遠ざかっていく二人を見て一旦は安全となった。ひろしはサーヴァントの戦いを間近で見るのは初めてであったが、それほど不安はなかった。
凛「とりあえず、危険な状況から脱したって所だけれど…。」
何か考える凛を横目にひろしはイリヤに話しかけた。
ひろし「イリヤは今回の聖杯戦争に参加している人間について知っているのですか?」
イリヤ「いえ、全く。でも御三家は私も含めて確実に参加者に入っているだろうからそこだけ知ってるわ。」
ひろし「でしたら今、そこで横になっている人は知らないということでいいですね?」
イリヤ「その人は御三家ではないけれど知ってる。一度も忘れる事はない程、この頭に焼き付いてる。今回の聖杯戦争に参加者としていなくても殺す予定だったし。」
ひろし「参加者以外を殺す事にイリヤは迷いはないのですか?もしかして何か恨みでもあるのですか?」
イリヤ「恨みというかなんというか……。私の父親である…いや、あった人がここ日本に住んでいてそれでいて養子をとって…。」
イリヤの顔から笑顔が消え、悲しそうな、それでいて怒っているような顔になった。
ひろし「もしかして、話したくない事でしたか?もしそうであればすいません。今後から気おつけます。」
イリヤ「いいの。もう終わった事だし。それに今ここでこの………衛宮士郎を殺せれば私は満足よ。」
ひろし「ですが殺すにしても今はマズイのでは?近くには遠坂のマスターがいますし。やるならここから去ってもらうか、ついでに殺す事も考えなければいけません。それでも殺るのですか?」
イリヤは少し考える。遠坂のマスターがいる状態で衛宮士郎を殺すか、それとも一緒に殺すか。いくらマスター一人だったとしてもそれなりには抵抗されるだろう。
凛「ちょっとそこの二人!何さっきからブツブツ話してるの?さっさとこの家の主を中に運ぶわよ。目覚めたら直ぐに説明して一旦、身の安全が守られる様にしなきゃね。」
イリヤ「ええ、そうね。ひとまずはそうしましょ。さてみんなで運ぶわよ、ひろし。」
ひろし「分かりました。そうしましょう。」
凛「物分かりが良くて助かるわ。」
凛、イリヤ、ひろしで横たわる衛宮士郎を家の中に運んだ。とりあえず、居間に運び終わった一行は衛宮士郎が目覚めるのを待った。
衛宮士郎「うぅ、どうなってるんだ…。はっ……俺は確かにあの槍で胸を刺されたはずだ。なんで生きて…。」
士郎は目覚めたと同時に周りを見渡した。
士郎「うわぁ!!なんだお前ら!なんで俺の家に…。」
凛「やっと起きたのね。ずいぶん長く眠ってたけど、体に以上はない?」
士郎「いや、特に違和感は感じない。もしかして遠坂がやったのか?」
凛「そうよ。貴方を助ける様に高い宝石使ったんだから目覚めてもらわなきゃこっちが困るわ。」
イリヤ「でも目覚めるまでずっと心配そうな顔して見てたじゃない。凛、正直に言った方がいいわよ。」
凛「何よ急に喋ったと思ったらそんなこと!?私は全然気にしてなんかないんし。そんな風に思われても困るんだけど。」
イリヤ「あら、凛ったらそんなに焦ってどうしたの?もしかして図星って奴かしら?だったらごめんなさい。」
凛「なんなのよこのガキ!やっぱり今ここでどっちが上か分からせなきゃならないわね。」
イリヤ「今ここでやるの?だったらただじゃ返さないんだから!覚悟しなさい!」
今にも戦いになりそうな勢いの二人を直ぐにひろしと士郎で仲裁する。流石に家の中で暴れられても困る。家主である士郎だけではなくサーヴァントであるひろしも加わったため直ぐに収まった。
ひろし「とにかく二人とも落ち着きましょう。喧嘩していては話しもまとまりません。」
士郎「そうだ、この人の言うとおりだ。まず俺はこの状況を説明してもらいたいんだが?いいか?」
凛「分かったわ。説明するから座って座って。」
少女説明中………
凛「…って事なんだけど理解した?」
士郎「ああ。だいたい理解できたけど、これから俺はどうすればいい?」
凛「衛宮君は巻き込まれたんだから教会に行ってエセ神父にどうにかしてもらいなさいって言いたい所だけど…。貴方、魔術師でしょ!いくらヘッポコでも見逃さいないわよ。もしサーヴァントを召喚して聖杯戦争に参加するって言うなら貴方は今日から敵よ。」
士郎「いきなりそう言われても。俺は爺さんが叶えられなかった夢をついで、今まで生きてきた。もし今後、俺みたいな奴が出てくるってなら見過ごせない。遠坂の言うとおり俺はペッポコ魔術師だけどそれでもだ!この覚悟は揺るがない。」
透き通るような声で宣言する士郎に凛はすこし圧倒された。だが凛とてこの程度では引き下がらない。
凛「アンタがどう生きようと私は関係ないけど。聖杯戦争に関わるって言うならそう易々と見逃さいないの。これは私が御三家の一人とかで言ってるんじゃない。一人の魔術師としてアンタに言ってるのよ。」
士郎「それでもだ!俺は俺に出来ることをするつもりだ。」
凛「衛宮君は折れないわね。じゃあ明日から魔術について教えてあげる。でも勘違いしないでちょうだい。貴方が直ぐに死んじゃいそうな人間だから教えるのよ。」
士郎「遠坂って意外と優しいんだな。ありがとう。俺なんかの為に。」
凛「私は大迷惑よ。貴方みたいな弟子を持つなんて。」
そのやり取りを直ぐ横で聞いていた二人は入る余地が全くなく、気まずい空気にさいなまれていた。
イリヤ「それで二人共、話はまとまったかしら?」
凛「ええ。問題なく。」
士郎「俺も特にないぞ。ところで貴方は誰なんだ?良ければ名前を教えてもらえれば幸いだが。」
イリヤ「せっかくだから教えてあげる。」
イリヤはその場にそっと立ち、深呼吸して口を開いた。
イリヤ「私の名前はイリヤ。フルネームは教えない。なぜなら貴方は今日ここで死ぬのだから。」
空気が凍った。その場は一気に静まり返った。
凛は直ぐに立ち上がり、士郎の手を引き外を目指して走る。
イリヤ「全く二人共。急に焦っちゃって。そんなに逃げなくてもいいのに。」
イリヤは二人の後をゆっくりと追う。
イリヤ「なんで逃げるの?もしかして………逃げられるとでも思ってるの?この私とサーヴァントから。」
イリヤはまるで無邪気に喋る子供の様に言った。
一方二人は庭に出てアーチャーの帰りを待ちながらその間、イリヤを迎え撃つ為に作戦を立てていた。
凛「まさかとは思ったけれどあの場であんなこと言うなんて。やっぱり素性が分からない敵マスターを家に入れるべきじゃなかった。」
凛は焦った。あのマスターであるイリヤという名の少女とそのサーヴァント。未だ力は未知数であるためサーヴァントであるアーチャーがいなければ即死もあり得るかもしれない。そんな恐怖もあり、判断に困る。
士郎「遠坂。今からどうする?もうすぐイリヤがこっちに来る。俺は投影魔術と強化ならできるけど。」
凛「そんなんじゃ普通は少しの時間稼ぎにしかならない。それにここには強化できる様な物は何もないし。今はアーチャーが早く戻ってくるのを待つしかない。私も宝石が残り少ないから外したら状況はもっと悪くなるし。」
士郎「じゃあどうすればいいんだよ。ここで俺はペッポコなりの投影魔術で抗うしか方法はない!その間に凛はアーチャーと合流してくれ。そしたら二人共一気には死なないはずだ。」
凛「そんなの駄目よ。貴方は魔術師とはいってもそれ以外は一般人と変わらない。そんな貴方がマスターとサーヴァントの二人を一気に相手できる訳ないでしょ!」
イリヤ「話はもう終わったかな?まさか庭で待ってるなんて私も舐められたものね。でも覚悟しなさい。私のサーヴァント……バーサーカーは絶対に負けないんだから!」
凛「っ!バーサーカーですって!?そんなの私達じゃもって数分って所か…。いや、状況はもっと最悪ね。」
士郎「凛!バーサーカーってのはクラス名だったよな?さっきイリヤの隣に座ってた奴がそうなら宝具に気おつければまだ何とかなるかもしれないぞ!」
凛「そうだけど。正直にいって宝具を使われた時点で私達は人間なのよ?ランサーの様なものだったらひとたまりもないわ。」
そうこうしていると不気味な空気が漂って来たのがその場にいる全員に伝わってくる。
凛「何よあれ…。もしかしてあれがサーヴァント…。」
凛が絶句するのも無理はない。なぜならバーサーカー……ひろしの宝具だなんて初見では理解できない。そしてそれは全くの未知の生物であるならなおさらだ。
凛「くっ!士郎!何かここで直ぐに武器を投影できる?できれば短剣でお願い。私が引き付けてる間、貴方はあの倉にくくれてなさい!出たら駄目よ!」
青鬼は待ってはくれない。扉から出てきて直ぐに凛達の元へと足を進める。幸い走れば追い付かれない程のスピードだが相手に止まる気配は感じられない。凛は追い付かれないように距離をとりつつ、士郎からの武器の提供を待つ。
凛「士郎!まだできないの?このまま走り回ってるのは流石にキツイ。」
士郎「分かってる。」
士郎は目をとじて唱える。
投影開始
頭の中で短剣を思い浮かべる
少しづつ剣は作りあげられてゆきそして完成する。
士郎「凛!受け取ってくれ!」
士郎はそう叫ぶと凛めがけて短剣をなげ渡す。
凛「ありがとう。衛宮君。貴方は倉に隠れてなさい。てできても足手まといだから。」
凛の言っている事はごもっともだ。確かにこの場において衛宮士郎は最弱だ。無理に戦えば最悪の場合死ぬだろう。だが亡き養父の願いが頭をよぎる。ここで凛一人に戦わせて良いのかと。自分もあそこに加わり、命をかけて守らなければいけないのではないのかと。士郎は考えた。一人、倉の中で必死に考えた。外ではあの化け物に追い付かれない距離を保ちつつ剣を振るう同級生がいるのだ。自分だけ助かっても意味はない。この結論に達した士郎は倉の中、亡き養父との会話を思い出す。
???「士郎。僕はね、正義の味方になりたかったんだ。だけれどなれなかった。多くのものを失ったんだ。少しのものを救うためにね。」
士郎「だけどその少しのものを助けれたのなら十分立派な正義の味方だと思うぞ。爺さん。」
???「そうだね。確かに救えたさ……。突然だけど僕は昔、ある戦いに参加していたんだ。その戦いの中では多くの人が命を失っていくんだ……。奪っては守っての繰り返し。その果てに自分のお願いが叶うというものの為に僕はいろんな人達を利用した………。遠い昔の英雄の力すら利用した程だ。もはや取り返しがつかない所まで進んでいたんだ。」
士郎「英雄の力って一体なんなのさ?」
???「…それは士郎は知らなくて良いことなんだよ。知ってしまえばその時には元の生活には戻れない。そんな覚悟をして僕は士郎に生きてほしくないんだ。あんなものには関わらない方が身のためだよ、士郎。どうしても知りたいのなら………自分で答えを見つけれるようになったらにしなさい。でないと士郎も……僕と同じ運命をたどることになってしまうからね。」
士郎「そうだ!あの時の爺さんの話は本当だったんだ!凛が言うには英霊は召喚しなければいけないはずだ!でも俺はやり方が分からないしどうすれば…。」
士郎は自分の非力さに涙がでた。扉の向こうでは今も戦っている人間がいるのに自分は何もできない。床に書かれた魔方陣を見て、ただただ祈るそうに喋る。何でも良い。この状況を打破する力を持つ者が来てくれることを誰よりも士郎は願った。
こんな士郎に神が答えたとでも言うのだろうか。魔方陣は光輝き、士郎は感動の余り言葉がでない。
そうこうしていると煙と共に一つの影が士郎の前に現れた。
???「貴方が私のマスターか?」
士郎はそう問われ、すぐに頷いた。
???「そうでしたか。では改めて貴方が私のマスターであることを承認しました。これより私は貴方のサーヴァントになります。クラス名はセイバー。以後お見知りおきを。」
士郎「ああ。…俺は…士郎。衛宮士郎だ。」
セイバー「衛宮士郎…。良い名ですね。了解しました。」
士郎「これからは呼ぶときは士郎でいい。」
セイバー「そうですか…士郎…。この方がしっくりきますね。では早速、外にサーヴァントとそのマスターがいるみたいですね。どうしますか?士郎。」
士郎「外にいる黒髪の女の人は今は仲間だ。敵サーヴァントのバーサーカーと戦ってくれてる。手を貸してくれ。セイバー!」
セイバー「分かりました。」
そうセイバーが言うと直ぐに扉を開けて外にいる青鬼に切りかかる。
凛は突然、倉から出てきたサーヴァントに驚いたが敵対心は無いことが分かった。寧ろこちらの手助けをしてくれると直ぐに理解した。
セイバー「バーサーカー!!貴方の相手はこの私です。かかってきなさい!」
青鬼は片手で近くにいる凛を弾き飛ばすと、すぐさまセイバーに迫った。
セイバー「やはりバーサーカー。見事にまともな会話ができませんね。ですが負けるつもりはない!」
セイバーは剣を横にして青鬼の首を跳ねようとした。見事に首に剣は当たったが、深く傷が入らずに止まった。流石のセイバーも初めての事で動揺したがすかさず今度は頭を真二つにする為に一度体制を取り直して切りかかった。
セイバー「はぁぁぁぁ!」
青鬼「………」
青鬼は頭に剣が振りかざされてなお微動だにすることなくセイバーに一歩一歩迫ってゆく。セイバーは頭に剣が刺さったのにも関わらず顔色一つ変えず、声も出さない事に不気味さを感じずにはいられなかった。
イリヤ「ねぇちょっと待ってよ。何でここにまたサーヴァントが増えてるの?まさか士郎のサーヴァント?」
セイバー「(あの少女がバーサーカーのマスターなのか?それなら先に彼女を狙えば…いや、私は騎士道に即かない。今はバーサーカーを相手にしているんだ。他は士郎達に任せる他ない。)」
イリヤ「何よそこのサーヴァント。そんな立派な剣を持ってるならきっとクラスはセイバーってとこでしょうね。でも残念。私のサーヴァントはただのサーヴァントじゃないのよ。他にはない唯一無二の存在よ!負けるはずがないわ!」
そうイリヤが言った途端に青鬼のスピードが上がる。
セイバー「くっ!更にスピードが上がっただと?それにさっきからその体の頑丈さ。やはりただ者ではない!」
青鬼は容赦なくセイバーめがけ走り、両手でその剣を掴もうとした。
セイバー「何!?」
突然の相手の行動に驚いたがすぐさま振り払い、切りかかる。
青鬼は再び剣を掴もうと迫る。
セイバー「ここは一つ、私と競争しましょう。貴方はどうやら足には自信がありそうだ。」
セイバーはそう言うとバーサーカーの位置を確認しながら衛宮家から離れた場所まで移動した。
今回は少し長めに書きました。
眠いのでもう寝ます、おやすみなさい。
また次回。