スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 はじめに、いつも読んで下さっておられる方々
 新年、明けまして──いえ、明け過ぎておめでとうございます!(土下座)

 お正月どころか、気が付けば《アニメ ウマ娘・シンデレラグレイ》の放送も始まっておりますね……

 亀更新で本当に申し訳ございません!(土下座Part2)


 いや〜、昨年の12月から今年の3月一杯まで長期出張に出ておりましてですね……
 おまけに出張先にWi-Fiが無いという、『わしゃ出家したんか!?』と叫びたくなる環境でして……
 さらに帰って来ましたら、すぐさま新入社員の皆様への歓迎会や講習、GW商戦の準備やらにてんやわんやで……

 ここ約半年ほど、書きたい欲を日に日に募らせる毎日でございました(苦笑)

 お仕事のほうは何とか落ち着き始めましたので、亀更新ながら今年も楽しんで書いていきたいと思います!


 改めまして、明け過ぎて申し訳ございませんが……
 昨年、2024年も皆様に読んで頂けて本当に嬉しい一年間でした。

 本年、2025年も皆様にとって、そしてウマ娘業界にとっても、素晴らしい一年になります事を心から祈っております。






夏合宿/堕ちゆく一等星①

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時も過ぎ、月の無い星空が広がる夜の帳に包まれる中、俺は辺りを柔らかく照らす星灯を頼りに山道を駆けていた。

 

 

 マズい……──ッ

 気配が、かなり遠くの方にある……

 

 視界があまり良くない中で、しかもこの山道を闇雲に走ってしまったら……

 最悪、取り返しのつかない事になる……ッ。

 

 早く……──ッ

 早く────合流しないとッ!

 

 

 焦る気持ちを何とか抑え込みながら

 俺は、より早く移動するために、整備されている山道から獣道の方へと進路を変え、起伏の激しさなどもお構いになしに、とにかく最短距離で気配を感じる山奥へと急ぐ。

 

 

 剥き出しになった木の根っこや、岩に気を付け

 倒木を乗り越え、潜り抜け

 生い茂る木々の間を縫うように進み続け

 

 そして、ようやく────

 

 

 

「──居たッ、アヤベさんッ!!」

 

「──ッ!? はぁっ……はぁっ……──ッ」

 

 

 

 獣道の斜面を駆け上がり、再び整備された道へと戻って来た、その山道の先で

 

 俺は、探し求めていたその娘の背中を──

 近くの木に身体を預けて、乱れた息を整えようとしていた、アヤベさんの姿を見つける事が出来た。

 

 

 

「よかった……見つかって」

 

「どうし、て……ッ、貴方が此処に……ッ」

 

 

 アヤベさんと合流できた安堵も束の間

 

 俺の姿を確認すると、明らかに疲労で動きの重い中こちらに向き直り

『それ以上近づかないで』という意が込められた、鋭い視線で睨む彼女の様子を見て

 俺は、アヤベさんの方へと進めていた歩みを一旦止める。

 

 

 ……幸い、どこか怪我をしている様子はないけど、見るからに疲労の色が濃すぎる。

 

 特に顕著なのが脚のダメージ──それも左脚だッ。

 元々、内向気味で負担が掛かりやすかったのを治した筈なのに、またバランスが歪んで戻りかけてしまっている……ッ。

 

 これ以上はマズい……

 何とか……何とか一刻も早く休ませてあげないと……──ッ。

 

 

 

「……アヤベさん、君がそこまで追い込まれているって事は、恐らく“妹さん”が関係しているんだと思う。

 ……何があったのか、話してもらえないかな?」

 

「──っ、貴方には関係ない……ッ!」

 

 俺の“妹さん”という言葉に、明らかに動揺した。

 やっぱり今回も妹さんが関係しているのは間違いない……

 ただ、それにしても──

 

「ああ、そうだね。

 妹さんの事は、君にしか向き合えない。

 本来、他人が首を突っ込んでいい事じゃない──

 けど、俺は君のトレーナーなんだ!

 君が苦しんでいるんなら、少しでも君の力に──」

 

「余計なお世話は止めてッ!!

 分かっているなら放っておいてッ!!

 これは、私の……っ……私への、罰なんだから……ッ!」

 

 ──これまでとは様子が違う。

 こんなアヤベさんは、初めて見る……

 

 表情は悲痛で、感情は剥き出し。

 まるで、追い詰められて泣き叫んでいる幼子みたいだ……

 

「……アヤベさん、本当に何があったの?

 罰って、何か自分を許せない事があったのかい?」

 

 そう言って俺は、今にも泣き出しそうなアヤベさんの顔を真っ直ぐ見ながら、ゆっくりと彼女の方へと歩みを進める。

 

「──っ、こ、来ないでっ」

 

「大丈夫、何もしない。

 本当にただ、君の話を聞かせてほしいだけなんだ」

 

 決して視線を外さず、一歩ずつ、一歩ずつ──

 

「来ないで……ッ」

 

「今の君の状態を見て放ってはおけない。

 “君の持つその末脚を、損なってしまう様な事だけはしないでほしい”

 それが行われていると判断した場合、俺は君を止めると約束した筈だ」

 

 声が震え始めた彼女との距離を縮めていく──

 

「お願い、だから……っ──」

 

「今回ばかりは──俺も引けない」

 

 あと、少し────

 

 

 

「──来ないでったらぁッ!!!」

 

「──ッ!? アヤベさんッ!?」

 

 

 

 あと、五歩も進めば手が届くという所まで近づいた辺りで、アヤベさんが目に涙を溜めながら、叫喚を響かせ後退ろうとする。

 

 マズいッ、彼女の後ろはッ────

 

 

「アヤベさん、後ろは斜面だッ!!

 下がったら危な──」

 

「──ッ!? ……ぁ──」

 

 

 俺の叫びも虚しく、疲労ゆえに足を踏み外してしまったアヤベさんの体が、バランスを崩して斜面の向こうに倒れていく様が、まるでストップモーションの様に流れていく──

 

 

「──っ、くッ──!」

 

 ────間に合えッ!!

 

 

 俺は、虚空を掴む様に伸ばされた彼女の右手を掴むべく、全身に力を通わせて地面を蹴り、飛びつく様な形になりながら自身の手を伸ばす。

 そして何とか、ガシッと彼女の右手を掴み取る事は出来たのだが──

 

(マズい、落ちる──ッ)

 

 殆ど空中で掴んだ形になってしまったため、落ちない様にアヤベさんを引き寄せる事が叶わず、嫌な浮遊感と共に、二人で斜面の外へと体が放り出される。

 

 放り出された一瞬

 斜面が思ったより急だった上に、底までの高さが結構ある事。

 

 そして何より、地面から尖った岩が無数に剥き出していて、このまま落ちれば大怪我は免れないという事実が、無慈悲な情報として俺に飛び込んでくる。

 

 

(──絶対に守るんだッ!)

 

 

 俺は咄嗟に、アヤベさんの頭と腕を胸元に抱き寄せる。

 更に、空いたもう片方の手を彼女の膝裏と太腿の間に差し込み、両脚を折り畳ませて、自分の腹部で支える様にしながら、自分が下になって少しでも彼女への衝撃を和らげるべく体を入れ替えた。

 

 

 そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ガンッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 背中への衝撃と同時に

 そんな鈍い音が、夜の山に響き渡った────

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 時節は8月上旬。

 

 

 スペちゃんが宝塚記念の激闘を怪我なく無事にハナ差で制し、あのルドルフさんの記録を超える

《GⅠ・8勝》という金字塔を打ち立ててから、早くも凡そ1ヶ月が過ぎた今日……

 

 

 世間の皆様は連日の猛暑の中、仕事に耐え、学業に耐え、スポーツに耐え、はたまた家事や育児に耐えられて……

 

 

 ようやく目の前に夏休みという名のパラダイスがやって来る事に、夏のバカンス⭐︎心ウキウキでパーティタイム! と、ワクワクされている方も多い事だろう。

 

 

 頑張った自分を労って、思い思いの休息を取る。

 そこで養われた英気が、また次への活力となるもんね!

 やっぱり休息は大事だよ、休息は。

 世間の皆様には是非、この夏を大いに満喫して頂きたいものである。

 

 

 まあ、かく言う俺も?

 トレーナーという職業柄、ここ最近は割と忙しくさせて頂く日々を送っておりましたものでね?

 

 通常業務のトレーニングでしょ、事務作業でしょ、論文作成でしょ、新しいチート器具の開発でしょ、学園内の設備や環境のメンテナンスサポート等々でしょ……

 

 後は、CM・メディア出演や取材依頼への対応でしょ、スポンサーさんとの交友でしょ、契約内容の確認でしょ、グッズ関連の管理でしょ、上半期の賞金・給与関係の手続き等々でしょ……

 

 それと、スペちゃんが『一緒に行きたいです!』って言った、ご飯屋さんやカフェ、屋台、施設、自然スポット等々に、二人で行ったりしたでしょ……

 

 

 ん? 何かおかしい部分があったって?

 …………気のせいでしょ……

 

 

 後おまけに、この時期は夏合宿があります上に

 今年は“参加できる人数を少しでも増やしたい”という、学園はもちろん関係者一同の意向もありましてですね?

 

 去年の様な、チームごと・個人ごとに移動手段や宿泊施設などを、自由に手配して行う形ではなく、夏合宿に参加希望のチームやウマ娘さん達を

《7月前半〜後半》と《8月前半〜後半》の2グループに分け、学園側が送迎バスや宿泊施設を手配し、今までチームに所属していない等の理由で、夏合宿に参加が難しかった娘なども参加しやすくなったのだ。

 

 当然、チームを持つトレーナー陣は身内の事で手一杯になるであろう事も考慮され、学園所属の教官さん、保健の先生、教師の皆さん、スタッフさんまでもが、2グループに分けて帯同して下さっている。

 

 この状況から察するに、ウマ娘レース界が大盛り上がりな事もあって、予算が潤沢に下りたのだろう。

 

 

 ただ、送迎バスや宿泊施設を手配してもらえるという事はさ?

 去年みたいにトレーニング器具や寝具、食材なんかを好き勝手に持って行く訳にもいかなくなるじゃないですか?

 保管できる場所も限りがあるだろうし。

 

 でも、せっかく夏合宿を行う訳なんだから、やっぱり自分が思う最高の環境で合宿期間を過ごしたいじゃない?

 

 だからまぁ

 そう思い立った俺は、夏合宿の現地調査に出向いた際に、現地の方々と学園側に許可をもらって、合宿所の環境にチートフル稼働でテコ入れを行なってたりもした訳ですよ。

 

 

 まず、トレーニング器具や遊具の充実。

 着けるだけで車酔いしなくなるリストバンドの配布。

 気温、湿度、気圧の影響などを快適な空間に変える空調設備の搭載。

 入浴施設やキッチン周りの拡張。

 快眠を約束する寝具を全員分などなど……

 

 

 トレーニングはもちろん、ウマ娘さん達の疲労回復に関しても妥協せず、思い付いた事柄は全て遠慮なくテコ入れさせてもらった。

 良い回復は、良いトレーニングと同じぐらい大切な事だからね。

 

 ……ん? これだけの事を短期間でどうやったのって?

 フッ、そんなのチートさ⭐︎

 言わせないで下さいよ、恥ずかしい⭐︎

 

 

 因みに、チートフル稼働のテコ入れ成果を報告した際に

 秋川理事長、たづなさん、先輩トレーナーの皆さま方に、コイツ本当に人間か? という、割とドン引きの目を向けられたのは未だに解せない。

 

 まあ、先に合宿を行なっておられた

《7月前半〜後半》組の皆様から『合宿所に革命が起きた。まじサンキュー』という趣旨の感想が届いていたので、俺は『結果よし』と受け止めている。

 ポジティブ思考バンザイ。

 

 

 と、まあ、ダラダラとここ最近、自分が行なっていた事を振り返ってみたものの……

 ほんのちょっとハードスケジュールだっただけで、特に何も問題なかった事が分かる。

 

 

 その証拠に────

 

 

「海だ、ビーチだ、夏合宿だぁ〜!

 さあ、皆さん! “磯”の香りを嗅ぎながら“急”いで準備だぁ〜!」

 

 

 ────俺は今、最高にハイになっているからなぁ〜ッ!!

 

 

 合宿所に着いた途端、なんか限界がきて頭のネジが一個ぶっ飛んじゃった気がするぅ〜!

 もちろん、良い意味でね⭐︎

 

 何だか頭は重いし、意識は若干まどろんでいる感じはするけど、思考は冴えに冴えまくっているッ!!

 

 早速、絶好調な洒落もかましちゃったもんね!

 “磯”の香りを嗅ぎながら“急”いで準備って……

 ぷふっ、おもしろ!

 

 

「“磯”の香りを嗅ぎながら“急”いで準備、か──ふふっ♪」

 

「あの、会長……?

 部屋ごとに点呼を取りますので、早く整列して頂けると……」

 

「ああ、すまない。

 “急”いで準備する。“磯”の香りを嗅ぎながらな♪」

 

「……ハァ……」

 

 

 ほら、やっぱり!

 俺のシャレを聞いて、あのルドルフさんも、やる気が絶好調に上がるぐらいウケているッ!

 

 逆にエアグルーヴさんは、やる気が下がってしまっている気がするけど、きっと気のせいだろう!

 

 “会長”の調子は“快調”──ハハッ⭐︎

 

 

「……どうしたの、あの人は?」

 

「トレーナーさん……何だか、様子がおかしくありません事?」

 

 ……ん?

 なんか、アヤベさんとマックイーンさんからは困惑の念を。

 

「あ、あはは……お兄さん、また頑張り過ぎちゃったんですね……」

 

 そしてスペちゃんからは、何やら心配の念が込められた視線を向けられている気がする……

 

 

 おいおい、どうしたんだい、三人とも?

 特にスペちゃんは、何故そんな心配そうな顔を?

 

 まるで──俺が昔に【謎の少年X】として、世界中の食糧難なんかの問題解決のため、チート酷使であちこち飛び回り過ぎた疲労でテンションがおかしくなった時の様な……

 

 テンションがおかしくなり過ぎて、某夢の国のマスコットの様な『ハハッ⭐︎』という甲高い笑い声を上げまくりながら、農作業をお手伝いしていた俺を心配そうに見てた時の様な……

 

 その時と全く同じ顔をしちゃって、どうしたんだい? ハハッ⭐︎

 俺は、こんなにも元気溌剌なのにさ。ハハッ⭐︎

 

 

 あの時はスペちゃんに加え、両親にまで心配されるわ、動物たちからはビビり散らかされるわ、と大変だったよ全く。

 

 あんまり心に負担を掛けると、胃や身体に良くな──ハッ!

 あんまり心配しすぎると、“胃”や“肝臓”に“いかんぞ────

 

 

 

「────はい、全員注目!!!」

 

 

 

 再び、イカした洒落を飛ばそうとした俺だが……

 そんな緩みをピシャリ! と遮断する様な、東条さんの号令によって、この場の空気が一瞬で引き締まったモノへと変化する。

 

 

「全員、無事に到着しているわね。

 今年の夏合宿は、トレーニングこそチームごとに行うものの、それ以外では基本的に集団生活となる。

 普段とは違う環境だからこそ、得られるモノも沢山ある筈よ。

 この一夏を己の糧とするために、各々しっかりと励みなさい」

 

 そんな東条さんの呼びかけに、自然と背筋が伸びていたウマ娘さん達からの『はい!』という、元気な返事が場に響く。

 

 いや、ウマ娘さん達だけではないな。

 引率側の俺たちの背筋も自然と伸びて、思わず返事を返してしまっている人も何人か見受けられた。

 

 流石は“学園最強チーム・リギル”を率いる東条さんだ……

 この人に付いていきたい! と、思わせるカリスマに溢れている。

 

 

「よし。チームに所属、もしくはトレーナーがいる者は、各トレーナーの指示に。

 それ以外の者は、あちらの教官たちの指示に従うように。

 では先ず一号車の者から順番に、各々の荷物を配属された部屋に運ぶように──……って、あら?」

 

 テキパキと指示を出していた東条さんが、突然気の抜けた様な声を上げて固まった。

 ん? 一体どうされたんだ?

 

 

「広間にまとめてあった、全員の荷物や機材なんかの山が……無くなっ、てる……?」

 

 あ、なんだあの荷物の山なら──

 

「それならさっき俺が、荷物を下ろすのを手伝うついでに各部屋へと運んでおきましたよ!」

 

 俺は東条さんにサムズアップしながら答える。

 

「……え? いつの間に?

 というか、あの量を全部!?

 まだ到着して5分も経ってないのよ!?」

 

 あれぐらい余裕綽々、スタミナキープの上位スキルですよ!

 だって男の子ですから? ハハッ⭐︎

 

 

「嘘でしょ……?」

 

「おハナさん、驚き過ぎてスズカの口癖が伝染っちまってるぞ?」

 

 唖然とした感じでポツリと言葉を溢した東条さんに、苦笑しながらツッコミを入れる沖野さんの様子を見て、俺は『相変わらずお二人は仲がよろしいのだな』なんて感想を抱く。

 

 まあ、そのお二人から以前と同じ『コイツ本当に人間か?』という、やや引き気味の目を向けられている事は解せないけどね? ハハッ⭐︎

 

 

「やっぱり、アイツちょっと様子が変だよな……

 ここ最近、色々と走り回ってたみてぇだし……

 ちょっと休ませてやったほうが良いんじゃないか?」

 

「そう、ね……」

 

 沖野さんの言葉に、東条さんは何やら俺の方を見ながら考え込み──

 

 

「……スペシャルウィーク、少し良い?

 合宿所に入って右奥の部屋に休憩室がある。

 悪いけど、彼をそこに連れて行って少し休ませてあげてくれないかしら?」

 

「あ、はい! 分かりました!」

 

 何やら突然、スペちゃんにそんな指示を出すと、俺に『少し休みなさい』と声を掛け、沖野さんや他の方々を連れて合宿の準備に取り掛かりに行ってしまった……

 

 え? いやいや休憩なんて必要ないですぜ?

 ワタクシ超元気ですぜ?

 準備なら俺もお手伝い──

 

 

「さあ、お兄さん? あっちで少しお休みしましょう?」

 

 

 突然の事で困惑していると……

 

 いつの間にか側に来ていたスペちゃんが、俺の左手をギュッと両手で包み込みながら、変わらず少し心配そうな表情を浮かべて、合宿所の方へと手を引いて導こうとする。

 

 おいおい、スペちゃんまで……

 

 

「大丈夫だよ、スペちゃん?

 俺は今、休む必要なんて無いぐらい元気一杯さ。ハハッ⭐︎」

 

「大丈夫じゃ無いですよ、お兄さん!? 

 また、あの時の変な笑い方になっちゃってます!」

 

 変な笑い方って、スペちゃんは心配性だな〜

 

 

「思わず笑っちゃうぐらい元気が溢れてるって事さ。ハハッ⭐︎」

 

「どう見ても頑張り過ぎて大変な事になってますよ!?

 取り敢えず、今は少し休みましょ? ね?」

 

「────ハハッ⭐︎」

 

「どっちの意味ですか!? 今の笑いは!?」

 

 

 しっかりして下さい〜! と、半泣きになりながら俺を合宿所の方へと引っ張って行こうとするスペちゃん。

 

 こんなに狼狽えてしまっているのに、こちらを引っ張る力の流れは非常に滑らかで、全身の筋肉を上手く連動させる事が出来ている。

 

 腕や脚だけに負荷を集中させてしまわない様に、全身の筋肉や関節などを使って負荷を分散させ、各部位への負担を最小限にする術を、こう言うちょっとした動作でも無意識に行えている事に、改めてスペちゃんの成長を感じてしまうな。ハハッ⭐︎

 

 

「……私たちも手伝ったほうが良さそうね」

 

「そうですわね。参りましょうか」

 

 

 手を引かれながら、スペちゃんの成長にホロリとしていると

 更に、アヤベさんとマックイーンさんのお二人が加勢しにやって来て、俺の背中をお二人が押し始める。

 

 流石に〈チーム・ノヴァ〉三人がかりで運ばれては抵抗も出来ず、俺は合宿所の休憩室へと割と凄い勢いでドナドナされて行くのであった……

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

 合宿所の右奥

 畳が敷かれた6畳ほどの休憩室にドナドナされるや否や、スペちゃんが俺の看病を申し出て、アヤベさんとマックイーンさんは、一先ず自分達が配属された部屋へと帰って行った。

 

 元々、俺たちチームの合宿スケジュールは、到着してから3時間後にトレーニングを開始。

 それまでは暫くの間、自由時間とする予定だったためスケジュールの乱れは未だ起きていない。

 

 だが、そのスケジュールを立てた張本人である俺は現在──

 

 

「お兄さん、大丈夫ですか?」

 

「うぅ……め、面目ない……」

 

 

 ぐったりと畳に仰向けで横たわり、絶賛ダウン中である……

 

 うぅ……頭がグワングワンしてる……

 身体がダルくて動かないぜ、ちくしょう……

 スペちゃん達から畳に寝かせてもらった瞬間、なんかスイッチが切れてしまった……

 

 ここ一月、チートに甘えて碌に休息を取らなかったツケが一気に噴き出した感じか……

 

 大げさではなく、マジのマジで一歩も動けなくなってしまった事に心の中で嘆いていると、ピトッと額に少し冷んやりとした何かが触れた。

 

 

「……良かった。熱は無いみたいですね」

 

 

 どうやら額に触れていたのはスペちゃんの手だった様だ。

 

 あぁ……何だろう……何だか凄く落ち着く……

 別に風邪をひいてる訳ではないけど、風邪をひいてしまった人が誰かに甘えたくなる気持ちが、今なら分かる気がする……

 

 ……って、いかんぞ俺ッ。

 今回の事は完全に自業自得なんだから、甘えていい身分なんかじゃないッ。

 

 幸い、チート睡眠で回復に専念すれば、俺は1時間も眠れば完全回復できる。

 今は少しでも早く回復して、迷惑を掛けてしまった分を取り返さなくてはッ。

 

 

「スペちゃん、ごめん……

 本当に悪いんだけど、何か枕の代わりになるモノを用意してくれないかな?

 座布団でも、何なら雑誌とかでも大丈夫だから……」

 

「枕、ですか?

 ……分かりました。ちょっと待ってて下さいね?」

 

「うん……ありがとう、スペちゃん」

 

 

 スペちゃんは、俺のお願いを快く聞き入れてくれると、枕となるモノを取りに一旦部屋から離れて行く。

 

 改めて天使だなスペちゃんは……

 回復したら、お礼に君のお願い何でも聞くからね。

 どんな事でも遠慮なく言ってね?

 

 スペちゃんの天使っぷり、あるいは女神っぷりに改めて感服していると、暫くして無事に枕となるモノを見つけてくれたのであろうスペちゃんが戻って来て、再び俺のすぐ側に腰を下ろした。

 

 疲労で顔を向ける事すら出来ない、無礼な俺を許しておくれスペちゃん……

 

 

「お兄さん、ちょっと頭を上げますよ?」

 

 そう言いながら、壊れモノを扱う様に俺の頭を両手で、そっと下から支えてくれるスペちゃん。

 疲労で頭を上げるのすら億劫な俺の様子を見兼ね、用意してくれた枕を差し込んでくれるのだろう。

 

「ああ、ありがとう……」

 

 俺はチート睡眠のスイッチを入れながら、お礼を伝えて身を委ねる。

 いや本当に感謝の言葉もないよ。

 

 そのまま、ゆっくりと俺の頭が持ち上がっていき──

 

 

「────んしょ」

 

 

 そんなスペちゃんの可愛らしい掛け声と同時に、ポフッと俺の頭は程よい柔らかさに包まれ、丁度いい高さに固定された。

 

 あぁ……本当に丁度いい硬さと高さの枕だ……

 普段から枕に特段こだわりを持っていた訳ではないけど、全く息苦しくない上、変に沈み込む事もなく硬すぎないコレは、凄く俺に馴染んでいる感じがする……

 

 こんな最高の枕、及びそれに代わるモノがこの合宿所にあったとは……

 スペちゃん、こんな凄いモノを一体どこで見つけてきたのだろう?

 

 ……って、あれ?

 なんか、心地良い風まで吹いてきた?

 扇風機は置いてなかったはずだし、もしかして窓を開けてくれたのかな?

 

 スペちゃんが用意してくれた、最高のバランスで俺の頭を支えてくれているモノと

 現在、頬を撫でる心地良い涼風を送ってくれている正体がどうしても気になった俺は、重い瞼を何とか上げて薄らと目を開ける。

 

 すると────

 

 

「……? 大丈夫ですか?

 まだ、他に何か必要なモノがあれば遠慮なく言って下さいね?」

 

 

 まるで向日葵の様な暖かい微笑みを浮かべ、『こてん』っと首を傾げながら、こちらを“真上から覗き込む”形で見つめるスペちゃんと目が合った。

 

 

 …………んぇ?

 の、覗き、込む……?

 

 あ、あれ……?

 ま、まさか……

 俺の頭を支えてくれてるの、って…………

 

 

 俺は、このまま身を委ねてはならない予感がして気力を振り絞り上体を起こし始めた。

 

 

「あっ、ダメですよ、お兄さん!

 今は少しでも寝てないと!」

 

「──あふっ!?」

 

 

 しかし、スペちゃんに阻止されてしまった。

 抱き寄せる格好で引っ張られた俺は、間抜けな声と共に元の位置へと戻される。

 

 

 だが、上体を起こした一瞬

 俺は自分が今置かれている状況を把握する事ができた。

 

 

 心地良い涼風の正体は、スペちゃんの手に持たれていた“うちわ”によるものだったという事。

 

 端に設置されたテーブルには、スペちゃんが持って来てくれたのであろう飲料水が置かれていた事。

 

 そして、扉のガラス越しから見える廊下からピョコっと見えたピンクの髪────恐らくアグネスデジタルさんであろう娘が、気配を消してコチラの様子を見ていた事。

 

 

 しかし、これらの事柄はさして重要ではない。

 

 

 重要なのは俺の頭を支えてくれていたのが、何なら今も現在進行形で支えてくれているのが……

 “スペちゃんの両脚”だったという衝撃の事実……

 

 そう、俺は今────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────スペちゃんに“膝枕”をされている状況なのであるッ。

 

 

 

 

 マズイ……こ、これは、マズイッ!!!

 

 なんか『テメェ、爆ぜろッ!』って罵られてる気が……

 僧怨の感情が込められた幻聴が聞こえる気がする……

 

 

 何より、ウマ娘にとって脚は最も繊細な宝物だ。

 こんなヤツに膝枕した影響で、何かダメージを負ってしまっては目も当てられないッ。

 

 いや、スペちゃんの両脚がコレによって何もダメージなど負わないって事は、チートアイで確認済みではあるんだよ?

 でも、だからといって問題ない訳ではない。

 

 ほら、制服のスカートだってシワになっちゃうしさ?

 俺は平気だけど、好奇の目を向けられてしまうかもしれないじゃない?

 

 足も痺れちゃったりするだろうからさ?

 俺は畳のまま寝る事にするから、スペちゃんも気を遣わず────

 

 

「──あ、枝毛が……ふふっ♪」

 

 

 うん、スペちゃん?

 俺の髪を手で梳きながら『枝毛が♪』じゃなくてね?

 俺のこの割と切実な気持ちを汲んではくれないかな?

 

 

 あっ、しかも小さな音色で『ふん〜、ふん♪』と、耳当たりのいい子守唄まで奏でてくれて……る……

 

 ……すぅ……──って、い、いかん、ぐぅ……

 

 ……──あっ……だ、ダメ、だ……

 

 寝るスイッチを入れてしまった事に加え、膝枕をされながら頭を撫でられ、おまけに子守唄に心地良い風……

 

 ……また瞼が閉じて、いく……

 こ、このまま……眠りに就く誘惑、に……

 ……あ、抗え……ない……

 

 

 体が沈み込んでいくような感覚に襲われながら、意識が夢の世界へと落ちていく最中────

 

 

「──お兄さん。

 いつも、本当にありがとうございます」

 

 

 そんな、耳元で囁くほどの声色で伝えられた、スペちゃんのコチラを優しく労わる様な言葉と────

 

 

「──ダメッ、ダメよ、デジタルッ!

 この尊みの極みたる聖域を穢す事は何人たりとも許されないッ!

 そう、あたしは酸素……あたしは空気……

 あたしはただ、お二人の幸せ尊みイオンを通させて頂く媒体でしかない……

 さあ、ただ感じるよ、デジタル……

 お二人からしか得られない、至高の尊みを────あ、ひゅっ……──」

 

 

 廊下で気配を消し、小声で叫ぶという器用な事をなさっていたデジタルさんの声が耳に届いたのを最後に……

 

 俺は、文字通り深い眠りに落ちたのであった。

 

 

 意識が落ちる瞬間

 頬に何やら柔らかいモノが触れた様な気もしたが……

 それは気のせいだったと思う。

 

 うん、多分そうだ。

 恐らくそうだ。

 きっとそうだったに違いない。

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

 ……体が水面へと浮かび上がっていく様な感覚……

 ……意識が覚醒していくのが分かる……

 眠り足りないという感情も無く、ただ自然と瞼が上がっていく。

 起きたら先ずは、いつも通り身体を伸ば──

 

 

「──あ、おはようございます、お兄さん。

 もう、起きて大丈夫なんですか?」

 

「──あ、ハイ」

 

 伸ばす事はできなかった。

 

 

 目を開けたら知らない天井が……なんて事はなく、目の前には朗らかな笑みでコチラを見下ろす、スペちゃんのご尊顔があった。

 いつ見てもアメジスト色の瞳が綺麗で素敵だね──じゃなくてッ。

 

 そうだった……

 俺、スペちゃんに膝枕してもらいながら寝ちゃったんだった……

 

 

「よいっ、しょっと……」

 

 

 少しでも起き掛けの身体に気合を入れるべく、俺は掛け声と共に腹筋運動のクランチを行う要領で上体をゆっくりと起こして、立てた片膝に上半身を預ける様に座る。

 その格好のまま、俺は壁に掛かっているアナログ時計に目を向けた。

 

 ふぅ……眠っていた時間は、丁度1時間か。

 ……うん、身体のダルさは消えてる。

 頭が重たい感じもない。

 

 スペちゃん達のおかげで、無事に回復する事が出来たな。

 

 後、デジタルさんが居なくなっている様だが、もしかして俺の気のせいだったのかな……

 

 

「……お兄さん、体調はどうですか?

 もし、まだお疲れでしたら、もう少しお休みしても……」

 

「……ん? あぁ、いや、もう大丈夫だよ。

 ありがとう、スペちゃ──ん……?」

 

 

 後ろから、少しコチラを心配するスペちゃんの声が聞こえ、俺は無事に回復した事とお礼を伝えるべく振り返る途中──

 回る起点にしようとした右手が、同じく彼女の右手によって握られている事に気付き、動きを止める。

 

 

「あっ、す、すみませんっ!

 こ、これは……そのぉ、あのっ、えっと……」

 

 

 俺が右手に目を向けた事に気付くや否や

 スペちゃんは顔をみるみる赤らめ、耳を忙しなくピョコピョコと動かし、右手を離すどころかニギニギと握りながら、コチラから目を逸らして萎れていく。

 

 え? 何この可愛い生き物?

 このまま抱きしめちゃっても良いだろうか?

 まあ、冗談だけども。

 

 

「……ふふっ。

 本当にありがとう、スペちゃん。

 お陰様で、もうすっかり良くなったよ」

 

「──ぁ……」

 

 

 握られていた右手を握り返しながら、俺は改めてスペちゃんへと向き直り、そして感謝の言葉を伝えた。

 その言葉を聞いた瞬間、スペちゃんは耳と尻尾をピンっと立てると同時に、まだ少し頬を赤く染めた状態で俺と目を合わせる。

 

 

「……お兄さんが元気になってくれて、本当によかったです。

 もう、また今回みたいに余りにも頑張り過ぎちゃうのはいけませんよ?

 お兄さんが私たちの事を大切に思って下さっているのと同じぐらい……

 私も、お兄さんの事を大切に思っているんですから」

 

「はい……肝に銘じます。

 今回は本当に迷惑をかけて申し訳ありませんでした……」

 

「ふふっ。

 はい、じゃあ許してあげます♪」

 

 

 余りにも真っ直ぐな気持ちを伝えられ……

 心にグサリときて、思わず土下座するかの勢いで深く頭を下げた俺に対し、まるで全てを包み込む様な笑顔を向けてくれたスペちゃんの優しさを目の当たりにして、俺は一生この娘には勝てないのだと悟った。

 

 

 それに今回、迷惑をかけてしまったのはスペちゃんだけじゃない。

 マックイーンさんにアヤベさん、東条さんや他の方々にも迷惑をかけてしまったんだ。

 

 先ずはお一人お一人にちゃんと謝って、ご迷惑をお掛けした分はこの後の行動で巻き返すしかない。

 

 よーしッ!

 幸い当初のスケジュール通りにトレーニングを開始できるぐらいには時間に余裕がある!

 

 完全回復もした事だし、早速遅れた分を取り返すぞ!

 

 

 そう思い、スペちゃんの手を握ったまま立ちあがろうとした瞬間────

 

 

「────ひゃふっ!?」

 

「──へ?」

 

 

 突然、悲鳴を上げたスペちゃんがコチラへとぶら下がる様に体重を預けたため、俺は中腰の体制で思わず動きを止めた。

 

 

 ど、どうしたんだ、スペちゃん?

 目に涙を浮かべて、身体もプルプル震えて……

 ま、まさか、俺が呑気に眠っている間にどこか怪我をッ──

 

 

「す、すみませんっ。

 足がっ……足がっ、痺れてしまってっ」

 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 

 その後、約30分ほど……

 

 俺はスペちゃんに平謝りしながら今度は選手交代かの如く、俺がスペちゃんを膝枕して、彼女が回復するまで頭を優しく撫で続けたのであった。

 

 野郎の膝枕など一切の需要は無いと思っていたのだが、当のスペちゃんは何故か幸せそうに終始『にへら〜』と笑ってくれていたので

 俺は考える事をやめて『スペちゃんが喜んでくれてるなら良いじゃないか』と、開き直って自分を納得させた。

 

 ……皆さんは俺みたいな間抜け野郎にならない為にも、きちんと休息を取りましょうね?

 

 

 まあ、初っ端から色々とやらしてしまったものの……

 

 こうして、俺とスペちゃんにとっては2回目の

 そして〈チーム・ノヴァ〉としては初めての

 熱い熱い夏合宿が、ようやく始まるのであった。

 

 

 

 







 先生、書く事が楽しすぎます……

 やっぱり書くって最高ですね……

 でも、楽しすぎて合宿が始まりませんでした⭐︎

 すみません、本当に(苦笑)


 私の気持ちはさておき
 ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!

 いつも読んで下さっておられる方々をはじめ
 ご感想やご評価、お気に入りや誤字脱字のご報告など
 これら全てが、書く事の楽しさをより一層高めて下さっております。

 また、ただ自分が楽しみながら書き殴ると思いますが、皆様の気が向いた時にでも覗いて下されば幸いです。


 改めまして、皆様には感謝の気持ちで一杯でございます。
 いつも本当にありがとうございます!

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