転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
それとですね……実は先日寄せられたとある感想コメントの内容にて、この作品における"重要な設定について"気づかされたことがあるのでそれについて言及しておきます。それは、この『転ラプ』シリーズにおいて主人公である『現世ラプラス』は、『別世界のもう一人のラプラス』に【憑依】している状態だということです。なのであくまで"体はパラレル世界のラプラスのもの"であり、そこにホロ六期生のラプラスが入り込んでしまっている状態という事です。結構分かりづらいですよね。
見返してみると、そういう風にハッキリ描写している部分があらすじ部分にしか書いてなかったことに気が付いたので、ここで再度明記しておきます。え、それじゃあ何で作品のタイトルが『転生したらラプラス・ダークネスだった件』なのかって?…………そ、それについてはまた今度にしましょうっ!!
【追記】
今回は特に深堀する設定が無かったので、設定深堀シリーズはお休みにします。
もし何か気になることや質問があれば、今後ここを使って答えるかもしれません。
地下牢に幽閉されて、丸二日が経過していた。
ラプラスは今、その場にいた部下たちを逃がすために犠牲になった結果……フブキ王の統べるフレンズ国の王城、その地下牢に囚われていた。そこはholoXの本部にあった近未来的な檻ではなく、まさしく昔の牢獄と言えばコレ!みたいな場所だった。名前の通り城の地下にあって、床や壁は石造り。そして一面が十字の網目に組まれた木で出来ており、そこに南京錠の掛かった扉が嵌められている。
湿気もすごく不衛生であることこの上ないが、幸い見た目が子供っぽいために非力だと思われているのか拘束自体は手を前にして縄で縛られているだけだった。更に、少しばかり少ないが一日二食もご飯が与えられていた。捕虜とは言え、その待遇は恐らくかなりいい方なのだと思う。本来あれだけ恨まれている組織のボスならば、もっと劣悪な環境に置かれるか、もしくは初日に処刑されていてもおかしくない。身体的自由がそこそこあって、ご飯の食べられるこの状況に今は満足しておくべきなのだろう
しかし、それでもどうしても我慢できないことが二つあった。
それはお風呂に入れないことと、退屈すぎるという事だ。吾輩の長い髪はごわごわするし、一日中ここに居たら暇すぎて狂ってしまう。本当なら、ここに一緒にいる烏と話せればいいんだが……ずっと見張りが立っているために、向こうが話していることを一方的に聞くだけになってしまう。烏の話していることは他の連中に聞こえないらしいが、流石に吾輩が返答をすると怪しまれるしな。烏もそれを察してか、初日は結構吾輩のためを思って話しかけてくれていたのだが……段々と返事の帰ってこない独り言に飽きてしまったらしい。薄情なものだ。
そんな牢獄生活の中での唯一の楽しみと言えば、吾輩の給仕係を任されている”とある獣人”との会話だけだった。もうすぐお昼ごろだし、きっと今日も彼女が焼きたてのパンを運んできてくれるだろう。
「……噂をすればだな。いや、喋ってないけど」
地上へと続く階段の方から、一人分の足音が聞こえてくる。これは日に数度、見張りの交代と給仕さんが来る時だけに聞こえるものだ。これだけが、窓の無い牢屋内の吾輩に時間という概念を教えてくれていた。
ラプラスは待ちに待っていたその人の襲来に、音の鳴る方へ耳を傾ける。
すると丁度、地下牢の入り口から食事を乗せたお盆とろうそくを持った”犬型の獣人”が姿を現しところだった。
「ラプちゃ~ん、今日もご飯持ってきたでなー!ちゃんといい子˝にしてたかな~?」
そう言いながら、香ばしい香りのパンを持ってきてくれたのはホロライブゲーマーズの一人、【戌神ころね】先輩だった。吾輩も初めて見た時は驚いたが、獣人の星でミオ先輩なんかもいる以上不思議なことではないと自分を納得させていた。
「ころねさーん!待ってたよ~~!!吾輩、もうお腹ぺこぺこっ」
「あいあい、ちょっと待っててね。今ミオちゃんから貰ってきたカギで開け˝るから」
ころね先輩がそう言うと、慣れた手つきで牢の扉の鍵を開けて中に入ってきた。今日も焼きたてのクロワッサンに、温かいシチューというメニューだ。正直もう飽きてきているが、捕虜という立場上贅沢は言えないな。
「それじゃあ、今日もご飯の時間は二十分!よく噛んで食べるんだよ~」
「はーい!ねぇねぇころねさん、吾輩がご飯食べてる間昨日の話の続きしてよっ!」
ラプラスは捕虜であるがゆえに、食事の時間が一回二十分と決まっている。その後ころね先輩は、吾輩の食べた食器を持って直ぐに戻らなければならないのだ。ただ片づけをする関係で、食事の時間が終わるまではここに居てくれる。そして、その短い時間の間に退屈しのぎでころね先輩にお話をしてもらっているのだ。昨日は確か、前に親友の”猫型の獣人”と森に遊びに行った話を聞かせてもらったっけ。
「もーしょうがないなぁ。じゃあ今日は、この間”おがゆ”と街に買い物に行った時の話ね!」
そう切り出し始めたころね先輩の話を聞きながら、ラプラスは目の前の食事に手を付け始める。ご察しの通り、ころねさんの言う『おがゆ』とはもう一人のホロライブゲーマーズの【猫又おかゆ】先輩のことだと思われる。吾輩もまだ実際に会ったことは無いが、ころね先輩の話によると同じくここに雇われているらしく、今は他の人の給仕を任されているらしい。
「-----ってことがあって……おっと、もうそろそろ時間かな」
そう言いながら、ころね先輩が首から掛けている時計を確認した。どうやらそれで、食事の時間を正確に計っているらしい。少し寂しいが、ここでゴネたところでどうにもならないので素直に受け入れる。
「えー、もう時間かぁ……。あ、ころねさん、今日のご飯もとっても美味しかったですっ!また夜も期待してますねっ!」
「もうラプちゃん、そんなお世辞ボンバーしても何もでないよぉ?……あ、それと、今日の夜はもしかしたら別の人が来るかもしれんでな」
お、お世辞ボンバー……?
別の人?それってもしかしておかゆ先輩のことだろうか?どっちにしても、もう今日はころね先輩に会えないのか……。
「ちゃーんといい子˝にしてないと、ご飯あげないようにその人に言っとくからね〜!」
ころね先輩はそう言うと、空になった食器を持って上に戻っていってしまった。
またもや一人になってしまったラプラスは、膨れたお腹を休めるために牢の床に人の字に横たわる。冷たい石の感触が背中に伝わり、さっきまで振りまいていた作り笑顔からくる緊張の熱を冷ましてくれていた。
静寂に包まれた牢内で、吾輩は目をつぶっていた。
しかし、いきなり何か刷毛の様なもので叩かれたので再び目を開けた。
「……ここに来て二日と少し、このままじゃ一生牢獄暮らしだぜ?どうするんだよ、あるじ様」
久しぶりに烏が話しかけてきた。
しかし、吾輩は返事をすることができないし向こうもそれを理解してるはずだ。なので、黙って視線だけをそちらに向けた。
「俺も、いつまでもこんな穴倉に居たら狂っちまいそうだ。早いとこその”右手の拘束具”を外して、ここから出ようぜ?」
カラスにそう言われ、ラプラスはそれを否定するように目を逸らした。
ラプラス・ダークネスを縛るこの数々の拘束具たちは、元の世界と同じであるならば吾輩の本来の姿である【ラプラスの悪魔】の力を封じ込めるために着けられている……はずだ。というのも、吾輩にはこれらを嵌められる前の記憶がほとんど残っていないのだ。ただそこには、膨大な力を押さえつけるために付けられている”らしい”という誰かに植え付けられたような『知識』があるだけであった。
でも、恐らくそれは本当のことなのだろうと思う。その証拠に、吾輩の記憶上たったの一度ですらこの枷が外れたことはないのだから。それに、外そうとしたところでそう簡単に外れる代物でもなかった。
しかし、どうやらこちらの世界の吾輩は違うようなのだ。
これはここに来てからの数日間の間に、烏から聞いたことなのだが……こっちの世界の吾輩は過去に、この枷の一部を外したことがあるらしい。詳しくは教えてもらえなかったが、当時の吾輩にはどうしてもそれを外さなければならない理由があったのだとか。
今の吾輩とこっちの世界の吾輩は今、同じ体を共有している。そしてそれは元の世界のラプラスの体と比べても、本人にすら違いが判らないほど瓜二つなのである…………ただ一か所を除いては。
拘束具の嵌められている右手首、そこに今尚消えていない傷が残っているのだ。恐らく、無理やりコレを外そうとでもしたのだろう。まるでそこを肉ごと抉ろうとしたような、そんな傷跡が残っていた。その時の吾輩が何を考えていたのかはわからないが、そこにはきっと悲痛な想いがあったのだと思う。
まあ、一旦そんな血生臭い話は置いておこう。
とにかく、こっちの世界の吾輩はある程度自由にこの力を使えていたらしい。しかし、勿論封印である以上リスクもある。一つは吾輩一人の力では外せないという事。この話をしてくれた今も隣で文句を垂れているこの烏と、本人である吾輩がそれに同意しなければ枷を外すことはできない。烏曰く「それが契約」なんだとか。
そしてもう一つは、少なからず吾輩が精神汚染を受けるという事らしい。以前にこの枷を外した時に、その時の吾輩が言っていたことによると「昔の”私”に戻ってる」という事だそうだ。酷く混乱している様子だったのでそれがどういう意味なのかは烏にもわからなかったらしいが、制御が簡単なわけでもなさそうだ。
ラプラスの悪魔を封じる鎖……それを一部でも開放すれば、元の膨大な力をこの身に戻ことができる。その力を使えばここからの脱出は容易だろう。しかし、吾輩は今の今までそれを実行しようとはしていなかった。その理由はただ一つ、ミオ先輩とあやめ先輩との約束があるからだ。博士たちをあの場から逃がしてもらう代わりに、吾輩は先輩たちに大人しく捕まることを了承している。それを今更正当な理由なく破ることは許されない。
そういう訳で、吾輩は今日もまたこうして大人しく先輩たちに捕まったままの生活を送っているのだった。リスクを負ってまで吾輩のこの疼く右腕を開放する必要はないし、それにここを出る目途も一応はたっている。よって、吾輩はただこうして一人寂しく待っていればいいだけなのだ……たぶん、恐らく。
そんなことを思いながら、ラプラスは烏がいるのと逆方向に寝返りを打ったのだった。
…………それにしても、暇だなぁ……。
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…………おかしい、実におかしい。
もうとっくにお夕飯の時間を過ぎているはずだ。にも関わらず、何時まで経っても誰も吾輩のご飯を運んでくる気配がない。確かころねさんの話じゃ、今日の夜は別の人が持ってくるという話だったが……その人が、一向に訪れない。流石の吾輩もそろそろお腹が空いてきた。いくら捕虜とは言え、こんな時間までご飯をお預けなんてあんまりではないか。
ラプラスは遂に我慢の限界になり、牢の入り口付近に立っている見張りに声をかけることにした。
「おい、ちょっとそこのお前っ!いつになったら吾輩のご飯を持ってくるんだy…………あれ?寝てるのか?」
しかし、そこには壁にもたれ掛かりながら深い眠りについているらしい獣人の兵士の姿があった。
こいつ……見張りの癖に、仕事中に寝てるのか?幹部が見たら激昂しそうな話だな。吾輩これでもかなり重要な捕虜だと思うんだが……。それに、今の吾輩にはそれは致命的だ。どうにかして、早急にお給仕の人を呼んでもらわなくては。
ラプラスはそう思い、見張りを起こすために大声を出そうとした。しかし、それは突如聞こえてきた一人分の足音により中断される。もしかして、ようやく給仕の人が来てくれたのか?
ラプラスはそう思い真っ暗な地下牢の中に立てられている二本のかがり火だけを頼りに、足音の出どころである入口の方を覗き込む。すると、死角になっていた陰からヌッと人影が飛び出してきた。
「やっほ~ラプちゃん、元気にしてたかなぁ~?遅くなってゴメンね?」
「…………おかゆさん?」
その正体は、猫型の獣人であるホロライブゲーマーズの【猫又おかゆ】であった。やはり吾輩の予想通り、今晩の給仕当番はおかゆ先輩のようだ。……あれ?でもどこにもご飯を持ってきてないように見えるんだけど……。
「あの、おかゆさん……吾輩のご飯は……?」
「あれ、ラプちゃん僕の名前知ってるんだぁ~。ころさんから聞いてたのかな?…………でも残念。ラプちゃんがいい子にしてなかったから、今日はご飯抜きだよ」
「そ、そんなぁっ!!」
吾輩、ちゃんといい子にしてたじゃんっ!!ずっとこの何にもない牢屋に居たし、うるさくもしていなかった。なのに、なんでご飯抜きなんだよぉ!!!
ラプラスがその慈悲の無い話を聞いて、思わず泣き出しそうになってしまった。しかし、その顔を見たおかゆ先輩が心底おかしそうにゲラゲラと笑いながら言った。
「あっははは……ごめんごめん、冗談だよ。ちゃんと用意してるって」
「も、もう……おがゆさぁん……」
本当にこの先輩はっ!!!……これが、イタズラ猫という事なのか……。
しかし、ご飯がもらえるならもう何でもいいか。そんなイタズラも許せてしまう可愛さが、この先輩のいいところでもあるのだ。しかし、ちゃんと用意しているというならその肝心のご飯は何処にあるのだろうか?
ラプラスがそのことを疑問に思っていると、おかゆ先輩がポケットから徐にカギを取り出した。恐らく、ここの扉の錠のカギだと思うが……。
「……でも、ごめんね。その前にちょっとついてきて欲しいところがあるんだぁ。ご飯もそっちに用意してあるから、一緒に来てくれない?」
「……ついてきて欲しいところ?」
吾輩は話の意図がわからず首を傾げる。
ここに来てからは、たったの一度ですら外に出たことはない。それを今になって、ミオ先輩でもあやめ先輩でもない人にここから連れ出されても果たして大丈夫なのだろうか。さっきの理由もあって、脱走とかはちょっと遠慮したいんだけど……。
「あ、あのおかゆさん、それってあの……偉い人の許可とか取ってますか?ここの責任者とか……吾輩、一応捕虜ってことになってるので、勝手なことをすると怒られちゃうって言うか……」
「んー?安心してよ~、ちゃーんと偉い人に許可取ってるからさ。それに、ついてこないと本当にご飯無しになっちゃうよ?」
それだけは本当に困る。もうお腹空き過ぎて、若干フラフラしてきたところなのだ。
おかゆ先輩が何処に連れていこうとしているのかわからないが、そこに吾輩の食事もあるというなら行かないという選択肢はもはや無いか……。
「……わかりました、行きます」
「はいはーい、じゃあカギ開けるねぇ。……あ、別に深い意味とかはないけど、大きな声出しちゃダメだからね~」
おかゆさん……それって、やっぱり脱走なんじゃ……。しかし、そう言ったおかゆさんはもう牢屋の扉の鍵を開けてしまっていた。こうなったら、腹を括るしかないか。
ラプラスがそう思いながら、烏を頭の上に乗せてから檻を抜け出す。
「……そういえばおかゆさん、なんか見張りの人がさっきから全ッ然起きる気配ないんですけど…………これ、ほっといていいんですかね?」
「ホントだねぇ~。見張りのお仕事なのに、サボってるなんて怒られちゃうよね。もしかして、今日のお夕飯に睡眠薬でも入ってたのかなぁ~~??」
……なるほど確信犯か。
しかし、そこまでして吾輩を連れていきたい場所って、一体どこなのだろうか……?
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おかゆ先輩に連れられ、牢から地上へと続く階段を上っていた。
地下牢への玄関口を抜け、ラプラスは二日ぶりのシャバへと足を踏み出す。久しぶりの外の空気を肺いっぱいに吸い込んで、一気にふぅーと吐き出した。今この辺りは日本でいうところの春くらいの季節らしく、夜風が心地よかった。
この惑星に来てからの夜はずっと屋内に居たために気が付かなかったが、この星にも月のような衛星があるらしい。しかもここは文明レベルが低く、夜に街の方でライトなどの光源が煌びやかに輝くようなことも少ない。よって、こうして夜中に少し上を見上げれば、天然のプラネタリウムを拝むことができるというわけだ。天体に詳しくも無ければ、星座に関する知識も乏しい吾輩だが、流石のこの満天の星空には至極感動したものだった。
しかし、どうやら思っていたよりも長い間吾輩はお預けを食らっていたらしい。既に、地球で言うところの満月がそこそこの高さまで昇っていた。恐らく、もう間もなくで日付を越えるくらいだろうか。
そんなことを考えながらラプラスが空を眺めていると、おかゆ先輩からいきなり薄い外套のようなものを被らされた。
「はい、ラプちゃん。見回りの人に顔を見られたらマズいから、これを被っといてね」
おかゆ先輩……やっぱり、バレたらまずいんじゃねぇか!!
とは言うものの、既にここまで来て引き返せないだろう。ラプラスはそう思いながら、その外套を布のように広げて直接頭に被せた。残念ながら普通のフードでは、吾輩の角が邪魔で被ることができない。まあ、顔さえ見えなければいいのだからこれでもいいだろう。
何か問題でもあったのかと思うほど、城内の見張りは厳重であった。というのも、別に吾輩の脱走がバレたわけではなく、holoXがこの惑星に攻撃した日からこうなのだそうだ。しかし、その見回りをしている獣人の兵士達はかなりやつれているように見え、明らかに疲労困憊の様子だった。人間ずっと気を張っていれば、どうしたって疲れるものだ。それは吾輩にもよくわかる。いくら有事の際とは言え、このままでは手駒を潰してしまうだろうに。
そんなことを思いながら、吾輩はおかゆ先輩の後に続いて城の敷地内を練り歩いていた。
十数分ほど歩いた頃だろうか。おかゆ先輩の案内してくれている少し先の方に、小さな離れが見えてきた。外装は質素ながらにしっかりしていて、窓の位置などから恐らく二階建てなのだろうと思われる。壁やその周りの草木も綺麗に手入れが行き届いており、まるで位の高い人の隠れ家として利用しているような場所だった。
「ここだよラプちゃん。中で人が待ってるから、まずは挨拶しに行こうか」
「挨拶ぅ?吾輩、この辺りにお偉いさんの知り合いなんていないぞ?」
ただの家屋にしては随分と凝った場所に建っているものだ。確かに本殿からは離れているものの、あそこの二階からの景色は城の後ろにそびえる山々と大きな池を一望できるスポットだ。そんな立地にわざわざ建てられた、あえて目立たないようにされているこの建造物の中には、恐らく隠居中の先代国王でも住んでいるのではないのかとすら思うほどだ。そんなところに、一体何の用だというのか。
「えー、ラプちゃんすごぉーい!見ただけで、偉い人が住んでる場所ってわかるの~?」
「吾輩は天才だからな。……で、一体誰が待ってるんだ?」
「ん~、それは入ってからのお楽しみかな」
そう言って、おかゆ先輩が木造の両開きの扉に手をかけた。重そうな戸を手前に引き、室内を露わにしていく。すると、そこにはこの星に来る発端となった”黒い狐型の獣人”が立っていた。
「……よぉ、久しぶりだなラプラス」
「お前……もしかして、黒かっ!?」
その姿は、紛れもない黒上フブキその人だった。約三日ぶりの再会に、ラプラスは心を躍らせる。
「他の誰かに見えんのか?……その様子だと、思ったより元気そうだな。良かったよ……って何だよおい、くっつくなっ!!」
「黒様ぁぁぁぁあ!!会いたかったよぉぉぉ!!!」
あまりの寂しさと、”あの時”のその後に関して心配していた吾輩は、立場と状況も忘れて黒様に飛びついてしまった。手が未だに縛られていなければ、そのまま抱き着いていたかもしれない。
それに、よく見ると黒様のあの全身の包帯は完全に外れているようだった。どうやら、傷はもう大丈夫みたいだな。
嬉しさのあまり未だに泣きつく吾輩を、流石に鬱陶しいのか黒様が引き剥がそうとしてくる。
「お、おいっ!会えて嬉しいのはわかったから、一旦離れろって!!これじゃあ落ち着いて話もできないだろっ!!」
「へぇ~黒ちゃん。ラプちゃんのコトあんな風に言ってたのに、結構仲良しじゃ~ん」
ラプラスと黒様の絡みを見て、おかゆ先輩がそんなことを言った。”あんな風に”っていうのが引っかかるが、どうやらおかゆ先輩に吾輩のことを話したのは黒様のようだ。
「どう見たらそう思うんだよっ!いいから、おかゆ助けろっ!!」
「え~…もう、しょうがないなぁ…………ねえラプちゃん、実はもう一人会ってほしい人がいるんだぁ。ここの上の階に居るんだけど、本命はそっちなんだよねぇ」
おかゆ先輩にそう言われ、ラプラスはようやく黒様から離れた。そういえば、中で待ってる人がいるって言ってたっけ。てっきり黒様のことかと思っていたが、どうやらおかゆ先輩が本当に吾輩に会わせたい人は別にいるようだ。
「はぁ……こっちだ、ついて来い。”あいつ”も、首を長くして待ってるだろうからな」
「あいつ……???」
黒様はそれだけ言って、部屋の奥にある階段の方へ歩いて行ってしまった。仕方がないので、吾輩もそれについて行く。よく見るとここの一階は、宿直室のようになっていた。簡易的な流し処や机、椅子などが置かれておりここだけでも十分住めそうだ。
黒様に続いて、離れの二階へと続く階段を上っていく。すると、上り切ってすぐに広間のようなところに出た。月夜が室内を照らすように窓が開かれており、幻想的な雰囲気を作り出している。床は座敷になっており、新品の畳のような香りがした。そして、その煌々とした月明かりの中に一人の人物が佇んでいることに気が付いた。
まるで雪のように真っ白な髪に、ついつい触りたくなってしまう柔らかそうなケモミミとモフモフな尻尾を携えている。
ラプラスはその人物を見つめて、咄嗟に口を噤んだ。それは、うっかりこの目の前のよく見知った人物の名前を言ってしまわないようにするためである。
そして、こちらの存在に気が付いた彼女がゆっくりと口を開いた。
「……初めまして、holoXの総帥ラプラス・ダークネス様。私はフレンズ王国初代国王【白上フブキ】と申します」
その狐型の獣人、白上フブキ先輩がそう名乗った。
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