スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 誤字脱字のご報告・お気に入り・ご評価・ご感想・いつも読んで下さっている方々、本当にありがとうございます!


 このお話は天皇賞(春)のレースシーンとなっております。


 前話の後書きにも書いたのですが、今回は“個別ラップ”なるものの表現を行なっております。
 しかし例に漏れず《レースに関する事柄》には筆者の妄想が入っておりますので何卒ご了承ください。

 史実には何も当て嵌まらないツッコミどころ満載の数字になっております。


 ※エルは海外遠征・グラスとキングは共に【安田記念→宝塚記念】・ツルちゃんはローテと現状の距離適正を考えて【目黒記念→宝塚記念】と…
 各々の理由や【宝塚記念】を最大目標とした調整過程によって、彼女たちは今回の天皇賞(春)への出走を見送っております。





春の盾をかけて…/GⅠ・天皇賞(春)③《スペちゃんシニア級》

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、お待たせしました。辺り一面140万人もの熱きファンの皆様で埋め尽くされた、ここ京都レース場の場内に今軽やかなマーチが流れまして、盾の舞台に臨む優駿13名ご紹介して参りましょう。本日のメインレース、GⅠ・天皇賞(春)の本場バ入場です。…おっとスタンドからの手拍子が、まるで何かの爆裂音の様に澄み渡る淀の青空へと轟いております』

 

 

 軽やかな入場曲と手拍子に迎えられて始まった本場バ入場…そして場内の空気は、一人のウマ娘の登場によって一気に最高潮へと湧き立つ──

 

 

 

『──やはりこの娘の登場で場内のボルテージが一気に上がりました! 前走から装い変わって、再びこの勝負服に込められたスペシャルドリーマーなる名称通り、心は常に夢追う挑戦者。昨年、無敗の三冠という幻想を現実に変えたこの淀の都に、現役最強の総大将が新たな夢を追って。 3枠3番・スペシャルウィーク! 1番人気です!』

 

 

 賑やかな周りの喧騒に負けじと声援を送る者、彼女の姿をカメラに収めようと必死な者、その仕上がりと気合い漲る表情に思わず見惚れる者…

 誰が見ても絶好調だと分かる今日のスペシャルウィークの状態に、現地のファンだけでなくテレビの向こうのファン達も大いに盛り上がっている事が予想できた。

 

 

『解説の武富さん、この娘が現れてから場内の雰囲気の湧き立ち様が凄いのですけれど、今日のスペシャルウィークは勝負服を以前のモノに戻してきましたね?』

 

『そうですね。勝負服はウマ娘一人一人に拘りがある大切なモノですから、彼女の様に装いを戻す事も決して珍しい事ではないですよ。スペシャルウィーク本人も、この勝負服に対する思い入れが強いのかもしれませんね。状態に関しても、本当に彼女はシニア級に入ってから凄みが増してますから…今日もどんな走りを見せてくれるのかワクワクしますね』

 

『現在9戦9勝、GⅠレースは何と目下6連勝中というスペシャルウィーク。加えて武富さんの仰るように、シニア級に入ってからその凄みは増すばかりでございます。ちなみに本日5月2日は彼女の誕生日だそうですが、そんな自身の記念日を無敗のまま、“GⅠ最多勝利記録タイ”であるGⅠ・7勝の大台にのせて祝う事は出来るでしょうか?』

 

 

 自身の誕生日・GⅠ最多勝利記録タイへの挑戦…大舞台に臨むプレッシャーだけではなく、走るたびに様々なモノを背負わなくてはいけない王者の宿命…

 

 

 しかし、そんな重圧を一番感じているはずのスペシャルウィークの様子は──

 何やら幸せそうに微笑み、耳を一度だけピョコンと跳ねさせ、尻尾を機嫌良く左右に振ると…再び気合い漲る表情に戻り、軽い足取りでゲート付近へと向かった。

 

 ──彼女が表情を崩したそのひと時…彼女の視線は、ゴール前の最前列で自分を見守る…大好きな“彼”とお互い重なっていた事は言うまでもない。

 

 

 

 

『── ドバイの夜空に舞う砂塵嵐も、惜敗続きだったクラシック級の鬱憤も、その名に恥じぬ青空の様に晴らした前走の快走劇。さあ、同期の総大将よ、メジロに春告げた前年覇者よ、確と拝ませてやろう──世界が見上げた青雲の逃避行を! 6枠8番・セイウンスカイ! 2番人気です!』

 

 

 こちらにも、先ほどのスペシャルウィーク登場時に負けない程の声援が送られていた。

 そして勿論──その仕上がりもスペシャルウィークに何ら引けを取らない状態である。

 

 

『武富さん、彼女は前走のドバイシーマクラシックで《無敗の凱旋門賞ウマ娘》や《仏・愛の二カ国ダービーウマ娘》らを相手に、天晴れな逃げ切り勝ちを収めてくれましたよね!』

 

『いやあ〜、前走は本当に素晴らしかったと思います。あれだけの走りが出来るこの娘がクラシック級でGⅠを獲れなかったというのが、現トゥインクル・シリーズのレベルが余りにも高いのだな…という証明にもなりましたよね。ただ前走のパフォーマンス通り、この娘もシニア級に上がって別ウマ娘の様に強くなっていますから、今年はセイウンスカイの年となっても何ら驚かないですよ』

 

『昨年はスペシャルウィークをはじめ、自身も含む“黄金世代”と謳われる同期のライバル達に後塵を拝しましたが、前走で証明した通りその強さは同期たちと比べても何ら遜色はありません。こちらも成長著しい彼女の走りにご期待下さい』

 

 

 セイウンスカイは身体をほぐし終えるとゲート付近──には向かわず、地下バ道の出口から少し離れた所で待機していた自身のトレーナーさんの下へと真っ先に駆け寄り…

 何やら既にターフに出て来ている⑬サニーブレイヴサンへとお互いに目を向け、しばらく話し合った後ゲート付近へと向かって行った。

 

 

 

 

『──前年覇者、誇りを胸に淀の都へ堂々見参。無冠のまま終えたクラシック級での悔しさ糧に、コツコツと磨いてきたその重厚な斬れ味誇る末脚の如く、ヒーローとシンデレラはいつも遅れてやって来る。ガラスの靴は譲ろうとも、この春の盾だけは絶対に譲らない! さあ、お嬢様? 舞踏会へと参りましょう。7枠10番・メジロブライト! 3番人気です!』

 

 

 人気は後輩二人に譲ったものの、こちらの声援と仕上がり具合も上二人と甲乙つけ難い状態である。

 

 

『武富さん、今日のメジロブライトは堂々とした雰囲気を纏っていますね〜』

 

『本当に素晴らしい雰囲気ですね。調子はかなり良さそうです。前走の《阪神大賞典》ではレコード勝ちを収めていたので反動が少し心配だったんですが…今日の彼女を見る限りそんな心配は無用でしたね。寧ろ前走から更に状態が上向いている感じなので、現役屈指のステイヤーたる実力を遺憾なく発揮してくれると思います』

 

『確かに前走の阪神大賞典しかり、昨年の天皇賞(春)しかり、3000m級のレースにおいてはメジロブライトこそ現役最強なのかもしれません。その証明が今日この舞台で成されるのか注目です』

 

 

 メジロブライトはスタンドの二階からコチラを見守ってくれている、自身のトレーナーさんやメジロドーベル、そして何より…大好きなメジロライアンの姿を確認してからゲート付近へと向かった。

 

 

 

 

『──今、場内が温かな拍手と歓声に包まれております。己の強さが決してフロックなどでは無いのだと証明したあのダービーから2年…遂に彼女がターフに帰って来てくれました! 各々の方、久方ぶりだと油断めさるな? 何といっても二冠ウマ娘だ! 8枠13番、お帰り! サニーブレイヴサン! 5番人気です!』

 

 

 凡そ2年ぶりの復帰となる二冠ウマ娘・サニーブレイヴサンの登場に、場内は先程とは違った盛り上がりをみせる。

 

 

『いやあ〜…武富さん? 骨折に屈腱炎とダービー後は苦難に見舞われた彼女ですが、懸命なリハビリを乗り越えて遂に…遂にサニーブレイヴサンが帰って来ましたね!』

 

『もう本当に、こうしてターフへと帰って来てくれた彼女自身と、彼女を支えてくれた周りの方々には一人のファンとして感謝の言葉しかないですね。そして何より驚いたのが今日の状態ですね…2年間レースから遠ざかっていた娘とは思えない仕上がりですから、無事に走り終えた彼女が何番目にゴールしているのか楽しみですね』

 

『武富さんからも太鼓判を押された状態面。長距離適性は未だ未知数ではありますが、あの強靭な逃げを披露できれば、復帰早々にGⅠ戴冠も決して夢物語では無いはずです。彼女がスタート後どう動くのかにも注目が集まります』

 

 

 ブランクを感じさせない直前トレーニングでの動き、仕上がりも好調だと断言できる状態。

 後は『久々のレースでも全力で挑むだけだ』という様に、念入りに身体をほぐしたサニーブレイヴサンもゲート付近へと向かう。

 

 

 

『──さあ、今年の天皇賞(春)に臨む優駿13名のご紹介が終わりましたが、流石GⅠレース。どのウマ娘も素晴らしい仕上がりでファンの皆様も目移りしている事でしょう。京都レース場・メインレース【GⅠ・天皇賞(春)】発走までもう暫くお待ち下さい』

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

『──思わず感嘆のため息が漏れてしまう程の長閑な五月晴れ、京都レース場です。どれだけ時代が移ろうとも、決して変わる事なき盾の重み…今年は13名によって競われる春の天皇盾をかけた戦い【GⅠ・天皇賞(春)】・《京都レース場・第11レース・外回りコース・芝3200m・バ場状態は良》最高のコンディションのなか、間も無く発走の時を迎えます』

 

 

『実況席の解説は武富さんにお越し頂いておりますが、武富さん? 先ずは1番人気に支持されました③スペシャルウィークの状態や、今日のレース運びはどの様に見ておられますか?』

 

『そうですね、まず状態面に関してはゲート付近に着いても全く慌てていませんし何も心配いらないと思います。今日のレース運びは、このメンバーなら先団辺りに控えて…前を射程に入れながら直線に向く形を取るのではないでしょうか』

 

『なるほど…彼女は前走の大阪杯では素晴らしいロケットスタートから圧巻の逃げ切り勝ちを収めましたが、武富さんは今回は逃げないだろうと?』

 

『うーん、逃げの手は打たないと思いますね。先行争いが激しくなりそうなメンバーですし、スペシャルウィーク自身も逃げなくてはダメ! という訳ではないですからね。誰もハナに行かない…とかになれば行くでしょうけど、今回その展開になるのは考えにくいですから。まぁ、前走の様にまだ何か隠してる可能性もありますけどね』

 

『確かに前走の逃げの手同様、シニア級に入った彼女が再び私たちを驚かせてくれる走りを披露してくれるやもしれませんね〜』

 

 

 ウマ娘ファンや評論家たちの間で、そして現場で働く関係者や有識者たちの間で、“スペシャルウィークはシニア級に入ってから本格化を迎えたのではないか?” という事は周知の事実となってきている。

 そのため今日の天皇賞(春)でも、今まで見せた事のない戦法や走りをしてくれるのではないか? と関心を寄せる者も多い。

 

 

 そして…そんな注目を集めているスペシャルウィーク本人は、現在ゲート前で自身の勝負服に着けられたブローチに──

 かつて日本ダービーに挑む際、“彼”から贈られた《紫のカランコエが形取られたブローチ》に自らの左手を添えて目を閉じ、静かに精神統一を行っていた。

 

(やっぱり落ち着くな…この勝負服は。……今日までやってきた事を信じて、今の自分ができる最高の走りで…今日だけは──二人のお母ちゃんとお兄さんに応えたい!)

 

 

 

『武富さん、全体のレース展開はどうなるでしょうね? 巷でも今回ハナを取るのは⑧セイウンスカイ、⑬サニーブレイヴサン、後は⑥ドミンゴセイラに⑤のマリモイナズマも候補に挙がっているという…意見が割れていますよね?』

 

『はい、まぁスタートの上手さやテンの速さを考えると…セイウンスカイが逃げるんじゃないですかね。ただ、サニーブレイヴサンも大外から強気に行くならハナを取れるとは思うので…逃げ候補はこの二人ですね』

 

『今日のバ場も時計は掛かっていて決して高速バ場ではないんですが、内も外も関係なく伸びているので意外と前が止まらない…というケースも見受けられてましたもんね。確かに逃げたいサニーブレイヴサンからすれば意地でもハナを主張するかもしれません』

 

 

 狭くて窮屈な場所…特にゲートの中が苦手なセイウンスカイは、間も無く始まるゲート入りに内心少しだけ憂鬱になりながらも、その高めた集中力は一切乱すことなく、

 静かにライバルたちの様子を──特に⑬サニーブレイヴサンの様子を横目で観察していた。

 

 

(…随分念入りにターフの感触を確認しながら足裏を重点的にほぐしてる……これはトレーナーさんの言う通り、スタートから無理矢理にでもハナを取りに来そうだね〜……ま、それならそれでスタート直後のペースを修正して、こっちの仕掛けにハマりやすくするだけだけどね♪)

 

 

 

『今年も緑一色の京都レース場。人気の通りスペシャルウィーク、セイウンスカイ、メジロブライトの三つ巴となるんでしょうか? それともそこに割って入る猛者が現れるんでしょうか? …さあそして、今スターターがスタンドカーに向かう様子が目に入りました! 間も無く【GⅠ・天皇賞(春)】のファンファーレが響き渡ります──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 “その戦いに、もう言葉はいらない”

 

 

 

 

 

 春の天皇盾をかけて、覇を競う優駿13名────

 

 

 

 

 

 

『────マチカネが出たッ! またまたフクキタルだッ! マチカネフクキタル! マチカネフクキタル! 福が来た京都ぉぉぉ〜ッ!! またまた福が来た! 神戸、そして京都に次いで! 菊の舞台でも福が来たぁぁぁ〜ッ!!』

 

《マチカネフクキタル》

 

 

 

『────さあ直線に入った宝塚記念! サイレンススズカ逃げる逃げるッ! このまま逃げ切るか──いやッ!? キンイロリョテイが差を詰めてきたッ! ただ一人、キンイロリョテイが差を詰めてきたッ! エアグルーヴはまだ後方だッ! リョテイが迫るッ! リョテイが迫るッ! しかし、しかしッ! サイレンススズカが結局逃げ切ったぁぁぁ〜ッ!! 力を示しましたが、キンイロリョテイはまたまた2着〜ッ!!』

 

《キンイロリョテイ》

 

 

 

『────先頭は抜けた! アパテオズルだ!アパテオズルだッ! ⑤のアパテオズル! 鮮やかに突き抜けてゴールインッ! ⑤アパテオズル、見事に御堂筋ステークスを制しました!』

 

《アパテオズル》

 

 

 

『────逃げる逃げるマリモイナズマ! マリモイナズマが止まらない止まらないッ! ②マリモイナズマ! 見事逃げ切ってGⅢ・ダイヤモンドステークスを制覇ッ!』

 

《マリモイナズマ》

 

 

 

『────ドミンゴセイラが先頭! ドミンゴセイラが先頭! ⑪ドミンゴセイラ、逃げ切ってゴールイン! お見事、2連勝で醍醐特別を制しました』

 

《ドミンゴセイラ》

 

 

 

 

 

 この盾だけは────

 

 

 

 

 

『────外からスズメバート! 外からスズメバート飛んできたッ! ⑪スズメバート、晴れ渡る空の下、見事差し切ってGⅡ・日経賞を制覇ッ!』

 

《スズメバート》

 

 

 

『────ロジーナリカバリーだ! ロジーナリカバリーが交わしたッ! 重バ場なんて関係ない! ⑦ロジーナリカバリー、これでGⅡ競争3勝目ッ!』

 

《ロジーナリカバリー》

 

 

 

『────キヌコスモスッ! キヌコスモスッ! キヌコスモスの末脚が爆烈したかぁぁ〜ッ!? ⑭キヌコスモス、最後の最後で! エアグルーヴら強豪を捉え切って! 有記念を制しましたぁぁ〜ッ!!』

 

《キヌコスモス》

 

 

 

『────セイユートップランがグングンと差を詰めるッ! なんとなんと②セイユートップランが前を捉えるか!? 12番人気の低評価を覆し、②セイユートップラン! GⅡ・アルゼンチン共和国杯を制しましたッ!』

 

《セイユートップラン》

 

 

 

『────さあ、坂を登って! サニーブレイヴサン先頭ッ! サニーブレイヴサン先頭だッ! 外からキヌコスモス! 更にはメジロブライトも来ているがッ! サニーブレイヴサンだ!サニーブレイヴサンだッ! これはもうッ! フロックでも、何でもないッ! 二冠達成〜〜ッ!!』

 

《サニーブレイヴサン》

 

 

 

 

 この盾だけは────

 

 

 

 

『────ブライト先頭!ブライト先頭!ブライト先頭だッ! そして、そして何とキンイロリョテイが2番手に上がって来ているがッ! しかしブライトだ!ブライトだッ!! メジロ家に春ッ!! メジロブライト! 天皇賞(春)を制し、メジロ家に春を告げましたッ!!』

 

《メジロブライト》

 

 

 

『────セイウンスカイが止まらないッ! セイウンスカイが後ろを置き去りにしていくッ! 残りあと100m!  日出る国からキュートな怪物現るッ! ドバイの地から世界へ轟くッ! その名は、Seiun Sky〜!!』

 

《セイウンスカイ》

 

 

 

『──── 春の疾風を切り裂いてッ! まさに“彗星”の如しその走りはッ! 今年も健在だスペシャルウィーク!! 差は広がる一方! リード7バ身ッ!8バ身ッ! その強さに場内からも称賛の拍手が巻き起こるッ! この強さ! これがッ! 現トゥインクル・シリーズの───頂きに立つ者の貫禄だぁぁぁ〜ッ!!』

 

《スペシャルウィーク》

 

 

 

 

 

 ────譲れない。

 

 

 

 

 

 

 歴史に、その名を刻め。

 

 

 

 

 

【GⅠ・天皇賞(春)】

 

 

 

 

 

 

 

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『──春の天皇盾をかけて、古都で詠まれる長編詩。そのプロローグとなる音色が、地鳴りの様な歓声と混じり合って五月の薫風に溶け込んでいきました。さあ各ウマ娘が続々とゲートに向かいます』

 

 

『先ずは⑧セイウンスカイが先んじてゲートに向かいますが…本日は大丈夫な様です。特に嫌がる素振りもなく今ゲートに収まりました』

 

 

 ゲート入りを渋る時がある影響で一番最初にゲートに促されたセイウンスカイは、やや不満そうに口を尖らせながらもスムーズにゲートに収まった。

 

(むぅ〜、相変わらず狭いな〜…けど我慢、我慢〜)

 

 

 

『他のゲート入りも非常に順調な中、今③スペシャルウィークも堂々とした足取りでゲートに収まりました。果たして無敗のままGⅠ・7勝なるでしょうか?』

 

 

 スペシャルウィークはゲートに収まると、一つ『ふぅ〜…』と気持ちを整える様に息を漏らし、ゆっくりと顔を上げると流れる様な動きでスタート体制に入った。

 

(身体の動きに問題はない…先ずはスタート、集中しないと──)

 

 

 

『さあそして、今⑩メジロブライトもゲートに収まりました。この距離での世代交代はまだ早い。快進撃を続ける“黄金世代”二人を、前年王者の貫禄で降伏させる事はできるか?』

 

 

 流石は前年王者。メジロブライトはこの場にいる誰よりも堂々とした雰囲気でゲートに収まる。

 

(メジロ家として、そしてライアンお姉さまのために…このレース──必ずッ)

 

 

 

『さあ! 残す枠入りはただ一人…大外⑬二冠ウマ娘。サニーブレイヴサンが、今ゆっくりとゲートに向かいます…いぶし銀ベテラン勢の二冠ウマ娘として、彼女も黙ってはいないでしょう!』

 

 

 サニーブレイヴサンもゆっくりとゲートに収まり、全員のゲートインが完了した事でスタンドからは拍手が巻き起こる。

 

 

 

『…サニーブレイヴサンも今収まって全ての枠入りが完了しました! 群雄割拠の長距離戦。歴史に刻まれるその栄光は、京の都の2マイル先へ! 【GⅠ・天皇賞(春)】いざ凛然に──スタートが切られました』

 

 

『大きな出遅れはありません。そんな中、綺麗なスタートを切ったのはスペシャルウィークにセイウンスカイ──そして大外から行った行った! ⑬サニーブレイヴサン! サニーブレイヴサンが大外からハナに立つ勢いだ! ブランクを感じさせない動き出し! これはハナを取り切れるか?』

 

 

 スタート直後の先行争い…好スタートを切ったスペシャルウィークとセイウンスカイが一歩前に出た中、大外から強気にハナを取りに上がったサニーブレイヴサン。

 その様子に盛り上がるスタンドとは裏腹に、スペシャルウィークもセイウンスカイも、他のライバルたちも特に慌てる事なく自分のレースに徹する。

 

(──スタートは上手く切れた。けど、このままじゃ先行争いに巻き込まれちゃう…ここは、一旦下がらないとッ)

 

(──この感じ…スペちゃんは競りかけて来ない。んで、やっぱり来たねサニーさん。良いよ、なら先ずはどうぞお先に!)

 

 

 

『好スタートを切った③スペシャルウィークは内でジワジワと位置を下げる構えか? 今日はハナを取りに行く動きはありません。その外から⑤のマリモイナズマと、⑥ドミンゴセイラがこれを交わして3番手を取りに行きます。更には②のキンイロリョテイもこの流れに加わって、先行争いが激しくなりそうな中、ここでサニーブレイヴサンが⑧セイウンスカイを抑えてハナに立ちました!』

 

 

 ポジション争いが行われる中、スペシャルウィークは無理に前には行かず控える構えを取る。

 そしてセイウンスカイは──迷いなく前にでたサニーブレイヴサンの真後ろに陣取った。

 

 

 

『2番手⑧セイウンスカイ。その1バ身後ろの3番手に⑥ドミンゴセイラ、少し後ろに⑤マリモイナズマ、更に②のキンイロリョテイも内すぐ後ろ。少し差がついて6番手に③スペシャルウィーク。そこから2バ身ほど離れて⑩メジロブライトはここに居ます。その内から並ぶ様に⑪キヌコスモス』

 

『そこから④アパテオズル、⑦スズメバートと続いて、外に居るのが⑨ロジーナリカバリー。菊花賞ウマ娘①マチカネフクキタルは後ろから2人目、今日は後方からレースを運ぶのか? そして殿に⑫セイユートップランの隊列で、間も無く一周目の第4コーナーを周ります』

 

 

 スタートしておよそ半マイル…ポジション争いも落ち着きだし、一周目のホームストレッチにこれから入ろうかというところで…

 芦毛のトリックスターが動き出す──

 

 

 

『さあ逃げますのは⑬サニーブレイヴサンですが──おっと!? ここで彼女の背後についていた⑧セイウンスカイが、サニーブレイヴサンを交わして先頭に立とうかという感じであります! セイウンスカイがここで先頭に立つ! ここでセイウンスカイが先頭に立ちました!』

 

 

 セイウンスカイに先頭を奪われたサニーブレイヴサンは内心『やられたッ!』と愚痴を漏らす。

 それもそのはず、セイウンスカイがずっと己の背後でスリップストリームの恩恵を受けて消耗を減らし、このレース中盤で測った様に先頭を奪ってきたのだから。

 

(よしッ、このままこの直線ではあんまりスピードを落とさずに、後ろとの距離を稼ぐッ)

 

 

 

『改めて先頭から整理しましょうか。先頭は変わって⑧セイウンスカイ。その後ろに⑬サニーブレイヴサン、この二人が後ろを大きく離しています。この二人から…およそ8バ身ぐらい後ろに⑥ドミンゴセイラ。内で並んで⑤マリモイナズマ。そのマリモイナズマの背後に②のキンイロリョテイ、これらが3番手グループ』

 

『前半の1000mは何と58.9で通過!? これはとても3200のペースでは無いぞ!? セイウンスカイ、このペースは大丈夫なのか!? 6番手に前のグループから2バ身ほど離れて③スペシャルウィークが追走。さあ正面スタンド前、どよめきと声援が入り混じるこの歓声を彼女はどう聞いているんでしょうか?』

 

『そのスペシャルウィークから5バ身ほど離れた7番手、⑩メジロブライトが虎視眈々とスペシャルウィークの背を見ながら追走。そのやや後ろの内に⑪キヌコスモス。2バ身離れた外に⑨ロジーナリカバリー。内⑦スズメバート、この二人の間に④アパテオズル。1バ身後ろに①マチカネフクキタルが居て、最後方⑫セイユートップランの隊列で、逃げるセイウンスカイが第1コーナーに差し掛かります』

 

(──セイちゃんがあんなに前に……掛かってる? …ううん、セイちゃんならそんなミスはしない。何か作戦があるんだ。…後ろにもブライトさんが居るし、スパートのタイミングをどうするか…)

 

(──昨年とは全く異なるレースの流れ……ですが、わたくしは、わたくしのペースで機を待つ)

 

 

 ここまでの前半1400mまでの各ラップタイムは…

 

 ・セイウンスカイ(13.1-11.4-11.5-11.5-11.4-11.6-“12.6”) 前半1000m・58.9

 

 ・サニーブレイヴサン(12.6-11.5-11.6-11.6-11.9-12.1-“12.6”) 前半1000m・59.2

 

 ・スペシャルウィーク(13.2-12.0-12.0-11.9-12.0-11.9-“12.6”) 前半1000m・61.1

 

 ・メジロブライト(13.6-12.2-12.1-12.0-12.0-11.8-“12.4”) 前半1000m・61.9

 

 天皇賞(春)の前半1000mの平均ラップは凡そ61秒程度。

 サニーブレイヴサンは自分の後ろに陣取ったセイウンスカイの煽りを受けて、明らかに序盤からオーバーペースを刻んでしまった形に…

 

 反対に実質的ペースを支配していたセイウンスカイは、努力の権化である自身の豊富なスタミナに加えスリップストリームの恩恵によって、数字ほどの消耗はしていなかった。

 

 そして何よりセイウンスカイが恐ろしいのは…全員が軒並みペースをグッと緩める形となった、前半1200m 〜 1400m区間のラップを自分も同じぐらい緩めている点である。

 まるでこの区間で後続がペースを緩めるのを分かっていたかの様に…

 

 

 

『これからペースが落ち着く1コーナーから2コーナーに入って行きますが、セイウンスカイは2番手のサニーブレイヴサンにすら5バ身ほどの差をつけて逃げています! サニーブレイヴサンも後続勢も『これには付き合いきれん』という感じか? 後ろの隊列は特に動きがありません』

 

『さあ、一旦スタンドの歓声が引き潮の様に静まる向こう流しに入って行きます。薫風に乗ってセイウンスカイが軽快に逃げている。世界の強豪を置き去りにした彼女が刻むこのペース。非常に、非常に不気味であります。セイウンスカイ、此処いらで一息二息入れるのか? 鼻歌でも歌っているのかセイウンスカイ?』

 

(──後ろは誰もついて来てない…スペちゃんやブライトさんを迎え撃つ為にも、ペースは落とせるところまで落とすッ)

 

 

 1、2コーナーでかなり大胆にペースを落としたセイウンスカイは、向こう流しに入っても緩いペースを刻み続けて脚を溜める。序盤での消耗を回復させてラストスパート、ライバル二人を万全の態勢で待ち構えるために。

 

 2番手のサニーブレイヴサンが3バ身ほどに差を詰めて後ろに居るが、彼女も序盤で消耗させられたため向こう流しに入ってもこれ以上距離を詰めには行かずコチラも脚を溜める形に。

 

 そして、そのサニーブレイヴサンから4バ身ほど離れた3番手グループの②キンイロリョテイらもペースを速める事が出来ずにいた。

 その理由は自分達のペースが若干速かった事もあるが…何よりの理由は“後ろにスペシャルウィークが居る”というのが、下手に動けない最大の理由であった。

 

 ここで自分達が焦って前との差を詰めに行ってしまうと、スペシャルウィークが上がって行きやすい道を自分達がわざわざ作ってしまう…

 ならばこのまま自分達もペースを落として後続に蓋をし、紛れが起きやすいスローペースに落とし込んで勝負するのが常套句だろうと彼女達も考えていた。

 

 

 ──そう、ここまでの流れ全て…セイウンスカイ陣営の思惑通りにレースが進んでいた。

 

 

 

『セイウンスカイの3バ身ほど後ろ⑬サニーブレイヴサン2番手。そこから更に4バ身ほど離れて⑥ドミンゴセイラと⑤マリモイナズマ。外に②のキンイロリョテイが並んでいる。もう、銀メダルも銅メダルも要りません。今日こそ金メダルに向かって3番手グループであります』

 

『そしてその2バ身後ろに居た居た③! 1番人気・スペシャルウィークは変わらず6番手追走。無敗街道ひた走り、春の天皇盾へ、GⅠ・7勝の大台に向かって、現トゥインクル・シリーズを統べる総大将は果たして何処から動くのか?』

 

『スペシャルウィークの1バ身ほど後ろにはマークする様に⑩メジロブライトが居る。前年覇者として、メジロの誇りを背負う者として、この距離では! この天皇賞だけは負けられないぞメジロブライト!』

 

『更にブライトの内側⑪キヌコスモスも怖い存在。その2バ身後ろに④アパテオズル、内⑦スズメバート、外に⑨ロジーナリカバリー。少し離れて復活誓う菊花賞ウマ娘、①マチカネフクキタルは相変わらず後ろから2人目。そして最後方⑫セイユートップラン。さあ各ウマ娘、間も無く正念場である“淀の坂”の入り口を迎えます』

 

(──コーナーに入る手前からペースが凄く遅い……これ以上ペースを緩めて走っても、恐らく脚を余しちゃう……だったら──)

 

(──目の前にはスペシャルウィークさまの背中…この位置でしたら、ライアンお姉さまとのトレーニング通りッ)

 

 

 ここまでの前半2000mまでの各ラップタイムは…

 

 ・セイウンスカイ(13.1-11.4-11.5-11.5-11.4-11.6-12.6-〈13.6-13.1-12.7〉)

 

 ・サニーブレイヴサン(12.6-11.5-11.6-11.6-11.9-12.1-12.6-〈13.4-13.1-12.7〉)

 

 ・スペシャルウィーク(13.2-12.0-12.0-11.9-12.0-11.9-12.6-〈13.1-12.9-12.2〉)

 

 ・メジロブライト(13.6-12.2-12.1-12.0-12.0-11.8-12.4-〈13.0-12.8-12.2〉)

 

 コーナー区間で全員がかなりのペースダウンをする形となったものの、後続勢は前が蓋をしている影響でジワジワとしか差を詰められず。

 加えてこれから待ち受けているのは、二度目となる急勾配な淀の坂越え。そのため残り1200m辺りから凡そ400m区間続く上り坂は、誰もが最も体力を温存するべく動きたくても動けない区間…

 

 

 現地で、テレビ越しで、あるいはスクランブル交差点の大型ビジョンで、今日の天皇賞(春)を見守っていた者たち…特にウマ娘レースに精通する有識者である者たちは、この時点で確信する。

 

 

 

 

 

 “このレースは──セイウンスカイが逃げ切るぞ”と。

 

 

 

 

 向こう流しに入ってもモニター越しに映るセイウンスカイのピッチが明らかに緩んだままな上、十分に脚を溜められているのか彼女の表情には余裕がある。それなのに後続との差はそれほど詰まっていない。

 

 ウマ娘は身体が金属で出来た乗り物でもロボットでもない。生身の生き物である。どれだけ鍛えようとも、使える上がりの脚──至れるスピードの上限には生き物である以上限界がある。

 このままスローペースで脚を溜めた後続勢が後半600mでどれだけ速い脚を使っても……余力を残して10バ身ほど前に居るセイウンスカイには物理的に届かないだろう。

 

 

 これから始まる上り坂で動く者はまず居ない…

 

 仮に居たとしても最後まで保つはずがない…

 

 残り800m辺りの下り坂から後続勢が上がって行っても、これだけリードを取られてはもう遅い…

 

 

 セイウンスカイ勝利の確信は広がるはずだった。

 

 

 

 

 

 “彼女”が動き出すまでは──

 

 

 

 

(──ここでッ!!)

 

 

 

『おっと? ここでスペシャルウィークがジワリと進出した。これは前のグループに並びかける構えか? 位置を少し上げるのか? スペシャルウィークゆっくりと今、ゆっくりと今──い、いやッ、これはッ!? 並ばない? 並ばないぞ!? 並ぶ間もなく交わし去って行くッ!? スペシャルウィーク──まさか此処からスパートするのかッ!?』

 

 

 これから上り坂に入る残り1200m地点でスペシャルウィークは──スパート体勢に入った。

 

 

 

『場内からは大歓声──いやこれは悲鳴か!? いくら何でもこれは無謀ではないのかッ!? スペシャルウィーク、淀の坂はまだこれから何だぞぉぉぉ〜ッ!? まだ残り1000m以上もあるんだぞぉぉぉ〜ッ!? これは暴走か!? 掛かってしまったのかスペシャルウィーク!? あぁ〜っ、物凄い勢いで今サニーブレイヴサンまでも交わして2番手に上がっていくッ!』

 

(大丈夫ッ──このままッ!)

 

(──ッ!? …いえ、つられてはいけません。わたくしが仕掛けるのは、まだ先ッ)

 

 

 誰もが『まだ早いッ!』と悲鳴を上げることをよそに、スペシャルウィークはまるで一人だけ早送りしているかの様な勢いでグングンと前のセイウンスカイに迫っていく。

 

 

 

『スペシャルウィークあっという間に2番手! 止まらない!止まらない! 上り坂とは思えない速さで上がっていく! セイウンスカイの背中はもう目前だッ! 間も無く坂の頂上から下り坂に入る残り800mだがッ! スペシャルウィーク、今セイウンスカイに並んで──交わしたぁぁぁ〜ッ!! スペシャルウィークが残り800のハロン棒を今先頭で通過したぞぉぉぉ〜ッ!!』

 

(──ッ!? もうちょっとゆっくり行きたかったのに…やっぱり思い通りには動いてくれないか──スペちゃんッ!)

 

 

 スペシャルウィークの余りの勢いに場内の悲鳴は段々と声援に変わっていく。

 そして──スペシャルウィークにつられる様に後続勢も一気に動き始める。

 

 

 

『早々とスペシャルウィークが先頭だッ! 早くもスペシャルウィークが先頭で、後ゴールまで600mを切っているッ! 2番手に差し返しを狙うセイウンスカイ! スペシャルウィークの背後にピッタリと張り付いたッ!!』

 

『3番手以降は内サニーブレイヴサンに並んでいるのがキンイロリョテイ! そして外から猛然とメジロブライトォォォ〜ッ!! この春の盾だけは渡せないとッ! メジロブライト飛んで来たッ!! 更にはバ群の中からマチカネフクキタルも来ているッ!』

 

(──身体のバランスは崩れてないッ! 後は直線ッ!)

 

(──スペちゃんは本気で保たせる気だッ…良いよ、だったら此処からは──小細工なしで勝負するだけッ!)

 

(──皆さま、ライアンお姉さま。ご覧くださいませ……! わたくしが、メジロ家の威光を…ライアンお姉さまとの夢を──今、ここでッ!)

 

 

 

 先頭のスペシャルウィーク、1バ身半後ろのセイウンスカイ両名は変わらずスピードを維持したまま、抜群のコーナーワークで3、4コーナーを周って間も無く直線コースに。

 

 そしてこの二人に負けない勢いとコーナーワークで上がって来たのが⑩メジロブライト。

 京都レース場の外回りは3コーナーをクリアした残り700m辺りから凡そ200m区間、コーナー角が緩い直線コースに近い形で走れる区間が存在する。この区間でメジロブライトもスピードを更に一段階上げた。

 

 更にメジロブライトとは別の形で京都レース場巧者なところを見せたのが①マチカネフクキタルである。

 京都レース場外回り4コーナー出口の植え込み部分、凡そ残り500m 〜 400m区間の100mほど……京都外回りはトリッキーな事に、この区間の“内ラチ”が無くなる。というコース形態をしている。

 

 更に京都レース場は4コーナー出口の角度が非常にタイトという事もあり、コーナーワークが苦手な娘はこのタイトな出口部分で外に振られ…バランスを立て直すべく“内ラチ”を求めて内に切れ込んで行きやすい。

 そのため常にラチに沿ってコーナリングしないといけないコースよりもスペースが出来やすく、コース選択にある程度の自由が生まれる。

 

 そしてそれを知っている者からすれば、内に切れ込みそうな娘の背後に入っておけば──どれだけバ群に包まれていようとも、最短距離で抜け出せる確信を持って直線に臨めるという事でもある。

 

 

 

『さあ、第4コーナーを周って直線コース! 地鳴りの様な大歓声に迎えられて! 先頭は依然スペシャルウィーク! 果たしてここからお釣りはあるのかッ!? スペシャルウィーク先頭だッ! しかしセイウンスカイが忍び寄るッ!! 背後からセイウンスカイが差し返して来たぁぁぁ〜ッ!! スペシャルウィーク振り切れるかッ!? セイウンスカイ──遂にスペシャルウィークを追い詰めたかぁぁぁ〜ッ!?』

 

(──よしッ、ハマった!)

 

 

 外から見ていた者が残り1200m辺りでセイウンスカイの勝利を確信していた時、セイウンスカイは脚を溜めながら別の確信を持っていた。

 それは──『スペちゃんなら必ず早仕掛けで上がって来る』という確信である。

 

 中盤までの仕掛けだけで勝てるのなら苦労はない。クラシック級の頃からトレーナーさんと研究してきたスペシャルウィークの走り。

 長距離戦の残り1200mから早仕掛けしてもスピードが一切落ちない驚異的な持続力……自分より400mも手前でスパートをしている筈なのに、その背中をまだ捉え切れない事は確かに賞賛しかない。とセイウンスカイは思っていた。

 

 しかしやはり──スペシャルウィークも当然ながら生き物。持続力を最大限に活かす形でスパートした場合、必然的に一瞬の瞬発力や発揮できるトップスピードの上限は…

 同じ同期のキングヘイロー・グラスワンダー・エルコンドルパサーには僅かに及ばない。現に、同じくその三人よりもその分野で劣っている自分が、この直線で徐々に迫れているというのが何よりの証拠であると…セイウンスカイは自信を持っていた。

 

(いくらスペちゃんでも、ここから最後は少し脚が上がるはずッ! この差だったら…より多く脚を溜めてた分──私でもこのまま差し切れるッ!)

 

 

 

 

 

 残り400m手前…セイウンスカイはスペシャルウィークを追い詰めた。

 

 

 

 

 

 追い詰めたはずだった──

 

 

 

 

(──絶対、応えてみせる……お母ちゃんの期待に…ファンの皆さんの期待に……マックイーンさん、アヤベさん…ここまで一緒に頑張って来たチームの──お兄さんの期待に……ッ!!)

 

 

 

『さあ残り400を切って! 追い詰めたセイウンスカイ! 追い詰めたセイウンスカイッ! その後ろからメジロブライトッ! 更に内からフクキタルも伸びているぞッ!』

 

『スペシャルウィーク逃げるッ! スペシャルウィーク逃げるッ! その差はッ! その差はッ──縮まらないッ!? セイウンスカイら後ろが懸命に追っているがッ──その差が全く縮まらなくなったぞぉぉぉ〜ッ!?』

 

((──なッ…!?))

 

 

 

 残り400mを切ってセイウンスカイが、メジロブライトが、マチカネフクキタルが、後ろのライバル達が目にしたものは…

 

 

 

 

 

 ──自分たちからドンドンと離れていくスペシャルウィークの背中であった…

 

 

 

 

「──ここからぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 

 

 

『スペシャルウィークッ!! まさかッ!? あんな位置からスパートして──ここから更に加速するというのかぁぁぁ〜ッ!? 何とスペシャルウィーク! この状態からもう一段ギアを上げたぁぁぁ〜ッ!! 何というウマ娘だッ!? 後200m──差が広がっていくッ!?』

 

(──分かってるッ…分かってるッ! けど、これぐらいで諦めるんならッ──初めから挑んでないんだってばッ!!)

 

(──待って、重ねて、勝利を掴む…春は──最後まで諦めない者にッ!!)

 

 

 大興奮のスタンドから贈られる大声援を一身に受け、更に加速して駆け抜けていくスペシャルウィーク。

 そんなスペシャルウィークの走りに有識者らは言葉を失う…そのあまりにも圧巻なパフォーマンスに。

 

 

 

『先頭はスペシャルウィーク!! リード3バ身ッ!! 2番手はセイウンスカイ! そのすぐ後ろにメジロブライトッ! マチカネフクキタルは少し遅れているッ! その後ろはキンイロリョテイにサニーブレイヴサンだが遥か後方だッ!』

 

『突き放した!突き放した! スペシャルウィークだッ!! 世界の業界人よ見てくれッ! 彼女こそッ! 我が国が世界に誇るッ! 日本近代レース界が辿り着きし──1つの“答え”足る存在だぁぁぁぁ〜ッ!!』

 

『スペシャルウィーク、今──完勝でゴールインッ!! …2番手には⑧セイウンスカイが粘り切りました! 3番手入線は猛追した⑩メジロブライト! 4番手は内で伸びて来た①マチカネフクキタル! 5番手は際どいですが…僅かに⑬サニーブレイヴサンが最後キンイロリョテイを抑えたか!?』

 

『ゴールデンウィークの真っ只中! 5月2日は、まさにスペシャルウィーク! おっと!? そ、そしてッ──』

 

 

 スペシャルウィークがゴールした瞬間──場内のボルテージが更に上がり地面から突き上げる様な歓声が起こった。

 

 

 

『──な、何だこのタイムはッ!? 1着・スペシャルウィークの勝ち時計──《3分11秒1》!? とてつもないタイムだッ! 何と勝ち時計が《3分11秒1》!! 誰も見た事がない数字が表示されていますッ!』

 

『そして…勝ち時計のレコードもさることながら、真に恐るべきはその上がりタイムッ! 何とッ、上がり4Fが《44.1》! そして上がりの3Fは《33.0》!! これが淀の3200mで計測されるタイムだと言うのかッ!? 本当に何というウマ娘なんだッ!スペシャルウィーク! 早め先頭に立った上で! こんな上がりを使われては、後ろは誰も届かないッ!!』

 

 

 

 今回の【天皇賞(春)】三強の全体個別ラップは…

 

 

 ・セイウンスカイ(13.1-11.4-11.5-11.5-11.4-11.6-12.6-13.6-13.1-12.7-12.7-12.2-11.1-11.0-11.1-11.2)

 《3分11秒8》

 

 前半5F:58.9 後半5F:56.6

 上がり4F:44.4 上がり3F:33.3

 

 

 

 ・メジロブライト(13.6-12.2-12.1-12.0-12.0-11.8-12.4-13.0-12.8-12.2-12.0-11.7-11.1-11.0-11.0-11.2)

 《3分12秒1》

 

 前半5F:61.9 後半5F:56.0

 上がり4F:44.3 上がり4F:33.2

 

 

 

 ・スペシャルウィーク(13.2-12.0-12.0-11.9-12.0-11.9-12.6-13.1-12.9-12.2-11.8-11.4-11.1-11.1-11.0-10.9)

 《3分11秒1》

 

 前半5F:61.1 後半5F:55.5

 上がり4F:44.1 上がり3F:33.0

 

 後半1200m:1分07秒3

 後半1600m:1分32秒4

 

 

 

 後に…長い歴史の中でも“最もレベルの高かった天皇賞(春)”の一つに数えられる事となる本レースは──

 スペシャルウィークのバースデー勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 スペちゃんが天皇賞(春)を無事に走り終え、一緒に走った娘たちやファンの皆さまに応えている中、俺は戻って来るスペちゃんを迎えるべく地下バ道で一人待機していた。

 マックイーンさんとアヤベさんは、この後に行われるウイニングライブにむけた準備を手伝ってくれるべく、先に控え室へと向かっている。

 

 

 表彰式なども執り行われ割とバタバタする為、2人の気遣いは本当に有難い事この上ない。改めて今度何かお礼をせねば…

 

 

 そんな事を考えながら待機していると…戻って来たスペちゃんが俺を見つけるや否や、耳・尻尾・身体・笑顔・全てを弾けさせて──

 

 

「──お兄さぁぁぁ〜〜んッ!!」

 

「わぷっ!? ──おかえり、スペちゃん」

 

 

 ピョーン! っと俺のもとへダイブしたスペちゃんへの衝撃を最小限になる様受け止めると、俺の首に手を回したスペちゃんごと海外ドラマの様にクルッと一回転しながら受け止める形となりながら──

 俺はレースを走った影響による深刻なダメージなどがスペちゃんから見受けられないことに一安心して、スペちゃんの腰辺りに手を当て抱きしめ返す。

 

 

 思いっきり密着しているため顎あたりにスペちゃんの耳がペチペチと当たる感触を感じながらしばらく経つと……俺の首に手は回したまま、ゆっくりと顔だけを離して俺の顔を見つめるスペちゃん。

 

 

 …レース後はスペちゃんもこうして距離が近くなるからね。俺はもうこの距離で見つめ合う事ぐらい慣れている。

 頭の中で某スパ○ダーマンに登場する蜘蛛の糸の制作式をひたすら反芻してたら余裕ですよ余裕。

 

 

 …ん? 『オメェ全然慣れてねぇ上に距離が近いのは割といつもの事だろーが』って?

 …仰る通りですがそれを言わないでくださいっ…理性抑えるのに必死なんだこっちもッ…

 

 

「えへへ、お兄さん、私やりましたよ! お兄さんとの練習成果をちゃんと出せて走る事が出来ました! お母ちゃんや皆さんにも今日の走りを届けることが出来て…私、今日最高の誕生日ですっ!」

 

「ああ、俺にもちゃんと届いてたよスペちゃん。お誕生日も、今日のレースも…本当に、本当におめでとう。スペちゃん」

 

「──っ! はいっ!!」

 

 

 俺がそう言うと、スペちゃんは再びギューっと自身の頬っぺを俺の首元に密着させ…俺たちはまた暫くの間抱き合っていた。

 そうして、ようやく抱擁の形を解こうかとした矢先──

 

 

「あのっ…お、お兄さん? ちょっと…そのっ、み、右を向いて欲しいなぁ〜…ナンテ」

 

 

 未だ首に手を回していたスペちゃんが、何やら若干その綺麗なアメジスト色の瞳をウルウルとさせながら、チラチラと上目遣いでこちらを見ては晒し…見ては晒し…を繰り返してそんなお願いを口にする。

 

 

「え? 右? こ、こうで良いかい?」

 

 

 え? な、何? まさか──俺の顔に何か付いているのか?

 それならば取ってくれたら嬉しいな。なんて思いながら俺はスペちゃんの言う通り右を向くと──

 

 

 

 

 

 ──チュッ♡

 

 

 

 

 俺の左頬に──何やら柔らかい感触が可愛らしい音と共に伝わった…

 それと同時に俺の心臓が訳の分からない音を上げて弾む。

 

 

 …え? あ…えっ…と…? い、今のって…え……?

 

 

 何が起きたかよく分からず…俺は目の前のスペちゃんに意識を向け直すと…

 スペちゃんは先ほどよりも更に瞳を潤ませ、顔全体はりんご色に染まり、ヘナ〜っと垂れた両耳の間のつむじからプシュ〜っと湯気を立たせておられた…

 

 

「あ、あのっ! え、えとっ、そっ、そのぉ…た、誕生日でしゅきゃりゃ〜〜ッ!!」

 

 

 スペちゃんはそのまま顔の赤みがドンドンと深く染まっていくと…その赤くなった顔を隠す様に両手で頬っぺたを抑えながら、そう言い残し凄い速さで地下バ道を奥に走って行って見えなくなってしまった…

 

 

 …そ、ソウカ〜…た、誕生日ダモンナ〜……う、うん……きっと…アレダ〜……スペちゃんの誕生日ケーキを作ってた時に…左の頬にクリームが付いちゃってたんダナ〜…スペちゃんはそれを取ってくれたんダナ〜……イヤ〜…俺ってばウッカリさん⭐︎)

 

 

 きっと、茹で蛸の様な顔になりながら……俺はまるで玉葱を微塵切りする際の音の様なリズムで心拍を続ける心臓が落ち着くまで…

 左頬を抑えて暫くその場で動けなかった…

 

 

 

 これから表彰式もあるっていうのに……なんて事をしてくれるんだっ、あの天使は! まったくもぅ…

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

《レース後・セイウンスカイ陣営・控え室にて》

 

 

「………最後は突き放されての2着、か……あの状況から更に伸びるなんて…スペちゃんは流石だな〜…」

 

「…セイちゃん、貴方の走りも胸を張れる素晴らしいものだったわよ」

 

「………でも、2着だよ…」

 

「…そうね…なら、もう諦める? 貴方の実力なら、このまま海外のレースに専念するという手もあるわよ?」

 

「…トレーナーさん、分かってて聞いてます?」

 

「ええ、勿論。…もっとしっかり仕掛けと仕込みを準備して、今度こそ…一緒に勝とう、セイちゃん」

 

「──ふふっ♪ ええ、勿論ですとも〜。……一回ぐらいは本気で釣り上げて見せますって」

 

 

 ──心は折れず。

 セイウンスカイと横田トレーナーはウイニングライブが始まるまでの間、今日のスペシャルウィークの走りから感じた部分を出し合っていく。

 

 

 

 

 

《レース後・メジロブライト陣営・控え室にて》

 

 

「ブライト……」

 

「…スペシャルウィークさまも、セイウンスカイさまも…黄金世代のお二人は本当にお見事でした。直線を駆け抜ける力強さも、決して前を譲らない粘り強さも……わたくしは力の限り、ありったけの想いをぶつけました。でも、追いつけなくて…うぅっ……お二人に…追いつけなくてっ……!」

 

「…本当にブライトは、あたしに似てるね。今日の天皇賞で感じた…悔しさの理由がまるで同じだもん」

 

「──っ…」

 

「だからね……お互いに、ここで諦めたりするのは絶対にしないでおこう。まだまだ一緒に──これからも走る為に!」

 

「……っ…うあぁぁぁぁ〜〜っ!! ライアンお姉さまあぁ〜〜〜っ!!」

 

 

 メジロブライトがそのままメジロライアンに縋り付き、更に涙と悔しさを溢れさせる。

 

 そんな二人のやり取りを控え室の扉越しで、メジロドーベルと彼女らのトレーナーさんは共にグッと自身の二の腕を掴みながら静かに聞いていた。

 

 

「……頑張ったね、ブライト」

 

 

 

 

 

 

 

 






 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 天皇賞(春)・1〜5着のウマ娘

 1着・スペシャルウィーク

 2着・セイウンスカイ 4バ身

 3着・メジロブライト 1バ身1/2

 4着・マチカネフクキタル 2バ身3/4

 5着・サニーブレイヴサン 6バ身



 レースの勝ちタイムがインフレしてきましたが……ま、まあ彼女たちは斤量を背負っていないから。という無理矢理な理由で見逃して下さいませませ⭐︎

 もし、実際にこんなタイムが計測されたら世間はどんな反応になるんでしょうか…
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