まず始めに皆さま申し訳ございません。菊花賞での“レコード表現”を書き忘れておりました。
以前からご感想でもご指摘を頂いていたのですが、すっかり忘れてしまっており…現在は加筆させて頂いております。修正が遅れました事、大変申し訳ございませんでした。
※スペちゃんの勝ち時計が《3分1秒4》。セイウンスカイさんの走破時計が《3分2秒7》です。実際の競馬で計測したタイムよりかなり速いですがご了承ください。
※この拙作でのトレーニングやレースに関する事柄は、筆者の空想が入っております。
※レースの開催日時などは基本的に、2023年時点での実際の競馬を参照としております。
しかし【ホープフルS】が有馬記念の前に行われたり、【京都新聞杯】が【菊花賞トライアル】だったりと……割とご都合主義となっております…
スペちゃんが並いるライバルの皆さんを抑えて、怪我なく無事にジャパンカップを1着で駆け抜けてくれたあの日から、早いもので9日が経過した日の早朝。
12月に入ってから一気に冷え込みが厳しくなってきた最近…特に早朝の時間帯は凍える様な寒さのため、朝練での怪我のリスクが上がってしまい注意が必要である。
そしてトゥインクル・シリーズは秋から冬にかけてGⅠレースも多く、盛り上がる時期のため…朝練に参加する娘たちは必然的に多くなる。
もちろん自分の夢に向かって直向きに頑張る彼女たちを邪魔する事なんて出来ないが、その頑張りが怪我で水の泡になりました…とならない為にも、朝練を行なっている担当の娘を見守る先輩方はもちろん、勝手ながら個人で朝練の見回りやターフの手直しを行なっている俺も細心の注意を払って目を光らせる。
これから朝練に励む娘たち、その娘たちを担当されておられる先輩トレーナーさんらと挨拶を交わしながら、俺は皆さんに身体を温めてトレーニングがしやすい様にと作っておいた生姜スープを差し入れしていく。
作り方は簡単、鶏ガラで出汁を取り、生姜とワカメと胡椒、そしてそこにチートを少々加えたら完成である。ご家庭にチートがない方は代わりに愛情を入れてあげると、俺が作るのとは比べ物にならないぐらいの物が出来上がるのでオススメです!
実際かなり身体が温まる! いつもより身体が動かしやすい! と、朝練を行う時のスペちゃん、マックイーンさん、アヤベさんにも好評だった。
ちなみにスペちゃんはまだジャパンカップでの反動が、マックイーンさんとアヤベさんもここ最近のトレーニングでの疲労が気になった為、「今日は朝練をせずに休んでほしい」と伝えている。
レースが近づくと朝練を行う事が多くなるスペちゃんはもちろんだが、いつも比較的朝練を行う頻度が高いマックイーンさんとアヤベさんも、こうして俺のお願いをしっかり聞き届けてくれているあたり、少しは信頼関係を築けているのかな…と嬉しく思ってしまうのは仕方ない。
そんな事を思いながら今日の早朝見回りを終え、今日も誰一人として怪我人が出なかった事に心から安堵しつつ、俺はトレーナールームへと戻りその日の通常業務を早急にこなしていく。
この時期は本当に色々あって学園も大忙しのため、何か少しでも負担を減らせる様に動いていないと落ち着かないからな…秋川理事長とたづなさんにも「年末年始は必ず! 必ずゆっくり休みますから!」と熱い説得を行い渋々了承してもらった。
特にたづなさんの説得は大変だったな…最終的には学園内にニンジン畑を作ろうとしていた秋川理事長に、「了承してくれたら農家出身の私がその計画に全面協力致しますぜ」と悪魔の囁きを行い、秋川理事長と一緒に何とか押し切った。今度絶対にお二人にはお詫びをしておこう…
そうしてその日の業務・学園のサポート・学園内のメンテナンスなどを行なっているとあっという間に時間は過ぎ、皆んなのトレーニングが始まる放課後を迎えた。
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今日のトレーニング準備も完了し、今日はスペちゃん→アヤベさん→マックイーンさんの順番で授業を終えて部室にやって来た三人に挨拶と労いの言葉を掛け、今日のメニューの確認や軽い談笑を行なう。
そして俺は用意しておいた備品を持って先にグラウンドで待機。間も無くしてジャージに着替え終わった三人が合流し、俺たちは現在グラウンドにて身体をほぐすウォーミングアップを行なっているところである。
「ふぅ…ようやくジャパンカップでの疲れが落ち着いてきた気がします〜。身体も随分と軽くなりました。これもお兄さん、マックイーンさん、アヤベさんが支えてくれたお陰です! 本当にありがとうございます!」
「わたくしは何もしておりませんわ、お礼でしたらトレーナーさんとアヤベさんに言ってあげて下さいな。…ですが、回復なさって本当に良かったですわ。ここしばらくは本当に心配でしたから…」
「私も何もしてない。だからお礼を言われても、正直困ってしまうから気にしないで大丈夫よ。…とにかく回復して本当に良かったわ。あれだけの激走での疲労だもの、普通なら回復までもっと時間が掛かるか…最悪、脚に異常が起きても不思議じゃ無かったと思うから…」
「二人ともこう言ってるけど、マックイーンさんはメジロ家の貴重な医療ノウハウの提供を説得してくれて、アヤベさんもGⅠウマ娘であられるお母さんに連絡をとってくれて、色んな伝手を紹介してくれたんだよ」
「なっ!? と、トレーナーさん!?」
「──ッ!? ちょっと!」
「わあ! お、お二人ともそんな心遣いをして下さっていたなんて…本当にありがとうございます! 嬉しいな〜! もし、お二人が何か困った時は私も絶対にお二人のお力になりますからね!」
「マックイーンさん、アヤベさん、俺からもお礼を言わせてほしいです。今回は二人の力を貸してくれて本当にありがとう! 俺も必ず二人の支えになってみせるよ!」
「は、恥ずかしいですわよお二人とも…同じチームの仲間として当然の事をしただけです。スペシャルウィークさんがここまで早く回復なさった一番の要因は間違いなくトレーナーさんのお力ですし……そ、その…まだ短い間ですが、トレーナーさんは十分わたくしの支えとなっておりますわ」
「…私もチームメイトとしてほっとけなかっただけ。母に連絡を取ったのも、たまたま私の家族にそういった人が居ただけだから。……マックイーンさんの言う通り、トレーナーさんの力が一番大きいもの。…だ、だからそんな恥ずかしいセリフを…真っ直ぐ言われても、困るから止めて」
スペちゃんと俺が改めてお礼の言葉を伝えると、マックイーンさんもアヤベさんも恥ずかしそうにお礼は不要だと言ってくれる。
けど、お二人には本当に助けてもらったからな…今度は俺がお二人の力になれる様にもっと精進せねばなるまい。
お二人が心配していた通り、今回のスペちゃんの疲労具合は本当に酷かったのだ。レース直後、スペちゃんの勇姿を見て込み上げてくるものを何とか抑えながら喜びに浸っているのも束の間…
遠目からでもスペちゃんの疲労具合を確認できた俺は、一緒に観戦していたマックイーンさんとアヤベさんに断りを入れ、すぐさまレース後の娘たちが引き上げる時に使う地下通路へと急いだ。
地下通路に到着してしばらく、一緒にレースを走ったライバルの娘たちと挨拶を交わし終えたスペちゃんの姿を確認した俺は、真っ先にスペちゃんの元へと駆け寄り、「お、お兄さん?」と少し困惑しているスペちゃんに謝りながら間近で状態を確認していく。
スペちゃんはレース後の興奮で麻痺していたが、明らかに今まで以上の疲労具合だったのだ。幸いな事に脚や身体に炎症などの異常は見受けられなかったのでそこは一安心だったのだが、俺は念の為にスペちゃんを控え室に連れて行ってマッサージを始めとした、溜まった疲労を少しでも軽減するケアを行なっていった。
下手をしたらウイニングライブを行えない可能性もあったからな…
そして今思えば…控え室に連れて行く際に少しでも負担が掛からない様にと、咄嗟にお姫様抱っこでスペちゃんの事を運んでしまった…
スペちゃんも「ふぇえ!? お、おおお兄さん〜っ!?」と顔を真っ赤にして恥ずかしがってたよな……あの後ちゃんと謝ったらスペちゃんは特に怒りもせずに許してくれたけど…本当に反省だ。心配だったからとは言え、あれは本当に申し訳無かった。
ただそれ繋がりでここ最近、一つ謎な出来事も起きていた。それはトレーニング終わりにマックイーンさんとアヤベさんが帰った後、スペちゃんは疲労が抜け切るまでは本当に軽めのメニューをこなし、疲労軽減を促進する為のチートマッサージを連日行なっているのだが、
そのマッサージを行う為のソファに向かう際に何故かスペちゃんが「ま、まだその…つ、疲れが〜 ひ、ヒドイ…カモナ〜」と言って、お姫様抱っこで運んで欲しいとお願いされるのだが…これはどういう理由なのだろうか?
いや俺は別に問題ないどころか…そうやって運んであげると「うわぁ! …えへへ〜」と、何故かスペちゃんが喜んでくれるから全然嬉しいんだけど…
ま、まあこの謎に関しては今度ゆっくりと考えるとして……今はとにかく三人のトレーニングに集中しないとな。スペちゃんもまだ万全では無いもののジャパンカップでの疲労もかなりマシになっているし、今日から早速普通のトレーニングにある程度戻していく。
マックイーンさんは身体の負担を減らす走りの強化を、アヤベさんは負担を減らす走りに加えて直線でのスパート時のスピードコントロール技術を掴む練習も同時に行なっていく。
スペちゃんがどうして少し急ぎ気味にトレーニングを戻すかと言うと…スペちゃんから「有馬記念に出走したい」とお願いがあったからだ。
もちろんジャパンカップでの反動を考えたら見送りたいところではあったのだが…ジャパンカップで色々と、特にスズカさんから感じるモノ・受け取ったモノが大きかったのだろう。
スペちゃんから絶対に出走したい! という頑固たる意志を感じ取った俺に残された選択肢はたった一つ…その為にスペちゃんを全身全霊で支える。これのみである。
絶対に怪我をさせない事が大前提なのはもちろん、まだ本格化が済んでいない影響もあって疲労が中々抜け切らない難しい状態であっても、何とか出来うる限りの最大限の状態で有馬記念を迎えられる様に調整する。
…本格化が済んでいない以上、ここでチートを使って無理やり最高潮の状態に持っていってしまうと…恐らくスペちゃんの身体が耐えられないだろう。
そのため有馬記念には間違いなく万全の状態では挑めない…その制限の中で最大限の仕上げで挑むしか無いのが現状だ。
これ程までにジャパンカップでの反動が大きかったのは、確かにスズカさんの感嘆のため息しか出ない程の凄すぎる逃げによる超ハイペース、その逃げに臆さず真っ向勝負で立ち向かったライバルの皆さん…そんな凄い娘たち相手に勝ち切るほどの力走をすれば、疲労困憊になるのは仕方がないとは思う。
だが原因の一つに、当日の“超高速バ場”による影響も俺は絶対にあったと思っている。《2分20秒2》という勝ちタイムからも想像できる通り、あの日の東京レース場のバ場は間違いなく過去一番ぐらいに高速化していたからな……
もちろんあれ程の勝ちタイムを叩き出せたのはこれまで頑張ってきたスペちゃんだからこそだよ? そこは譲りません。
このバ場の高速化に関して、俺個人の考えとしてはもう少し慎重になるべきではないのかな…と思っているのだが、では高速バ場が正解か? 不正解か? という事に関してはお一人お一人の価値観によって変わる事だと思っているし、だからこそ正解を決める事なんて出来ない。
俺も自分の考えが絶対に正しい! なんて言えないし、高速バ場の方が良いという考えを持たれている方を間違っているなんて事も思っていない。
まあ、じゃあその上で何で俺がバ場の高速化に慎重になるべきだと思っているのかと言うと、俺の中では二つの懸念がある為である。
一つ目は【1レースごとの消耗が大きくなるだろう】という事。二つ目は【内枠有利・逃げ、先行有利という流れが加速化してしまうだろう】という考えがあった為だ。
一つ目の【1レースごとの消耗が大きくなる】というのは、バ場が高速化する→道中のペース・上がり3ハロンのタイム・勝ちタイムが必然的に皆んな速くなる→勝つ為にはそれ以上に速く走らないといけなくなる→1レースごとの消耗が大きくなる……と、俺は思っているのだ。
更に怪我をさせない為にも出走レース数を今ほどこなせなくなる…という事にもなると思う。そうなってしまうとファンの方にとっても、ウマ娘たちの成長にとっても良くないかもしれない。
ただこれに関してはちゃんとしたデータを用意して科学的に証明する事がまず不可能に近い。
走ったウマ娘の娘たちお一人お一人の脚質・年齢ごとのデータ、先人の方々が築き上げて下さった育成技術・医療技術の発達もちゃんと考慮に入れた上でのデータ、これらの莫大な量のデータを集めきった上で分析しないといけない為、やろうとすればとんでもなく大変な事になる…
仮に俺が論文などを提出しようにも、何故そのお考えが正しいと言い切れるのですか? → 俺のチートがそう言っていたからです♪ → 気は確かですか? と言われてしまうのがオチだろう。
俺が逆の立場でも先ずその人の正気を疑ってしまうだろうし。難しい問題だよな…
そして二つ目の【内枠有利・逃げ、先行有利という流れが加速化してしまう】というのは、先の“皆んな速い上がりが使える様になる”という部分も関係してくるのだが、
内枠でスタートを決める→道中を前目で楽して追走して直線は早め先頭で抜け出す→ある程度余力があれば33秒台…下手をすれば32秒台の上がりが使える→後ろにいる娘たちがどれだけ速く走ろうと物理的に届きません…となってしまうと俺は思っている。
ウマ娘という生き物の身体の構造上、出せる速度には限界があるからな…
これも難しい問題だが、見方によっては内枠を引いた娘・前に行った娘が勝ちまくる不公平なバ場状態になってしまう。とも言えるのかもしれない……
後は乗り切ったスピードでの惰性でゴールする事も可能になる為、スタミナは二の次! とにかくスピードが命! となってしまって日本のレースがガラパゴス化してしまい、ジャパンカップに海外からの挑戦者が誰も来ない…という事になる恐れもあるかもしれない。まあ、考え過ぎかもしれないけどね。
ただ今回のジャパンカップでのバ場に関しては整備士の方々の職人技によって、高速化しているのに内も外も公平に同じぐらい伸びる。
という奇跡のターフを作り上げて下さっていた為、勝負の公平さはもちろん海外の皆さんからも「走り易くて素晴らしいバ場でした」というお声を頂いている。
当日に整備して下さった方々には本当に感謝してもしきれないお気持ちで一杯である。
…しかしだからこそ、こんな神業じみた調整を毎回やって下さい! というのは余りにも酷なお願いなので、それならもう少し高速化に関しては慎重になった方が良いのでは無いでしょうか? というのが俺の考えだ。
実際に後日、この事に関してはトレセン学園内・URAの方々・トレーナーの皆様の間でも話題になっており、様々な意見が飛び交っているのが現状である。秋川理事長・たづなさん・東条さん・沖野さんらが、比較的に俺と同じ意見だった事は嬉しかったんですけどね。
とまあ、こんなこれから皆んなで考えていくべき事について同時並列思考をかましながら、俺は既にトレーニングに入っているスペちゃん、マックイーンさん、アヤベさんの三人に目を光らせる事も抜かり無く行なっている。
スペちゃんは有馬記念を想定した、前半の1000mが61.0ぐらいで流れるペースで外周トレーニングを行なっている。
今まで休ませていた筋肉の使い方やレース勘がみるみると戻っている様子は、流石スペちゃんだな…と思わず感動してしまう程だ。
ただやっぱり、ジャパンカップ前の時と比べてしまうと万全とは言えない状態だ。だが必ず残りの3週間で出来るだけ近い状態に持っていく。
マックイーンさんは身体の負担を減らす走りがかなり身に付いており、それに伴いラスト直線でのスピードが、これまでとは比べ物にならないほど速くなっている。
今はそれらを更に高める為に、今まで平坦コースで行っていたのと同じメニューを坂路で行なっている。勝手が違うため最初は少し戸惑っていたが…マックイーンさんもみるみると感覚を掴んでいっており、こちらも流石だなと感動しかない。
アヤベさんは元から身に付けていた天賦の才とも言えるラスト直線で繰り出す圧巻の末脚を最大限に活かすべく、
後半から助走をつけるかの如く滑らかに加速していってエンジンを温めておき、直線では好きなタイミングで末脚を爆発させられる様なスピードコントロール技術を身につける為に、敢えてハイペースという苦しい状況での外周トレーニングでその感覚を掴んでいっている。
これは実際のレースによる経験も必要だろうから……そろそろデビュー戦の出走を打診してみようかな。
三人のトレーニングを見守りながら、それを見て感じた事・手解きが出来そうな部分を伝えたり、三人それぞれの今後のメニューやプランについて練り直しを行なっていったりしながら、その日のトレーニングを終えていく。
そしてトレーニング終わりにアヤベさんへデビュー戦の打診をしたところ、「出るわ。出走日やコースはどうするの?」と即答を頂いたため、俺は有馬記念の前日である12月26日(土)・中山コース・芝の2000mでのデビューはどうだろうか? と提案した。
12月に入って中山・中京・阪神に開催地が移ったトゥインクル・シリーズ。開幕週の中山コースのバ場を見る限り、中山コースは例年と変わらないバ場傾向である事を確認できた。
アヤベさんが来年どのレース・路線を目標にするにしても、このコースと距離を経験しておくのは大切な事だと思う。仮に三冠ウマ娘路線に行くのなら【皐月賞】と同じ舞台だからね。まあバ場傾向が来年も同じかどうかは分からないけど…
その様な意見を伝えると、「分かった、問題ないわ」と了承のお返事を頂けたので、早速あとで出走の申請をしておかないとな。
そして後片付けやグラウンドの整備、連絡事項と全員それぞれの挨拶も終わって、スペちゃんとマックイーンさんは着替えの為に部室へと向かう中、アヤベさんはそのまま真逆の方向へと歩き出す。
「あれ? アヤベさん、どこに行くの?」
「…自主トレに。公園を通って、それから河川敷を往復。そこから高台の公園まで行って引き返せば、ちょうど門限だから」
なるほど自主トレか……うん、そこまで疲労の色も濃くないし、体力もかなり付いているから問題ないだろうな。あと河川敷を往復するなら…これを意識したら感覚を強化出来るかな。
「そっか、教えてくれてありがとう。行ってらっしゃいアヤベさん。あと、出来れば河川敷を往復する時にいつもよりストライドを伸ばして走ってみて欲しい。アヤベさんならいつもとは違うストライドで走る事で、力の出力の技術を身に付け易いと思うから」
「なるほど……分かったわ。貴方なら無責任に言っている訳でも無いだろうから」
「ありがとう、何かあったらいつでも連絡をくれて構わないからね。その時は直ぐに駆けつけるから」
「……貴方は、どうしてそこまで……いえ、良いわ……恐らく連絡する事は無いと思うから…」
アヤベさんはそう言うと早足で校門の方まで歩いて行った……うーむ、やっぱりスペちゃんやマックイーンさんに対してほど距離が縮まっていない気がするな…
でもこればっかりはゆっくりと信頼関係を築いていくしかないだろうな。連絡が無かったら無いで、何も問題が起こらなかったと言う事で俺としてはそれだけで一安心だからね。
そんな気持ちでアヤベさんの背中を見送り、着替え終わったスペちゃんとマックイーンさんに手製の抹茶カントリーマ○ムと抹茶ラテを楽しんで貰いながら、しばらく三人で談笑を交わしていた。
スペちゃんはもちろん、マックイーンさんも「外はサクサク、中はしっとり。抹茶とチョコの甘さのバランスが絶妙で…て、手が止まりませんわ…」と美味しそうに食べてくれる姿にほっこりする。
俺のトレーニングメニューって色んな筋肉を満遍なく使ったりするから、想像以上にカロリー消費が激しいからな…少しでもカロリー補給をして貰えればと思う。
そんな感じでトレーニング後のティータイムを楽しみ、門限前に二人を栗東寮まで送り届けて軽く部室の掃除を行なっていると、自主トレから帰ってきたアヤベさんが着替えと荷物を取りに来たついでに挨拶をしに来てくれた。
こういったちょっとした事でも凄く嬉しく思ってしまうのは仕方ない。
アヤベさんに、ルームメイトのカレンさんの分も含めた抹茶カントリーマ○ムと疲労回復を促進するスポーツドリンクを渡し、渋々といった感じで受け取ってくれたアヤベさんが栗東寮へと戻っていくのを見送ってから、俺も自身のトレーナールームへと戻りその日を終えていった。
♢♢♢
主人公たちがトレーニングに励んでいる中、ここチームリギルの練習場でも、チームを率いる東条ハナ・トレーナー監修による、厳しくもお互いの信頼関係がなければ決して成り立たないトレーニングを、それぞれのメンバーが真剣にこなしていく。
特に12月20日(日)の【朝日杯FS】を控えているテイエムオペラオー、翌週の【有馬記念】を控えているグラスワンダーとエアグルーヴ、年明けの【ウィンタードリームトロフィー】を控えている面々の雰囲気は、ピリピリとした独特の緊張感を漂わせている。
…その中でも有馬記念に出走予定のグラスワンダーは、驚異的なスピードを発揮しながらコースを駆け抜けている。
「はあっ…はあっ…ふぅ〜…」
「よし、良いタイムだ。ラストの追い上げの形も良い。脚の具合は完全に治ったみたいね」
「ありがとうございます。ですが…まだ自分の中で納得のいく形ではありません…もう一本お願いします!」
「焦らなくて良い…と言っても、本番が近づいているこの状況では難しいでしょうけど、自分自身をもっと信じなさい」
「……はい…」
「毎日王冠、負けた事がショックだったか?」
「いえ、あのレースでは…しっかりと復帰初戦の手応えを感じる事が出来たので。もちろん悔しさはあります。初めての敗北…あの感覚に、慣れたくはありません」
「なら、スペシャルウィークの存在?」
「…はい、有馬記念…スペちゃんからも出走すると聞いていますから」
「私も聞いた時は正直驚いたわ。ジャパンカップはあれ程の激戦だったもの。エアグルーヴの様にトゥインクル・シリーズでのラストランだからという理由ならまだ分かるけれど…流石は彼が担当に就いている。という事かしらね」
「…私は今回の有馬記念、必ずスペちゃんに勝ちたいんです。エアグルーヴ先輩や他の皆さんを侮っている訳ではありません。ですが、全力でぶつかって…その上で勝利を掴み取りたいんです」
「……分かった、ならもう一本だけだ。次の一本で必ず今の自分が納得できる走りをしてみせなさい。本番のレースは泣いても笑っても一発勝負よ。二度目はないわ」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
今回が初対決となる同期のライバルへの闘志を宿して、未だ底を見せていない“未知なる栗毛”のウマ娘は、静かに、丁寧に、鋭く、まるで刃を研ぐ様に己の気持ちを高めていく。その闘志が、しっかりと本番で溢れ出る様に…
こうしてそれぞれのウマ娘たちが各々の想いを抱えながら挑む、GⅠ・有馬記念のゲートが、いよいよ開かれようとしていた──
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
次回はアヤベさんのデビュー戦と、スペちゃんの有マ記念回になります。
※この拙作での高速馬場に対する事柄は、全て筆者の空想が入った戯言です。また、各ウマ娘たちが史実とは異なる実績やローテンションを歩んだりしますがご了承頂ければと思います。
下では今回の有マ記念ファン投票最終順位を、15位まで発表しております。
1位・スペシャルウィーク(出走)
2位・サイレンススズカ(回避)
3位・タイキシャトル(回避)
4位・エアグルーヴ(出走)
5位・エルコンドルパサー(回避)
6位・メジロブライト(出走)
7位・メジロドーベル(出走)
8位・セイウンスカイ(出走)
9位・キングヘイロー(出走)
10位・グラスワンダー(出走)
11位・キンイロリョテイ(出走)
12位・マチカネフクキタル(出走)
13位・アンブシュトラップ(出走)
14位・シーキングザパール(回避)
15位・キヌコスモス(出走)