中央暦1639年 3月22日
日本との初接触から約2ヶ月。日本はクワトイネの穀倉地帯からマイハーク租界まで鉄道を着々と作っていた。完成した暁には食糧を運搬できるだけでなく、莫大な利益を生み出すだろう。
一方クワトイネ側には食糧の代わりに兵器が供与され、訓練が進んでいる。もちろんそれだけでは足りないので国境付近に日本軍基地が作られ、即応体制がとられていた。さらにクワトイネには日本企業が続々と進出し、従来の商品を駆逐していた。
クワトイネ首相のカナタが秘書に話しかける。
「すごいものだな、日本という国は……明らかに3大文明圏を超えている。もしかしたら、我が国も生活水準において3大文明圏を超えるやもしれぬぞ」
「はっ。しかし彼らが友好的で助かりました。もし戦争など仕掛けられたら、我々は軍を出すまでもなく敗北していたでしょう」
「ああ、軍の増強も順調に進んでいる。これならばロウリア王国にも勝てるかもしれないな」
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クワトイネ公国 日本大使館
「いよいよ作戦の時ですね」
外務省キャリアの田中は、なぜ自分に言うのだろうと訝しみながら頷く。
クワトイネの隣国、ロウリア王国は非常に野心的な国家であり、その目標はロデニウス大陸の統一であると見られている。さらに人間至上主義であり、亜人などに対して虐殺などを行っていた。
そのロウリアがクワトイネとクイラ王国という隣国に近々侵攻するという予測が立てられていた。
クワトイネは日本の食糧の唯一の輸入先であり、クイラには鉱物や石油など資源が埋まっている。どちらも今後の日本の発展には欠かせない土地であり、ロウリアの手に落ちることは何としてでも防がなくてはならなかった。
また、ロウリアは3000万人の国民を抱えており、その人的資源は、本音を言えば、日本にとってとても魅力的だった。さらに向こうはこちらの同盟国に攻め入ろうとしており、大義名分があることもとても好都合だった。
かくして、日本およびクワトイネはロウリアに対する予防戦争の計画を立て、4月11日に実行することを決めたのだった。
なお、クイラ王国はロウリアの直接の攻撃対象でないこと、国土のほとんどが山岳地帯で機械化部隊の運用に適さないこと、採掘設備の建設に全力を投じるため、などの理由で作戦から除かれていた。
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クワトイネ公国とロウリア王国の国境から20km、ロウリア王国東方討伐軍本陣に程近い街、ギムでは日本軍の攻撃準備が進んでいた。トラックが物資を運び、代わりに住民を乗せて戻っていく。既に住民の大半は後方へ移送されており、作戦は順調に進んでいた。
そんな中、西部方面騎士団団長モイジは焦燥感にかられていた。彼の指揮する西部方面騎士団は歩兵3500人、魔導師30人からなる(クワトイネとしては)大規模な部隊であり、さらに日本国とかいう国からその10倍以上の数の兵と奇妙な武器が送られてきたが、対するロウリア軍は50万人。まさに圧倒的であり、普通に考えれば勝ち目はない。
たしかに日本軍は空を飛ぶ乗り物を持っていたり、地を這う鉄の箱に乗っていたりと我々の力を凌駕している部分もあるが、それにしたって50万の大軍を相手にどこまでやれるか……
だがどうやら上はこの戦力で勝てると踏んだらしい。その証拠に、上は(無謀とも思える)攻撃を命じてきた。しかもその計画がまた杜撰だ。何だ、1週間以内にジン・ハークに到達するとは。あまりにも馬鹿らしくて途中で読むのをやめてしまった。
当然作戦を中止するよう抗議したが、それはできないの一点張りだった。いったい何を考えているのだろう?
そこでモイジは日本軍の指揮官に直談判することにした。
テントの中に入ると、日本軍の最高司令官、大内田が部下と思わしき軍人に指示を出していた。
男性が向き直り、
「おや、どうされましたか?」
「実は、今回の作戦を中止してほしいのだ」
これを聞いた大内田は驚いた顔をしながら困惑したように言った。
「えーと、どうして急に?」
モイジには、なぜ大内田が意外そうなのか理解が出来なかった。
「なぜって……こんな戦力で攻撃なんて無茶にも程がある!まずは防御に徹し敵の戦力を削るべきだ。我々の任務はクワトイネを守ることなのだから」
「こんな戦力って……作戦計画を見ましたか?見ていたらこんな戦力とは言えないはずですが……それに、我々の任務はクワトイネを守ることだけでなくロウリアの政権に軍事的圧力をかけ、亜人差別政策を撤廃させることですよ。そのためには、陸上戦力で侵攻することが不可避なんです」
予想もしていない大内田の言葉にモイジは絶句する。
ロウリアに軍事的圧力をかける?亜人差別政策を撤廃させる?とんでもない。我々の戦力は彼らに比べて話にならないようなレベルだ。そんな軍が攻めてきたとして、彼らは圧力など微塵も感じないだろう。それを伝えると、大内田は納得がいったように言った。
「なるほど、貴方は作戦計画を十分に読んでいないんですね?」
「ああ、馬鹿らしくて見ていられなかったが、それが何か?あんなモノ、読むだけ無駄だ」
「そうですか……」
そう言うと、大内田は銀色の二つ折りの板を何やら操作しながら言った。
「では映像と一緒に説明しましょう。これを見てもらえれば納得いただけるはずです」
「映像?」
「ああ……あなた方で言う『魔写』のような物ですよ。それが動くんです」
動く魔写?列強にあるような魔導通信のようなものか?まさか。ありえない。そんなものを文明圏外国が持っているはずがない。それに、供与されたとしてそんなものを前線に持ってくるだろうか。
そんなモイジの考えを見抜いたかのように大内田が言う。
「まあ見ていて下さいよ」
それからモイジの目の前に映しだされたのは、凄まじいの一言に尽きる光景だった。