クワトイネ公国 経済都市マイハーク
クワトイネの北東にある港湾都市、マイハーク。3日前には謎の飛行物体の飛来で賑わった街だが、今はそれ以上の騒がしさになっている。
港に集まった群衆の目は、沖合に停泊する一隻の船に釘付けになっていた。
全長330mの巨艦、空母福鷹がやってきた目的は今回の会談にあたって特使を送り届けることでもあり、また現地人に帝国の威信を示して心理的な圧力をかけることでもある。
「遠くから見ても相変わらず大きいな……」
港に停泊する軍船ピーマ艦長のミドリは遠くに見える福鷹を見つめ、呟いた。
巨大船を間近で見た彼だが、沖合に停泊しているにもかかわらず存在感を放つその船に改めて驚かされる。
巨大船を遠目に眺めていると、向こうから小さな舟が波を立ててやってきた。
小型艇が近づくにつれて、その異常性が明らかになってくる。
速すぎるのだ。
小型艇は帆も張らずに公国の有するどんな船よりも速く進んでくる。相手方は、小型艇にも魔導エンジンを積んでいるのか。ミドリは、改めていまだ正体のわからない相手の恐ろしさを思い知らされた。
小型艇が港に着き、中から人が出てくる。皺のない服を着た数人の外交官と見られる人間が騎士団のメンバーに連れられ、馬車に乗り込み走っていく。
あのような船を作れる国との交渉だ、簡単ではないだろうが、うまく味方につけられれば目前に迫って来ているロウリアとの戦争にも勝てるだろう。その場にいた全員が交渉がうまくいくように願っていた。
______________________________________________
クワトイネ公国 公都クワトイネ 首相官邸
マイハークから馬車に乗ってクワトイネまでやってきた、外務省の田中たちは首相官邸に招かれ、会談の席に座っていた。
彼らの使命は、第一に食料危機に陥っている日本に食料を輸出するよう現地政府に働きかけること。第二に相手と国交を結ぶこと。そして第三に現地民に帝国の軍事力を見せつけて軍事的に圧力をかけ、勢力圏に引き込むことである。
交渉をどう進めるかについて考えていると部屋のドアが開き、相手方が入ってきた。双方が席に着き、いざ会談が開始される。
「初めまして、私は大日本帝国外務省大洋州局の田中と申します。本日は急な訪問にも関わらず対応していただき、ありがとうございます」
「クワトイネ公国首相のカナタです。よろしくお願いします」
「クワトイネ外務局のリンスイです。本日はこの会談の司会を務めさせていただきます」
一通りの挨拶が終わり、本題に入ろうとすると、
「早速ですが、先日北東の方角から正体不明の飛行物体が我が国の領空に侵入してきました。この正体に心当たりはございませんか?」
リンスイの口からいきなり想定外の言葉が飛び出してきた。
まさか中世レベルの文明に領空の概念が存在しているとは……まあドラゴンのような飛行生物が航空戦力として運用されているようだから当然と言えば当然か。
「はい。おそらく我々の偵察機のことかと」
「偵察機……とは?」
「偵察に使う飛行機、あなた方で言うドラゴンですね、それのことを言います」
「ドラゴン……?ワイバーンのことですかな?」
我々がドラゴンと呼んでいた飛行生物はワイバーンと言うらしい。
「ええ、後ほど説明いたしますが、訳あって我が国はこの周辺のことをほとんど知らないのです。そこで偵察機を飛ばし、周りがどのようになっているか調べようとしたところ、貴国の領空を侵犯してしまいました。
正式に謝罪させていただきたい。」
ここは話を円滑に進める為に謝っておこう。
「わかりました。公に謝罪を受け入れましょう。
そして、あなたは先程貴国はほとんどこの辺のことを知らないとおっしゃいましたね。それも含めて、貴国について説明を求めます」
カナタに言われ、本題に入る。
「では、こちらで用意した資料を配布させていただきたい。よろしいですか?」
「どうぞ」
国土面積や人口など国の基本情報をまとめた資料が配られる。だが、
「この文字、我々は読めませんぞ」
いきなりつまずいてしまった。たしかにそれは盲点だった。日本語を話すのだからてっきり文字も読める物だと思っていたが……
「では、口頭で説明いたします。
我が国はここから1000kmほど離れたところにあり……ところで、単位はお分かりですか?」
「ええ、問題ありません」
文字は通じないのに単位は通じるのか……不思議なことだ。
「では続けます。
我が国の現在の領土面積は49万平方メートルで、人口は2億1000万人となっています。」
「ちょっと待ってください。そのあたりにそのような大きな国などなかったはずですが?」
「ええ。つい最近まではそうだったのでしょう」
「?」
「先程、我々がこの辺りのことを知らないと申しましたが、それと言うのも、おそらく我が国は別の世界から転移してきたと考えられているのです」
「国がまるごと転移するなんて神話の中でしか聞いたことがないですぞ!あなた方は我々を馬鹿にしているのか?」
当たり前の反応だ。リンスイの言うことはもっともだが、それが真実なのだからどうしようもない。
「ええ、我々も実際に体験していなければ一笑に付していたところでしょう。そこで、我が国に貴国の使節団を派遣されるのはいかがでしょうか?」
チャンスが来た。ここで話をつけられれば、相手に明かす情報を最低限に抑えられる。
「正体もわからない国に我が国の民を送れと?」
「ですが考えても見てください。異世界から転移してきたのでなければ、どうしてあのような巨大な船を作れるでしょうか」
「文明圏内には帆のない船もあるという。それを借りたか奪ってきたのではないのか?」
全世界が中世レベルというわけではないようだ。文明圏とかいう場所では我々と同等もしくはそれ以上の技術をもつ国もあるのだろうか。
「文明圏とは何ですか?」
この言葉を聞いたクワトイネ側は一斉に驚いたような顔を見せ、なにやらコソコソ話をし始める。
「どうかされましたか?」
話しかけても反応がない。しばらくして、カナタが口を開いた。
「わかりました。使節団を派遣しましょう」
よし。詳しいことは本土で決めてもらおう。
「ですが、あなた方は我々に何を望むのですか?貴方の言うような大国が我々に用など考えられませんが」
「我々は貴国と友好関係を結びたいと考えております。具体的には使節団の皆さんたちとの会談で申し上げると思いますが、現在言えるのは、それには同盟関係も含まれるということです」
相手方がどよめく。彼らからすれば我々の技術は脅威的だろう。我が国と同盟を結べば彼らは少なくとも周辺諸国を圧倒できる。
「なるほど、我が国は家畜でさえも美味い飯を食えると言われています。あなた方の需要は満たせるでしょう」______________________________________________
この後派遣された使節団との会談で、日本とクワトイネの関係が決まることになる。