この拙作でのレースに関する事柄・トレーニング方法などは、全て筆者の空想が入っておりますのでご了承下さい。
それとレースの賞金ですが、2023年時点でのレース賞金を参照としております。こんな大金が入ってくるとトラブルになるでしょうが……この拙作での賞金は、現実の競馬と同額としております。
青春を捧げて、命をかけて、誇りをかけて走る。そんなカッコいい娘たちに、賞金ぐらいあげてもバチは当たらないでしょう…
スペちゃんがダービーウマ娘に輝いてからしばらく…
世間の皆さま、関係者の皆さま、家族の皆んな、そして俺自身の興奮が収まり始めた…今日の6月下旬。
トゥインクル・シリーズの上半期総決算【宝塚記念】を、スペちゃんのルームメイトさんであるサイレンススズカさんの勝利で終え、トレセン学園内でも一区切り。という空気が流れている。もちろん夏場もレースは行われるので緩みすぎてもいないのだが…
かく言う俺も上半期の総評・夏合宿が控えているため、気を緩ませ過ぎずに仕事に励んでいる真っ最中である………いや本当だよ? 未だにスペちゃんのダービー制覇の記事を見たらニヤニヤしちゃうけど、仕事はちゃんとこなしてるんですよ? …振られる仕事も日に日に多くなってますからね?
スペちゃんの記事は全てラミネート保存、さらにデータ化保存の二段構えで保存している。しかもラミネート保存した記事は、スペちゃんのお母ちゃんや我が両親にもお願いされて送っているので、更に盤石の体制である。
『スペシャルウィーク、日本ダービーを制す! 無敗の二冠ウマ娘の誕生!』
『スペシャルウィーク、無敗の二冠達成! 後は秋の菊花賞のみだ!』
『日本ダービー、ウイニングライブの来場者数は過去最高を記録! 満点の星の様なスティックライトの光は圧巻!』
『スペシャルウィーク、再び勝利の抱擁! 幼馴染の“お兄さん”と掴んだ絆のダービー制覇!』
ゴールした瞬間の写真、ウイニングライブでの写真はどれも本当に上手に撮って下さっており、記者の方々には感謝しかない……
だが、勝利後の抱擁までもこれほど上手に撮って下さらなくても良いんですよ?
ちなみにスペちゃんのお母ちゃん、我が両親共々が一番熱望してきた記事が…この抱擁記事である……いや送らせて頂きますよ?頂きますとも。
でもこの記事を自分でラミネート保存して送る…俺の羞恥心もほんの少し考えて頂けると……てか北海道に帰ったら、この写真が飾られているんだろうか? …やっべ、恥ずかしくなってきた…
ま、まあ…もう送ってしまったし現実逃避…もとい開き直るしかないんだけどね。それに、そんな羞恥心も薄れるほど…今回のスペちゃんのダービー制覇は本当に嬉しかった。
もちろんスペちゃんが勝つ! と信じていたが、あのダービーでスペちゃんは更なる成長を遂げてくれた。
今までで一番苦しい流れになったあの中で…自分自身の“心の強さ”で殻を破り、その上でダービーを制覇してくれた。俺はその事が何より嬉しかったのだ。
デビュー戦の時から心配していた事だが…ダービーまでのスペちゃんには、レースに対する【慣れ】が余りにも経験不足だったからな…
育った環境が周りにウマ娘が一人も居ない。という環境だった為仕方ないのだが。
小さい頃から周りに自分と同じウマ娘が居て、駆けっこやレースごっこなどでレースに対する【慣れ】を無意識に鍛えてきた他の娘たちとは違い、スペちゃんは1人で走る…【ただ走る能力】しか鍛える事ができなかった。
【ただ走る能力】が高い = 【レースでも強い】とはならない。これがレースの難しい所である。
持ち前の才能と、小さい頃からチートの補助で鍛えられたスペちゃんがどれだけ強かろうとも、それは【ただ走る能力】が高いというだけで【レースでも強い】とはならないからなぁ…
スペちゃんのクラスメイトである、セイウンスカイさんとキングヘイローさんがいい例では無いだろうか? 仮に、模擬レース場・芝2000m・1対1で戦った場合…俺はまずキングヘイローさんが勝つだろなと思う。キングヘイローさんの方が【ただ走る能力】は高いからだ。
だがこれがレースになるとどうなるか? そう、セイウンスカイさんの方が勝つのである。駆け引きの上手さや心の強さなど…挙げだしたらキリがない様々な能力の高さによる【レースでの強さ】が、セイウンスカイさんの方が優れているからである。
ダービーまでのスペちゃんは、これまで鍛えてきた【ただ走る能力】の圧倒的な高さで、【レースでの弱さ】を運良くねじ伏せて来たに過ぎない。だけどそんな事がいつまでも続けられる程、レースの世界は甘いモノではないだろう。
それを痛感するタイミングが…俺は今回の日本ダービーだと思っていた。周りからマークされる、自分のリズムで走れない、自分が標的にされるプレッシャーなど……スペちゃんが今まで味わった事の無い苦しさを、一気に受けざる得ないタイミングだったからである。
道中徹底マークされた焦りから、ラストの直線は早仕掛け気味になってしまい、ラスト脚が上がりそうになったところを、エルコンドルパサーさんに狙われ並ばれる……俺なんかが想像も出来ないほど、スペちゃんは苦しかったはずだ。
それでも俺は信じていた。そんな状況になっても、スペちゃんなら負ける訳が無いと。“限界”と呼ばれるモノを自分自身で「乗り越えるんだ!」と決断して、今までその通りに乗り越えてきたスペちゃんなら、今回も乗り越えてくれると。心の強さでは負ける訳がないと。俺は信じていた。
そしてその通りに…スペちゃんは乗り越えてくれた。今まで積み重ねてきたモノを、自分自身を信じる心の強さで、彼女は更なる成長を遂げて乗り越えてくれたのだ。ここ一番で、日本ダービーという最高の舞台で信頼に応えてくれた。こんなに嬉しい事はない。
今回の日本ダービーでの経験で、スペちゃんの【レースでの弱さ】という弱点はかなり無くなったと言っていいと思う。まだ本格化し切っていない為、まだまだ成長の余地もある…俺自身も更にスペちゃんの成長を促せられる様に頑張らなければいけないな。
そんな決意を改めて固め、自室の時計を眺めると…やっべ、そろそろ理事長室に呼ばれている時間だった…今年の上半期の総評など、色んな連絡事項があるはずだ。俺は軽く身の回りを整理してから、少し急ぎ足で理事長室へと向かった。
───
──
─
現在俺は理事長室にて、目の前に座る秋川理事長と、その隣に立つたづなさんに見つめられながら、用意して頂いていた椅子に腰掛けている。トレセン学園に来てから初めての総評…少し緊張するな…
「ご苦労ッ!! そう固くならず、寛いでくれたまえ!」
「トレーナーさん、わざわざお仕事の合間にご足労頂き、ありがとうございます」
「いえいえお構いなく。こちらこそ、お時間を作って頂いてありがとうございます」
「当然ッ!! 普段から頑張っている君になら、いくらでも時間を作ろう!」
「ありがとうございます。秋川理事長」
腕を組みながらそう言ってくれる秋川理事長。そこまで言ってもらえると、なんだかとても嬉しくなるな。
「ふふっ♪ それではトレーナーさん。先ずはトレーナーさんの上半期での勤務評価ですが……ご担当されているスペシャルウィークさんの実績・普段のトレーニング内容の正確性。どちらも満点の素晴らしいご評価です♪」
「うむッ、満点ッ!! 花丸ッ!!」
そう言ってたづなさんは優しく微笑み、秋川理事長は頭の上に両手で丸を作る。なんですか? その仕草は? とても可愛らしいですね。
「…ですが、勤務姿勢は少し減点です。通常の学園業務はもちろん、スペシャルウィークさんのトレーニング監修、送迎、学園内の機材の調整、学園内の備品の修正、学園建物のメンテナンス、事務の方のサポート、花壇のお世話の補助、担当が決まっていないウマ娘さんのサポート、怪我をしそうな娘のケアなどなど……トレーナーさん? 少し働き過ぎですよ?」
──(ギクッ!?)
「驚愕ッ!? そ、それほどの激務を!? き、君! 体調は大丈夫なのか!?」
「は、はい。体調は全然…この通り元気ですよ?」
「う、うむ…確かに顔色も良さそうで一安心だが…」
「そうですよ。だから何の問題もありませんよ? 何なら今から学園内を逆立ちで一周すら出来ます!」
「やめて下さいね?」
「…はい、ごめんなさい」
ニッコリと微笑みながら覇気を放つたづなさん…ほんとごめんなさい調子に乗りました。で、でもほら…俺ってチート持ちだから疲れないですし? なんか動いてないと落ち着かな──あ、やっべ…たづなさんの覇気が上がった…ごめんなさい、気をつけますから。
「…はあ、トレーナーさん? 確かにトレーナーさんがこれだけ働いて下さる。私たちにとってこれ程有難い事はありません。ですがそれでトレーナーさんが倒れたりしたら…私たちはもちろん、担当されておられるスペシャルウィークさんも必ず悲しみます」
「…はい」
「トレーナーさんのお力に甘えてしまった、私たちにも問題があります。トレーナーさん、この場を借りて本当に申し訳ございませんでした」
「ちょっ!? た、たづなさん!? か、顔を上げて下さい! 私が勝手にした事なんですから! 謝らないといけないのはこちらの方です!」
「謝罪ッ!! 君にそこまでの負担を強いてしまい…本当に申し訳なかった!!」
「あ、秋川理事長まで!? ちょっ!? 本当にやめて下さい! お二人とも! な、何でもしますから顔を上げて下さい!」
「「今何でもすると(言ったか!?)(仰いましたか?)」」
「……え?」
「そんなトレーナーさんに、今日は少しお願いしたい事がありまして」
…え? …あ、あの? お二人とも? ……あれ〜? …俺、もしかして嵌められた?
「…ふふっ♪ ごめんなさいトレーナーさん。先ほどトレーナーさんが逆立ちして学園内を一周する! なんてご冗談を仰るので、私たちも少し悪ふざけしてしまいました♪」
「愉快ッ!! 偶にはこういう事をしてみるのも良い体験だ!」
「本当にビックリしましたよ…息ぴったりですねお二人とも…」
意外とお茶目な所があるお二人に、俺は少し驚きつつもほっこりする。特にたづなさんは少しカチッとしている印象があったから、今回の件でいい意味で印象が変わったな。
「謝罪の気持ちと、トレーナーさんを心配している気持ちは本当ですから、改めて無理はなさらないで下さいね?」
「…はい。以後気を付けます」
「はい♪ …それで、お話しというのは──理事長。」
「提案ッ!! 我々は! ぜひ君にチームを作ってもらいたい! と考えている!!」
「…チーム…ですか?」
パンッ! と扇子を広げ、力強いお声でそう宣言する秋川理事長。…チームって…東条さんや沖野さんらが率いている様なチームの事だよな? …え? …俺まだトレーナーになって1年も経ってない新米なんですけど…
「突然のお願いで申し訳ありません。ですが、トレーナーさんとスペシャルウィークさんの実績を考慮すると、十二分にチームを持たれるだけの実績をお持ちだと判断させて頂きました」
「な、なるほど…?」
「この上半期で4戦4勝、勝率100%、GⅡ・1勝、GⅠ・2勝、うち1勝はあの【日本ダービー】、レコード勝ち1勝、そして無敗での二冠達成……これ程の上半期実績を挙げられた新人トレーナーさんは、トレーナーさんが初めてなんです」
「いや…それは全てスペちゃ──私の担当のスペシャルウィークさんが頑張った結果でありまして…私の実績と呼べるのかはちょっと…」
「ふふっ♪ トレーナーさん? 私たちは知ってますから、スペちゃんとお呼びして頂いて大丈夫ですよ?」
「…では失礼して、あくまでもスペちゃんの実績ですので…いきなりチームと言われましても…」
「ですがスペシャルウィークさんは、そうは思っていらっしゃらないみたいですよ? この間行われた【担当トレーナーさんに対するアンケート】では、スペシャルウィークさんが如何にトレーナーさんの事を信頼しているか…を、とても感じ取れる内容でしたから♪」
え? なにそのアンケート? そんなのやってたの? てかスペちゃん俺のことなんて言ったんだろうか? ……この感じだと…悪い事は言ってなかったと思っていいのだろうか?
「期待ッ!! それに君のトレーニングはとても芯が通っている! 他のトレーナーの皆にはない視点! その手腕を、是非他のウマ娘の子たちにも振るってもらいたいのだ!」
「しかし…私は担当している娘がスペちゃんしか居ませんが、それは? 確かチーム設立の目安は5人からでしたよね? 担当している娘が1人しか居ない私がチーム設立なんて…その、不満とか…」
「それに関しては、あくまでも目安ですので問題ありません。周りからのご不満は…確かにあるかもしれませんが、その場合は私が対処させて頂きますのでご安心ください」
そう言ってニッコリ微笑みたづなさん…相変わらずこの人の微笑みと覇気は凄い…怖い…不満ぶつけたら何されるんだろう…
「仮にチームを設立した場合、それに伴うお仕事が増えてはしまいますが、それに関しては私がサポートさせて頂きますので、ご安心ください」
「え? たづなさんが? それは有難いのですが…お忙しいのでは?」
「無理なお願いをしているのはこちらですので、お気になさらないで下さい。それに…しっかりと見ておかないと、トレーナーさんはまた無茶をしそうですので」
「は、ははは…嫌ですねーたづなさん…流石にしませんよ…」
「そのお言葉を信じるには…些か前科が過ぎますので!」
「…はい」
仮にチームを設立した場合、たづなさんがサポートしてくれるのであれば心強いな。手続きなどの作業も多くなるだろうし…
「ただ、私たちもいきなりお返事を…とは思っておりません。……そこでお一つご提案したい事があるのですが…トレーナーさんは、今年の夏合宿は行われるご予定でしょうか?」
「夏合宿ですか? はい。トレセン学園が所有されておられるプライベートビーチでの合宿を考えております」
「それでしたら丁度良かったです♪ 実は今回のチーム設立のお話しを、他のチームの方々にもお話しした所…チームリギルの東条さん・チームスピカの沖野さんらが、合宿での合同トレーニングも兼ねて、チーム運営のご教授を買って出て下さいました」
「お二人がですか? それは大変嬉しいお話しですが…リギルとスピカと私たちでの合同トレーニングって…大丈夫なんでしょうか?」
「多数チームでの合同トレーニング自体は何の問題もありませんし、どうやらお二人とも、トレーナーさんのトレーニング方法にご興味がある様で…ぜひ一緒にトレーニングしたいとの事でした」
実はお二人から夏合宿に参加する場合は、ウチのチームと合同でやらないか? とお誘いがあり、どちらのチームとしようか…と悩んでいたところだったので、これは非常に嬉しいお話しだ。両チームと一緒にトレーニング出来るなんて、俺としては願ったり叶ったりである。
スペちゃんがサイレンススズカさんと仲良しだから、スピカが若干優勢だったからな。仮にそうなって、東条さんにお断りのご挨拶をするのは…ちょっと怖かったし…まあ、そんな事で怒る人では無いと思うが。
「そのお話しは非常に嬉しいです。夏合宿の合同トレーニングの件は、ぜひお願いしたいと思います。お二人へのお返事は、私の方からさせて頂きますのでよろしくお願い致します」
「かしこまりました♪ ではこちらもその段取りで、手続きをさせて頂きますね。改めまして、本日はお時間を作って下さって本当にありがとうございました。夏合宿、頑張って下さいね♪」
「感謝ッ!! 時間を作ってもらってありがとうッ! チーム設立の件もいい返事を期待しているッ!」
「こちらこそ、お時間を作って下さって本当にありがとうございました。チーム設立の件も、しっかり考えさせて頂きます」
「…あ、すみませんトレーナーさん。こちらのお給料明細をお渡しするのを忘れておりました。上半期、お疲れ様でした。後でご確認の程をよろしくお願い致します」
「あ、すみません、ありがとうございます。かしこまりました。では改めまして、これで失礼致します」
最後にたづなさんから封筒を受け取り、俺は理事長室を後にした。さて、スペちゃんに色々と報告や相談をしないといけないな…お給料明細も渡さないといけないし……今日はトレーニングの前にお話ししないとな。
───
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チーム設立の打診など…色々あったが、いつの間にやら時間は既に放課後になり──
「お兄さん、お疲れ様です! 今日もよろしくお願いしますね!」
「スペちゃん、お疲れ様。こちらこそ今日もよろしくね」
今日も元気な声を響かせて、スペちゃんがトレーナールームへとやって来た。いつもならこのまま、スペちゃんが着替えている間に俺が外で今日の準備をしたりするのだが…今日は先ほどの事を相談しないといけない。
「スペちゃん、今日はちょっと相談したい事があってね。トレーニングはその後でもいいかな?」
「相談ですか? もちろん大丈夫ですよ! お兄さん、どうかされたんですか?」
そう言うとスペちゃんはソファへと腰掛け、話を聞く姿勢を作ってくれる。俺も対面へと座り、今日受けたチーム設立の話、夏合宿の話などをスペちゃんに相談していった。まず夏合宿の話については──
「わあ! 海でトレーニングなんてちょっとワクワクしますね! それに皆んなでトレーニング出来るなんて楽しそうです! 私、ぜひ行きたいです!」
と、かなり乗り気になってくれて一安心であった。これで夏合宿の合同トレーニングは確定だな。旅館の手続きや、大まかなトレーニングメニューの作成、リギル・スピカのメンバーの情報集め、食事は…俺が用意した方が良いかな…食材の調達も今からしておかないと。
夏合宿に向けた準備を考えつつも、次にチーム設立の件について相談したところ──
「…チームですか? …それって…チームを作ると、新しい娘が入ってくるって…こと…ですよね…?」
「え? うん。チームを作るとそうなるけど…あれ? スペちゃん…あんまり他の娘が居ると、集中出来なかったりする?」
「あっ! い、いえ! ぜ、全然そう言う心配はないんですけど…そのぉ…」
あれ? こっちはあんまり乗り気じゃなさそう? でもスペちゃん人見知りとかでは無かったはずだし…合同でのトレーニングも乗り気だったから問題ないかなって思っていたんだけど…スペちゃんが乗り気じゃないなら断った方が良いだろうか? 別にそこまでチームを持ちたい訳でもなかったし……そんな事を考えていると──
「ほ、他の娘が入った場合…その娘に付きっきりになって…お、お兄さんが…わ、私の事を見てくれなくなるのは…ちょ、ちょっと嫌かな〜?……なんて…」
「…へ?」
両手の人差し指を目の前でツンツンと合わせながら、少し恥ずかしそうに、最後は少し囁く様な声で、スペちゃんがそう言葉を発した。
「そんな事は絶対にしないよ? 俺はスペちゃんの夢を支えたい。って約束したあの日から、俺はスペちゃんと一緒に頑張りたいって決めてるから。たとえ100人担当しようとも、スペちゃんの事を蔑ろにする事は絶対にしない」
俺はあくまでもスペちゃんの夢を支えたい。という自分の我儘を押し通す為にトレーナーになった様なものである。たとえ何人担当が増えようが、そこだけは絶対に譲れない。
勿論そんな人数を担当する気はないが、仮に100人だろうが1000人だろうが、何人担当しようともスペちゃんは必ず支え続ける!この《チート》の名にかけて!
「──ほ、本当ですか? …えへへ〜、だ、だめだぁ〜嬉しくてニヤけちゃうな〜……はっ! …こ、コホン……そ、それなら全然私は大丈夫ですよ? …誰かと一緒に頑張るって…とても素敵な事なので」
改めて自分の我儘を押し通すという、俺の断言に驚きつつも…今度は嬉しそうに笑ってくれ、スペちゃんはチーム設立にも乗り気になってくれた。
良かった…たとえスペちゃんに嫌がれても、俺の我儘は貫き通す気持ちはあったのだが、流石に嫌がられたら凹むからな…そうならないで良かった…
そんなこんなで無事に両方の相談を終える。取り敢えずは両方ともに良いご報告ができそうでホッとした。
さて、最後にたづなさんから貰ったこの封筒を確認して、今日のトレーニングへと向かおう。…確か給料明細? って言ってたよな?
そしてスペちゃん用の封筒を本人に渡し、俺たち二人はその明細の中身を確認して──ピシリッ! と二人揃って固まってしまった……そこに書かれていた内容は──
あ、あれ〜〜? み、見間違いかな〜? 『上半期トゥインクル・シリーズ レース賞金・差引支給額』
……スペちゃんは約1億5000万円・俺は約5000万円ぐらいお振込みがあるんだけど…差引されてこの額って…どういう事だろう? ボク未成年だから分からないなぁ〜〜…
って、現実逃避してる場合じゃねぇ!! 俺のバカッ! 何でこんな大事な事を忘れてたんだ! そうだよ、賞金だよ! 上半期と下半期で分けられて、それぞれの期間のレース成績に応じて振込みがある。って最初に教わったじゃねぇか!!
ウマ娘本人に6割・学園に2割・トレーナーに2割(チームを持っている場合は、チームにボーナス支給が有り)の割合で支給される。
わあ! 流石チート記憶力! 必要な情報を直ぐに思い出せて最高だね! …じゃねぇよ!! 今まで忘れてたんだから! 宝の持ち腐れだよ! ほんっと俺のバカヤロウ!!
どうしよう…と少し放心してきた俺と同じ様に…いや、俺以上に放心していたスペちゃんは、ようやく少し現実を受け入れられたのか、ギギギッ…と俺の方に顔を向ける。
「お、お兄さん…こ、これは? …み、見間違いでしょうか? …な、なんかものすごく0の数がある気がするんですけど……ど、どどどどうしましょう!?」
「ス、スペちゃん落ち着こう。俺もちょっとビックリしてるけど…てか、ごめんなさい…俺がすっかり賞金の説明をするのを忘れてた…」
慌てるスペちゃんを宥めつつ、思考を巡らせる。先ず思い浮かぶのはお世話になった人…両親への仕送りだが……我が両親もスペちゃんのお母ちゃんも、絶対に受け取らないだろうな…
『貴方たちが頑張った上のお金なんだから、貴方たちで使いなさい』と、3人から怒られる未来が見える。むしろ今、3人共に仕事がノリに乗って大忙しみたいなので…かえって迷惑になる可能性が高い。
となると貯金か? …だが今回賞金の件について、逆にある意味ずっと忘れていた要因なのだが、俺はチートを授かっているため…ぶっちゃけ生活はどうとでもなってしまう。スペちゃんを路頭に迷わせる事など絶対にさせないし…そんな中で貯金してもな…という気持ちがある。
寄付とかも無難だが…どこに寄付するにしても、事前にある程度調べてから寄付はするべきだろうから…今すぐは無理だしな。
ここはやっぱりお互いに、自分の為に使う事が良いかな? と言う結論になったのだが…俺も、そしてスペちゃんも、「欲しいものとか特に無いんだけど…」となってしまっている。
ま、まあ…お金はあって困るものではないからね。ゆっくりと時間をかけて、使い道を考えていこう。そう現実逃避気味に俺たちは結論付けた。
取り敢えず俺は、「スペちゃんは美味しい物を食べる事に使ってみたら?」と言った俺に対して、「でも…お兄さんとお母ちゃんの作ってくれる料理が1番美味しいので…」と言ってくれたスペちゃんの為に、
炊飯器・調理機材・調味料・夏合宿の為の食材など……更にスペちゃんに美味しい物を食べてもらう為の準備を整える為に、ひとまず今回の賞金を使って行こうと決断した。
少し一悶着もあったが、こうして俺たちはチームリギル・スピカとの合同練習が行われる…夏合宿の当日を迎えたのだった。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
今回は説明回の様になってしまい、あまりお話しが進みませんでしたが…次はチームリギル・スピカの面々との、合同による夏合宿のお話しになります。
次も少しでも読みやすくなる様に、頑張って書いていこうと思います。