転生したらラプラス・ダークネスだった件 作:飽和水溶液_pixiv
↓作者:飽和水溶液のXアカウント。主に執筆状況や気に入ったホロ関連のリポストしてます。
飽和水溶液(@Suiyoueki_suba) https://twitter.com/Suiyoueki_suba
「ごめんるしあ、実は今ぺこーら達は現在進行形でホロベーダーに土地を奪われてる真っ最中ぺこ」
あまりにも呆気なく、兎の女王は王国存亡の危機を暴露した。
……けれど、それはその口調で語るにはあまりにも重すぎることである。
「……え? ……なに、それ。どういうことなのです……?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味ぺこ。現在C地区は完全封鎖中、ドームの中にうじゃうじゃホロベーダーが入り込んでいる状況ってわけ」
「「ッ!?」」
彼女のその言葉に、るしあとラプラスは驚愕した。
まっ……待て待て待て、それどういう意味だ?!だって、るしあの話じゃ奴等は標的と定めたふぁんたじあ以外に現れることは無いって……それなのに、今この瞬間にもホロベーダーがこの国を襲っているだとッ!?
「なっ?! お、おい、ぺこら女王、こんなところに居て大丈夫なのかっ!? 今すぐそいつらと戦わないと……!!」
「はー? なんであんたがそんな慌ててるぺこなんだよ、一旦落ち着けって。そんな一分一秒を争うような状態なら、ぺこーら達もこんなところに顔出してねーよ」
当人ではないというのに、誰よりも取り乱し慌てるラプラス。すると、そんな悪魔を見て女王は呆れた口調でそう言った。
「……ぺこら、何があったの? ちゃんと説明して」
「分かってるって。……長くなるから、ちゃんと順を追って話さないといけねーの」
ラプラスとは違い、一見冷静なるしあはぺこらに問う。──がしかし、その額には冷や汗が垂れ、傍から見ても明らかに焦燥に駆られている様子である。
そんなネクロマンサーを前に、兎の女王はコホンと咳払いをした。
「いい? 冷静に、最後まで話を聞くぺこ。気になったことはその後に聞くから。────まず、るーちゃん達からholoXと交戦になったって連絡があった日から二日後、ぺこーらのところにある報せが来たぺこ」
一拍置いて、ぺこら先輩はおもむろに話し始める。
そうそれは、調査任務に出ていたうちの暗殺部門と宝鐘海賊団とが初めて戦いになった日から、数日のこと。
「野うさぎ達が馬鹿みたいにうるさかったんで話を聞いてみれば、何でも城下町で小型のホロベーダーを発見したんだと。しかもそれを見たって連中は、『ホロベーダーの赤ちゃんだ!』って騒いでたらしくて」
「……ホロベーダーの、赤ちゃん……? ……通信で聞いた時も思ったけど、やっぱりそんなことは”ありえない”のです。何かの間違いでしょ?」
『侵略者の幼体』、その言葉にるしあは訝しんだ表情を向ける。
……実は、彼女にはその存在を聞いた時からずっと疑問に思っていることがあった。──何故なら、それは”本来存在しないもの”であったから。
「るしあ、ありえないってのはどういう意味だ?」
「……そう言えば、その辺については詳しく話せてなかったのです。元々、その報告があったからるしあ達はぺこランドに帰ろうとしてたって言ったでしょ? でも、その時からずっとおかしいと思ってたのです。だって──本来、ホロベーダーの繁殖方法は”魂を喰らう”ことだから」
「……!」
彼女のその言葉を聞いて、ラプラスはようやくこの話のおかしな点に気が付いた。
侵略者ホロベーダー、その存在や生態は今尚多くが謎に包まれている。だが、るしあ達の長きに渡る戦いにより奴等の謎は少しずつ解き明かされていた。その一つが、驚異的な増殖を見せる彼らの繁殖方法。元来ホロベーダーには二種類が存在し、その内実体を持ち最初にふぁんたじあ内で確認されたというのが【エンティティ】と呼ばれる個体。それはもう一つの種に比べ圧倒的に数が少ない代わりに、驚異的な力を持つと言われている。実際、ホロベーダーの脅威を具体的に表すならば全体的な数の暴力と、そのエンティティ一体の強さによるものだそうだ。
そして、これまでに確認された肝心の奴等の繁殖方法というのが、そのエンティティが人の魂を喰らうことで新たな脅威を生むというものであった。その名は【ファントム】。実に存在するホロベーダーの内の七~八割を彼らが占め、先日岩の惑星で吾輩達が最初に戦ったのもそちらの方であった。
つまり、彼らは繁殖方法に魂の転写にも似たその手法を用いている。故に、男女が折り合い生まれるような『赤子』という概念が奴等には無いはずなのだ。……少なくとも、それがるしあ達が長年の戦いの最中導き出した結論。だからこそ、報告に上がったその話を彼女はにわかには信じ難いのであった。
「……なるほど、魂を喰って増える筈のホロベーダーには幼体が居るわけが無い、か」
「そういうこと。だから最初は、何かの間違いだって思ったのです。──でも……」
そう思っていた筈のるしあが、そこで口を噤んだ。なぜなら、その疑惑があった上でも、先にその後どうなってしまったのかの結論を聞いていたから。
「……るしあの言う通り、最初はぺこらも疑った。けど、実物を見て確かに小さなエンティティの姿をしてたぺこ……そのことから、ぺこーら達は一先ずそれを『ホロベーダーの幼体』と仮定。正直連中については分からない事の方が多いんだし、ただうちらが知らなかったって可能性もあったから。──それに、そんなことよりももっと重大な問題があったぺこ」
国内で発見された幼体、それが本当に奴等の赤子であるのかは定かでは無かった。しかし実際に見た先輩曰く、それは本物の赤ちゃんのように体躯の小さなホロベーダーであったようだ。結果真実も分からぬまま、取り敢えずそれを幼体と認定することにしたという。……その理由は、それ以上に大きな問題に彼女たちが直面していたから。
「これまでに発見されたことの無い、コメット内でのホロベーダーの出現。そんな前代未聞の事態に翻弄されながら、更に数日後──突如、国の南側の領土で何処からともなく奴らが湧いて現れたぺこ。しかも、計二体のエンティティが」
そこからが、吾輩たちが今ここで初めて知った新情報であった。
るしあの話によれば、これまでの戦いの歴史の中でホロべーダーがふぁんたじあ以外に現れたことは無かったそうだ。それはある意味不幸中の幸いと言えて、その性質故に例えどんな状況下でも最悪宇宙へと出れば奴等から逃れることが出来たという。だからこそ、これまでの故郷奪還の主な手法としては先遣隊、及び調査隊を向かわせて少しずつホロベーダーの生態を探り……危なくなれば即退散という方法がとられていた。初めから撤退することを前提で考えればそれだけ運ぶ物資も少なくなるし、危険も回避しやすいという事だ。……無論、その上で決して無視できないほどの被害が出ているわけだが。
だが、その既に確定しきっていた筈の事実が、ここ最近で破られはじめている。吾輩たちの事例で言えば、ただの何もない宇宙空間にホロベーダーが現れたこと。そして今回で言えば、観測史上初となる衛星コメットでの出現だ。これまでの常識は覆され、今まで以上に危機的状況に先輩方は……いや、吾輩たちは立たされていると言っていい。
「……コメットに、ホロベーダーが……なるほど、だからさっきC地区を封鎖って言ってたのです。連中を抑えきれなかった結果、その領土を手放したってことね」
「耳が痛い話ぺこね、まあ結論から言えばそういう事。……つーても、その時丁度アンタたちが留守だったんだからこっちだけじゃ対処しきれねーよ。マリンたちに帰って来てもらった時には、既に街一つ壊滅してたし」
少々聞き慣れない単語はあったものの、二人の話を聞いてラプラスも大まかな事態を把握した。
予期せぬホロベーダーの出現、それに当然の如くぺこら先輩たちは即時対処しようとした。たった二匹と言えど、そこから人々を喰らって数を増やせるのが奴等の恐ろしいところだ。おまけにエンティティは通常のものより強いと聞くし、女王の口ぶり的にその際在中していた戦力で抑えるのは困難だったのだろう。……当時、彼女たち最大の戦力である宝鐘海賊団は軒並み吾輩達とのいざこざの渦中に居たのだから。
「……最初、その話を聞いた時は船長も肝を冷やしました。絶賛holoX様との交戦の真っ最中でしたし、まったくそんな指示をしていないすいせいさんの独断専行にもテンパってて……でも、あの時は何より私達の生存圏の確保を最優先にしました」
「……っ!」
吾輩の知らぬところで何が起きていたのか、その時の状況をマリン船長は語る。するとそれを聞いて、左隣に座る幹部がハッとした後「……なるほど、だからあの時……」と呟いていた。報告には聞いている、交戦中だった筈の宝鐘海賊団が何の脈絡も無しに突然撤退を始めたと。当時の部下たちはさぞ混乱したらしいが、そういう事情があったんだな。
「……話を戻すぺこ。突然現れた二体のホロベーダーを前に、ぺこーら達は何とか対処しようとした。でも弱いやつがいくら戦っても敵の数を増やすだけぺこ。しかも、本当にいきなりのことだったからそこに居た住民たちの避難も間に合わなくて……結果、マリンたちの帰還に合わせて領土を一部切り捨てる決断をしたぺこ。勿論帰ってきた宝鐘海賊団の力を使って出来る限り多くの人達を逃がしたけど……ある程度のところで見切りをつけて、”門を閉め切った”ぺこ」
そう言った女王の口調は、やけに淡々としていた。内容はあまりにも残酷な苦渋の決断であろうはずなのに、それをまるで何でもないように話す。……だが、それを語る彼女の眼は真っ直ぐだった。決して隙を見せることは無く、至極合理的な決断を微塵の後悔も見せずに言ってのけている。
そんな彼女を見て、ある意味この危機的状況下の国で最も女王として相応しい姿だと吾輩は思ってしまった。
「より具体的に言えば、C地区の完全封鎖です。そこへと繋がる唯一の通路を塞いで、更に地区全体を覆う結界を分厚くしました。今のところその場所以外でホロベーダーは確認されていませんので、逆に奴らを街の中に閉じ込めるための政策です。……我々はこれまでに多くのものを失ってきました。ですが、このコメットまで失ってしまえばいよいよお終いです。これ以上被害を増やさない為にも、痛みを伴う決断でした……」
「マリン……」
ぺこら先輩と違って、マリン船長は内容相応の苦しそうな表情を浮かべていた。その中には恐らく、実際に口に出しては語られぬ多大な犠牲があったのだろう。それを”必要な犠牲”として簡単に割り切れる程、事態は簡単なことではない。
また、その時の状況を容易に想像できるであろうるしあも同じ痛みを共有していた。
「──とまあ、それがこっちであったことと、この国の現状ぺこ。閉鎖から既に三週間、その間に計七回先遣隊を送っては敗走を繰り返してる……一応計算上は何とか数を減らせてるからそのうち街自体は取り返せるかもしれないけど、ジリ貧状態ぺこね。そう何度も何度もホロベーダーと戦えるほどうちには余裕が無いから」
最後に、女王はそう締めくくった。
吾輩達がふぁんたじあを探していた約一カ月の間、コメットではそんな壮絶な事件が起きていたらしい。ホロベーダーの幼体出現から始まり、エンティティ二体の発生。そこから連鎖的に増えたファントムを抑え込むために衛星内の生存圏を一部放棄、それから現在に至るまでその奪還は叶っていないと。一応その街を囲う結界を強固にすることで奴等を封じ込むことには成功しているが、それだっていつまで保つか分からない状態なのだ。……当然それはホロベーダーの進行的な意味でも、この国に住まう人々の余裕的な意味でも。
「……るしあ達の留守の間に、そんなことが……国の大事に、居られなくてごめんなさいなのです……」
話を聞き終え、最初に口を開いたのはるしあだった。その内容は、自身の不在による後悔と謝罪。例え本人にはどうすることもできない状況だったとしても、それでも自分の居ない所で仲間が戦っていたと聞いて彼女は何かを言わずにはいられなかった。
「……ふんっ。るしあが居たって目の前の戦況が少し良くなっただけで、結論は変わらなかったぺこよ。ふつーに反則だろ、コメットまで襲いに来るのは」
「そうですね。確かにるしあやあくたんが居てくれたとしても、あまり状況は良くならなかったかもしれません。……だから、そんなに気に病むことないですよ。どの道二人は帰りたくても帰れない状況だったんですし」
そんな彼女に対し、二人はそれぞれ優しい言葉を掛けた。それはとても先輩達らしく、少しでもるしあが自分を責めないようにしてくれるもの。それが例え気休めにしかならなかったとしても、それでも事実るしあが負い目を感じる必要など無いのだ。……文字通り、悪いのは全てその侵略者なのだから。
「……ぺこら女王、取り敢えず一通りの説明は終わったか? ……なら、吾輩からいくつか質問良いか」
そう思う悪魔は、話を続ける。これまでに起きたこと、その結果を聞くことが出来た。……であれば今度は、これからどうするのかを話し合うべきなのだ。
「うん、もういいぺこ。何?」
「まず、確認の為に聞きたいんだが……さっきホロベーダーのエンティティが現れたのは国の南側って言ってたよな。そこがC地区って場所なのか? こっちはいまいちこの国の名称を把握できていないんだが」
「あぁ……そう言われてみればそうぺこね。マリン、説明したって」
ようやく質問タイムに突入し、吾輩はまずずっと気になっていたことを確認する。この国の全貌や成り立ちについては予めるしあから聞いていたが、実際の構造や名称についてなんかは知らない事の方が多い。そのせいで一部認識がはっきりしない部分があるのだ。
「はい、わかりました。……では簡潔に、まずこの我らが新生ぺこランドは大きく分けて五つのブロックが存在します。中央にはこの居城がある城下地区、そしてそこから伸びる四方にはそれぞれ北から左回りにA、B、C、D地区があり、それぞれを結界で覆っています。また各地区への連絡通路は一本ずつのみ通っており、そこを行き交うことでブロック間を移動できます。ですので、今回の該当場所はここから南側にあるC地区ということになりますね。……ちなみに、A地区とC地区は住民の住居がある”街”とし、B地区は工場や生産地域、D地区は農場とわずかばかりな動物を飼育している牧場となっています」
それこそが、衛星コメットに根付く新生ぺこランドの全貌であった。
構成は人々が生きていく上で、必要最低限なもの。衣食住を何とか保つための、彼らが確保したこの星の生存圏の全てである。
「そうか……ということは、今回奴らに奪われたのは住居がある地区ってことだな」
「はい、そうなりますね。……決して大きな声では言えませんが、不幸中の幸いではありました。仮に放棄することになったのが我々の生命に直結するD地区であったのなら、生存は絶望的でしたから……」
「…………もう一つ、いいか?」
不幸中の幸い、そう言うマリン先輩の心はどれほどの痛みを抱えていたのだろう。こんな目に遭わされ、一体何処に幸いがあるというのか。……その気持ちを全て汲み取ることなど、今の吾輩に出来ることではない。
「えぇ、どうぞ」
「さっきの説明の中には、結局どうなったか出てこなかったからな。──その最初に出現したって言うホロベーダーの幼体はどうしたんだ?」
名称の確認をした上で、次にラプラスが気になったのはそれだった。
突如C地区内に現れた二体のホロベーダー、しかしその異変以前に存在が確認されていたその幼体。それについての考察は聞いたものの、結局その後どのように対処したのかを吾輩たちは聞いていないのだ。
「あー、そうだった。そっちの話が中途半端だったぺこね……最初、その幼体は城下町の”地下道”で作業員によって発見されたぺこ。本来生物が居ないはずのその場所で赤ちゃんの泣き声みたいなものが聞こえたらしくて、その声を辿った先でうずくまっていたらしいぺこ。……そして、その報告が上がって来て真っ先にぺこーらが思ったのは、すぐにその幼体を殺すべきだってこと」
この国の地下で、奴は発見された。誰も存在しないはずのコメットの内部ともいえるその場所で、空洞に響く鳴き声を聞きつけその存在が明らかになったらしい。……そして、その存在を知ったぺこら先輩は即座にホロベーダーを殺すべきという判断を下した。
「仮に、本当にそいつがホロベーダーの赤ちゃんなら早々にケリを付けないと取り返しのつかないことになる。奴らの脅威度はぺこーら達が誰よりも知ってるから。……ただ、そう思った上でマリン達に一応相談したら、コイツが『調査のために一時的に保護すべき』だって言い出したぺこ」
そう言って、先輩はしかめっ面を振りまきながら横に座っていたマリン船長を指差した。
「当然です。勿論そうする危険性も重々承知でしたが、それ以上に彼らの出生について知れる可能性を秘めていましたので。……当時の船長の考え的には先に帰還するはずだったるしあにその子について調べて貰って、調査が終わった後に処遇を決めるべきだと思っていました。……ですが、今となってはその考えが甘すぎたのかもしれませんね。彼らの危険度は私が思っている以上に高く、大きく、そして”早かった”」
「……早かった?」
即座に殺すべきだと言ったぺこら先輩に対し、研究の為一旦は処分を見送るべきだと主張したマリン船長。その思考の根幹には、ホロベーダーに対する対抗策や長年謎であった”奴等の出所”についての情報を得られるかもしれないからというのがあったらしい。実際、まだ故郷奪還を諦めていない先輩方にとっては当然の様に取るべき選択だっただろう。
……けれど、そう話すマリン船長は何故か、とても後悔しているような表情を浮かべていた。同時に、奴等は想像以上に脅威だったとも……。
「──まー、よーするにマリンの意見を尊重した結果が今のコメットってことぺこね。研究の為に持ち帰ったその赤ちゃんを保護してた場所が、ぺこーら達が放棄したC地区だったわけだし」
「…ッ…」
それが、吾輩が抱いたもう一つの疑問に対する回答であった。
発見されたホロベーダーの幼体は、件のC地区で一時的に保護されることになった。それは研究の為であり、彼らについての情報を得るために。……だが、その結末は二体のエンティティの突発的な発生による街の放棄であった。
「ちょっと、ぺこらってばそんな船長を責めるような言い方しないでくださいよ。まだその赤子と現れたホロベーダーに関係があると決まったわけじゃないじゃないですか」
「奪われた子供取り返しに来んのが親のやることだろーがよ。事実捕まえてた施設を中心に襲われてんだし……まあ、なにもあんただけの責任なんて思ってないぺこよ。ぺこーらもその意見が正しいと思って野うさぎたちにそう指示したわけだから」
女王がまるでこうなった原因がマリン船長にあるような言い方をして、本人が少々口を尖らせる。だが、ぺこら先輩はその責任の是非は否定しつつも、凡そその赤子の存在が今回のホロベーダー襲撃を招いたのではないかと予想していた。
しかしなるほど、大体全貌が分かって来たぞ。
本来そんなものが居るはずも無い、ホロベーダーの幼体発見から始まったコメットでの騒動。その赤子を国の南側にあるC地区で保護していたところ、突如エンティティによる襲撃を受け壊滅。結果ぺこら先輩たちはそこを放棄する決断を下して、現在の完全封鎖に至っている。
だが、当然そんな中でも絶えず奴等から領土を奪え返す努力と調査を続けていた。そんな最中に浮上した一つの可能性が、『赤子の存在がホロベーダーを出現させたのではないか』ということ。一体どこからどうやって、そういう疑問を一旦考えないのであれば親が子を助けに来るのは当然の筋だろう。少なくともそう考えれば奴等が現れたことも、そしてC地区が狙われたことにも説明が付く。……もっとも、そんな当たり前の思考がホロベーダーに働くのかは議論の余地があるが。
けれど、これでようやく吾輩たちがこれからまずすべきことがハッキリと分かった。最初から一先ずC地区の奪還が最優先だと思っていたが、同時にその赤子の存在や出現したホロベーダーとの関連性を調べるべきだ。
それこそが、今後のふぁんたじあでの戦いの足掛かりになるはずである。
「──なるほど、話は分かった。……それで、ぺこら女王。そっちで起きたことも全員が把握したところで、改めて今後の動きを決めたいんだが」
「賛成。ダラダラと無駄に長話しするのは性に合わねーぺこ。……確か、そっちの要望はこっちが持つホロベーダーについての情報が欲しいんだったっけ。なら、こっちが知ってることは全部教えてやるから、代わりにC地区奪還に協力して欲しいぺこ」
「勿論だ。こっちとしてもふぁんたじあで戦う前に連中との戦闘経験を積めるのは嬉しいことだしな」
互いにそれぞれで起きた事情を話し終え、吾輩はぺこら先輩に今後の行動についてを問う。すると彼女は、情報提供の対価としてC地区奪取の協力を申し出てきた。当然こちらとしては端からそのつもりだったし、それに加えてホロベーダーとの戦闘データを予め得られるのはかなり大きいことだろう。
「おーけー、じゃあそういうことで……マリン、るしあ、こっちで残ってるホロベーダーの文献や調査記録、宝鐘海賊団の報告書を片っ端から集めてholoXに見せるぺこ。ついでに使える人員も国中から招集しておいて」
「了解です、女王。……るしあ、そのついでで申し訳ないのですがC地区の結界を見てもらえませんか? あなたが居ない間に突貫工事で封鎖作業を行ったので不備がないか心配です」
「分かったのです。暫く留守にしちゃったし、他の所のも一緒に確認しておくね」
ぺこら女王から下された指示に、マリン船長とるしあがそう答えた。吾輩達が表向きに欲しがっているホロベーダーの情報提供の準備をしつつ、奴等を無理やり封じ込めたらしい結界に問題がないかを調べる。どちらも早急に取り掛からなければいけない事だな。
なら、それに合わせてこちらも準備をしなければならない。
「それじゃあ吾輩たちは、その情報が集まり次第C地区奪還の為に動くってことでいいか?」
「そうぺこね。こっちでも調査団を作るからその連中と連携して進めて欲しいぺこ。まあ多分メンバーのほとんどが宝鐘海賊団になると思うから、指揮はマリンかな」
「分かった。なら、こっちもそのつもりで準備しておく。……あ、そうだ。余計なお世話なら断ってくれてもいいんだが、もし必要ならこっちから食糧とか武器とかの物資を提供しようか?」
「…………は?」
兎にも角にも、急くべきはコメット内の生活圏の奪取、そして安全の確保である。その意見が一致しているラプラスとぺこらは互いに連携し事を進めようとしていた。……だが、それに伴って放たれた悪魔の言葉に対し彼女は困惑の色を浮かべる。その理由は、決して協力関係を結ぶ上では言及されなかった対等以上の相手からの施しに寄るもの。
「……自分が何言ってるかわかってんの? なんでそっちがぺこーら達に支援してくれるぺこなんだよ」
「ん? 別に深い意味はないぞ。ただ色々余裕がないみたいなこと言ってたし、少しでも足しになればいいと思っただけだ」
「……?」
至極意味が分からないといった様子の女王。しかしラプラスは、単なる親切心からその提案を口にしていた。……先輩方の助けになるのなら、holoXが持つ膨大な物資を少し分けるくらい何ら問題は無いのだと。
「幹部、構わないよな? 少しくらい渡しても。確か備蓄とか結構してあるって言ってたし」
「……えぇ、あなたが良いなら問題ないわ。元々うちは構成員達のお陰でその辺には困ってないから」
「だそうだ、女王。勿論あげるんだから返して欲しいとかいうつもりもないし、変に恩に感じる必要もないぞ」
けれど念のため、ラプラスはその辺りを仕切っているはずの幹部に確認を取る。すると、ルイは一瞬悩みはしたものの総帥が言うなら問題は無いと答えた。これは吾輩なりの、先輩方に対するささやかなお礼なのだ。いつもお世話になってるわけだし。
そう思ったラプラスは、再度兎の女王を見据えた。しかし本人は、それでも疑いと困惑の眼を解かないでいる。……すると、そんな彼女に対しネクロマンサーが口を開いた。
「……ぺこら、ラプラスはこういう人なのです。本当に他の意味とか無いと思うから、素直に受け取っても大丈夫。……るしあが保証するのです」
柔らかく微笑みながら、彼女はそう言った。
その言葉にはるしあがこの組織に、そしてラプラスに向ける想いの丈を表している。
「──分かった。……ラプラス、その言葉に甘えて色々提供してもらいたいぺこ。今回のことがあって宝鐘海賊団も暫く遠征にいけてなくて、どこも結構カツカツらしーぺこなんだよ」
「あぁ、いいぞ。全部用意できるかわからんが、必要なものは言ってくれたら出来るだけ準備する」
こうして、吾輩たちの今後の行動は決定した。
主に宝鐘海賊団はホロベーダーについての情報を纏めたり、調査隊を指揮してのC地区の奪還。そして、holoXはそれと連携しつつ準備が整い次第の実行部隊。更に、状況的に色々不足気味であるコメットに諸々の物資を提供をすることになった。
加えて、個人的な役割を持つ者達が少々。るしあは結界の確認やホロベーダーの被害を受けた者達の見回り。幹部とマリン船長は諸々の手配と、具体的な実行についての話し合い。そして、兎田ぺこら女王と吾輩は、たった今取り決まった『秘密結社holoXと新生ぺこランドの協力関係』についてそれぞれ国民や組織全体への周知が任された。
特に、ぺこランドの住人への説明はかなり骨が折れる可能性がある。当然、それは吾輩たちのような余所者を信用できないという意見が上がるだろうことが、大いに予想されるからだ。……といっても、そこについては女王なりに考えがあるらしいのだが……。
──だが一先ず、そんな辺りで話し合いを終えることとなった。
気付けばかなりの時間、席に座り顔を向かい合わせていて、流石に互いに一度話を持ち帰る流れになる。確かに、ここに座っているだけじゃ何も問題は解決しないからな。
……こうして、あまりにも相容れないはずだった彼女たちの会合は、比較的平和に幕を閉じたのだった。