スペちゃんとチート持ち転生者の幼馴染   作:成田 きよつぐ

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 誤字脱字報告・お気に入り・評価・ご感想を下さった方々、本当にありがとうございます!


 ご感想でも頂いたのですが、この拙作での“観客来場者数”は、現実の競馬より【10倍】ほど押し寄せる…という設定になっております。 (当然入り切らないので、外にも人がびっしり…という感じです)


 レースに関する事柄なども、筆者の空想が入っておりますのでご了承ください。




最も幸運に恵まれたウマ娘が勝つ/GⅠ東京優駿・日本ダービー

 

 

 

 

 

 

 最も幸運に恵まれたウマ娘が勝つ。そう格言として言われるウマ娘の祭典、【東京優駿・日本ダービー】

 現在その日本ダービーに出走するウマ娘とトレーナーへの、個人ずつによるインタビュー会見が開かれていた。

 

 

『エルコンドルパサーさん! 今の調子はいかがですか?』

 

「もちろん“快調”デェェス! だってアタシ、ターフを舞う“怪鳥”って呼ばれてマスからっ!」

 

 

 ある会見では、終始笑いに溢れる賑やかな雰囲気で進行され…

 

 

『セイウンスカイさん! 今の心境を一言!』

 

「やっぱり、スペちゃんやエルが注目されてるよね〜。2人とも本当に凄いから…今は皆んな2人の事を見てて欲しいな〜。……そしたら──す〜っごく気持ちよく、裏切ってあ・げ・ま・す・か・ら♪」

 

 

 ある会見では、これは何か起きそうだ…と期待が高まる雰囲気で進行され…

 

 

 そしてある会見では──

 

 

 

 俺は今、スペちゃんと一緒に日本ダービーへ向けた会見を受けているのだが……すっごい記者さんの数なんだけど…流石はウマ娘の祭典・日本ダービー……注目度は高いとは知っていたけど、これほどとは…

 

 

 スペちゃんも記者の人たちの人数に驚いているのか、少しそわそわしている。そりゃそうだよな…皐月賞の時も会見自体はあったのだが……流石に今日ほどの記者さんの数では無かったし…

 

 

『スペシャルウィークさん! 今度のダービーはズバリ! 勝てそうですか?』

 

「へ!? あ、え、え〜っと……はい! 勝ちます! …エルちゃんやセイウンスカイさん、キングヘイローさん、出走する皆さん…皆んな強敵ですけど…私も今度のダービーを勝つために、お兄さ──トレーナーさんと! 今日まで頑張ってきましたから!」

 

 

 記者さんの質問に一瞬慌てた様子を見せたが、それも本当に一瞬。スペちゃんはその後真っ直ぐに前を向いて、頑固たる意志を宿した瞳をしながら、勝ちます! と宣言してみせた。

 

 

 お兄さんと呼びかけた瞬間はあったけど…てかその時の記者さん達の微笑ましいモノを見る様な目……え? バレてない? 

 …スペちゃんが普段、俺のことをお兄さんって呼んでるの…バレてるよね? バレてなかったらそんな目しないでしょ? 皆さん?

 

 

 …まあ先日の抱擁が記事に載ったことや、俺がトレーナーになる前の面接で、「幼馴染のスペちゃんの為にトレーナーを志しました」的な事を言った件なども、調べたら分かる事だろうから知ってても無理はないんだろうけども…

 

 

『すみません! 月刊トゥインクルの乙名史と申します。スペシャルウィークさんのトレーナーさんに、1つご質問させて頂きたいのですが構いませんでしょうか?』

 

 

 スペちゃんを見守りつつ考え事をしていた俺に、月刊トゥインクルの乙名史さんと名乗る記者さんから、そんな言葉が聞こえてきた。

 

 

「はい、もちろん大丈夫ですよ。何でしょうか?」

 

『ありがとうございます! トレーナーさんは、スペシャルウィークさんとは小さい頃から一緒のご関係だと聞いております。そんな固い絆で結ばれたトレーナーさんから見た場合、今回のダービーはズバリ! 勝てそうなんでしょうか?』

 

「ええ勝ちますよ。…確かに先ほど彼女が言っていた通り…ライバルたちは皆んな強敵です。間違いなく、今までで一番苦しいレースになるでしょう」

 

『やはりそうなんですね。今年のクラシック級は特に層が厚い! とファンや関係者の間でも話題になっておりますもんね』

 

「はい、誰がダービーを獲ってもおかしくない。その評価をされる事に対して、私も間違っているなんて思いません」

 

『…ではどうして、そこまで真っ直ぐと、スペシャルウィークさんが勝つと確信しておられるのでしょうか?』

 

「もちろんこれまで彼女が積み上げて来た努力を信じている。というのもありますが……今度の日本ダービーを…勝つために生まれてきた娘。…そんな娘を、私は1人しか知らないだけですよ」

 

 

 俺がそう言い切ると、乙名史さんも他の記者の方々も、そしてスペちゃんも、言葉を失ってシーンとした妙な空気が流れる……あれ? 俺なんかまずい事言っちゃったかな…?

 

 

『───素晴らしいですっ!!!」

 

「うおっ!?」

 

『ご担当されるウマ娘をひたすらに信じ、そして輝かせる! それはつまり自らが影になっても良いという覚悟! そんな強い覚悟を、幼き頃から持ち続け! 今までも! そしてこれからも! 彼女のために私生活の全てを捧げる!』

 

「あ、あの? お、乙名史さん?」

 

『彼女が輝くためならば! たとえ火の中水の中! 古今東西どこであろうとも駆けつけ! 彼女が望むなら! どんな困難な道でも共に歩んで行く! 己を顧みず、ただひたすらに彼女のためを思った献身──ああっ! 素晴らしいですっ!!!』

 

 

 えー…なんかすごい拡大解釈が入ってない? ……めっちゃメモ走らせてるけど…乙名史さんが言ってた言葉…俺一言も言ってない気がするんだけど? え、そのメモどうするんですか?

 

 

 そんな熱い記者さん…乙名史さんの熱量に、俺もスペちゃんも他の記者さんも終始圧倒されながら……その日の会見は終了した。

 

 

 後日発行された月刊トゥインクルの記事では、誇大解釈された内容がそのままに──な事もなく、とても読み易くしっかりとした記事だったため、一安心した俺だった。

 

 

 

───

──

 

 

 

 いよいよ日本ダービーを明日に控え…俺とスペちゃんは、恒例となっている【レース場・立体ジオラマ】による作戦会議を行なっている。

 

 

「スペちゃん、今回の日本ダービーが行われる東京コース・芝2400mは、初めての左回りになる。スタートから第1コーナーまではおよそ350mぐらいだから、先行争いは厳しくなりやすい。そして直線は約526mの長さがあって、途中緩やかな坂道もあるから少し注意だね」

 

「わあ〜…やっぱり最後の直線は長いですね…」

 

「これだけ長いから…道中で消耗したり、あまりにも早仕掛けしちゃったりすると、最後の最後で脚が上がってしまう。……そして今回恐らくスペちゃんは…その苦しい状況の中で、ラストの直線を迎える事になってしまうと思う」

 

「え…ど、どうしてですか?」

 

「先ずは枠の並び…スペちゃんが入った3枠5番という枠自体は、内枠だし本来なら悪くない…けど今回、スペちゃんは確実に他の娘たちから“マーク”される。外からも内からも“マーク”され易い枠に入っちゃったからね」

 

「…そっか、エルちゃんが1番、キングヘイローさんが2番、セイウンスカイさんが12番だから…一番マークし易いのは私…」

 

「だから今回、道中で“息を入れる”事が中々出来ない状況になると思う。道中での消耗具合は、相当大きくなると思っておかないといけない…」

 

「逃げや後方一気……も、難しいですね…」

 

「そう。逃げた場合はエルコンドルパサーさんが、後方一気の場合はセイウンスカイさんとキングヘイローさんが、恐らくかなり楽になる流れを作ってしまう……このせいで、前にも後ろにもプレッシャーをかけられる中団辺りに付けざる得ない」

 

「マークが厳しくなる事からは…逃げられない…」

 

「そして中団に付けた場合、ラストの直線で確実にスペちゃんを標的にスパートを掛けてくるのが、エルコンドルパサーさんだ。彼女のあの末脚を、疲れ切った状態で迎え討たなければいけない」

 

「エルちゃんの…あの末脚を…」

 

「正直…一番良い枠に入ったのはエルコンドルパサーさんだ。最内でジッとスペちゃんを見ながら脚を溜められる。最内だからマークも緩くなるだろうからね…」

 

「…お兄さん……お兄さんは…お兄さんは、こんな厳しい条件で…最も幸運に恵まれたウマ娘が勝つ。って…言われてるダービーで…こんなに運に恵まれてない私が…勝てるって、信じてくれます…か?」

 

「ああ信じてる。あの会見で言った事に嘘なんてないよ。どんな枠だろうと、どれだけマークされようと、誰が相手だろうと、今回の日本ダービーを…勝つために生まれて来た娘を…俺はスペちゃん、君しか知らない」

 

「──ッ!!」

 

「今までで…確実に一番苦しいレースになる。けどスペちゃん! いつも言ってる言葉になるけど…俺はスペちゃんを信じてるよ! 君の2人のお母さんに見せてあげよう! 君が1着で駆け抜けるところを、ダービーウマ娘に輝くところを!」

 

「──はいっ!」

 

「自分を信じてスペちゃん。小さい頃からあれだけ1つずつ、積み重ねて来た確かな力が君にはあるんだから」

 

「はい! お兄さん…私、必ずダービーウマ娘になってみせます! …だから、今回も私のこと…1着で駆け抜けるところを、ちゃんと見てて下さいねっ!」

 

「──ああ! もちろんだよ!」

 

 

 もう…弱気なスペちゃんはそこには居なかった。あと俺に出来ることは、スペちゃんを信じてゴールで待つ事だけだ。

 

 

 そしていよいよ、才能だけでは勝てない…ウマ娘の祭典。東京優駿・日本ダービーがはじまる──

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

『さあ今年もこの日がやって来ました! ウマ娘の祭典! 東京優駿・日本ダービー! ここ、東京レース場も既に100万人を超える観客が詰め掛けている。との発表がありました! 場内はもちろん満員御礼。入り切れなかった人たちも、熱気だけでも感じ取りたい! とレース場の外までも人で溢れています!』

 

 

『解説の武富さん。今日は一段とファンの皆さんの凄い熱気を感じますね!』

 

『特に今年はスター揃いですからね〜』

 

『そうですね! 数々のライバルを制して来た…選ばれし18人のウマ娘たち! 栄光のスポットライトを浴びるのは、果たしてどのウマ娘か! 東京優駿・日本ダービー。まもなく本バ場入場です!』

 

 

 

───

──

 

 

 

 俺は今、ターフへと向かうための地下通路でスペちゃんを待っている。流石は日本ダービー…横をすれ違うライバル達の仕上がりは、皆んなこれ以上ない!と言った具合に仕上がっていた。

 

 

 そんな風にライバル達の仕上がりをチェックしながら待っていると、前から歩いて来たスペちゃんが、俺を見つけて駆け足で寄ってきてくれる。…やっぱりちょっと緊張してるみたいだな…

 

 

「お兄さん…ど、どうも…」

 

「緊張してるみたいだね…」

 

「は、はい…やっぱり本番が近づくと…どうしても…」

 

 

 俺は、そう俯くスペちゃんの手をゆっくりと取り、ここに来た目的…渡したかった物をスペちゃんの手に握らせる。

 

 

「お兄さん? これは…お花の…ブローチ? ……あれ? このお花…お兄さんが部屋で育ててた…紫のカランコエ…」

 

「うん。そのカランコエの花を加工して、ブローチにしてみたんだ。紫色で、スペちゃんの勝負服にも合うと思ったし……この花の花言葉が、『幸福を告げる』って意味もあるから…少しでもスペちゃんの力になったら嬉しいと思ってね」

 

「──お兄さん…ありがとうございます! 着けてみてもいいですか!?」

 

「うん! もちろんだよ」

 

 

 そう言うとスペちゃんは、そのブローチを左襟の少し上辺りに着け、嬉しそうに微笑みながら俺の方を向いた。

 

 

「──ふふっ、お兄さん。カランコエのもう一つの花言葉は知ってますか?」

 

「え? もう一つの花言葉? …あー、『たくさんの小さな思い出』とかもあったっけ?」

 

「あー、それもありましたね…でも、もう一つあるんですよ?」

 

「え? まだあるの? それは知らないな…なんて花言葉なの?」

 

「ふふっ、それは内緒です!」

 

「えー…気になるんだけど…」

 

「…私がダービーで1着になったら…その時に教えてあげますね!」

 

「…ふっ、そっか。じゃあ直ぐに教えて貰えるだろうから、何も心配はいらないな」

 

「──はいっ! 必ず教えてあげますから、必ず1着になって来ますから…ちゃんと待ってて下さいね? お兄さん!」

 

「ああ!──スペちゃん、行ってらっしゃい!」

 

「──行ってきます! お兄さん!」

 

 

 そんなやり取りを行なって、笑顔で手を振りながら…スペちゃんは地下通路を駆けて行った。緊張もほぐれてくれたみたいで良かった……君の2人のお母さんも、必ず見てくれてるからね…頑張れ! スペちゃん!

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

『さあ! 超満員の観客に迎えられ、日本ダービーの本バ場入場です! …なお、1枠①エルコンドルパサーは遅れての登場となります』

 

 

『先ずはこのウマ娘の登場です! 弥生賞3着、皐月賞3着、頂き届かずとも秘めたる確かな実力! 相手が強いのは分かっている! …だが、私が弱いとは認めない! いざ逆転の一発へ! 1枠②キングヘイロー、4番人気です!』

 

 

 ──ワアアアアアアアアアアアアァ〜ッ!!!

 

「キングヘイロー! 頑張れ〜!」

「キング〜! 俺は君を信じてるぞ〜!」

「キ・ン・グ! キ・ン・グ! キ・ン・グ!」

 

 

『──皐月賞2着の雪辱をここで果たす! 晴天に恵まれた今日の空。どこまでも高く! どこまでも青く! こんな空の日には、私の勝利こそよく似合う! 芦毛のトリックスター! 6枠⑫セイウンスカイ、3番人気です!』

 

 

 ──ワアアアアアアアアアアアアァ〜ッ!!!

 

「セイウンスカイ〜! 君が1番だ〜!」

「やっぱり可愛い〜! セイウンスカイ〜! 頑張って〜!」

「セイウンスカイ〜! 今日こそ勝ってくれ〜!」

 

 

『──さあこのウマ娘がやって来た! 3戦3勝! 無敗の皐月賞ウマ娘の勲章引っ提げて、いざ新時代のヒーローへ! このウマ娘にはダービーすら通過点か? いや更なる伝説への入り口か! 3枠⑤スペシャルウィーク、1番人気です!』

 

 

 ──ワアアアアアアアアアアアアァ〜ッ!!!

 

「スペシャルウィーク〜! 二冠獲ってくれ〜!」

「俺は君が勝つところを見に来たんだ〜! 頑張れ〜! スペシャルウィーク〜!」

「スペシャルウィーク〜! 今日も勝つところ見せてね〜!」

 

 

『──さあ最後にやって来ました! あのチームリギルが送り出す最強の俊英! 半マイルの壁を超え、いざ切り開きし新たな王道! 5戦5勝! 負けを知らない無敵の怪鳥が今、ターフへと降り立った! 1枠①エルコンドルパサー、2番人気です!』

 

 

 ──ワアアアアアアアアアアアアァ〜ッ!!!

 

「エルコンドルパサー! 最強は君だ〜!」

「エルコンドルパサー! 君がダービーウマ娘になるところを見せてくれ〜!」

「エルコンドルパサー! 応援してるからね〜!」

 

 

『いや〜、全員気合いが漲っていますね〜。特に上位人気の4人は甲乙付け難い…本当に素晴らしい仕上がりですね〜!』

 

『解説の武富さんも惚れ惚れする様な仕上がり! 発走の時刻も刻一刻と迫ってきました! 東京優駿・日本ダービー! 発走まで、もうしばらくお待ちください!』

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

『──さあ! 今ファンファーレが鳴り響いて場内は地鳴りの様な大歓声! ようこそ! ウマ娘の祭典、日本ダービーへ! 【東京コース・芝2400m・良バ場発表・フルゲート18人】で争われます!』

 

 

『枠入りが始まりました。先ずは奇数番号のウマ娘から。①エルコンドルパサーもスムーズに入りました。無敗対決! スペシャルウィークとは今日が初対決です!』

 

(“絶対”を見せる──勝つのはワタシデェェス!)

 

 

『そして3枠⑤こちらも無敗! スペシャルウィークもゲートに収まりました! 選ばれし18人の中で…三冠に挑めるのはこのウマ娘ただ1人です!』

 

(お母ちゃん、お兄さん、皆んな……ぶつけて来ます…今の私の全部を!)

 

 

『枠入りはここまで順調。続いて偶数番号のウマ娘たちの枠入りが始まります。──1枠②キングヘイローも収まりました! このウマ娘の実力も折り紙付きです!』

 

(自分が昂っているのが分かる…だけど、私は自分の走りをするだけ!)

 

 

『そして6枠⑫セイウンスカイも今日はスムーズに収まりました! 能力の高さはもちろん、展開のカギを握るのはこのウマ娘かもしれません!』

 

(皆んな気合い乗ってるな〜…まあ…それは私もだけどね〜)

 

 

『最後に大外⑱クロールテンペスト。ゆっくりと…今ゲートに向かって…間もなく全てのゲートイン完了──』

 

 

『──誰もが一度は夢に見る…誰もが一度は手を伸ばす! そのたった一つの栄冠に、挑む事を許された18人のウマ娘たち!』

 

 

『さあ! 貴方だけのヒーローを見つけ出せ! 東京優駿・日本ダービー────今スタート!』

 

 

『大きな拍手と大歓声に包まれて先行争いです。スッと飛び出したのはセイウンスカイ。しかし──内からキングヘイローも上がってきた! ③ヤスダリピートもこれに加わる。そして⑤スペシャルウィークも中団寄り。①エルコンドルパサーはやや後方からか?』

 

 

『興奮の鼓動! グリーンターフを刺激しながらスタンドに別れを告げて行きます。最後方は⑱のクロールテンペストといった展開。さあ各ウマ娘、これから1、2コーナーを抜けてバックストレッチに入っていきます』

 

 

『ハナを切ったのはなんとキングヘイロー!? ②キングヘイローがペースを作ります! 前走とは戦略を変えてきました。その後ろピッタリと、⑫セイウンスカイが2番手に付けている。少し離れた3番手に③ヤスダリピート』

 

 

(主導権は──渡さないわ!)

 

(ふ〜〜ん? それでも良いけど〜?)

 

 

『そして1番人気。⑤スペシャルウィークは中団辺りに付けていますが──内から④のタスキブライドを筆頭に、外から前から後ろから、非常に厳しいマークを受けている! これは苦しい流れ! スペシャルウィーク息を入れられるか!?』

 

 

(何とかスリップストリームには入れたけど──息を入れられるタイミングが──ないッ!)

 

 

『そのスペシャルウィーク包囲網で固まったバ群の後ろ、内からジッとその様子を見る様に、①エルコンドルパサーはやや後方のこの位置から狙います』

 

 

(スペちゃんには悪いけど…これも勝負デスからね!)

 

 

『前半の1000m通過はなんと58.9! 早いペースで飛ばしている②のキングヘイロー。これは作戦通りなのか?それとも掛かってしまっているのか? 変わらず2番手に⑫セイウンスカイもピッタリとくっ付いたまま!』

 

 

(もっと──もっと逃げないとッ!)

 

(──逃さないよ〜!)

 

 

『包囲網が張られた⑤スペシャルウィーク。まだ…まだ苦しい状況は続いている! 完全に包囲されているスペシャルウィーク! この包囲網を突破できるのか!? 大丈夫なのか!? もう間もなく第3コーナーのカーブに入るぞ!?』

 

 

(──ぐっ! 流石に抜け出せないッ! …けど、外の人が少し苦しそうになってきた…もう少し我慢したら──抜け出せるッ!)

 

 

『①エルコンドルパサーも依然として内のやや後方。1番人気スペシャルウィークの後ろにジッと構えている! これは狙っているのか? スペシャルウィークが仕掛けるタイミングを虎視眈々と狙っているのか!?』

 

 

(スペちゃん…どこで仕掛けマスか? そのタイミングを見てから──アタシも行きマスよッ!)

 

 

『さあ隊列変わらぬまま! 第4コーナーカーブから直線コースに向かってくる! 18人歓喜の大行進は! いよいよ、東京526mの直線コースを残すのみ! 大歓声に迎えられて②キングヘイローが、17人を引き連れ──今直線コースに入ってきた! 先頭キングヘイロー! しかし! 外から早くもセイウンスカイが抜け出しにかかる!』

 

 

「──なッ!? 何ッ!?」

 

「──ふぅ…ここからあああああぁ〜〜!!」

 

 

『ここで満を持してセイウンスカイが先頭に立った!! キングヘイローは苦しいか!? 3番手に③ヤスダリピート! そしてバ場の真ん中から! 包囲網を抜けたスペシャルウィークも上がってきた!エルコンドルパサーはまだ内に居る!』

 

 

「だああああああああぁ〜!!」

 

(──くっ! 脚が──前に出ない──ッ!?)

 

(──ッ! 外が空いた! ──ここからッ!)

 

(──スペちゃんが仕掛けた! ──ならアタシもそろそろ行きマァァス!)

 

 

『残り400のハロン棒を通過! セイウンスカイ先頭! ──しかし後ろから! 間を割ってスペシャルウィークがやって来た! 間を割ってスペシャルウィーク! 先頭を走るセイウンスカイに──並ばない! 並ばない! あっという間に交わした!? スペシャルウィーク先頭に立った!!』

 

 

「──なんでッ!? ──くっそおおおおおおおぉ〜〜!!」

 

「やああああああああああぁ〜〜!!」

 

「──コオゥ…いざ──参りマァァァァス!!」

 

 

『スペシャルウィーク先頭! ──しかし内からエルコンドルパサーの強襲〜〜!! もの凄い脚で! 無敵の怪鳥が翼を広げて襲い掛かる!!』

 

 

「はあっ! …はあっ! …はあっ! …くっ!」

 

「ゔゔあああああああああああああああぁ〜〜!!」

 

 

『エルコンドルパサー並びかける! スペシャルウィークこれは苦しいか!? スペシャルウィーク負けるのか!? ──』

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 ───それは、忘れていた久しぶりの感覚……目の前に…とても大きくて、重くて、硬くて、冷たい…そんな扉が…目の前に立ちはだかる感覚…

 

 

 いつもは、自分がしっかりと前に進んで成長出来ているんだ。って感覚しかなくて、そんな扉が立ちはだかる事は無い……

 だけど…小さい頃から何度か、その扉が突然目の前に現れて…私の行く手を阻んで来る感覚……目の前が…不安と恐怖で…真っ暗になる感覚…

 

 

 その瞬間…私の中の弱い自分が、色んな事を囁いてくる。

 

 

「もう諦めたら?」

「この道は無理だったんだよ。別の道を探そ?」

「なんでこんな恐くて苦しい道を行こうとするの? …ほら、こっちに楽な道があるよ?」

「私には無理だったんだよ。だから諦めて引き返そう?」

 

 

 そんな囁きが私を支配して…泣きそうになって…もう全てを諦めそうになる…こんな道、もう進むのを止めようと思ってしまう…

 

 

 ……だけど…だけど、私は…今までこの道を進むのを…諦めた事は無い! 道を逸れた事も無い! 楽な道に逃げた事も無い! 引き返そうと振り向いた事も無い!

 

 

『───ッ! ───ッ!』

 

 

 ……だって──ほら、聞こえるから。扉の向こうで一生懸命、私の事を呼んでくれてる声が聞こえるから。

 

 

『──れッ! ──んッ!』

 

 

 大好きな人が、扉の向こうで待っててくれてるって分かっているから。

 

 

『──ばれッ! ──ちゃんッ!』

 

 

 私なら目の前の扉を開けられるって、そんな事に負けるはず無いって、ずっと信じてくれているから。

 

 

『──んばれッ! ──ペちゃんッ!』

 

 

 その大好きな人に──お兄さんに! 私も胸を張って逢いに行きたいから!

 

 

『頑張れ〜〜ッ!! スペちゃ〜〜んッ!!』

 

 

 ──その声が聞こえたと同時に、扉が開かれた感覚と同時に、私の意識は…再びレースへと引き戻された───

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

『──スペシャルウィーク苦しいか!? スペシャルウィーク負けるのか!?』

 

 

 

「───諦めるもんかああああああああぁ〜〜!!」

 

「───ッ!? 嘘ッ!?」

 

 

『な、なんと!? スペシャルウィーク! なんとここからもう一度加速した!? 信じられない!? 残り200m!! 並びかけたエルコンドルパサーを! もう一度突き放す〜!』

 

 

「やああああああああああああああああぁ〜〜!!!」

 

「──負けるもんか! 負けるもんか! 負けるもんかぁぁ〜〜!!!」

 

 

『スペシャルウィーク先頭!! エルコンドルパサーも猛追するが差が詰まらない!? スペシャルウィーク! その瞳に二冠が見えたのか! 確信したのか! 二冠へのロードが開けたか!? スペシャルウィーク更に差を広げる!!』

 

 

『千切った! 千切った! スペシャルウィーク5バ身差!! エルコンドルパサー2番手!! 離れた3番手にセイウンスカイ!! これは強い!! スペシャルウィーク! 今年のダービーを伝説に変えて今───ゴォーールイン!!』

 

 

『圧倒的強さ〜〜!! スペシャルウィーク!! 堂々と、無敗の二冠達成〜〜!! 一瞬並びかけたエルコンドルパサーを、最後は寄せ付けませんでした!! 無敗対決は! スペシャルウィークに軍配です!』

 

 

「はあっ! …はあっ! …はあっ! …はあっ! …はあっ…はあっ…」

 

「はあっ! …はあっ! …はあっ! ──くっ! ──ッ!」ギリッ!

 

「はあっ! …はあっ! …はあっ…あ〜〜…完敗か〜〜…」

 

(はあっ…はあっ…はあっ…下を向いては──いけないッ!)

 

 

『──ッ!? そしてなんと!! 勝ちタイムは──2分21秒6!! 2分21秒6です!! とてつもないレコードタイムを叩き出しました!!』

 

 

『いや、解説の武富さん! 本当に…本当にもの凄いレースを見せてくれましたね! スペシャルウィークは!』

 

『……いや〜…本当に驚きました…まさかあそこからもう一度加速するなんて…タイムはもちろんですが、道中あれだけ苦しい流れでこれだけのレースをしてみせた……もう天晴れとしか言い様がないですね』

 

『道中は完全なスペシャルウィーク包囲網が出来上がっていましたもんね…そんな中での、ラストの直線のあの豪脚!! エルコンドルパサーすら寄せ付けませんでしたね!』

 

『エルコンドルパサーも従来のレコードタイムを上回る…それぐらいの走りをしていますから、スペシャルウィークが如何に強かったか。という事が分かると思いますね…』

 

『これほどの強さ…これはもう、三冠も夢どころか…それすら通過点にしてしまうんじゃないか? と期待してしまうんですが?』

 

『今日の走りを見る限り…三冠は取ってくれると言ってもいいんじゃないでしょうか? 本当にそれ程の走りでしたから。1人のウマ娘ファンとしても、彼女がこれからどこまで強くなるのか…それがとにかく楽しみで仕方ありませんね〜』

 

『武富さんの仰る通り、このダービーで更に強くなったスペシャルウィーク! 本当にどこまで強くなるのか!? 改めて1着は⑤スペシャルウィーク!! 無敗の二冠を達成し、秋の京都へ! その伝説は引き継がれます!!』

 

 

 

───

──

 

 

 

 レースが終わって…私はまだ…息を整えるのに精一杯だった……脚に痛みとかは無いけど……立っているのもちょっと苦しい……立っているのが苦しくなり、ターフに両膝と両手をついて呼吸を整える……少しずつ楽になってきた…意識がしっかりとしてくる。

 

 

 そんな私の頭上に影が降りる…そこには涙で少し目を腫らしながら、私に手を差し伸べてくれるエルちゃんの姿と、同じく手を差し伸べてくれる、セイウンスカイさんとキングヘイローさんの姿があった。

 

 

「はあっ…はあっ…皆んな?」

 

「…スペちゃん…大丈夫デスか?」

 

「大丈夫? スペちゃん? ほら、手を取って」

 

「どこか痛めたりしてない? もしそうなら、ちゃんと言いなさいな」

 

 

 そう心配そうに手を貸してくれる皆んなに、「ありがとう! 大丈夫だよ」と伝えて手を取ってもらい、立ち上がる。そんな私に、皆んながそれぞれ言葉を掛けてくれた。

 

 

「スペちゃん…一先ず…おめでとうございマス! …デスが! アタシは同じ相手に二度は負けません! 今度はアタシが勝ちますからね、スペちゃん! ──だからッ! アタシがスペちゃんに勝つまで、誰にも負けないでくださいね? 約束デスよ!」

 

「エルは熱いね〜。…でも残念だけど、その約束は果たせなくなるかもしれないよ〜? …私が先にスペちゃんを倒すかもしれないからね〜」

 

「私も負けないわッ! 相手が強ければ強いほど…私も強くなるだけ! スペシャルウィークさん、首を洗って待ってなさいな!」

 

「皆んな……うん! 私だって! 次も絶対負けないからね! …だから、また一緒に走ろうね!」

 

「「「もちろん(デェェス!)(〜!)(よ!)」」」

 

 

 皆んなと再戦の約束を行い、同じく出走していた人たちとの挨拶も終え、私はゴール前のスタンドで──約束通り信じて待っていてくれていた、大好きな人の元へと駆け寄る。

 

 

「──お兄さん!」

 

「──スペちゃん! お疲れ様ッ──本当に…本当におめでとう! スペちゃん!」

 

「──ッ!! お兄さんッ!!」

 

 

 お兄さんの声に我慢出来なくなり…私は再び、お兄さんの腕の中へと飛び込んだ。また記事になってしまうかもしれない…噂されてしまうかもしれない…けど、それでも…この衝動を抑える事は出来なかった。

 

 

「私──実は最後…もうダメかもって、諦め掛けたんです…でも、お兄さんの声が…必死に応援してくれる声が聞こえたから…私、最後まで諦めずに走る事が出来ました」

 

「──ああ。凄い走りだったよ…本当に凄い走りだったよ、スペちゃんッ!」

 

「──ありがとうございますッ…本当にッ…本当にッ…ありがとうございますッ…お兄さんッ──やっぱりお兄さんは、このブローチの花言葉通りの人でした!」

 

「──ッ…スペちゃんッ…お礼を言うのは俺の方だって…いつも言ってるだろッ? …俺の方こそ…今日も本当にありがとうッ! …頑張ったねッ…スペちゃんッ…本当におめでとうッ!」

 

 

 故郷のお母ちゃんも! 天国に居るお母ちゃんも! 見ててくれた? 2人のお陰で、お兄さんのお陰で、皆んなのお陰で、私…やったよ! ダービーウマ娘になれたよ!

 

 

 私も、お兄さんも、それが嬉しくて嬉しくて…涙が止まらなくて…また力強く抱きしめ合いながら、私たちはしばらくの間…お互いに「ありがとう」を言い合った。

 

 

 

 …カランコエのお花のもう一つの花言葉は──

 

 

『あなたを守る』

 

 

 ──最後にお兄さんは、私の事をちゃんと守ってくれましたよ!

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 ●レース後・東京レース場

 

 

「──ここに居たのか…お疲れさん。ドンマイだったな…おハナさん。」

 

「──貴方も来てたのね。慰めは不要よ…完敗だったわ…」

 

「まあ…ありゃあスゲェわ。スペシャルウィーク…まさかここまでとはな〜…てか、なんか毎回度肝抜かれてる気がするけど」

 

「エルがあそこまで完敗するとは…正直思わなかった…途中までは勝ったと思ったぐらいだったから」

 

「俺も…途中まではエルコンドルパサーが勝ったと思ったね。…ただラスト、スペシャルウィークはレースの最中にも関わらず、更なる成長を遂げてみせた……恐れ入ったね…マジで。これで更に彼女は強くなっちまった…」

 

「…私も驚いたわ。でも、だからこそ挑む価値のある相手よ。今日は完敗だったけど…今日の負けが、エルをもっと強くしてくれるわ」

 

「だろうな〜…それはそうと…他のメンバーは? …まさかおハナさん1人で来たの?」

 

「そんな訳ないでしょ? 全員、今は先にエルの労いに行ってるわ。私もそろそろ向かわないと。…そう言う貴方こそ、今日は1人で来たの?」

 

「俺の方も、スズカがスペシャルウィークに会いに行ったのに置いてきぼりを喰らっただけだっつーの」

 

「…そう。いつも言ってるけど、ちゃんと手綱を握っときなさいよね」

 

「俺は放任主義なんだ」

 

「またそれ…ハァ…もういいわ」

 

 

 学園二台巨頭のチームを率いる2人のトレーナー。

 日本ダービーの直後、その2人の間にこんなやり取りがあったとか…

 




 ここまで読んで下さってありがとうございます!


 色々と書き殴っていたら…こんな長さになってしまいました。次回は上半期の評価、夏合宿に向けての日常会になると思います。スペちゃんが無敗の二冠達成ですからね〜。そろそろ理事長やたづなさんが黙っていないかも…?


 ここからは軽く、周りの人たちの主人公の印象と、主人公側の印象を書いております。今回は現時点でのチームスピカの面々です。



 ・主人公に対する印象

 スズカさん→スペちゃんのトレーナーさん。直接の交友はあまりないが、スペちゃんからよくお話し(惚気)を聞くため、良い人なんだろうなと思っている。以前にスペちゃんが分けてくれた、いちご大福が絶品すぎてまた食べたい…夏合宿、是非いらしてください。

 ゴルシちゃん→面白すぎるトレぴっぴ。指導方法はもちろん、以前に麻袋で拉致しようとしたら…隙が無さすぎて断念した。夏合宿、絶対にウチとやれよ!

 ウオッカ→憧れのスペ先輩のトレーナー。ウチのトレーナーと違って、羽振りが良さそうなのがちょっと羨ましい。夏合宿、スペ先輩と一緒にやりたいので是非!

 スカーレット→憧れ・ライバル心を持つスペ先輩のトレーナー。あと、ちょくちょく学園内の設備などを直してくれてる事を知っている為、器用な人なんだなと思っている。夏合宿、よければ是非に!


 ・主人公側の印象

 スズカさん←スペちゃんのルームメイトさん。いつもスペちゃんからお話しを聞くので、今度何かお礼を…と思っている。何故か直感がいちご大福を告げてくるのだが? …夏合宿、迷ってるんですよね…

 ゴルシちゃん←よく法被を着て焼きそば売ってる娘。まだ交友がないのでよく知らないが…あの妙な気配、君だったのかい…夏合宿の返事はもう少し待ってね。

 ウオッカ←まだ交友が無くてよく知らない…沖野さんそんなにケチなの? 見た目からはそうは見えないけど…夏合宿は待ってね…

 スカーレット←まだ交友は無いが…よく眼帯をしている姿を目にするため、厨二病なのかな? って思っている事は内緒。君も!? ごめんね、お返事もう少し待っててね。


 次も少しでも読みやすくなるように、頑張って書いていきます!

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