すくりーむ・ざ・ぼっち!   作:博一

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 ぼちぼち投稿再開します。



お呼ばれ

 

 

 

 俺の気持ちがどうだろうと、変わらず時間は流れていく。

 学校では相変わらず針のむしろ。監視されているかのように、常に誰かの視線を感じる。

 幸いなのは実害がないことか。侮蔑や警戒はあっても敵意は薄い。出回っている俺の噂が酷過ぎて怖いだけかもしれないが、教科書を捨てられたり財布を取られたり靴を隠されたりなどのいじめがないだけ恵まれている。

 体育の授業の際にペア組で余ったりはするけど。これは前からなので気にすることでもないし。

 

 まあ、良くも悪くも時間が解決してくれるはずだ。

 俺が心がけるべきことは、自分なりに誠実な態度を取り続けることだけ。そうしていれば、本当に俺を見てくれている人なら噂がデマだと理解してくれるだろう。たぶん。

 

 そんなこんなで肩身の狭い学校生活。

 後藤さんと仲直り、というか別に喧嘩したわけではないが。以前のように、いや、前以上に縮まった距離感でひっそり昼食を食べる日々。

 なんて事のない平穏な時間を過ごし、最近荒れ気味だった心を癒していた。

 

 そして本日。のんびり弁当を食べている時に珍しく、後藤さんから相談を受けている。

 まあ相談というか、お願いと言った方が正しいのかもしれないが。

 

「ミーティングに? 結束バンドの?」

「は、はい……。その、今日の放課後に……。いいっ、一緒に来てくれません、か……?」

 

 まさかのミーティングへのお誘いであった。

 俺にとってはあまりにも予想外の問いかけで。何もかもが曖昧なまま、言葉を交わすこともなかったスターリーの面子が脳裏をよぎる。

 口をつぐんでしまった俺を見て、後藤さんがしゅんと縮こまっていく。

 

「む、無理そうなら、大丈夫です……。急に言われても、ここ困っちゃいますよね……」

「いや、その……。理由を聞いても?」

 

 承諾するにせよ断るにせよ、彼女が頑張って人を誘うほどの理由を知りたい。

 そう聞くと、食べ終わったお弁当箱を見つめながらもじもじしていた後藤さんがハッと顔を上げ、慌ててスマホを取り出す。指をちまちま動かして、画面を俺に差し出してくる。

 なんだなんだ、と思いつつスマホを受け取って。表示されているロインのトーク画面を確認する。

 

「……これ、伊地知さんの」

 

 お相手は伊地知虹夏。『にじか』と可愛らしいひらがなに黄色いくせっ毛のドリトス画像だ。

 急遽サポートギターをしてくれた後藤さんに対する感謝の言葉と猫のお礼画像の下。今後のバンド活動を話し合う旨と翌日スターリーに集合してほしいと書いてある。

 これは何も問題ない。特に違和感もないし、礼儀正しい気遣い上手の人だなと思うだけだ。

 俺が気にするべきは更に下。

 

『それと、出来ればあの男の子、佐藤くんだっけ? 彼も連れてきてほしいんだ。いろいろと、その、話したくって。あ、本当にできればだから! 無理そうならぜんぜん大丈夫だよ!』

「……なるほど」

 

 何度か文章を読み、スマホを後藤さんに返す。

 おずおずと受け取ってそそくさとスマホをしまう彼女は、恐る恐るな顔で俺を伺い見てくる。さてどうしようかと悩んで眉間に軽くシワが寄ってしまっているのを見てか、彼女はあたふたと口を開いた。

 

「えと、えとっ。あ、あの、虹夏ちゃんからのお願いなのもあるんですけど……。単純に一緒に行きたいなって、思ってて……。まだ、その、怖いし……」

「うん。なら、行こう」

「え……?」

 

 俺は立ち上がる。そろそろお昼も終わってしまうので、午後の授業に遅れないよう戻らなくては。

 

「あ、え、あ……。なんて?」

「俺も行くよ。どうなるかは分からないけど」

 

 不安はあるし、怖い感情もある。でも、彼女が一緒に行きたいというのなら、一人じゃ怖くて心細いというのなら、俺が躊躇う理由はない。

 これも一つの恩返しだろう。

 それになにより、俺は自分で歩き出すと決めたのだ。嫌なことから目を背けてばかりじゃ進めない。ここで逃げては、後藤さんの頑張りを無価値なものにしてしまう。

 

「えっと、あ、ありがとう……」

 

 呆然と見上げてくる後藤さん。

 即答に驚いている彼女を安心させるように、俺はほんの少し口角を上げた。

 

――――――

 

 所変わって下北沢。窮屈な学校から解放された俺は微かな解放感と緊張感を胸に、後藤さんを背中に隠しながらスターリーへ向かっている。

 

 実は、彼女が学校を出る時間からズラして俺は後から向かおうと思っていた。なぜかというと、何かと注目の集まる俺と行動した結果、彼女の妙な噂が出たりしないようにするため。自分のことはもう諦めの境地だが、彼女に対する偏見や蔑視などない方がいいし聞きたくない。

 特に隠すことでもないので後藤さんにそう伝えると。

 

『だ、ダメです絶対……! 確かに、その、怖いですけど……。い、一緒に行きます! 一緒に……』

 

 と妙な頑固さに押し切られる形で俺と彼女は共に歩いていた。

 案の定、学校を出る時に周囲の生徒がコソコソ話していたが……。まあ、後藤さんが決めたのなら何も言わない。実害が出るようなら、俺が守ればいいのだし。

 

 そんなこんなで。特に何事もなくスターリーへ辿り着く。

 

「ほら、後藤さん。着いたよ?」

「うぅ……。き、緊張が……」

 

 うじうじと背中に隠れる後藤さんを引っ張り出し階段下へ向かわせる。顔を振り向かせて若干の涙目で見てくるが、後藤さんの成長のためにこういう些細なことでも自分からやらせなければ。

 可愛い顔で見てきてもダメ。俺はただでさえ邪魔者なのだから、なるべく成長の機会を邪魔してはいけないのだ。

 

 彼女の肩をそっと押しながら、恐る恐るゆっくり階段を下りる背に続く。

 さあ、後は取っ手を掴んで中に入っていくだけ。というところで後藤さんがフリーズした。

 

「……後藤さん?」

「あ、あの、やっぱり私じゃなくて佐藤くんがお先に……」

「いや、いやいやいや。俺が先に入っていくのはおかしいでしょ。俺はほら、おまけみたいなもんだし……。それに、あんまり歓迎されないだろうし……」

「そ、それを言ったら私もっ。その……、なんだコイツって見られると思うし……」

「…………」

「…………」

 

 妙な沈黙が俺たちの間に流れる。互いに顔を見合わせたまま、ポツンと突っ立つ謎の時間が生まれてしまった。

 どうぞどうぞ、と互いに視線で促す。

 結局、俺も彼女も入るのが怖いのだ。変な目で見られないか不安で怖い。これが、ぼっちの悲しい生態……。

 

 中にいるのが知らない人なら俺が率先して入ってもいいのだけど……。伊地知星歌や山田リョウの厳しい視線に晒されると思うと尻込みしてしまう。

 いろいろあったが、俺にとっては未だに特別な人たちだ。完全な自業自得とはいえ、そんな人たちに険悪な目を向けられるのは精神的にキツい。

 だから、後藤さんに頑張ってほしいのだが。

 

「さ、3分! 3分経ったら入りましょう!」

「う、うん。そうだね、そうしよう。3分だけ、3分だけ……」

 

 ソワソワと落ち着かないまま、あっという間に3分が経った。

 

「……ご、5分! 後5分だけ! そしたら絶対入ります!」

「あ、うん。そうだね、そうしよう。5分だけ、5分だけ……」

 

 じわじわと惨めな気持ちが出てくるのを感じながら、瞬く間に5分が過ぎる。

 

「……じゅ、10分!」

「いやいや流石にそれはちょっと……。もう、ほら、いつまで経っても入れないしさ。頑張ろう?」

 

 この妙な間のせいで緊張感が薄れてきてしまった。ここでうだうだしていても仕方ないと後藤さんを促すが、取っ手を握るだけでやっぱり動かない。

 

「ちょっと力を入れるだけだよ? 怖くないよ? 大丈夫大丈夫」

「うぅ……。なら、佐藤くんが先に行ってくれれば……」

「あー、それはちょっと……」

 

 そうやって押し付け合っているうちにふと思う。俺、何やってるんだろう、と。

 

「あ……」

「え?」

 

 後藤さんが斜め上を見上げ、何かに気が付いたような声を出す。

 彼女の視線を追って俺も階段上を見上げると、そこに制服姿の伊地知さんと山田リョウが立っていた。

 何故か二人は口元を緩めて、どこか柔らかげな微笑を浮かべている。しかし、俺と目があうと気まずげに視線をついと逸らし、緩んでいた口も引き締めてしまった。

 ちょっぴり悲しい。

 

「あ、えっと……。来てくれてありがとう。その、とりあえず入ろっか?」

 

 伊地知さんが慌てて表情を明るげに戻し、探り探りの雰囲気で小首を傾げた。

 山田リョウは特に何も言わない。ただじっと俺を見つめてくるだけ。

 

 ぎこちない空気感の中、俺と後藤さんは伊地知さんたちの後に続いて、無事にスターリーへと入ることが出来たのだった。

 

 

 

 

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