大内田が映像をつけると、モイジはまずその鮮明さに驚いた。
さらに驚くべきことは続く。
光の槍が何本も空へ向けて飛んでいく。
地を覆い隠すほどの爆発が兵士たちを飲み込んでいく。
猛スピードで走る鉄の箱が地を埋め尽くしている。
海いっぱいの船から小さな舟が出現し、海岸に上がっていく。
クワトイネの軍船が小舟に見えるような巨艦が海にずらりと整列している。
鉄竜が落とした小さな筒が、街一つを消し去るような大爆発を起こす。
モイジが大内田に見せられた映像は、どれも強烈なものだった。だが大内田によれば、その映像は戦争のほんの一部だと言う。
「では解説していきます」
「まず最初の映像に映っていたものは噴進弾と呼ばれる兵器で、およそ50km先の目標を攻撃できます。次の映像がその弾着の様子です」
「次は戦車の行軍の様子です。この戦車は38式戦車といい、重量約50t、速度は50km/hほどです」
「お次は上陸作戦の演習の様子ですが、見たまんまです。説明は不用でしょう」
「その次、観艦式の様子です。この艦は艦隊から一部を集めたもので、海軍全体で見ればこの何倍も隻数があります」
「最後の映像は見ればお分かりになるでしょう。途轍もない威力を持つ爆弾というだけで、付近を汚染するという点を除けば通常の爆弾と変わりません」
言葉が出ない。来る前にあった疑念はもはや消し飛んでいた。この国ならロウリアにも、文明国でさえ勝てるだろう。モイジはそう確信していた。
「お分かり頂けましたか?」
大内田が尋ねる。
「ああ、貴国の力はよく分かった。疑ってしまって申し訳ない」
「分かってくれたなら良いんですよ。それより、作戦計画を読んでいないということは、作戦の内容もおそらくお知りでないのでしょう。私からご説明しましょうか?」
これだけの力を持つ国がロウリア相手にどう戦うのか、興味があったので了承する。
「では説明させていただきます。
この作戦は3つの段階に分かれています」
「まず最初、砲兵の噴進砲と航空部隊による攻撃で敵の基地を破壊し、敵本隊を殲滅します。この段階で敵軍の約8割を削る計画です」
「次に、以前からここギムに隠蔽しながら集積してきた地上部隊でロウリア領に侵攻。組織的戦闘がままならない敵部隊を撃破しながら、敵首都ジン•ハークに向かいます」
「最終段階では王都を攻略します。ロウリア王、ハーク•ロウリア34世を確保し、戦争の早期終結を目指します。王を確保した後も敵が抵抗を続ける様であれば追加で部隊が派遣されてくる手筈になっており、その場合侵攻部隊には護衛をつけた輸送部隊が補給をします」
なるほど、ロウリアの広大な領土を占領するには兵力が少ないと思っていたが、王を捕縛するとは……考えたな。ロウリアは王への忠誠が薄いが、王という指導者がいなくなる以上、戦争は続けられないだろう。
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ロウリア王国東方討伐軍本陣
おかしい。クワトイネ側からもこの陣は見えているはずなのに、一向に向こうからの連絡が来ない。
もちろん来たとて無視するのだが、一つも来ないというのはさすがにおかし過ぎる。普通、隣国が国境に兵を集め出したら兵を引くよう交渉するのではないか?
言いようのない嫌な感じはあるが、戦争をすることは決まっているのだ。それを振り払うように、自らに言い聞かせるように言い放つ。
「明日、ギムを落とすぞ」
Bクラス将軍パンドールの指揮する先遣隊は歩兵2万、重装歩兵5千、騎兵2千、特化兵(攻城兵器や投射機等、特殊任務に特化した兵)1500、遊撃兵1000、魔獣使い250、魔導師100、そして竜騎兵150からなる。
数の上では歩兵が多いが、竜騎兵は1部隊(10騎)いれば1万の歩兵を足止め出来る空の覇者である。それが150騎もいるのだ。
パンドールは、しかし不安げな表情で、部隊を見つめていた。
ワイバーンは高価な兵器である。ロウリア王国の国力であれば本来国全てをかき集めても200騎そろえるのがやっとだ。
しかし、今回は総勢500騎のワイバーンが参加している。
噂では第三文明圏、フィルアデス大陸の列強国、パーパルディア皇国から軍事物資の支援があったとされている。
事実なのか、不明ではあるが……
いずれにしてもクワトイネ相手には十分過ぎるほどの戦力である。
だが、この過剰とも言える戦力もパンドールの不安を打ち消すには至らなかった。自らの心の中にある不安に向き合っていると、副将のアデムが話しかけてきた。
「ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」
彼は冷酷な性格で知られており、パンドールも内心では彼を嫌っていた。そんな奴の求めることは決まっている。どうせ虐殺や暴行の類だろう。だがここでへそを曲げられても困る。
「副将アデムよ、お前に任せる」
「了解いたしました」
アデムは一礼の後、後ろに向き直って部下に命じる。
「ギムでは略奪を咎めない、好きにしていい。女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。一人も生きて町を出すな……うん?何だこの音は?」
外から爆発音が連続して聞こえた。
「なにが起こっている!?」
外に出ると、空からたくさんの『何か』が降り注ぎ、その落下地点で白煙と共に爆発が起こっていた。既に滑走路は穴だらけで使い物にならず、ワイバーンはただ怯えながら吠えていた。兵士たちは逃げまどい、不運な何人かが先に爆発に巻き込まれていく。
運良く自分たちはまだ攻撃が当たっていないが、それも時間の問題だろう。テントに戻ると、そこにさっきまでいたアデムは既におらず、テントの中はもぬけの殻だった。彼奴のとこだ、どうせ味方を置いて逃げたのだろう。まあ、この状況で逃げ切れるとは思えないが。
パンドールは諦めていた。敵の位置は分からず、ワイバーンは使えない。敵からはこちらが丸見えで、こちらから敵は見つからない。索敵もワイバーンが上がれない今は不可能だ。自分たちには為す術がない。終わりだ。
パンドールは、自分の方へ向かってくる『何か』を見つめてそう思った。
数分後、そこには焼け焦げた大地が広がっていた。