スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 誤字脱字のご報告・お気に入り・ご評価・ご感想・読んで下さっている方々、いつも本当にありがとうございます!


 この拙作でのレースに関する事柄は、全て筆者の妄想が入っているのでご了承ください。


 さらに今回はチラッと【レース指数】という概念を表記しております。
 かなりいい加減ですが、下記に本拙作での【レース指数】の表記基準を載せております。

 ※まあ正直、解説の方が会話する際に何かしらスパイスになれば良いなぁ…ぐらいに思ってぶっ込んだ概念なので、基準がどうのこうのと言うのは意味が薄いんですけれどね(苦笑)
 数値が高けりゃ何か凄いんだな〜ぐらいに思って下されば幸いです⭐︎


 ①指数=走破タイムのレベルの高さ。と思って頂いて大丈夫です。

 ②指数は0〜100で表記されます。数値の『1』=大体『0.1秒』だと思って下さい。
 ※ただし“展開の利”があった。などと判断された場合は、実際の走破タイムよりも低いレース指数を取られる事もある。その逆も然り。

 ③指数『90』をマークしたらGⅠ級だと断言していいレベルで、『100』をマークしたり…あるいは超えたりするウマ娘は、そのコースや条件において【歴代最強ウマ娘候補】に名が挙がるレベルです。

 ④指数は【当日のバ場の速さ】・【風の影響】などを考慮して、該当レースの決着推定最速タイムを基準に数値が決まります。

 ※例・《東京2000m》の推定最速タイムが【2分0秒0】だった場合

 ⚫︎【2分0秒0】で走破→指数は【100】

 ⚫︎【2分1秒0】で走破→指数は【90】

 ⚫︎【1分59秒0】で走破→指数は【110】


 ⑤あくまで走破タイムで数値が決まるので、道中がスローペースになったり、キャリアが浅く全体のレースレベルが高くなりにくい《ジュニア級レース》などでは数値が低くなりやすいです。
 そのため数値が高いウマ娘が常に最強! …とはならないので、そこは注意しないといけません。


 長々と前書きを失礼致しました。






一等星の挑戦/東京優駿・日本ダービー①

 

 

 

 

 

 

 

 スペシャルウィークが圧巻の走りでレコード勝ちを収めた【天皇賞(春)】から凡そ1ヶ月が経過した昨今、あの日の興奮は未だに尾を引いているものの、無情にもゴールデンウイークは過ぎ去り、祝日が存在しない6月へと突入し憂鬱な気持ちになる者たちが続出している──かと思いきや、

 世間は今週末に行われる“祭典”に早くも胸を踊らせ、日本中が期待感に満ち溢れ憂鬱さの欠片も感じない程の明るい雰囲気に包まれていた。

 

 

 その証拠にとでも言おうか、ネット・雑誌・テレビではその“祭典”の事で連日持ち切りとなっており、今まさにこの瞬間もテレビの全国放送で特番が流れている最中である。

 

 

『全てのウマ娘にとっての夢舞台【日本ダービー】が、いよいよ目前に迫って参りました。世代最強を決めるレースで栄冠を掴むのは一体誰なのか? 本日は当日の日本ダービーで解説を担当して頂きます山広さんと共に、今年の日本ダービーで有力ウマ娘と目されている“三人”にフォーカスを当てていきたいと思います』

 

『今年の皐月賞はその三人、“アドマイヤベガ”・“テイエムオペラオー”・“ナリタトップロード”による歴史に刻まれる伝説の三つ巴となりましたからね。1着→2着、そして2着→3着の差は共に僅か1cm。更に4着以下の娘たちを大きく離しての大接戦でしたから、次の日本ダービーでもこの三人が中心となるのは当然だと思われます』

 

『そうですね。次の日本ダービーでも再びこの三人の激突を見られるのかと思うと、今からワクワクする気持ちを抑えられません。では先ず山広さんには今年の皐月賞を改めて振り返って頂きたいのですが──』

 

 

 都内のターミナル駅に設置されている各モニターでも今回の特番が流れており、駅を利用している者たちは皆そのモニターに目を向け、立ち止まって連れと一緒に日本ダービーについて語り合う者も多く見受けられる。

 

 

「皐月賞で魅せてくれたあの大外一気の豪脚を見る限り、ダービーこそオペラオーだろ?」

 

「いや、中山と東京レース場じゃ条件が違い過ぎる。確かにオペラオーも強かったけど、よりストライド走法で長い脚を使える事を証明してるトプロのほうが、東京の長い直線じゃ有利な筈だ」

 

「けど、トップロードとオペラオーは東京コース未経験だろ? それなら共同通信杯で圧勝したアドマイヤベガが一番コース適性は証明してるんじゃないか?」

 

「共同通信杯は1800mだからな…600mも伸びる今回のダービーと完全に条件が一致してる訳でもないし……むしろコース関係なく距離が伸びて良さそうなのはトプロとオペラオーじゃね?」

 

 

 やはり今年の日本ダービーは“三強”と目されているだけあり、語り合うファン達の話題は三人へと集中していた。

 三人が初対決となった先日の皐月賞で大接戦を演じ、現時点での勝負付けが未だ済んでいない状況である事も議論を白熱させている要因であるだろう。

 

 

『──昨年のスペシャルウィーク同様、今年もアドマイヤベガが無敗で皐月賞を制した訳ですが、そのアドマイヤベガのキャリア3走を山広さんはどう感じておられますか?』

 

『そうですね…先ずはURAが公式に算出している【レース指数】のデータをこちらに用意させて頂いたのですが、こちらのデータと合わせて解説させて頂きたいと思います』

 

『レース指数といいますと、そのレースでの走破タイムレベルの高さが数値化されたものですよね?』

 

『その通りです。勿論この数値が絶対という訳ではありませんが、そのウマ娘の能力を推し量る一つの指標にはなり得るものとなります』

 

 

 テレビの向こうではレース解説者の山広氏が、URAが公式に算出しているアドマイヤベガをはじめとした娘たちの【レース指数】が記された資料を、視聴者にも見やすい様に拡大してフリップにした状態で用意し解説を行っていた。

 

 

『こちらにご用意して頂いた資料を確認しますと…先ずアドマイヤベガのレース指数《デビュー戦:90》・《共同通信杯:97》という部分が目につきますが、この数値はどの様に捉えれば良いのでしょうか?』

 

『はい、実際のレースでは両レース共に圧勝だった訳ですが、指数という観点から見ても凄まじい走りと走破タイムだったと言う事が分かります。指数【90】というのは重賞レース──下手をすればGⅠレースで計測される様な数値ですので、それをデビュー戦で計測してみせたアドマイヤベガは突出した存在だと言えるでしょう』

 

『なるほど、デビュー戦の時点で既にGⅠを勝利できるだけの能力を示していた…という事になるわけですね?』

 

『そうです、アドマイヤベガのデビュー戦は中山・芝2000m。年末に同コースで行われる【GⅠ・ホープフルS】の例年レース指数は【79】程度ですので…指数だけで判断するならば、彼女はデビュー時点でジュニア王者に余裕で輝けた…という事になります』

 

『数値が【1】違うと凡そ【0.1】の差がつくと言われていますから、【11】も違うということは凡そ【1.1】秒…着差にして6バ身ほど離す計算になりますね』

 

『はい、ただ…昨年のホープフルSに関しては例外だったんですよね』

 

『と、言いますと?』

 

『次はこちらの資料を──ナリタトップロードとテイエムオペラオーのレース指数データもご覧下さい』

 

 

 山広氏がそういうと、今度は2人のレース指数が記された資料が画面いっぱいにクローズアップされる。

 

 

 そこに記されていた2人のレース指数は──

 

 ⚫︎ナリタトップロード:【デビュー戦:85】・【京都ジュニアS:88】・【ホープフルS:92】・【弥生賞:98】

 

 ⚫︎テイエムオペラオー:【デビュー戦:86】・【デイリー杯ジュニアS:88】・【朝日杯FS・93】・【毎日杯:98】

 

 

 両者共に指数をしっかりと右肩上がりに上げており、当人らの確かな成長力、そして彼女らを導くチームとトレーナー陣の指導力が素晴らしい事を物語っていた。

 

 

『昨年2人がジュニア王者に輝いた際のレース指数は、例年よりも遥かに高い数値を叩き出す素晴らしい走りでした。流石のアドマイヤベガもデビュー時点でこの2人に勝つのは厳しかったと思います』

 

『テイエムオペラオーは5バ身差で朝日杯を、ナリタトップロードは脚を余しながらもホープフルSを見事完勝でしたもんね。昨年のスペシャルウィークら“黄金世代”の世代レベルも大いに騒がれましたが、今年もその黄金世代らと比較しても遜色ないと見ていいのでしょうか?』

 

『はい、少なくとも今年の皐月賞で覇を競った三人に関しては、一つ上の先輩たちと比べても遜色ないポテンシャルを秘めていると私は考えています。その裏付けの一つとしまして、過去に行われた皐月賞のレース指数をいくつか比べてみましょう』

 

 

 次に山広氏は、過去に行われた皐月賞の中から【シンボリルドルフ】・【ナリタブライアン】・【スペシャルウィーク】が勝った3つをピックアップし、今年の皐月賞と見比べ始める。

 

 

 彼女らが勝った皐月賞と、今年に行われた皐月賞のレース指数は──

 

 

 ⚫︎勝者:シンボリルドルフの年

 

 1着:シンボリルドルフ 【102】

 2着:ミデンニシキ 【99】

 3着:キーワードカメルン 【87】

 

 当日のバ場:やや遅め

 勝ち時計:《1分58秒1》

 

 

 ⚫︎勝者:ナリタブライアンの年

 

 1着:ナリタブライアン 【109】

 2着:オウヒスーパーオー 【92】

 3着:スドウマッケンオー 【92】

 

 当日のバ場:やや速め

 勝ち時計:《1分57秒0》(現レコード)

 

 

 ⚫︎勝者:スペシャルウィークの年

 

 1着:スペシャルウィーク 【105】

 2着:セイウンスカイ 【102】

 3着:キングヘイロー 【101】

 

 当日のバ場:標準

 勝ち時計:《1分57秒7》

 

 

 ⚫︎勝者:アドマイヤベガの年

 

 1着:アドマイヤベガ 【107】

 2着:テイエムオペラオー 【107】

 3着:ナリタトップロード 【107】

 4着:オーバードレイン 【95】

 

 当日のバ場:遅め

 勝ち時計:《1分58秒5》

 

 

 皐月賞のレース指数トップは、現レコードホルダーであるナリタブライアン。

 そして、そんな彼女と同じく三冠ウマ娘であり、かつその金字塔を無敗で達成したシンボリルドルフ・スペシャルウィークの2人がそれに次ぐ指数をマークしている……という図式が今年まではあったのだが──

 

 

『見て頂いたら分かる通り、何と今年は無敗の三冠ウマ娘2人が叩き出した指数よりも高い数値を、大接戦を演じたあの三人は叩き出しているんですよね』

 

『本当ですね…中山・芝2000mの日本レコード保持者であるナリタブライアンに迫る指数だったとは……改めて今年の皐月賞のレベルの高さが伺えますね』

 

『そうですね。ナリタブライアンの凄さは言わずもがな、そしてシンボリルドルフは“指数に表れ難い消耗を抑えた勝ち方”をしたのと、スペシャルウィークは“本格化前だった”というハンデはありましたが…それらを踏まえても、この三人に匹敵するパフォーマンスを今年の皐月賞では魅せてくれたんですよね』

 

 

 そんな三冠ウマ娘たちのレース指数が表示された事もあり、それを観たファン達が盛り上がらない訳もなく──

 

 

「おいおい…あの三人、指数だけなら全員三冠ウマ娘クラスじゃねぇか…」

 

「マジかよ! つか、ルドルフとスペの指数は超えてるじゃん!」

 

「レベルが高かったとは思ってたけど、まさかこれ程なんてな…」

 

 

 今年の皐月賞のレベルに改めて驚く者──

 

 

「皐月賞で一番強かったのは大外から差して来たテイエムオペラオーだろ? 現に勝ったアドマイヤベガは外を回ったら届かないと思ったから、一か八かイン突きしたっぽかったし。純粋な総合力ならテイエムオペラオーかナリタトップロードのほうが上なんじゃないか?」

 

「いや、出遅れた上で勝ち切ったんだからアドマイヤベガのほうが素直に強かったんじゃないか? 上がり3Fだって彼女が最速だった訳だしさ?」

 

「それはトプロとオペラオーがお互いを意識し過ぎてポカしたからだろ? 最後の直線で外のオペラオーに意識を削がれなかったらトプロが、逆に前のトプロを差し切る事を意識し過ぎたオペラオーが大外を選択しなかったら、内に居たアヤベの進路を普通に塞いで勝ってたでしょ」

 

「まあ確かに、アドマイヤベガは一番展開に恵まれた感はあるよな…」

 

「何言ってんだよ! その2人の隙を逃さなかった、あの勝負強さと瞬発力が凄いんじゃないか!」

 

「い〜やッ! 前目のポジションをしっかり取れて、長く良い脚を使えるトプロのほうが絶対強いね!」

 

「それなら前でも後ろでも強い走りが出来るオペラオーのほうが強いだろ! あの高いレースセンスこそ最強よ!」

 

 

 三人の中で誰が一番強いのか? その意見をぶつけ合う者──

 

 

「今度こそ絶対にオペラオーさんだよッ!」

 

「違うもん! 最後はアヤベさんがビューンと行くもんッ!」

 

「トプロさんが今度こそ勝つって決まってるんだからぁ〜ッ!」

 

 

 同じ学び舎に通う者として、何より同じウマ娘として……自分自身が彼女らに心惹かれた魅力を信じ切って、各々が応援する先輩の勝利を疑わない者たち──

 

 

 間近に迫った日本ダービーの議論は、こうして熱を増していくのだった…

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 時は少し遡り、皐月賞から1週間ほどが経過した某日──

 ここトレセン学園の一室にて現在、“ナリタトップロード”と“沖田トレーナー”の二人が、先日行われた皐月賞のレース映像をデスクに置いたノートパソコンで一緒に見返している最中であった。

 

 

『──このままねじ伏せるのかナリタトップロード──いやッ!? 大外から誰か一人突っ込んで来るぞぉぉぉ〜ッ!? ─────テイエムオペラオーだぁぁぁ〜ッ!!』

 

 

 “カチッ”とキーボードを叩く音と同時に、再生されていたレース映像が一時停止され、外で在校生たちがトレーニングに励んでいるのだろう掛け声が微かに聞こえるほどの静けさが暫し訪れる。

 

 

 そしてそのレース映像を止めた張本人であるナリタトップロードが、スペースキーを押した右手に持っているペンをパソコンと自分の間に広げていた【反省ノート】に置くと、

 申し訳なさと悔しさが入り混じった表情で耳を萎らせ、ジッとパソコン画面に目を向けながら隣に座る沖田トレーナーへと言葉を紡ぐ。

 

 

「最後の直線…ここで外から一気に上がって来たオペラオーちゃんに驚いて、身体のバランスが少し外に流れてしまって……私がもっと心を強く持って走れていたら…っ…」

 

 

 ナリタトップロードはそう言って、最後に歯を噛み締める。

 

 

「……お前さんは不器用だからな。直前の雨で芝の状態も良くなかった上、直線も短い小回りの中山コースで、バランスを崩して減速状態から“再加速”するのはストライドの大きいお前さんが最も苦手とする分野だと言ってもいい。結果的に…ようやくスピードに乗り直した所でゴール版を迎えちまったからな」

 

「……はい」

 

 

 沖田トレーナーの言葉を聞いて、ナリタトップロードは自身の太もも辺りに力無く下ろした手でスカートの裾をギュッと掴み、より一層表情を曇らせてしまう。

 そして、そんな愛バに対して沖田トレーナーは微笑みを浮かべながら優しく諭すように言葉をかけ始めた。

 

 

「だが逆に言えば、本来の走りと強味を完全に出し切る事が出来れば──お前さんは誰にも引けは取らないのだと証明できたレースでもあった」

 

「──っ!」

 

 

 沖田トレーナーの言葉を聞いたナリタトップロードは、萎らせていた耳をピンッと立て、伏せられていた目を見開き、座っていた椅子を反転させて沖田トレーナーの方へと身体と瞳を向ける。

 

 

「練習量は裏切らない。お前さんにはここまで積み上げて来た──スピードをしっかり維持して粘り切れる王道の走りがある。それは今回の日本ダービーの様な、コーナー角が緩めで直線が長い王道のコース・展開でこそ真価を発揮できるはずだ」

 

「王道の…走り…」

 

「そうだ。その強みをより丁寧に、より確実に、より完璧に磨き上げて精度を高めるんだ。無理に走りを変える必要も、変に凝った作戦を立てる必要もない。お前さんが積み上げて来た努力と、身に付けた今の走りは決して間違いなんかじゃないんだからな」

 

 

 とても優しく、そして力強く、確信と言える自信に漲ったその言葉はナリタトップロードの心を鼓舞するのに、これ以上ない言葉であった。

 

 

「トレーナーさん……っ…はいっ! トレーナーさんと積み上げて来た私の走りを──私は、信じますッ! この走りを信じて、この走りで! 必ずトレーナーさんをダービートレーナーにしてみせますからッ!」

 

 

 もうそこには先程までの浮かない表情をしていた彼女の姿は無かった。

 今その瞳には宝石の様な輝きが戻り、決意に満ちた表情と雰囲気は間違いなく世代を牽引する《ザ・キャプテン》なる彼女の異名に恥じない風格を纏っている。

 

 

 やるべき事はこれまでと何も変わらない。

 ナリタトップロード陣営は、本番に向けていつも通り調整する。という勝負事において一つの理想型たる形で日本ダービーへと望む──

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 時はスペシャルウィークが異次元のレコードタイムで【天皇賞(春)】を制して数日後の5月某日・長く急角度な石段が続くとある神社にて──

 

 

「はーっはっはっはっは! ダービーという最高の夢舞台を控えたボクにとって、此処はまさにオペラガルニエの大階段ッ!」

 

「──ふひぃ〜っ、はぁ〜っ、ふぅ〜っ!」

 

 

 そこには、いつものように芝居掛かった言葉を紡ぎながらも、さして息を乱さず力強い足取りとスピードで石段をグングンと駆け上がって行くテイエムオペラオーと、

 息も絶え絶えで見るからに足取りが重い状態ながらも…前を行くテイエムオペラオーの背を必死に追い続けるメイショウドトウの姿があった。

 

 

「この大階段の先には──ほら、ご覧! ドトウ! アポロン神がボクらの輝きに魅せられて天球から舞い降りようとしている!」

 

「はぁっ、はぁっ…さ、流石ですね、オペラオーさんっ。こ、こんな時でもっ、い、いつも通りで〜」

 

 

 時刻は夕陽が眩しい黄昏時…石段を登りながら上を見上げれば、ちょうど登り切った所に佇んでいる鳥居から夕陽が差し込んでおり、テイエムオペラオーの言う通り登り切った先に何かが待っている…そんな雰囲気を醸し出していた。

 

 

 そしてそのまま最初から最後まで一切スピードを落とす事なく石段を登り切ったテイエムオペラオー。

 そのテイエムオペラオーから10秒ほど遅れるも、こちらも最後まで一度も止まることなく登り切ったメイショウドトウの2人に待っていたのは──

 

 

「──良い内容だったわ、オペラオー。最後まで身体のバランスも崩れず、地面を蹴る力も失われていなかった。けど、今の貴女ならもう一段ギアを上げられるはずよ。次の一本はオーバーペースだと感じるペース配分で一度登ってみなさい」

 

「──お疲れ〜、ドトウちゃん。最後まで喰らいついてて偉かったぞ〜! まだ本格化前なのに、これだけの持続力を発揮できるんだから胸を張りなさい。もう一本走るかどうかは…その眼を見たら愚問かな? もう一本走るのなら、貴女は序盤はゆっくりでも良いから、そこから最後まで徐々に加速し続ける様なペース配分で走ってごらん」

 

 

 待っていたのはアポロン神──ではなく、2人を導くトレーナーである《チームリギル・東条トレーナー》と《チームデネブ・横田トレーナー》であった。

 

 

 そう、テイエムオペラオーが唯一呼び捨てで名を呼ぶほどの友人であり、同時に最も意識していると言っても過言ではないライバルでもあるメイショウドトウは、つい先日“セイウンスカイ”が所属している《チームデネブ》に正式加入したのである。

 その影響もあってか本日は《チームリギル》・《チームデネブ》の合同トレーニングが組まれ、両チームのメンバーらも少し離れたところで身体をほぐし、自分たちが熟すトレーニングに備えていた。

 

 

「いや〜、ハナさん今日は助かりましたよ。ドトウちゃんの石段並走だけじゃなく、チーム全体での合同トレーニングまで組んでくれるなんて。お陰様でサボろうとしてたセイちゃんも、こうやって真面目に参加してくれてる訳ですし〜」

 

「気にする事はないわ。寧ろお礼を言いたいのはこちらの方よ。オペラオーは勿論、グラスも次の安田記念が近いから、貴女のチームと一緒にトレーニング出来れば良い刺激になるもの。……まあ、貴女にウチの分析をされてると思うと少し複雑だけれどね」

 

「ええ〜? 何のことやら〜♪」

 

「まったく…惚けるのなら私の前で堂々とメモを取るのを止めなさい」

 

 

 トレーナー同士で会話に花を咲かせている最中、離れた所で身体をほぐしていたセイウンスカイが、そんな横田トレーナーを抗議する様に半目で睨みながら、

 『今日は渓流釣りにでも行こうと思ってたのに…トレーナーさんってば余計な事をっ…』などと、小声でブツブツと文句を言っている姿も見てとれる…

 

 

 ……まあ、そんな彼女も自分の近くに居た同期の“グラスワンダー”が『セイちゃん? 何か言いましたか?』と覇気を含んだ笑みで一言問えば、

 『い、いや〜、何でもない。何でもないデスヨ〜? さあ〜、今日も一日ガンバリマショウ〜』と、冷や汗を浮かべながら泣く泣く真面目にトレーニングに打ち込まざる得なかったのだが…

 

 

 そんなやり取りが上で行われている中、次の日本ダービーに向けてラストの末脚により一層の磨きをかけるべく脚力の底上げを図るテイエムオペラオーと、

 まだ本格化前で全体的な筋力や身体バランスが出来上がっていないからこそ、負荷に敏感なその状態で自分の身体に負担を掛けにくい走りの感覚を養う事に取り組んでいるメイショウドトウら両名は、もう一本この長く続く石段を駆け上がるため最下部へと降りきり、共にスタート体勢に入る。

 

 

「──さあ、もう一本行こう! ドトウ! 君もいずれ必ず人々の熱い期待と歓喜を一身に浴びる存在となる。共に時代を紡ぐ偉大なる交響曲を奏でるため! 栄光の──頂点を目指してッ!」

 

「──っ! は、はいぃ〜〜っ! わ、私も〜…わ、私も──ちょ、頂点を目指して〜っ!」

 

 

 再び、力強く先ほどよりも更にスピードをあげながら石段を駆け上がる《覇王》の背を、未だ栄養を蓄え花咲く準備をしている《遅咲きの大器》が追い掛ける。

 テイエムオペラオー陣営も、日本ダービーの栄誉を掴み取るため今できる最大限の過程を踏んで決戦に挑む──

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 日本ダービー、その決戦が近づいてきた5月後半の某日。

 時刻は日が西に傾いてもう時期あたりが暗くなり始める夕暮れ時…都内から暫しバスに揺られて到着する自然豊かなキャンプ場。

 

 

 そこには、いつぞや自身のトレーナーから送られた【快適キャンプグッズ・フワフワ折り畳みベッド付き】をコンパクトにまとめ、バス停から自然道へと入って行く“アドマイヤベガ”の姿があった。

 

 

 彼女が所属する栗東寮・寮長である“フジキセキ”をはじめとする関係者に外泊届けは提出しており、既に早めの夕食と入浴・歯磨きなどの生活習慣も済ませていた彼女は、持参したテントを張れるスペースを求めて歩みを進め続ける。

 

 

 そうして辺りもすっかり暗くなり、鈴音のような虫の声とフクロウの鳴き声が奏でられ、上を見上げれば宇宙空間に居るような感覚を味わえるほど宙いっぱいに輝く星々が降り注ぎ、

 またその星々はいつも夜空に浮かぶ月が新月のため今宵は見えない事もあって一層存在感を増すという、自然が生み出す美しさが詰まった夜の中…

 

 

 アドマイヤベガは手際良くテントの設営を完了し、小型の焚き火台に薪を並べ火を起こし、その上にケトルを乗せてお湯が沸くのをキャンプチェアに座って静かに待っていた。

 

 

(……新月の夜には不思議と、あの娘の存在を近くに感じる。私の中にいるもう一人の誰か…私のせいで生まれてくる事が出来なかった──双子の妹である、あの娘の存在を…)

 

 

 パチパチと音を立てて揺らぐ焚き火の灯りに優しく照らされながら物思いにふけるアドマイヤベガ。

 

 

 そのまま暫くするとケトルの注ぎ口から湯気が立ち込め、それに気付いた彼女は持ち手が熱くなっていない事を確認すると、そのまま目の前の小型キャンプテーブルに並べて置いた“二つ”のマグカップ…

 それぞれ大きな一つの星マークが入った、白と青のマグカップに無糖紅茶のティーパックを入れてお湯を注ぎ、白いほうのマグカップは誰かに差し出す様な所作で隣のテーブルへと置き、自身は青いほうのマグカップを両手で包み込む様に持ちながら紅茶を啜ると、周りに誰も居ない中、一人言葉を紡ぎ始める。

 

 

 それはまるで、小さい子に語りかける様な優しい──とても優しい口調で…

 

 

「──日本ダービーって知ってる? 最高峰のレースでね、その世代で一番強いウマ娘の座を競い合うの。……きっとまた、トップロードさんやオペラオーと勝負になる…」

 

 

 そう言うと、アドマイヤベガは両手で持っていたマグカップをギュッと締め付ける様に強く握り、そのまま自身の膝に掛けていたフワフワ手触りのブランケットに乗せて更に言葉を続ける。

 

 

「…ごめんね。皐月賞は2人の足を掬うような、あんな走りと勝ち方しか出来なくて……次は『2人がミスしたお陰で勝てた』なんて、そんなこと絶対に言わせないからっ」

 

 

 アドマイヤベガが辛勝した今年の皐月賞……『勝ったアドマイヤベガが強かった』と讃えるメディアやマスコミも勿論居るのだが…

 

 

 ファンや評論家をはじめとした世間の声は『あのレースは10回やれば8回テイエムオペラオーが勝てる』・『真に強かったのは苦手な小回りコースで最後まで競り合ったナリタトップロード』といった、勝利したアドマイヤベガよりもテイエムオペラオー・ナリタトップロードの2人を評価する声のほうが多かったのである。

 それは先日発表された【日本ダービー・事前人気調査】の結果を見ても──《1番人気・ナリタトップロード》・《2番人気・テイエムオペラオー》・《3番人気・アドマイヤベガ》という形でも現れていた。

 

 

 そんな、今自分が世間から受けている評価について考え、心を少し乱したのか…アドマイヤベガは気持ちを落ち着ける様に再び紅茶を一口啜ると、星空を見上げながら再び口を開き始める。

 

 

「…オペラオーは可笑しな人なの。いつも芝居掛かっていて、とんでもない自信家でね? この間なんてトップロードさんと私に向かって『君たちこそ未来の覇王たるボクの宿敵──運命のライバルに相応しい存在だ! 来たる日本ダービー、お互いに全力で楽しもうじゃないかッ!』なんてわざわざ言いに来て……正直鬱陶しいと思う時もあるけど、実力は侮れないの」

 

 

 テイエムオペラオーについて語っている彼女は時々呆れた空気を醸し出すものの、その口調にはどこか“楽しさ”の様なモノを含んでいる感じがあった。

 

 

「…トップロードさんは力もあるけど、何よりも頑張り屋でね? …私の事、目標だなんて言うのよ? 普通は少し照れたりするじゃない? そういうの無い人なの。本当にどこまでも真っ直ぐで、少し眩しい……そういえば、チームメイトの“スペシャルウィーク”さんと少し雰囲気が似てるかな…」

 

 

 ナリタトップロードの事を語る彼女の口調はとても穏やかで、尊敬の念が込められていて、楽しげで、しかし何か羨む様な…少し寂しげな気持ちも含まれていた。そして──

 

 

「──負けたくないな…あの2人には」

 

 

 最後に彼女がポツリと呟いたその言葉は、星空の彼方に向かって発したのか…はたまた自分自身の気持ちを確かめる意味で発したのか…

 小さな声量ながら、とても力強かったその呟きは夜風と共に溶け込んでいく。

 

 

 その後もアドマイヤベガは、『今日のトレーニングは本番と同じ【左回り・芝2400mコース】での“一本勝負”トレーニングだった』・『その時一緒に並走した“メジロマックイーン”さんの先行力がまた上がっていて驚いた』・『スペシャルウィークさんは今日お休みの日だからゆっくりするみたい』・『まあ夜はトレーナーさんと一緒に近くのお店でご飯を食べに行くみたいで楽しそうにしてたけど…2人が仲良く一緒にいるのはいつもの事だから』などなど…

 

 

 夜空に向かっての語りかけを暫くの間行い、火やゴミの始末、キャンプ用品の片付けなども手際よく終わらせ、テントに用意していた寝袋型のフワフワベッドに潜り込むと、あっという間に静かな寝息をたてながら夢の世界へと入っていったのだった。

 

 

 ──そうして夜も明け、朝日と鳥たちの囀りを目覚まし代わりに目を開け身体を起こしたアドマイヤベガは……夢で妹さんと出逢ったのか、涙を隠す様に両手で顔を覆い何度も『ごめんね…っ…』と謝罪の言葉を漏らし続ける…

 

 

 暫し懺悔を続けた彼女は暗い表情のままテントを出ると、目の前に広がる木々の間から差し込む朝日を目が慣れるまで右手を翳して遮り──

 

 

「…自分の脚で走る事が出来なかった貴女の夢は、私が必ず叶える。ダービーで優勝して、世代最強のウマ娘の称号も何もかも全て──貴女に捧げる」

 

 

 暗い表情は決意に満ちた表情に変わり、朝日に向かって放たれたアドマイヤベガの勝利宣言。

 アドマイヤベガもまた、日本ダービーでぶつかるライバル達に負けない熱い気持ちを昂らせながら本番へと臨む。

 

 

 

 そして各々の準備は万端の中、カレンダーの日付は《6月6日・日曜日》を迎えた──

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 ──東京レース場の控え室…間も無く本日のメインレース【日本ダービー】の本バ場入場が始まる現在、俺は先程まで一緒にストレッチを行い、今は椅子に腰掛け目を瞑り静かに集中力を高めながら呼び出しが掛かるのを待っているアヤベさんの様子を部屋の隅で見守っていた。

 

 

 …今日の日本ダービーに向けての調整は完璧と言って良い。これをやっておけば良かったという様なやり残りも無い。後はアヤベさんが今出せる能力を全て出し切って、そして無事に走り終えてくれる事を祈るだけだ。

 

 

「……ねぇ──」

 

「…ん?」

 

「本当に良いの? 今日の作戦を変更しなくて…」

 

 

 改めてアヤベさんの仕上がりを最終確認するべく脚元に視線を落としていた俺は、不意に耳に届いた呼び掛けの声で視線を上げると、いつも間にか目を開けていた彼女と鏡越しに見つめ合う形となる。

 そして鏡越しに見えている彼女の瞳からは僅かに不安の様な感情が感じ取られ…彼女が今回の日本ダービーを──今までと同じ【後方待機】で臨む。という作戦に若干の疑問を覚えている証拠でもあった。

 

 

「前走の出遅れは私のミス。もうあんなミスはしない。貴方のお陰でスタート技術は上がったと思っているし、折角《1枠2番》の好枠を引けたのよ? それなのに後方待機なんて…内枠の有利を自分から無くす必要が本当にあるの?」

 

「そうだね、確かに今のアヤベさんなら内枠から好スタートを切って前目の良いポジションを取るレースも問題なく出来ると思う。けど俺は作戦の変更を進言するつもりは無いかな。君の走りは後方待機でも──いや、今回は後方待機だからこそ輝くモノだと俺は信じているからね」

 

「どうして? 貴方は何を根拠にそう言えるの?」

 

「根拠は無いなぁ。あくまでもアヤベさんが今日まで積み重ねてきた色んなモノを見てきて、それによって磨かれた君の強さを、アドマイヤベガというウマ娘さんを俺が信じたい! って勝手に思ってるだけの…根拠なんて一切ない“自信”からくる気持ちだから」

 

 

 頭を掻いて苦笑いしながらそう言った俺に、アヤベさんは『はぁ?』と呆れ返って半目になると、顔だけ此方に向けながら力が抜けた様に肩を落として半目のまま俺の事を可哀想なモノを見る様に睨む。

 あらやだ冷たい目だ…残酷な目だ…『コイツの頭はロールケーキか何かで出来てるのか?』って感じのッ……今度ふわふわロールケーキをご馳走様するから許してくれないかしら? …とまあ、そんなアホな事を考えるのは止めまして…

 

 

「まあ、俺の気持ち云々はさておき…アヤベさん、君はどうしたい? 後方待機するよりも先行してレースを運びたい…あるいは他の戦法で走りたいと思っていても良い。君自身が『こうしたい!』と心から思っている事があるのなら、絶対にそっちを選んだほうがいいよ」

 

「──っ…またそれ……皐月賞の時といい、“私の心”がどうのって──それが譬えどれほど大切な事であったとしても、私は勝たなきゃいけないのッ! あの娘の為にも絶対に…っ」

 

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、アヤベさんはピクッと眉間にシワを寄せ、湧き上がってきた苛立ちを押さえ込む様に両手の拳をグッと握り、合わせていた目を瞑りながら外して、最後は椅子から立ち上がって再び開かれた瞳でコチラを見下ろしながら言葉を吐き出す。

 

 

「貴方はトレーナーでしょ? だったら答えて。私の心や貴方の気持ちは関係なく客観的に見て、今日の日本ダービーを勝つ為に最も確率が高いと思っている作戦は何なのかをッ。勝つことだけを考えた時に、“貴方が取る作戦”は一体何なのか──」

 

「──闘うのは君だよ、アヤベさん」

 

「──っ…」

 

 

 更に拳を握る力を強めて少し腕を震わせながら発せられていたアヤベさんの声は、俺が微笑みながら彼女の瞳を見て言った一言によって、短く呑まれた息と共に止まった。

 

 

「実際にあのターフの上で闘う事が出来るのは君なんだ。俺じゃない。ターフの上で“アドマイヤベガ”という物語を紡げるのは君だけだ。ターフの上で“あの2人”を始めとしたライバル達と高め合えるのは君だけだ。そして──君の中に居る大切な妹さんの気持ちと向き合い、その気持ちに応える事が出来るのも君だけなんだよ? アヤベさん」

 

「わ、分かってる…でもっ」

 

「これは…大切な事だからこそ君に何度でも伝えたい。アヤベさん、“君の心は何て言ってる?” どんな時に“楽しい”って言ってる? 君の中でも答えは既に出ているんじゃないかい? 君の大切な妹さんが──“走ることが大好き”だったっていう妹さんが、心に蓋をしてでも君がただロボットの様に勝ち続ける事を望んでいるのかどうか? って」

 

「…それは…っ…」

 

 

 握っていた右拳を自身の心臓辺りに重ね、耳を前にペコっと倒しながら俯くアヤベさんに対し、俺は椅子から立ち上がって言葉を続ける。

 

 

「……とまあ、トレーナーとしてカッコつけたくて知ったかぶった事を言ってはみたけど…実際、俺には君の妹さんが何を望んでいるのか? という事は分からない。俺には妹さんの声を聞くことが出来ないからね……妹さんの事に関しては“アヤベさんにしか分からない”部分のほうが多いと思うから、最終的に君が信じる事を俺は応援するよ」

 

「……っ…」

 

 

 俺の言葉にアヤベさんは俯いたまま言葉を発さず……俺たちの間には沈黙が流れ、控え室の壁に備え付けられた時計の針が『カチカチ』と進む音のみが暫し響き続けていると…

 外の廊下から針の音とは別の『コツコツ』と誰かが此方に歩いて来る音が聞こえてすぐ、今度は『コンコン』と扉をノックする音が鳴ると──

 

 

『──失礼致します。アドマイヤベガさん、間も無く本バ場入場が始まりますのでターフへとお願い致します』

 

 

 という、スタッフさんの声が耳に届く。

 ……そうか、もう時間か…

 

 

 隣を見ると、アヤベさんも俺と同じくスタッフさんの声を聞いてスイッチを入れ直したのだろう。

 『ふぅ…』と小さく息を吐くと、俯いていた顔と倒していた耳をピョコッと同時に上げて、瞳の奥に鋭い気迫を纏った表情をしながら──

 

 

「時間ね。…ターフに向かうわ」

 

 

 ひとまず先程までの話はお終い。という感じでそう言うと、アヤベさんは背筋を伸ばした綺麗な歩き方で扉へと歩みを進める。

 そして俺は、そんな彼女の背中に向かって言葉を発した。

 

 

「アヤベさん、さっき君が俺に聞いてくれた事だけど、もし俺が今日の日本ダービーを勝つ為だけに作戦を立てるなら、好スタートから番手を取って道中は内でジッとする→そして直線だけ場バの良い真ん中・外目辺りに進路を変えて突き抜ける……この作戦が、勝てる確率は最も高い万能作だと俺は思ってるよ」

 

「──!」

 

 

 俺がそう言うとアヤベさんは歩みを止め、少し驚いた表情をしながらコチラを振り返る。

 

 

「…最終的にどの作戦で走るのかは君に決めてほしい。俺は──君のトレーナーだ。譬え君がどんな作戦で走って、どんな結果になったとしても、俺がトレーナーとして『君を支えたい』というこの気持ちが変わる事は決してない。まあその…君ならどの作戦で走っても大丈夫だから、思う存分走っておいで。アヤベさん」

 

「……答えてくれてありがとう。けど、私の気持ちも決して変わらない。何が何でも絶対に……勝つわ、──私が」

 

 

 最後はコチラに背を向けたまま、アヤベさんはそう言って扉を開くとターフへと続く地下バ道へと向かって行った。

 

 

 …ライバル達は強力だけど、今のアヤベさんなら今日のダービーでも問題なく番手を取って先程の作戦であっても遂行出来るだろう。他の作戦で走っても大丈夫な様に彼女はトレーニングは積み重ねてきた。

 

 

 後方待機で走ってくれなくても良い。どんな結果であったとしても俺は受け入れられる。とにかく無事に──そして唯一願わくば…彼女が心から『楽しかった』と感じて帰って来て欲しい。

 アヤベさんが居なくなった控え室で暫く一人そんな事を考えながら…俺は彼女の走りを間近で見守るべく、先にスペースを取りに行ってくれていたスペちゃんとマックイーンさんの所に向かうため控え室を後にしたのだった。

 

 

 そしていよいよ、一生に一度しか出走が許されない夢舞台『東京優駿・日本ダービー』が、今年も始まる──

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 この拙作のメインは【スペちゃんとお兄さん】ですので、アヤベさん達のレースは少し軽めに流そうかな…とか思っていたのですが、
 結局楽しくなってダラダラと書いてしまったら、現実での日本ダービーどころかアヤベさんのダービー制覇記念日にも間に合わないこの始末⭐︎
(マックイーンさんのレースもきっと同じ様に書いてしまうんだろうな…苦笑)

 レースシーンは現在、道中の展開部分を少々手直ししておりますので少しだけお待ち頂けたらと…

 …いや本当に、お待ち下さっている方には物語の進行が遅くて誠に申し訳ない気持ちでございます。

 兎にも角にも次のレースシーンも含めて今後も楽しんで書いて参ります!


 ※ここからは特に物語には関係ない情報を…折角レース指数なる概念を出したのだから、現時点までの【スペちゃんが走ったレース指数】を下記に載せております。

 …これで暫く後書きのネタには困らなそう(ぼそっ)
 →何か後書きに書いてくれたら嬉しいネタや要望がありましたら、遠慮なく教えて下されば嬉しいです! 私に書けそうなら事なら喜んで書かせて頂きます。


 ⚫︎スペちゃん・現時点での全レース指数

 ・デビュー戦:【91】

 ・弥生賞:【99】

 ・皐月賞:【105】

 ・日本ダービー:【110】

 ・京都新聞杯:【102】

 ・菊花賞:【114】

 ・ジャパンカップ:【122】

 ・有マ記念:【120】

 ・大阪杯:【124】

 ・天皇賞(春):【132】


 後書きまで読んで下さった方々、重ねてお礼申し上げます。
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