話が長くなってしまった為、アヤベさんのデビュー戦とは2話に分けさせて頂いております。
今回の有マ記念にスペちゃんが出走するにあたり、史実で出走している『オースミタイクーン号』が除外される形となっております。オースミタイクーン号、関係者の皆様、ファンの皆様には大変申し訳ございません。
※この拙作でのレースに関する事柄などは史実とは異なったり、作者の空想が入っておりますのでご了承ください。
底冷えする程の空気に包まれて、生憎の曇り空で開催されるであろう有馬記念当日の早朝。
俺はチーム部屋にて、スペちゃん、マックイーンさん、アヤベさんの前で《中山レース場・立体ジオラマ》を使った本日の有馬記念に向けての最終確認を行なっている。
スペちゃんはもちろん、マックイーンさんもアヤベさんも自主的に傾聴を希望してくれた。
「じゃあスペちゃん、改めて今日の有馬記念のコース確認をしておこう。外回りの3コーナー途中からスタートして、それからはゴールまで内回りコースで走る事になる。スタートから最初の4コーナーまでが192mしかないから、ポジション取りを失敗しちゃうと道中かなり外を回る事になってしまう。その後に一周目のスタンド前通過もあるから大歓声にも注意しないといけない」
「やっぱり最初のコーナーまでが短いですね。今回は大外枠ですし…他の人達のスタートが綺麗だったら、最後方ぐらいまで下がる事も考えておかないと…」
「そうだね、スペちゃんのスタート技術なら逃げる事も出来るけど、その場合恐らくセイウンスカイさんが競りかけて来る。中山コースの形態上、道中は出来るだけスムーズに追走したいから…今回逃げの戦法は使わずに行きたいな」
「中山コースの形態上。というのはどういう事ですの?」
「中山コースは日本のレース場の中で一番の高低差を誇るんだ。2階建ての建物に匹敵するほどの5.3m…そんな起伏の激しいコースを2500mも走らないといけない上に、直線ゴール手前には高低差2.2mもある急坂まで待ち構えてる…その急坂を駆け上がる為にも道中での消耗は極力避けておきたいんだ。この辺りは同じく高低差の大きい京都レース場と似ているから、親和性が高いかもしれないね」
「なるほど…それは改めて、本日のスペシャルウィークさんの走りをしっかりと見届けないといけませんわね」
そう、中山レース場と一番親和性が高いレース場はどこ? と考えたら、俺は京都レース場だと思っている。
“直線に急坂がある”という部分は阪神レース場の方が近いかもしれないが、阪神レース場は道中が平坦で、直線はゴール前の急坂を迎えるまで“ずっと下り坂”になっているため直線まで楽をして、その下り坂で自然と勢いに乗れれば惰性で駆け上がる事が出来る。
だけど中山レース場はそうはいかない。道中の起伏も激しく、最後の急坂を迎えるまでの直線がほぼ平坦のため勢いのまま駆け上がる事はまず出来ない。最後の最後で踏ん張り切る…そんな底力が必要になってくる。
その点京都レース場も道中の起伏が激しく、第4コーナー手前で急激な登り坂があり、それを超えると急激な下り坂、そして最後の直線は平坦。
逃げている娘以外はこの下り坂に入ったあたりでロングスパートを仕掛けないと先ず前には届かない。直線まで楽をする…という事が出来ないため、京都レース場でも同じく最後の底力が試される。
「そしてスペちゃん、今回出走する皆さん全員が強敵だけど…その中でも、特にグラスさんには注意しておいて欲しい。グラスさんは1枠2番で内外離れているとはいっても、あの娘の真骨頂は“徹底マーク戦法からの抜け出し”だ。今回は間違いなくスペちゃんはマークされる立場だからね」
「グラスちゃんのマーク…日本ダービーの時も、エルちゃんからマークされて息を乱しちゃったから…今回はそういった事が無い様にしないと…」
グラスさんもエルさんと同じく、“マイルGⅠでも勝てる程の非常に高いスピード能力”を誇る。そういう娘にマークされた上で直線勝負に持ち込まれると…
そのスピード能力も合わさって一気に抜き去られる恐れがあるからな…マークされたプレッシャーで息を乱してしまったら尚更だろう。
「この後の最終調整は軽めとは言っても、改めてこの道中のスムーズさを意識して調整しようか」
「…なら、最後の調整も私が併走するわ。後ろから行くのなら私の脚質と一緒だし、軽めでの併走なら今の私でもマークに近い事は出来るかもしれないから」
「わたくしも微力ながらご協力させて頂きますわ。前に走る者が居れば、少しでも本番のレースに近づけられるでしょうから」
「わぁ! アヤベさん、マックイーンさん、お二人とも本当にありがとうございます! ぜひお願いします!」
「アヤベさん、マックイーンさん、俺からもありがとう。二人の力を貸して貰えるなら、こんなに心強い事はないよ」
「別に同じチームなんだし気にしなくていいわ。…それに、力を貸してもらってるのは私も同じだから…貰いっぱなしだとバランスがおかしくなる。それが嫌なだけ」
「わたくしも、いつもお力添えを頂いておりますから…そのご恩をお返しさせて頂く為に尽力するのは当然の事ですわ」
そうして俺たちはスペちゃんの有馬記念に向けての最終調整を行なっていった。
日本ダービーの時よりはレース経験値による不安は無い。だけど確実に日本ダービーの時よりもスペちゃんの調子は良いとは言えない。綱渡り状態で何とか走れる状態まで持っていけたのが正直なところだ。
スペちゃんが調子を落としている事は確実にライバルの皆さんにも気付かれている…今回の有馬記念は、日本ダービーの時よりも更に苦しいレースを強いられるだろう。
…それでも、そんな厳しい状況でもスペちゃんは泣き言一つ言わず、今の自分にやれる事は全てやってきた。と胸を張って言える日々を過ごしてきた。
マックイーンさん、アヤベさんも力を貸してくれたし、後はスペちゃんを信じ切るだけである。
軽めの調整も終え、早めに中山レース場に向かうため安全運転を心がけながら三人と共に学園を出発する。まだ朝方の時間なのに中山レース場に近づくにつれて交通量が多くなっていく事に、改めてウマ娘の影響力を感じつつ…俺たちは無事に中山レース場へと到着する。
既にレース場は超満員であり、真冬の寒さに負けないファンの皆様の熱気も感じつつ、日本トゥインクル・シリーズの総決算、GⅠ・有馬記念の発走がいよいよ始まろうとしていた──
───
──
─
中山レース場の控え室…さっきパドックを終えた私は、有馬記念に向けての集中力を高める為に一旦この控え室へと戻ってきた。
早朝に行ったマックイーンさん、アヤベさんとの併走のお陰もあって変な緊張はしていない。お二人ともゴール前でちゃんと応援してるって言ってくれたし、不甲斐ない走りは見せられない…
……闘志は漲ってる。緊張で硬くなってもいない。やり残した事は無いとも言い切れる。
……なのに…なのに…っ…レース場に着いてから…レース本番が近づく空気を感じてから…どうしようもなく……怖い…っ…
レースを走る事が怖いんじゃ無い…プレッシャーを感じる事が怖いんじゃ無い…負けちゃうかもしれない事が怖い訳でも無い……
で、でもっ…“自分の走り”が全く出来ないで…レースを終えるのが…怖い…っ…
怪我をしている訳でも、疲労が残っている訳でも無いのに…自分の調子が全然上がっていかないのを感じた。
やり残した事は無いはずなのに…トレーニングでの手応えをいつもより掴めなかった…
自分の走りが、いつもの走りが出来ないかもしれない……そんな不安と恐怖が、ここにきて一気に私に押し寄せてきた…
そんな恐怖に苛まれながらも時計を確認すると──もうすぐ本バ場入場の時間……
い、行かなきゃ…地下バ道で何とか気持ちを整えて……だ、駄目だ…っ…考えたら考えた分だけ怖くなってくる…手も冷たい…っ…と、とにかく…行かなきゃ…行かなきゃ…っ…
恐怖で冷たくなった両手を必死に握り合わせて少しでも温めながら、私は控え室の扉を開く。
──すると目の前に、ここまで走って来てくれたのか、少しスーツを乱したその人が…私の大切な人が…お兄さんが、目の前に立っていた。
「──あっ…お、お兄さん…応援に来てくれたんですか? 心配しなくても今日は大丈夫ですよ? 緊張もしてませんし、堂々と走ってきますから」
今日まで一番私の事を支えてくれたこの人に…この人にだけは今の私の恐怖を知られたく無い。レース前に不安になって欲しく無い。
という気持ちから私は必死に笑顔を作ってお兄さんに言葉を掛ける。このままだと絶対に耐えきれなくなってしまう…早くこの場から立ち去らない──と──?
もうすぐ本バ場入場が始まる。という事を理由にこの場から立ち去ろうとしたその瞬間…お兄さんがそっと右手で私の手を握り、左手は私の頭を自身の胸元に優しく引き寄せる様にハグをしながら、優しく声で言葉を発する。
「大丈夫、大丈夫だよスペちゃん。怖くなったって良いんだ、不安になったって良いんだ。それは何も悪い事じゃない。だから大丈夫、大丈夫だからねスペちゃん」
その言葉に…耳に届くそのいつもの優しい声に…私は耐えきれなくなって、今自分が苛まれている恐怖を…お兄さんにぶつけてしまう。
「──っ…お兄さん…私……私、怖いです…っ…このままだと…何も出来ないで…っ…お兄さんと一緒に積み上げてきた私の走りが…全く出来ないで…レースを終えてしまうかもしれない事が…っ…どうしても怖いんです…っ…」
自分でこのレースを走ると決めたのに、色んな人の想いを背負うんだと決めたのに、沢山の方々から応援して貰ってる事も、支えて貰っている事も知っているのに、それなのに私は今こうして…恐怖に苛まれてしまっている……
そんな自分の弱さを…よりによってお兄さんにぶつけてしまって…あぁ…幻滅されたらどうしよう…なんて考えが頭をよぎる。
ほんの一瞬で後悔の念が湧き、心に暗いものが落ちてくるのを感じていると…
お兄さんは私の手は握ったままでそっと身体を離し、きっと酷い顔をしているであろう私と目線を合わせてくれて、優しく微笑みながら…けれど何よりも真っ直ぐな瞳を向けて、私に言葉を掛けてくれた。
「…スペちゃん。こんな言葉…これからレースを走る君に掛けるべき言葉じゃ無いのは分かってる。そして君に期待をしていない訳じゃ無い事も分かった上で聞いてほしい」
「…? な、何ですか…?」
「俺は…今回の有馬記念も、そしてこれからのレースも、スペちゃんが勝っても負けても…どちらでも構わないと思ってる。たとえどれだけ酷い負け方をしたとしても…それでも構わないよ。無事に…怪我なく帰って来てくれたら…俺はそれだけで良い」
「……っ……ぇ…?」
「これから先…どんな事があったとしても、俺が君を大切に想う気持ちも、君を信じる気持ちも、君を誇りに思う気持ちも、君を支える為に頑張るんだというこの気持ちも…絶対に変わる事は無い」
「──っ…ぁ……っ…」
その瞬間──私の心には暖かいモノが溢れ出す。
「君が三冠ウマ娘だからじゃ無い、君が才能溢れるウマ娘だからじゃ無い、君が幼馴染のウマ娘だからでも無い。君が…“スペちゃんだから”、俺は君の事を支えたいし、心から大切に想ってるんだ」
お兄さんの言葉を聞いて…思わず溢れてしまった私の涙を優しく拭ってくれながら、お兄さんは真っ直ぐにそう言い切ってくれた。
私の心には恐怖では無く、とても温かいモノが広がっていた。
あぁ…そうなんだ…仮に私がこれから先どんな失敗をしてしまっても、どんなに恥ずかしい姿を晒してしまったとしても、この人の…私に対する気持ちは変わらないんだ。
私の…味方で居てくれるんだ。どんな事があってもこの人は、私を私として受け入れてくれるんだ。帰ってこられる場所が…私にはちゃんとあるんだ。
「怖いと思ったって良い、それはスペちゃんが周りの方々の想いにも、ライバルの皆さんにも、そして何より自分自身にも、ちゃんと向き合っている証拠なんだから。自信を持って思いっきり走って、そして怪我なく無事に帰って来て。…俺はちゃんと見守ってるから。ちゃんと君の事を信じて待ってるから」
「──ハイッ──はいっ! ありがとうございます、お兄さん! わたし…私っ! 思いっきり走って来ます! 今の自分の全力を尽くして来ます! そして──ちゃんとお兄さんの所に帰って来ます! だから、今日もゴールで待っててください! お兄さん!」
「──あぁ、もちろん。……行ってらっしゃい! スペちゃん!」
「──行って来ます! お兄さん!」
改めてお兄さんが気付かせてくれた安心感のお陰で、いつの間にか冷たかった手の体温も戻り、先程までの失敗したらどうしよう…という恐怖は、今の私の全力で立ち向かって…そして勝ちたいッ! という勇気に変わっていた。
お兄さんへ温かくなった手を一生懸命に振りながら、私は軽くなった足取りで地下バ道から本バ場入場へと向かっていく。
♢♢♢
『曇り空ながら12月らしい澄んだ冷たい空気に包まれている此処中山レース場に、ファンの皆様に選ばれた主役たちが間も無くターフにお目見えです。今年は何と180万人ものお客さんが詰めかけていると発表があった中で、熱きファンの皆様の熱気を大いに感じながら、GⅠ・有馬記念の本バ場入場です』
『──昨年のジュニア王者が遂にGⅠの大舞台に帰って来ました。全治10ヶ月の悔しさをエネルギーに変えて、栗毛の不死鳥が二つ目のGⅠタイトルの栄冠に、そして同期の総大将! スペシャルウィークとの初対決に挑みます! 1枠2番、グラスワンダー! 4番人気です!』
『解説の岡田さん。久々のGⅠ挑戦になりますが、グラスワンダーの調子はどう見ておられますか?』
『いや〜! 今日のこの娘は素晴らしい状態だと思いますね! 前走の毎日王冠でも久々とは思えない状態でビックリしたんですが、今日の彼女はそれを遥かに上回る素晴らしい状態に間違い無いと思います。彼女本来の力強い走りを見せてくれそうなので、今から楽しみですね!』
『──さあ続いてはこのウマ娘。昨年の年度代表ウマ娘が堂々入場です。今年も大阪杯、ヴィクトリアマイルを制しターフを大いに沸かせてくれた彼女ですが、本日がトゥインクル・シリーズでのラストラン。来年からはドリームトロフィーリーグへの参戦が発表されています。新たな門出を自身の勝利で祝う事は出来るでしょうか? 2枠3番、エアグルーヴ! 2番人気です!』
『岡田さん、彼女の調子はいかがでしょうか?』
『うーん、ちょっとここ近走と比べると良くは見えない…と言うのが正直な感想ですね。この秋からGⅠレースのみに出走していて、今日が3連戦目…そんな疲れが残るであろう中でも、この舞台に出走してくれたエアグルーヴ本人、そして関係者の皆様に一人のウマ娘ファンとして感謝しつつ、彼女のトゥインクル・シリーズ最後の走りを見届けたいと思います』
『──続々と優駿たちがターフに現れる中…このウマ娘もターフに姿を現しました。皐月賞2着、日本ダービー3着、菊花賞2着、あと一歩…クラシックの栄冠には届きませんでしたが、間違いなく今年躍動を重ねる黄金世代の主役の一人です。芦毛のトリックスター、いざ悲願のGⅠ制覇へ! 6枠11番、セイウンスカイ! 3番人気です!』
『岡田さん、彼女も間違いなく黄金世代を牽引するウマ娘ですよね』
『いや〜仰る通りですね。もう、彼女が強いというのは誰の目から見ても明らかですからね。今年のGⅡ・京都大賞典では錚々たるシニア級の面々を相手に圧勝を収めてますから…今日の仕上がりも見たところ良さそうですし、恐らく今日のレースを引っ張るのは彼女でしょうから、それも合わせて注目ですね』
『──そして黄金世代の主役がまた一人、この有馬記念に参戦してくれました。彼女もクラシックの栄冠にはあと一歩届きませんでしたが、その天賦のスピードは紛れもなく超一級品と言って良いでしょう。クラシックでの無念を、苦難を、今こそ力に変えて! 王者の証明をいざこの大舞台で! 7枠13番、キングヘイロー! 6番人気です!』
『岡田さん、また一人黄金世代の実力者が登場ですね』
『もう本当に…目移りしちゃいますね。彼女のスピード能力は勿論、その高いレースセンスも目を見張るモノがありますから、どんな展開、脚質、距離でも彼女ならこなしてくれそうな…そんな大きな期待を思わず寄せてしまう娘ですね。仕上がりも良さそうですし、この舞台適性も問題ないでしょうから良い走りを見せてくれると思いますよ』
『──さあそして! 彼女がターフに現れた瞬間、場内から一際大きな歓声と拍手が上がりました。現在7戦7勝、今年の無敗三冠ウマ娘が暮れの中山レース場に堂々入場です。前走は超豪華メンバーで行われたジャパンカップを、世界を震撼させるレコードタイムで駆け抜けた彼女。常に極限へと挑みし彼女は、大外枠の不利にも挫けず、この有馬記念すらも通過点とするのか!? 8枠16番、スペシャルウィーク! 1番人気です!』
『岡田さん、今年一番の顔と言って良いウマ娘が参戦してくれましたが、スペシャルウィークの状態はいかがでしょうか?』
『…正直に言ってしまうと良くは無いと思いますね。よく見積もっても…80%の状態に有るか無いかだと思います。2走前の菊花賞、そして前走のジャパンカップ共に世界レコードで勝利を収めていますから、その反動はとても大きかったでしょうから……むしろそれ程の激走を続けたにも関わらず、今の状態を維持出来ている事が奇跡に近いですよ。こんなにも苦しい状況の中で出走してくれたスペシャルウィーク本人、そして調整して下さった関係者の方々に心から感謝したいです。彼女の走りに、無敗の三冠ウマ娘の走りに、期待したいですね』
『ありがとうございました。岡田さんの解説を交えて、今年の有馬記念に出走する全16人のウマ娘の本バ場入場をお伝えして参りました。さあ、皆んな一緒に高鳴る鼓動を抑えながら…有馬記念の発走まで、もうしばらくお待ちください』
♢♢♢
『運命のファンファーレまであと僅かです。冷たい師走の空気が漂う中…期待で、熱気で、興奮で、間違いなく今この時間、日本中で最も熱い場所! ここ千葉県・中山レース場です。180万人をも超えるファンの方々が詰めかけ場内外問わず超満員。その熱きファンの支持を力に変える! オールスターウマ娘達による夢の舞台です』
『中山第9レース・GⅠ・有馬記念・【中山コース・芝2500m・フルゲート16人】で争われます。バ場状態は良の発表ではありますが、直線コース内側の芝は剥げあがってしまっており…そのあたり、各ウマ娘のポジションにも注目が集まります』
『解説の岡田さん、スタートの時刻が迫って参りましたね!』
『いや〜本当にこの時間と言うのは…もう言葉では言い表せないほど毎年ワクワクするんですけど、今年は特に胸が高鳴りますね! トゥインクル・シリーズの締めくくりに相応しい、最高のレースが見られる事が本当に楽しみです』
『本当にそうですね! そして今回の超豪華メンバーの中で、堂々の一番人気に推されている⑯スペシャルウィーク。ここ近走の激走もあってかちょっと状態が今ひとつに見える…と言うお話もありましたが、改めて岡田さんの中ではスペシャルウィークの状態はどう見ておられますか?』
『やっぱり近走の反動は大きかったと思います。彼女のこれまでのキャリアの中でも間違いなく一番良くない状態ではあると思いますね。ただ流石だな…と思うのは、このレースが近づくにつれて研ぎ澄まされている集中力ですね。この雰囲気でしたら、今の彼女が出せる力はしっかり出し切ってくれると思いますよ』
『なるほど…岡田さんが個人的に今回注目されておられる娘はいらっしゃいますか?』
『本音を言えば全員なんですけど…一人挙げるとしたら②のグラスワンダーですね。パドックの時も本バ場入場の時も素晴らしいと感じてはいたのですが、ゲート付近に来たあたりから更に凄みが増したんですよね。目の錯覚で無ければ、何か蒼いオーラが立ち込めている様な…それ程の凄みを感じているので、一体どれほどの走りを見せてくれるのかと楽しみにしています』
『岡田さんの注目は②のグラスワンダー。怪我によって三冠ウマ娘路線で同期のライバル達と鎬を削る事は叶いませんでしたが、前走のGⅡ・毎日王冠では10ヶ月ものブランクがあった中での2着好走。レコード勝ちでジュニア王者にも輝いた彼女が強い事は誰もが認めるところです。そんな彼女の走りにも改めて注目しましょう』
『さあそして今スターターがゆっくりと、スタンドカーに歩みを進めました。中山芝2500m、16人のドラマがおよそ150秒に凝縮されていく…トゥインクル・シリーズの締めくくり、GⅠ・有馬記念のファンファーレです!──』
『──鈍色の空にファンファーレが響き渡って、中山レース場全体が揺れていると感じる程の大歓声が上がりました。それに伴って各ウマ娘の枠入りも始まっています。先ずは奇数番号のウマ娘達からです』
『おっと? ⑪のセイウンスカイが少し枠入りを躊躇する様子を見せましたが…大丈夫な様です。今無事にゲートに収まりました。恐らく今日のペースを作るのは彼女になるでしょうから、果たしてどんなペースを刻むのか注目が集まります』
(──ふぅ……恐らくスペちゃんは不調気味。今日に限っては…グラスちゃんとキング、それとブライトさんが怖いかな。仮に今日勝てなくても…ちゃんと推し量るんだ…今の自分の立ち位置を)
『そのあと③のエアグルーヴも流石の立ち振る舞いですんなりゲートに収まります。これがトゥインクル・シリーズでのラストラン。彼女のこれまでの集大成、是非この瞳に焼き付けましょう』
(どんな状況だろうとやる事は変わらない。ただ己を信じ走り抜け、そして──最強とは誰かを証明するのみッ!)
『──枠入りはここまで非常に順調。黄金世代の一人⑬キングヘイローも落ち着いた様子で今ゲートに収まりました。その世代屈指の能力で、完全なる世代交代の狼煙を上げる事は出来るでしょうか!』
(…やっぱりスペシャルウィークさんの不調は気のせいでは無かったのね。けど、だからと言って遠慮はしないわ! むしろそんな状態でも出走してくれた彼女に敬意を込めて、全身全霊でぶつかるのみよ!)
『さあ続きまして偶数番号のウマ娘達の枠入りが始まりました。②グラスワンダーも今すんなりとゲートに収まります。怪我により棒に振ってしまった今年のシーズンは、彼女にとって本当に悔しい一年だったはずです。本日の気合いの乗り方は、このレースに懸ける思いは凄まじいモノを感じます。果たして我々にどんな走りを見せてくれるでしょうか!』
(スペちゃん、ようやく一緒に走れますね。…スペちゃんの調子が良く無い事は分かっていますが、遠慮はしませんよ。たとえどんな状況であったとしても、私は──全力の勝負がしたいッ!)
『──さあ⑩のメジロブライトも収まって……残るウマ娘はあと一人。最後に大外⑯、無敗の三冠ウマ娘スペシャルウィークが今ゲートに向かいます! あの“皇帝”シンボリルドルフですら成し得なかった皐月賞、日本ダービー、菊花賞、ジャパンカップ、有馬記念の《クラシック級・エンペラーロード》完全制覇。その前人未到の偉業を達成する瞬間を見る事は出来るのでしょうか!』
(信じ抜くんだ…自分がこれまで乗り越えてきた事を、チームの皆んなと頑張ってきた事を、そして──お兄さんと一緒に! 今日まで積み重ねてきた事をッ!)
『スペシャルウィークも今ゲートに収まって、いよいよ有馬記念の発走準備が整いました!』
『──さあ、貴方だけのヒーローに! 今年最後の夢を託そう! 日本トゥインクル・シリーズの総決算! GⅠ・有馬記念──今ゲートが開かれましたぁぁ!』
『流石選ばれし16人! 各ウマ娘揃った見事なスタートを切りました! おっと? ⑯スペシャルウィークは直ぐに後ろに下がりました。そして②のグラスワンダーもスーッと後ろに下がった。これは二人とも作戦通りなのか?』
『──さあそして注目の先行争いですが、やはり⑪のセイウンスカイが先頭に立つ構えだ! セイウンスカイがハナに立ちました。これを追って内目から⑥アンブシュトラップが2番手に付けます。外から⑮キビールアルアハドが続いて、最内に菊花賞ウマ娘①のマチカネフクキタルも先団。更にはGⅠ・4勝を誇る⑭メジロドーベルも積極的に前へと行って、最初の4コーナーをカーブ』
(──っ! スタートは横並び…これは後ろに下がらないとッ)
(スペちゃんは──下がった。なら私はその真後ろにッ)
(これはすんなり先頭に立てそうかな〜? それなら──遠慮なく行きますか〜!)
『そしてそのメジロドーベルの内側少し後ろに、③エアグルーヴが付けていきました。さあ、最初の4コーナーからホームストレッチに各ウマ娘が入ってきます! エアグルーヴの外には⑤のキンイロリョテイ。内の方には⑨アサヤケノハタ。少し離れた真ん中に⑦のハルシオン。その後ろは2バ身ほど切れました、④のシマノイーユー。その外から前年覇者の⑧キヌコスモスはこの位置』
『──各ウマ娘、直線荒れた内側を避けながらスタンド前、坂を上がって来ます。場内は地面から突き上がる様な大歓声に包まれて、間も無く最初のゴール板を通過します』
(後ろに下がったスペシャルウィークとグラスワンダーも気になるが…目の前にドーベルも居る。気持ちを乱して掛からぬ様にしないとな)
『キヌコスモスの1バ身ほど後ろに⑬のキングヘイローが居て、内から並ぶ様に今年の春の天皇賞を制した⑩メジロブライトも居ます。そしてこの二人から1バ身半ほど離れた此処に! ⑯のスペシャルウィークが付けています。そのスペシャルウィークの真後ろには②のグラスワンダーがピッタリとマークしている! 更にそこから3バ身ほど離れた最後方に⑫のセイユーナンバワンが続いて、各ウマ娘1コーナーのカーブに入っていきます』
(セイウンスカイさんのペース…後ろにはスペシャルウィークさん…菊花賞でも味わった展開…今度は、私が勝ってみせるわッ!)
(前にも横にも、グラスちゃんが居ない…この感じ──私の真後ろッ!?)
(理想としていた位置は取れた…後は、スペちゃんの一挙一動を見逃さない様にッ!)
『さあ前半の1000m通過は──60.8。60.8のペースで通過して行きました。このペースは果たしてどうなんだ? 理想通りのペースなのか? しめしめと言ったところかセイウンスカイ。今チラッと後方を確認しました』
『──ここから2コーナーを回って向かう流しに入って行きます。先頭は⑪のセイウンスカイがリードを4バ身ほど取りまして軽快に逃げている。2番手には⑨のアサヤケノハタが上がっています。その1バ身後ろの3番手に⑥のアンブシュトラップ。その少し後ろに⑭のメジロドーベル。そこから3バ身ほど切れまして⑮キビールアルアハドが続いています』
(ペースは悪くない──後ろとも離れてるし…このコーナーで息を入れて、後は後ろの皆んなが仕掛けてくるタイミングに注意を払って…ペースを落とし過ぎないようにッ!)
『更にその1バ身半後ろに③のエアグルーヴはここに位置しています。どんな花道となるかラストラン! エアグルーヴの外からは⑤のキンイロリョテイ。⑦ハルシオンもこのグループ。そこから少し離れて①のマチカネフクキタル。その半バ身後ろに⑧キヌコスモスと④シマノイーユーが並んでいる。二人の外には⑬のキングヘイローも虎視眈々と追走。そこから2バ身ほど切れた後ろに⑩のメジロブライトが居ます』
(前のポジション争いが激しいな…あれほど激しいと消耗も少なく無いはず…4コーナー辺りで前が垂れてくる可能性も考えて、仕掛けるタイミングを誤らないようにせねば)
(やっぱりセイウンスカイさんが引っ張るペース…脚を溜めにくいのは相変わらずね。だけど…これまでほど追走に余力がない訳じゃない。このまま出来る限り脚を溜めて、最後の最後で纏めて差し切るッ!)
『そしてメジロブライトの2バ身後ろ、お終いから三人目に⑯のスペシャルウィークは未だ後方です。王者は果たしてどこから仕掛けるのか? 中山の直線は短いぞッ!? そしてそのスペシャルウィークを見る様に、不気味に、不気味に②のグラスワンダーが真後ろから王者を狙っている! 更にこの二人の3バ身ほど後ろにもう一人、⑫のセイユーナンバワンが最後方追走で残り800mを切って3コーナーをカーブ』
(グラスちゃんのプレッシャーが凄い…けど、前の人たちに追い付く為にも──そろそろッ!)
(──ッ! スペちゃんの雰囲気が変わった。そろそろ仕掛けるタイミング……ふぅ…精神一到、何事か成らざらん…そのタイミングを逃さない様にッ)
『さあ、この辺りで各ウマ娘の動きが激しくなって参りました! ⑭のメジロドーベルが早め2番手に上がっていく! その動きを見て⑥アンブシュトラップも仕掛ける! 更に後ろにいた③エアグルーヴも前に取り付く構えだ! ⑤キンイロリョテイもそれに続くか!? 逃げる⑪セイウンスカイのリードが2バ身程に詰まって3、4コーナー中間残り600mを通過!』
(──ッ! ドーベルが仕掛けた! 前のスペースも空いている…仕掛けるなら──ここだッ!)
(──ッ!? 後ろの人たちが仕掛けて来た…もうちょっとゆるっと行きたかったけど──そうは言ってられないかッ!)
『そして前の動きに釣られる様に後方勢も一気に押し寄せて来る! ⑩のメジロブライトもエアグルーヴとキンイロリョテイの後ろ辺り先団に取り付いて行った! ⑬キングヘイローもこの三人の間に割って入る様に仕掛けて行く! 更に大外からは⑯のスペシャルウィークが一気に上がって来たぁぁ! 遂に王者が動いたぞぉぉ! おっとしかし!? そのスペシャルウィークの内側から並ぶ様に②のグラスワンダーも一緒に上がっていく!!』
(流れが一気に速くなって…ブライトさんも仕掛けた! 脚は十分に溜まっている。前の三人のスペースを突いて──一気に行くわッ!)
(ここで一気に前に──ッ!? グラスちゃん!? 内に入られたッ! けど──行くしかないッ!)
(──たとえ眼前に高き山々がそびえようと…立つのはその──頂きッ!!)
『さあ、逃げるセイウンスカイのリードはもう1バ身も無い! 真ん中からメジロドーベルが差を詰めて2番手! ⑥アンブシュトラップはちょっと後退か!? それを避けるように外目からエアグルーヴも上がって来る! 女帝復権なるか!? エアグルーヴの後ろにはメジロブライトも居る! この二人の間を狙って⑬キングヘイロー! ⑤のキンイロリョテイは、何と強気の最内選択だッ!』
『──そしてッ、そしてッ! 大外から二人並んだまま! スペシャルウィークとグラスワンダーも一気に先頭集団に加わって来て場内は既に大歓声が上がっている! さあ! 第4コーナーをカーブして! 色んな情念渦巻いて! 殆どのウマ娘が荒れた内側を避けながら! 最後の直線コースを迎えましたぁぁ!』
「まだまだ──ここからあああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜ッ!!」
「──最強は…私だッ! はあ“あ“あ“あ“ぁぁぁぁぁぁ〜〜ッ!!」
(エアグルーヴ先輩がスパートに入った! ブライトさんとのスペースが必ず空くはずッ! もう少し──もう少し我慢よ!)
(グラスちゃんを全然引き離せないッ!? このままだと──ッ)
(相手がスペちゃんだからこそ…私は──全力でッ!)
『先頭はセイウンスカイ! ここから二の脚、三の脚を使う事は出来るのか!? セイウンスカイ先頭だ! その外からはエアグルーヴ! メジロブライトも脚を伸ばす! 最内からはキンイロリョテイの強襲! メジロドーベルはちょっと伸びが無いか!? その空いたスペースからキングヘイローが突っ込んで来る!』
『──しかし、これらをあっさりと!! 大外からグラスワンダーとスペシャルウィークが交わして行ったぁぁぁ〜ッ!! あっという間に!! 二人が並んだまま先頭に立ったッ!! この二人の一騎打ちとなるかッ!!』
(──ッ!? あっさりと交わされたッ!? でも──最後までええぇぇぇぇ〜〜ッ!!)
(──くっ!? あんな大外から!? だが──少しでもッ! 少しでも前にッ!!)
「負けないわッ! 私こそ──キングなんだからぁああああああ〜ッ!!」
(グラスちゃんのスピードが更に上がった!? 置いて行かれちゃう! このままだと──負けちゃうッ)
「いざ、我が道をッ──はあああ〜〜〜〜〜ッ!!」
『残り200m!! ここでグラスワンダーが更に加速〜ッ!! グラスワンダーが先頭だッ!! グラスワンダーが先頭ッ!! ジュニア王者が蘇るッ!! ジュニア王者が蘇るッ!! 不死鳥の一閃ッ!! ここで放たれるのかッ!! 外からスペシャルウィークだが、リード1バ身ッ!! これは決まったか!? スペシャルウィーク負けるのか!? スペシャルウィーク負けるのかぁぁぁ!?』
(嫌だ…嫌だッ!──約束してくれたんだッ! お兄さんはちゃんと…私の事を待ってるって言ってくれたんだッ! 今ここで諦めちゃったら…私は胸を張って、あの人の元に帰れないッ! 負けない…負けたくないッ! この勝負──勝ちたいッ!!)
「──うあ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ぁぁ〜〜〜〜ッ!!」
(──ッ!? スペちゃんッ!?)
『なんとここでッ──スペシャルウィークがもう一度加速したぁぁぁ〜ッ!! 信じられないッ!! グラスワンダーに並ぶッ!! グラスワンダーに並ぶッ!! ゴールまであと僅かッ!! お互いに一歩も譲らないッ!! 一歩も譲らないッ!! どっちだッ!? どっちだッ!? どっちだッ!? ──』
『────スペシャルウィークだぁぁ〜〜ッ!!!』
『スペシャルウィーク!! 最後の最後でッ!! リード身体半分ほどッ!! グラスワンダーを差し切りましたぁぁ〜〜ッ!! 何というウマ娘ッ!! 本当に何というウマ娘でしょうかッ!! 着差は僅かでも! 不死鳥の一閃もッ! 大外枠の不利もッ! 並いる強襲たちの猛追をもッ! 全てはね返しましたッ!! スペシャルウィーク!! 史上初の! 《クラシック級・エンペラーロード》完全制覇ですッ!!』
『勝ちタイムは2分31秒1〜! そして電光掲示板に着順も表示されました! 1着は⑯スペシャルウィーク!! 2着は1/2バ身差で②のグラスワンダー! 3着には3バ身離れて、最後まで脚を伸ばした⑬キングヘイロー! 4着クビ差で⑩のメジロブライト! 5着にはハナ差で⑪セイウンスカイが粘っています! 最内から強襲してきた⑤キンイロリョテイを凌ぎ切って掲示板確保! トゥインクル・シリーズでのラストランだった③エアグルーヴは7着という結果です!』
(はあっ…はあっ…はあっ…はあっ…はあっ……た、立てない……最後は夢中で…何も分からなかった…はあっ…はあっ…レースの結果は……どうなったんだろう…)
(──っ…はあっ…はあっ…はあっ……負け…ましたね……はあっ…ふぅ……あの状況で差し切られては…完敗ですね。スペちゃん、本当に──本当におめでとうございます)
(はあっ…はあっ…はあっ…ふぅ……届かなかったわね…けど…今の自分に出来る最高の走りが出来た…それでも負けたのだから、今はスペシャルウィークさんに心から祝福を。…次は──絶対に私が勝つのだからッ!)
(はあっ…はあっ…はあっ……おめでとう…スペちゃん。…あ〜あ、やっぱり厳しいなぁ…今のままじゃ。……でもそれらをしっかりと確認できた事だし、まあ良しとしますか〜……来年…絶ッ対に勝つ為にも)
(はあっ…はあっ…はあっ……勝利で飾る事は…出来なかったか…だが、新たな舞台で闘う為に必要な事を再確認する事も出来た。今度は私が迎え撃つ立場となる為にも、更に精進して行かねばな。…本当におめでとう。スペシャルウィーク)
『いやぁ〜! 岡田さんッ! スペシャルウィークが…スペシャルウィークが見事に! エンペラーロードを完全制覇で駆け抜けましたね!』
『いやぁ……申し訳ありません、ちょっと凄すぎて言葉が出てこないんですけども…本当に…本当に凄いですね…彼女は。今日の状態は本当に良くなかったと思いましたし、2着のグラスワンダーは最高の走りをしたと思います。その上で最後あれだけの走りで勝ち切った訳ですから…着差以上の勝利だったと思いますね〜。ちょっと本当に…彼女は次元が違うかもしれませんね。名実共に間違いなく現役最強ウマ娘だと心から思います』
『直線ではグラスワンダーに一度抜き去られた中で、最後の最後で驚異の底力を見せてくれたスペシャルウィーク。これで無敗記録を8戦8勝に伸ばし、GⅠレースは何と5連勝! 岡田さんのおっしゃる通り名実共に現役最強ウマ娘をこの有馬記念の大舞台で証明してみせました!』
『改めまして今年の有馬記念、勝者は⑯スペシャルウィークです。来年以降の彼女の走り、本当に益々と楽しみになる勝利でした!』
♢♢♢
ターフに膝を付きながら何とか呼吸を整えていた私に、グラスちゃんやキングヘイローさん、セイウンスカイさんにエアグルーヴさんも、私に労いの言葉を掛けてくれながら手を貸してくれた。
皆さんのお力を借りて何とか立ち上がる事が出来た私は、皆さんから掛けて貰えた言葉や、耳に届いてきたファンの方々からの祝福の言葉に、自分が勝利できたのだと、そこでようやく実感が湧いてくる……
そうか…勝てたんだ……私…やったんだ…勝ったんだ…勝ったんだ! 私!
湧き上がってきた様々な感情を何とか抑え込んで、私は一緒に走る事が出来た皆さんと、応援して下さったファンの方々に感謝の意を返していく。
そうしてファンの皆様からまだまだ止まないほどの祝福を頂きながら、ウイニングライブへの準備などに備える為、最後まで皆様に手を振ってお辞儀を重ねながら、一旦ターフから地下バ道へと戻って行く。
その地下バ道から控え室に戻る最中、レース中に私の事を助けてくれた…今一番会いたかった人の姿が目に入り、私はレース後の疲れなんて忘れてその人の胸に飛び込んで行った。そんな私の事をその人は──お兄さんは優しく抱きしめてくれた。
「──お兄さんッ!! 私ッ──勝ちましたよッ! 勝って…お兄さんのところに無事にこうして帰って来れました! 途中、もう駄目かもって…負けちゃうかもって……っ…それでも…っ…それでも! 最後はお兄さんが…っ…ぐすっ…お兄さんが! また私の事を…守ってくれましたっ…ありがとうございます…っ…ぐすっ…お兄さん…本当にありがとうございますっ…」
色々と押さえ込んでいた物が溢れ出てしまい…私はお兄さんの顔を見上げながらも、溢れ出る涙を止められなかった。
そんな私の涙を気にする事なく、お兄さんは私の頭を自分の胸元に優しく抱き寄せてくれると…少し涙声ながら言葉を掛けてくれる。
「スペちゃん──ありがとうって言いたいのは俺の方だよ…また俺に…こんなに凄い夢を見せてくれて本当にありがとうっ! スペちゃんっ。よく頑張ったねっ、本当によく頑張ったねスペちゃんっ。本当に…本当におめでとうっ! そして──お帰り、スペちゃんっ」
「──っ…はいっ…はいっ……っ…」
お兄さんのその言葉に、最後の…お兄さんの安心しきった心が伝わった『お帰り』を聞いたその瞬間に…私は嬉しさと安心感で更に大粒の涙を流しながら……しばらくお兄さんと二人で感謝の気持ちを伝え合いながら抱き合っていた──
《レース後・ゴール前・チームノヴァ》
「トレーナーさん? 早くスペシャルウィークさんの元に行ってあげて下さいな。スペシャルウィークさんが今一番お会いしたいお人は、間違いなく貴方ですから」
「そうね、私たちは先に控え室に向かっておくわ。ウイニングライブの準備もこっちで出来る限りやっておくから…早くスペシャルウィークさんのところに行ってあげて」
《有馬記念・レース後コメント・グラスワンダー・おハナさん》
『完敗でした。今の私に出来得る最高の走りが出来た上で、最後の最後で差し切られてしまいました。今日の着差は、今の私では広がる事はあっても…決して縮める事の出来ない決定的な差だったと痛感しております。今年一年は自分自身の不甲斐なさで満足に走る事が出来ず…応援して下さるファンの皆様には本当に申し訳ございませんでした。来年はもう一度ファンの皆様から応援して頂けるような走りを出来るように、今以上に精進して参ります。本日は応援して下さって本当にありがとうございました』
『レースに関しては完敗でした。グラスワンダーは最高の走りをしてくれましたが、勝ったスペシャルウィークが強かったです。今年一年は私の指導・管理不足でグラスワンダーに不本意な一年を過ごさせてしまった事、ファンの皆様にも本当に申し訳ございませんでした。来年は彼女と共にこの経験を糧として精進する所存でございます。本日はご期待に添える走りをさせてあげる事が出来ず、本当に申し訳ございませんでした』
《レース後コメント・キングヘイロー》
『前に居たお二人との実力差を痛感したレースでした。応援して下さったファンの方のお気持ちに応えられず、本当に申し訳ありません。今の自分の力不足をしっかりと受け止め、次こそはファンの方のお気持ちに応えられる走りを出来るように精進致します。今日は応援して下さって本当にありがとうございました』
《レース後コメント・セイウンスカイ》
『いやぁ〜、完敗でしたね〜。自分の中では良い走りが出来てはいたんですが…全然ダメでした。今のままじゃ来年も厳しいですけど、一回ぐらいは──勝ってやろうって思ってたり? 負けっぱなしは悔しいですからね〜』
《レース後コメント・エアグルーヴ・おハナさん》
『トゥインクル・シリーズの最後を勝利で飾る事が出来ず、ファンの皆様には本当に申し訳ありませんでした。やれる事を全てやり切った上での敗北だったので、私自身は清々しい気持ちで次に向かう事が出来ます。ドリームトロフィーリーグでも、再び応援して頂けるように精進して行く所存です。本日は応援して下さって本当にありがとうございました』
『全てを出し切った敗北だったと思います。先ずはゆっくりと休んで…次の舞台へ向けてまた一緒に彼女と歩んで行こうと思っています。本日は彼女に対するご期待に添える結果を伴う事が出来ず、本当に申し訳ございませんでした』
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
次回はスペちゃん・お兄さんのURA賞の授賞式回になると思います。
・年度代表ウマ娘
・最優秀ジュニア級ウマ娘
・最優秀ジュニア級短距離ウマ娘
・最優秀クラシック級ウマ娘
・クラシック級・ミス・ティアラ
・最優秀シニア級ウマ娘
・優秀シニア級ウマ娘
・最優秀短距離ウマ娘
・最優秀ダートウマ娘
・最優秀ハードル走ウマ娘
・特別賞
⚫︎トレーナー部門
・トレーナー大賞
・最多勝利トレーナー
・最高勝率トレーナー
・最多賞金獲得トレーナー
・最多勝利新人トレーナー
・特別賞
⚫︎チーム部門
・最多勝利チーム
・最高勝率チーム
・最多重賞勝利チーム
・特別賞
一部は完全な出来レースでしょうが…一体誰が受賞するのでしょうか?(すっとぼけ)