転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba
「簡潔に、結論だけを述べる。……我々holoXは、ここに侵略者ホロベーダーを滅ぼしに来た」
そう言ったラプラスの言葉に、女王兎田ぺこら、船長宝鐘マリン、そして三番船副船長さくらみこが目を見開いた。それは驚きもあったが、それ以上に困惑の感情を持ち合わせて。
「は……どういう、ことぺこ……?」
「言葉の通りだ。吾輩たちは今回の一件で、星々を喰らうとされるホロベーダーに借りを作らされたんだ。それを返してやるために、奴らを滅ぼしたい。……だが、生憎吾輩達はホロベーダーについて無知だからな。そこで長年奴らと戦い続けてきたらしいコメットの勢力には、それに関する知識や経験を貸して欲しい」
驚愕と疑念、そんな思いもよらぬ言葉に動揺を隠せないぺこら女王。けれど悪魔は、そんな彼女たちにある程度の内容を察せるよう話を続けた。
自分達はこの地に、彼女たちからしてみれば宿敵であるはずのホロベーダーを打ち倒しに来たのだと。
「……ラプラス様。そのホロベーダーからの借り、というのは……もしかして、先の通信で言われていた宝鐘海賊団二番船の破壊の件と関係が……?」
「察しが良いな、マリン船長。答えから言うとその通りだ。……吾輩たちはあの時、捕まった仲間を救出する為に出向いた先の船で奴らに襲われた。そのせいで危く大切な部下を大勢失うところだったんだ。その時はるしあたちの協力もあって何とか難を凌いだんだが、それじゃあ吾輩の気が済まない。……それで聞いてみれば、お前たちもこの地で奪われた故郷を取り戻す為にホロベーダーと戦ってるらしいじゃないか。となれば吾輩たちは、共通の敵を持つ関係ということ──だからこそ、利害の一致だけで協力し合えそうだろ?」
まるで悪の組織の親玉そのものに、ラプラスは事前にるしあと打ち合わせた内容を述べる。吾輩の個人的な事情も含め全てを把握してくれている彼女が提案してくれた、皆が納得しやすい”話の流れ”だ。
「…………詳しい話を聞かせて欲しいぺこ、”ラプラス”」
そして、そんな事前準備が功を奏してか、暫く考えた後ぺこら先輩がそう言った。どうやら本格的にこちらの言うことに耳を傾ける気になってくれたらしい。
その証拠に、彼女はマリン船長とみこ先輩の間にぽっかりと空いた席に手を伸ばし、深く腰掛けた。
「──あぁ、勿論だ。端からそのつもりで来たんだからな」
そのことに大変満足しつつ、ラプラスはニヤリと笑う。
そして、悪魔は隣に座る友の協力も得ながらに、これまでの経緯を説明し始めたのだった。
******
「──そんな経緯もあって、るしあ達はラプラスたちのお陰でコメットに帰ってこられたのです」
長らく続いた説明を、彼女は最後にそう締めくくった。
……その後、るしあは口を閉じ結果誰も話し出さない状況が続いて室内は静まり返る。
吾輩とるしあがぺこら先輩たちに話したのは、件の始まりから現在まで。それを出来るだけ簡潔に、それでも要点だけはしっかり押さえての情報を開示した。
最もの始りは、holoX所属の構成員が宝鐘海賊団に捕らえられたという報告を聞き、吾輩を含めた暗殺部門救出隊が宝鐘海賊団の二番船を訪れたこと。そこで吾輩とるしあは出会ったが、当初は一度交戦。その後船内での逃亡劇を経てふぁんでっとに追い回されていたあくあ先輩と接触、彼女に協力を乞う形で暗殺部門を救出し船からの脱出を目指した。
……が、その過程で宇宙空間にホロベーダーが出現。海賊船を襲われ、るしあ達と同様に船に乗っていた自分達も危機的状況に瀕した。そこで吾輩は一時休戦の申し出をしつつ、必死の交渉により何とかるしあの協力を得てホロベーダーの撃退を試みる。だが、それ自体は上手く叶わず結果先んじて脱出していた者達を除き、吾輩とるしあは崩壊していく船に取り残され絶体絶命の事態となってしまった。
しかし、そんな状況から吾輩は奇跡的にるしあを連れての脱出に成功。更にホロベーダーの魔の手から逃れるため近くの惑星に不時着していたその他の勢力と合流。その後、あとを追ってきたホロベーダーを討伐しるしあ及びあくあ先輩の身柄を預かることになったのだった。
そうして、るしあ達をholoXで保護しつつ一カ月の捜索の後このコメットの現在位置を突き止めるに至る。それはそうなった経緯や過程はどうであれ、るしあからしてみれば吾輩達は自分たちの命を救ってくれた上で、更に家にまで送り届けてくれた恩人であるという認識に足るには十分であった。また、その事件をきっかけに我々holoXはホロベーダーを滅ぼそうと思い立ったのだった。……ところどころ都合のいいように言い換えたり、るしあと吾輩の契約の件を隠す為に口裏を合わせてはいるが、概ね起きた事件の内容は網羅している。
……と、いったような説明を一通り終え、数秒の沈黙が続いた。その間吾輩とるしあは相手方、ぺこら先輩やマリン先輩、みこ先輩の反応を窺っていたが三人とも何やら小難しい顔で何かを考えている様子である。
「……ここまでの話を踏まえて、一先ずぺこら達に考えて欲しいのはholoXからの提案である『協力してホロベーダーを倒そう』ってことに賛同できるかどうか。るしあは勿論賛成で、あくあさんも……賛成みたいなのです」
何も言わない三方に対し、るしあは更にそう付け足す。またその賛否をあくあ先輩に視線だけで問うと、彼女も小さくコクンと頷いた。……その一連の言動は、ここまでに培った彼女たちがholoXに向ける信頼度合いが窺える。
「「「……。」」」
──けれど、その言葉に対して誰も何も答えなかった。
ぺこら女王は腕を組み目を瞑って、マリン船長は顎に手を当てたまま視線を下に向けている。みこさんは……何故か、何かを言いたそうにしながら困った顔をしていた。チラチラと先の二人の方を見つつ、何と答えればよいのか分からない様子である。恐らく立場上、最初に話し出すべきなのは自分では無いなんて思っているのかもしれない。
……そして案の定、一番最初にその静寂を破ったのはマリン先輩であった。
「……幾つか、確認したいことがあります。まず、一番気になるのが……恐らくは自分たちの力だけで彼らを滅ぼせるであろうholoX様が、どうして我々の協力を得たいのかという事」
それが、宝鐘海賊団総督である彼女が提示した最も大きな疑問であった。
「申し訳ありませんが船長には、ラプラス様がるしあやあくたんに固執する理由がわかりません。自分達にちょっかいを出してきたホロベーダーに借りを返したいのなら、それは私達など無視して勝手になさればよろしいのでは? そこに私たちの協力を申し出たり、るしあが力を貸すと言い出す理由が分かりません」
決してこちらに対する敬意ある態度を崩さずに、されど先輩は自分が抱いた疑惑をそのままぶつけてきた。それはこちらが曖昧にした、部下たちにすら言っていない吾輩とるしあだけの秘密を隠した結果かもしれない。追加で吾輩の個人的な事情があるからこそ、そこの繋がりや”一緒に協力して”という発想自体にマリン船長は疑いを持っているようだった。
「マリン……それは、るしあとあくあさんの命をラプラスに助けてもらったからなのです。ラプラスが居なければ、私達は船の中でホロベーダーに襲われて死んでいた」
「そこからわかりませんね。何故、その時点で敵であると定めていた筈のラプラス様がるしあたちを助けようという発想に至るのか……そういう意味では、捕虜の解放を手助けしたらしいあくたんの行動も不可解ですけど」
そう続けたマリン先輩は、視線を吾輩達からあくあ先輩の方へと移す。すると、いきなり話の矛先が向いた彼女の体がビクっと跳ね上がったが、それでもおずおずと口を開き始めた。
「あっ……え、えっと、その時ラプラスちゃんと少し話して……なんか、悪い人じゃない気がしちゃって……捕まってた、クロヱちゃんも可哀想だったし……だから、協力しちゃったの……」
「つまり敵に同情したってことですか? ……あくたん、それがいけない事だって理解はしてます? 相手に絆されて、折角こっちが握っていた主導権をみすみす手放したってことですよね」
「うっ……は、はい……わかってます……ごめんなさい」
一生懸命弁明する彼女であったが、マリン船長はそれを一蹴する。そして、そんな責めるような口調の先輩に対してあくあ先輩は何も言い返せないでいた。
「……まあでも、それ以上に分からないのがるしあとラプラス様の関係性です。特にるしあ、あのあなたが何故holoXと協力しようなんて言い出したのか船長には理解しかねますね」
「それは……」
「敵に対しいつでもストイックであったるしあが、いきなり彼女たちを連れてきていること自体不可思議です。おまけに、ホロベーダーを滅ぼすから協力して欲しいなどというこちらにとっては”都合が良すぎる”提案……到底、船長たちが鵜呑みにできるわけなくないですか?」
「……」
的確に鋭いところをつつき、彼女は詰めるようにしてるしあに問う。それは相手の反論の余地を無くして、言いたいことを言えないようにするような言い方であった。
……がしかし、例えそれが無かったとしてもるしあには答えづらい文句であっただろう。その原因は他でもない、吾輩の身勝手な我儘による情報共有の制限だ。吾輩とるしあが『協力し合いたい』と思っている根本的な理由を、吾輩達はこの場の誰にも話すことができない。
「マリン船長、それに関してなんだが……」
そう考えたラプラスは、思いかけず口を挟もうとした。特に解決案があったわけでは無かったが、それでも本当は何も悪くないるしあ達が責められるようなことを言われていることが耐えられなくて。何とか上手い言葉を並べようと彼女は試みた──。
「──ストップぺこ、マリン。」
しかし、それすらも遮ったのはずっと静かに目を閉じていたぺこら女王であった。
彼女は重く閉ざしていたその口をようやく開き、そしてマリン船長の小言すら寸断する言葉を投げる。
「なんで、どうして、そんなのはどうでもいいぺこ。今うちにそんな細かいことを気にしている余裕はねーし、時間の無駄。……そんな面倒な事をいちいち聞かなくたって、一発で解決する方法があるぺこでしょ」
胸の前で腕を組んだまま、兎の女王はハッキリとそう告げる。そして、吾輩の隣に座っていたるしあの反応を伺いながら、彼女は続けて本人に問うた。
「るしあ。────コイツらは、信用できるんか?」
それこそが、女王の知りたかった最も重要なことであった。
些細な問題や事情など知ったことではない。この話をする上で、一番大切なことはるしあが……”仲間”が、holoXという組織を信用しているのか否か。
そして、その答えだけは初めから決まっていた。
「──うん、出来る。少なくともるしあは、皆がやらないって言っても一人でだって協力するくらいにはラプラスたちを信用してる」
その場の全員に聞こえるように、るしあは堂々とそう告げた。一切の迷いや疑いなど無い、ぺこら先輩からの疑問に対しまさに即答であった。……それを聞いて、悪魔が深い感動に包まれていたことは言うまでもあるまい。
「そう……なら、なんも問題無いぺこね。新生ぺこランドは秘密結社holoXからの提案を受け入れて、ホロベーダー駆逐の為に全力で力を貸すことにするぺこ!」
重苦しかった場の雰囲気を、ぺこら女王がそう言ってぶち壊した。
「えっ……い、いいんですか、ぺこら女王? 相手はあの、泣く子も黙る悪の組織の……」
「バカタレかっ! マリン、あんたも分かってんだろ?! うちには選り好みしてる余裕なんて無ぇーぺこなんだよ。そんな中、向こうが折角ホロベーダ―殺してくれるって言ってんだからその話に乗っからない理由なんて無いぺこ! ……それにぶっちゃけ、仮にholoXに何かの企みとかあったところでそんなのぺこーら達がいくら考えたってわかんないんだし。だったら利用できるだけ利用したほうが断然お得ぺこ!」
それは如何にも、兎田ぺこら”らしい”解答と考え方であった。
交渉相手を前にして、利用できるだのお得だのとはっきり言い出す始末。けれど、逆に言えば彼女にとっては相手の機嫌などどうでもよく、自分達に都合の良い結果になりさえすればそれでなにも問題無いという事でもあった。例え疑わしい相手だろうが、悪評轟く悪魔だろうが、何故か自分達にとって願ったり叶ったりの提案をしているのなら後先考えずに乗っかってしまえというのが女王ぺこらの意見である。……当然、そう考える大元にはるしあがはっきりと答えた『信用できる』という言葉があると言っていい。
「いいぺこね? マリン。こいつらと手を組むってことで。……異議があるなら一応聞いてやるぺこ」
「……。」
一国の女王として覚悟が決まり過ぎている、即決即断のぺこら先輩。しかし、もはや決定事項であると言いたげな彼女であったが、それでも確認の意も込めてマリン先輩にはその異議を問うていた。
そして、それを受けた上でもやはり船長は腑に落ちないような反応を示す。
「……もう一度だけ、確認をしてもいいですか。ラプラス様」
更に数秒の静寂の後、先輩が吾輩にそう聞いてきた。
「いいぞ、なんだ?」
「情報の整理をしたいです。端的に言えば、あなた方の主張はこう……ちょっかいを掛けられたホロベーダーを根絶やしにする為、私達に協力を仰ぎたいということですか?」
「そうだ。さっきも言ったが吾輩たちは奴らについてほとんど知らないからな、女王やマリン船長たちの持つ知識や情報をこっちに提供して欲しい。……その代わりと言ってはなんだが、お前達が故郷の惑星を取り戻すために幾ばくかの手助けをしよう」
「故郷を、取り戻す……なるほど……」
確認として投げかけられた船長の疑問に、吾輩は想いのまま真実を答える。
当然、吾輩は例えどんな困難が待ち受けていようとも必ずふぁんたじあを奪還するつもりでいる。そして、それは先輩方からしてみればどんな理由であれど嬉しいことのはずなのだ。──だから後は、吾輩達の言葉に乗っかってもいいとさえ皆が思ってくれれば……!!
「……もう一つだけ。先程の女王の質問に付随する形ではありますが、個人的にはそのお相手であるあなた様にも聞いてみたいと思ってしまったので。────ラプラス様、あなたはウチのるしあのことを信用しているのですか?」
最後に、思いもよらぬ質問が飛んできた。
元々、船長の方はこの話にあまり乗り気ではないように見受けられた。それは本心なんかはどうであれ、大きくは立場や吾輩達の端から聞いていた噂等が大きく影響しているのだろう。だからこその羅列された、叱責とも取れるるしあやあくあさんに対するあの対応。普段おちゃらけているところを多くみる反面、しっかり決めるところは決めるこれまた先輩らしい反応である。
……しかし、その上でるしあやぺこら先輩の意見に賛同したいという気持ちもあった筈だ。彼女自身吾輩たちに思うところもあるし、本当の理由や目的も分からない中で相手を信頼することなど出来ない。──だからこそ、先輩はきっとそういった細かいことを全てすっ飛ばそうとしてくれているのだ。
本人にとって仲間であるはずのるしあが、吾輩を信じると言ってくれた。そして今、逆にこちらから見て彼女は信頼に足るのかと問うてきている。その答えによって、船長はその間に生まれる全ての疑惑や疑念をかき消そうとしているのだろう。
──そして、そんな問いに対する答えは当然の様に決まっている。
「勿論だ。吾輩もるしあを信用してる、そうじゃなきゃ部下たちの反対を押し切ってまでうちで匿ったりしないぞ」
少し笑った決め顔で、吾輩はそう言った。その質問の答えはもう、あの時あの船の中で何度も本人に言った。それを今更覆すわけがない。
「……そうですか、わかりました。──女王、船長もholoX様の提案に賛同します。仮に本当にこの方たちが我々の力になってくれるなら、これ以上頼もしい援軍は居ません」
自らが提示した疑問に対する回答を聞いて、マリン船長はそう結論を出した。どうやら吾輩の言葉は彼女に届いてくれたらしい。もしかしたら多少無理を通して乗ってくれたのかもしれないが、それだって結果的に先輩方が救われてくれることになるならそれでいい。……どうせ、皆に信じられようが信じられまいが、るしあとの約束は果たすのだから。
「ふんっ。マリンの意見は最初から聞いてなかったけど、まあわかったぺこ。……じゃあそのついでで聞いておくけど、みこパイセンもそれでいいぺこね?」
なんとかマリン船長の賛同を得られたが、それを聞いて女王はまたしても鼻を鳴らす。そしてあろうことか、『最初から意見は聞いていない』などと言い出した。……相変わらず、暴君のような人だな。そう自分で言ったくせに、結局全員の意見を聞いているし。
「うぇっ? ……あ、あー、うん、みこもそれで大丈夫っていうか……そこに関してはどっちでも……」
「? ……煮え切らない反応ぺこね。言っとくけど、あんたやすいちゃんにもキッチリ働いてもらうから。そこんとこ分かってんの?」
「え? あ、うん、それはわかってるんだけどぉ……い、いいや、何でもないにぇっ!」
説明の最中殆ど言葉を発していなかったみこ先輩。しかし突然その矛先が自身に向いたことにより、若干驚いているようだった。
けれどその上で、ぺこら先輩からの問いに随分と曖昧な返事をする。それを不思議に思った女王が聞き返すが、やはり何かを言いたげにしながらも結局は『何でも無い』と言い張った。……その間、何故かチラチラとこちらを見ていた気がするが……なんなんだ?
「……では一先ず、こちらは問題無いということでいいですね? 二人とも。──そうしましたらラプラス様、改めまして我々ぺこランドの勢力一同holoX様のご提案を受けさせて頂きたいことをここに公言させていただきます」
ラプラスが抱いた疑問の最中、マリン船長がそう宣言を出した。またそれを受けて、悪魔は気を取り直す。
先程のみこ先輩の反応については少々腑に落ちないが、取り敢えず今は問題にしなくてもいいだろう。別に吾輩たちと協力することに文句があるって感じでは無かったしな。
そして何はともあれ、向こうがこちらと協力関係を築いてくれると言ってくれたのだ。今これ以上に嬉しいことは無い。
「了解だ、一緒に協力して憎き奴等を滅ぼしてやろう。……こんな離れた円形の机じゃなきゃ、代表者同士で固い握手でも交わしたいんだがな」
「へんっ、互いが互いの目的の為に相手を利用するのに、そんな作法が必要なんけ? 折角の機会をこっちは最大限使わせてもらうから、そっちもそうすればいいぺこ」
冗談交じりの挨拶として、ラプラスはそう言った。返し、ぺこら女王も全く相手を気遣わぬ本音を並べる。しかしなぜだろう、そのまるで悪巧みでもしていそうな彼女のニヒル顔がとても懐かしく感じられた。
「……取り敢えず、話は纏まったみたいなのです。無事に済んでよかった……」
そう呟いたるしあは、少し肩を下ろし全身の力を抜いているようだった。よく見るとその額には薄っすら汗が滲んでおり、彼女もうまく話が運ぶのだろうかと思いのほか緊張していたらしい。だが、これで一応の面目は保てたよな。
「あぁ、そうみたいだな。一旦の『船長たちに話を付ける』って課題はクリアだ、るしあの言葉のお陰だぞ。助かった」
「なに言ってるの、半分はラプラスの手柄でしょ? それに、”あの時”の話の通じない私との話し合いに比べたら、これくらいラプラスには造作も無いのです。……あなたは垂らし込むのが上手いから」
「ちょっ!? へ、変な言い方しないでくれよ……」
右隣に座る友人と、密かにそんな言葉を交わす。しかしまるで揶揄うように言われたそれに吾輩が奇声を上げた結果、彼女は楽しそうにくすくすと笑っていた。……最近、るしあからこの手の冗談が多い気がする。それだけ心を許してくれているってことで悪い気はしないが、流石にかなり小っ恥ずかしいんだが……。
「……ねぇー、ちょっとラプラスー。いつまでその根暗魔女とイチャついてんのー? 会議続けるなら早くしてよー」
ずっと課題視していた話がまとまったということで、ほんのひと時の閑談。けれど、それに水を差す様に掃除屋は口を挟んだ。……その口調は軽いものであるが、物凄く険しい顔と赤い瞳に殺気を込めて。
「えっ? ……あ、あぁそうだな、悪かった……」
クロヱにそう言われ、向けられた視線にラプラスはハッとする。……ついでに、るしあ二人で周りからの注目を集めまくっていたことにも気が付いた。やばっ、こんな人が見てるところで必要以上にるしあと仲良く話してたら、立場上あんまりよろしくないよな……。
「しっかりしてよー、沙花叉たちも暇じゃないんだし。……てゆーか、全体的に話が長い。決める事パパっと決めて、早くこの星からおさらばしよー」
「ま、まぁまぁクロたん、落ち着きなって……”気持ちは分かるけど”、それでもここでは言わない方が……」
「そうよ沙花叉、それくらいにしなさい。……今は、ね」
こちらの謝罪も意に介さず、クロヱはだらだらと文句を続ける。それを博士と幹部が一応は宥めてくれていたが、その表情から恐らくは新人と同じ気持ちを抱いているのだろう。……その形の無い重圧に耐えきれなくなった吾輩は、早々にそちらから顔を反らした。
「──ほれ、見てみろマリン。幾らholoXって言ったって、案外ぺこーら達と変わらない普通の連中みたいぺこだよ」
左隣に並んだ部下たちから視線を逸らすと、自動的にその他のところに注意が向く。そして、その先で部下たちとのやり取りを眺めていたぺこら先輩と目が合うと、少し退屈気味に彼女がそう言った。
「え、えぇ、そうみたいですネ……うーん、一体何がどうなってるんだが……」
「あんたは細けーこと気にしすぎなんだよ。ポンコツ先輩みたいにもっと頭空っぽにして考えたほーが良いぺこ」
「おい兎田、それ誰のこと言ってるにぇ」
逃げた先で、先輩たちがそんなことを話していた。どうやら向こうでも、変わらず意見が割れているみたいだ。こっちからしてみればまあ悪くない意味でholoXにあまり興味が無いらしいぺこら先輩と、逆にこちらをかなり警戒しているマリン船長。更に、この会議を通しずっと渦中に上手く入れないみこ先輩……珍しい組み合わせと言われれば確かにそうだが、相手側もあまり考えの統一は成されていない。
「別に、誰の事とは言ってねぇーよ。……はいはい、全員無駄話はそれくらいにするぺこ。注目っ!」
閑話休題、ぺこら先輩が大声でそう言った。
またそれを受け、その場の皆が女王の方に目線を傾ける。
「取り敢えず、ぺこーら達の要望としては結果的にふぁんたじあからホロベーダーを追っ払えれば何でも良いぺこ。その為にこっちはholoXの力を最大限使わせてもらうし、勿論うちからの協力も惜しまない。……それでいいぺこね? ラプラス」
「あぁ、構わないぞ。吾輩の望みが叶うんなら、細かいことは気にしない」
我ながら、良い言い回しだと思った。こういう言い方なら部下たちからの不満も出なそうだし、また嘘を言っていることにもならい。実際問題、吾輩はるしあや先輩たちが救われることを望んでいるしその過程で起こる些細ないざこざは許容の範囲内だ。
「おーけー。……よーっし、そうと決まれば早速ホロベーダー撲滅の為に作戦会議ぺこ! 正直、こっちはもうちょー切羽詰まってる状況なんだし、善は急げってわーけっ!」
こちらで起きた一通りの事件の説明を終えて、一先ずここに『秘密結社holoX』と『新生ぺこランド』勢力による共同戦線が引かれることと相成った。
そして、その勢いに任せ女王がバンッと机を叩いて立ち上がる。
「……ちょっと待ってぺこら。早く行動に移りたいのはわかるけど、先にそっちで何があったのかも聞きたいのです」
……だが、それを遮るようにるしあが口を挟んだ。手を組むのかどうかすら悩む暇を必要とせず、よく言えば決断に躊躇が無いぺこら先輩。そこがこの人の気持ちのいいところでもあるけれど、確かにるしあの言っていることも気になる所ではあった。
本来であれば、るしあ達は帰還を急がなければいけない状況にあった。その理由は、このコメットで起きたらしいある”ある事件”。その実態と、その後どうなったのかを、こちらはまだ聞かされていないのだ。
「ひと月前、マリンとの通信でぺこランド内にホロベーダーの幼体が出現したって聞いてるのです。パッと国を見た感じ大事には至ってないようだけど……さっきからずっと、”色々あって大変だった”ってぺこらは言ってる。それとこの件が関係あるのなら、あの後どうなったのか詳しく聞きたい」
ホロベーダーたちと実際に戦っていく前に、るしあはどうしてもそれを確かめたかった。国に帰る以前から、彼女はずっとそれが気掛かりだったのだ。
これまでに見たことも聞いたことも無い、『侵略者の幼体』という不穏な単語の結末を。
「……あぁ、そう言えばあの辺りは今結界を濃くしてるから外から見えねーのか。確かに、先にるーちゃん達にも話しておいた方がいいぺこね」
直後、女王は思い出したようにそう言った。
”結界を濃くしている”?それってつまり、その場所の守りを強くしてる的な意味なのか……?
「まあ、一旦結論から話すか。────ごめんるしあ、実は今ぺこーら達は現在進行形でホロベーダーに土地を奪われてる真っ最中ぺこ」
あまりにも呆気なく、とても軽い口調で女王は国の存亡の危機を告白した。