冥界へのカウントダウン   作:きしゃまる

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逢着

けたたましい音が、教室内に鳴り響く

クラスメイトたちがざわめき始める。

音は鳴り止むことがなく、次第に激しさを増していた。

校舎全体に響き渡るほどの音量だ。

しばらくして担任が生徒たちを誘導しある場所に向かわせる。

そこは学校が臨時で設けた地下室だ。

しかし、竜巻とかの天災でもないのに何故地下室なのだろうかクラスメイトたちは教師の意図を汲み取れず困惑していた。

最近多発する魔法使いによる被害への対策だと聞かされても納得できるわけがなかった。

地下へと続く階段の前でクラスメイトたちの列が止まると先頭の教師が扉を開けるように促す。

全員が中に入ると、扉は閉められてしまった。

沈黙が続く。クラスメイトたちにとっては退屈退屈で仕方がない。そして遂に痺れを切らした一人の男子生徒が声を上げた。

俺はその光景を横目に見ながら心を踊らせていた。魔法使い。

それは人ならざる謎の存在。

オカルト趣味の俺にとって興味深い存在だったのだ。

きっかけはなんとなく目に留まったニュース番組だった。

そこでは謎の怪死事件が報道されていて、まるで魔法ともいえる摩訶不思議な力を消尽し、ある男性は倒れたのだ。世間は魔物の仕業だとか、

迷宮入り事件だとか騒いでいたが、俺にとっては未知の存在に心躍らせていた。俺はその物体を魔魂と名づけ。日々事件を追っていた。

しかし、父親は危ないから近づくなとか言ってきたり、母親は妹の面倒を見ることで精一杯と言って、まったく聞く耳を持たなかった。

俺は家族仲を裂くわけにもいかずそっと胸の内に仕舞い込んだ。

そのせいもあり高3になる今でもその姿にお目にかかったことはない。

そうこうしている間に魔魂に備えた避難訓練は終わっていた。

解放されたクラスメイトたちは口々に愚痴を言い合いながら帰路に着く。

放課後何気なくスマホ開いていると俺の耳にあるニュースが飛び込んできた。魔魂が出没したのだ。しかもこの近辺に。

下校途中の生徒は恐れおののいていたが、俺は居ても立っても居られなくなり、現場に直行することにした。

近辺といってもここから二駅ほど離れた場所だ。

「河園壮後かわぞのそうご今未知との遭遇を果たしに行く!」

俺はひとり高らかに叫び、現場に向かった。

「あーなんてことだ」

惨憺たる現場を目撃し、俺はうなだれた。話には聞いていたが俺の想像をはるかに上回っていた。あちこちに死体が転がっている。見るからに凄惨なものもあれば、グロテスクではあるがまだなんとか理解できるものもある。

まさに死屍累々という有様だ。

「……おい、大丈夫か?」

俺はとりあえず近くに倒れていた男の体を揺さぶってみる。反応はない。首に手を当ててみた。脈はあった。

「魔法使いだ、やつらに人情なんてねー」

魔法使いその言葉を聞き、戦慄が走った。巷で有名な人の形をした人ならざるモノ。やつらに人間の価値観なんて通用しない。気に入らないものがいればところかまわず平気で殺すのだ。

「逃げないと殺されるぞ!」

そう言いながら男を担ぎ上げようとしたその時だった。

突然、俺の視界の端から巨大な手が飛び出してきた。それは瞬く間に俺の頭を鷲掴みにし持ち上げる。

なんだこれは? いったい何が起きたんだ!? 混乱する頭で必死にもがくも、その手から逃れることはできなかった。

そして次の瞬間には思いっきり地面に叩きつけられていた。あまりの衝撃に息ができない。全身の骨がきしむ音が聞こえるようだった。

痛みと苦しさに悶える中、なんとか目を開くとそこには先ほどまで俺と話していた男の姿はなかった。殺されたのだ。

「ああ……なんでこんなことに」

あまりの出来事の連続に理解が追いつかない。ただ一つわかることはこのままでは自分もあの男のようになるということだけだった。

どうすればいいのかわからないまま、それでも俺は必死に逃げようともがいた。その時だ。突然遠くの方から、爆撃音がした。同時に凄まじい爆風が吹き荒れる。思わず目を閉じてしまうほどの風圧。だがおかげで拘束されていた手から逃れられたようだ。

急いで立ち上がろうとするが、足が思うように動かせない。

「きみ、立てるかい」

声をかけられ振り向くとそこにいたのは見慣れない服を着た男だった。パッと見た感じ20代半ばくらいだろうか?

男はカバンから救急箱を取り出し、応急手当てをしてくれた。男の懸命な治療の甲斐もあり痛みは幾分かましになった。

「やつらには気をつけろ」

「ほら、あれを見てみろ」

謎の男が指差す方向を見ると、人が倒れていた。よく見ると人体からモヤのようなものが立ち込めていた。

「やつらには実態なんてものはない、生きてる人間の体を借りる他ならない」

そんなバカなと思いながらも、目の前で起きた出来事を目の当たりにしている以上信じるしかなかった。

「あなたは何者ですか?」

「私かい?私は魔法使いの生態を研究している某研究所の職員だよ」

「何を言って……」

「君は運が良かったね、死なずにすんで」

職員の男は足早に立ち去ろうとした俺はその手を掴んだ。

「待ってくれ!」

振り返った彼の目は血走っていた。恐怖を感じつつも引き下がれずに問いかける。

「あいつらは一体何なんだ?」

すると彼は静かに語り出した。

「やつらは魔法使い。しかし、一般的なポピュラーなイメージの魔法使いではなく、ただ殺戮の限りを尽くす。

悪魔だ。そしてその魔法使いのコアとなるものが魔魂だ。」

「魔魂?」

俺は思わず耳を疑った。偶然なのかわからないが職員は

その化け物のことを確かにそう呼んだ。

魔魂は俺が名づけた奴らの呼称だ。シンクロニシティというやつだろうか。

「魔魂って数年前世間で騒がれていた。怪死事件で問題になっていた。

謎の物体?」

「魔魂のことを知っているのか?」

「知ってるも何も俺は事件を何度も追っていたからな」

職員は黙り込み、しばらくすると口を開く。

「まあ、君は勇敢な少年だ」

でも、次は死ぬかもしれない。君のような子供が関わる問題ではないのだよ」

職員は最後にそう言い残し、俺はほどなくして倒れた。

そして、そのまま病院に搬送された。

それから長い間、病院生活を強いられた。俺は病床で考えた。あの日の出来事は本当に現実に起きたことなのかと。もしかしたら全て悪い夢だったのではないか。無事退院した俺は、我が家に帰ってきた。

「美前!ただいま」

いつもなら玄関先で待っている美前の姿が無かった。俺は不審に思い。階段を上がり部屋に入った。

「おい、いないのか?」

返事がない。おかしいと思って部屋を後にすると突如背後から声がした。一息つく間もなく俺に襲いかかってきた。そう美前は魔法少女に変貌していたのだ。

「目を覚ませ!」

俺は彼女の攻撃を交わしながら、魔魂を探す。

「どこにあるんだ……?」

「…………」

彼女は無言のまま、ひたすら攻撃をしてくる。

「お前の目的はなんだ?」

「…………」

「なぜ俺を狙う?」

「…………」

ダメだこりゃ。

これじゃあ会話にならない。

どうすれば……。

気がつくと部屋はおろか自宅は変わり果てた姿になっていた。魔法の猛撃を受け、壁や天井、家具に至るまで全てが破壊されてしまっていた。

「くそっ!」

逃げ場を失った俺を、美前の姿が覆う。

「頼むから正気に戻れよ!!」

その時だった。

突然、俺の脳裏に考えが浮かび上がってきた。そうこの危難を乗り切る方法を。

「美前、これ好きだっただろ?」

俺は倒れている棚に手を伸ばした。

「一緒に食べようぜ!」

手に取ったのはパンの袋だ。中にはあんぱんが入っている。不思議とこれだけは無傷だった。好物を差し出し、自我を呼び覚まそうと試みる。

「ほら、うまいぞ!」

俺は必死になって呼びかけた。

どうやら、俺の作戦が功を奏したようだ。彼女の瞳から輝きが戻り、焦点の定まらない目で俺を見つめる。

「……お兄ちゃん?」

「ああ、そうだ。わかるか?」

「うん……」

「よかった」

「ごめんなさい」

「いいさ、無事だったし」

「怪我してない?大丈夫?」

俺は彼女に駆け寄って抱き合った。

あたりには小さいモヤのようなものがたゆたう。モヤはしばらく漂っていたが次第に集まってきて人の形を取った。

「‥…」

これが魔魂の正体か……。

魔魂とは一つの塊ではなく、小さなモヤが寄り集まって形成されたものらしい。よく見ると不思議な色をしていた。

「‥…よくもやってくれたな」

奇妙な姿をした魔魂がおどろおどろしい声で呟く。

そして再び分裂し、美前の体に入ろうと試みる。魔魂が美前に迫る。

このまま、また体が乗っ取られると、元の木阿弥だ。

「美前、隠れろ!こいつは俺が惹きつける」

奴らは人間を視覚で感知できるわけではない。熱で感知しているのだ。

きっと周囲の熱放射から赤外線を感知し、対象の位置を割り出しているに違いない。変温動物の持っているピット器官がそれに該当するだろう。

「ほら、こっちに来い!」

俺たちは破壊し尽くされた家の中を駆け回る。そしてある場所で足を止めた。しかし、蛇口はおろか水道管は破裂し水は出ない。

もはや、ここまでか。

その時だ。額に水滴を感じた。水滴は徐々に量を増し、空を見上げると、曇天模様から雨が降り出してきた。

「お兄ちゃん、雨降ってきたよ!」

「よし、めいいっぱい雨に打たれるんだ!」

俺たちは雨の力を借り体温を下げることに成功した。案の定標的を見失った魔魂は俺達を諦めたようでどこかへ消え去った。

あたりを見回すと、両親の死体が転がっていた。

先ほどの攻撃が及んでいたようだ。顔はどこかに吹き飛び、胴体だけが転がっていた。焼死死体は灰を帯びていた。

「うぅ……、なんでこんなことに……」

彼女は泣き崩れてしまった。

俺はただ黙って抱きしめることしかできなかった。

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