③勝鬨は墓の下で   作:雨葩

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ノースディンに対したロナル子ちゃんが拗らせてる話です。
泣き寝入りするんじゃなくて責任を取らせると誓うのっていじらしくて可愛いなと思いながら書きました。
楽しんでいただければ幸いです。


勝鬨は墓の下で

×月×日

弟子が弟子なら師匠も師匠だ。

謝ってくるならまだしもリベンジってなんだよ。お前の目が節穴だっただけだろ。自業自得のミスで俺を振り回すんじゃねぇ。

人のことをなんだと思ってやがる。

お望み通り、歯茎が爆発するまで口説かせてやるよ。

 

×月×日

本当に来た。

確かにそういう契約?ではあるんだが、こいつは我に返ったりしなかったんだろうか。まぁ。恥なんて踏み倒す気概がないとナンパ師なんてやってられないか。

その証拠にめげるどころか「釣れない横顔も玲瓏な月のように美しいな」とかなんとか抜かしてきた。だったらなんでお前の弟子は師匠が美しいと讃える女をゴリラ呼ばわりするのか聞いてやったら思いのほか気まずそうな顔で謝られた。

師匠としての責任感があるならそもそも弟子の相棒なんて口説くんじゃねぇよ。

 

×月×日

やけにいい匂いがするとおもったら手土産のスコーンだった。

ドラルクが吐いた暴言を詫びるべく、一番得意なレシピを焼いてきたらしい。謝りたいのか自慢したいのかはっきりしろ。

食べてる間は言い返せないのをいいことに口説いてくるし、ほんと転んでもただでは起きない奴だな。

とはいえ、スコーンに罪はない。

あいつの心がけ次第ではまた食ってやらないでもない。

 

×月×日

夜通しの雨でドラルクとジョンが出かけられなかったせいなのか、今日は来なかった。

そういえば、あいつはドラルクとジョンが出かけた後にやって来て、帰ってくる前に去って行く。偶然にしては出来すぎてる。

しくじった。

 

×月×日

二人が出かけた後で何食わぬ顔で窓を開けてきたノースディンを問い詰めてみれば「私のことを考えてくれていたのか」とすっとぼけやがったのであのキザったらしいひらひらをつかんげ揺さぶってやったら使い魔に見張らせていたと白状した。やっぱり暴力は全てを解決する。

それにしても、いくら報酬を支払ってるからって使い魔をこんなことに巻き込むなよ……でも連絡役がいないと困るのも事実だ。俺が伝えるにしても出かける時はまだしも帰ってくるタイミングなんてわからないし。

どうしたものかと困っていたらメビヤツが連絡役になると名乗り出てくれた。しかも仲間たちとのネットワークを活かして、ドラルクとジョンだけではなくノースディンの行動も見てくれるらしい。心強いにもほどがある。

ありがたさと申し訳なさで泣きそうになってたらそっと肩を抱かれた。

ちょうどよかったから腕をつかんで窓から放り投げてやった。

 

×月×日

渾身の一本背負いを照れ隠しだと解釈するのはいくらなんでも前向きすぎる。

いや、元からそういう奴だったな。

女はもちろん男でも口説ける要素を見つけるのがノースディンというナンパ師だ。決して特別なことじゃない。

 

×月×日

ドラルクとジョンがオータムに連行されたのをいいことに居座ろうとしてきたので、メビヤツに頼んで弟子おすすめのクソ映画でおもてなしした。どうやら映画の趣味は自主性にまかれていたようで、どんどんグロッキーになっていく様は見ものだった。

そんな有様でも映画の感想のみならず俺の忍耐力まで讃えてくるあたりこいつもほんと筋金入りだな。

 

×月×日

一仕事終わって一息ついた瞬間を狙われた。その上、立ち回りのダメ出しまでされた。

こういう「ドキッ」まで有効なのはターチャンの件で知ってたから引っかからずに済んだが、やっぱ卑怯な仕組みだな。

とはいえ、退治人は体が資本だってのは正論だ。今日だけは特別に聞いてやることにする。

 

×月×日

どうも昨日のことで調子に乗ったのか今夜は吸血鬼対策講座が始まった。

流石にドラルクよりも長生きしているだけあって参考になる内容ではあった。ただ、吸血鬼が吸血鬼の弱点を退治人に教えるのはいくらなんでも道徳的にどうなんだと咎めてみれば「君の役に立つだろう?」ときたもんだ。

事と次第によってはお前に対して役立てるかもしれないってのに、呑気なもんだ。腹が立つ。

 

×月×日

昨日長居させすぎたせいだろうか。買ってきたばかりのバナナが吸血鬼化した。

おまけにそのタイミングでドラルクたちが帰って来たもんだからもう散々だった。ノースディンのことはどうにかこうにか窓から押し出したからバレずに済んだけど、バナナが。

 

×月×日

ノースディンは自分の非を認めて深く反省していた。当然だ。

とはいえ、俺も多少は言い過ぎてしまったような気がしないでもない。

なので、まぁ、確かにお互い落ち着くための時間は必要だろう。

 

×月×日

メビヤツたちが観測できる範囲内にはいるらしい。

何やってんだか。

 

×月×日

確かに俺はバナナが好きだ。

必要とあらば実直行使も辞さない。

だからって今更ドラ公の与太話を信じるなよ。流暢なゴリラ語とキレッキレのドラミングで口説かれてもわかんねぇよ。ってか一週間ずっとこれをやるための勉強してたのかよ。

そこまで努力できるならもっと他に活かせばいいのに、バカな奴。

 

******

 

 夜の散歩に出かけたドラルクとジョンが意地でも選ばず、他の者ならそもそも候補に挙げることすらないであろうパスワードでしか開けないファイル。今夜もそこに打ち込んで――もとい、閉じ込めていくのはロナルドだけの秘密。

 知られたくないことをわざわざ記録する行為は矛盾しているようだが、誰にも話せないからこそ何らかの拍子にうっかりぼろを出してしまわないよう、半数と客観視と自嘲のサイクルを自分の中で完結させているのだ。ノースディンに対する記憶と感情、その全てを。

「……あーあ」

 キリがいいところまで入力したところで、ロナルドはふっと苦笑する。

「どうしようもねぇの」

 ノースディンと接すれば接するほど、数多の女性を惑わすナンパ師を気取る生き方に歯痒さを覚えてしまう。真っ当に生きていれば、自身が謳う「誠意」に相応しい伴侶を見つけられるだろうに。

 もっとも、諭してやる気はない。

 ノースディンには女であらば受精卵から地縛霊はおろか弟子の相棒すら口説くクズでいてもらわなければ困るからだ。他でもない、ロナルドが。

「……」

 ロナルドはうずくまるように、自身を抱くように、机の上で肘を組む。彼女の胸を軋ませているのは、かつて一時間とはいえ付き合ってくれた同級生から切り出された別れ話。

 初めての交際に浮かれるまま将来設計にまで先走った自分に対して、彼は顔を歪めながら「君とうまくやっていける自信がない」と去って行ったのだ。

 ロナルドは――何も言い返せなかった。

 フラれたことにショックを受けながらも、退治人になるという覚悟は少しも揺るがなかったからだ。

 彼を恨むつもりはない。むしろ、ハンターになった今では正しいとさえ思う。

 なにせ、退治人とは勤務時間や休日のみならず命さえも吸血鬼の気まぐれに振り回される職業だからだ。息つく暇もない騒々しさの中で恋人と過ごすための時間を探すのはきっと難しい。

 もしかすれば、兄が女の子達に対して紳士を貫いたのも同じ理由なのかもしれない。

 兄でさえままならなかったであろうことを、まだまだ彼には遠く及ばない自分にできるとは思えない。

 ――だが、ここは新横浜だ。人間と吸血鬼の垣根を越えた欲望の坩堝たる魔都だ。

 譲れない事情ごと自分を受け入れてくれる「誰か」が現れてくれる夢想を心の片隅に忍ばせておくくらいのわがままは大したことではないのかもしれないと、恋愛への憧れを振り切れずにいた。

 果たして――奇跡は起こった。

 ビキニどころか全裸になろうとみんなが「ロナルド」として認識する自分を「女」として口説いた上に「退治人」であることを逆手に取った挑戦を突き付けてくる存在がやって来たのだ。

「……」

 全身をわななかせる歓喜に、ロナルドは絶望した。

 自分の理想を体現したのが、よりにもよって希代のナンパ師だったからだ。

ノースディンは単に精神力で解いたと思っているようだが、実のところ、退治人として数々の吸血鬼と対峙してきた経験が魅了よりも早くノースディンの性癖を分析したことで自分の将来を悟ってしまったからである。ある種の走馬灯ともいえよう。

彼を上回るどころかそもそも好いてくれる者が現れるかどうかすら定かではないロナルドに対して、ノースディンはあまねく女を次々とナンパしていくのだろう。彼が執着しているのは「女」ではないのだから。

 あの夜の被害者たちが「いい夢を見させてもらった」と笑いながらも彼に執着しないとこもその証左と言えよう。

 つまるところ、ノースディンの目的は「女」ではなく「ナンパ」という行為そのものなのだ。

 ロナルドが陥落すればまたスタンプラリーよろしく新たな獲物を探しに行くのだろう。だが、裏を返せばロナルドが拒み続ける限りそれは叶わない。ノースディンがそうしたように、ロナルドもまた彼の矜持を利用するべくあの宣言に乗ったのだ。

 本来なら報告して協力を求めるべきギルドや吸血鬼対策課はおろか相棒たちにさえ沈黙を貫く覚悟だって決めた。

 自分の恋愛観をめちゃくちゃにした責任を、取らせるために。

「ビッ!」

「……おっ、そろそろか。サンキュ」

 メビヤツの声に、ロナルドは顔を上げる。

 あれこれ考えていたせいだろうか、小腹が減っていたのでドラルクが夜食代わりにと置いていったクッキーをかじる。

「?」

 木の実と思しき香ばしい風味に首を傾げたところで、背後の窓がノックされた。

「……ん」

 クッキーを飲み込んだロナルドは、不敵に笑う。

「今夜も口説かせてやるか」

 

 

 

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