前回のご感想にて、スペちゃんは【セイウンスカイ→セイちゃん】・【キングヘイロー→キングちゃん】という呼び方ではありませんでしたか? との鋭いご指摘を頂きました。
おっしゃる通り、筆者もそのアプリ版での呼び方の方がしっくりくるのですが……スペちゃんの口調をアニメ版に寄せた結果…2人を【さん付け】で呼ぶ。という形になっております。(アニメ4話にて「セイウンスカイさん、皐月賞凄かったです〜」と言っていたので…)
ただ、ご指摘通りの呼び方の方がしっくりくるため、しれっと2人の呼び方が変わってるかもしれませんがご了承下さい。
皐月賞を無事に勝つ事ができ、三冠への第一歩を踏み出す事が出来た私は、現在食堂でクラスメイトの皆んなに囲まれながら…とある新聞の記事に目を通しています…そこに載っていた内容とは──
『スペシャルウィーク、皐月賞を勝利! 圧巻の走りで“三冠初戦”を制す!』
『ウイニングライブも大盛況! 60万人越えは過去最高を記録!』
『レース直後にトレーナーとの勝利の抱擁!? スタンドからも祝福と驚きの声が!』
私がゴール板を駆け抜けている写真が載っているのは嬉しいんだけど……お、おお、お兄さんと抱き合っていたところもしっかり撮られてた〜〜!?
お母ちゃんやお兄さん、地元の皆んなに勝利を届けられた事。小さい頃から夢に見ていたGⅠの大舞台で1着を獲れたこと。
そんな色んな嬉しい気持ちが溢れてしまって……あの時、お兄さんの姿が目に入った時には思わず抱きついてしまっていた。
嬉しくて嬉しくて…溢れる涙が止められなくて…ここまで連れて来てくれたお兄さんに、何度も何度も「ありがとう」の気持ちを伝えて……
そんな私を、お兄さんの方も力強く抱きしめてくれて…「おめでとう」って何度も言ってくれた時は、本当に心が満たされる様な気持ちだったのだが…
…まさかこんな風に大々的に新聞に載っちゃうなんて〜!! い、いくら何でも恥ずかしいよ〜!! し、しかも日刊ウマ娘さんって全国紙だったはず!?
う、うわ〜!? お母ちゃん達にも見られちゃう〜!? も〜!! 次に北海道に帰った時になんて言われるか……いや、そもそも次のお手紙で何か言われるかも…
「まあ〜! 勝利の抱擁! お互いの事を信頼し合っている感じがとても素敵ですね〜」
「お〜! スペちゃんラブラブデェェス!」
「レースではあんなに強かったのにね〜」
「み、皆んなやめて〜〜!! は、恥ずかしいから〜〜!!」
うう〜…最初はクラスの皆んなにお祝いしてもらえて凄く嬉しかったのに…抱き合ってる記事を見つけた瞬間、今度は皆んなから揶揄われてる〜…
「私はとても素敵だと思いますよ? ウマ娘とトレーナーさんは一心同体。お互いを信頼する気持ちが強ければ強いほど、より素晴らしい力を発揮する事が出来ると思いますから」
「そ、そうなんだけど…や、やっぱり恥ずかしいよ〜…」
「でもスペちゃん! この写真のスペちゃんの表情、とっても幸せそうデスよ〜?」
「そ、それは!? …わ、私が思わず抱きついちゃったのに……お、お兄さんの方からも『おめでとう』って…だ、抱きしめてくれた事が…そ、その〜…う、嬉しかったからで…」
「なんだ〜〜、GⅠで勝てた事よりも嬉しいなんて〜、恥ずかしい恥ずかしいって言いながら、スペちゃん自身は抱きしめて貰えた事がよっぽど嬉しかったんだね〜」
「ち、違っ!? も、もちろん勝てた事も嬉しかったよ!? そ、それに、恥ずかしいのは本当なんだってば〜!!」
しばらくこんな風に、お祝いされつつも揶揄われ続け…顔が真っ赤になりながら身を捩って悶えていると…
「ただいまぜよ〜!!」 バーンッ!!
「──あっ!」 「あら〜」 「オゥ!」 「おかえり〜」
食堂の扉が勢いよく開かれそこには──ここしばらくデビュー戦の為に留守にしていたウララちゃんが、大きなリュックを背負って立っていた。
「ウララちゃん!?」
「にひっ! 高知でデビューして来たきに〜!」
そう言いながら私たちの所まで来てくれると…高知のお土産だろうか?それを私たち1人ずつに配って行ってくれたのだが……な、何だろう? この土佐犬の置物は…? 皆んなのお土産も高知で有名なモノの置物みたいだ…ど、何処に飾ろうかな…?
「高知はまっこと良きトコじゃったき! いや〜、旅の後のご飯も美味いね〜! 麗らか〜な気持ちぜよ! 日本の夜明けは近いぜよ! いや〜レースって気持ち良いんだね!」
「ウララちゃんデビュー戦…もしかして!」
「うん! 何と5着!!」
「「「「………」」」」
「お客さんがね! ウララは一生懸命で良いねって! 頑張れ〜! って言ってくれたの!! また走りた〜い!!」
「──ウララちゃんっ」
そんなどこまでも楽しそうに思い出を語ってくれるウララちゃんの姿に、私は不思議と力を貰えた。そしてそれは皆んなも同じだったみたいで…
「私も…リハビリ頑張らなくっちゃ!」
「うんうん!」
脚を怪我してしまっているグラスちゃんも…ウララちゃんの姿に元気を貰えたのか、脚をさすりながら復帰への意欲を高めている。
「私もちょっとは頑張らないとな〜…またダービーでスペちゃんとあたるだろうし〜」
「セイウンスカイさん…私、次も負けないよ!」
「ふ〜〜ん…それはどうかなぁ〜?」
セイウンスカイさんも、いつもののんびりとした雰囲気を纏いつつも…ハッキリとした闘志を向けてきてくれた。私も負けてられないや!
「エルちゃん次はどのレース?」
「ワタシは──」
エルちゃんにそう聞いたと同時に、丁度テレビからその情報が出ているCMが流れてきた。
『このウマ娘は負けを知らない…4戦4勝。最強のウマ娘が今!全てを蹴散らす…【NHKマイルカップ】ターフを舞う“怪鳥”…エルコンドルパサー参戦!』
「もちろん! 勝ちマァァス!!」
「わ、私も! 勝ちまーす!」
エルちゃん次はGⅠなんだ…今の絶好調なエルちゃんを見ていると、負けるところは正直考えられないな……そう思っていると、不意にグラスちゃんからこんな質問が飛んできた。
「そういえば気になっていたんですが…スペちゃん…今日はサラダだけなんですか?」
「え? ああー、いやいや! ダイエットとかじゃないよ。今日はお兄さんがご馳走を作ってくれるから、それが楽しみで〜」
「へ〜! 皐月賞の祝勝会って感じか〜! 良いな〜…お兄さん、料理上手だって言ってたもんね〜。この間スペちゃんのお弁当を見せてもらった時も、本当に美味しそうだったし」
「はい! だから今日はいつも通りトレーニングを頑張って、その分沢山食べるぞー! って決めてたんです!」
「スペちゃん食堂のご飯を食べる時は、いっつも沢山注文してマスもんね!」
「前はスペちゃんご飯よそい過ぎ! ってぐらい食べてたもんねー!」
「へ!? そ、そんなに食べてた!? 私!?」
こうして、久しぶりにウララさんも揃って食べる事ができた昼食は、本当に楽しくてあっという間に時間が過ぎて行った。
───
──
─
その日のトレーニングを終えた夕方…お風呂にも入り終え、私は待ちに待った夕飯をご馳走になる為、意気揚々とお兄さんのトレーナールームへと向かっていた。
もうお腹はペッコペッコ…けど! その分本当に楽しみだなぁ〜! …と、というか…もうすぐお兄さんのトレーナールームなのだが…も、もう既に美味しそうな匂いが漂っている!?
──くぅうう〜ッ
……お、思わずお腹鳴っちゃった!?
そんな漂う美味しそうな匂いに耐えきれなくなって来て…私は更に足を早めてお兄さんのトレーナールームへと急ぐ。そして、いざその扉を開けてみるとそこには──
「あ、スペちゃんお疲れ様。ちょうど今作り終えて、調理室から持って来たところだよ」
「お兄さんお疲れ様です! …うわあぁぁぁ〜〜! お、美味しそう〜〜!」
チャーハンに酢豚、ラーメンに海老チリ、麻婆豆腐に天津飯、鶏のポン酢和えに卵スープ…それらがモクモクと湯気を立てて並んでいる。今日お兄さんが作ってくれたご馳走は中華料理がメインの様だ!
「さあ! 座って座って。今飲み物も入れるからね」
「え!? そ、それぐらい私が入れますよ?」
『いいからいいから』とお兄さんは慌てる私を制し、瓶に入れられたニンジンジュースを注いでくれる。あれって…お母ちゃんとお兄さんの実家で栽培されたニンジンを使った、幻のニンジンジュースだ!
甘すぎず、ニンジンの香りも強すぎず、一緒に食べる料理の邪魔を一切しない…だけど飲んだ瞬間に、確かに存在するニンジンの深い旨味に言葉を失うウマ娘が続出した。っていうあの!
こっちに来てからは中々流通しない事もあって、北海道に居た頃みたいに飲める機会が無かったから凄く嬉しいな〜! そう喜んでいると、お兄さんが自分の分も注ぎ終えて、お祝いの言葉と乾杯を私に向けてくれた。
「じゃあスペちゃん、改めて皐月賞1着おめでとう! 本当に凄い走りだったよ!」
「えへへ、私も!改めてありがとうございます! お兄さんと一緒に頑張ってきた事が報われたみたいで…私、それが本当に嬉しかったんです!」
「それは俺も一緒だよ。スペちゃんが1着で駆け抜けた時…本当に自分の事みたいに嬉しかった」
「ほ、本当ですか!? そ、それならもっと嬉しいなぁ〜! …け、けど…そのせいで…あの写真が載っちゃった事はごめんなさい…」
「あはは…あれは俺も嬉しくて思わず抱きしめちゃったから…まあ、お互い様だよ」
お互いに少し顔が赤くなりつつも、喜んでくれるお兄さんを見て、改めて皐月賞を勝つ事が出来て良かったと、心から思う事ができた。
「さあ! それじゃあ冷めちゃうと勿体無いし、そろそろ食べよっか!」
「──はい! 実はもう待ちきれなくて…頂いても良いですか? お兄さん」
「もちろん! お代わりもあるから、遠慮せずに沢山食べてね」
「ありがとうございます! じゃあ──頂きます!」
幸せな喜びに包まれつつ、私はお兄さんが作ってくれた料理に手を伸ばす。先ずはチャーハンから! プリプリの海老がふんだんに入っている五目チャーハンを、自分の取り皿によそって…いざ!
はむっ! と勢いよく口に運んだ瞬間に広がる──香ばしいラードの香りとお米の甘味! そしてそれを引き立たせる様に、焼かれた卵とネギの香りもフワッと広がる! そしてこのプリプリの海老! 柔らかくて口当たりが良いのに…噛んだ時に広がる海老の甘味がさらに味のバランスを良くしてくれてる!
そ、それに! このゴロッと丁度良い大きさで入っているチャーシュー! 海老の優しめな旨味とはまた違う…ガツンとしたお肉の旨味が広がって…掬う食材によって違う美味しさが楽しめる工夫までされてる!?
けどこのチャーシュー…何か普通のチャーシューとは違う様な……いや、よく味わってみるとお米の甘味も随分と深いような……お兄さん…一体どんな魔法を使ったんだろう…?
「良かった〜、口に合ったみたいで。そのお米、実は実家で栽培してるオートミールを使ってるんだ。チャーシューの方も実家の【霜降り大豆】を使った、大豆ミートで作ってみたんだよ」
え!? このお米…オートミールだったの!? それにチャーシューは大豆ミート!? …ちょっと待って? 【霜降り大豆】って……お兄さんの実家で栽培されてた…門外不出のあの【霜降り大豆】!?
お兄さんが『身近に動物がいる環境だと…何かお肉を食べづらいな』って悩んだ末に完成させた…大豆ミートにすればたちまち、ブランド牛・ブランド豚・ブランド鶏の味に早変わりさせる事が出来ると言われてた…
お兄さんのご両親が、『流石にこれを世に出したら…不味いよな…』と出荷することを断念した。とは聞いていたけど……確かにこの味を知ってしまったら…世のお肉屋さんは潰れてしまうかもしれない…
「オートミールは普通の白米よりも栄養価が高いし、大豆ミートは脂質を抑えられるから今回使ってみたんだ。良かったら他の料理のお肉にも使ってるから食べてみて」
「本当ですか!? では早速!」
私はそう言って、次に酢豚に手を伸ばす。トロッとした餡に、大豆ミート・ニンジン・玉ねぎ・ピーマン・筍・パイナップルが絡められている。パイナップルは苦手な人も多いのだが、私は入っている方が嬉しいので、それを知っているお兄さんが入れてくれたみたいだ。
ではこちらも早速──ッ!? 先ず驚くのは、この餡の風味のバランスの良さ! 新鮮なパイナップルの果汁を隠し味に使っているのか…甘酸っぱい酸味が、深い出汁の旨味を引き立たせ…非常に統一感がある! 更にちょうど良いトロッと加減の口当たりで、一緒に食べた食材の食感を一切邪魔しない!
その食材との味の相性も…野菜の甘さ・いい意味での青臭さ。それらを包み込んで絶妙なハーモニーを醸し出している! そしてやはりこの大豆ミート! 噛んだ瞬間にジュワッとお肉の旨味が広がって…噛んでも噛んでも次々と旨味が出てくる! それがこの絶妙な餡に絡んで…呑み込む事が寂しくなるぐらいだ!
後この餡の凄いところは、食材を全て食べ終えて餡だけになってしまった時……この餡をチャーハンにかけて食べても、チャーハンの美味しさと上手く絡む様になっているのが凄すぎる!! 食べていてこんなに幸せな気持ちになるなんて…
他の料理に対しても、終始こんな感じで驚きと幸せの連続だった私は、本当に幸せな気持ちになりながら料理を次々と平らげていき、お兄さんに心から感謝しながらその日の祝勝会を終えた。
デザートに出てきたバニラアイスクリームも、ハーゲン○ッツやサーティ○ンのアイスを凌駕する美味しさだったし…しかもあれだけ食べたのに、体重や体調に何の問題も無いなんて…もうお兄さんの料理から離れられなくなりそうで怖い……いや、もう既に虜になってはいたんだけど…
と、とにかく! 幸せ過ぎる栄養補給も終えたし、明日からまたけっぱるぞ〜! 心地よい満腹感と疲労感に包まれながら、私はその日…いつもより更に深い眠りについたのだった。
♢♢♢
スペちゃんの次走・日本ダービーまで残り1ヶ月を切ろうとしている今日…自身のトレーナールームにて、トレーニングメニュー作成や学園の仕事をこなしていると、その日は意外な訪問者の方が訪ねて来た。
「突然の訪問をごめんなさい。お詫びと言っては何だけど…コレ、ウチのチームのグラスがお勧めする和菓子だそうよ」
「ああこれは、気を遣わせてしまったみたいで申し訳ありません。今お茶でも淹れますね」
「本当に気にしないで。今日はお願いがあって来ただけだから」
「お願いですか? まあ、とりあえずそこのソファを使って下さい」
そう言って俺は、訪ねて来てくださった──チームリギルの東条さんをソファへと案内する。
「失礼するわね……凄く座り心地の良いソファね…まるで身体の負担を逃す様な…」
「あはは、ありがとうございます。既製品のソファを少し改造しているだけなので、ちょっと恥ずかしいですけど」
「既製品のソファを? 手先が器用なのね…」
「昔から何かを作ったりするのが好きなだけですよ。えっと…それで今日は一体どうされたんですか?」
そう聞いた俺に、東条さんは真っ直ぐとした瞳をこちらに向けて言葉を紡ぐ。
「単刀直入に言わせてもらうと…貴方の担当しているスペシャルウィークと、ウチのタイキシャトルとで模擬戦をしてもらえないかしら?」
「…模擬戦? スペちゃんとタイキシャトルさんとで…ですか? どうしてまた?」
「ウチのチームのエルコンドルパサー…彼女は次のNHKマイルカップに勝てたら、日本ダービーに出走しようと思っているの。だから正直、1番のライバルになるであろうスペシャルウィークの走りを間近で見せてあげたい。というのが1番の理由ね」
「なるほど…エルコンドルパサーさんが日本ダービーに…それは出走するなら強敵ですね……けど良いんですか? タイキシャトルさんと併走出来るなんて、こちらのメリットもかなり大きいと思いますが…」
「それだけこちらのメリットが大きい話だもの。幸いタイキも乗り気になってくれていたし、尽くせる誠意は尽くしたいと思っていたから」
確かに、ここでスペちゃんの情報を相手に与える事はデメリットではある。だけど、だからこそ東条さんは包み隠さず話してくれたのだろう。
タイキシャトルさんという…現状日本一の短距離ウマ娘の娘を相手として用意してくれたのだろう。
スペちゃんが1番のライバル。そうこちらに告白した時点で、東条さん自身も既に俺に手札を明かしている。『日本ダービーでは、スペちゃんを標的にしてレースを運びますよ』と言っている様なものだ。
それにタイキシャトルさんとの併走なんて、普通に考えれば先ず出来ない体験だろう。現状の日本一の短距離ウマ娘との併走で得られる物は多いだろうし……この話は受けた方が良さそうかな。
「分かりました。早速ですがそのお話、お受けしたいと思います」
「ありがとう。話が早くて助かったわ」
「距離やコースに関しては…芝の1200mでお願いしたいんですけど…構いませんか?」
「1200m? ウチは構わないけど…スペシャルウィークの得意距離からは離れているんじゃない?」
「ええ、けど…だからこそ得られる物があると思うので、可能であればその距離でお願いしたいです」
「…分かったわ。元々こちらがお願いしている身ですもの。その距離で大丈夫よ」
「ありがとうございます! では、日程はどうしましょう? こちらとしてはいつでも大丈夫なんですが…」
「じゃあ早速で悪いけど、明日の放課後にお願いしても良いかしら? コースの使用許可なんかはこっちで取っておくから心配しないで」
「何から何まですみません。分かりました! では明日、よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いするわ。今日は時間を作ってくれて本当にありがとう」
最後にそう挨拶をし合って、東条さんは最後に微笑んでトレーナールームを後にされた。
さて明日の模擬戦…あのタイキシャトルさん相手に【芝コース・1200m】での条件…まだ本格化途中である今のスペちゃんだと…かなりギリギリの闘いになるだろうな…
けど…だからこそこの条件でお願いしたのだ。理由は2つあり、【接戦になった時の競り合う勝負根性の強化】・【スリップストリーム技術の修得】この2つを身に付けて欲しいと思ったからである。
ウッドチップコースやダートコースと違って、芝コースなら単純なスピードと脚力勝負になる。短距離でのタイキシャトルさん相手なら、今のスペちゃんだとギリギリ勝てるかどうかだろう……いや本格化前の娘が、勝てるかどうかって大分おかしいのだが…
間違いなく接戦になるであろう今回の模擬戦で、接戦になった時の競り合いを経験出来るのは、スペちゃんにとって間違いなく大きな収穫になるはずだ。
そして【スリップストリーム】の修得。前を走る娘の真後ろ辺り…風の抵抗が少ない、道中疲れにくいポジションに入れるセンスを高められる点も、今回非常に大きなメリットになり得ると俺は考えていた。
その日、スペちゃんに突然の事で申し訳ない。と謝りつつも明日の模擬戦の事を伝える。スペちゃんも驚きつつも、やる気十分! と言った感じで了承してくれた。
そして次の日───
♢♢♢
東条さんのチームリギル所属・タイキシャトルさんとの模擬戦の日。模擬レース場には沢山の観客が訪れていた…流石はリギルとの模擬戦…なんかすげぇ注目されちゃってるけど…どうしましょう?
軽く現実逃避をしながらチラッと隣の方に目を向けると、以前に坂路トレーニングの際に見かけた芦毛のウマ娘さんが、また法被を着て焼きそばを売り歩いていた…だから何故焼きそばなんだろう…その焼きそばを同じく芦毛のウマ娘さんが、凄い勢いで食べてるし…
少し離れた所では、東条さんとエルコンドルパサーさんが最後の直線がよく見える位置に居るのが見えた。昨日の宣言通り、スペちゃんの仕掛けのタイミングなどを見極める狙いの様だ。
そんな風景に目を取られていると、ターフの感触を確かめていたスペちゃんが、タイキシャトルさんと言葉を交わしているのが目に留まった。「今日はよろしくお願いします!」とお互いに挨拶をしているみたいだ。
さていよいよスタートの時間が迫り、お互いがスタート体勢に入る。作戦に関しては昨日スペちゃんに伝えてあるので、後はスペちゃんの走りを信じて見守るだけだ。
『それではこれより! タイキシャトルとスペシャルウィークによる、模擬レースを始める! 両者位置について──よーいドン!!』
スタートの速さはほぼ互角。しかし、スペちゃんは直後にタイキシャトルさんの真後ろにピッタリくっ付くようにポジションを取る……よし! スリップストリームの恩恵を受けられる良い位置に付けてくれた!
ただ流石はタイキシャトルさん…スリップストリームの恩恵を受けているスペちゃんと、互角のスピードで道中を進んでいる。日本一の短距離ウマ娘の称号は伊達では無いな…
1200mなのであっという間にラストの直線に。ここでスペちゃんがタイキシャトルさんの背中から抜け出し、タイキシャトルさんに並びかける。
「──ッ!? そうはいきまセン!!」
「やああああああぁ〜!」
スペちゃんもタイキシャトルさんも一気にトップギアに! 両者全く譲らないままゴール係のヒシアマゾンさんの横を駆け抜ける! 果たして結果は──
『……勝者! ハナ差でスペシャルウィーク!』
「──ッ!? はあっ…はあっ…やった!」
「はあっ…はあっ…oh…負けてしまいマシタ〜…」
最後の競り合い…スペちゃんは「タイキシャトルさんに負けまい!」と最後の最後でもう一伸びしていた。そのお陰で最後の最後で差し切る事が出来た…もともと備わっていた勝負根性の強さに、これで更に磨きをかけるキッカケを作る事が出来たな。
そんな風に今回の模擬戦の手応えを感じていると、東条さんが声を掛けに来てくれた。
「まさかタイキシャトルに勝つなんて…スリップストリーム、あれはやられたわ。とても貴重なデータを取る事も出来たし、改めて今回は本当にありがとう」
「いえ、こちらも本当に貴重な経験を積ませて頂きました。こちらこそ本当にありがとうございました」
「そう言ってもらえて良かったわ。日本ダービー…お互いに全力を尽くしましょう」
「ええ、もちろんです」
そう東条さんと言葉を交わし終え、俺はターフでタイキシャトルさんに抱きつかれているスペちゃんを眺めながら、今後のトレーニングについて思考を巡らせる。
……日本ダービー…一筋縄じゃ行かなそうだな…
東条さんとエルコンドルパサーさんは勿論、皐月賞のセイウンスカイさんやキングヘイローさん。他のライバルたち……皆んな侮る事なんて出来ない相手だ。
改めて日本ダービーへ向けて意欲を固めた俺は、一先ず模擬戦を勝利で飾って帰って来てくれたスペちゃんを労うために、駆け足でターフに向かって行った。
そして…NHKマイルカップを無傷の5連勝で勝ち上がり、宣言通り日本ダービーへの参戦を表明したエルコンドルパサー。
「エルちゃんもダービーに…」
「エルも来るんだ〜…やっぱり簡単にはいかないか…」
「ライバルが強ければ強いほど、私ももっと強くなるだけ!」
こうして役者が揃った──ウマ娘の祭典。東京優駿・日本ダービーがいよいよ始まる!
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます!
最後は少し駆け足になってしまいましたが…次はいよいよ日本ダービーです!
下記は、軽く主人公に対する周りの人達の印象と、主人公側の印象を載せております。今回はおハナさんと沖野トレーナーです。
・主人公への印象
おハナさん→後輩の中では1番評価している。今回交友を持つ事が出来て良かった。今年の夏合宿、一緒にどう?
沖野T→新人とは思えない優秀な後輩。おハナさんと同じぐらいのライバル心も抱いている。いやいや! 夏合宿は是非ウチとやろうぜ!
・主人公側の印象
おハナさん←尊敬している先輩その1。ぶっちゃけ自分よりチートなのでは? と思っている事は内緒。夏合宿のお話し、是非!
沖野T←尊敬している先輩その2。サイレンススズカさんをあそこまで開花させられる手腕は凄すぎる。え? 迷うな…2チーム共はダメですよね? そうですよね…
次も少しでも読みやすくなる様に頑張って書いていきます。