スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 今回はレース前のお話・レースシーンを分けさせて頂いております。

 このお話は【大阪杯】のレースシーンとなっております。





スペちゃんシニア級始動戦/GⅠ・大阪杯②

 

 

 

 

 

 

 

 

『日本中が麗らかな春の陽気に包まれる中、ここ阪神レース場は朝から汗ばむ様な熱気に包まれています。遂に今年の始動戦を迎えます“彼女”…その彼女を討ち取るべく集った曲者14人。その戦いを一目見ようと既に80万人ものファンが詰めかけているとの発表があった中、間も無く関西GⅠ競走の幕開けを告げる、仁川春の陣【大阪杯】の本バ場入場です。なお、出走予定でした昨年のオークスウマ娘のリエモワードが出走を取り消した為、今年は15人で争われます』

 

 

『──さあ一昨年の菊花賞ウマ娘が姿を現しました。4連勝で掴んだあの菊の栄冠から凡そ1年半勝ちから遠ざかってしまっておりますが、今年の京都記念では復調を感じさせる2着。GIウマ娘の誇りを胸に、走る門には如何来る? 3枠6番・マチカネフクキタル! 5番人気です!』

 

『解説の安西さん、一昨年の菊花賞の後は勝利から遠ざかってしまっている彼女ですが、前走の京都記念は勝てはしませんでしたが復調を感じる内容でしたよね?』

 

『ええ、間違いなくここ最近では一番良い走りをしてくれましたからね。菊花賞を勝った時なんか本当に強かったですから、あの頃のマチカネフクキタルに戻っているのなら楽しみの一言ですね』

 

 

『──GIレース常連。そんな彼女の主な戦績が“阿寒湖特別”だけとはとても信じられません。銀メダルも銅メダルも、私の名前には敵うまい。その名に恥じぬたった一つのメダルを求めて、いざ大金星へ面舵一杯! 4枠7番・キンイロリョテイ! 6番人気です!』

 

『安西さん、彼女は長らく歯痒いレースが続いているんですが、確かな実力を持っている素晴らしいウマ娘ですよね?』

 

『そうですね〜、中々ね? GⅠでも重賞でも勝ち切れない所がある娘なんですけど、逆にどんな条件でもしっかりと力は出し切ってくれる娘なので、状態もかなり良さそうですし今日も期待が持てると思いますね』

 

 

『──昨年のミス・ティアラです。トリプルティアラ達成こそなりませんでしたが、桜花賞・秋華賞を制してのティアラ二冠。彼女にとって今日の2000m、この距離はドンと来いと言ったところ。昨年と同じく春の仁川に桜ではなく胡蝶蘭満開なるか? 6枠12番・ムーンオーキッド! 2番人気です!』

 

『黄金世代のミス・ティアラが今年初戦ですが、今日のムーンオーキッドは安西さんの目にはどう映っておられますか?』

 

『そうですね…見た感じは去年と比べると心身ともに逞しくなったなって感じます。ターフに出てきてからも堂々としてますし、状態面は何も問題ないと思いますね』

 

 

『──今年に入って既にGⅡを2勝の現在無傷の6連勝中。同期のメンバーとクラシック級で競う事は叶いませんでしたが、決して諦めずに一歩ずつ、一歩ずつ前に進んで遂に辿り着いたGⅠの舞台。そのポテンシャルとド根性を武器に、“黄金世代の秘密兵器”が勢いそのままにGⅠ獲りへ…そして何より! 打倒“スペシャルウィーク”へ挑みます! 8枠15番・ツルマルツヨシ! 3番人気です!』

 

『安西さん、今最も勢いのあるウマ娘と言っても過言ではない彼女が、遂にGⅠの舞台へ上がって来てくれましたね!』

 

『いやもう、本当に楽しみですね。見た感じ状態面はもう絶好調! って感じだと思うので、今日のこのメンバー相手に、何よりスペシャルウィークを相手にどんな走りを見せてくれるのかな? って、今後も含めて注目したいですね』

 

 

『──さあ…お聞き下さいこの地鳴りの様な大歓声を。新たな勝負服に身を包んで威風堂々、今年はシニア級王道路線を歩む事を明言し、全てから狙われる立場となった彼女。真の王者は全てを迎え撃った上で、全てを乗り越えなくてはいけません。現トゥインクル・シリーズの頂きに立つ者として、彼女の負けられない一年が此処から始まります! 8枠16番・スペシャルウィーク! 1番人気です!』

 

『安西さん、いよいよ…スペシャルウィークが今年の初戦を迎えますが如何でしょうか?』

 

『これは……いや、すみません。そう…ですね…うーん、まず状態面は凄く良さそうですよね。ただ何と言っても纏っている迫力が…ちょっと去年とは桁違いですね彼女…どういう事だ? …いや、すみません本当に。これは今日の走りを見てみない事には何とも言えないですね。僕の勘違いなのか、それとも本当に更なる成長を遂げたのか…いや〜目が離せないですね』

 

 

『ありがとうございました。以上今年の大阪杯に臨む15人を紹介して参りましたが、1番人気のスペシャルウィークに関してかなり気になるお言葉を安西さんが残されておりました。これはファンの皆様にとっても目が離せない一戦となりそうです。注目の大阪杯の発走は、もう暫くお待ち下さい』

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 

『春の柔らかな日差しが決戦のターフへと降り注いでいます。チャンピオンディスタンス2000mで争われる、春の中距離王者決定戦GI・大阪杯。年度代表ウマ娘にも輝いたスペシャルウィークが今年の初戦を迎えます。王者が歩む最強への道に、突如現れた新星ツルマルツヨシを含む曲者14人。さあ、絶対王者の貫禄か? それとも、挑戦者の勢いか? 間も無くその決着の刻を迎えます』

 

 

『阪神コース内回り・芝の2000m・芝は『良』の発表・天候は晴れ・2番のリエモワードが出走を取り消した為、今年は15人で争われます【GⅠ・大阪杯】。いや〜解説の安西さん、いよいよスタートですね!』

 

『楽しみですね〜本当に。ドバイへ挑戦した娘たちは出走してませんけども、今日のメンバーは今の中距離路線で考えればかなり良いメンバーが揃いましたからね。迎え撃つ立場であるスペシャルウィークといえど、簡単に勝てるメンバーではないと思いますね』

 

『安西さんの仰る通り本当に楽しみなメンバーが揃っています今年の大阪杯。果たしてスペシャルウィークはどう迎え撃つのか? そしてライバル達はどう立ち向かうのか? さあ注目が集まる中、今スターターがスタンドカーに上がりました。仁川の戦い、その開戦を告げるファンファーレが、間も無く阪神レース場に鳴り響きます───』

 

 

『───ファンファーレが鳴り響いて場内からは大歓声が巻き起こりました! これに伴って各ウマ娘のゲート入りも続々と始まっています。安西さん、今回の展開はどんな感じになると思われますか?』

 

『そうですね…先ず逃げたいであろう娘が③のレスカリュウドぐらいだと思うので、彼女がペースを握るのなら平均ペース…前半の1000mを大体60秒ぐらいで行くと思うんですよね。ですからあまり紛れの無い、地力勝負になりそうな展開になると予想はしています』

 

『なるほど、確かに今回はあまり競りかけて行く娘も居ない感じは見受けられますもんね。さあ、ここまで枠入りは順調です。今⑮のツルマルツヨシもすんなりとゲートに収まりました。破竹の勢いそのままにGI獲りなるでしょうか?』

 

(ふぅ……よぉ〜しっ! 気合い入れて走るぞツヨシ! GIの舞台で! ライバル達と──スペちゃんと思いっきり走り合ってやるッ!)

 

 

『──残す枠入りは後一人、大外⑯スペシャルウィークが今ゲートへと向かいます。シニア級に入って更なる成長を遂げているのか否か、彼女の今後を占う上でも重要な一戦となるでしょう』

 

(先ずはスタート、そして第1コーナー……大丈夫…見せるんだ、小さい頃からお兄さんと一緒に作り上げた私の走りで、今日も勝つ所を!)

 

 

『スペシャルウィークも今ゲートに収まります。先週は異国の地ドバイでの日本ウマ娘たちの躍動、そして高松宮記念で心震わせた一流の証明。果たして今週はどんなドラマが待っている?』

 

『──さあ! 春をかし、仁川の戦い、いざ尋常に! GⅠ・大阪杯───今スタートが切られましたッ!』

 

 

『おっと!? ⑯スペシャルウィーク、ロケットスタート! 素晴らしいスタートを切りました! 早くも大外からポンッと2バ身ほどリードしている。更にはその隣⑮ツルマルツヨシも良いスタート。さあ、ポンッと飛び出したスペシャルウィーク──これは…控えない? 控えないのか!? 何とスペシャルウィーク、そのままハナに立って行った!?』

 

(よしッ! スタートは切れた! 内からは…まだ誰も競りかけて来てない。このままなら──先頭に立てる!)

 

(──っ! こ、これって…スペちゃん──まさか…逃げる気!?)

 

 

『これは驚きの展開になりました! 一番人気のスペシャルウィーク、まさかの逃げの手です! 後続とは2バ身ほど離れて先頭に立っている。この光景に場内からはどよめきが起きています。さあそんな中での2番手争いですが、内から③のレスカリュウドが行きそうだ。更には真ん中から⑧ムーブザドリーム。そして好スタートを決めた⑮ツルマルツヨシも外からこの先団グループに加わって行って、各ウマ娘が第1コーナーへと向かって行きます』

 

(真後ろから脚音や息遣いは聞こえない。誰も詰め寄って来てない。これなら作戦通り──コーナーで息を入れられるッ!)

 

(最初は驚いたけど、スペちゃんはこれまでのレースで逃げた事は一度も無い。後半どこかで隙が出来る筈…ならそこを突くためにも、スペちゃんの背中が常に見える位置にッ!)

 

 

『先団グループの少し後ろに⑭テイミューダン。その内には①のアタロ。この二人の後に⑥マチカネフクキタル、⑦キンイロリョテイが続いて、更には⑫ムーンオーキッドと、⑬ミッドナイトレイズも外から並んで追走しています。さあ早くも隊列は縦長になりながら、第1コーナーから第2コーナーを回って向こう正面に入って行く』

 

 

『もう一度先頭から整理していきましょう。逃げているのは何と⑯スペシャルウィーク、リードはやや縮まったでしょうか? 1バ身ほどのリードになっています。2番手は少し上がった③のレスカリュウド。半バ身後ろ外に⑧ムーブザドリーム3番手。4番手には1バ身半ほど離れて⑮ツルマルツヨシが続いている。さあ、倒せるか? スペシャルウィークを!』

 

(──息は入れられた。後はお兄さんと練習してきた通りに…向こう正面では追走ペースを少し上げて…)

 

(良い位置を取れた! ここならいつでもスペちゃんを捉えに行けるッ!)

 

 

『ツルマルツヨシの1バ身ほど後ろに⑭テイミューダン。内から①アタロが並んで、この二人の間に菊花賞ウマ娘⑥マチカネフクキタルが居る。その半バ身後ろの外目から悲願を狙う⑦キンイロリョテイ。最内から⑨ショカツヨシイエが位置を上げてきた。真ん中には香港カップを制した⑬ミッドナイトレイズも虎視眈々。この彼女の真後ろにティアラ二冠ウマ娘⑫ムーンオーキッド。ここまでが中団グループか』

 

 

『中団グループから2バ身ほど離れて④のサバンラー、⑪のカガヤキサーメット並んでる。さあここで前半の1000m通過は────“58.6”!! これは流れているぞぉぉ〜!! 後ろには⑤のエナジーウッドマンが居て、そこから3バ身ほど離れた最後方に⑩のカナジームという隊列で、間も無く第3コーナーのカーブに入る』

 

 

『逃げる⑯スペシャルウィーク、このリズムは果たしてどうなんだ!? ここから王者は、我々にどんな走りを見せてくれるのか!? リードまだ1バ身キープで残り600mを通過。2番手③レスカリュウドですが少し苦しそうか? 3番手の⑧ムーブザドリームはやや後退。そしてこの二人を避ける様に⑮ツルマルツヨシが2番手まで上がって来る! さあその背中を瞳に捉えたのか? “黄金世代の秘密兵器”がッ! 今、王者を射程圏内に捉えて! 進撃態勢に入ったぞぉぉぉ〜ッ!!』

 

(最後のコーナーに入ったッ。リードはまだ保ててる。これなら最後に息を入れられる。後は練習の時と同じ、より速くゴールに…待ってくれてる──お兄さんの所にッ!)

 

(──やっぱり…何か変だッ……スペちゃんはまだ余裕そうなのに、前の二人がちょっとずつ…下がって来てる? …いや、迷うなツヨシ! もうすぐ直線コース、このリードならスペちゃんを捉えられるッ! 仕掛けるなら──ここだッ!)

 

 

『そのツルマルツヨシの仕掛けに続けと言わんばかりに! 後続勢も追い上げて来るッ! ツルマルツヨシの後ろを狙って⑬ミッドナイトレイズ、大外捲って来たのは⑫ムーンオーキッド! ⑥マチカネフクキタルも真ん中から伸びて来ている! ⑦キンイロリョテイはちょっとバ群に包まれているが、ここからどう抜け出すのか!? さあ、ここで第4コーナーを周り切って──各ウマ娘が今、直線コースに入ったぁぁ〜ッ!』

 

 

『先頭はスペシャルッ! スペシャルウィーク先頭だッ! スペシャルウィーク先頭ッ! 何とここでリードを広げたぁぁ〜ッ!? 3バ身のリードがある! しかし外からツルマルツヨシ! 打倒スペシャルウィークへ! ツルマルツヨシがやって来たッ! その後ろから⑬ミッドナイトレイズ! 更に真ん中からフクキタルゥゥ〜ッ! 菊花賞の再現なるかッ!? 真ん中からマチカネフクキタルが差を詰めてきたッ! 大外捲ったムーンオーキッドは伸びないッ!』

 

(脚はまだ軽い、下り坂も問題ない、後は───根性ォォ〜〜ッ!!)

 

「──勝ってみせるッ! うお"お"ォォォォォォォォォ〜〜ッ!!」

 

 

『逃げるスペシャルウィーク未だ脚色が衰えないッ! 寧ろコレはまだ──まだ加速しているというのかスペシャルウィーク!? リードが! 更に! 広がっていくッ!広がっていくッ! スペシャルウィーク信じられない! ここから更にスパートを開始したぁぁぁ〜ッ!! 後ろを完全に置き去りにして行くッ!! 後ゴールまで200mッ! ツルマルツヨシとマチカネフクキタルが懸命に追いかけるッ! ミッドナイトレイズはここで失速! おっと、そして! ⑦キンイロリョテイがバ群を縫って突っ込んで来た〜ッ! しかし2番手争いまでかッ! 2番手は大激戦になりそうだッ!』

 

「この走りで勝つところを───見せるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!」

 

(スペちゃんの背中が──ッ! 諦めるな…諦めるなツヨシ! まだゴールしてないッ! あの背中をッ! 最後までッ! 最後まで追いかけろぉぉぉ〜ッ!)

 

 

『春の疾風を切り裂いてッ! まさに“彗星”の如しその走りはッ! 今年も健在だスペシャルウィーク!! 差は広がる一方! リード7バ身ッ!8バ身ッ! その強さに場内からも称賛の拍手が巻き起こるッ!』

 

『──この強さ! これがッ! 現トゥインクル・シリーズの───頂きに立つ者の貫禄だぁぁぁ〜ッ!! スペシャルウィーク! 今圧巻の強さで──ゴォーーールインッ!! ……2番手は大激戦ですがッ! 僅かに⑮ツルマルツヨシが体勢有利か!? 3番手に恐らく⑦キンイロリョテイ! ⑥マチカネフクキタルは4番手でしょうか!?』

 

 

『“彗星”一人旅〜ッ!! スペシャルウィーク貫禄の逃げ切り勝ちです! スタート直後から逃げの手を打った時は場内からどよめきも起こりましたが、真の王者には脚質など関係ありませんでしたッ!』

 

『──おお〜っと! そして今、電光掲示板には【レコード】の赤い文字が点灯している! その勝ちタイムは───何と“1分56秒8”ッ!! “1分56秒8”ですッ! 昨年のエアグルーヴが計測した、“1分57秒4”をコンマ6秒も縮めるレコードタイムッ!』

 

「はあっ…はあっ……やったッ! やった〜〜ッ!!」

 

(はあ〜っ…はあ〜っ…ふひぃ〜…ふひぃ〜……初めてのGⅠ…スペちゃんにも…勝ち…たかったなぁ〜……でも、まだ一回負けただけッ! また挑戦出来るんだ! また一緒に走れるんだ! 一回負けたぐらいでめげてる場合じゃ無いッ! もっともっと頑張って…今度こそ──スペちゃんに勝ぁぁ〜っッ!)

 

 

『いや〜…安西さん、もの凄いレースを披露してくれましたね〜! スペシャルウィークは!』

 

『凄い…いやちょっと本当に凄いですね…今日の走りは。彼女の走りが凄い事は分かっていたつもりだったんですが、今まで見せてきた中でも今日のパフォーマンスは明らかに一段上だと思いますので……レース前に感じた迫力は勘違いではありませんでしたね。彼女は…恐らくクラシック級時代に本格化を迎えていなかったんでしょうね…』

 

『そ、それは…えっ、えっと〜…安西さん? つまり…スペシャルウィークは〜…これから本格化を迎えて…今から一番強くなって行く…という事でしょうか?』

 

『はい…いや、僕も普通に考えたら有り得ない事だとは思いますよ? ただスペシャルウィークの本格化に関しては僕の周りでも噂にはなってたんですよ。最初に聞いた時は何をバカな…って思ってたんですけど、今日の走りや雰囲気を見てしまうと……手の平を返すしかないですよね。だって明らかに本格化を終えた娘の成長曲線とは思えない成長具合なんでね…』

 

『な、なるほど…それが本当だとしますと……一体、彼女はどこまで強くなるんでしょうね?』

 

『本当にね…もうそこを楽しむしかないですよね。僕も手の平を返すとは言っても、まだ理解は追い付いていないので……ただ、一つ言えるのはこの世代で見られるのは嬉しいですね。確かにスペシャルウィークはとんでもない娘ですけど、周りの娘達もこの世代は役者揃いですから』

 

『確かにスペシャルウィークの世代はファンの間でも“黄金世代”と名高いですし、先週のドバイやシニア級GⅠで既に実績も残していますから、どれだけ強いウマ娘でも一筋縄ではいかない感じがしますもんね』

 

『そうなんですよ! 今年スペシャルウィークは国内路線に進むと明言していますし、これから彼女を倒す為に他の娘たちも出走してきてくれるでしょうから、本当に今年はより一層楽しみなトゥインクル・シリーズになりそうだと思いますね』

 

『そうですね! 今日のスペシャルウィークの走りは、そんな今後のレースの注目を更に高める…そういった価値も生まれた素晴らしい勝利だった事に間違いはないでしょう』

 

 

『改めまして今年のGⅠ・大阪杯、上位の着順は確定しています。1着は⑯スペシャルウィーク。2着に9バ身差で⑮ツルマルツヨシ。3着にクビ差で⑦キンイロリョテイ、あの状況からよく追い込んで来ました。4着にアタマ差で⑥マチカネフクキタル。5着に2バ身と1/4差離れて⑬ミッドナイトレイズ。電光掲示板は確定しております』

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 圧巻の内容で大阪杯を勝利し、ファンの皆様から沢山の…本当に沢山の祝福を受けているスペちゃんの姿を心から誇りに思いつつ、俺は一緒にレースを見届けたマックイーンさんとアヤベさんに断りを入れ、地下バ道へと戻って来るスペちゃんを迎えるべく一足先にそちらに向かわせてもらった。

 

 

 スペちゃんが怪我や大きなダメージを負っていない事はゴール後のチート鑑定で確認済みではあるのだが、それでもやっぱり…何事も無かったという事を間近で確信したい。という気持ちになってしまうのは昔から変わらないものである。

 過保護になり過ぎない様には気を付けているのだが、身体の安全面に関してはどうしてもね…

 

 

 とまあ、そんな感じで安全面の過保護に関して開き直っていると…ライバルの皆さんやファンの方々との交友を終えたスペちゃんが、上機嫌気味に地下バ道へと戻って来る姿を確認する。

 うん、改めて確認したけど怪我やダメージは大丈夫で一安心だ…

 

 

 スペちゃんの身体に何も異常が起きていない事を確認し、正直レースに勝った時よりも嬉しい気持ちに満たされながら、俺はスペちゃんに声を掛けようとした矢先、

 それよりも先にこちらに気付いてくれたスペちゃんが、パァと満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来てくれる……あれ? この感じ結構な勢い──

 

 

「お兄さぁぁぁ〜〜〜んっ!!」

 

「おっ───とっとッ! おかえり、スペちゃん」

 

「──…お兄さん、ただいまです」

 

 

 漫画や映画などで、愛する人とずっと離れ離れだった二人が空港などで再開して抱き合うシーンってこんな感じなのかな? って思ってしまうぐらいの熱い抱擁を、

 スペちゃん側の衝撃が少なくなる様に受け止め、俺は内心では割と動揺しつつも、それを悟られない様にチートフル稼働で平常心を装う。

 

 

 いや動揺するでしょ? するよね? するべきだよね? スペちゃんみたいな娘にこんな抱擁受けて何も感じない男が居る訳ないよね? 居るとしたら俺にはその人の気持ちが分からないよ。

 USBの裏表ぐらい分からない。……マジでこんなアホな事を考えてないと理性が危ない。

 

 

 しかも受け止めた後、スペちゃんはスゥーッと大きく息を吸ったかと思うと、フニャ〜ッとした無防備な表情に変わり、俺に身体を預けたままこちらを見上げながら『ただいま』と発する……

 もうさ、何なの? この可愛い生き物。

 

 

 信じられるかい? こんな可愛い娘が今世の俺の幼馴染なんだぜ? マジで前世の俺は地球でも救ったのかね? じゃなきゃこんな可愛い娘と幼馴染になれる権利なんて貰えないと思うんだけど…

 

 

 このままだとスペちゃんの地球すら救ってしまうであろう可愛いパワーに、俺の理性がチートを以ってしても陥落しそうなので…ウイニングライブの準備を口実に抱擁を解こうとすると──

 

 

「お、お兄さん…あの〜…も、もうちょっとだけ…このままでも…い、良い…ですか?」

 

 

 頬を赤らめながらそんな事を宣うスペちゃん。

 全く…幾ら理性を陥落させられそうになったとは言え、チート持ち幼馴染を随分と舐めてくれるじゃないかスペちゃん? 俺はNOをハッキリと言える人間だと伝えていなかったかな?

 

 

 いつまでもこのままの状態でいる訳にはいかないのだから…まあ…その…アレだね……後少しだけだからね? 後少ししたら控え室まで行くからね? 分かったかいスペちゃん?

 

 

「はいっ! じゃあ後少しだけ、ぎゅーってしたら直ぐに向かいましょう!」

 

 

 どうだい! 俺も言う時は言うもんだろう? あのままいってたら30年ぐらいは動けなかったところを5分ぐらいに短縮してみせたぜ! 本気出したらザッとこんなもんよ!(ヤケクソ)

 

 

 ……結局、俺たちが控え室に到着したのはそれから10分ほど経った後であった……

 スペちゃんは怪我も無かったし、レースでは勝利出来たし、ウイニングライブも大盛況だったから…め、めでたしめでたしって事ですよ。うん。

 

 

 こうして、シニア級に入ったスペちゃんと俺は無事に? 今年初戦を勝利で飾り、幸先の良いスタートを切る事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

───

──

 

 

 

 

 

 

 大阪杯のレース終了後、阪神レース場現地でスペシャルウィークの勝利を見届けた、チームリギルを牽引する東条ハナと、ドバイ帰りながらも今回のレース観戦を願い出たグラスワンダー、そして同じくドバイ帰りで来週からはフランス遠征へと向かうエルコンドルパサーの三人の間には、何とも言えない空気感が漂っていた。

 

 

(本格化が済んでいないであろう事は予想していたけれど、まさかこれ程とはね……それに今日の逃げ方…流石に毎回はやってこないでしょうけど、アレは対処を考えておかないと今回負けた娘たちの二の舞になる…)

 

「…トレーナーさん、お願いがあります。学園に戻ったらトレーニングを──マルゼンさんとの併走トレーニングをお願い出来ないでしょうか?」

 

「ワタシもお願いしマスッ! もし、今日ワタシがスペちゃんと戦っていたら…きっと、いえ! 確実にあの逃げを捉える事は出来ませんデシタ。あの逃げを何とかしないと、ワタシはスペちゃんには勝てないと思いマス!」

 

「焦る気持ちは分かる。だけど、二人とも一度落ち着きなさい。先ず海外帰りで疲労が抜け切っていない状態で、貴方達に強い負荷の掛かるトレーニングはさせられないわ」

 

「疲労なら大丈夫です! 日本に戻って来てもうすぐ1週間も経ちます! なのにゆっくりなんてしていたらッ スペちゃんにドンドン置いていかれますッ!」

 

「トレーナーさん、ワタシもとっくに疲れはありませんッ! 来週からはフランス遠征だって始まりマスッ! 少しぐらいハードなトレーニングだって、ワタシは乗り越えてみせマスッ!」

 

「それを決めるのは私よ。今はとにかく疲労を抜く事を第一に考えなさい。特にスペシャルウィークに勝ちたいと思うのなら、それが貴方達が今出来る最善の道だから。……それに今日の逃げに関しては、学園に戻ったらカラクリを説明してあげるから安心しなさい」

 

「スペちゃんの逃げのカラクリ…ですか?」

 

「ケ!? そんなモノがあるのデスか!?」

 

 

 こうしてスペシャルウィークの逃げのカラクリを説明する。という事をダシに…と言うと聞こえは悪いが、二人の性格をよく理解している東条トレーナーは、それを条件にこのままでは隠れて自主トレに励みそうな二人を、自分が目を光らせる事の出来る状況に持っていくのだった。

 

 

 

 

───

──

 

 

 

 トレセン学園でも有数の強豪チームである、ここチームスピカの部室ではチームの面々が、自身たちの担当である沖野トレーナーにスペシャルウィークの逃げのカラクリを解説する様にと詰め寄っているところである。

 

 

「ったく、先ずは今日のトレーニングメニューを熟してからゆっくり解説してやるつってんのに…まあ良い、じゃあお前らちゃんと聞いとけよ?」

 

「「「「良いからはよ教えろ」」」」

 

「お前らな…はぁ……じゃあ先ず、今日のスペシャルウィークの逃げのカラクリだが、まあザックリ言うとアレは【コーナーでは息入れて、直線では速く走る】コレをやってるだけだ。後はスタートがべらぼうに上手かったのもあるが…スタートの技術に関しては今の所分からん」

 

「オイ、ゴルシちゃんはスタートの部分を一番聞きたかったんだぜ? なのにそこは分かんねーのかよ!?」

 

「分かってたらオメェには無理矢理にでも教えてるっつーの! …とりあえず続けんぞ? スペシャルウィークがやった流れはこうだ。スタートを上手く切る→ある程度リードを保って先頭に立つ→1・2コーナーでピッチを緩めて息を入れる→向こう正面ではピッチを速めてペースを上げる→3・4コーナーではまたピッチを緩めて息を入れる→んで最後の直線でドーンだ!」

 

「随分と雑な説明ね…どうしてコーナーでは緩めて、向こう正面では速めるのよ?」

 

「コーナーじゃ全員がスピードを出し辛いからだ。コーナーで加速なんてしたら外に膨れてスタミナロスになる。だから後続勢が逃げてる奴にプレッシャーを掛け易いのは、今回の場合は向こう正面だけだった。だから逆にスペシャルウィークは向こう正面ではペースを上げたんだ。そのせいで向こう正面でプレッシャーを掛けに行こうとした先行勢は、ツルマルツヨシ以外バテて全滅してる」

 

「そっか、スペちゃんは逃げてるからコーナーで息を入れられるけど…それ以降の娘たちは息なんて入れようとしたら、後ろの娘にポジションを取られちゃうもんね」

 

「そうだ。緩める所は緩める、速める所は速める。そんな淀みの無いペースを刻んで、後ろの奴らにはなし崩し的に脚を使わせる。そして逃げた自分だけが緩められるコーナー部分で自分だけ息を入れる。こんな事されたら、後ろの奴はただ逃げてる奴に付いて行くだけしか出来ない」

 

「すげぇ、スペ先輩そんな事まで出来んのかよ…」

 

「スズカの様な逃げとはまた違った意味で驚異の逃げ方だ。今回の大阪杯なんて、スペシャルウィークが1コーナーで息を入れた時点で、もう勝敗は決してた様なもんだからな」

 

 

 沖野トレーナーの解説を聞いて、チームスピカの面々が少しだけ自分達のトレーナーの手腕を見直したのは、ここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 作中でのレースに関する事柄は作者の妄想が入っておりますのでご了承ください。


 ツルちゃんは設定上かなり体質が弱い娘なのですが、この拙作のツルちゃんは何処ぞのチート野郎が学園内で好き勝手やってやがる影響と、南坂トレーナーというハードスケジュール管理の神様みたいな人達の影響で、今はかなり体質が改善されている状態となっております。

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