中には血の気が多いヤツばっかりなんだ。この感じはマリン船長の方も日頃から苦労してるんだろうな……まあ正直、さっきの可愛い子ぶった声は吾輩でもキツイけど。

 

「……いいよ、マリン船長。吾輩は気にしてないから」

 

「で、でもっ、そこをなんとか! 今回は船長の顔とこの土下座に免じて、許してもらうことは…………え?」

 

 ぺこぺこと平謝りで、両手を合わしながら懇願するマリン先輩。だが、吾輩の放った一言により彼女はきょとんと顔を上げた。

 

「いろは! 戻ってこい。その人とは戦わなくていいから」

 

 また、吾輩は現在進行形ですいせい先輩と戦っていた彼女にも声を掛ける。すると侍はそれに反応するようにピタッと動きを止め、その後すぐに持っていた刀を背の鞘の中に納めた。

 

「……はぁっ!? ちょっと待って、なんでしまうのその変な剣!?」

 

「? ……たった今、風真がここで刀を振るう理由がなくなったからでござるが?」

 

 いろははそう言うと、先程まで戦っていた相手に対し何事も無かったように背を向ける。そして、そのまま普段通りの足取りでスタスタとこちらに帰ってきた。……そんな彼女の様子を見て、あの人が怒りを露わにしたことは言うまでもあるまい。

 

「……はぁぁぁあッ?! なにそれ、意味わかんないんですけどッ! まだ勝負が終わってないのに何で引いてんの?!」

 

「勝負? そもそも風真はすいせい殿の勝負を受けたつもりは無いでござるよ。ただ、ラプ殿に降りかかる火の粉を払っただけ」

 

 怒る魔人に対し、彼女は大変余裕そうであった。それには圧倒的強者の貫録を感じさせ、この世界における風真いろはという人物の位の高さが見て取れる。……だが、当然それは相手の神経を更に逆撫ですることに他ならなかった。

 

 ────が、そこに新たな来訪者が現れる。

 

 

 

「……おぉぉい! 星街っ! やっぱりここに居たにぇ! マリリンにholoXが帰るまで大人しくしてろって言われたでしょー!!」

 

 

 

 吾輩達が立っていた側とは反対の奥の通路から、ドタバタと駆け足で現れたその少女。舌っ足らずの特徴的な話し方に、彼女の明るさを表すような桜色の髪。キラキラと鳴る鈴を身に着けた巫女姿のその人が、魔人に向かって怒鳴るような口調でそう言った。

 

「げっ、あのポンコツ巫女……折角撒いたのに、見つかっちゃった……」

 

「おいっ! 撒いたってやっぱり確信犯やろ! ……ったく、すいちゃんはいつもそうやって一人で突っ走って……」

 

 彼女は一通り叫んだ後、頭を掻きながら呆れ口調でため息をつく。その様子から、恐らくあの人のこういった行動は日頃から頻発しているものなのだろう。

 

 ……と、ラプラスがそんなことを思っているとその魔人を止めに来た少女がハッとした表情を見せる。それはこの場に見慣れぬ集団が同席していたことを知ったからであり、そしてそれが分かった途端そそくさと姿勢を整えだした。

 

「あっ……え、えっと、みこはさくらみこって言います。こっちの乱暴なのは、すいちゃんです……その、迷惑かけてすみません……」

 

 別に自身が何かをしたわけでも無いのに、隣に立つその者の代わりに彼女……【さくらみこ】はペコっと頭を下げた。

 

 さくらみこ大先輩。

 彼女はホロライブに所属する0期生であり、底抜けの明るさとちょっぴり抜けたところが可愛い少女であった。笑いにもユーモアがあり、彼女がいる場はどんな状況でも楽しくさせる不思議な魅力がある。普段の行いや言動から他の後輩たちからは少々舐められがちではあるが、その実績や経歴からも吾輩の尊敬する先輩の一人であった。

 

 宝鐘海賊団云々の話からこの世界にもみこ先輩が居たことは知っていたが、まさかコメットに来て早々会えるなんて……ていうか、miCometてぇてぇなぁ……。

 

「え……?  あぁ、いや……大丈夫です、気にしてないんで……」

 

 そんな彼女に対し、ラプラスは内心懐かしみながらもむしろ申し訳ない感じでそう答えた。正直、またこの先輩二人に会えたことは物凄く嬉しい。だが現状、吾輩たちの立場は至極警戒されても仕方の無いもので、すいせい先輩の行動含めみこ先輩がわざわざ謝る事ではないと思った。ぶっちゃけあの人の性格上必要以上にこっちに突っかかってくるのも分かる気がするしな。……まあ、それにしたっていきなり襲われるのは心臓に悪いけど。

 

「はー? ちょっと、なんでみこちが謝んの? 向こうが勝手に私らのシマに入り込んで来たんでしょ」

 

「もうっ! すいちゃん、マリンがさっき言ってたでしょ! この人たちはるしあちゃんとあくたんを送りに来てくれたって!」

 

「……あっ! そうだ、あくたん帰ってきたんだったっ♪」

 

 吾輩達に対し謝罪をするみこ先輩を見て、すいせい先輩がそれに文句を垂れる。けれど、その過程であくあ先輩の帰還を思い出して先輩の態度が変わった。そしてジロジロと吾輩達の方を見たかと思えば、クロヱの後ろにずっと隠れていたお目当ての少女を発見する。

 

「あっくたぁ~ん♪ よかったー、生きてたんだね! すいちゃんてっきり死んじゃったのかと思ったよぉー♪」

 

 先程までとは打って変わって、先輩はまるで別人のように上機嫌な声をあげる。そして小さく縮こまるあくあ先輩の方へと近寄ってから両腕を開き、彼女に飛び込んでくるよう促した。……が当然、あくあさんはそれを全力拒否。それどころか、すいせい先輩に手招きされているというのにそれを無視してクロヱの背中にくっついた。

 

「──は?」

 

 そんなメイド姿の少女の態度を見て、再び先輩の怒りが沸き上がる。

 

「……ねぇあくたーん、どうしてすいちゃんのところに来てくれないのー? ……そんな弱い雑魚より、すいちゃんの方が強くてカッコよくて優しいよー?」

 

「……あ? なに、それもしかして沙花叉のこと言ってる? 一対多数だったからボコれただけのくせに、随分チョーシにのってるね」

 

 護衛対象を守るため、自身の方に吾輩を引き寄せたクロヱ。更に、彼女の背後に隠れるように立つあくあ先輩。そんな中、すいせい先輩が一番後ろに居たあくあさんを目的としこちらに歩み寄ってくる。本当は見えているはずなのに、見て見ぬふりをするクロヱの悪口を言いながら。……結果、それは吾輩を挟んでの両者の言い合いへと発展する。

 

「はぁ~ん? 何それ、負けた言い訳? ダッサいね。いろはならともかく、あんたなら私一人でも余裕で勝てるし」

 

「ぷぷーwそれ、自分でいろはちゃんには勝てませーんって認めてるの、わかってないの? ダサいのはどっちって感じ。……それに、あの時はともかく今の沙花叉ならお前なんかに負けないし」

 

 間に吾輩が居るというのに、彼女達はそう言ってバチバチと火花を散らす。実際には視線同士を突き合わせているだけのはずなのに、それでも何故か激しくぶつかり合うそれが吾輩には見えた気がした。

 

 ……だが、そんな地獄のサンドウィッチ状態も数秒の後に突然終わりを迎える。

 

「……あーあ、なんかもうやる気なくなっちゃったー」

 

 それは、掃除屋と向かい合っていた青い魔人の方からであった。それまでジリジリと睨み合っていた筈なのに、いきなり興味を失ったかと思えばそう言って後ずさる。その上踵を返し、斧を後ろ手に収めてからゆっくりと歩きだした。

 

「あぁ、ちょっとすいちゃん! どこに行くんですか、この後の話し合いにはあなたにも居てもらわないと……!」

 

「えー、やだよめんどくさい。みこち置いていくから、大事なことはそっちに言ってー。すいちゃんは長い話とか専門外~」

 

 勝手に部屋から出て行こうとする彼女を、マリン先輩が止める。けれど、すいせい先輩はそんなことにはお構いなしであった。

 先程まで慌ただしく、そして乱暴に暴力を振るっていた彗星の魔人。しかし、星屑のように現れた彼女は去る時もまた一瞬で、瞬間的に興味を失ってからは徹底的に面倒なことを切り捨てようとしていた。

 

「じゃあ、そういう事でみこち後はよろしくー。じゃーねあくたん♪ あとでまたすいちゃんとお喋りしようねー♪」

 

 その言葉を最後に、彼女は部屋を出て行ってしまった。それはまるで嵐が過ぎ去った後の静けさのようで、残された吾輩達はただぽつんとその場に立ち尽くすのだった。

 

「……ラプラス、ごめんね。……すいせいさんはいつもあんな感じなのです。一応敵ではないって言うか、協力関係にはあるんだけど……あんまり、るしあ達の言うことは聞いてくれなくて……」

 

 静かになってしまった議会の席、そこでるしあがラプラスに対し申し訳なさそうにそう言った。彼女もまたあの人の無鉄砲さに巻き込まれる内の一人であるらしい。……まあ、そういう意味ではるしあも吾輩と似たような立場か。

 

「いや、気にしなくていいぞ。今まではこっちが迷惑かけてたんだから、これくらいなんでも無い」

 

「……そう言ってくれると、助かるのです」

 

 すいせい先輩に代わって、先程の騒動についてるしあは謝罪する。しかしラプラスは、お互い様だと首を横に振った。

 

「……お前らも、さっきのことは不問。いいな? 守ってくれるのは嬉しいが、吾輩達はここに戦いに来たんじゃないんだ」

 

 また続けて、ラプラスはその場に居た部下たち全員に再度そう指示を出す。そして、それに対し多少の不満を抱いた者はおれど実際に声に出して抗議するものは現れなかった。

 

「あ、あのー……いいんですか? ラプラス様。こちらの不手際をそう簡単に許してもらって……」

 

 ただし、それはあくまでholoX側の陣営だけであり、粗相を犯した側の代表はその判断に納得がいっていない様子であった。……主にそんな風に簡単に流してしまって良いのかという意味合いで。

 

「ん? ああ、こっちは問題ないぞ。ただのじゃれ合いみたいなもんで、そっちの総意じゃないんだろ?」

 

「それは……はい、まあその通りですけど……」

 

「なら、お互い気にしないってことでいいじゃないか。……ていうか、ここだけの話こっちからもるしあには似たようなことをしちゃってるんだ。だから今更その程度のことで吾輩が怒るってのもおかしな話だろ?」

 

「──へぇ……。」

 

 容易に自分達の落ち度を許す悪魔を見て、マリンはやはり煮え切らない反応を返していた。しかし、それでもお互い様と言って相手を咎めないラプラスの様子に彼女は目を丸くする。──そして直後、何やら含みのある笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

「……それより、マリン船長。話をするのはこれで全員……いや、確か女王も来るんだっけか?」

 

「──はい、ラプラス様。こちらはわたくしマリンと三番船副船長のさくらみこ、それに女王兎田ぺこらを加えたメンバーでお話をさせて頂ければと思います。……直に到着しますので、少々お待ちくださいな」

 

「わかった。それじゃあ、先に座って待つとするか。……おい眷属たち、お前らは外の廊下で待ってろ」

 

 この場に集うメンツを確認し、ラプラスは連れて来た彼らにそう指示を出した。聞いた感じあとここに来るのはぺこら先輩だけらしいし、何故か先輩たち側の護衛も城についてからは気付けばどこかに捌けて行ってしまった。となれば、いつまでもこっちがぞろぞろと人を引き連れていては格好がつかないだろう……ひとまず、こっちは吾輩含めた五人と、後はるしあとあくあさんだけいればいいな。

 

 そうして、ラプラス一行はそれぞれ席に着き始める。まずは十二の椅子の並んだ円卓の一角に吾輩が腰かけると、自然に皆の座る場所が決まっていった。吾輩の位置から見て右隣にるしあ、その隣にあくあ先輩。左隣にはルイ、こより、クロヱの順に座り、いろはは総帥護衛の為自身の後ろに立つ。またクロヱから一つ空いてマリン船長、また一つ空きその隣にみこ先輩の順に席に着いた。吾輩から見れば真っ正面の席が空いていることになり、そこにこれから来るらしい女王が座る位置関係である。

 

 ……そうして、皆が丁度腰を下ろした頃。吾輩達がやって来た側とは反対側の通路の奥から、カツンカツンと固く尖ったものが地面を叩く音が響き始めた。

 

「──お待たせしました、holoXの皆様。ただいま”兎田ぺこら女王”の御成りのようです」

 

 マリン先輩が片手で通路の方を紹介し、皆の注目がその一点に集まる。またその結果、全員が口を閉じて場が静まり返った。

 

 ────そして、遂にその者が現れる。

 

「お、おぉ……!」

 

 薄暗い廊下の先からヒールを鳴らし、彼女は訪れた。

 

 純白で裾の長い、所々薄水色の混じった美しいドレスに身を包み。白いベールの掛かったようなその尊顔には、大変女性らしさの溢れた化粧を施して。キラキラと輝くティアラがその者の地位や立場をこれでもかと表しながら、更に天に向かってピンと立つふさふさの小動物の耳が彼女が兎人であることを象徴していた。

 

 ……そんな如何にも女王らしく、荘厳な佇まいにラプラスは自然と声が漏れてしまった。

 その上で、彼女は円卓の中央にある自身の席の前に立ってから、その場の全員をゆっくりと見回した。それは洗練された女王に相応しい所作であり、普段の彼女からは想像できない魔性の魅力を秘めている。故に悪魔は、そんな一つ一つの些細な動きにすら見とれてしまって────。

 

 

 

「────おぉぉぉいっ!!! マリンてめぇー!! 今から客人連れてくるから三十秒で支度しろって、どういうことぺこだよォ!!?」

 

 

 

 直後、別の意味で皆が目を見張るような暴言が飛び出した。

 

 しかし当の本人は周りの反応など気にも留めず、おめおめと椅子に座る彼女に対し憤りをぶつける。

 

「えっ……え、えーっと、どうされたのですかぺこら女王、そんな声を荒げられて……ほ、ほら、客人様の前なので言葉遣いも気を付けないと……」

 

「はぁ?! 白々しいんだよお前! いきなり飛び出していったかと思えば、今度は一方的に連絡してきて人を招き入れる準備しろとかどーゆー了見ぺこかぁ!? 今こっちは色々立て込んでて、それどころじゃないことはあんたも分かってるぺこだろぉー?!」

 

「そ、それはごめんって……で、でも一応るしあ達の恩人らしくて……あっ! そうそう、るしあとあくたんが帰ってきたんですよぺこら……」

 

 激しい怒りを宿し、怒号を並べる兎人の少女。その姿はまさに女王そのもので威厳に満ちているはずなのに……なぜだろう、その口調も相まってただの子供の様にも見えてしまう。

 

 また、そんな彼女に怒られるマリン船長がまたもや小動物のように震えていた。ただし口は悪いものの、女王の言っていることを聞く限り悪いのは恐らくマリン先輩の方で、そしてその発端を作ったのは吾輩達のようであった。まあ確かに、いきなりの訪問でその準備をして欲しいとか迷惑な話ではあったか……。

 

「…ッ! ……るーちゃんが、帰ってきたぁ……?」

 

 女王がマリン船長を怒る最中、飛び出したその言葉に彼女は訝しんだような表情を浮かべる。

 また、そこで女王は再び視線を上げ、今度はその中身を確かめるようにゆっくりと室内に並ぶ面子を見渡した。それは先程の流し見とは違う、まるでその場に集まった者達の存在を確認しつつ同時に現在の事情や状況を察する様に。

 

 そして、ある一点でその動きを止めた彼女は小さく「ふんっ。」と鼻を鳴らした。

 

「……るしあ! あんた、今まで何してたぺこかー? るしあが居ない間、こっちはものすげー大変だったぺこなんだけど?」

 

「──うん。長いこと留守にしてごめんなさい、ぺこら。るしあ達の方でも色々あって帰るのが遅くなったのです」

 

「遅すぎるぺこ。連絡くらいちゃんと寄越せって」

 

「無茶言わないでよ。海賊船が壊されちゃって連絡手段が無かったんだって」

 

 恐らくは一カ月以上ぶりになるだろう彼女たちが最初に交わしたのは、そんな相手を責める言葉であったりそれに対する文句であった。……だが、それを傍で聞いていた吾輩にはその台詞全てが全く別の意味合いに聞こえてしまった。きっと、これが彼女たちなりの『おかえり』の意であり、互いの無事を案じ合うコミュニケーションなのだろう。

 

 悪魔はそんなことを考え、目の前の微笑ましい光景に浸っていた。

 ……けれど、その会話の中で不意に女王の視線がこちらに向く。

 

 

「海賊船が壊された?  ──それって、コイツらにぺこか?」

 

 

 嬉しい気持ちになっていた半面で、そのギロリと向けられた重圧にラプラスは少しだけ身を引いた。それは明らかに我々holoXの所業を疑う、女王の睨みである。

 

「ちょっと……ぺこらまでやめてよ。この人達はるしあの恩人、マリンから聞いてない?」

 

「そりゃ聞いたぺこ。でも、イマイチ信じられないぺこね……コイツらあの有名なholoXでしょ? そんな悪の組織が何で人助けなんかするぺこだよ」

 

 彼女が口にした疑問は、至極もっともなものであった。この宇宙で悪名を轟かせる、悪の組織秘密結社holoX。そう囁かれている我々が人助けを、ましてや何の理由も無くそんなことをするとは思えないのだろう。それ故に、相手がこちらを警戒するのは当たり前のことだ。

 

 ……だが、そんな疑いはもうとうに慣れてしまった。

 それに、今回はこの場にこちらの理解者であるるしあ達もいるし、臆する必要はない。吾輩はただ堂々と、ここに来た本来の理由を言ってやればいい。

 

 

「────確かに、その疑問は当然のものだな。兎の女王?」

 

 

 ここにきて、ようやく悪魔は口を開く。

 それは悪の組織の名に恥じぬ佇まいで、そして真っ直ぐ目の前の相手を見据えながら。

 

「……失礼、自己紹介が遅れたな。吾輩は秘密結社holoXの総帥、ラプラス・ダークネスだ。今回の急な訪問はそちらに多大な迷惑掛けたようで申し訳ない」

 

「──。……新生ぺこランド女王、兎田ぺこらぺこ。今度からはちゃんとアポを取って欲しいぺこね」

 

 まずは手始めに、ラプラスは名乗りと共に不躾な来訪に対して謝罪する。すると、彼女……【兎田ぺこら】女王は次回からは事前に連絡が欲しいと言ってきた。

 

「……それで、単刀直入に聞くぺこ。あんた達ここに何しに来たぺこ? まさか、るーちゃん達をここに送ってきてハイ終わりってわけじゃないでしょ。言っとくけど、この星は今危機的状況に瀕してて搾り取れるようなもんはなーんも無いぺこだよ」

 

 そして同時に、ぺこら女王は吾輩達の訪問の理由を問う。まさかあの天下のholoXが、善意のみで同志を送り届けてくれるわけがないと考えて。──そして、それ自体は確かに真実である。

 

「あぁ、その通りだぺこら女王。吾輩たちはただここにそちらのお仲間を送りに来たわけじゃない。だから、その辺の詳しい話をするためにこの場をマリン船長に設けてもらったんだ。……ただまあ、先にこっちの目的を言っとかないと互いに有意義な話し合いも出来ないだろ」

 

 そこまでを言って、ラプラスは一度言葉を噤んだ。ほんの僅かに間を置き、その場の皆の注目を一身に集める。……そして、全員が自分を見たと同時におもむろに口を開いた。

 

 

 

「────簡潔に、結論だけを述べる。

 

我々holoXは、ここに侵略者”ホロベーダー”を滅ぼしに来た」

 

 

 

 皆が注目し、そして疑問ながらにも目を見開く最中。ラプラスは誰よりも堂々と、はっきりとした口調でそう宣言した。

 

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