申し訳ございません。このお話の下書きを消し飛ばしてしまったバカ野郎が居ます……私です。書き直す事自体は楽しかったので良かったんですが、次から気を付けます…
この拙作でのトレーニング方法などは、全て筆者の空想が入っておりますのでご了承ください。
連日厳しい暑さが続き、まさに夏真っ盛りな現在…トレセン学園内では、それぞれのプランで夏合宿に励む方々で溢れかえるこの季節……夏休み? 何それ美味しいんですか? 状態である。
そんな皆様の例に埋もれず、俺とスペちゃんも現在、トレセン学園が保有しておられるプライベートビーチ付きの合宿所へと車を走らせている最中だ。
夏合宿でご一緒させて頂く、チームリギルの東条さんからは「良ければウチのチームの送迎バスで一緒に行かないか?」と、嬉しいお誘いを頂いたのだが……こちらの荷物が多くなりそうで、流石に申し訳なかったのでお断りさせて頂いた。
現地でのトレーニングに使うための道具や、着替えなどの荷物はもちろん、何と言っても食材……現地でも美味しいモノを食べて欲しい!という俺の我儘を取り入れた結果……結構な荷物になってしまったからな…
同じく夏合宿でご一緒させて頂く、チームスピカの沖野さんは自らが運転手を務め、チームの皆んなを送迎されるみたいだったので、俺もそのお姿を見習わねば! とも思ったし。まあ東条さんの所は人数が多いからそっちが例外なのかもしれないけど。
送迎用の車に関しては、太っ腹なトレセン学園が送迎用の車を貸し出してくれているので、その太っ腹具合に甘えさせて頂いた。
車の事は全く分からないのだが…なんか足をかざしたらスライドドアが開く…ハンズフリーデュアルパワースライドドア。なる機能が搭載されている車をお借りした。いや名前カッコ良過ぎない? チートで再現出来るから、今度トレーナールームに付けてみようかな? …流石に怒られそうだな…よしやめよう。
そんな車で向かう道中は、助手席に座るスペちゃんと会話を楽しみながらだったので、気持ちあっという間に目的地付近まで来たその時──目の前に、あたり一面に広がる青い海…まさに絶景とも言える景色が広がった。
「おお〜!」
「うわぁ〜〜〜!! お兄さん、見てください! 海ですよ、海! うっはぁ〜〜〜!! こっちの海も綺麗だな〜!」
運転しながら見るのは危ないと思い、通行の邪魔にならない道の脇に車を停める。車から降り、改めて見る絶景に俺もスペちゃんも大はしゃぎである。
「…本当に綺麗ですね〜、お兄さん。こんな素敵な場所で皆んなとトレーニング出来るなんて…私、今からワクワクしてきました!」
確かにこれはワクワクするな…これほど綺麗な場所なら、砂浜でのトレーニングはもちろん、泳いだり…おっ! あっちに見える島…あそこもトレセン学園が保有している島だったはずだ。トライアスロンとかも出来るらしいから、本当に色んなトレーニングが可能だな…
リギルやスピカの皆さまと、これからこの場所でトレーニングできる事にワクワクしつつ、俺たちはしばらく2人で並びながら目の前に広がる絶景を眺めていた。
───
──
─
さてさて、道中を楽しみながら無事に宿泊する旅館に着いた俺たち。宿泊先に選んだこの旅館は、1組限定のプライベートリゾート、天然温泉の露天風呂付き、調理場付き、バルコニーでBBQも可能。という高級平屋造りな一軒家旅館である。
俺の我儘である【調理場付き】という条件を前提の元、宿泊先をスペちゃんにも選んでもらった際、第一候補として挙げてくれたのがここの旅館だったのだ。
因みに俺は第三候補だった。何故か? その理由は簡単、部屋が一つしか無いからである……設備の充実度は最高で、値段も問題なかったため、俺も最初は第一候補だったのだが……一部屋しか無い。というのは流石にマズイと思っていた。
その事をスペちゃんに伝えてみるも、「私、お兄さんとなら全然気になりませんよ?」・「北海道に居た頃はよく一緒に寝てましたし!」・「むしろ久々にお兄さんと、寝るまで一緒にお話しとかしたいです!」と、迷いのかけらも無い笑顔で言い切ったスペちゃん。
…俺は一体なにを試されているんだろうか? 男という生き物を少し舐め過ぎだよスペちゃん?
今度は男という生き物の怖さを伝えつつ、スペちゃんの男に対する認識を少し改めてもらい、何とか他の旅館に誘導しようと熱い説得を続けていた俺だったのだが…
「…お兄さんは…私と一緒のお部屋にお泊まりすることが…そ、そんなにご迷惑でしたか? ……い、嫌…でしたか?」
次第に表情も耳もシュン…と落ち込んでしまったスペちゃんには勝てず……俺は「そんな事は無いよ!」と、最終的に折れて説得は諦めた……
あんな顔をされて、嫌だって言える人は居るのだろうか? いや居ないと思う。
ま、まあスペちゃんの言う通り、北海道に居た頃は何度も一緒に寝ているからな…共に10歳にもなってなかった頃だけど…
もちろん何もする気はないため、俺の理性さえしっかりとしていれば問題ないだろう。今こそあらゆる悟りの境地を開ける、我がチートの真髄を見せる時! 世間体とかは…うん、そっちも何とかなるさ。
改めて理性を固めつつ、旅館の関係者の方々へ挨拶を行い、テキパキと荷物を旅館へと運んでいく。冷蔵・冷凍が必要な食材も預け終わり、部屋や設備の確認も終えた俺たちは少し休憩してからビーチの方へと向かった。リギルとスピカの皆さまも、そろそろ着いてる頃だろうか?
───
──
─
チームリギルが御用達とされる、この辺りの宿泊施設では一番大きなホテルの正面広間。俺たちがそこに着いたあたりで──
「おーしお前ら! 荷物は置いてきたな。んじゃ、今日から一緒に練習するリギルの奴らと、もう一組が来るまで──おっ! 噂をすりゃ、丁度その一組が来たみたいだな」
「──あ、スペちゃん」
「──あ! スズカさん!」
スペちゃんが嬉しそうに駆け寄って行った先に、沖野さんやサイレンススズカさんをはじめとした、チームスピカの皆さまが丁度集まっていたところだった。
スペちゃんと嬉しそうに手を取り合うサイレンススズカさんに、何故かルービックキューブと格闘しているゴールドシップさん、やや興奮気味にスペちゃんに挨拶をしているウオッカさんに、今日は眼帯を付けておらず、ウオッカさんを宥めているダイワスカーレットさん。
……ん? それともうお二人……あれ? あのお二人って…
「わあ〜! カイチョー達ともう一組って、スペちゃんトコの事だったんだ! スペちゃんのトレーナーとは初めましてだよね! ボクは“トウカイテイオー”って言うんだ! これからよろしくねっ!」
「お初にお目にかかります、わたくしは“メジロマックイーン”と申します。無敗の二冠ウマ娘であられるスペシャルウィークさんと、そのトレーナーさんとご一緒出来るなんて光栄ですわ。これからよろしくお願い致します」
やっぱり、「中等部にとてつもない才能を持つ二人が居る」と話題になっているお二人…“トウカイテイオーさん”に“メジロマックイーンさん”か。
「こちらこそ、初めまして。スペちゃんのトレーナーを務めています。凄い才能を持っているって話題のお二人と、こうして一緒にトレーニング出来るなんて、こちらこそ光栄です」
「って!? スペちゃんのトレーナー丁寧過ぎるよ!? ボクたち歳下なんだから、もっと肩の力抜いてよ〜!」
「そうですわ。敬意を払わなければいけないのはこちらの方です。どうか口調なども崩して頂けると嬉しいですわ」
「…そうかい? じゃあお言葉に甘えるよ。二人はどうしてこの合宿に? …もしかして、チームスピカに入ったのかい?」
「わたくしもテイオーもスピカに入ってはおりませんわ。今回は突然テイオーに連れて来られたんですのよ? まあ、リギルの方々やスペシャルウィークさんの走りを間近で見られるのでしたら、来て良かったと思いますけど」
「仕方ないじゃん! ボクはカイチョーと一緒にトレーニング出来る! って思って、スピカのトレーナーに同行をお願いしに行ったらさぁ? ゴールドシップが『マックイーンも連れて来なきゃパイルドライバーだ』って言うんだもん…」
何その独特な脅し…何故パイルドライバー? 相手の脳天を地面に叩き付けるエグい技でしょ? ゴールドシップさん、プロレス好きなんだろうか?
「いやぁ〜! 今回は本当デカしたぞテイオー! これでマックイーンとは勿論、スペとそのトレーナーとも一緒に合宿なんて最高じゃねーか! オッスオッス! アンタとこうして話すのは初めてだよな? これからよろしくな。ゴルシ星からやって来た…“ゴールドシップ様”とはアタシの事よ! 敬語とか不要だぜ? アタシのことは気軽に、《バックテン内田》って呼んでくれ」
「誰よ? バックテン内田って…適当な事言って困らせてるんじゃないわよ。…初めまして、ゴールドシップがごめんなさい。アタシは“ダイワスカーレット”って言います! スペ先輩の走りにはいつも勉強させて頂いているんです。これからよろしくお願いします!」
「ちょっ!? 俺抜きで挨拶するなよ! …初めましてッスね! 俺の名前は“ウオッカ”って言います! スペ先輩のトレーナーですよね!? スペ先輩の走りってほんとカッケー! って感じで俺の憧れなんです! 今回は色々と勉強させて貰います! よろしくお願いします!」
「お前ら気合い入んのは良いけどちょっと落ち着け……よお、今日はよろしくな! ゴルシも言ってるけど、俺たちもお前さんらから色々盗ませて貰うつもりだからよ! 俺らに遠慮は要らねーぜ? おハナさ──リギルの奴らもさっき到着してたから、もうすぐ来るはずだ」
「初めまして。スペちゃんと同室の“サイレンススズカ”と言います。…ふふっ、スペちゃんから貴方のお話しはよく聞かせて貰うんですよ? 『今日もお兄さんは優しかった』・『今日もお兄さんはカッコよか──」
「わああぁ〜〜!? す、スズカさん!? す、ストップ! ストップです! は、恥ずかしいですからぁ〜!!」
「──あら…ふふっ、ごめんなさいスペちゃん。スペちゃんのトレーナーさんも、今のは聞かなかった事にしてあげて下さいね?」
パイルドライバーの謎。という沼に嵌っていると…沖野さんはじめ、チームスピカの皆さんも挨拶しに来てくれた。
……スペちゃんが俺の事をどう言っていたのか? は気になるが…そこを聞くのは野暮だよな。俺は取り敢えずスピカの皆さんに挨拶を返していく。お言葉に甘えて、口調も崩して挨拶を行なった。
ゴールドシップさんにちょっかいを掛けられているマックイーンさんと、スペちゃんと盛り上がるスズカさんを横目に見ながら、テイオーさん、スカーレットさん、ウオッカさん、あと沖野さんからも…様々な質問がとんでくる。
主にスペちゃんの走りの秘密…が質問される事が多かったが、俺は別に隠す必要は無いと思っているので、それについての俺の考えなどを伝えたり、一緒に考えて貰ったり、逆に俺が質問したりと、非常に楽しい待ち時間だった。
ただ……テイオーさんとスズカさん…マックイーンさんもだな……これはトレーニングが始まったら先に、3人には少し伝えなくてはいけない事が出来た。
そんな事を考えていると──
「あっ! カイチョーだ! やっほ〜カイチョー!」
テイオーさんが嬉しそうな声をあげ、大きく手を振る方を見てみると…東条さん率いる学園最強のチーム…チームリギルの皆さまが、ちょうどこちらに歩いて来る。
「ごめんなさい。待たせてしまったみたいで…改めて、貴方とスペシャルウィーク…それとチームスピカも、今日からよろしくお願いするわ」
「東条さんもリギルの皆さまもお疲れ様です。早く来過ぎてしまっただけなので、気になさらないで下さい。こちらこそ、今日からよろしくお願いします!」
「折角の機会だから、そう畏まらないで。私達も今回の合宿は…沢山盗ませて貰うつもりよ。だから少なくともお互いに、遠慮なんてしていたら勿体ないもの」
「さっすがおハナさん! ちょうど俺らも、コイツにそう言ってたとこなんだよ。…な? おハナさんもこう言ってんだし、後輩が遠慮なんてすんじゃねーよ」
「──ははっ、すみません。じゃあこの機会を使って…遠慮も無くしていこうと思います」
「ええ」 「おう!」
改めて…俺は本当に素敵な先輩に恵まれた様だ。スペちゃんにとっても、学園トップである2チームと一緒なんて最高の刺激になるはずだし、ここはお互いに遠慮なく切磋琢磨させてもらおう。
そうお二人との出会いに感謝をしていると…トレセン学園生徒会長、その圧倒的な強さと洗練された走り、そして威風堂々たる姿から──【皇帝】の異名を持つ、“シンボリルドルフさん”がテイオーさんとの挨拶を終えこちらにも挨拶に来てくれた。
「お話のところを失礼する。トレーナー君、こうして顔を合わせて話すのは初めてだな。改めて、トレセン学園で生徒会長を務めている“シンボリルドルフ”だ。君とスペシャルウィークの勇猛精進な姿に、私はいつも力を貰っているよ。今回、一緒にトレーニングが出来て本当に光栄だ。これを機会に、これからも今まで以上に切磋琢磨できたら嬉しく思う」
「こちらこそ、シンボリルドルフさんと…チームリギルの皆さまとトレーニングが出来る事を光栄に思います。改めて、スペちゃんのトレーナーを務めています。これからもよろしくお願いします──って、東条さんから畏まらないで。と言われたばかりだったな……口調を崩して、ルドルフさんとお呼びしても?」
「ああ、もちろん大丈夫だ。私をはじめチームの皆も、その方が喜ぶだろうから畏まらないでやってくれ」
柔らかく、それでいて全てを受け止めてくれそうな力強さも感じる笑みを浮かべながら、ルドルフさんはそう言ってくれる。流石トレセン学園を、学園のウマ娘の皆んなを纏める生徒会長だな…と感動すら覚える。
そんなルドルフさんを筆頭に、他のチームリギルの皆さんとも挨拶を交わしていく。ルドルフさんはもちろん、スペちゃんと同期のエルさんやグラスさんをはじめ…マルゼンさん、エアグルーヴさん、ブライアンさん、フジキセキさん、タイキさん、ヒシアマ姐さん、オペラオーさん…
皆さんが、流石チームリギルだな。と惚れ惚れする様な身体のバランスと立ち振る舞いだな。もちろんスピカの皆さんにも惚れ惚れしていたが、かつてはそのスピカに居るスズカさんも居たとなると…改めて東条さんの凄さを確認するな…
ただこちらも……怪我をしていた影響なのだろうが、グラスちゃんが少し……トレーニング前に伝えておいたほうが良いかな。
そんな感じで暫し、スペちゃん・俺、チームリギル、チームスピカでの交友を楽しんでいた俺たち。スペちゃんも人見知りするタイプではないので、既にリギルの皆さんとも打ち解けている様だ。
そしてお互いの挨拶・交友も落ち着き、いざ夏合宿・合同トレーニングが開始される──
♢♢♢
今日はまだ海に入ってのトレーニングは行わないため、トレセンジャージを身に付けたまま、俺たちはいざトレーニング…の前に、まずは俺から全員に向けて【俺のトレーニング概念】を伝える事から始まった。
東条さん・沖野さん・ウマ娘の皆さん全員が、俺のトレーニング概念・方法などに興味を持ってくれているらしく、今回の合宿でのトレーニングメニューは、俺が主軸となって作成させて貰っている。
そのため、何のために? どう言った効果があるトレーニングなのか? などを知って貰うために、かつてスペちゃんに伝えた様に…俺は皆さんにその概念を伝える事が大切だと思ったのだ。
「これから皆さんには、俺が作成させて頂いたトレーニングをやって頂こうと思うのですが…先ずはその前に、俺がトレーニングをする上でとても大切だ。と考えている2つの概念を先にお伝えしたいと思います」
「「「「「はい!」」」」」
「1つ目は【脳を使って身体を動かす】という能力を鍛えるという事。2つ目は【筋肉を連動させる能力】を極めるという事です。…どういう事かと言いますと……先ずは1つ目ですね」
俺はそう言って、用意していた【ゴルフボール5つ】を【電動内蔵ポンプ付き極大エアーマットレス(自作)】に適当に並べる。そして俺は並べたゴルフボールが見えない様に前を向く。
「はい。この並べたゴルフボール5つを、こうやって見ないまま──」
「「「「「──ッ!?」」」」」
「──皆さんは素早く取れるでしょうか?」
そう言いつつ俺は左手・右手で同時に、一切もたつく事なくゴルフボールを全て手に収めていく。結構素早くやったため、スペちゃん以外の皆さんは少し驚いてくれたみたいだ。
「これは1つ目の【脳を使って身体を動かす能力】…もっと言うと、自分の眼に見えていない【自分の身体のパーツを思うがままに操れる能力】とも言えます……今のこれを、やってみたいって方いらっしゃいますか?」
「はい! アタシやってみたいデェェス!」
「おっ! じゃあエルさん。こっちへ来てやってみようか」
一番早く手を挙げてくれたエルさんに、俺と同じチャレンジをして貰う。そして結果は──両サイド2個目まではスムーズに取れたものの、最後の1つで少しもたついてしまった。
「アウ…スペちゃんのトレーナーさんみたいには出来ませんデシタ…」
「ありがとう! エルさんはかなり身体を操れる能力は高いよ。自信を持って! ……さて皆さん、エルさんはかなり上手でしたけど、最後は少しもたついてしまいましたね?」
全員が頷いてくれる。
「これは、エルさんが【頭でイメージしている動き】と【実際の動き】が少しズレている…という事になるんですね。これがズレているというのは結構問題なんです。これほど小さい動きでズレる…という事は、実際のレースを走る際は…もっとズレてしまうという事になります」
「「「「「……」」」」」
「しかもこのズレを修正できないままトレーニングを続けてしまうと、何処かでこのズレが大きくなるんですね。そうなると…怪我をしてしまったり、スランプになってしまったりします。自分はこうしたい! と思っている……けど実際の動きはズレてしまっている……それは怪我もしちゃうよね? って話なんです。だから、先ずはこの感覚のズレを治す。という事を皆さんにやって貰いたいと思っています」
「「「「「はい!」」」」」
「ズレを治すって結構簡単な事で、動かしたい自分の身体のパーツの【真上】・【真下】・【真横】・【真っ直ぐ】・【真後ろ】の感覚を覚えれば、後はそこを基準にドンドン操れる角度などを増やしていきましょう。皆さんなら直ぐにコツを掴めると思います」
「「「「「はい!」」」」」
「腕の感覚はこのゴルフボールで。足の感覚は、沖野さんが持ってきてくれた【ツイスターゲームシート】と、この【目隠し】を使って鍛えましょう」
俺は再び実践しているところを見て貰う為シートを広げ、ちょうど真ん中あたりに立ち目隠しを行う。
「はい、今目隠ししている状態ですね。この状態で──左足は赤→青→黄色→緑。右足は緑→黄色→青→赤。の順番で、マスからはみ出ない様に踏んでいきましょう」
「「「「「おお〜!」」」」」
説明しながら、俺は素早く順番にマスを踏んでいく。周りの反応を聞くに寸分の狂いも無さそうだ。こうして俺は1つ目の概念【脳を使って身体を動かす能力】を鍛える重要性・方法を伝え、次に2つ目の説明に入った。
「次に2つ目の【筋肉を連動させる能力】を極める。という事なんですけど……突然なんですが皆さん、立った状態で右手を目の前の高さに突き出して貰っていいでしょうか?」
皆さんがスッと右手を目の高さに突き出してくれる。
「ありがとうございます。では皆さん、その右手を【上に挙げてください】」
俺がそう言うと、グイッと皆さんが【右手】を上に持っていった。
「ありがとうございます、下ろして頂いて大丈夫です。……そうですよね? …でもこれ、もう一つ【右手を上に挙げる方法】があります……それは右手を突き出したまま、膝を曲げてしゃがむ。という方法です」
「…なるほど…その方法もまた、【右手を上げる】のと同じ。という事ですわね…」
「そうです。この動作からも筋肉って【連動している】という事が分かるんですよね。【脚を速く動かす】・【腕をもっと強く振る】こういう事を鍛えたい! ってなった時に、皆さん鍛えたいパーツしか見えなくなってしまう事があります」
「「「「「……」」」」」
「脚だけ・腕だけ…ではなくて、他の筋肉も使って“結果的に”脚が速く動きました。“結果的に”腕を強く振れました。この考えを持っておくと、皆さんの可能性が更に高まると思いますので、是非覚えてもらえたら嬉しいです」
「「「「「──はいっ!」」」」」
「そして、この筋肉の連動のトレーニングはですね──」
そう言って俺は、見た目は厚手のトレーニングウェア上下…しかし実態は【全身低周波装置が付いており、冷水タンクと極細チューブで夏場に着ても涼しく快適】な、モバイルバッテリー内蔵のオリジナルウェア(自作)を着用する。因みに人数分作ってきた。
それと先ほども使った【目隠し】と、【電動内蔵ポンプ付き極大エアーマットレス(自作)】を用意する。
「このオリジナルウェアを装着して行います。URAから安全認定を頂いている物なので安心して下さい。これは全身に低周波を与える事が出来、全身の筋肉を【実際にレースで走っている時と同じぐらい緊張】させる事ができます」
「……まさかこれも貴方が作ったの? …ソファといい、今回のトレーニング機器といい……器用というレベルを超えてるわよ…」
「ま、まあ…物作りが好きなだけですよ? 本当に……は、話しを戻しまして…これを着て筋肉を緊張させた状態をつくり、マットレスの前に立って“スタートする前”の体勢をつくります」
コクッコクッと一斉に頷く皆さん。
「この状態で目隠しをして……沖野さん、好きなタイミングで手を叩いてもらって良いですか?」
「え? お、おう……………よっ!」パンッ
「──フッ!!」
「「「「「──ッ!?」」」」」
俺が何をしたのか? というと、沖野さんが手を叩いた瞬間に【ぴったりマットレスに脚が乗るように】脚を上げ、膝丈ほどのマットレスに脚を乗せたのだ。筋肉は全身緊張し、目隠しをしている状態でも……脚を下げ過ぎず、上げ過ぎず、ぴったりとマットレスに脚を乗せた。
「ありがとうございます。これは【筋肉を連動させる能力】…もっと言うとレース中での【力の出力のさせ方】をコントロールできる能力を鍛えられます」
「「「「「……」」」」」
「0〜100まで自分の力があったとしたら、80が最適な時は80を。100が最適時は100を。62が最適な時は62の力を自在に出せるように出来れば、道中の消耗・ラスト直線のノビなどが格段に進化します。これはそういった能力を鍛えるトレーニングになります」
「…では、説明が長くなり申し訳ございません。早速になりますが…今のトレーニングを皆さんでやっていきましょう! 分からない事などがありましたら、遠慮なく聞いて下さいね」
「「「「「──はいっ!」」」」」
「それと…テイオーさん、スズカさん、マックイーンさん、グラスさんは、少し伝えたい事があるので…この後俺の所に来て下さい」
「「「「…? はいっ!」」」」
「スペちゃんは負荷を上げて、服の上から腰に重りを付けてメニューをこなそう!いつも通り、困った事があったら聞きに来てね」
「分かりました!」
そう号令をかけ、皆さんがトレーニングに入っていく中…俺は呼び出しを行った4人の娘たちの身体のバランスで…気に掛かった事を伝える。
「ごめんね呼び出して。伝えたい事って言うのは、4人の身体のバランスについて……4人とも、“左脚に負荷が掛かる”バランスをしているって感じたから、それを改善したいと思ってね」
「左脚に負荷が掛かる? ボクたちが? けど、走ってる時とかも違和感はないよ?」
「私も左脚に違和感はありませんよ?」
「わたくしもですわ。メジロ家では主治医もいるのですが、その主治医も特に何も言っておりませんでしたし…」
「……私は右脚を怪我しておりましたから…その影響で左脚に負荷が掛かっているのかもしれません……ずっと右脚を庇う生活をしていましたから」
「グラスさんはその怪我が原因なのは間違いないね。他の3人はちょっと特殊で……さっきも言った身体の微妙なズレが原因だから気付き難いんだ。今は違和感は無いだろうけど…放っておくと大怪我を招く恐れがあるだろうから、早急に治した方が良い」
「け、怪我……それは嫌だなぁ…ど、どうすれば良いの?」
テイオーさんが少したじろぎ、他の3人も「それは困る…」といった感じで、助けを求めるように俺を見る。俺も怪我で泣く娘なんて見たくないからな…ここは全力でサポートするべきだろう。
「大丈夫。先ずは2つ目の【筋肉の連動】のトレーニングをやってみて欲しい。4人共が右脚の時は上手くいくけど、左脚の時は成功率が下がるはずだ。そこで俺が現状の細かいバランスを確認して、低周波の強さを【身体のバランス調整】を手助けする為に変更するから、後はそれを使って同じトレーニングをして欲しい」
「そ、それだけですか? …それで本当にバランスが治るんですの?」
「ああ。この合宿が終わる頃には、4人ともバランスは戻る──いや戻してみせるよ。だから…この合宿での時間を、俺に預けてくれないかな?」
「……ふふっ、なるほど…スペちゃんがトレーナーさんを心から信頼している理由が、少し分かった気がします」
「あら、スズカさんもですか? 実は私もです♪」
……なんか恥ずかしい事を言われている気がするが…今はそれどころでは無い。俺は真っ直ぐに4人の瞳を見つめ、4人が怪我で泣く未来は絶対に防ぎたいという気持ちを伝えた。
有難い事に、4人共がこの合宿中は俺に時間を預けてくれる。と約束してくれ、俺は早速4人のバランス改善に踏み切った。メニューもしっかりこなしてくれるし、4人のバランスはこの合宿期間で必ず治せる。
スペちゃんのライバルを強くしてしまうかもしれないが……そんな理由で怪我をしそうな娘たちを見捨てました。なんて…スペちゃんが、俺自身が許せる事では無いからな……それに、スペちゃんならどんなに強いライバルが相手でも負けない。って信じてるし。
強くなったライバル達を問題にしないぐらい、スペちゃんが強くなれるよう、俺も更にサポートに磨きをかけねば!
そう自分を奮い立たせた俺は、スペちゃんからの質問・皆さんからの質問・東条さん、沖野さんからの質問に一つ一つ答えていき…トレーニングを終えていった。
流石は学園2大チームの皆さんであり、全員がかなりのスピードでコツを掴んでいっており、合宿終了時にはどれ程の進化を遂げるのか…今から楽しみになったぐらいであった。
───
──
─
トレーニングも終わり…夕食の時間。俺は合宿中であろうと──いや合宿中だからこそ、スペちゃんの食事を疎かに出来ない!美味しい物を食べて貰いたい!と思っていた為、自分で食事を用意する。という選択を取っていた。
スペちゃんの食事はいつも作っているぐらいだし、料理自体も好きなので何の問題も無かった。どんな料理も美味しそうに食べてくれるスペちゃん天使だし…
今日のメニューは、バルコニーでBBQが出来るとの事なので…シンプルに山盛りの【赤エビ】・【帆立】・【牡蠣】・【サザエ】・【カニ】を、大きな缶箱に入れて蒸し焼きにする…ガンガン焼きである。
ただ蒸し焼きにするだけでは勿体ないかな…と思い、料理酒と自作の白だしをふんだんに注ぎ、貝のエキスや甲殻類の出汁と調和するように蒸し焼きにしていく。
更に食べ終わった後に、この出汁をパスタに絡めれば……締めの和風出汁パスタに早変わりする、一石二鳥な料理である。
我が家で取れる高級ブランドニンジン【GⅠニンジン】の上をゆく幻のニンジン【三冠ニンジン】を、父さんと母さんから送ってもらっていた俺は、その幻のニンジンもふんだんに網にのせていく。
これにはスペちゃんも、周りのリギル・スピカ・他の皆さんも大はしゃぎである……そう、俺が料理をする事をスペちゃんがうっかり話してしまい…その結果、皆さんがやって来て大賑わいになってしまったのだ……まあ楽しいから良いんだけどさ…
そんな感じでひたすら料理に集中していた俺の知らぬ所で──
「…アタシ、今日はじめてスペちゃんがちょっとズルいかも…って思いマシタ…」
「…私も正直思いましたね〜」
「ええ!? エルちゃん…グラスちゃんまで!? ど、どうしたの?」
「トレーニングは最高! 料理も最高! そして優しい! こんな凄い人と小さい頃からずっと一緒なんて……スペちゃん羨ましいデェェスッ!」
「日本ダービーは最も幸運に恵まれたウマ娘が勝つ。レース中の運ではなく、スペちゃんはお兄さんと出逢えた時点で、最も幸運に恵まれていたんですね〜」
「そ、それは〜…確かにそうかも…? えへへ〜お兄さん…昔から凄くてカッコいいから…」
「…う〜〜! …やっぱり羨ましいデスね」
「あらあら〜♪」
同期同士でそんな会話があったとか無かったとかで、俺はタイキさんから少し茶化された。
♢♢♢
合同トレーニングも順調に進み、周りの娘達と一緒にトレーニング出来る環境や、併走トレーニングなどで、スペちゃんはこの合宿で一回りも二回りも強くなった…と感じる程に手応えを感じている。
もちろんリギル・スピカ・テイオーさん・マックイーンさんらも、俺のメニューを文句も言わずにこなしてくれ、しっかりと成果も掴み取ってくれたので、俺としては万々歳な結果となった。
怪我の恐れがあった4人のバランスも、この合宿期間ですっかり改善されている。これで4人とも、少なくとも怪我で泣くという事は無くなったはずだ。
それに東条さんと沖野さんから、チーム運営のノウハウをしっかり教えてもらう事が出来たことも、感謝してもし足りないほとである。…模擬レースはともかく、募集のポスターぐらいは作らないとな…
そんなこんなであっという間に合宿期間は終了し、お世話になった皆さんや旅館の関係者の方々への挨拶も終え、俺とスペちゃんは現在、車を走らせ帰宅中である。
「お兄さん、今回は合宿に連れて来てくれて本当にありがとうございました! 私、成長も感じる事が出来ましたし、何よりすっごく楽しかったです! 本当にありがとうございます!」
そう満面の笑みでお礼を言ってくれるスペちゃんに、「俺の方こそ今回来れて良かったよ。本当にありがとう」と感謝の言葉を告げる。
…来年もまた一緒に来よう。俺たちはお互いにそう約束して、今回の合宿での思い出話に花を咲かせていった。
───
──
─
「謝罪ッ!! 合宿明けで疲れているのに、わざわざ足を運んでもらって申し訳ないッ!」
「トレーナーさん、お疲れのところ来て頂いて…本当に申し訳ありません」
「いえいえ! とんでもありません。こちらこそお時間を作って頂いてありがとうございます」
俺は合宿から帰った翌日の夕方、理事長室へと足を運んでいた。そう、チーム設立のお話のご報告をする為である。
「先ずは今回の合宿、本当にお疲れ様でした。勉強会も兼ねているのに、トレーニングも的確でとても勉強になった。と、東条さんと沖野さんも、報告の際は大変喜んでおられましたよ♪」
「勉強させて頂いたのはこちらの方です。お陰様で…チームを設立させて頂く。という決心がつきましたから」
「…まあ♪ では?」
「はい! チーム設立のお話。お受けしたいと思っております」
「吉報ッ!! それは誠に良き知らせ! その決断をしてくれた君に、心から感謝をするッ!」
「秋川理事長が機会を作って下さったお陰です。こちらこそ本当に感謝の言葉もございません」
「トレーナーさん。チーム設立、本当におめでとうございます♪ 私も全力でサポートさせて頂きますので、遠慮なく頼って下さいね」
「ありがとうございます! たづなさんがサポートして下さるなんて、本当に心強いですよ」
「ふふっ、それでトレーナーさん? チームのお名前はどうされますか?」
「はい! 実は…もう考えておりまして、担当のスペちゃんにも確認は取っております。後はこのチーム名で大丈夫か、ご確認をお願い出来ますでしょうか?」
俺はそう言って、希望するチーム名が書かれた書類をお二人にお渡しする。秋川理事長もたづなさんも、その希望チーム名を確認し──
「チーム名は──【チーム・ノヴァ】ですか…まあ♪ 【新星】を意味する【ノヴァ】からとられたんですね! 素敵なお名前だと思いますよ♪」
「素敵ッ!! 君たちの力なら! 必ずその名の通り、トレセン学園での新たな一等星となるはずだッ! まさに君たちに相応しい名だ!」
「お二人とも、本当にありがとうございます!」
トレセン学園のチーム名は、皆さまが一等星の名前からとっておられ、正直残っている一等星が無かったのだ…
ならばいっその事…スペちゃんを、これから入ってくれる娘をしっかりと輝かせ、この学園での新たな星に…一等星にすらなってみせよう! という想いを込めてつけさせてもらった。スペちゃんも賛同してくれたので本当に良かった。
【チーム・ノヴァ】という名前自体も問題無し。との事で、たづなさんが書類を提出して下さるとのお言葉に甘えさせて頂き、俺は改めてお二人に感謝の言葉を告げて、理事長室を後にした。
これからは【チーム・ノヴァ】として、更に精進していかなくてはいけない。先ずはスペちゃんの三冠に向けた始動戦…『京都新聞杯』を白星で飾り、三冠に向けてもチームとしても勢いをつけておきたいな。スカウトとかもした方が良いかな…
俺は三冠に向けたスペちゃんのトレーニングメニューを考えつつも、チームとしての責任も感じながら、自身のトレーナールームへと戻っていった。
そしていよいよ…『最も強いウマ娘が勝つ』という格言がある。三冠最後の一冠【菊花賞】が……スペちゃんが無敗の三冠に立ち向かう、勝負の時が訪れる──
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
今回は日常回…というよりも説明回のようになってしまいました……主人公が生産チート野郎ってところも少し書きたかったので…
しかし、次はいよいよ【菊花賞】! スペちゃんが、いざ無敗の三冠に挑みます!
チームとしても始動するのでどうなることやら…誰がチームに加入するのやら…
チームリギルのメンバーの、主人公に対する印象は次回の後書きで書かせて頂きます!
次も、少しでも読みやすくなるように頑張って書いていきます。