スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 誤字脱字のご報告・お気に入り・ご評価・ご感想・読んで下さっておられる方々、いつも本当にありがとうございます!


 この拙作のトレーニング描写・レースに関する事柄などは、全て筆者の妄想が入っておりますのでご了承下さい。


 ここで此度のお話についてお詫びのお言葉を失礼致します。

 実は今回の【天皇賞(春)】にて登場をして頂く予定でした史実の《サニーブライアン号》にあたるウマ娘さんを、
 私が前回の【大阪杯】で登場して頂いていたと勘違いをした状態でレースシーンを下書きしてしまい…
 そちらの書き直しを行うため今回はレースシーンまで纏めて投稿させて頂くという形を取る事が出来ませんでした。


 そのため今回に関しては前回の投稿から一月が空いてしまいそうでしたので、本話のみを投稿させて頂く形を取らせて頂きました。次話以降は変わらずレースシーンまで纏めて投稿させて頂きたいと思っております。
 この度は物語の進行が遅れてしまい大変申し訳ございません。





春の盾をかけて…/GⅠ・天皇賞(春)①《スペちゃんシニア級》

 

 

 

 

 

 

 

 アヤベさんが脚をはじめとした体への怪我や大きなダメージを抱える事なく、皐月賞を競り勝ち無事に帰って来てくれた日の翌日…

 

 

 皐月賞の余韻に浸りつつも俺は現在いつもと変わらずチーム部屋にて、この後の放課後トレーニングでスペちゃん・マックイーンさん・アヤベさんらの一助となれる様に、

 部屋の端に設置してある自分用のデスクに腰掛けて彼女達一人一人の現状での身体バランス・各筋肉や骨の状態・それに合わせた今後のプラン案を複数・俺が感じている細かい事柄などが、手描きのイラストと文字でびっしりと書き記されているノートを見直しながら考え込んでいる最中である。

 

 

 ……昨日のアヤベさんの皐月賞は勝てたとはいっても…正直もう一度同じ条件で走ったとしたらその時はコチラが負けてもおかしくない……

 分かっていた事だけどそれぐらい、東条さんとオペラオーさん、沖田さんとトップロードさん達は本当に強かった…

 

 

 確かにアヤベさんがスタートで後手を踏んでしまった事、道中の追走やスパート時の身体の使い方が少しだけチグハグになってしまった事、そして何より彼女が自分自身の心の声を意識し始めてくれた事、

 それらの影響を考慮すれば次走に予定している【日本ダービー】でのパフォーマンス向上は期待出来るし、アヤベさんが上積みのある状態で臨める様にする事が俺の役目でもある。

 

 

 ただそれは当然相手さん方にも当てはまる。特にオペラオーさんとトップロードさんに関しては、皐月賞を勝ちにいきつつも明らかに次のダービーにも繋がる走り方をしていたからな……

 やっぱり東条さんや沖田さんの様な頂点を争うトレーナーさんは改めて凄いなと思わされた。

 

 

 まあでも、それ故に今回コチラが勝てた部分もある。もしトップロードさんが外から上がって来たオペラオーさんに意識を割かれなかったとしたら、アヤベさんが最内を突いて来れるスペースは塞がれていただろう。

 逆にオペラオーさんも、トップロードさんが居なければ外からアヤベさんだけにプレッシャーを掛ける事なども出来ただろうから…そうなった場合はやっぱりコチラが不利だったと思う。

 

 

 …他のライバルである皆さんもダービーでは最高の状態で出て来られるだろう。アヤベさんにとってこの一月はより一層大切な時期になる。本人も必然的に気持ちが昂るだろうし、先ずは腱・関節・靭帯のケアは重点的にして怪我を防ぐのはいつも通りに…

 トレーニングに関してはダービーで求められやすい終い600mをより速く走れる“末脚の瞬発力”を更に強化する事を軸にメニューを組んで、アヤベさんと擦り合わせをしていくか。

 

 

 次にマックイーンさんは…現状での身体的な成長スピードなどを考えるとこのままじっくり鍛えていきたい。ご本人からも『天皇賞の制覇を第一の目標に。その為なら仮にクラシック級で三冠路線を全て走れなくても構いません』というお言葉を最初に伝えてもらっているし、

 デビュー申請は今年出すとは思うけど…実際にデビュー戦を迎えるのはクラシック級として扱われる来年からにして、ジュニア級では一切走らない選択をする可能性もある。

 

 

 ただジュニア級を走らないのはともかく、クラシック級で三冠路線を全く走らないのは…天皇賞の制覇を目指す上でも避けておきたいところだ。

 実戦レースの経験や慣れの部分はとても大切な事だし…マックイーンさんの本格化を遅らせてじっくり鍛えつつも、本格的な併走トレーニングあたりも徐々に組み込んでいく感じでマックイーンさん自身にも確認してみよう。

 

 

 ……そして最後にスペちゃんだけど、次の【天皇賞(春)】が2週間を切っている以上…本番で走る《京都コース・外回り・3200m》を想定した上の“実戦形式の一発勝負トレーニング”はどこかで入れたい。

 一発勝負の前日は本番と同じ様に軽めのトレーニングで調整して当日に臨む形を取るから、その調整も加味してメニューを組むとなると…小さい頃からやってきた“縄跳びトレーニング”を軸に今回は考えてみようかな…

 

 

 そうやって各々のトレーニングメニューなどについてアレやこれやと考えているとガチャンと部屋のドアが開かれ、自然とそちらの方に振り向いてみると──

 

 

「──あっ! お兄さん、お疲れ様です! 今日もよろしくお願いしますね!」

 

 

 俺の姿を確認した瞬間、耳をピョコンと立てながらパァっと花が咲く様な笑みを浮かべてコチラに挨拶をしてくれるスペちゃんが、一番乗りでチーム部屋へと到着する。

 

 

「スペちゃんも授業お疲れ様。こちらこそ今日もよろしくね」

 

 

 お互いに挨拶と笑顔を交わしながら、スペちゃんは俺の言葉に『はい!』と元気よく返事をして荷物を置きに自身のロッカーへと進んでいく。

 さて、スペちゃんがこの後着替えるだろうから俺は一旦部屋からお暇するか。マックイーンさんとアヤベさんももう直来られるだろうし。

 

 

 ついでに今日使うトレーニング器具も持って行って…あとこのノートも持って行──

 

 

「…ん? お兄さん、何か見てたんですか?」

 

 

 間も無く男子禁制となるであろうこの部屋から必要な物を持って一旦外に出ようと席から立ち上がろうとした矢先、

 俺がデスクで広げて見ていたノートが気になったのか…スペちゃんがコチラにトコトコとやって来ると、ポフッと俺の肩に自身の顔を乗せてピッタリとお互いの頬っぺたをくっつけながらコチラの手元を覗き込む形で密着してくる…

 

 

 き、君ッ…君ねぇッ!? いきなりそんな新手のチークキスみたいな事されたらッ、心臓がカーニバルを起こしちゃうダロォ〜ゥ!?

 あらこの娘ったら赤ちゃんみたいにお肌柔らかくてスベスベ〜! 毎日ちゃんとお手入れしてるのね〜⭐︎ じゃないんだよ!?

 

 

「あ──これって…お兄さんがよく持ち歩いてるノートですよね? わぁ〜凄い! 色んな事が細かく書かれてる…お兄さんはやっぱり私達の事をちゃんと見てくれてるんですね!」

 

「う、うん、そう言ってもらえると凄く嬉しいよ。と、ところでさ…スペちゃん? ちょ、ちょっと近過ぎ──」

 

「ふむふむ『スペちゃんは本格化を迎えた事による脚力の増加によって、地面からの反力を体幹(Core)で上手く逃がさない様にする精度がほんの僅かに落ちている。※天皇賞(春)までには改善しておきたい』…なるほど、確かに最近になって少し重心のブレを感じる瞬間はあったから…」

 

 

 うん、そうそう。“体幹”という言葉はよく聞くのだが、『じゃあその“体幹”って何?』 という事を知っておく事は凄く大切で、“体幹”は英語で“Core(核)”。

 つまり物体の中心にある…人間とウマ娘であれば《ウエスト周りの筋肉達》というイメージを俺は持っていて、この部位は“骨という柱”の割合が少なくて最もブレやすい部位になる。背骨しか支えが無いからね。

 

 

 地面から伝わる反力をウマ娘さんの場合は《自分がより速く前に進める様に上手く放出》する為に、その力が体幹のブレなどによって逃げてしまわない様に筋肉で締めて、自分が意図しない動きを身体にさせない。

 この様な意識の中で“体幹”というものをスペちゃんと俺は小さい頃から一緒に鍛えてきたから、今回も正直やる事はそんなに変わらないんだけど──じゃなぁぁ〜いッ!! 脳内で誰に向かって丁寧に説明してんだオ・レ!?

 

 

 どうしよう…スペちゃんが小さい頃からやってきた事さえもこうして真摯に受け止めてくれてるのは嬉しい。それは凄く嬉しいんだけど…お兄さんは今、理性の重心がブレそうなんですけどッ?

 いや理性に重心というものがあるのか分からんけど、君の無自覚プリティーテロ攻撃を受けてねぇ〜!? 理性がブレない様に抑えるのも大変なんだよ僕ぁ〜ねぇ〜!

 

 

 マジでこんなアホな事を考えてないと理性が保たない……

 皆さん…俺は、そろそろ手を打つ段階にきたのかもしれません。スペちゃんが高等部に上がったこのタイミング的にも、この娘に《男の怖さ》を教える段階にねッ!

 

 

 この娘は最近俺が血気盛んな年頃の一男だという事を、俺もオオカミになり得る男なのだという事を認識していない節がある…この娘にそれを改めて認識してもらう為にも、遂に俺も鬼にならなくてはならぬ時が来たのだ!

 …ですから皆さん? 『は? あれだけスキンシップしといて今更?(憤怒)』と言いたげな感じで石を投げるのはちょっとお待ち頂けませんか? 今日こそちゃんとこの娘に男の怖さを教えてやりますからね? 何卒お待ち下さいお願いします!

 

 

「お兄さん、天皇賞(春)に向けて今日はどんなトレーニングを──」

 

 

 スペちゃんに男の怖さを教える決心を固めていると、つい先程まで頬っぺたをくっつけながら『ふむふむ…』とノートを覗き込んでいたスペちゃんがそう口を開きながらコチラへと向き直る。

 

 

 そうするとまあ、当然お互いに目と鼻の先の距離で見つめ合う事になる訳で…コチラに向き直った瞬間スペちゃんはそのまま凍った様に固まると、暫し“じぃ〜っ”と俺の顔を見つめ、今度は“じわ〜っ”と顔を桜色に染めていく…

 

 

「──ふひゅっ!? す、すすすすみませんっ! お兄しゃんっ! ち、近っ、近っ、かったですねっ」

 

 

 まるで驚いた猫の様にシュバッっと身体を離し、真っ赤な顔のままワタワタと何度も手と尻尾を左右に振りながらコチラに謝るスペちゃん。

 ハッハッハッ、本当にこの娘は…男に対して『恥ずかしい』という感情がしっかりと芽生える距離感に今回は自ら飛び込んで来たというのかい? ハッハッハッ、こっちも顔が真っ赤になっちゃうよ…

 

 

「ダ、ダイジョーブだよ、スペちゃん…そ、そうダ! 今日のトレーニングの事もそうなんだけど、一つスペちゃんにお願いしたい事があったんだけど聞いてくれるかなっ?」

 

「は、はひっ! も、勿論ですよっ! なっ、何ですか? お兄さんっ?」

 

 

 お互いに所々声が裏返りながら言葉を交わす…ええいッ! いつまでも照れてる場合じゃない! しっかりしろ俺! 今日こそこの娘に男の怖さを教えるとさっき決心したんだ!

 

 

 俺は未だに顔を桜色に染めているスペちゃんを近くのソファに座る様に促し、これから彼女に男の怖さを味わわせるため自分の気持ちを落ち着ける様に軽く息を吐く。

 …覚悟するがいいスペちゃん。俺が今から行うのは…世間では俗にいう《パワハラ》と呼ばれる恐ろしい行為! 己の要望を一方的に相手にのませる精神的なパワハラ行為! 社会にでた男女間で最も問題となりやすい《ハラスメント》行為さ! こんな事を行うのは心が痛いが仕方なし! さあ、喰らうのだスペちゃん!

 

 

「…スペちゃん、お願いっていうのは君の“勝負服”についてなんだけど、次の天皇賞(春)──いや、その後に挑むGⅠレースに関しても…俺は君に“以前の勝負服”で臨んでほしいと思ってるんだ」

 

「へ? 【大阪杯】で着た物じゃなくて、最初の勝負服って事ですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「え、えっと…な、なして?」

 

 

 スペちゃんは俺からの突然の意味不明な要望に、思わず北海道弁を発しながら可愛らしく首をこてんと傾げる。

 そりゃそうなるよね。俺も自分で言ってて意味不明だもん。だがこれはパワハラなのだッ! 俺の意味不明な要望をこのまま押し通させてもらう!

 

 

「日本ダービーのレース前に俺が送ったブローチがあったでしょ? 実は、新しい勝負服にはそのブローチを着ける事が出来なかったのが…俺は凄く寂しくてさ。やっぱりあのブローチを着けられる“以前の勝負服”で、俺は君にレースを走ってほしいと思っていたんだ」

 

「──……」

 

 

 俺の言葉にポカーンとした表情を浮かべて固まるスペちゃん。決まったなコレは…ただただ自分の要望を一方的に聞かせる完全なるパワハラ行為! それもウマ娘さんならば誰しもが誇りを持って身に纏う“勝負服”を軽んじる愚行!

 

 

「お兄さん…そ、それは…そのっ……わ、私に対して…意識を……ど、独占欲? みたいな気持ちを…い、抱いてくれてるって…事…ですか?」

 

「ん? ……確かにこれは俺の君に対する独占欲なんだと思う。あ、もちろん安心してね? 俺はスペちゃんの事を常に監視しようとか、そんな独占欲は持ってないから。ただ、今回に関してだけは…俺の我儘を聞いて欲しいんだ」

 

 

 何故か若干更に頬を赤らめ、口元に手を添えながらモジモジとコチラを見つめては逸らし、見つめては逸らしを繰り返しているスペちゃんの行動には『?』だが、

 以前に読んだ書籍にも《独占欲の強い男は怖い》としっかり書かれていたのを思い出した俺は、咄嗟にその要素も組み込むというファインプレーをかましてしまい自分のチート思考力の回転の速さに酔いしれているところだった。

 

 

 まあ読んだ書籍は所謂《恋人同士の関係を占う》という書籍であり、そこには『重めの独占欲は嫌だけど…愛する人から向けられる軽めのヤキモチみたいな独占欲なら寧ろ嬉しい!』なんて書かれていたが、それは些細な問題だろう。

 今回のケースは間違いなく重めの独占欲にあたるだろうし、第一にスペちゃんと俺は“恋人同士”ではない。小さい頃からの幼馴染かつトレーナーと愛バという関係ではあるが、俺の立場は“自分の周りに居る普通の男”と捉えていい存在だろう。

 

 

 そんな普通の男から向けられる独占欲。あぁ、なんて恐ろしい響きだ…最悪スペちゃんから生理的嫌悪感を抱かれてしまう可能性すらある。やり過ぎないように注意しないと…

 しかし、この後スペちゃんがどんなに異を唱えようともこの要望だけは押し通させてもらう。トレーナーという立場を利用して愛バの選択する自由を抑圧する正にパワハラ! 分かったかい? 男を付け上がらせるとこうなってしまうんだよスペちゃん…

 

 

 因みに俺自身の“勝負服”に関する本心は『本人が着たいと思う物を着るのが一番良い』という考えではある。スペちゃんにも自分が着たいと思った勝負服を着てレースに挑んで欲しい。だが今回だけはパワハラの犠牲となってもらう。

 さあ、スペちゃん? 納得がいかないだろう? 怒りに震えているのだろう? その怒りは尤もだから思う存分俺にぶつけてくれ。だが! 今日の鬼と化した俺は君の如何なる声にも一歩も引かな──

 

 

「──お兄さんのお気持ちはよく分かりました……私、私っ! 以前の勝負服で…お兄さんから頂いたあのブローチを着けて! これからのレースも、お兄さんと一緒に駆け抜けて行きますねっ!」

 

「うんうん、スペちゃんの言う事は尤もだけど今回ばかりは──え…?」

 

 

 ちょっと待って? この娘は今何て言った?

 

 

「こうしては居られませんっ! 新しい勝負服をデザインして下さったURAの方へ、私からちゃんと以前の勝負服に戻す理由をご説明させて頂けるよう、理事長さんやたづなさんにお願いして来ますね〜!」

 

「えっ!? い、いやっ、スペちゃんそれはちょっと待っ──」

 

「──えへへ♪ やったぁ…お兄さん、私の事ちゃんと意識してくれてるんだぁ♪」

 

 

 スペちゃんが出口に向かってスキップしながら、幸せそうにぽそっと何か呟いてるけどそれどころじゃない! 今の流れをそのまま伝えられたら変な空気になってしまう!

 あ、ヤバいッ! この娘ったら加速体制に入ってるッ!? スペちゃん待っ───

 

 

 そうやってスペちゃんに手を伸ばしかけた俺が次に目にしたものは…まるで瞬間移動かと錯覚する様なスピードで、部屋から飛び出して行ったスペちゃんの背中だった…

 

 

 あぁ…速いなぁ、本当…見慣れている筈だけど、やっぱりスペちゃんの加速してからトップスピードを持続させる流れが美しすぎる…正しく飛んでるみたいだ……アレは惚れちゃうよ…あ、もう惚れてたんだった。

 ん? なに黄昏てんだよって? 現実逃避です⭐︎ だってもう絶対間に合わないんですもん…

 そのまま俺は成す術なくスペちゃんを見送る事しか出来なかった。

 

 

 その後の展開は皆様のお察しの通りだと思いますが…スペちゃんが此度の件を学園とURAに相談したところ、全く問題になる事なく双方がコチラの意見を尊重して下さり、

 スペちゃんがこの後のGⅠレースを“以前の勝負服”で駆け抜ける事がこの当日にあっさり決まってしまった。

 

 

 そしてスペちゃんにとっては相談事が早期解決(?)した事でテンションが上がっていたのだろうか…その日のトレーニング時には──

 

 

「あ、あの〜…トレーナーさん? ど、どうしてスペシャルウィークさんは以前の勝負服を着られているんですの? それもこれほど嬉しそうにされながら…」

 

「今日は実践形式のトレーニングを行う日でもないでしょ? どうしてまた…」

 

「こっ、これは…そのぉ…お、お兄さんはっ…私に、この勝負服を…着て、欲しいんです…もんね?」

 

『──ハァァ〜ン…何ですあの絵にも書けぬ美しく愛々しい表情は…あ、ダメ尊っ──』

 

 

 二人からの問い掛けに、スペちゃんは俺に対してやや横を向き、指をモジモジさせながら上目遣いで少し期待を込めた瞳をしてコチラを窺う様に見てくる…

 いや、何て答えたら良いの? その問い掛け。そんなチート持ちでも完封される様な問い掛けを、そんな保護欲が掻き立てられる表情で行ってはいけませんよスペちゃん?

 

 

 …あと何故か向こうの方で“アグネスデジタル”さんが盛大に仰向けに倒れられたけど大丈夫なのだろうか? 即座にチームスピカの皆さんに回収されてたから大丈夫なんだろな……って、気を取られてしまったが今はコチラの問題もある。

 

 

 ほら、マックイーンさんとアヤベさんからも『原因はお前かよ…』って呆れた目を向けられてるからさ!? モジモジしながら俺を見ないでおくれよ。そんな表情で聞かれたら『うん、そうだね』としか言えないんだから…

 まさかこれは俺が意味不明なパワハラを行った事に対してのスペちゃんなりの仕返しなのか!? 逆に俺が追い込まれているというのか!? でも正直こんな可愛い仕返しなら許しちゃう、男の子だもん!

 

 

 そうやって俺はマックイーンさんとアヤベさんにジト目ンチを切られながらも、トレーニングに関しては平常運転で行っていったのだった。

 

 

 その日のトレーニングは、皐月賞終わりのアヤベさんが軽めの調整程度。スペちゃんとマックイーンさんは《体幹をブラさずにひたすら縄跳びを跳び続ける》という内容を行った。

 

 

 しかも地面にはピッタリの足型を描いておき、その足型の線から少しでも出ない様にひたすら真上に跳び続ける。

 跳び方も交互に片脚を地面につく駆け足跳びを基本として、駆け足あや跳び、四重跳び、四重はやぶさ跳びも織り交ぜながらという内容。

 

 

 加えてリズムは実際に走っている時の速さに近づけている為、二人とも外から見ると高速マシンガンが弾を発射し続けるのと同じぐらいの間隔で跳び続けるという……

 それに体幹がブレず上半身が全く動かないまま脚だけを動かして跳ぶので、まるで空中浮遊をしながら縄跳びをしている感じに見える。

 

 

 更に更にスペちゃんに関しては、重たい蹄鉄シューズを履きながらも全くブレる事なく速いリズムのまま跳び続けるという鬼畜トレーニングになってしまったのだが…

 

 

 体幹を鍛えられる事は勿論の事、【力をより高い精度で、より長く持続させ続けられる】という、“末脚の持続力”やどんなハイペースになっても“脚を溜められる追走能力”を底上げ出来るというトレーニングとなっておりますので、決してただ鬼畜なだけのトレーニングではありませんのでご安心ください。

 

 

 まあその日は自分で撒いたタネによるスペちゃんの反応が全く意図していなかったものであった。という大誤算は起きたものの、

 スペちゃんもマックイーンさんもアヤベさんも、確実にまた少し前進する事が出来たなと感じる一日を過ごせたのだった。

 

 

 そうして一歩ずつ前進する日々を積み重ねていくと同時に、スペちゃんが春の盾をかけて挑む【GⅠ・天皇賞(春)】の出走日も、刻一刻と確実に迫って来ていた。

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 スペちゃんの勝負服を以前のタイプに戻したくて…こんな無理矢理な展開になってしまいましたがお許しください。


 次回はスペちゃんの【天皇賞(春)】で競い合うライバル達の準備視点、【天皇賞(春)】のレースシーンを分けて同時投稿する。という形になると思います。

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