この拙作のレースに関する事柄は、史実・アニメ・アプリとは異なったり、筆者の空想が入ったりしているのでご了承下さい。
※GⅡ・京都新聞杯は現在、菊花賞トライアルでは無くなっているみたいです。
夏の暑さも過ぎ去り、早朝の時間帯は今日の様に少し冷んやりする10月半ば……早いもので明日はスペちゃんの秋の始動戦【京都新聞杯】であり、同時にクラシック三冠最後の一冠【菊花賞】まで、残り1ヶ月を切っている。
今日までの間、俺はスペちゃんのトレーニングはもちろん、チームの運営にむけた準備などに取り組む日々であった。チーム設立に関しては、お話を受けた昨日今日でいきなり設立! …とはいかず、URAへの申請などで少し時間がかかってしまったのだ。
まあ仕事や準備そのものは、たづなさんが手伝って下さったり、東条さんや沖野さんから教えて頂いた事もあって、それほど大変でもなかったのだが……丁度スペちゃんが無敗の三冠に挑む。という時期が時期だったからなぁ…
周りの方々もそこには気を遣って下さり、結局「菊花賞が終わるまでは…」と、チーム設立に関しては長引いてしまっている。…改めて秋川理事長やたづなさん、東条さんに沖野さん、他にもお世話になった方々にはしっかりとお礼をしないとな。
チーム設立での件でお世話になった方々への感謝を抱きながら、俺は現在トレセン学園内の模擬レース場を芝・ダート・ウッドチップコース問わず、確認と少しの手入れを行なっている。
普段から整備士の方々がしっかりと整備をして下さっているので、問題らしい問題は無いのだが、天候や風などの影響で荒れてしまうのはどうしようもない為、朝練で使う娘たちに万が一が起こってはいけないと、こうして早朝に確認を行うのが俺の日課となっている。スペちゃんも朝練を行う時があるからね。
少し荒れていた部分を全て手入れし終え、そろそろ誰か来るだろうか? と思っていると、向こうから複数の三角コーンを持ったウマ娘さんがやって来る。
ジャージ姿でもある事から、これから朝練に励むのだろう……と言うか朝練常連さんのお一人の為、彼女とは既に顔見知りであるのだが…
「…あっ、スペシャルウィークさんのトレーナーさん! おはようございます! 今日もターフの手入れをして下さっていたんですか? いつも本当にありがとうございます!」
「おはようございます、“ナリタトップロード”さん。いえいえ、ナリタトップロードさんこそ今日も朝練ですか? いつも頑張っておられますね。こちらまで元気を貰えますよ」
先輩ベテラントレーナーのお一人である、沖田トレーナーが担当されておられるお一人“ナリタトップロード”さんが、三角コーンを置き元気なお声で挨拶をしてくれた。
彼女が頑張っている姿は、不思議と周りに元気を与えてくれる…そんな素敵な魅力を持っているウマ娘さんだ。
「そんな事を言って頂けるなんて嬉しいです! 実は今月末にデビュー戦が決まったので少し落ち着かなくて……私、小回りが苦手なんですけど…デビュー戦は【芝2000mの内回り】なので、少しでも改善しないと…」
「おお! デビュー戦の決定、本当におめでとうございます! …なるほど小回りが…」
確かに前に走っている姿を見た時、彼女は走る時の歩幅が大きめのストライド走法だった。あれだけ一完歩が大きいと、小回りに苦手意識を持ってしまうのも無理はない。
…と言っても、彼女は沖田トレーナーの担当されている娘だ。俺が横から何かを教えたりするのは流石にマナー違反だし、かえって邪魔になってしまう行為だろう。
「私…もともと不器用なので…だからこうして、他の人たちよりも多く練習して、一つずつ強くなって、トレーナーさんが…自慢できる様なウマ娘になりたいんです!」
そう真っ直ぐ言い切る彼女がいかに自身のトレーナーである、沖田トレーナーの事を慕っているのかが伝わってくる………まあ…三角コーンを置く角度ぐらい、教えても問題ないだろう。
ナリタトップロードさんの真っ直ぐさが、どこかスペちゃんに似ている気がして……少し放っておけないという気持ちになった俺は、これぐらいなら。と、彼女から三角コーンを受け取ると、彼女の走っている時のバランス・クセ・現状の脚力などを分析して、最もコーナリング技術が改善するであろう角度になる様に三角コーンを並べた。
置く場所の目印となる物も示し、「これからはこの角度で三角コーンを置いて練習してみて。もし手応えを感じなくなったりしたら、いつでも聞きに来てくれたら嬉しい」と、彼女に伝えて俺はその場を後にする。
ナリタトップロードさんはそんな俺に終始お礼を言ってくれ、「早速これでやってみます!」と、意気揚々にトレーニングを開始していた。
……去り際に、彼女の様子を見に来たのであろう沖田トレーナーと目が合い、お互いに会釈を行う。…絶対に見られてたよな……けど、表情からするに怒っている。という感じでは無いみたいなので一安心だ。
…さて、沖田トレーナーが来られた以上、ナリタトップロードさんの事に関してはあの人のお仕事だろう。
俺は邪魔にならない様に置いていた荷物を回収し、もう一人の朝練常連さんの下に向かう事にした。
……というよりも、ナリタトップロードさんが使っているコースの一つ内側のコースで、既に準備運動を終え、走り込んでいる姿が見えているのだが…
「はあっ…はあっ…ふう〜……また貴方? …トップロードさんの方に居なくていいの?」
「ええ、沖田トレーナーが来られたので。“アドマイヤベガ”さんも、いつも頑張っておられますね」
「…別に、私にとってはこれが普通の事」
そう、どこか人を寄せ付けさせない雰囲気を纏いつつ…けれど、奥底にどこか暖かさの様なモノを感じる彼女…“アドマイヤベガ”さんは少し目線を逸らしながら、そう言い切った。
出会った頃はこちらに一切の意識も向けていなかった彼女だが、今は俺の存在を認識してこうして声を掛けてくれるあたり、本当はかなり律儀な性格なのかもしれない。
纏っている雰囲気とは裏腹に、周りから頼られている姿を度々見かけるので、あながち間違ってはいない気がする。
「それは尚更凄い気がしますが……っと、練習の邪魔になりますね。今日もコレを置いていくので、必要なら好きに使って下さい」
俺はそう言って、【スポーツドリンク】と【汗拭き用のタオル】が入った袋を、練習の邪魔にならない場所に置いておく。
スポーツドリンクは【疲労回復】・【栄養補給】・【美味しい】などを追求して作り上げた自作ドリンクである。タオルに関しては自分で調合した柔軟剤によって【癒される匂い】・【汚れ除去・コーティング】・【圧倒的フワフワ仕立て】を実現させたタオルになっている。
スペちゃんの為にも、やはりこう言った事にチートを使っていかねば!と、例に埋もれず変な熱が入ってしまって完成した力作だ。柔軟剤に関しては俺のこだわりもあったのだが…スペちゃんも喜んでくれているので嬉しい限りである。
「…また? …いつも言っているけど、気を遣ってもらわなくても大丈夫よ。……その…申し訳ないから…」
「気にしないで下さい、俺がしたくて勝手にやっている事なので。アドマイヤベガさんの様に頑張っておられる方の、ほんの少しのお力になれたら嬉しいですから」
「……はあ…分かった……ありがとう…また使わせてもらうわ」
少し呆れつつもお礼を言ってくれるアドマイヤベガさんにほっこりしながら、俺は「では、失礼します」と伝え、トレーナールームへと戻る事にした。
…最後にチラッと、タオルをニギニギと触りながら…ウマ耳がピョコピョコと動き、尻尾も機嫌が良さそうに揺られているアドマイヤベガさんの姿が目に入った……タオルが好きなのだろうか?
♢♢♢
『さあ! 各ウマ娘、淀の下り坂を下りながら間もなく第4コーナーに入るところ。おっと! やや後方にいた⑩スペシャルウィークが外からスーッと、いつの間にか先頭から5番手、4番手、3番手あたりまで上がってきた!』
『第4コーナーをカーブして直線コースに向きました! 先頭は⑫シャイニングプレス! しかし早くも外から⑩スペシャルウィークが抜け出した! 楽々と先頭に立つ! 後ろからは①ヤスタウメドと⑭スズメバートも突っ込んでくる!』
『しかしスペシャルウィーク突き放す! これは独走になるか!? ゴール前リード8バ身! 9バ身! これは強い! 懸命に2番手①ヤスタウメド、3番手に⑭スズメバートですが! ⑩スペシャルウィーク!! ここでは負けられない! 無敗のまま! 圧倒的な走りで今──ゴォーールイン!!』
『強い!! ⑩スペシャルウィーク楽々と突き放す圧勝でした! 文句の付けようがない走り! スペシャルウィーク、無敗の三冠に向けて! 菊花賞に向けて! その視界は良好です!』
【菊花賞】を前日に控えた今日、俺は自身のトレーナールームにて先日行われた京都新聞杯のレース映像を、大型ディスプレイで改めて確認しているところである。
……うん。現地でもしっかり見ていたけど、スペちゃんは“淀の下り坂”を上手くスピードに乗りながら下っている。さらにその中でも自身のバランスを一切崩さずに最後の直線コースを迎えているので、前哨戦としてしっかりと手応えを感じる完璧な走りだった。
着差も最終的には10バ身差…大差で勝ち切る圧倒的な内容である。スペちゃん本人は楽々と走っていた為、まだまだ余力を、そして一夏超えた確かな成長をみせるには十分過ぎたのだろう……各方面の新聞記事でも──
『スペシャルウィーク、前哨戦を10バ身差で圧勝! いざ、“皇帝”以来の無敗の三冠へ!』
『スペシャルウィーク、貫禄の走り! 菊花賞に向けての準備は万全だ!』
『スペシャルウィーク京都新聞杯を制す! 神戸新聞杯のキングヘイロー、京都大賞典のセイウンスカイ! 3強は皆、前哨戦を圧勝!』
以上の様な【菊花賞】に向けての記事で溢れかえっている状態である。スペちゃんの無敗の三冠を期待してくれる記事が多いが、キングヘイローさんとセイウンスカイさんが、共に前哨戦を圧勝で制している為、一筋縄ではいかないだろう…という意見も見受けられる。
確かに2人の走りも、スペちゃんの京都新聞杯に負けず劣らずの圧勝劇であった。キングヘイローさんは先団から楽々抜け出し10バ身差。
セイウンスカイさんはシニア級の強豪相手に7バ身差と……「成長しているのはスペちゃんだけじゃないぞ」と感じる、2人の成長を見せつけられた素晴らしい走りだったからな…
因みにセイウンスカイさんの京都大賞典の当日、スペちゃんのルームメイトさんであるスズカさんも、東京レース場で行われた毎日王冠で圧巻の逃げ切り勝ちを収めている。
2着のグラスさんに3バ身差…影すら踏ませぬ逃げ切り勝ちであった。10ヶ月の怪我明け初戦で、2着に食い込むグラスさんも凄すぎるんだけどね…
毎日王冠の翌日、東条さんから「貴方のお陰でグラスの状態が、想定していた何倍も早く良くなってくれたわ。本当にありがとう」と、改めて夏合宿でのトレーニングについてお礼を言ってもらえた。
「グラスさんが頑張った結果ですので気になさらないで下さい」と伝えると、東条さんは少し困った様に笑いながらも「…次は負けないわよ。スズカにも、そしてスペシャルウィークにもね」と、徐々に好戦的な笑みを浮かべ、そう宣言された。
俺も笑みを浮かべ「受けて立ちますよ」と返すと、東条さんは満足そうに笑ってその場を去って行った。…改めて思うが、グラスさんも復帰したスペちゃんの世代…マジで魔境ではないだろうか…
そんな色んな事を考えつつも、明日に控えた【菊花賞】の最終確認の準備のため、軽く部屋を片付け、京都レース場のジオラマを用意して、間もなく授業を終えるであろうスペちゃんが来るのを待ちながら、俺は伝えたい事を軽く頭の中で整理しながら、その準備を整えていった。
───
──
─
「お兄さん! お疲れ様です! 今日は明日の最終確認、よろしくお願いします!」
「スペちゃんお疲れ様! こちらこそよろしくね」
元気よくトレーナールームへと来てくれたスペちゃんをソファへと促し、俺たちは明日の【菊花賞】に向けて最終確認を行う。
「スペちゃん、明日はいよいよ菊花賞だけど…改めてコースの確認をしておこう。京都・芝3000mは終始外回りコース。向正面の第3コーナー手前の上り坂からスタートする。スタートから最初の第3コーナーまで200mぐらいしかないから、今回【8枠・17番】の大外枠に入ったスペちゃんの場合、前に行くか・後ろに控えるか・内に入るか・外を通るかなんかの判断を、瞬時に行わないといけない」
「なるほど、最初の判断を…分かりました!」
「そして一周目の第3コーナーから第4コーナーを回って、最初のホームストレッチに入る。今日までそれにむけたトレーニングで備えてはきたけど…ここでスタンドから大歓声があがるだろうから、それに取り乱される事なく冷静に走らないといけない」
「過去の菊花賞を見ても毎年凄い歓声ですもんね…けど、お兄さんが大歓声対策で鍛えてくれたので、それを自信に乗り越えてみせます!」
菊花賞の大歓声対策に俺はスピーカーを少し改造し、映画館ばりの大音響を響かせられる改造スピーカーで、スペちゃんの大歓声への耐性をつけていった。
……ほんとすっごい音量だったので…許可を貰うのが大変だったな……特にエアグルーヴさんからの…
「ははっ、ありがとう。スピーカーを使っての対策だったから、本番はもっと凄い大歓声だと思う…頑張ってね!」
「はい!」
「えっと話を戻して…後の流れは1、2コーナーから向こう流し、ここら辺で息を入れて、その後2回目の3、4コーナーを回って直線コースへ。直線は400mぐらいあるけど…あまりにも後ろ過ぎると届かない可能性があるから注意だね」
「ここで前哨戦での経験を活かす時ですね! “下り坂”対策もしっかり最終確認しておかないと!」
「そうだね。京都の長距離レース…純粋なスタミナも確かに重要だけど、それは【走り切る為に必要な事】。【勝つ為に必要な事】は、この淀の“下り坂”を、いかに上手に下れるかになってくるからね」
長距離を走り切れるスタミナはあっても、京都での長距離レースでは最後の直線で脚があがってしまう…こういう娘は意外と多いのだ。そしてそういう娘は、殆どが“下り坂”が少し苦手…という娘たちである。
特に脚力が強い娘、後ろに蹴る力が強い娘はこの悩みを抱えやすい。体重が後ろに傾いてしまうと、下り坂では微妙にバランスが崩れてしまう。その微妙に崩れたバランスのまま最後の直線コースを迎えてしまう為、いつもより早く脚があがったりしてしまうのだ。
下り坂を下る時は、やや前傾気味にストライドを伸ばし、自然と加速する恩恵を受けながら下って、最後の直線コースを迎える。スペちゃんに身に付けてもらった走りは、そんな下り坂を最大限に活かす走りである。従来の筋肉連動による負荷の分散によって、バランスを崩す恐れもない。
「初めての長距離レースになるし、未知の距離。そしてプレッシャーも…きっと今までで一番感じると思う。…だけど、今日までスペちゃんが積み重ねてきた事…それがあれば必ず今回の菊花賞も、スペちゃんなら乗り越えられるよ」
俺がそう言い切るとスペちゃんは静かに目を閉じ、少し微笑みながら、何かを噛み締める様に俯いた……少しの沈黙の後、スペちゃんは微笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。
「……お兄さん、私…夢を見ているような感覚なんです…二人のお母ちゃんとの約束を、【日本一のウマ娘】になる。っていう約束を守るために、お兄さんと一緒に今日まで走り続けてきたら…気が付いたら……三冠ウマ娘まであと一つ…それも、あの会長さんしか成し遂げていない“無敗での三冠”に、私が挑戦できる…本当に夢みたいなんです…」
「スペちゃん…」
そう言って…両手で祈るように組んでいた手は少し震えながら…だけど、その瞳には頑固たる決意を宿して…スペちゃんは真っ直ぐと俺を見つめた。
「三冠ウマ娘になる事がゴールじゃありません…ですけど、この先もっと強くなって…これからもお兄さんと一緒に走り続ける為にも……必ず…必ず三冠ウマ娘になってきます! お母ちゃんや皆んなにも、その姿を見せてあげたいんです! …だから、今回も見ていてくださいね? お兄さん!」
かつてのように……「怖い」・「不安」・「自信がない」と言った弱気な言葉を発するスペちゃんは、もう居ない。レースでの強さは勿論、精神的な強さもこれまでのレースで格段に成長している。
三冠ウマ娘に…そしてその先、日本一のウマ娘に挑むべくして挑む。本当に…担当させてもらってこんなに誇らしいのは、スペちゃんだからこそなんだろうな…
「…ああ! ちゃんとスペちゃんが三冠ウマ娘になるところを、この目に焼き付けるよ! …勝とう、スペちゃん。必ず勝って、胸を張って、君の二人のお母さんと故郷の皆んなに、三冠ウマ娘になったって報告しよう!」
「お兄さん──はい! よぉーし、けっぱるべー!!」
そう言うと、スペちゃんは両の手をグッと握り締め気合いを入れる。大丈夫。やり残したと言う後悔が無いように、やれる事は全てやってきた。やり残しがあるとしたら…残すは神頼みをするぐらいだろう。
俺たちはそれから軽く汗を流す程度のトレーニングを行い、クールダウンと最終確認を念入りに行い、明日に備えてスペちゃんを早めに寮に送り届ける。俺も万が一寝坊などをしないように、少しだけ緊張しつつも、その日は早めに寝床についた。
そして──スペちゃんが無敗の三冠ウマ娘という偉業に挑戦する…【菊花賞】の当日を迎えた。
♢♢♢
菊花賞の当日。歴史的な瞬間を一目見ようと、熱心なファンの方の中には3日前からレース場の入り口に並んでおられた…なんて話しを聞くぐらい、現在の京都レース場は超満員である。朝一で来た方でさえ入らないぐらいらしい…
そんな中、スペちゃんを無事に控え室まで送り届けた俺は、現在こちらに向かっている…とあるお客様ご一行をお出迎えする為に、予め連絡していた場所で待機している。時間的にはもうすぐ到着すると思うのだが──
「あっ! 居たよ、居た居た! おーい! ……ごめんねー! 待たせたっしょ?」
「よお! すまんすまん! ちょっと降りる駅を間違っちまって…」
「ごめんなさい。あなたもスペちゃんも大変な時なのに…」
「なんもさ! こっちこそごめんね、駅まで迎えに行けなくて。スペちゃんのお母さんも、父さんと母さんも、今日は来てくれてありがとう!」
そう。俺が待っていたのは、スペちゃんのお母さんと我が両親の三人だ。スペちゃんが三冠最後のレースに挑む姿を三人にも見てもらいたくて、かなり前から計画していた事だった。
挨拶もそこそこに、俺は三人を関係者用の通路へと案内し、京都レース場内へと入っていく。
「ほんと、お礼を言いたいのはこっちさ! 今日はスペのレースに連れて来てくれて本当にありがとう」
「いやぁ〜、ここに来るまでの間も周りが皆んな、スペちゃんの話題で持ちきりだったぞ! 自分の知ってる娘が、ましてや自分の息子が担当してる娘がそんな風に応援してもらえるなんて、何だか誇らしい気持ちになったよ!」
「ふふっ、スペちゃんはもちろん…小さい頃からの夢を叶える為、こうしてしっかり頑張っているあなたの事も、私たちは誇らしく思うわ」
「ははっ…誰よりも頑張っているのはスペちゃんだよ。俺はほんの少しあの娘の手助けをしているだけだから……でも、ありがとう! そう言ってもらえて凄く嬉しいよ!」
優しく微笑みながら「誇らしい」なんて言ってくれる母さんや、その言葉に同調する様に微笑んでくれる二人の雰囲気に、俺は照れくさく感じながらもお礼を言った。本当に頑張っているのはスペちゃんだからね。
「何言ってんの! スペの奴からの手紙、いっつもアンタの事ばっかりなんだよ? 『今日はお兄さんと〇〇した〜』とか、『最近お兄さんがね〜』とか、あのレース後の抱擁について聞いた時もちょっと恥ずかしがってたけど、『嬉しかった〜』なんて言って……ほんと、アンタにスペの事を任せて良かった。って心から思ったもんだべさ!」
スペちゃんのお母さん…それは凄く嬉しいのですが、恥ずかしくなっちゃいますからお止めになって? ほら、恥ずかしくて口調も変になってきたから。俺のお嬢様キャラなんて誰も見たくないでしょう?
「そうだぞ! 今日の日の為にカメラも新しく買ったんだ! スペちゃんとお前の勇姿を沢山撮りたいから、今日も期待してるべ!」
父さん、それはレースに対する期待だよね? じゃあ勇姿を撮るのはスペちゃんだけで良いでしょ? 何で俺の勇姿を撮ろうとしてるの? 俺が勇姿を見せる瞬間なんて無いよ? 他に何を期待してるのか分からないけど、無いったら無いよ?
「あのお写真を見た時は、年甲斐もなくはしゃいじゃったわ〜。あの光景が間近で見られる事を期待しておくわね♪」
母さん、『期待しておくわね♪』じゃないよ? だから何を? もし、『ハ』で始まり『グ』で終わる様な行為を期待していらっしゃるのでしたら、そのご期待には添えませんよ?
何せ俺はチートによる鋼のメンタルを持っていますからねっ! ……まあ、ここまで活かせた試しは無いんだけどね…
「……あっ、このまま行くとスペちゃんの控え室だよ。三人は挨拶して行く?」
このままの話の流れだとマズいと思い、俺はちょうどスペちゃんの控え室は近くなって来たので、強引に話しを変える。
「いや…今会うのは止めておくよ。レース前にスペの集中を切らしたくないし」
「そうだな。俺たちが今会っても、邪魔になっちまいそうだし」
「それに、レース前のあの娘を送り出してあげるのは、あなたの役目でしょ?」
「…分かったよ。じゃあ取っておいた観客席まで案内するね」
三人共が、今スペちゃんに会うのは遠慮した。スペちゃんのお母さんなんて本当は会いたいはずだけど、スペちゃんの為を思って我慢してくれるみたいだ…やっぱりこの人は素敵なお母ちゃんだなぁ。
三人を観客席へと案内し、スペちゃんのお母さんが荷物から【もう一人のお母さんのお写真】を取り出したのを見た俺は、写真に向かってもう一人のお母さんにも挨拶を行う。この人も来てくれたのか…ありがとうございます。
そうして、三人改め四人に一先ずの別れを告げて、俺はスペちゃんの控え室へと向かった。
───
──
─
俺が控え室の前に着いたあたりで、ちょうどスペちゃんも部屋から出てくるタイミングであった。
「あっ、お兄さん! 応援に来てくれたんですか?」
「ああ、もちろん! …どうだい? 調子は?」
「えへへ、お兄さんのお陰で調子は絶好調です! …本番前なので少し緊張はしてますけど…」
頰を人差し指で掻きながら苦笑するスペちゃん。流石に緊張しているみたいだけど、これまでのレース前に比べると遥かに落ち着いている。やっぱり色んな面で強くなったな…スペちゃん。
「…いよいよですね、お兄さん。…私、昨日の約束…ちゃんと守りますよ。…だから今日も一番近くで、私が走っているところを見ていてくださいね!」
「…うん、俺も約束を守るよ。スペちゃんが一番で駆け抜ける事を、三冠ウマ娘に輝く事を信じて、その瞬間をちゃんとこの目に焼き付けるよ」
俺はそう言いつつ、ポンッとスペちゃんの頭に手を置く。
「──あ…えへへ〜」
髪が乱れない程度に軽く頭を撫でると、スペちゃんは嬉しそうに微笑みながら身を任せてくれた。
……しばらくして撫で終わり、手を離そうとした時…スペちゃんがそっと俺の手を両手で包み込むと、俺が日本ダービーの時にプレゼントしたブローチに添えるように、包み込んだ俺の手をその場所へと持っていく。
「……ふぅ…」
その状態のまま目を瞑り、静かに息を吐きながら集中力を高めるスペちゃん。
……………お互いに言葉を発する事なく静かな時間が流れ、しばらくしてスペちゃんがそっと俺の手を離す。
「…行って来ます。お兄さん!」
キリッとした表情に変わり、堂々たる雰囲気を纏って、スペちゃんは意を決した様にそう告げた。
「…ああ、行ってらっしゃい。スペちゃん」
「──はい!」
最後にニコッと笑顔を浮かべ、スペちゃんはターフへと歩み出した。怪我のない様に…そして思う存分走っておいで、スペちゃん! 君の二人のお母さんも、今日はレース場で見ていてくれているからね。
そうして俺は、スペちゃんの背中が見えなくなるまで見つめ続けた。そしていよいよ、無敗の三冠をかけた【菊花賞】のスタートを迎える──
♢♢♢
『戦いの舞台は整いました。秋澄み渡る京都レース場で、歴史的な大記録が生まれようとしています。我が国のレース体系が確立してから、未だ五人しか成し遂げていない三冠ウマ娘の偉業。そして! 無敗での三冠を成し遂げたのは、あの“皇帝”シンボリルドルフただ一人…その金字塔に今日、スペシャルウィークが挑戦します』
『三冠レースの締めくくりとなるGⅠ・菊花賞。【京都コース・芝3000m・良バ場発表】。なお、⑤のオーダーメジカが出走を取り消した為、17人で争われます』
『解説の福羽座さん。とうとうこの日がやってきましたね!』
『遂にきましたね。スペシャルウィークが無敗の三冠ウマ娘に輝くのか、それともライバル達が阻止するのか…先ほどターフに現れた全員、特にスペシャルウィーク・セイウンスカイ・キングヘイローの三人は、本当に素晴らしい仕上がりでしたから、最高の勝負が見られる事を期待したいですね』
『福羽座さんイチオシの三人…スペシャルウィークはもちろんですが、セイウンスカイは京都大賞典を。キングヘイローは神戸新聞杯をそれぞれ圧勝している猛者です。スペシャルウィークにとっては一筋縄ではいかない相手でしょう。……さあそして、スターターがスタンドカーに向かいます。歴史に残る菊花賞、そのファンファーレがまもなく京都レース場に響き渡ります──』
『──ファンファーレが響き渡り…スタンドが揺れるほどの拍手と大歓声があがりました! 無敗の三冠ウマ娘の誕生! そしてそれを阻止せんと立ちはだかるライバル達との真剣勝負! その歴史的瞬間を一目見ようと、ここ京都レース場には100万人を優に超えるお客さんが詰めかけております! 場内はもちろん超満員。外も人で溢れかえっている状態!』
『そして各ウマ娘のゲートインが始まりました。まずは奇数番号のウマ娘から……3番人気・5枠⑨キングヘイローも落ち着いてゲートに入ります。日本ダービーでは不本意な結果、しかし! その実力は誰もが認めるところ! この大舞台で、最後の一冠を掴み取る事ができるでしょうか!』
(もうダービーの様な醜態は晒さない…今度こそキングの走りで、栄冠を掴み取ってみせる!)
『さあそして! 1番人気・8枠⑰スペシャルウィークも、今ゲートに収まりました! 最も強いウマ娘が勝つと言われる菊花賞。三冠達成はもちろん、日本一のウマ娘を目指す彼女にとって、ここは負けられない戦いです!』
(空気がピリピリしてる…でも、私は自分を…お兄さんとやってきた事を信じて走り切るだけ! 見てて、お母ちゃん、お兄さん、皆んな!)
『ここまでスムーズにゲートインが行われています。続いて偶数番号のウマ娘たちも入り始めます……2番人気・2枠④セイウンスカイも静かにゲートに入りました。前走の京都大賞典ではシニア級を相手に、鮮やかな逃げ切り勝ち! 今日の菊花賞ではどんなペースを刻むんでしょうか!』
(いや〜来ちゃいましたねぇ、この日が…スペちゃんもキングも、皆んな気合い入ってるけど──今日ぐらい…私も正面から受けて立つよ)
『さあ残すところはあと一人、大外⑱のシンリョクプライドが今ゲートに向かいます。3000mの先に栄光の瞬間が待っています。新たな歴史の扉が開かれようとしています。…⑱シンリョクプライドも、今ゲートに収まり全てのゲートインが完了しました!』
『この場に来てくださったファンの方々も、私も、そしてテレビの前の貴方も、歴史の目撃者です! 見届けましょう! 三冠レースの締めくくりGⅠ・菊花賞───今スタートしました!』
『おっと、⑬ヤスタウメドが少し出遅れた形か。しかしそんな中、⑰スペシャルウィークは綺麗なスタートを切っています。さあ果たして誰が先頭に立つのか? セイウンスカイか? ④セイウンスカイが行きました! ⑥のアストラキュウホウは2番手に控えます。⑧のアタックカイザーも前に。その内に⑦のシマノスペアー。そして⑨キングヘイローもこの先団グループに加わります。そして⑰スペシャルウィークは、ちょうど中団あたりの位置に付けています』
(一先ず逃げの形は作れた…後は作戦通りのペースで!)
(先団の良い位置に付けられた。スペシャルウィークさんはもちろんだけど、セイウンスカイさんの動向にも気を付けないと!)
(前に居る二人をしっかり見れる位置に入れた。もうすぐ一周目の直線コース…ペースを乱さない様に気を付けないと!)
『最後方から⑱シンリョクプライドの展開で各ウマ娘、最初の第3コーナーから第4コーナーを回って、一周目のホームストレッチを迎えます。地面から突き上がる様な大歓声を一身に浴びて! 17人のウマ娘達が駆け抜けて行きます! 三冠目指してひた走る⑰スペシャルウィークも中団グループで、非常に落ち着いて走っています!大歓声に乱されている様子はありません!』
(凄い歓声…だけどこの先で少し息を入れたいから、乱されない様にしないと!)
(この歓声に乱されてはいけない。落ち着いて…もうすぐペースも落ち着くはず!)
(身体がビリビリする…でも大丈夫、落ち着いてる。トレーニングの成果をちゃんと出せてる!)
『前半の1000mは60.9で通過しています。菊香るゴール版を通過して、17人がこれから1、2コーナーを回って向こう正面に入って行きます。先頭は変わらず④セイウンスカイが軽快に逃げている。3バ身ほど離れた2番手に⑥アストラキュウホウ。3番手は2バ身ほど離れて⑧のアタックカイザー。少し後ろに⑦のシマノスペアー。そして内を通って⑪のスズメバート。⑨キングヘイローは先頭から5番手を追走しています』
(よーし、息は入った…後はペースを緩ませず、このまま淡々と行かせてもらうよ〜!)
(……? ペースが緩まない? …まさか、セイウンスカイさん…ペースを上げてるの!?)
(──ッ! セイウンスカイさんのペースが早くなった。ちゃんとついて行かないと置いて行かれちゃう!)
『キングヘイローの1バ身ほど後ろに⑭のシャイニングプレスが居て、その後ろピッタリと⑮のハルシオン。さあ、そして! そのハルシオンの外に⑰スペシャルウィーク! スペシャルウィーク中団です。幼き日から今のトレーナーと積み重ねてきた確かな努力。自分を信じて、トレーナーを信じて、固い絆で結ばれたお互いを信じ切って! さあどこから行くか! スペシャルウィーク!』
『各ウマ娘、まもなくこれから第3コーナーの勝負所、2度目の坂越えを迎えようとしている。スペシャルウィークのすぐ後ろには内から①のカナトリバーナー。外から⑯のロンドンジェントルが控えている。後のグループは固まっていますが、少し離れた最後方に⑱のシンリョクプライドが追走しています』
『先頭を走るセイウンスカイが第3コーナーの坂に差し掛かって、このあたりで先団グループも徐々に距離を詰めにかかる! まず動いたのは⑦シマノスペアー。2番手のアストラキュウホウを既に捕まえているか!? その動きを見て⑨キングヘイローも4番手まで上がってきた!中団グループからは⑮のハルシオンも動き始めている!』
(よし! ここまでのレース運びは完璧! 後は下り坂でスピードに乗って、その勢いのままゴールまで駆け抜けるだけ!)
(──ッ! 思ったよりセイウンスカイさんとの距離が縮まらない!? でも直線は短くない…最後の最後で差し切ってみせるッ!)
(もうすぐ下り坂…大丈夫! お兄さんに教えてもらった走りを、今までやってきた事を信じて、いつも通り走るだけ!)
『さあ残り800mの標識を過ぎて坂を下っていく! 先頭は依然として④のセイウンスカイ! 今チラッと後ろを見た! ライバルの位置を確認したのか!? セイウンスカイ、リードを広げた! 2番手のシマノスペアーとの差は6バ身ほど開いている! そのすぐ後ろ3番手に⑨のキングヘイロー! ⑰スペシャルウィークはまだ中団の外!』
(スペちゃんはまだ中団…これだけのリードなら──いけるはずッ!)
(スペシャルウィークさんはまだ動かない!? ──これ以上セイウンスカイさんに離される訳にはいかない…私もこのあたりでッ!)
(下り坂は上手く下れた! バランスの崩れもない──よーし…そろそろッ!)
『セイウンスカイが大きなリードを保ちながら、これから第4コーナーに差し掛かる! そしてキングヘイローも2番手まで上がってきた! さあ、スペシャルウィークもそろそろ行くかな〜!? スペシャルウィーク大外から! いつの間にやら──3番手に下がったシマノスペアーの外からスーッと上がってきている!!』
『さあ、第4コーナーをカーブして直線コースに向いた! スタンドが揺れる程の大歓声が17人を迎える!! 逃げ込みを図るのはセイウンスカイ!! 渾身の走りで逃げる逃げる! まだリードは7バ身ほどあるぞ!! 2番手内からキングヘイローが突っ込んでくる!! そして一番外から! 一番外からスペシャルウィーク!! スペシャルウィークが外から飛んできた〜!!』
「誰にもッ! ──抜かせるかああああぁ〜ッ!!」
「負けないッ! ──はああああああああああぁ〜ッ!!」
「ここからッ! ──やああああああああああぁ〜ッ!!」
『スペシャルウィーク物凄い脚だ!! キングヘイローを置き去りにして! あっという間に、逃げるセイウンスカイとはもう2バ身差!! さらに加速していくスペシャルウィーク!! 捉えた! 捉えた! 捉えました後200m!!』
(くそぉ、くそぉ、くっそおぉ〜ッ! 全力なのにッ! 後、ちょっとでゴールなのにッ!!)
(──めないわッ! …諦めないわッ!!絶対にッ!!)
「日本一に……なるんだからああああぁ〜ッ!!」
『ここで先頭はスペシャルウィークに変わった!! 2番手にセイウンスカイ! 3番手にキングヘイロー! スペシャルウィーク!! 5バ身! 6バ身! 7バ身! さらに突き放す!! まさに彗星のようだ!! とんでもない走り!! 淀のターフに今、彗星が横切る!!』
『スペシャルウィークだ! スペシャルウィークだ! これが、新たな歴史を作るウマ娘!! 史上二人目の! 無敗の三冠ウマ娘の誕生だ!! スペシャルウィーク!! 今、大歓声と拍手に送られながら圧勝で───ゴォーールイン!! ……離れた2番手に粘った④セイウンスカイ! 3番手に⑨キングヘイロー!』
『スペシャルウィークやりました〜!! あの“皇帝”、シンボリルドルフ以来! 無敗の三冠ウマ娘の誕生です! 圧倒的な走りでの三冠制覇! このウマ娘には! 三冠すらも通過点!!』
「はあっ…はあっ…はあっ……やっ…た? ……っ! …やったぁ!」
(はあっ…はあっ…はあっ……おめでとう…スペちゃん。……あ〜あ…こりゃ〜、しばらく頑張らないとな〜…なりふり構ってられないや〜)
(はあっ…はあっ…はあっ……ふう〜っ……おめでとう、スペシャルウィークさん……貴方のような人がライバルに居て、私は幸運だわ…今度こそ…必ず貴方に勝ってみせるッ!)
『おっとそして!? なんと勝ちタイムは3分1秒4!? 3分1秒4というタイムが表示されていますッ! これは物凄いレコードが計測されました! なんと従来のレコードを! 3秒以上更新していますッ!!』
『歴史的瞬間ッ! 無敗の三冠ウマ娘の誕生に、スタンドからは歓声と拍手が入り混じりながら、スペシャルウィークへの祝福として降り注いでいます!』
『いやあ〜、解説の福羽座さん! スペシャルウィークが見事にやってくれましたね〜!』
『いやもう…本当に凄い……本当に凄い走りでしたね。もちろんこの娘はデビュー戦から騒がれていたんですけど、この世代は層が厚くて…流石に三冠は厳しいんじゃ無いか? という声も最初は聞こえてきていたんですよね。今回の菊花賞も、2着、3着の娘たちだってレコードタイムで駆け抜けています。でもそれらを跳ね除けて、今日のレースも含めて圧巻の走りの連続で……もう素晴らしいとしか言いようがないですね。』
『本当に何かこう…走るたびに彼女は強くなっている感じがしますもんね〜!』
『そうなんですよ! 彼女が真に凄いのはそこなんですよね〜…毎回ちゃんと成長していて、正直無敗の三冠ウマ娘に輝いた今も、彼女の底が全く見えないんですよ……もうどこまで強くなるのか…本当にワクワクしますよ!』
『見事に無敗の三冠ウマ娘に輝いた今も、未だ底がしれないと言わしめるスペシャルウィーク! 本当に…本当にこのウマ娘は! 一体どこまで強くなるというのか!』
───
──
─
ファンの皆様からの歓声と拍手、そして一緒に走る事が出来た皆んなからのお祝いの言葉を浴びて…私は改めて、自分が無事に三冠ウマ娘になれた事を実感する。
嬉しさ・達成感・興奮・プレッシャーからの解放感・お世話になった人達の顔……色んな事が込み上げてきて…思わず泣いてしまいそうになるのを必死に堪えながら、私はファンの皆様や、一緒に走った皆んなに精一杯、感謝の気持ちを伝えていく。
それが少し落ち着いた頃、約束通りに私の事をちゃんと見ていてくれたその人に…感謝の気持ちを伝えたいその人に…あなたのお陰で三冠ウマ娘になれましたよ! って報告したいその人の下に、私は一目散に駆け寄って行く。
「──お兄さんっ!!」
「──ス、スペちゃん!?」
駆け寄った勢いそのままに、私はお兄さんの胸に飛び込んだ。お兄さんは少し驚きつつもしっかりと受け止めてくれる。
そんなところも嬉しく思いつつ、私は顔上げてお兄さんを見つめながら…必死に言葉を紡いでいく。
「お兄さんっ! 私、やりました! やりましたよっ! 約束通り、1着を獲れました! おにっ──お兄さんのっ…おかっ──ぐすっ…お陰でっ…三冠…ウマ娘に……わたっ─わた“し“っ……わた“し“…なれましたよっ……三冠ウマ娘にっ…わたしっ…なれたんですよっ…」
お兄さんの顔を見たら、込み上げてくるものが…さっきまで必死に堪えていたものが我慢できなくなって…嬉し涙で前が見えなくなりながら、それでも私は懸命に、お兄さんへの感謝と報告を伝える…
するとお兄さんは、そんな私の頭を優しく自分の胸元への抱き寄せると、お兄さんも少し涙声になりながら、私に感謝の気持ちを伝えてくれる。
「ああ…ああっ! 見てたよ…ちゃんと見てたよスペちゃん! …本当に…本当におめでとうっ! …よく…本当によく頑張ったねっ……今日までスペちゃんと一緒に頑張ってこれた事…俺は最高に誇らしいよ! …本当にっ…本当にありがとう! スペちゃん!」
その言葉を聞いて、私はさらに涙が溢れてしまう…お兄さんのスーツを涙で汚してしまう事になったけど…お互いにその事が気にならないほど、私たちはしばらく…お兄さんの胸元に顔を埋めたまま、感謝の言葉を伝えてあった。
…そして気持ちが落ち着いて、いざウイニングライブ! サプライズで登場してくれたお母ちゃん達の姿を見た瞬間、私は本日二度目となる、胸元へのダイブを行った。
お母ちゃん達にもたくさんの感謝と報告を伝え、ウイニングライブも無事に終えたあたりで、冷静になった私はふと思った。
……あれ?…お母ちゃん達が来てたってことは………
「ーーーーーーーーーーーッ〜〜!?」
うわあああああぁ〜ッ!? おっ、お兄さんと抱き付いてたところ…しっかり見られてたって事〜〜〜!? しっ、しかもっ! お兄さんのお父さん…カメラ持ってたよね〜〜!? と、撮られてたぁ〜〜!? 絶対撮られたぁ〜〜!? な、なまら恥ずかしいべ〜〜!? こんなの!?
私は顔が真っ赤になりながらしばらく悶え…それはお母ちゃんとお兄さんのご両親が、北海道に帰るのを見送るその瞬間まで続いていた…お母ちゃん達もずっとニヤニヤしてたし…
でも、申し訳無さそうにしているお兄さんを怒る気にはなれなかった。多分…お母ちゃん達が来てるって事前に知っていても、私は自分の感情が抑えきれずに、お兄さんに抱きついていたと思うから…
そんな恥ずかしい事件があったものの、そんな恥ずかしさを上回るぐらいの幸せな気持ちに包まれながら、私の三冠ウマ娘への挑戦は最高の形で締めくくる事が出来たのだった。
♢♢♢
●菊花賞ゴール後(スペちゃん、主人公ファミリー)
「──すびー…スペ、本当におめでとう! ……見ててくれた? …私達の娘は、あんな立派なウマ娘になったんだよ…」
「やったべー! スペちゃんおめでとう!」
「おめでとう! スペちゃん!」
●抱擁後(スペちゃん、主人公ファミリー)
「あれまー! スペの奴、いつの間にあんな大胆に!」
「おお〜! これは──シャッターチャンス!」
「あらあら! 北海道に帰ったらお赤飯炊かなくっちゃ…」
●レース後(とあるウマ娘二人)
「京都の長距離レースであれだけの走り……やっぱりわたくしは、彼らのチームで己を磨きたいと思いますわ」
「…そっか、じゃあボクはスピカに入ろうかな! ライバルと同じチームっていうのは、ちょっと気が引けるからね!」
菊花賞のレース後に、このような反応があったとか…
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます!
スペちゃんが無事に無敗の三冠を達成致しました! スペちゃん! 本当におめでとう〜〜〜!!(自画自賛…)
さて、次はスズカさんVSエルちゃんの【天皇賞(秋)】をまじえた準備回になると思います。……二人ほど、チーム加入のフラグが立っている感じも致しますし…
下記ではチームリギルのメンバーから見た、主人公への印象を軽く載せております。
ルドルフ会長→とても優秀なトレーナー君。夏合宿での交流で更にその認識を強めた。あと何気にチェス仲間であり、現在2勝8敗と負け越している為、地味にリベンジに燃えている。
エアグルーヴ→花壇の管理を手伝ってくれている優秀なトレーナー。妙なスピーカーで大音量を流しながらのトレーニングは流石に止めたが…花壇以外の業務でも助けてもらった事がある為、渋々許可した。
ナリタブライアン→姉貴も注目している優秀なトレーナー。合宿で振る舞ってくれた肉料理が美味しすぎて、またご馳走してもらおうと考えているのをおハナさんに止められている。
ヒシアマ姐さん→すげぇトレ公。寮の荷物運びなどもテキパキ手伝ってくれる良い奴。今度キャラ弁の可愛さ具合でタイマン勝負を挑もうと思っているとかいないとか
マルゼンスキー→東条トレーナーも注目している優秀なトレーナー君。今度、私の愛車のに乗ってみる? もちろんスペちゃんも連れてね♪
フジキセキ→若いのに凄いトレーナーさん。合宿中に手を叩いただけで、ありとあらゆる鳥を呼び寄せた主人公に、イリュージョンの弟子入りを模索中。
タイキシャトル→ベリベリナイスなトレーナーさん。以前に模擬レースでスペちゃんに負けてしまったので、リベンジマッチやりたいデス!
テイエムオペラオー→輝きを持ったトレーナーさん。ライブレッスンの際に素敵な歌声をしていた、今度共にオペラを披露しようじゃないか!
グラスワンダー→スペちゃんを担当されている優秀なトレーナーさん。怪我によって崩れていた身体のバランスを治してくれて感謝している。けど…スペちゃんには勝ちますよ?
エルコンドルパサー→スペちゃんを担当している凄いトレーナーさん。実はスペちゃんが使っている、お兄さん勉強ノートの愛用者の一人。これのお陰で赤点を回避出来ているで感謝している。けど…次こそスペちゃんを倒すのはアタシデェェス!