スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 今回はアヤベさん出走の日本ダービー【レースシーン】となっております。前回に引き続き表記しております“個別ラップ”なども含めて、【レースに関する事柄】には全て筆者の妄想が入っておりますのでご了承ください。





一等星の挑戦/東京優駿・日本ダービー②

 

 

 

 

 

 

 

『梅雨入りの足音が近づくなか、ここ府中の上空には澄み渡る青空が広がっており文句なしのダービー日和。狭き18の出走権を得て、これから行われる生涯たった一度の夢舞台に挑む事を許された彼女たち全てが“勝者”。さあ、この場に来て下さった200万人もの方々から放たれる熱気に包まれて、本日のメイン競争──東京優駿・日本ダービー! スタンドからの大声援に迎えられて、本バ場入場のお時間です』

 

 

 

 壮大な入場曲と共に地下バ道から続々とターフに姿を現す優駿たち。その姿が目に入るや否やスタンドからは大歓声と拍手が巻き起こり、会場が良い具合にヒートアップしてきた……かと思いきや、

 本バ場入場が始まって程なく、星空を連想させる様な青系統と金色で配色された勝負服が地下バ道から上がって来ると、場内のボルテージは早くも最高潮へと達する──

 

 

 

『──かつて、桜の辛勝から樫の完勝に酔いしれたあの日から時は流れ……偉大な母星から生まれた一等星が、奇しくもその母と同じ様な道を辿り府中の2400mで誰よりも光り輝く事を誓います。25光年先からの“輝き”という贈り物と共に、二年続けて“無敗の二冠ウマ娘”誕生という奇跡を、どうか私達に見せてほしい! 1枠2番・アドマイヤベガ! 3番人気です!』

 

 

 身体の芯に響くほどの大歓声に迎えられるも、アドマイヤベガは普段通りクールな表情を崩す事なくスタンドに一礼を行うと、ターフの感触を確かめる様にゆったりとした速度でスタンドを横切って行く。

 

 

『いや〜、解説の山広さん? 彼女がターフに出て来てから場内の盛り上がりが凄い事になっていますけれど……今日のアドマイヤベガの状態は如何でしょうか?』

 

『そうですね、纏っている鋭い雰囲気や硬くなり過ぎていない表情、そして何よりこの柔らかいフットワーク。文句の付けようが無い素晴らしい仕上がりだと思います』

 

『陣営からも、ここまでの調整は完璧だという声が聞こえていましたが、その言葉に嘘は無いという事ですね』

 

『はい、間違いないと思います。皐月賞の時も素晴らしい仕上がりに写っていたのですが、今日の彼女はそこから更に状態を上げてきていると思いますね』

 

『なるほど……まさに最高の状態で日本ダービーに臨むアドマイヤベガ。出走ウマ娘の中で唯一三冠に挑戦できるのも、ここまで無敗のキャリアなのも彼女ただ一人です。ここを勝って三冠に王手なるでしょうか?』

 

 

 ジョギング程のスピードでスタンドを横切る彼女に、場内からは絶え間なく応援の声が送られている。

 開場してから5分足らずで売り切れてしまった【アドマイヤベガ・ぱかプチぬいぐるみ】を手に声援を送る者、スマホでムービー撮影しながら声援を送る者、そして──

 

 

「アヤベさ〜〜ん! 今日も頑張って下さいね〜!」

 

 

 スタンドの自由席からブンブンと手を振り、とても聞き取りやすい声で声援を送る──『カワイイ』という言葉が最も似合う、黒いカチューシャと耳当て、そして左耳に赤いリボンを付けた“芦毛のウマ娘”の姿なども見受けられる。

 

 

 ……その芦毛のウマ娘の姿を確認したアドマイヤベガは、何やら若干呆れた様子の表情を浮かべてはいたものの、最後はそのウマ娘が座っている辺りに向かって、顔は向けないまま少し恥ずかしそうに小さく手を振り、その後は気合いを入れ直す様に小さく息を吐いてゲート付近へと向かって行った。

 

 

 

 

『──横綱相撲で頂点を極めたジュニア級王者の誇りも、皐月で流した惜敗の涙も決して忘れない。長く、速く、力強く……今日まで磨き上げてきた王道の走りで切り拓く──府中の2400m、君のサクセスロードにはこの道こそが相応しい! 6枠11番・ナリタトップロード! 1番人気です!』

 

 

 

 凛々しい表情で前を向き、堂々とした足取りでターフに姿を現したナリタトップロード。すると──

 

 

「委員長〜! いけるよ〜!」

「トップロードちゃん、ファイト〜!」

「ふぁ、ふぁいと〜!」

 

「トプロ〜! 頑張れよ〜!」

「期待してるぞ〜! トプロ〜!」

「トプロちゃん、絶対優勝してね〜!」

 

 

 同じ学び舎で過ごし、学園では委員長も務める彼女を慕っているのだろうウマ娘たちが、スタンド最前列にびっしりと並んで一生懸命に声援を送り、

 更には彼女と親し気な、同じ町内グループに属しているのだろう人達の一団も最前列から応援する様子も見受けられ、ナリタトップロードの人望の厚さと1番人気に恥じない実力の高さが伺える。

 

 

『流石は1番人気、非常に大きな期待と声援が送られていますが、山広さんはナリタトップロードの状態をどう感じておられますか?』

 

『いや〜、こちらも皐月賞の時よりも更に状態を上げて来ていると思いますね。非常に堂々としていて貫禄もありますし、レースを走る度に強くなっている過程も素晴らしいの一言ですね』

 

『今回、初めての東京コースという部分はどうでしょうか?』

 

『問題ない──と言いますか、寧ろベストコースだと思いますね。非常に雄大なストライド走法で走る娘ですし、少なくとも前走の中山コースよりは適性は高いはずですよ』

 

『前走の皐月賞は本当に僅かの差で届かずの悔しい3着……ベストコースと思われる今回の府中で今度こそのリベンジなるか?』

 

 

 ナリタトップロードはスタンドに向かって、両手を自身の太ももあたりに添えながら深く丁寧なお辞儀を何度も行い、最後はグッと握り拳を作ってニコッと笑うと、再び凛々しい表情に戻ってゲート付近へと足を進めた。

 

 

 

『──学園最強チームであるリギルは今年、この若き“覇王”と共に日本ダービーの栄冠へと挑みます。僅かな差か? 絶望の距離か? たった1cmの差に泣いた前走皐月の舞台。しかし、だからこそ見えた反転攻勢がある! この府中の森で今度こそ──不世出の歌劇をお見せしよう! 7枠14番・テイエムオペラオー! 2番人気です!』

 

 

 テイエムオペラオーはターフに出てくるや否や、裾に煌びやかな装飾がいくつも施されたピンク色のマントを靡かせ、『勝つのは自分だ』とアピールするように右拳を高々と天に掲げる。

 そのパフォーマンスにファン達は大盛り上がりであり、ピークかと思われていた場内のボルテージは更なる昂りを見せていた。

 

 

『この娘の登場で場内がまた一際ドッと湧き立っておりますが、ここから見た感じテイエムオペラオーも非常に良い雰囲気に感じますね?』

 

『私もそう思います。元々ムラっけを感じさせる娘ではなくて、今までの出走レース全て仕上がりは良かったのですが、今日の彼女も変わらず素晴らしい仕上がりですね』

 

『前走の皐月賞からの上積みはどうでしょうか? それと彼女も東京コースは今回が初めてという形になりますが?』

 

『テイエムオペラオーも間違いなく前走より状態を上げてますね。本当に三強全員が素晴らしい仕上がりで目移りしてしまいますよ。コース適性に関しても、レースセンスが恐ろしく高い娘ですから問題ないでしょう。後はこの外目の枠からどう立ち回るか? が注目ですね』

 

『なるほど、ありがとうございます。山広さんの解説で三強対決が、そして何より本日の日本ダービーがより一層楽しみになって参りました』

 

 

 ターフでは未だテイエムオペラオーが『──やあやあ、お待たせ! ボクのファンたちよ、ウマ娘を愛する観衆たちよ!』と、高らかな声を発しながらスタンドに手を振っており、そんな彼女に向かって声援が──それも女性のファンが多いのか黄色い声援が降り注いでいる。

 中には《T.M.Operao ⭐︎ fight!》と書かれた手作りうちわを持参して応援する者など……とにかく現トゥインクル・シリーズのクラシック級を牽引する三強の一角として、彼女も圧倒的人気を誇るのだと証明していた。

 

 

 そんな声援を一身に浴びながら暫くスタンドに手を振り続け、最後に『さあ、しっかりと見届けてくれ! このボクの──若き“覇王”の強さを!』と言い残し、テイエムオペラオーは悠然とゲート付近に向かって行った。

 

 

 ……彼女が最後に言い残した言葉は、この場に詰めかけた熱きファンたちに向かって放った言葉だったのか……

 それとも彼女が口上を述べている時に、真っ直ぐ瞳で射抜いていたスタンド席に座る──耳を垂らさせモジモジとしながらも一生懸命、彼女に向かって祈りを捧げていた“猫口なウマ娘”に向けられて放った言葉だったのか、あるいはその両方か……それはテイエムオペラオー本人にしか知る由もない。

 

 

 

『──ここまで山広さんの解説と共に、今年の日本ダービーに臨む18名の主役たちをご紹介して参りました。全てのウマ娘たち、全てのトレーナー、そして全てのウマ娘ファンの方々にとっての特別なレース──東京優駿・日本ダービーの発走までは、もう暫くお待ち下さい』

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 ──本バ場入場も終え各ウマ娘たちがゲート付近に集まって来るなか、いよいよ日本ダービーの発走時刻が迫っていた。

 

 

 

 

『──走る運命を背負いし彼女たちに夢を見ている者ならば、誰もが胸躍らせる特別なる日曜日。どこまでも澄み渡る青空と涼やかな風、世代の頂点を決めるに相応しい最高の舞台が整いました。東京レース場、本日のメインレース。《GⅠ競走・東京優駿・日本ダービー・芝2400m・バ場状態は良》間も無く世代の頂点が決まります』

 

 

『実況席の解説には山広さんにお越し頂いておりますが、山広さん? 場内の雰囲気は何か痺れるような……日本ダービー特有の空気に包まれていますけれども、改めまして今年の日本ダービー、人気の上でもやはり“あの三人”が抜けた評価を得ていますが、山広さんの見解をお聞かせ下さい』

 

『はい、前走の皐月賞では4着以下の娘たちを大きく離しての三つ巴。そして三人各々の走りも非常に素晴らしい内容で、歴代三冠ウマ娘たちにも引けを取らないパフォーマンスでした。アドマイヤベガ・テイエムオペラオー・ナリタトップロード。この三人が今日の日本ダービーでも中心となるのは当然だと思いますね』

 

『その皐月賞では②のアドマイヤベガが、見事ライバル2人に競り勝って接戦を制した訳ですが、当日の雨に小回りに急坂と……前走は今日と全く異なる条件のなか勝利。完全なる勝負付けは未だ済んでいないと見るべきでしょうか?』

 

『そうですね……展開が向いた事とライバル2人が少しミスを犯した面は確かにありました。勝負付けは未だ済んでいないと私も思います。ただ、アドマイヤベガ自身も出遅れがあったりと決して楽なレースでは無いなか勝ち切った訳ですから、彼女だけ他2人よりも能力が劣っているなんて事はありませんよ』

 

 

 無敗で皐月賞を制している筈なのに、事前人気でも当日人気でも3番人気となったアドマイヤベガ。皐月賞での勝利に対する世間の評価は明るいモノばかりで無いことは明白。

 そんな世間の評価も、勝利への強い意志を胸に払拭する事を誓うアドマイヤベガは現在、最後の直線半ばスタンドの目の前に設置されたゲート付近にて、身体をほぐしたりしている周りのウマ娘たちから少し離れた場所で、胸に手を当て静かに佇んでいた。

 

(……ずっと…熱い。この熱気で、そこかしこに潜む闘気で、あの2人が放つ、光のせいで──熱い。……臨む、ところ。表面温度が高ければ高いほど、星は青く染まっていく。私の心も、願いも──だから……)

 

 

 

『そのライバル2人の一角──次に⑭テイエムオペラオーについては如何でしょうか?』

 

『この娘もいつも通り堂々としていますね。レースが近づいてきても全く心を乱さない……それを天下の日本ダービーという舞台でやってのけているんですから恐れ入りますよ』

 

 

 解説陣に名前を挙げられるやいなや、テイエムオペラオーは再び右拳を天に掲げるパフォーマンスを行い、現地に足を運んだファンも、テレビの向こうから見守っているファンもまとめて盛り上げてみせる。

 

(──Spandendo【スパンデンド】! Spandendo! 流石はクラシックの空に燦然と輝く至高のレース! さあ、もっと豊かに! もっと力強く──奏でてみせよう!)

 

 

 

『──そして三強最後の一人。今年の日本ダービーで1番人気を背負います、⑪ナリタトップロードについても一言お願い致します』

 

『はい、こちらも気合いが漲っていて素晴らしいですね。東京レース場は間違いなく彼女に合っているでしょうから、得意の先行力と持続力を活かしてレースをする為にもスタートは注目ですね』

 

 

 グッグッとクロスした腕を胸に引き寄せる様にストレッチを行っていたナリタトップロードは、自身の名前が挙がり歓声の上がったスタンドに少し驚いた表情で目を向け、暫く目をパチパチとさせながら歓声を浴び、最後は再び凛々しい表情に戻って集中力を高めていた。

 

(……成し遂げてみせます。皆さんの期待に応えて、そして──トレーナーさんとの約束も! 必ずッ)

 

 

 

 ナリタトップロードの解説が終わったと同時に、場内のターフビジョンにはPVが流れだし、それに沿ってファンファーレを演奏する音楽隊、そしてスターターがそれぞれの仕事を熟す準備に入っていく。

 

 

 

『──さあそして、今スターターがゆっくりとスタート台に向かいます。約束された至高のレース。今年の日本ダービーもまた、間違いなく未来へと語り継がれる──そんな熱きレースを皆さん一緒に楽しみましょう! 間も無く【東京優駿・日本ダービー】、その始まりを告げるファンファーレが鳴り響きます──』

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 あのね、知っているかい?

 

 

 この場所は、誰もがずっと……ずっと焦がれ続ける──

 

 

 “夢の舞台”

 

 

 

 幼き日から、そのレースを見るたびに想いを募らせ

 

 

 そのレースを見るたびに夢を膨らませ

 

 

 そのレースに手を伸ばし続けた者だけが辿り着ける──

 

 

 “約束の場所”

 

 

 

 青春の全てを捧げた彼女たちの

 

 

 一生に一度きりの挑戦が

 

 

 今、始まる──

 

 

 

 

 

 

『────見事に押し切りました、ノワールワンピース!』

 

《プリンシパルS 1着:①ノワールワンピース》

 

 

『────ウェストドラゴン、2連勝でゴールイン!』

 

《③ウェストドラゴン》

 

 

『────リュンヌタンゴ、鮮やかに差し切った!』

 

《④リュンヌタンゴ》

 

 

『────止まらない、止まらない! プチフォークロア、今ゴールイン』

 

《⑤プチフォークロア》

 

 

『────セレストコマンダーだ! セレストコマンダー!』

 

《⑥セレストコマンダー》

 

 

『────ピグメントダーク、見事1番人気に応えました!』

 

《GⅡ・青葉賞 1着:⑦ピグメントダーク》

 

 

『────これは驚いた! 見事に逃げ切った、ドラグーンスピア!』

 

《GⅡ・スプリングS 1着:⑧ドラグーンスピア》

 

 

 

 

 “ダービー”は、ずっと憧れのレースでした──

 

 

 

 

『────オーバードレインが交わす! オーバードレインが難なく交わす!』

 

《GⅢ・京成杯 1着:⑨オーバードレイン》

 

 

『────サードロ、これは強い! 突き抜けた!』

 

《⑩サードロ》

 

 

『────勝ったのは、コウダイリョウガ!』

 

《⑫コウダイリョウガ》

 

 

『────アユクラッシャー、今先頭でゴールイン!』

 

《⑬アユクラッシャー》

 

 

『────リュンヌシアター、これで2勝目!』

 

《⑮リュンヌシアター》

 

 

『────ノーティカルツール、素晴らしいスピードを見せました』

 

《⑯ノーティカルツール》

 

 

『────マツブルバーレスク、先頭のままゴールイン』

 

《⑰マツブルバーレスク》

 

 

『────ルゲシマファイター、押し切った!』

 

《⑱ルゲシマファイター》

 

 

 

 

 “この舞台”に立つのが、ずっと夢でした──

 

 

 

 

『────さあ、堂々と先頭だ! 堂々と先頭だ、ナリタトップロード! 圧勝で無敗のジュニア王者に輝きました!』

 

《GⅠ・ホープフルS 1着/GⅠ・皐月賞 3着:⑪ナリタトップロード》

 

 

『────鮮やかに突き抜けた! 勝ったのはテイエムオペラオー! 新たな歴史を紡ぐ主役候補の誕生です!』

 

《GⅠ・朝日杯FS 1着/GⅠ・皐月賞 2着:⑭テイエムオペラオー》

 

 

『────間隙を縫ってアドマイヤベガ! 最内からアドマイヤベガ! 無敗のジュニア王者2人を、まとめて斬って落とした!』

 

《GⅠ・皐月賞 1着:②アドマイヤベガ》

 

 

 

 

 私もいつか、必ず“このレース”を勝ってみせると誓いました──

 

 

 

 

 

 さあ、熱狂しよう──

 

 

 夢を現実に、憧れを現実に変えた

 

 

 優駿たちの激闘に。

 

 

 

 

【東京優駿・日本ダービー】

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

『──ファンファーレと共に地鳴りのようなスタンドからの大歓声が、この栄光の空へと吸い込まれていきました。ようこそ、日本ダービーへ! さあそして、各ウマ娘のゲートインも始まっています』

 

 

 一音も乱れる事なく響き渡ったファンファーレに、場内からも歓声と拍手が巻き起こるなか……いよいよ日本ダービーのゲートインが始まり、奇数番号のウマ娘たちから続々とゲートに入っていく。

 

 

『──枠入りは非常にスムーズです。1番人気の⑪ナリタトップロードも、今ゲートに収まりました。とても落ち着いています。この雰囲気ならばスタートも心配いらないでしょう』

 

 

 貫禄十分に堂々とゲート入りしたナリタトップロードは、一度大きく深呼吸すると、ただ前だけを見据えてスタート体制に入った。

 

(──ふぅ……いつでも、行けますッ)

 

 

『──さあ、ここからは偶数番号のウマ娘たちがゲートに向かいます。続々と枠入りが完了する中、無敗の皐月賞ウマ娘②アドマイヤベガも、今ゲートに収まります。昨年のスペシャルウィークに続いて、今年も無敗の二冠ウマ娘誕生なるか?』

 

 

 目を瞑って瞑想したまま、アドマイヤベガも集中力を極限まで高めた状態でゲートへと収まった。

 

(……やるべき事は変わらない。このレースも、心星のように制するだけ。だから……だから──勝負、しましょう)

 

 

『──残す枠入りも後わずかです。大外⑱ルゲシマファイターを最後に残して、⑭テイエムオペラオーが今ゲートに──おっと? ゲート前で立ち止まって、何やら話していますね……これもまた彼女のパフォーマンスでしょうか?』

 

 

 悠然とした歩みでゲートに向かい、そのままゲート入りするかと思われたテイエムオペラオーは、ゲート手前で一度大きく息を吸い込むと、既にゲート入りしていた他のウマ娘たちに向かって高らかに口上を述べ始める。

 

「──やあ、我がライバルたちよ! 万雷の拍手は聞こえるか? 我らを讃える歓声が! 歓喜の瞬間はすぐそこだッ! 互いの夢をかけ、全力を尽くして最高のレースをしようッ!」

 

 

 そんな台詞と共にテイエムオペラオーは笑みを浮かべてゲートへと収まった。彼女の演説に何人かのウマ娘が驚いたものの、

 彼女が運命のライバルと定めている2人──ナリタトップロードとアドマイヤベガの両名は、一切集中力を乱すことなくスタートの時を待っていた。

 

 

『──テイエムオペラオーも今ゲートに収まって……残す枠入りは後一人。大外⑱ルゲシマファイターが、ゆっくりと今、ゆっくりと今ゲートに向かって──収まりました』

 

 

 全てのウマ娘のゲートインが完了し、場内には緊張に包まれた一瞬の静寂が訪れ──

 

 

『全てのゲートインが終わって体勢完了。いよいよ、一生に一度の栄光へ! その熱き闘いが始まります!』

 

『──さあ、行こうッ! すべては、この熱き日のために! 一瞬の静寂に包まれて【東京優駿・日本ダービー】────今スタートしましたッ!!』

 

 

 ──ゲートが開いた瞬間、爆発した様な大歓声に送られて、各ウマ娘が一斉にゲートから飛び出した。

 

 

 

『あっと? 立ち遅れたのが⑯ノーティカルツール。反対に好スタートを切ったのは⑪ナリタトップロードと⑭テイエムオペラオー。更に内から②アドマイヤベガも今日は綺麗なスタートを切っている。三強それぞれが絶好のスタート! これはポジション争いが熾烈になりそうだ!』

 

『さあ、この状況で誰がハナに行く? 誰が行くんだ? 真ん中から──ドラグーンスピアか? ⑧ドラグーンスピア、スタート直前で走る事が叶わなかった皐月賞の無念をこの逃げで晴らすか? おー! ドラグーンスピアが先頭に立った!』

 

『このドラグーンスピアの後ろを狙って内②アドマイヤベガ、その外から④リュンヌタンゴと⑤プチフォークロア、更に大外からぐーんッと⑭テイエムオペラオーも内を見ながら前のポジションを取りに来る! 好スタートを切った⑪ナリタトップロードもこの争いに加われる位置に付けながら、各ウマ娘が第1コーナーへと向かって行きます』

 

 

 スタート直後のポジション争い……三強それぞれが好スタートを切り、普通ならばそのまま三人共が楽に良いポジションを取れるかと思いきや、そこは流石に天下の日本ダービー。

 そうは簡単に取らせるものか! と、スタートから飛ばして先頭に立った⑧ドラグーンスピアをはじめ、今日まで磨いてきた出脚の速さに自信のある者たちがポジション争いを激化させる。

 

(──スタートは上手く切れた。前が空いてる、トレーナーさんの言う通り、このまま番手が取れる……なのに……分かっているのに……行きたく、ない…?)

 

(──流石アヤベさんにトップロードさん。絶好のスタートを切れたと思ったのに並ばれてしまうとはね! だが元より控えるつもりなどボクには無い。こうなれば歌い出しから三人で行進を行い、この至高のレースに花を添えようじゃないか!)

 

(──オペラオーちゃんだけじゃない。他の人達も外枠から前を取りに来てる……ここで脚を使って前に付けても、バ群に閉じ込められては元も子もありません。ここはまだ──自分のリズムを守ってッ)

 

 

 

『さあ、第1コーナーのカーブ。拍手に送られて、大歓声に送られて、色取り取りの勝負服が向こう流しへと吸い込まれて行きます! 感じて下さい! この空気を、この熱気を! これが──これこそが“日本ダービー”です!』

 

『先頭から見ていきましょう。⑧ドラグーンスピア、迷いなく行きました。1バ身のリード。2番手に④リュンヌタンゴが付けました。その後ろ2バ身ほど空いて⑤プチフォークロア。更に1バ身離れて①ノワールワンピース。その外に⑰マツブルバーレスク。間に⑫コウダイリョウガ。そしてこのグループの直後、内に⑭テイエムオペラオーが付けています! なんと今日はテイエムオペラオーが! ナリタトップロードよりも前の位置でレースを進めています!』

 

 

「オペラオーがトップロードよりも前か……」

「皐月賞は後ろからだったろ? 大丈夫なのか?」

「オペラオーさん……頑張ってっ!」

 

 皐月賞とは全く異なるテイエムオペラオーのレース運びに、場内からは少しのどよめきが起こるが……

 当のテイエムオペラオー本人は、好戦的な笑みを浮かべ自信満々という表情でターフを駆けている。

 

(ふむ……少し後ろのほうから気配を感じるトップロードさんは兎も角、アヤベさんは──下がって行っているね……どうやら行進の誘いは振られてしまったらしい。フフン♪ ならばボクは、このまま前を進み手を差し伸べ続けよう! 何故なら、ボクと君とトップロードさんは──この舞台で競い合う運命なのだから!)

 

 

 

『2コーナーから向こう正面、隊列が少し縦長になっている。テイエムオペラオーの背後に⑬アユクラッシャー。その外目をついて⑦ピグメントダーク。そこから3バ身ほど切れて内から⑥セレストコマンダー。そしてその外に! 1番人気⑪ナリタトップロードはここに居ます! 前のテイエムオペラオーを射程に入れながら、現在中団やや後ろの位置で追走しています』

 

 

「トップロードさん良いマーク。このままオペラオーさんに合わせられれば……」

「前とはそれほど離れてない。あの位置ならいつでも動けるぜ!」

「トップロードちゃん、がんばれ〜ッ!」

 

 好スタートを切ったナリタトップロードは、ゴチャつきそうだった先団のポジション争いには加わらず、追走ペースを緩め過ぎる事も速め過ぎる事もなく、自分のリズムを守って基礎スピードの高さを活かした高速巡航モードに入っていた。

 

(オペラオーちゃんも前の人たちも、スタートからここまで脚を使ってる。きっと、もうすぐ息を入れるはず……後方にいるアヤベさんに追い付かれない為にも……ポジションを上げるタイミングをッ──)

 

 

 

『ここで前半の1000mを通過──“59.4”! 59.4という通過タイム。去年ほどでは無いが今年のダービーも比較的流れています! ナリタトップロードから2バ身離れて⑨のオーバードレインが居て、少し後ろに③ウェストドラゴン。外に⑮リュンヌシアター』

 

『このグループから、もう2バ身後ろに⑩サードロ。そしてその1バ身ほど後ろ! 無敗の皐月賞ウマ娘②アドマイヤベガは、好スタートから何とここまで下がりました! 無敗の二冠を狙うアドマイヤベガは、何と出遅れた⑯ノーティカルツールと並んで最後方を追走です! これは位置取りミスか? それとも作戦通りなのか?』

 

 

「おいおいおいッ……スタート良かっただろ? 何であんなに下がるんだよ? トレーナーの指示か?」

「いくら末脚が凄いからって、あんな後ろに居たんじゃ……」

「……アヤベさん……」

 

 内から絶好のスタートを切り、そのままスピードを緩めなければ番手も取れそうだったアドマイヤベガは、何と1コーナーに入る手前あたりからズルズルと位置を下げていき……

 最終的には出遅れた⑯ノーティカルツールと並んで最後方での追走となっていた。

 

 これには場内からも困惑の声がいくつも飛び交っており、中には故障や何かしらの妨害があったのか? と心配する声も上がるが……どうやらそんな雰囲気でもない事と、

 今まさにターフを駆けているアドマイヤベガの表情が──不思議と落ち着いた様子である事で、彼女に対するざわめきも徐々に応援の声へと変わっていく。

 

(──自分でも分からない……こんなに後ろを走っているのに……前を走る2人の背中が、あんなに遠いのに……こんな状況なのに、私は……こんなにも胸が高鳴って──ワクワク……してる…?)

 

 

 

『さあ、向こう正面の半ばを過ぎて間も無く第3コーナーの手前。ここでナリタトップロードがジワっと位置を上げた! ここでナリタトップロードに動きがあった! やや後ろの位置から既に、前のテイエムオペラオーに並び掛けようかという勢い! ナリタトップロード! ここでテイエムオペラオーをマークする様にピッタリと外に張り付いた! 3コーナー途中、残り1000mを通過。ついにレースが動き始めたか!?』

 

(──ッ! 外にトップロードさん……なるほど、ボクを内に閉じ込めるつもりなのだろうけど──覇王の邁進はその程度では止められないよ?)

 

(──よし、外を取れた! これならオペラオーちゃんが──どう動いても対処できるッ!)

 

 

 第3コーナーを周り初め、残り1000mのハロン棒を通過した“三強の個別ラップ”は──

 

 ⚫︎テイエムオペラオー(12.9-11.3-11.9-12.0-12.1-“12.5-12.3”)

 前半1000m:60.2

 前半1400m:85.0

 

 ⚫︎ナリタトップロード(12.7-11.8-12.1-12.1-12.0-“12.2-12.2”)

 前半1000m:60.7

 前半1400m:85.1

 

 ⚫︎アドマイヤベガ(13.1-11.9-12.3-12.4-12.2-“12.0-12.0”)

 前半1000m:61.9

 前半1400m:85.9

 

 

 三強の中では、スタートから比較的前半で脚を使ったテイエムオペラオーが周りの先団ウマ娘たちと同様、最後に待ち受ける長い直線に備えて少し息を入れた区間……

 その緩みを後ろで追走していたナリタトップロードは見逃さず、かつテイエムオペラオー以外の先団グループが少し苦しそうにしている事も見抜き、テイエムオペラオーを直線でバ群に閉じ込めるべく外から締めにかかった。

 

 

 

『間も無く大ケヤキの向こうを通過して3、4コーナー中間。先団グループの動きをみて後続勢もぐーッと差を詰めに来ている。逃げるドラグーンスピアの差が徐々に無くなってきた! そしてそんな後続勢の更に外から! 瑠璃色の勝負服が──②アドマイヤベガが、グングンと上がって来ている! アドマイヤベガ動いた! アドマイヤベガ動いた! 間も無く第4コーナー、ようやく大外からアドマイヤベガが動いたぞぉぉぉ〜ッ!!』

 

(──脚が軽い…胸が熱い……前に…もっと前にッ……あの──2人の背中にッ!)

 

 

「おお! アドマイヤベガも動いた!」

「まだ直線入って無いんだぞ!? 最後まで保つのか!?」

「オペラオーとトプロも未だギアを上げ切ってないのを考えると……」

「凄い脚だけど……それでも──このままのスピードじゃ多分届かない……」

 

 第4コーナー手前……まるで前の2人に──テイエムオペラオーとナリタトップロードに引き寄せられる様に、大外から一人だけ早送りしているかの勢いで上がって行くアドマイヤベガの姿に場内が早くも湧き立つ。

 しかし、そんな中でも冷静にレースの行方を見守っているファンもいる。コースの形態上、レース後半が非常に速くなりやすい東京レース場。その例に漏れずレース後半に入りペースが速くなった今年の日本ダービーだが、

 そんな流れを未だ疲弊した様子を見せず前を駆けるテイエムオペラオーとナリタトップロードが前に居る以上、たった今グングンと大外から上がって来ているアドマイヤベガのスピードでも、《道中を最後方追走》という位置からでは……少なくとも1着争いには加わらないであろう勢いであった。

 

 

 

『残り800mのハロン棒を通過して4コーナーカーブ。僅かに逃げる⑧ドラグーンスピア先頭で、間も無く直線コースに入って来る! ここから待ち受けるのは長く苦しい永遠とも思える直線コース! 選ばれし優駿18名、己の全てを信じてッ! 己の全てを懸けてッ! 大歓声が迎え入れる最後の直線コースに──今入ったぁぁぁ〜ッ!! ここが勝負の天王山! 府中の526m〜ッ!!』

 

『ドラグーンスピア懸命に逃げる! しかしリュンヌタンゴが差を詰めて来た! プチフォークロアも来ている! 更に最内を狙ってピグメントダーク! 真ん中からノワールワンピース! しかしこれからの間をこじ開ける様に──テイエムオペラオーがバ場の真ん中から伸びて来たぁぁぁ〜ッ!! テイエムオペラオー! テイエムオペラオー早くも先頭に立つッ!!』

 

『速い速いッ! テイエムオペラオーあっという間に突き抜けるかッ!? しかしこれに唯一喰らいつくのがナリタトップロードッ!! 外からトップロードッ! 外からトップロードッ! ナリタトップロード来たッ! トップロード来たッ! この2人が後ろを突き放す〜ッ!!』

 

「──どんな闇が行手を阻もうとも輝いてみせるッ……さあ、今こそッ! 勝利の凱歌を響かせようッ!!」

 

(──ッ!? 速い…ッ……でも──絶対に捉えるッ!!)

 

 

 直線に入った瞬間、まるで周りが止まっているのかと錯覚する程の末脚で、包まれかけたバ群の間をこじ開け上がって来たのはテイエムオペラオー。

 外のナリタトップロードに進路を塞がれる事を防ぐべく、彼女は今日まで鍛え上げて来た己の末脚を信じて《勝負の早仕掛け》を執行した。

 

 

 そしてそんなテイエムオペラオーの仕掛けに一瞬驚きつつも、冷静に身体のバランスを崩す事なく付いて行くナリタトップロード。

 彼女もまた、今日までトレーナーさんと積み上げてきた己の走りを信じ、最大の武器である《末脚の持続力》を最大限に発揮するべくスパート体制に入った。

 

 

 バ場の真ん中から直線あっという間に突き抜けたこの2人の姿に、このレースを見ていた多くの者の頭には『今年のダービーは一騎打ちになるぞ』という考えが確信へと変わり始める──

 

 

 

『テイエムオペラオー! ナリタトップロード! この2人が完全に抜けたッ! これは一騎打ちかッ!? 2人の一騎打ちとなるのか────いや!? 大外から何か来るぞッ!? 大外から誰か一人突っ込んで来るぞッ──』

 

 

 

 

 

 

 ──彼女が、蓋をしていた心に秘めた熱を……《進化した末脚》という力に変えて爆発させるまでは──

 

 

 

 

 

 

「──やはり君も来るかッ」

 

「──来ると思ってましたッ」

 

 

 

 

 

 

 

『先頭を走るテイエムオペラオーとナリタトップロードにッ! 大外から一気に並びかけて来たのはッ──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────アドマイヤベガだぁぁぁぁ〜ッ!!!』

 

 

 

 

 

((────アヤベさんッ!!))

 

 

「──私だってッ!!」

 

 

 

 

 日本ダービー最後の直線、大外から飛んできた“一等星”を加え、後続勢を全て突き放して──再び三強が横並びとなった。

 

 

 

 

『外からアドマイヤッ! 外からアドマイヤッ! 何という末脚だッ!? あっという間に前の2人に並んだぞぉぉぉ〜ッ!? アドマイヤベガ、無敗の二冠に向かって大外から飛んで来たッ!!』

 

『──しかし内テイエムオペラオーが僅かに出ているッ! テイエムオペラオーが僅かに先頭ッ! だが栄光のゴールは未だ先だッ! ここからが長いッ! 府中の直線はここからが長いッ! ライバル2人の猛追、凌げるかッ!? テイエムオペラオーッ!!』

 

『──真ん中ナリタトップロードも更にギアを上げるッ! ナリタトップロード、ここから更にギアを上げるッ!! 磨き上げた王道の走りはこの直線でこそ花開くかッ!? ナリタトップロードッ!!』

 

『──皐月賞の再現だッ!! やはり三強ッ! やはり三強ッ! 抜け出したのは、この三人ッ! テイエムオペラオー、ナリタトップロード、アドマイヤベガ! またもや三つ巴ッ! またもやこの三人による頂上決戦だぁぁぁ〜ッ!! 残り400mを切ったッ!!』

 

(──くッ!? これでも突き放せないとはッ! だかッ──抜かせないよッ!)

 

(──約束したんだッ……今まで積み上げてきた全部、出し切ってッ──今度こそ掴むッ!)

 

(──勝たなきゃ……勝ち…たい……“私は”……勝ちたい──勝ちたいッ! “私は”──この2人にッ!)

 

 

 

 その瞬間……まるで自分の前を走る《自身の幻影》の様なナニカに追いつき、そしてそれを振り払う様にして……

 アドマイヤベガのスピードが更に上がった──

 

 

 

『なッ!? 何とここでッ!? 何とこの状況でッ──アドマイヤベガが更にスパートォォォ〜ッ!! 凄い脚だッ! 物凄い脚だッ! 先頭アドマイヤに変わったッ! 先頭アドマイヤベガに変わったッ!!』

 

『──テイエムオペラオーとナリタトップロードが必死に追い縋るがッ!? 今度はッ、今度はッ────千切り捨てられたぁぁぁ〜ッ!!』

 

(────なッ!?)

 

 

「──ぁあああああああ〜〜〜ッ!!」

 

 

 

 間も無く残り200m。

 そこでテイエムオペラオーとナリタトップロードが目にしたモノは──まるで瞬間移動のように自分たちの前に躍り出たアドマイヤベガの背中であった……

 

 

 

『抜けた抜けた抜けたッ!! アドマイヤベガ突き抜けるッ!! 残り200を通過ッ! リード2バ身ッ! 2番手ナリタトップロードが必死にその背中を追うッ!! 必死に追うッ!! まだ諦めないッ! まだ諦めていないッ!! トップロードも凄い脚で上がって来ているッ!! テイエムオペラオーは少し遅れてしまったッ! 現在3番手ッ!』

 

(──アヤベさんの背中は目の前にあるッ! まだゴールしてないッ! 私の走りを──信じるんだッ! トレーナーさんや皆んなの期待に応えるためにもッ! 最後まで諦めないッ!)

 

(──ここで諦めるような者に勝利の女神は微笑まないッ! 己の全てを賭し、困難という峰を超え──ボクが必ず掴み取るッ!)

 

 

 無敗の二冠に向かって、ゴールというエンディングに向かって、熱狂の渦に包まれた府中のターフを今、一等星が先頭で駆け抜ける──

 

 

 

『先頭アドマイヤベガッ! 体勢全く変わらないッ! 晴天の府中に一等星の光輝ッ!! 皐月の評価を己の強さで覆すッ! 史上5人目、無敗の二冠ウマ娘は──やはりケタ違いに強かったぁぁぁ〜ッ!!』

 

『──アドマイヤベガ、今先頭で──ゴールイ〜ンッ!! …2番手には最後まで脚を伸ばした⑪ナリタトップロード! 3番手に少し遅れて⑭テイエムオペラオー! 4番手以降はまたもや大きく離れて……⑨オーバードレイン! 5番手は①ノワールワンピースか!』

 

『アドマイヤベガやりましたッ! 偉大なチームメイトであるスペシャルウィークに続いてッ! 二年連続、無敗の二冠ウマ娘の誕生でありますッ! そして更に──』

 

 

 

 昨年のスペシャルウィークに続いて、今年も無敗の二冠ウマ娘誕生という瞬間に大興奮の場内から──着順掲示板に灯った“赤い4文字”によって地鳴りのような大歓声が巻き起こった。

 

 

 

『──着順掲示板には《レコード》の赤い文字! 何とその勝ちタイム────《2分21秒1》ッ!! 《2分21秒1》ですッ!! 何とアドマイヤベガ! 昨年スペシャルウィークがマークしたダービーレコード《2分21秒6》を! コンマ5秒も縮めるレコードタイムッ!!』

 

 

 

 今年の【東京優駿・日本ダービー】三強の“全体個別ラップ”は──

 

 

 ⚫︎テイエムオペラオー(12.9-11.3-11.9-12.0-12.1-12.5-12.3-11.9-11.6-10.9-10.9-11.2)

 《2分21秒5》

 

 前半5F:60.2 後半5F:56.5

 上がり4F:44.6 上がり3F・33.0

 

 

 

 ⚫︎ナリタトップロード(12.7-11.8-12.1-12.1-12.0-12.2-12.2-11.9-11.5-11.0-10.9-11.0)

 《2分21秒4》

 

 前半5F:60.7 後半5F:56.3

 上がり4F:44.4 上がり3F:32.9

 

 

 

 ⚫︎アドマイヤベガ(13.1-11.9-12.3-12.4-12.2-12.0-12.0-11.6-11.3-10.7-10.6-11.0)

 《2分21秒1》

 

 前半5F:61.9 後半5F:55.2

 上がり4F:43.6 上がり3F:32.3

 

 

 

 前半部分を比較的タイトなペースで追走しながらラスト3Fを《33.0》にまとめたテイエムオペラオー。

 そんなテイエムオペラオーをマークした上で上がり《32.9》という末脚を使い、最後の1Fに関してはアドマイヤベガに並び、持続力の高さを改めて見せたナリタトップロード。

 そんな2人を、最後方で脚を溜めていたとはいえ上がり《32.3》という異次元の末脚で差し切ったアドマイヤベガ。

 

 

 それぞれの強味、今後の課題、そしてレベルの高さ……

 様々なモノを改めて感じさせてくれた今年の【日本ダービー】は──アドマイヤベガの記録尽くめの勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 アヤベさんが【日本ダービー】を無事に走り終え、勝利してくれた事はもちろん、彼女の走りに今までとは違った──“剥き出しの感情”の様なモノを感じれた事に、

 俺は胸を高鳴らせながら地下バ道にて、ライバルの皆さんやファンの皆さんと挨拶を交わし終えて帰って来た彼女を迎える。

 

 

「──お帰り、アヤベさん。1着おめでとう!」

 

「──っ! …どうも、……──」

 

 

 俺が声を掛けると、アヤベさんは少し驚いた様子で返事を返し……何やら不思議そうに俺の顔をマジマジと見つめている。

 え? 何だろう……何か俺の顔に付いているのだろうか?

 

 

「……あまり、驚いてないのね」

 

「驚く? ……えーっと、何に?」

 

「何に、って……」

 

 

 アヤベさんが発した言葉の意味がよく分からず、取り敢えず笑って首を傾げながら彼女に聞き返してみたところ……アヤベさんは『マジかコイツ……』とでも言いたげな表情を浮かべて溜め息を吐いた。

 いやぁ〜、最近アヤベさんが俺に対して色んな感情や表情を見せてくれるのは嬉しいんだけど、何か呆れられる頻度だけが抜けて多い気がするな……ま、まあ、それだけ彼女と距離が縮まってきていると思えばね? ポジティブ思考って大事⭐︎

 

 

「オペラオーも居たし……トップロードさんも居たし……そもそもダービーだし……何より、自分から聞いておきながら……貴方が直前に教えてくれた作戦に背いて、結局《後方待機》のレースになってしまったし……」

 

 

 あぁ、そうか……優しいこの娘は、その部分を気にして少し気まずそうにしていたのか。でもそれは──

 

 

「何の根拠も示してあげられないけど、俺は君の走りは後方待機でこそ輝くモノだって信じていたからね」

 

「──!」

 

 

 俺がレース前の控え室で彼女に伝えた言葉をこの場で改めて伝え直すと、アヤベさんはハッとした表情を浮かべながら俯いていた顔を上げた。

 

 

「君自身が『こうしたい!』って信じた作戦で走ってくれれば必ず良い結果が生まれるって、俺は信じていたから」

 

「──………そう」

 

 

 最後にそう──今まで見てきたアヤベさんの表情の中で……最も素敵だと思った“優しい微笑み”を浮かべながら一言返すと、彼女はこの後のライブに向けての準備のため、こちらが付いていける速さで控え室へと歩みを進める。

 

 

 そうして俺の少し前を歩くアヤベさんの背中を、俺は今日の【日本ダービー】を彼女が《自分自身の気持ち》に従って走ってくれた事に、改めて嬉しさを感じながら見つめていた。

 

 

 良かった、良かった、本当に良かった……と、何度も……何度も……何故か胸の奥底から湧いてきた“胸騒ぎ”のようなものを……今だけは考えないようにするために、自分に言い聞かせながら……

 

 

 

 

《日本ダービー後・???視点》

 

 

『──良かったね、お姉ちゃん。2人と走るの、楽しかった? 私を忘れるくらいに、お姉ちゃんは──』

 

 

 

 

《日本ダービー後・ナリタトップロード陣営の控え室》

 

 

「トレーナーさん……私…っ……私──悔しいッ……悔しいですッ! でも、やっぱりッ…だからこそッ…今度は──今度こそッ! アヤベさんに勝ちたいですッ!」

 

「──ああ、そうだな。今回、力は出し切った。今日のところは……俺もトレーナーとして完敗だった……また一緒に、一から鍛え直しだな。そしてまた──“俺たち”で奴さんたちに挑戦しよう」

 

「──はいッ!」

 

 

 もうそこには──負けて涙を流すナリタトップロードの姿はなかった。皐月賞の敗戦から、そして今日の日本ダービーで心身ともにまた一つ強くなった彼女は、固い絆で結ばれた自身のトレーナーさんと共に決意を新たにする。

 

 

 

 

《日本ダービー直後・テイエムオペラオー・ターフにて》

 

 

(──皐月賞の時よりも離されてしまったか……フッ──ブラーヴァ! ブラーヴァ! 流石我が愛しのライバル、アヤベさん! このボクを差し置いて勝利の女神から見初められるとは! 悔しいが今回は完敗だよ! おめでとう、アヤベさん!)

 

 

 負けて落ち込む者、涙を流す者、ただ呆然と立ち尽くす者……他のウマ娘たちが悲しみを顕にするなか、テイエムオペラオーは晴れやかな笑みを浮かべ、誰よりも早く勝利したアドマイヤベガに向けて祝福の拍手を送る。

 

 

 そんなテイエムオペラオーの様子をスタンドから見ていた東条トレーナーは、悔しそうに自身の奥歯を噛み締めながらも、自身の愛バが今日の敗北を確かな強さに変えてくれた事を確信し、愛バ共に今度こそリベンジしてみせると誓ったのであった。

 

 

 




 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!


 《今回の日本ダービー・着順掲示板とレース指数》


 1着・②アドマイヤベガ
 2着・⑪ナリタトップロード 2バ身
 3着・⑭テイエムオペラオー 3/4バ身
 4着・⑨オーバードレイン 9バ身
 5着・①ノワールワンピース 1バ身3/4


 ・アドマイヤベガ 【115】
 ・ナリタトップロード 【113】
 ・テイエムオペラオー 【112】
 ・オーバードレイン 【96】
 ・ノワールワンピース 【94】

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