まふゆ母は娘の事を考えない   作:エクソダス

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第1話

とある日のニーゴ打ち上げ。

 それは四人で一緒に洋服を選び、買っている正に女子高生らしい事をしている最中の事だった。

 

「ねえ、これ可愛くない?」

「見てみて! これとっても奏に似合いそう」

「………………」

 

 いつもの如く瑞希と絵名が楽しそうに試着し、まふゆがそれをぼーっと眺めていたときの事だった。

 

「そういえば、まふゆ」

「?」

「まふゆのお母さんってさ。どんなひと?」

「おかあ、さん?」

 

 突然、その場に座っていた奏がこんな事を聞いてきた。

 まふゆは無表情ながらも、すこし顔をしかめる。

 

「なんで、そんなこと聞くの?」

「い、いや……えっと。まふゆはいつも医者になるために頑張ってるから。両親が厳しい人なのかな……って思って、さ」

「…………」

 

 その奏の言葉に、まふゆは黙り込んだ。

 確かに、彼女は自分を救うと言ってくれたが、まふゆは自分から自分のことを言う事は少ない。

 

「…………」

「あ、えと……嫌なら別に……言わなくてもいい、よ」

 

 無言になったまふゆを見て、奏はアワアワと目に見えて慌てる。

 彼女には医者になる事に躍起になり、誰もいないセカイにこもるほど疲れて果てていたあの時……自分を助けてくれた恩がある。

 

 ――しかし、だからといって母親の話をするのは。

 

「………………」

「ちょっと二人とも? なにやってんの?」

「二人の服も選ぶわよ。選んであげるからこっちに来なさい」

 

 と、まふゆが言葉に困っていると、そんな言葉が楽しんでいる二人の方から聞こえてきて、近づいてきた。

 

「二人で何の話してたの~?」

「え、えと……」

「わたしの母親、どんな人って話」

 

 言いづらそうにしている奏を余所に、まふゆは特に誤魔化すこともなく無表情で言った。

 

「そういえば、私も知らないわ」

「僕もしらなーい」

「こんないるだけで疲れる娘が出来る親なんて予想もつかないわ……」

「絵名ってば辛辣ぅ、でも確かにどんな人なんだろ……。まふゆがあんなになるくらいだから毒親だったりしてっ」

「……毒親」

 

 その瑞希の言葉にまふゆは考え込む。

 

「……え、もしかしてあってるの?」

「ちがう、そうだったらどれだけ楽だったかなって。思っただけ」

「「「?????」」」

 

 毒親の方がマシ……? 一体どんな人なんだ。

 三人がその事に思考を巡らせていると、すぐに答え合わせが出来た。

「あら、まふゆ?」

 

 そう、ちょうど……まふゆの母親がその場に通り掛かったのだ。

 その女性は紫髪のくせっ毛……そして整った長髪が特徴的な三十代後半くらいの女性で、優しげな目が特徴的な人だ。

 

「あ、おかあ――」

 

 と、まふゆが母親を呼び、いつもの作り笑顔を作った。

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゅぅぅぅぅぅうううう――――っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っっっ!?!?!?」」」

 

 突如、まるで閃光の如く目にもとまらぬ早さでまふゆまで迫り、抱きしめた。

 

「きゅっ……」

「どうしたの、お出かけ? 友達と遊べて偉いねよしよしよしよし――」

「……や、やめっ」

「この間のテスト見たわよ? いっぱい頑張ったわね偉い偉いっ! ほんっっとうに自慢の娘っ! いいこいいこっ!」

「お……かあさ――」

「前まではあーんなにちっちゃかったのにいつの間にか女の子としてお出かけするようになったのねぇ……よしよしよしよし――」

 

「や・め・ろ」

「ひゃっ!」

 

 絵名達の驚きの視線など何のその、ずっと頬同士をスリスリと合わせ、撫でまくっている母親を……まふゆは強引に引き剥がした。

 

「何度も言ってる、人前で抱きしめるのはやめてって」

「そ、そんなこと言ったってまふゆ? 最近は貴方家でも抱きしめさせてくれないじゃない!」

「抱・き・し・め・さ・せ・て・る。少なくとも三回は許してる、通り過ぎるとすぐ抱きしめるお母さんは普通可笑しい」

「まふゆ? 余所は余所でうちはうちなのよ?」

「ざっけんな」

「まあ細かいことは良いじゃない、ぎゅーっ」

 

「「「…………」」」

 

 

 そんな光景を目撃し、三人は何も言えずに黙ってまふゆを見つめる。

 

「――っ。そんな目で見るのやめて」

 

 

 そんな彼女は母親の胸の中で恥ずかしそうに顔を朱色に染めていた。

 ――知らなかった、まさかまふゆの母親が正直ドン引いてしまいそうなほどゲロ甘なお母さんだったとは。

 ……普段の素っ気ない態度のまふゆからは、想像も出来ない驚きだ。

 

「あ、みなさん? まふゆのお友達よね? いつもまふゆがありがとうね」

「は、はいっ」

「こ、こちらこそ。僕達もまふゆさんとは良くしていただいて……」

「…………ど、うも」

 

 やっとこちらを認識した母親は、まふゆを抱きしめながらも頭の上に顎を置き、そんな定型文を言ってきた。

 こんな動揺しているまふゆはめったにお目にかかれない。

 ――いつもだったらこれでもかというほど、まふゆをいじりまくっていたであろう。

 

「良い子ね~、よしよしよしよし――。偉い偉い偉い偉い」

 

 しかし、そんな事をする余裕はなく、まふゆ母の……まふゆに対する溺愛具合に、圧倒されて何も言えなかった。

 

「この子はちょっと頑張りすぎる事があるから、いっぱい遊んでくれると嬉しいわ」

「……は、はい」

「それにしても貴方達ってどういう関係なの? 学校も違うし普通の友達じゃないみたいだけど」

「え、えと……。僕達は音楽のサークルの仲間で……」

「へえっ。まふゆ今も音楽を作ってるのねっ! 最近作ってるの見かけてなかったから心配だったの! どんな曲を作ってるの?」

「お母さん、そんなの良いでしょ」

 

 まるで母親の興味を遮るようにまふゆは抱きしめる母親を強引に引き剥がし、そういった。

 

「あら、なんで? 音楽を皆で作ってるなんてとっても素晴らしいことじゃない」

「お母さんの美学とか知らない」

「なによ……教えてくれたって良いじゃないっ。それとも私にお母さんに教えられない理由でもあるの?」

「…………」

 

 何故この母親はこうも察しが悪いのか。

 ネット活動の音楽を趣味でやっていることを親バレしたら……想像しただけで嫌だ。

 当たり前だ、誰だって親にバレたくない趣味はある。

 

「とにかく、だめな物はだめ」

「もうっ、最近まふゆは反抗期」

 

 母親は子供のように頬を膨らませすねた後、

 

 

 

「メ――ッ! よっ! ぎゅうぅぅぅぅ――ッ」

 

 

 また抱きしめてきた。

 

 

 ―― ―― ――

 

 

「それでね、今日まふゆのお友達と会ったの。とっても優しそうな子達だったわ」

「…………」

 

 と、その日の夜の夕食中、まふゆの母親は案の定今日のことを持ち出してきた。

 

「そうか、どんな友達だったんだ?」

「それがね一緒に音楽作ってる友達らしいんだけど、お母さんには見せてくれないのよ?」

「ははっ、まふゆもそういう年頃って事だ」

「……ん」

 

 不服そうな母親を宥めながらも、父親はまふゆの頭を撫でる。

 正直、同性の母親より父親の方が自分の気持ちを察してくれている気がする。

 

「け、けど! 思春期だとしてもお母さんには見せてもいいんじゃない?」

「家族だから見られたくないものもあるさ」

 

 ――母親はいくら何でも思春期の娘にかまい過ぎだ。

 本当にどうにかならない物か。

 

「あ、そうだまふゆ。お母さんね、まふゆのほしがりそうな物買ってきたの」

「……ほしがりそうな物?」

 

 そう言って母親は席を離れ、部屋に戻っていった。

 

(わたしの……今ほしいもの)

 

 あまり期待はしていないが、無意識に今欲しいものが頭をよぎる。

 最近はあるお医者さんが執筆した本が欲しい。それか最近発売された話題の医学本……。

 そんな理想を思い描いていると、母親は大きな袋を持ってきた。

 

「ほらっ」

「……お母さん、なにこれ」

「えっと。ファミ○ンに、ス○ッチでしょ。PS的な1~5に……携帯ゲームのD○」

「…………」

 

 予想すらしていないのが来た、それも大量に。

 

「たまには息抜きも必要でしょ? だから最近の若い子はテレビゲームを良くやるって聞いたから」

「…………」

「お母さん、ゲームのこととかよくわからなかったから……とりあえず中古と新品全部買ってきたの」

 

 まふゆは、自分でも驚くほど真顔で自身の母親を見た。

 

 ――何処からツッコめば良いのやら……。

 

 そもそも全部でかなりの値段がするはずだ。

 しかもご丁寧に携帯ゲーム機はLightやアドバンス……有機ELモデルなど、同じ機種のモデルチェンジであろうとすべて網羅している。

 

「…………」

「どう? なにかやりたいと思えるゲームはあった?」

 

 ワクワク、と今にも聞こえてきそうなほど浮ついた様子で母親は聞いてくる。

 

「そう、だね」

 

 普通に考えて、ゲーム機を見ただけでやりたいゲームなど思いつく訳がない。

 なので、嫌みついでに重要な事を聞くことにした。

 

「お母さん」

「……ん? なあに?」

「ソフトは?」

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、よくわからないけど全部堅いと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 論外である。

 

 

 ―― ―― ――

 

 

「……まったく、もう」

 

 その日の夜、まふゆは何もない自分の部屋で大きくため息をつく。

 

「わたしは、もう子供じゃない」

 

 まふゆは席についてノートを開き、今日あった事を思い出してボールペンで書き殴った。

 

「お母さんはいつもそう、わたしをずっと子供扱い」

 

 まふゆはグチグチとそんなことを言いながら、勉強道具に目を通す。 ――もう子供じゃないのだ。

 あの時のように母親に守られる歳じゃない。むしろ家族を守れる年齢に近づいている。

 

 

『ホントに、心配したんだから……っ』

 

 

 まふゆの心には……あの優しい悲しそうな声が未だに頭にこびりついている。

 遊園地で迷子になった時のことだ、今でも鮮明に思い出せる。

 怖かった、辛かった。

 

 ――けど、母親に抱きしめられた瞬間……温かかった。

 

『ごめんね……ごめんね……』

 

 迷子になったあの時、ずっと母親は泣きながら謝っていた。

 お母さんが悪いわけじゃないのに、悪いのは自分なのに……目を離してごめんって、ずっと泣いていた。

 

「…………」

 

 熱を出したときも心細かったときも、いつも隣には母親がいてくれて、いつも優しい笑顔で背中を押してくれた。

 だから……もうあんな顔はさせたくない。今度は自分の手で……母親を笑顔にしたい。

 

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