スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 誤字脱字のご報告・お気に入り・ご評価・ご感想を下さった方々、本当にありがとうございます!


 前回のお話でこの拙作の北海道弁が変ですよというご指摘を頂きました。ご指摘下さった方本当にありがとうございました! 今後のお話から、お母ちゃんや主人公の両親の口調が変わると思いますがご了承ください。申し訳ございませんでした。




チームノヴァ始動/宣戦布告

 

 

 

 

 

 

 

 スペちゃんが怪我もなく見事に無敗の三冠を達成して帰って来てくれた翌日、朝方に我が両親とスペちゃんの二人のお母さんが北海道に帰るのを見送り、トレセン学園に戻って来た俺とスペちゃんはそれぞれの仕事・学業へと戻っていった。

 

 

 三冠達成のお祝いは昨日お互いの家族と一緒に行なっている。俺が予め予約注文しておいた【天然クエ・15キロまる一本】によるクエ尽くしによるお祝いだった。

 お値段なんとびっくりの33万円である……33万て…めっちゃ良い家電が買えるよ…でもこういった時にこそお金を使いたいなと思っていた為迷いはなかった。

 

 

 15キロものクエを捌く事に関してはチートもあるので問題なし。毒? 細菌? ウイルス? 寄生虫? そんなものハンドパワーでイチコロである。

 …ちなみに全国の板前の皆様を軽んじる気持ちはかけらも御座いません。皆様の神聖な料理の世界に足を踏み入れたりは致しませんので、チートなんて使って料理を振る舞う私奴を何卒お許しください。

 

 

 クエ鍋・お刺身・唐揚げ・旨みたっぷりの出汁を吸った〆の雑炊など…スペちゃんをはじめ、最初は値段に驚きつつも最終的には皆んな本当に美味しそうに食べてくれた事は心から嬉しかったな……スペちゃんの『なまら美味しい〜!』も聞けたし。

 

 

 ただ両親もスペちゃんのお母さんも、ずっとスペちゃんと俺を見守るようにニヤニヤしていたのは…スペちゃんが無事に三冠を獲ってくれたからだよね? 断じてレース後のあの【抱擁】を見てニヤニヤしてた訳じゃないよね?

 

 

 スペちゃんのお母さんからは、少し泣きながら『これからもスペの事を“ずっと”支えてやってあげてね』って言ってもらえて、俺は「そんな、こちらこそです!これからもスペちゃんの支えになれるように精進していきます!」と、昔から変わらない自分の決意を改めて伝えさせてもらったのだが……

 今思えば“ずっと”ってどういう意味なんでしょうか? スペちゃんのお母さん? 深い意味はないですよね? スペちゃんはまだ15歳の女の子ですもんね?

 

 

 父さんは時折カメラのデータを確認しながらニヤニヤしてたけど…スペちゃんのレースでの勇姿を見てニヤニヤしてたんだよね? 俺はあえて何を見てるのか確認しなかったけどそうだよね? まさかレース後の抱擁は撮ってないでしょ父さん?

 もし撮っているのなら「チート持ちを無礼るなよ?」と、そのデータを消し去らないといけなくなるからね? ……でも父さんあのカメラ気に入ってたもんな…壊すのは酷すぎるよな…やめとこう。

 

 

 母さんは何やらスペちゃんに『うちの子はちょっと鈍感だから…これから先、もしスペちゃんの決意が固まった時は積極的に行くのよ? その時は私も協力するからね!』とか言ってたけど…何が?

 ねえ母さんアレは何のアドバイスだったの? スペちゃんも『積極的に…分かりました!』ってすっごい良いお返事をしてたけど……夏合宿で同じ部屋に泊まってから、スペちゃんの無防備具合が増してる気がするからこれ以上積極的になられたら色々まずいからね?

 平気で手を握ったりするし、俺に尻尾を絡ませたりするし、俺に寄りかかって眠ったりするし…チートが無かったら俺のライフはとっくにゼロだよ! レース後の抱擁? アレはほら…ノーカンだよノーカン。

 

 

 そして挙句にはその日の夢にスペちゃんのもう一人のお母さんがお見えになられて…『これからもうちの娘を…スペの事をよろしくね?』なんて言って貰える夢を見たのだが…アレは果たして奇跡なのか…それとも俺の願望なのか…

 どちらにせよ俺の覚悟は変わらないので「もちろんです。これからも必ずスペちゃんの支えになってみせます! だからこれからも見守っていてあげて下さい」と、夢の中でお返事をした気がする…

 

 

 何か外堀がドンドンと…取り返しのつかないレベルで埋まっていっている気がするのは気のせいだろうか?

 …いやいや、うん、気のせい…気のせいだ。そもそも第一にスペちゃんが仮に俺に対して好感の様なモノを抱いていたとしても…それは今まで周りに異性が居なかったからという特殊な環境が影響しているに他ならない。

 スペちゃんが恋の気持ちを知っていくのは、異性に対する気持ちを知っていくのはまだまだこれからのお話だ。だからそう、これは気のせいなんだ。

 

 

 そんな今の俺とスペちゃんを取り巻く環境などを整理して、少し現実逃避気味にもなっている気がする中…俺は考え事をしつつも手を止める事なく仕事をこなしていく。

 菊花賞を無事に乗り越え、以前から準備をしていた“チームでの活動”がいよいよ始まる為…それに向けた最終業務を早急に片付けないといけない。

 

 

 これまで秋川理事長にも、たづなさんにも、URAや周りの皆様にも散々ご迷惑をお掛けしながら待って頂いたのだ。まだスペちゃんの三冠達成の余韻に浸っているとは言え…ここは疎かになんて出来ないところである。

 

 

 周りの方々にも『焦らなくても大丈夫ですよ?』と言ってもらえていたのだが、俺はその日のうちに最終業務を片付け、秋川理事長やたづなさんに最終確認を行なってもらう。

 

 

 秋川理事長からは「感謝ッ!! 君も色々と忙しいだろうにこれほど早急な対応を取ってくれた事に心から感謝する! そして君が、ウマ娘たちに更なる輝きをもたらしてくれる事を心から期待している!」と、チーム始動の背中を押してもらえ、

 

 

 たづなさんからは「トレーナーさん、お忙しい中本当にありがとうございます。確認させて頂きましたが問題は見当たりませんでした。改めてチーム・ノヴァの発足、本当におめでとうございます♪」と、朗らかな微笑みを浮かべながら祝福をしてもらえた。

 

 

 俺はお二人に改めて謝辞と、その気持ちを込めた感謝の品を贈らせてもらった。秋川理事長には幻の【三冠ニンジン10キロ相当】を、たづなさんには【土鍋で炊いたら最高に美味しいブランド米セット】をそれぞれ謝辞を伝えながら贈らせて頂いた。

 

 

 お二人共に受け取りを渋られたが…他の方々にもそれぞれ感謝のお品物を贈らせて頂いている事を伝え、やや強引ではあるが受け取ってもらった。こんな機会じゃないと中々日頃の感謝を伝えられないからな…最終的にはお二人ともに喜んでもらえたみたいで、俺は良かったと一安心だった。

 

 

 そんなやり取りもありつつ最終確認を終えたその翌日、トレセン学園内に【チーム・ノヴァ】の設立・始動が大々的に発表された。

 

 

 さて先ずはメンバー集め…スペちゃんと相性が悪くない娘という前提も踏まえて募集しないとな……

 周りのチームを見習ってポスターを作るか? それともスペちゃんに【チームメンバー募集中!】のタスキでも掛けてもらって宣伝してもらうか? 今の時期はGⅠレースが続く忙しい時期だから少し積極的にならないと集まらなそうだし…

 

 

 最初のうちはあまり大人数を担当させてもらうつもりはないのだが…うーん、東条さんのチーム・リギルの様に選抜レースを開催する手もあるけど、トレーナーになって一年目のペーペーがそれをやってもな…そもそも集まらないかもしれないし…やっぱりポスターが無難かな?

 

 

 …おっと、メンバー募集の事などを考えていたらいつの間にやら放課後に。チーム運営も大事だが、何よりスペちゃんのトレーニングも大事だ。

 次走の予定はまだ決まっていないとは言ってもおそらくGⅠレース。どんなスペちゃんの要望にも応えられるように調整しないとな。東条さんや沖野さんをはじめ、チームを運営されておられる先輩は普段からこういった事をこなしておられるのか…改めて尊敬する。

 

 

 普段は割と授業が終わってすぐに来てくれるスペちゃんだが、今日はお友達とお話でもしているのかゆっくり来る日のようだ。俺はメンバー募集のやり方について考えるのは一旦止め、俺はスペちゃんの今後のトレーニングについて思考を巡らせはじめる。

 

 

 

───

──

 

 

 

「お兄さん、お疲れ様です。あの、今日はその、お客さんが…」

 

「スペちゃんお疲れ様。ん? お客さん? …って君は──」

 

 

 スペちゃんのトレーニングについて考えながら過ごしていると、いつもの様にスペちゃんがトレーナールームへと来てくれた…のだが、そのお隣に居た“お客さん”の姿を確認して俺も少し驚いた。

 

 

「こんにちはトレーナーさん、突然のご訪問をお許しくださいませ。改めましてメジロマックイーンと申します。夏合宿では大変お世話になりました」

 

 

 優雅な動作で一礼を行い、透き通る様な、それでいてとても芯を感じる声を響かせてこちらに挨拶をしてくれる彼女──夏合宿でご一緒させてもらったメジロマックイーンさんの姿がそこにはあった。

 

 

「マックイーンさん! 夏合宿以来だね……身体のバランスも大丈夫そうで安心したよ」

 

 

 そう言って俺はスペちゃんとマックイーンさんをソファへと促し、二人分のミルクティーとバウムクーヘンを用意して、マックイーンさんからお話を聞く準備を整える。

 

 

「気を遣わせてしまって申し訳ありません…」

 

「気にしないで、せっかくこうして足を運んでくれたんだから。スペちゃんも食べてみて! 今日のバウムクーヘンは結構自信作だから、感想を聞かせてくれたら嬉しいから」

 

「わぁ! そうなんですか! じゃ、じゃあ早速…頂きます!」

 

 

 自信作なのは本当だし、スペちゃんが美味しそうに食べてくれたらマックイーンさんも食べやすいだろうと思って、俺はそうお願いをする。

 

 

「んーーっ! 美味しいです! 生地はしっとりなのにふわふわ…そしてその生地をとろりと包み込むお砂糖のシャリシャリ感…甘さも少し控えめのちょうど良い甘さです! ミルクティーの香りとまろやかさにもとてもマッチしていて…セットで口に入れた時の統一感が素晴らしいです!」

 

「そ、それほどですの……ゴクリ…で、では失礼して…頂きますわ」

 

 

 そう言って少し遠慮がちにもバウムクーヘンを口に運ぶマックイーンさん。

 すると口に入れた瞬間に目を見開き、耳をピンと立てながらも口に運ぶペースは上がり、尻尾がリズム良く揺られているのを見る限りお口に合ったようで何よりだ。

 ……にしてもスペちゃん食レポ上手だね…そこまで褒めて貰えると凄く嬉しいんだけど、少し恥ずかしいな…

 

 

「……ふぅ、ご馳走様です。こちらのミルクティーの香りといい、本当に素晴らしいお味でしたわ」

 

「美味しかったです〜…やっぱりお兄さんが作ってくれる物は格別ですね!」

 

「ははっ、喜んでもらえて嬉しいよ。……それでマックイーンさん、今日はどうしたの?」

 

「はっ! そ、そうでしたわ…こ、コホンッ」

 

 

 マックイーンさんはそう少し恥ずかしそうに顔を赤らめるも、一つ咳払いすると凛とした表情になり、真っ直ぐな瞳で俺を見ながら言葉を発した。

 

 

「単刀直入に申しあげます。わたくしをトレーナーさんの、チーム・ノヴァへの加入をさせて頂きたいとお願いしに参りました」

 

「──! ウチのチームにかい?」

 

「はい、菊花賞でのスペシャルウィークさんの走り…言葉では言い表せないほど、わたくしは感動致しましたわ。才能だけでも、生半可な努力だけでも、決して至ることの出来ないあの走り…スペシャルウィークさんの血の滲むような努力を感じ取る事が出来たあの走り…本当に感動致しましたの」

 

「あ、ありがとうございます。けど…な、なんだかくすぐったいなぁ〜」

 

「わたくしには、どうしても叶えたい夢があります。我が生家、メジロ家の悲願である【天皇賞】を制覇する事…必ずやその栄誉と名誉をこの両脚で果たしたいのです。スペシャルウィークさんの様な誇りある走りで」

 

 

 そうだ、この娘はあの名門メジロ家のご令嬢…周りから向けられる期待は、まだ中学生ほどの年齢の女の子が背負うには…俺の想像なんかが及ばないほど重いモノのはずだ。

 けどマックイーンさんはそんな重圧をしっかり背負う覚悟を、メジロ家としての誇りを持っているんだろう。

 

 

「夏の合宿でご一緒させて頂いてから、そして今日までのスペシャルウィークさんのご活躍を見て確信致しましたわ。トレーナーさん、貴方が側にいらっしゃったからこそ、スペシャルウィークさんはこれほど輝けていらっしゃるのだと」

 

「はい! 今の私が居るのは、間違いなくお兄さんのお陰ですから!」

 

「…そっか、マックイーンさんみたいな娘がそう感じてくれたんだったら俺は凄く嬉しいよ」

 

「…突然のお願いで、失礼な事だとは重々承知しております。メジロ家のウマ娘のトレーナーになる…家柄ゆえに勝手が違う部分も必ず出てきます。ですが! どうかトレーナーさんのお力を! わたくしに貸していただけないでしょうか!」

 

 

 そう言って深く頭を下げるマックイーンさん。彼女の言う通り、メジロ家のご令嬢をお預かりする…生半可な覚悟でお受けしていいお話では無い。

 ……だけどこの娘の、マックイーンさんのこれほどの覚悟を見せられては…何とかそれに応えてあげたいと俺は思ってしまった。…だからスペちゃんも、そんな心配そうな眼をしないで。何とかしてみせるさ。

 

 

「マックイーンさん、顔を上げて。…俺はこの通り、まだトレーナーになって一年も経っていないひよっこだ。担当経験もスペちゃんしか無い。そうならないように精一杯努めるけど…担当したら、きっと迷惑を掛けるのは俺の方になってしまうかもしれない。……だけど俺は、それでも君の夢を応援したいと思ってる」

 

「──! お兄さんっ! じゃ、じゃあ──!」

 

「──ッ! で、ではっ──!」

 

「ああ、むしろこちらからお願いしたいぐらいだよ。マックイーンさん、俺は君の夢をこのチームで一緒に叶えたい。だから俺の担当ウマ娘に、チーム・ノヴァに入ってもらえませんか?」

 

「──は、はい! もちろんですわ! トレーナーさん、スペシャルウィークさん、これからよろしくお願い致します!」

 

「こちらこそ! マックイーンさん、これからよろしくね」

 

「わあ! 良かったです! マックイーンさんとこれから一緒に頑張れるなんて! こちらこそ、これからよろしくお願いします!」

 

 

 こうしてチーム・ノヴァの一員に、そして俺が新たに担当させてもらえるウマ娘さんに、メジロマックイーンさんが加わる事になった。チームを始動するにあたってこれほど幸先の良いスタートも中々無いだろう。

 チームとしてはもう一人ぐらい加入してくれたら嬉しいが、今はとにかくスペちゃんやマックイーンさんのトレーニングを調整していかないと。

 

 

 うーん、マックイーンさんはジュニアAクラスだから、焦らずにトレーニングを重ねていかないとな。これだけ芯が強い娘だ…オーバーワークにならない様に気を付け無いと。

 まだ身体が出来上がっていないこの時期に自分を追いこみ過ぎて怪我をしました…なんて事は絶対に避けないといけない。何よりこの娘の素質を、特にステイヤーとしては抜きん出た素質を秘めているこの娘の輝きを、怪我で曇らせる事が無い様にしないとな。

 

 

 俺はマックイーンさんの秘めたる素質を確認しつつ、チームとしての、そして彼女のこれからのトレーニングについて考えていく。

 ……あと何となく食事、特にスイーツ類の栄養管理もしっかりしないといけないと、俺の勘が告げていた…

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 マックイーンさんがチームに加入してくれて、チームの仲間としてのトレーニングはスペちゃんにとっても、マックイーンさんにとっても、そして俺とっても新鮮なもので、ここ最近はとても充実した日々を送っていた。

 

 

 そして早いもので今日は日曜日…【東京コース・芝2000m】で競われる【GⅠ・天皇賞(秋)】の発走が近づいている。マックイーンさんの夢である【天皇賞】は、春・秋と年に二回行われる、非常に伝統があるGⅠレースである。

 

 

「わあ〜! やっぱり凄いお客さんの数ですね〜…スズカさんとエルちゃん、他の皆さんも強い方ばかりですから…どんなレースが見られるのか、今からワクワクしますね! お兄さん!」

 

「そうだね、スズカさんとエルさんはかなり調子が良さそうだ。これは目が離せないな」

 

 

 その天皇賞(秋)を観戦するため俺とスペちゃんは現在、超満員である東京レース場の関係者の方専用の特別スペースで、一緒にレースの発走を今か今かと待っている最中である。

 因みにマックイーンさんは友人のトウカイテイオーさんと一緒に観戦する先約があったらしく、お誘いした時に申し訳無さそうにお断りのお返事を頂いた。

 

 

 そのテイオーさんは沖野さんが率いるチーム・スピカに加入したらしく、マックイーンさんを迎えに来たテイオーさんの隣に、同じスピカのゴールドシップさんも居て…

 何故か彼女に引きづられながら連行されていくマックイーンさんが、「トレーナーさん! 助けてくださ──ちょ!? 速いですわ! ゴールドシップ〜!」と、俺たちが助ける間も無く消えて行った出来事があった事も忘れてはいけない。

 ……ま、まあ夏合宿の時もゴールドシップさんはマックイーンさんによく絡んでいたし、沖野さんも居るから心配する事もないだろう。…うん、きっと大丈夫だ。

 

 

 もし何かマックイーンさんの身に悪影響が見られたら、その時は精一杯ケアをしようと決心を固めつつ、俺は改めて今回の天皇賞(秋)に出走する娘たちを確認していく……

 夏合宿で治させてもらったスズカさんの身体のバランスも、今の状態を見る限り大丈夫そうだ。エルさんは一夏を越えて明らかに凄みが増している…やっぱりこの娘も強敵だな。

 …そしてもう一人、ウマ娘にとっては不治の病と言われる屈腱炎を、三度も乗り越えてここに挑んできた“アンブシュトラップ”さん。彼女の雰囲気も鬼気迫るものがあるな……“メジロブライト”さんと“キンイロリョテイ”さんの仕上がりも良いけど、上三人の仕上がりが抜けてるか…

 

 

 隣でスペちゃんも真剣な表情をターフに向ける中、役者揃いの天皇賞(秋)の火蓋が切られた。

 

 

 

 

───

──

 

 

 

『ファンファーレと大歓声が、爽やかな秋晴れの空に吸い込まれていきます。今年は13人で争われるGⅠ・天皇賞(秋)、バ場状態の発表は良です。さてゲートインはここまでスムーズ…最後に大外⑬ミールアドバンス…収まってゲートイン完了。────今スタートしました!』

 

 

『最内①サイレンススズカがポーンっと飛び出してハナに立ちます。②のエルコンドルパサーも前に行くか。外から⑧レスカリュウドも2番手を窺います。2番手以降のポジション争いが少し激しくなっているか』

 

 

『各ウマ娘向こう正面に入るところ。①サイレンススズカが先頭です──おーっと、リードは既に7バ身ほど! 大きく離れて2番手はエルコンドルパサー。エルコンドルパサー2番手に付けました。3番手すぐ後ろに⑧のレスカリュウド。また4バ身ほど離れた4番手に⑦のアンブシュトラップ。その外を周りまして⑪キンイロリョテイが5番手。1バ身ほど後ろに③のメジロブライト。──最後方に⑤のロジーナリカバリー』

 

 

『かなり縦長の隊列で、間も無く1000mの通過──57.4!? 57.4で通過! 間も無く3コーナー! ①サイレンススズカが飛ばしに飛ばしています! 2番手エルコンドルパサーとの差を更に広げたか!? 10バ身以上の差があるぞ!? 後続勢は大丈夫なのか? 捕まえられるのか? サイレンススズカは既に大ケヤキの向こうを通過しているぞ!?』

 

 

『さあ! サイレンススズカは第4コーナーを間も無く回り切って直線コースに入ってくる! このまま逃げ切る事が出来るのか!? 後ろは届くのか!? まだリードは10バ身以上ある! さあ〜! 大歓声を最初に浴びて! サイレンススズカが直線コースに向いた〜!!』

 

 

『サイレンススズカ落ちない!落ちない! いやここにきて更に加速していく! 残り400のハロン棒は通過! まさに逃げて差す!! とんでもない走りだ! このまま一人旅となるのか!? ──いや! 2番手から②エルコンドルパサーだ〜!! エルコンドルパサー諦めていない!! その差は7バ身ほどまで詰めてきた!! 3バ身後ろ真ん中から⑦のアンブシュトラップも懸命に脚を伸ばす!! その内から⑪キンイロリョテイ! そして外から③メジロブライトも上がって来ている!』

 

 

『しかし先頭はサイレンススズカだ!サイレンススズカだ! 坂を登り切って後200m! これはセーフティリードか!? 2番手エルコンドルパサーがもの凄い脚で突っ込んでくるが、サイレンススズカも脚色は衰えない!! これがグランプリウマ娘の貫禄だ!! ①サイレンススズカ! 今1着で───ゴォーーールイン!!…2バ身後ろに②のエルコンドルパサー! 3番手は少し離れて⑦のアンブシュトラップ!』

 

 

『もの凄いレース! もの凄いレースをやってのけたサイレンススズカ!! その走りに東京レース場は興奮の嵐〜!! まさに歓喜の日曜日!! 燦然と輝く、ただ一度も先頭を譲らなかった事実!! サイレンススズカお見事です!』

 

 

『そしてその勝ちタイムは──1分55秒9!! 1分55秒9です! とてつもないレコードタイムが叩き出されました!! 何と1分55秒台!! また一つ! トゥインクル・シリーズに伝説が刻まれました!』

 

 

 

───

──

 

 

 

「「………」」

 

 

 俺とスペちゃんは、あまりのレースにお互い言葉を失ってしまう…本当にそれほど凄いレースだった。

 勝ったスズカさんはもちろん、2着に敗れてしまったものの、エルさんの走りも以前までとは比べ物にならないぐらい進化している…後の娘たちも本当に凄い走りだった。

 

 

 そんなレースの余韻に浸ってしまい、俺とスペちゃんは呆然とターフを見つめ続ける。そんな中、1着に輝いたサイレンススズカさんへの勝利インタビューが始まった。

 

 

『それでは、見事に天皇賞(秋)を制覇しました。サイレンススズカさんです! おめでとうございます!』

 

「はい、本当にありがとうございます」

 

『先ずは圧巻の走りで天皇賞(秋)を制された、今の率直なお気持ちを聞かせてください!』

 

「本当に嬉しいです…支えて下さったトレーナーさん、チームの皆んな、他にもお世話になった方々、そしてファンの皆さん…沢山の方々の支えが、私の力になってくれました。本当に感謝の気持ちで一杯です」

 

『サイレンススズカさんは来年、アメリカに遠征されるという事なのですが…そのアメリカ遠征に向けても、今日の勝利は意義のある勝利だったのでしょうか?』

 

「そうですね…そこは正直意識はしていなかったんですが、間違いなく今後の力になってくれる勝利になったと思います」

 

『来年からの遠征…日本でサイレンススズカさんの走りを暫く見られなくなるのは寂しいと思うファンも多いと思います。レース直後でお聞きするのは申し訳ないのですが…次のレースのご予定はどうお考えなんでしょうか?』

 

「あくまで予定になりますが…次は【ジャパンカップ】の出走を予定しています。そして、遠征前に日本で走るのは…このジャパンカップを最後にしようと考えています。恐らくこの気持ちは変わりません」

 

『今や世界中から注目を集めているジャパンカップ。世界からも強力なライバルがやって来ることが予想されますが、サイレンススズカさんは今最も意識しているライバルの存在などはあるのでしょうか?』

 

「はい、私がジャパンカップを最後にしたい最大の理由にも繋がるのですが…この舞台でスペちゃんと──先日無敗の三冠ウマ娘に輝いたスペシャルウィークさんと一緒に走りたいんです。そして彼女に勝ちたい…彼女に勝って、私は最高の自信を持ってアメリカに向かいたいと思っています」

 

『スペシャルウィークさんと…これはもし本当に対決が実現したら、またもや凄いレースが見られそうですね! それでは、最後にファンの皆様へメッセージをお願い致します』

 

「はい、皆さんの応援はいつも私の力になっています。いつも本当にありがとうございます。来年からは暫く皆さんの前で走る事が出来なくなりますが…その分、次のジャパンカップでは今日以上の景色が見られるように──私の最高の走りでファンの皆さんにお返し出来たらと思っております。改めて、今日は応援して下さって本当にありがとうございました」

 

『ありがとうございました! ファンの皆様、最後に大きな声援をお送りください。天皇賞(秋)を制された、サイレンススズカさんでした! 本当におめでとうございました!』

 

 

 

───

──

 

 

 

「……お兄さん、お願いがあります。私…ジャパンカップに出走したいです! 私もスズカさんと走りたい…そして何より、スズカさんに勝ちたいです! スズカさんの想いに、私も全力で応えたいんです!」

 

 

 インタビューでの、スズカさんからの宣戦布告…それを受けたスペちゃんは瞳に頑固たる意志を宿して、その瞳で真っ直ぐに俺の事を射抜く。

 これは俺が何と言おうと出走するつもりだろうな…まあ、元より俺もそのつもりだったから嬉しいんだけどね。

 

 

「そうだね…あれだけ真っ直ぐスペちゃんと走りたいって言ってくれたんだ。ここで応えられなきゃバチが当たるよね。よーしスペちゃん、次はジャパンカップだ! スズカさんはもちろん、他のライバル達も手強いだろうけど…また一緒に乗り越えよう!」

 

「はい! ありがとうございます! よーし、ジャパンカップに向けてけっぱるぞー!」

 

 

 グッと握った拳を天に突き上げて気合いを入れるスペちゃん。その様子を見て、俺も自分に気合いを入れ直す。

 スズカさんはもちろん、世界からのライバル、初のシニア級との対決、力を付けた同期のライバルとの再戦……ライバル達に何をされても乗り越えられる様に、もう一度トレーニングと調整の仕方を見直さないとな。

 

 

 スペちゃんの次走も決まり、俺たちはお互いにジャパンカップへ向けての気合いを高めながら帰路に着いた。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 天皇賞(秋)の翌日、早速スペちゃんはジャパンカップに向けての、マックイーンさんはデビュー前の念入りな身体作りの為のトレーニングをこなして、トレーナールームにて明日のトレーニングについての説明を行なっていた最中、

 コンコンと…少し躊躇いがちに扉をノックする音に俺たちは思わずそちらに顔を向ける…どちら様だろうか? 少し不思議に思いつつも、俺は「はい」と返事をして扉を開ける。するとそこに立っていたのは──

 

 

「ん? アドマイヤベガさん?」

 

「こんばんは…突然押しかけてごめんなさい。──ッ!? もしかしてミーティング中…ごめんなさい、また出直すわ」

 

「あれ? アヤベさん? あ、やっぱりアヤベさんだ! 先日はお昼の相席を許して下さって本当にありがとうございました! 今日はどうかされたんですか?」

 

「アドマイヤベガさん? 何だか少し意外なお客さまですわね…トレーナーさん、わたくし達は大丈夫ですが…上がっていただきますか?」

 

「そうだね、せっかく来てくれたんだし…アドマイヤベガさんさえ良ければ、遠慮なくどうぞ」

 

「…本当にごめんなさい、お言葉に甘えるわ。スペシャルウィークさんもメジロマックイーンさんも、本当にありがとう」

 

 

 そう言ってかなり申し訳なさそうにするアドマイヤベガさんを、俺たちは「気にしないで」と声を掛けながら、スペちゃんとマックイーンさんにソファへと案内してもらう。

 俺はその間、先日のようにミルクティーとバウムクーヘンを素早く用意してお話を聞く体勢を作った。

 

 

「──ッ!」(……ふわふわ…)

 

 

 …ん? ソファに座った瞬間、アドマイヤベガさんが固まってしまったのだが…どうしたんだろうか? 見た感じ…オーバーワークによる疲労が少し残っている感じなので、どこか痛めたりしているのだろうか? しかしそんな感じでもない様な…

 

 

「…っ! そ、その…今日は、貴方にお願いがあって来たの」

 

「お願い? 俺に?」

 

「そう……貴方に…私の担当トレーナーになって欲しいって…貴方のチームに、私を入れてくれないか? って…お願いしに来たの」

 

「え!? アヤベさん、ウチのチームに入ってくれるんですか!?」

 

「それなんだけど…これから話す事、不快な気持ちにさせると思うから…先に謝らせて。…私は正直、独りで走れるならそれが良かった。だけど現状、トレーナーがいないとトゥインクル・シリーズには出られない。…だから、選ばなければならないなら──トレーナーさんが、このチームが良かった……私が走る為にただ利用する…このチームを選んだ理由が、そんな最低な理由…」

 

 

 そう告白した彼女は、そんな自分自身を責める様に悲痛な表情を浮かべていた。何ともまあ、真面目で優しい娘なんだな…なんて感想を俺は抱いた。

 ウマ娘とトレーナーの契約がドライになる事なんて別に珍しくも何ともない事だ。お互い必要以上に関わらない…そんな距離感を保ちながらレースに挑むグループも普通に居るからな…

 

 

 そんな現状を知りつつも、彼女は俺やチームを利用する形になってしまう事をこれほど思い詰めているのだ…優しいというか自分に厳しいというか……

 元々、朝練での交友から感じていた事ではあったのだが、この娘は自分を必要以上に追い詰めてしまうところがあるのかもしれない…

 

 

 こういう娘は自分の事を蔑ろにしてしまい、怪我などで壊れてしまう可能性がある…何よりそんなアドマイヤベガさんの様子を見て、俺自身はもちろん、スペちゃんとマックイーンさんも少し心配そうな表情で俺の事を見た。…そうだよね、ほっとけないよな。

 

 

「アドマイヤベガさん。確かに君の行為は利用するという事なのかもしれない。だけどそんなの自分が走りたいのなら当然の選択肢だと俺は思う。そして何より俺は君のそんな考えを聞いた上で、アドマイヤベガさんの力になれるのなら俺は喜んで力を貸したいと思ったよ」

 

「…え? そ、それって…」

 

「ああ! アドマイヤベガさん。俺は君の走りを…君が目指す夢を少しでもお手伝いできる権利を貰えたら嬉しいと思います。是非ウチのチームに、俺の担当ウマ娘になって貰えませんか?」

 

 

 俺はそう言って、右手をアドマイヤベガさんに差し出した。するとかなり躊躇しながらも、しかしゆっくりと、アドマイヤベガさんは俺の差し出した手を握ってくれた。

 

 

「こちらこそ…勝手なお願いを聞いてもらって本当にありがとう。…スペシャルウィークさんもメジロマックイーンさんも、これから…その…よろしく」

 

「はい! アヤベさん、ようこそ! チーム・ノヴァへ! これからよろしくお願いしますね!」

 

「こちらこそよろしくお願い致しますわ。アドマイヤベガさん、共に高みを目指しましょう!」

 

 

 こうして、俺たちチーム・ノヴァに新たなメンバー…アドマイヤベガさんの加入が決定した。

 彼女は既に高等部、来年はクラシック級での戦いになるから…それに向けて彼女が納得出来るようなトレーニングを組んでいかないとな。そうじゃないと確実にオーバーワークをしてしまいそうだし…

 

 

 アドマイヤベガさんの今後のトレーニングを組み立てつつ、スペちゃんのジャパンカップに向けた準備も、マックイーンさんの身体作りも、もちろん他の業務も…

 これから更に忙しくなりそうだが、俺は不思議と充実した気持ちで満たされていたのだった。

 

 

 ……因みにその後バウムクーヘンを口に運んだ瞬間、再びアドマイヤベガさんが固まってしまい、俺はまたもや首を傾げることになった。

 

 

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 次はスペちゃんのジャパンカップ挑戦…スズカさんとの対決が待っております。マックイーンさんとアヤベさんがチームに加入しましたし、果たしてどうなる事やら…


 それにしてもマックイーンさんがチームノヴァに入っちゃいましたね! アニメ版とは違い、スピカに入る運命を捻じ曲げてしまいゴルシちゃんは凹んでるかもな…まあけど入れちゃったもんはしょうがねぇよ! ゴルシちゃんすまねぇ☆


 ……え? あれ? ゴルシちゃん? 何で次元の壁を超えてこっちの世界に来てるの!? …もしかして今の発言聞こえてた?
 ……い、いやほら! ちょっとした言葉の綾というかさっ! 君の事をバカにする気持ちなんて毛頭無かったというか───待って? ねぇ何でドロップキックの体制に入ってるの? 筆者は君のトレーナーさんみたいなビックリ人間じゃないから洒落にならないよ? ねぇ落ち着こう? 話せば分かるから! ね!? 話し合おう! だから無言で距離を詰めるのやめてゴルシさん! 本当に! 本当に待ってゴルシさ──ぶべらぁぁぁぁっ!!!


 筆者の反応はここで途絶えている…
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