日本の外務省職員は、窓口のある建物とは別館に案内されていた。
一見するとシンプルな白い建物だが、その柱には繊細な彫刻が施されており、近づくとその金の掛けようが異常であることがわかる。
さらに天井にも彫刻がなされており、なんと本物の金で出来ている。
文明圏外国を相手にする第3外務局でさえこの豪華さだ。ここを訪れた文明圏外諸国の外交担当は皇国の国力に恐れをなすだろう。
そんな中、外務省職員たちは待合室で雑談していた。
「なんだか、ここは欧州あたりの城にありそうな部屋ですね。確か何かで写真を見たことがあったような……」
「ああ、私もそれは見たことがあります。ええと……イタリアの……名前なんだったかな……」
その時、ドアをノックする音が聞こえ、2人は口を閉じて姿勢を正す。
「局長カイオスの準備が整いました、どうぞこちらへ」
ライタに先導され、何度か曲がった先には重厚な扉があった。その先に局長がいるらしい。
扉をノックする。
「どうぞ」
中から声が聞こえ、
「失礼します」
ライタが先に入る。
「どうぞ、こちらへ」
部屋の中では、数人の男がテーブルに座っていた。
「ここで自己紹介をして下さい」
「あ、はい」
ライタに促されるがままに自己紹介をする。
「大日本帝国、外務省職員の朝田です。こちらは私を補佐する篠原です」
「どうぞかけて下さい」
最奥の男が声をかけ、朝田、篠原は会談というよりも面接のような印象を感じ、違和感を覚えながら席に着く。
自己紹介が終わると、第3外務局長カイオスが口を開いた。
「貴方たちが日本国の使者か……最近貴国は有名ですな。して、今回は何用で皇国に来られたのだ?」
「はい、単刀直入に言えば、私たちの目的は貴国との国交を開くことにあります」
東部島国担当部長が急に立ち上がる
「なんだとっ!我々の邪魔をしておきながら、ぬけぬけと国交開設など、よく言えたものだな!」
部長は日本相手でも文明圏外国家と同じように相手を大声をだして威圧するが、そこに戦略的な意図はない。ただ彼はそれ以外の方法を知らないだけなのだ。
「その『邪魔』というのはフェン王国での出来事のことを仰っているのでしょうか?
そうであれば、向かってくる不審機を迎撃するのは当然です。
我々はただ、降りかかる火の粉を叩いたに過ぎません」
「栄えある皇国監査軍を火の粉だとぉっ!!!!!」
興奮する課長を手で制し、局長カイオスが説明する。
「なるほど……確かに概ね合っています。ですが、我々はフェンに懲罰的攻撃を加えに行ったのであり、ただの領空侵犯とは訳が違います。
それに、我々が引き下がったのは、貴国の背後にいる列強との戦争を防ぐためです」
「?……この世界で列強と呼ばれる国と接触するのは初めてですが?」
職員たちが訂正すると、カイオスたちの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「なんと!否定するとは思いもよりませんでしたな。こういうのは抑止力として見せ付けるものですが……口止めされているのか?宜しい。ならばそう言うことにしておきましょう……」
カイオスは独り言のような小さな声でぶつぶつ呟いている。
「何か勘違いされているようですが、我々が列強と同盟関係にあるという事実はございません」
「ええ、その件についてはこのくらいにしておきましょう。それより、私はもとより、このパーパルディア皇国の者は、誰も貴方たち日本の事は良く知らない。まずは貴方たちの国がどういった国なのか、教えていただきたい。我々と国交を結ぶに値する国なのか、私は知りたいですな」
職員たちは本題に戻る。
「ペーパーしかありませんが、写真付きです。我が国を紹介するためのレジュメです」
篠原はパーパルディア皇国の各人にフィルアデス大陸共通語で書かれた資料を配布する。
「な……!?」
カイオスが驚愕の声を上げる。資料には、基本的なデータやいくつかの写真が載っている。その中でも一際目立つのが、一番大きく印刷された帝都東京のビル群の写真だ。
「これは……全部建物ですか?」
「ええ、地面にいる人をご覧いただければ大体の大きさはご理解頂けると思います」
「この小さいのが人!?では建物はどれほどの大きさなのか……」
この時点でカイオスは日本の国力を理解していた。皇国が到底敵わないということも。一方で写真を見ても現実を受け入れられず、現実逃避する者もいる。
「ありえん……ありえん……」
ぶつぶつ呟いているのは東部担当部長だ。
「何がありえないのですか?」
東部担当部長が立ち上がって怒鳴りつける。
「お前たち蛮族がこんな建物を作れる訳がないだろう!ありえん!こんなものは偽物だ!お前たちが真面目に話す気がないことはよくわかった!よろしい。ならば我が軍でお前らの国に礼儀というものを直接教え込んでやろう!」
「そこまでにするんだ!まだ証拠もないのに偽物であると決めつけるのは失礼に当たるぞ」
いきり立つ東部担当部長をカイオスが慌てて諫め、さらに資料を読み進める。
「国ごと転移だと!?」
ロウリア王国とクワ・トイネ公国との戦争の少し前、中央歴1639年に国ごとこの世界に転移してきたと記載してある。
突然の転移であれば、皇国がこれまでの歴史上1度も認知していなかった事実にもつじつまが合う。
しかし、ムーの神話や古の魔帝の未来への国家転移の神話以外に、国ごとの転移など聞いたことが無い。
第3外務局からすると、彼らがたわごとを言っているようにしか聞こえなかった。
「馬鹿馬鹿しい!そんな、国ごと転移などあるわけがない!おまえたちは皇国をからかっているのか?」
今度は東部島国担当課長が声を荒げる。
「転移については我が国でも、原因がまだ解っておりません。全力で調査中ではありますが……」
日本側の説明が一通り終わる。
「最後に、特使を是非一度日本に派遣していただきたいと思います。パーパルディア皇国大使の目で現実の日本を感じていただきたいのです」
今回の皇国への配布資料には、日本の軍事力については載せていない。相手はこの世界で5本の指に入るという大国だ。慎重に進めていくべきだというのが本国の意見だった。
ここで東部担当部長は再び口を挟む。
「はっはっは!!!第3文明圏最強の国であり、世界5列強に名を連ねるパーパルディア皇国が、文明圏外の蛮族に使者を送るだと!?どうやら貴様らは調子に乗っているようだな!代わりに軍を送ってやっても構わないんだぞ!!」
カイオスが東部担当部長を睨みつける。
「おい、言い過ぎだ。日本との関係は、背後の列強にも関係する事を忘れるな」
「は……はっ!!」
日本が保有する飛行兵器は、神聖ミリシアル帝国、もしくはムーのものだろう。あの建物を作れる国家だ、もしかしたら独自で作ったのかもしれない。いずれにせよ日本を敵に回すとまずい。なぜこんな大事な件を第3外務局に任せるのだろうか。カイオスは胃が痛くなってきた。
「ところで、日本の方々よ、我が国には文明圏内に5カ国、文明圏外に67国、大小の差はあるが、計72カ国の属国がある。日本は何カ国属国をお持ちか?」
「属国……属国は日本国にはありません」
「ほほほほほ・・・・」
「あはははは・・・・」
「ぬふふふふ・・・・」
パーパルディア皇国の面子が笑い始める。
「おい。外交の場で他国を馬鹿にしたような態度を取るべきでないぞ。失礼だ」
他が笑顔を浮かべるなか、一人真面目な顔のカイオスが嗜める。
「それで、皇国から日本への人員派遣については、2ヶ月ほど待っていただけますか?こちらも色々と内部事情がありますので……。
2ヶ月後にまた第3外務局へ来ていただけますか?宿はこちらで手配しましょう」