冥界へのカウントダウン   作:きしゃまる

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昼下がりの抗戦

それから数日後、葬式が行われた。

俺たちの両親は交通事故で亡くなったことになった。親戚をたらい回しにされ、結局俺たちは施設に預けられることになった。現実の非情さに歯ぎしりする。あれ以来美前の様子がおかしい。赤ん坊のように甘えてきたと思えば急にヒステリックになったりと情緒不安定になっている。俺自身も精神的に参っているせいか、まともに思考することができずにいた。段々一日一日を無為に過ごすことに嫌気が差した。

施設の外へ出ようと、ドアに手をかけたその時だ。急にテレビが映り始めた。よく見ると美前がテレビのリモコンを足で踏んづけていた。

「連日世間を騒がせている魔法使いによる殺戮事件は未だ収束の目処すら立っておらず、政府は対応に追われています。」

「……」

美前は虚ろな表情でニュースを眺めている。

「事件に巻き込まれ方々の冥福を祈ります」

そう言ってアナウンサーは頭を下げた。俺は彼女の肩を抱き寄せた。

「大丈夫だ、俺がいる」

そう言うと彼女は俺の腕の中で静かに涙を流した。

「うん、ありがとう」

彼女は俺の手を強く握り返した。

俺は誓った。何があっても彼女を守っていくと。俺はメモを取り出した。そして今まで襲撃された人々の情報を書き留める。いや、正確には寄生されたというべきか。しかし情報が少なすぎて判断ができない。

ただひとつ言えることは奴らは寄生する相手を見定めているということだ。

そしてその条件は恐らく……。

「お兄ちゃん?」

「なんだ?」

「意思を強く持つんだ!」

「決して弱音を吐くな。奴らは心の弱い人間を餌にしている」

俺の中である考えが浮かび上がる。

臆病で弱気な妹が狙われたのも得心がつく。廊下に出ると、職員に話しかけられた。

「あら、どこに行くの?」

「ちょっと周辺を探索しようかなと」

と言ってお茶を濁し、施設を後にした。施設の外はまだ明るく、日差しが照りつけている。俺は美前の手を引き町に繰り出した。町は異様にも活気がなく静まり返っていた。連日のニュースに恐れをなしてか人々は家に閉じこもり息を殺しているようだ。

「ねぇ、お兄ちゃん?」

「どうした?」

「お腹すいた!」

「そうか、じゃあなんか食べようか」

俺たちはファストフードの無人販売機に足を運んだ。周辺は人がまばらで閑散としている。俺はハンバーガーを買い、美前に渡そうとした時だった。

「きゃー!」

女性の悲鳴が聞こえた。振り返ると、女性の首筋から血が流れていた。

「危ない!」

男性が彼女を突き飛ばした。次の瞬間、男性の首元が裂けた。音もなく飛んでくる鋭利な刃。こんなものが当たってはひとたまりがない。俺は第六感を研ぎ澄ませ危険予知しながら進む。

至る所で悲鳴が上がる。人々は逃げ惑うが、四方八方から襲いくる刃を避けきることはできない。無惨にも切断されていく。俺は美前を庇いながら必死に逃げ回った。時計を見る。死闘を繰り広げてから1時間が経った頃ようやく攻撃が止んだ。「終わったのか?」

辺りには肉片と化した人間の残骸が広がっていた。

「お兄ちゃん、怖いよぉ……..」

美前の震え声を聞き、我に帰る。

「大丈夫だ!俺がついている!」

そう言って彼女を安心させる。

「人間……お前は何者なんだ…」

魔魂が俺に語りかけた。その声には不気味さが漂っている。

相変わらず美前は俺の後ろに隠れている。

「何が目的なんだ?」

「さあな…おまえらに教える必要はない」

そういうと色づき魔物は姿を消した。

「お見事」

誰かが手を打ち鳴らす。

不意に後ろを見ると、謎の制服を身にまとう男が立っていた。記憶を辿る。

「あんたは?」

そう以前にあった職員を名乗る男だ。

地味なデザインの制服だが、紋章だけは異彩を放っていた。

「まあまあ、そう警戒しないでくれ。私は君たちに危害を加えるつもりはない」

男は両手を上げ敵意のないことをアピールしている。

「ほんとうに?」

幼児退行した美前がきょとんとした顔をする。「ああ、本当だとも」

俺は美前を背中に隠しながら身構えた。

「それで、用件は?」

「単刀直入に言おう。我々と共に来てくれないか?」

「どういうことだ?」

「言葉通りの意味だよ。私は君の勇気を見込んでスカウトに来たのさ。我々の組織は政府の秘密機関だ。君は選ばれたんだよ」

「秘密組織?胡散臭いな……」

「まぁ信じろと言われても無理があるだろうね。だが真実だ」

俺は男の目をじっと見つめた。嘘をついているようには見えない。

「あ、大事なとこを忘れていたね」

男は鞄をさぐり紙のようなものを取り出した。金箔で縁取られていて、仰々しい雰囲気を醸し出している。

「これは?」

「秘密保持のための誓約書だ」

「とにかく我々機関の存在が他に漏れては困るのでね。まずはメンバーになる前にここにサインをしてもらう」

俺は首を傾げた。

どうやら是が非でも構成員になってほしいみたいだ。ともあれ魔魂の内部事情を知る人物がいると心強い。

「分かった。美前もいいか?」

「うん」

美前はこくりとうなずく。

「では、こちらへ来てくれ」

俺たちは促されるまま、彼の後についていった。しばらく歩くと雑木林のようなところに着く。そこで彼は足を止めた。「56142」彼は謎の暗号をそらんじる。するとまんまるとした茂みから施設のようなものが出現した。

「ようこそ私のラボへ!君たちを歓迎するよ」

「凄い……」

美前は目を輝かせながら辺りを見回した。施設内は複雑に入り組んでいた。美前ははぐれないように必死についてくる。長い廊下を抜けると、赤色の扉があった。俺たちは彼に続いて中に入っていく。中は会議室くらいの広さだ。

「ここなら安全だ。ゆっくりと話ができる」

俺は唾を飲み込んだ。

「紹介が遅れたね、私はヌエこのラボの館長をしている」

「よろしくね」

俺は握手を求めた。美前は相変わらず怯えていた。

「俺は河園壮後かわぞの・そうごでこっちは俺の妹の美前みまえだ」

「あ、ああ」

少し戸惑いながらも手を握る。

「早速だけど、質問していいか?」

「ああ、構わないよ」

「あんたはどうして魔魂のことを知っていたんだ?」

「それは……秘密事項なので言えない」

「そうか……」

「悪いな、私にも立場があるのでね」

「それじゃあ、次の質問だ。あの化け物は何なんだ?」

「奴らは魔魂と呼ばれる存在だ。奴らは原初は無害な存在だった。」

「しかし、やがて奴等は人間に取り憑いて狂死させたり、魔法を使い、周囲の者を無差別に殺すようになった。我々機関も彼らの討伐に全力を尽くしたが、気づいたらこの有様だ」

「原因は分からないのか?」

「残念なことに全く手がかりがない」

「そうか……。じゃあ最後の質問だ。あんたはどこまで知っている?」「どこって言われてもねぇ……まぁだいたいのことは把握していると思うけど」

ヌエは言葉を濁した。どうにも胡散臭い。

「まぁ、細かい話は追々していくとして。とりあえずは君たちの力が必要だ」

「協力してくれるかい?」

「ああ」

「ありがとう。これで私も動きやすくなる」

「そういえば、美前くんは大丈夫かい?」

「美前がどうしたんだ?」

ヌエは怪訝な顔をした。

そして少し間を置くと神妙な面持ちで話し出した。

「美前くんが魔魂の寄生前と寄生後で何か変わったことはあるかい?」

「特に何もないぞ?」

「本当に?」

俺は必死に記憶を探る。

「人格に変化はないかい?」

「そういえば……」

「どうかした?」

「あいつ、最近やたらと甘えてくるんだよ」

「そうか……」

ヌエは顎に手を当てて考え込む仕草をした。

「これは仮説に過ぎないのだが、おそらく彼女は」

「おい!何の話をしてるんだよ!」

「まあまあ、最後まで聞きたまえ」

「彼女は魔魂に寄生されたことで、幼児退行を引き起こしているね」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

「魔魂の寄生は人間の脳になんらかの損傷を与えている可能性があるからだ。現に彼女には脳の一部に欠損が見られる」

ヌエの説明によるとこれは魔魂の寄生によるものらしい。

なんでも魔魂に寄生されると、魔力を有限に放出され、それはやがて脳の機能を破壊する。寄生解除された患者でも脳に深刻なダメージを負っていることが多く、それが症状として現れたのがこの後遺症だという。

「じゃあ美前は……」

俺は膝から崩れ落ちた。美前の異常に気づけなかった自分がやるせなかった。

「安心したまえ、君は魔魂に打ち勝つ勇気がある」

ヌエはある場所に案内する。そこには

ベッドに横たわる少女の姿があった。

しかしどうにも様子がおかしい。

目はうつろで、顔からは生気を感じ取れない。一応意識はあるようだ。

その証拠に眼球だけが不自然に動いてる。

「お兄ちゃん…怖い!」

美前が怯えている。

「彼女は元は明るく活発な女の子だったんだけどね、僕が救った時はこんな状態だったのさ」

「おそらく魔魂の影響で脳がやられ閉じ込め症候群を発症させてしまったのだろうね。可哀想だが、もう助かる見込みはないだろう」

閉じ込め症候群。聞いたことのない病名だった。ヌエによると閉じ込め症候群には、不完全型と完全型がある。前者は回復の可能性はあるが、後者は一生植物状態に近い。つまり意識は覚醒しているが、ほとんどの神経が麻痺しており、患者は眼球運動以外できず、無動で無言。

具体的には脳幹と大脳皮質の両方の機能に影響が生じていると考えられているらしい。

「……」

俺は絶句した。

「くそっ!なんとかならないのかよ」

俺は怒りに任せて壁を殴った。

「今のところは、なんとも言いがたい状況だ」

「奴らの正体が判明しない限りは」

「そうか……」

俺は落胆したが、希望はまだあるのだと信じたかった。

「まあ、やつらを知ることが希望への第一歩になるはずだよ」

ヌエの言葉を聞き、少し立ち直れた。

「でもどうやって……」

ヌエはベルを鳴らした。すると、どこからともなく少女が現れた。

中学生くらいだろうか。幼く見えるがどことなく知性を感じさせる顔立ちをしている。

「紹介するよ、私の助手のトウテツだ」

「彼女も孤児でね、私が救ったんだ」

「よろしくお願いします……」

「こちらこそよろしく」

美前が恐る恐る手を伸ばす。

「怖がらなくていいのですよ」

トウテツは優しく微笑みかける。

「うん」

しかし、妙だった。なぜこんな幼気な少女なのだろうか?助手にするなら、もっと屈強な男の方が適任ではないのか。俺の疑問を見透かしたかのようにヌエが口を開く。

あ……大事なことを言い忘れていたね、彼女は特殊な体質の持ち主でね、魔魂に大して免疫があるんだ」

さらにヌエはこう付け加えた。

「それとね、彼女見た目は若く見えるけど、成人してるよ」

「えぇ〜!!」

俺たち兄妹の声はラボ内に響き渡った。

「戦闘力に関してはお察しの通りだ。

だが、彼女も立派な組織のメンバーだ」

トウテツさんが申し訳なさそうにしている。

「そうか、そういうことか……」

俺はヌエの意図を理解した。

察しが良くて助かるよ。それでこれからは彼女のサポートをしてもらうと思う」

「じゃあ、改めて自己紹介をしましょうか」

「私はトウテツといいます。あなたたちのお名前は?」

よそよそしい態度をとっていた美前だが、トウテツさんには心を開いているようで、自分から進んで自己紹介をする。

母性のようなもので感じたのだろうか。

「あたしは美前だよ」

「ミマエさんですね、かわいい名前です」

「えへへ」

美前が照れ笑いを浮かべる

それでは早速、作戦会議をしましょう」

俺は美前の隣に腰掛けた。

「まず最初に、あなたたちは魔魂を討伐するためにこの施設に来たのですよね?」

「いや、ヌエさんにスカウトされた」

「へえー所長にねー」

トウテツさんは安心し切った顔をした。

トウテツさんの話によると、この極秘機関はもともと機動隊から独立した、対魔魂対策特殊部隊で、政府の管轄のもと秘密裏に活動していたらしい。

発足時のメンバーは8人。しかし、

多くの仲間は戦いで命を落とし、またある仲間はその重責に耐えられず、部隊を去っていったという。そして、今の形が築き上げられたらしい。

「この組織について、大体わかりました?」

俺たちは二つ返事をする。

「それででですね、ついてきてください」

トウテツさんに促されるままに、ついていくとそこは何かの管理室だった。無数のモニターが壁一面に張り巡らされ、そこには様々なデータが表示されていた。その中央に、一際大きなモニターがある。

トウテツさんがその画面を操作すると、そこには謎の機械が映し出された。巨大な筒状のもので、上部には検出機のような装置がついている。

「これは魔魂探知機。魔力を感知すると、それを電気信号に変えて、ここに送られてくる仕組みになっています。」

そんな便利な装置があるのなら、とっくに魔魂は殲滅していて、平和が保たれていてもおかしくはない。

俺が疑問を口にするより先に、トウテツさんが話を続ける。

「それがね、魔魂単体だとうまく魔力を感知できないの、いえ、正直に言うわ。そもそも感知できないの」

「どういうことだ?じゃあどうやって場所を特定するんだ?」

「それはね……人間の体内に宿った時だけ、正確に位置がわかるのよ」

俺は自分の心臓が大きく跳ね上がったのを感じた。

つまり、人間に取り憑いた時点で、奴らはどこにいても逃げられないってことか……。

「いえ、そこが厄介なの。体内に宿った瞬間彼らは無茶苦茶に暴れ回るの、以前はそれですんでいたけど、最近では無差別に人を襲うようになったの」

「そうなると、私たちの手には負えなくなる」

「私はそれを彼らの生理現象と考えているわ」

「確かに生理になると無性にイラついたり、攻撃的になったりして周りに当たり散らす人もいるもんね」

「美前ちゃんは物知りねぇ〜」

トウテツさんが感心したように言った。トウテツさんの話によると、魔魂は人類にとって天敵とも言える存在で、その生態は未知数。政府関連の研究者からは諸説があり、いまだ行動原理は解明されていない。

俺たちは会話を交えながら、中央室に戻った。

その後、しばらく話し合った結果、次のような方針が決まった。

・魔魂の居場所を探る

・魔魂を見つけ次第、コアを破壊する

・コアを破壊した後は速やかに撤退 ひと段落ついたところで、俺はあることが気になった。トウテツさんに訊ねる。

「トウテツさんは魔魂に寄生されても何の問題もないんですか?」

「はい、問題ありません」

「そうか?」

「ただ…」

トウテツさんが言いにくそうに口ごもる。

「どうした?」

「実は……」

「実は?」

「私には睡眠障害があります。初めて魔魂に寄生された時のことだと思うのですが、それ以来無意識にうとうとと眠くなるのです」

「なんだよ、心配させないでくださいよ」

俺は安堵のため息を漏らす。

「でも、最近は魔魂の影響なのか眠る頻度が多くなってきまして……」

「大丈夫なんですか?」

ナルコレプシーのようなものか、しかし肝心な時に寝られたら、こちらとしても大変困る。どうやら飛んだ厄介者を抱え込んだようだ。

本人の意思とは無関係ってのが余計たちが悪い。

そういうと彼女はカバンをゴソゴソと漁り、中から薬を取り出した。

「これは?」

「睡眠覚醒剤と言いまして、これを飲めば一時的に眠気が落ち着くんです」

「あまり多用しない方がいいと思いますが、いざという時に備えて持っています」

「なるほど、わかりました」

「他に何か質問はございますか?」

「あっ、あと、敬語で話さなくていいですよ」

「私たちは共に魔魂討伐する仲間なんですから」

「ありがとう、じゃあ遠慮なくタメ口で話すよ」

「じゃあ次は美前の番だね」

美前はベッドの上で飛び跳ねている。

「美前ちゃんは元気いっぱいだね」

トウテツが話しかけると美前は嬉しそうに答えた。段々打ち解けて来ているようだ。

「うん!だってお兄ちゃんがいるもん!」

「お兄ちゃんのこと好きなのかい?」

「大好き!」

俺の顔を見てニヤついている。恥ずかしさで顔がみるみる赤く染まる。

さらに美前は追い打ちをかけるように

「お兄ちゃんは美前のこと好き?」

と問うてきた。

魔魂の影響なのか、普段よりも甘えん坊になっている気がする。

「もちろん好きだよ」

「わーい」

美前は満面の笑みで喜ぶ。俺は羞恥心を押し殺し、平静を装う。

ぐー突然、大きな音が鳴った。腹の音だ。音の主は美前だった。

「おなか減った……」

時計を見るともう8時過ぎだ。

「ご飯を食べに行きましょうか」

トウテツが提案する。

「そうだね」

俺も賛成だ。こうして作戦会議は明日に持ち越された。

やったぁ」

美前が両手を上げて喜んでいる。

俺たちはトウテツに案内されるがまま食堂へとたどり着いた。

扉を開けると食欲を刺激する香りが鼻腔をくすぐる。

俺たちは食堂の中央にあるテーブル席についた。するとコック姿のヌエがこちらに近づいてきた。

「食事ができたよ」

「ありがとう」

ヌエはトレイに乗せた食事をこちらに運ぶ。

「今日は美前くんたちの歓迎会だから、腕によりをかけて作ったよ」

「美味しそう」

美前が目を輝かせて言った。

目の前に豪勢な料理が次々と盛り付けられる。

美前は待ちきれない様子で箸を伸ばすが、その手をトウテツが優しく制止す

る。

「こら、いただきますをしてからですよ」

「はーい」

「料理が出揃ってからね」

どうやらヌエはとても几帳面な性格で見栄えを気にしているようだ。

ほどなくしてすべての料理が盛り付けられた。

料理は丸いしきりのある大きなお皿に入っていて、中央に肉料理

両サイドには麺料理や魚料理などが入っていた。美前が手を合わせる。

「いただきます」

「いただきます」

続いて俺とトウテツも挨拶をする。

料理はバリエーションに富んでいた。

肉料理や魚料理を筆頭に、素材の味を活かしたメニューが多く、味は絶品だ。中でも羊肉のソテーは絶妙な味加減で俺の舌にとてもよくあう、肉は柔らかくジューシーで噛むたびに旨みが溢れ出る

「美前ゆっくり食べないと喉に詰まらせるぞ」

「わかってるよ〜」

美前は口に食べ物を詰め込みながら話す。

「こら、汚いだろ」

「ん〜おいひぃ」

美前が喉を詰まらせる。どうやら慌てて飲み込もうとしたらしい。

「ほら言わんこっちゃない」

俺はコップに入った水を美前に渡す。

「ぷはっ」

なんとか事なきを得たようだ。

「ふぅ危なかった」

「まったく、気をつけなさい」

トウテツが母親のように叱る。こうして見ると親子のようだ。

「私これ!嫌い」

美前の視線の先にはフグのムニエルがあった。

「好き嫌いはいけませんよ」

「ううー」

美前が不満そうに頰を膨らませる。

「まあまあ、盛り上がっているところ悪いんだけど、そろそろ就寝してもらおうと思う、それにあまり騒ぐと奴らに気づかれる」

ヌエが注意を促す。確かにこんな状況で騒ぐと奴らに潜伏先を教えているようなものだ。

俺たちは食事を手早くすませた。ヌエに案内されるがまま、部屋へと向かう。どうやらここが俺たちの部屋になるようだ。部屋の中に入るとベッドが二つ並んでいた。とくに目立った特徴がないシンプルな部屋だ。ニュースをチェックするためだろうか部屋の奥には壁掛けテレビが設置されている。

「それじゃあお休み」

「お休み」

「お休み」

俺たちはそれぞれベッドに横たわる。

「明日は早いからしっかり寝ておくんだよ」

「わかった」

「お兄ちゃん一緒に寝よう」

美前が布団にもぐりこんできた。人肌の温もりを感じる。俺は彼女を抱きしめる今の彼女にとって俺は安心毛布なんだろう。

「お兄ちゃんあったかい」

「お兄ちゃんは優しいね」

美前の髪を撫でる。シャンプーの良い香りがする。

「お兄ちゃん大好きだよ」

美前は俺の腕の中でスヤスヤと眠りについた。俺も段々眠くなってきた。美前の体温を感じているうちに意識が遠のいていく。

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