ようこそきよぽん先生の教室へ   作:いろはす@

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最終話:最高傑作の敗北

「それでは、これより特別試験の結果を発表する。1位は410ポイント・・・」

 

 

無人島サバイバル5日目。砂浜に並ぶ生徒たちを見渡すと、オレは高らかに試験の終了を宣言・・・出来なかった。

 

 

「ま、待ちなさい!綾小路先生!」

 

 

「どうした、堀北・・・先生?」

 

 

彼女にしては、ずいぶんと間の悪い横槍だな。

 

 

「こういう時は、最下位から発表するものよ」

 

 

「え?そうなのか・・・」

 

 

コントみたいな遣り取りを経て、ようやく教師人生初の無人島特別試験は終了した。正直なところ、もう二度とやりたくない。

 

 

そして、その結果だが・・・先に補足しておくと、担任がリタイアしたら、そのクラスは自動的に失格扱いとなるそうだ。(初耳)で・・・Aクラスは、堀北が夜間もショートパンツで歩き回り、敢えなくリタイア。南の島とはいえ、夜は結構冷えるのだ。Bクラスは、椎名が読書に夢中で点呼を忘れてポイントを大量に喪失。見事な反面教師である。Cクラスは、龍園が初日に謎のリタイア。詳細不明。結果的に、オレのDクラスが棚ぼたでひとり勝ちした。て言うか、多額の予算をかけた無人島試験が、こんな結末で良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「なにをしているのかしら?」

 

 

その言葉に、オレはパソコンから視線を上げた。そこに居たのは、Aクラス担任の堀北鈴音だ。

 

 

いま、豪華客船は一路、太平洋を北上中である。明日には横浜港に到着するだろう。え?干支試験?いや、実は作者自身、あれの仕組みがよく分かっていないので・・・汗(以下省略)

 

 

「身体はもう大丈夫なのか?」

 

 

「ええ、問題ないわ。有り難う。それで、パソコンとにらめっこしてどうしたの?」

 

 

「ああ、ちょっと二次創作小説を書いているんだが、これが意外と難しくてな」

 

 

最近、ふとしたきっかけで書き始めてみたのだが、意外に奥が深い。いまでは、無趣味だったオレの毎日に、ささやかな彩りを添えてくれる存在だ。但し、仕事中に限って良い文章が浮かぶのは、甚だ困りものであるが。(爆)

 

 

そこまで考えて、はたと気付く。しまった・・・!頭を過る後悔の念。堀北の問いかけに、思わずバカ正直に答えてしまったが・・・散々弄られて、黒歴史が増える未来しか見えない。

 

 

「そう・・・どんな話なの?」

 

 

ところが意外にも、彼女は驚くでも揶揄してくるでもなく、普通に食い付いてきた。ほぅ・・・ならばここはひとつ、すずのん先生に相談してみるとするか。

 

 

「オレ自身の高校生活を題材に、実力至上主義の物語をハーメルンへ投稿してみたんだが・・・正直、反応が芳しくない。お気に入りは増えないし、UAもさっぱりなのに、やたらと0点や1点評価ばかり入るんだ。だからいまは非公開にしてある」

 

 

いまさら隠したところで仕方ない。手短に経緯を説明する。ホワイトルーム以来、常に勝利し続けてきたオレにとって、それはあり得ない状況だった。まさか、ずっと求めていたもの(敗北)を、こんな形で手にすることになるとはな・・・。・゜・(ノД`)・゜・。

 

 

「・・・ホワイトルームの最高傑作。そんなあなたの書いた二次小説が爆死?冗談でしょう?」

 

 

心外だと言わんばかりの表情を浮かべる堀北。評価して貰えるのは嬉しいが、現実は厳しいんだぞ?

 

 

「あの部屋では、人を惹き付けるような文章の書き方は習わなかったからな。当然の結果と言えるのかも知れない」

 

 

知識偏重のカリキュラムによる弊害が、いまごろになって表面化してくるとは皮肉なものだ。やはりどこまで行ってもオレは不良品、欠陥品なのだろう。

 

 

「なるほど・・・どうやら、全く相手にもされなかったようね。よほど酷い出来だったのかしら?」バッサリ

 

 

容赦ない彼女の言葉が、刃となって襲いかかる。いまのオレには、龍園のパンチなんかより100倍効く。

 

 

「ジャンルにもよるけれど、タイトルやタグ付け、それに投稿時間などにも配慮する必要があるわ。もちろん、文章の読みやすさも重要よ。それで言うと、台本形式なんて論外ね。あと、誤字脱字や言葉の係り受けにミスがあるようでは、そもそも話にならないわ」

 

 

歯に衣着せぬ、いかにも鈴音らしい物言いだ。しかも、それらがほぼすべて的を射ている。さすがと言うしかない。

 

 

「ずいぶん詳しいな。まさか、執筆経験があるのか?」

 

 

むしろ、そうとしか思えないんだが。

 

 

「いいえ、無いわよ。以前兄さんがpixivに投稿していたから、見よう見まねで知識だけは身に付いたの。実は兄さん、かなりのファンを抱える人気二次創作作家なのよ?」

 

 

衝撃的な事実に内心の驚きを隠しつつ、オレはさらに尋ねた。上手く行けば、この状況を打破するきっかけになるかも知れない。

 

 

「そうだったのか・・・それで、お前の兄貴はどんな小説を書いていたんだ?」

 

 

これがもし『よう実』ジャンルの二次小説だったりしたら、オレの勝ちは決まったも同然だ。これからは、密かにヤツを師匠と呼ばせて貰うとしよう。(他力本願)

 

 

「悪役令嬢モノとか、ヤンデレストーリーよ。なんか、いつもやけに長ったらしいタイトルばかりだった覚えがあるわ」

 

 

・・・残念だが、あまり参考にはなりそうもない。

 

 

失礼極まりない感想を抱くオレの前で、思い出したように堀北はスマートフォンを取り出した。

 

 

「兄さん、仕事が忙しくて最近は更新していないみたいだけれど、過去の作品は残っていたはずよ・・・あら?」

 

 

彼女の手が止まる。

 

 

「兄さんのアカウント、規約違反で停止されているわ。どうしたのかしら?」

 

 

な、なにをした?学・・・(戦慄((( ;゚Д゚))))ココハダレ?ワタシハドコ?

 

 

「まぁ、いいわ。それよりいまは、あなたのことね。私は何をすればいいのかしら?」

 

 

・・・あっさり兄貴を切り捨てる妹。清々しいまでの兄離れっぷり(?)である。

 

 

「単刀直入に言う。公開前の下書きがあるんだが、それの手直しを頼みたい」

 

 

ハーメルンの編集画面を開きながら、オレは言った。他人にここまで見せるなんて、普通じゃあり得ないことだが、もはやなりふり構ってはいられない。このまま引き下がるわけにはいかんのだ!全軍をアムリッツァ星系に集結!これは命令である!(惨敗確定)

 

 

「分かったわ。ちなみに、あなたのアカウント名は?」

 

 

「最高傑作きよぽん、だ」

 

 

3日間かけて考案した名前である。匿名性が高く、かつオリジナリティー溢れるものだと自負しているのだが・・・

 

 

「はぁ  まずはそこからね・・・」

 

 

ため息とともに頭を抱える堀北。なぜだ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、見せて貰うわよ」

 

 

そしてオレはいま、堀北改めすずのん先生に、下書き原稿の手直しをお願いしている。初めて堀北学と交戦した、あの夜のシーンを書いた短編だ。

 

 

「ふむ・・・そうね・・・文法的には問題ないけれど、()()()()()()が足りないわね。それから、特殊フォントの多用はご法度よ。ブラウザが対応していないと、文字化けして意味不明になってしまうわ。あと、冒頭の『駄文です』ってなに?心にもないことを書くのはやめなさい。見透かされて、徒に読者を遠ざけてしまうだけよ」

 

 

一切の忖度無しでオレの駄文・・・ケホケホ!下書きを講評しながら、キーボードを叩く我らが()()()()。色々と半端ない。

 

 

「さあ、出来たわ」

 

 

暫くして、自信満々にパソコンから顔を上げる堀北。こんな短時間で・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~下書きここから~

 

 

『入学早々シスコンの兄さんに学生寮の裏手へ呼び出されたけど愛さえあれば関係ないよねっ』(仮題)

 

 

 

 

「わ、私は兄さんに追い付くため、この学校へ来ました・・・!」

 

 

息も絶え絶えに答える鈴音。両手首を拘束され、両足の間に膝を入れられた体勢のまま、背後の壁に押し付けられる。

 

 

「まだそんな事を・・・無理だと言ったはずだ」

 

 

一方、冷徹な瞳で言い放つ堀北学。もはや、実の妹を見るような眼ではない。

 

 

「い、いいえ!必ず追い付いて、Aクラスに上がってみせます!私はもう、あの頃の私とは違います!」

 

 

必死に縋る哀れな妹。日頃、クラスで見せる勝ち気な姿は影を潜め、単なる弱々しい美少女である。もし同級生たちがこれを見たならば、あまりのギャップに我が目を疑うことだろう。

 

 

「お前のような妹が居ると、恥をかくのはこの俺だ。今すぐこの学校から・・・ん?ほぅ・・・確かに、あの頃とは違うようだな、鈴音」

 

 

すると、にわかに眼鏡を光らせ、口角を上げる兄。何かを確かめるように、妹の身体をまさぐり始める。

 

 

「に、兄さん・・・?あ!な、なにを?あん♥️」

 

 

敬愛する兄に恥ずかしい場所を刺激され、甘い喘ぎ声を漏らす鈴音。敏感な娘である。

 

 

「む?そんな反応まで出来るようになっていたとは・・・全寮制で一人暮らしになったのをいいことに、勉学を放り出して()()()三昧か・・・やはりお前は不良品(絶品)だな。ちなみに、いまは週何回ペースだ?」

 

 

冷たい表情のまま、実の妹にとんでもない質問をぶつけるシスコン(学お兄ちゃん)。完全に手遅れである。

 

 

「えっ?!は、はい・・・ろ、6回・・・いえ、7回です・・・」

 

 

そして、羞恥に身体をくねらせながらも生真面目に答えるブラコン(すずのん)。こちらもまた、完全に手遅れである。

 

 

「なっ?ま、毎日だとっ?!オカズは誰だっ?!誰なんだっ!学お兄ちゃん許さんぞっ!!」

 

 

ぎらつく瞳で叫ぶ、歴代最高の元生徒会長。もはや、実の妹を見るような眼ではない。コイツらは、もうダメだ・・・物陰から様子を窺っていたオレは、ツッコミどころの多さにツッコむ気力すら失せていた。

 

 

「ふぅ・・・済まない。些か取り乱した。(自己解決)ところで今日は()()のようだな?ならば、俺が手伝ってやろう」

 

 

「えっ?!に、兄さん?あっ♥️」

 

 

言うが早いか、恥じらう妹を剥き始める兄。日頃、生徒会で見せる凛々しい姿は影を潜め、単なる変態である。もし橘書記がこれを見たならば、あまりのギャップに我が目を疑うことだろう。

 

 

「い、嫌!助けて綾小路君!」

 

 

事ここに至り、ようやくまともな反応を見せる妹。(手遅れ)もがきながら、なぜか変態兄さんの背後へ向けて声を張り上げる。そっちに誰か居るのだろうか?(すっとぼけ)

 

 

「くっ・・・!そいつか?!そいつなんだな?!」

 

 

嫉妬の炎を燃やす堀北兄と、名指しされて仕方なく飛び出すオレ。素早くヤツの右手首を掴み、その動きを封じる。

 

 

「オレも混ぜ・・・いや、彼女を離せ」

 

 

「本音はそれか (ToT)」

 

 

次の瞬間、振り向きざまに裏拳を繰り出すシスコン。凄まじい速さだ。

 

 

「あっぶな・・・!」

 

 

すんでのところで躱すと、オレは色々と丸見えにされた妹の前に割り込んだ。目隠しのためである。こんな事で、アカウントごと吹き飛ばされるのは御免だからな。

 

 

「あ、綾小路君?どうしてあなたがここに・・・」(猿芝居(人芝居)

 

 

「・・・お前が呼んだからだろ・・・?」

 

 

ちぐはぐな遣り取りをするオレたちの横で、戦闘態勢を解いた歴代最高(変態会長)が言う。

 

 

「鈴音、まさかお前に友達が居たとはな」

 

 

「いえ・・・彼は友達なんかじゃありません。ただのオナペットです」

 

 

「「えっ?!?」」(@ ̄□ ̄@;)!!

 

 

 

 

 

~下書きここまで~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、あとは『新規投稿』ボタンを押すだけよ、綾小路先生?」

 

 

鼻息も荒く、ドヤ顔で告げる堀北。その言葉を受けて、ブラウザの『閉じる』ボタンを押そうとしたオレの手を、堀北の手が遮る。

 

 

「ま、待ちなさい!あなたはいま『イギリスのコナン・ドイル』になれるかも知れないチャンスを、みすみす手離そうとしているのよ?!」カチッ(クリック音)

 

 

ひとつ聞きたいのだが、この駄文のどこに推理小説の要素が入っているんだ?あと、それを言うなら『日本のコナン・ドイル』だろ・・・

 

 

当然のツッコミを入れたオレだったが、迂闊にもそのあとの出来事を見落としてしまった。そう、彼女の右手がマウスを操作していたことを。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、綾小路君。なにをしているのですか」

 

 

オレのパソコンを抱えて逃げ回る堀北をつまみ出し、主に精神的な理由でぐったりしていると・・・まるでタイミングを計ったように新たな人影が現れた。穏やかに微笑むBクラスの担任、椎名ひよりだ。

 

 

「ああ、ちょっと二次創作小説を書いていたんだが、これが意外と難しくてな」

 

 

し、しまった・・・!またも頭を過る後悔の念。椎名の問いかけに、思わずバカ正直に答えてしまったが・・・無類の本好きな彼女のことだ。暴走してオレの黒歴史が増える未来しか見えない。

 

 

「っ?!な、ならばデビュー作はぜひ、私と綾小路く・・・ケホケホ!ヒロインと主人公の激しいベッドシーンから始めましょう!読者は最初の3行で作品の評価を決めてしまいますから、冒頭で一気に彼らのハートを掴むんです!それから、サービスシーンで犠牲になる役回りは、堀北さんや一之瀬さん、坂柳さんあたりに演じて頂くのはいかがですか?皆さんまとめて、モブ変態おじさんの餌食になって頂きましょうね!うふふふ・・・楽しみです。( *´艸`) 」

 

 

案の定、唇が触れ合わんばかりに急接近して来ると、興奮気味に言い募る椎名。やはりこうなった・・・(´д`ι)

 

 

「わ、分かったから、少し堕ち・・・ケホケホ!落ち着いてくれ」

 

 

「す、済みません!つい・・・」(*´Д`)ハアハア

 

 

そしてオレは結局、彼女にもお悩み相談をすることにした。もっと正確に言えば、国語科教師である彼女の、圧倒的な読書量に裏打ちされた文章力に期待したのである。果たして、返ってきた対応策は堀北と同じものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、拝見させて頂きますね」

 

 

そしてオレはいま、椎名改めひより先生に、下書き原稿の手直しをお願いしている。今回は、龍園たちとの戦闘シーンを描いた短編の修整を頼んでみた。下手にフリーハンドを許すと、いきなりベッドシーンを書き始めかねないからな。

 

 

「ふむ・・・そうですね・・・良く書けているとは思いますが、()()()()()()が圧倒的に足りないかと。それから、いちいちセリフの前に発言者の名前を併記するのは興醒めです。速攻でブラウザバックしたくなりますね。あと、冒頭の『駄文ですが』は本当に目障りです。自分でそう思うくらいなら、はじめから投稿しなければ良いのです。下手に卑下すると、却って読者を遠ざけてしまうだけですよ」

 

 

これまた一切の忖度無しでオレの駄文を講評しつつ、キーボードを叩く我らが()()()()。色々と辛辣すぎて、リアクション不能だ。あと、まさかとは思うが()()()()()()って、堀北が言ってたやつとは違うよな?(恐怖)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ました、綾小路君」

 

 

暫くして、自信満々にパソコンから顔を上げる椎名。こんな短時間で・・・?よもや、さっきの堀北みたいなことにはならないと思うが・・・一抹の不安を胸に、オレは画面を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~下書きここから~

 

 

 

『清隆と俺♥️』(仮題)

 

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 

綾小路のパンチが、次々と龍園にヒットする。まるで機械のように正確な打撃だ。

 

 

「がはっ・・・!いまはせいぜい、この優越感を味わえよ・・・ぐはっ!?勝利は目前だぜ?綾小路・・・ぼへっ!だがな・・・ククク、恐怖なんて、俺にはないのさ。ふぎゃっ?!一度も感じたことがない・・・」

 

 

しかし、どんなに被弾してもCクラスの王は折れない。伊達に修羅場の数々を潜ってはいないのである。すると、綾小路の攻撃が止まった。それを見て、龍園は勝利を確信する。しかし・・・

 

 

「さっきから、お前はいったい何を言ってるんだ?」

 

 

不思議そうに言いながら、次の作業へと移る綾小路。ずっと不敵な笑みを浮かべていた龍園が、初めて困惑の表情を見せた。

 

 

「へ・・・?ま、待て!ど、どうしてお前は制服を脱ぎ始めているんだ・・・?ま、まさか?や、止めろっ?!ひ、ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ!」

 

 

「ああ、それだ、龍園」

 

 

「あふっ♥️」

 

 

 

~下書きここまで~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「却下」

 

 

即座に削除のアイコンをクリックしようとしたオレの手を、椎名が遮る。

 

 

「ど、どうしてですかっ?!この作品は私と綾小路君にとって、初めての共同作業の賜物!いわば愛の結晶なんです!」カチッ(クリック音)

 

 

諦め悪くキーボードにしがみついたままの椎名を引き剥がすと、オレはパソコンの電源を落とした。今日はもう、色々とムリだ・・・創作意欲(モチベーション)なんて、1ミリも残っていない。

 

 

だがこの時、またもや迂闊にもオレは見落としてしまった。そう、彼女の右手がマウスを操作していたことを。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

そして翌日。間もなくこの船旅も終わる。こうなったらもう、爆死したあと非公開にしたままの自信作『おひとり上手の堀北さん』を、再度公開してみようか・・・そう考え、未練がましくパソコンを立ち上げてハーメルンの管理画面を開いたオレは、思わず目を疑った。

 

 

「たうわっ?!」

 

 

そこにはいつの間にか、身に覚えの無いRー18作品がふたつも投稿されていたのである。いや、このタイトル、見覚えはあるな・・・(失神)しかも、両作品ともに本日付のランキングに入っている・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ・・・なるほど。これが敗北というものか・・・」

 

 

オレの呟きは、潮風に吹かれて夏空へと消えていった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃。波を蹴立てて進む豪華客船の一室で、スマホ片手に力尽きた乙女がひとり。あられもない姿を晒したまま、彼女は呟いた。

 

 

「ふぅ・・・♥️さすがだわ、綾小路君。私が加筆修整した『入学早々シスコンの兄さんに学生寮の裏手へ呼び出されたけど愛さえあれば関係ないよねっ』(仮題)に触発されて、まさか本格的なBLモノを仕上げてくるとは。お陰で新しい性癖に目覚めてしまったじゃない♥龍園君の代わりに兄さんをキャスティングしてくれていたら、最高だったのだけれど・・・次は是非とも『清隆と鈴音♥️』(仮題)をお願いしたいわね。リクエストを送っておこうかしら」

 

 

同時刻。程近い別の一室で、やはりスマホ片手に力尽きた乙女がもうひとり。あられもない姿を晒したまま、彼女もまた呟いた。

 

 

「ふぅ・・・♥️さすがです、綾小路君。私が加筆修整した『清隆と俺♥️』に触発されて、まさか禁断の3Pモノを仕上げてくるとは。お陰で新しい性癖に目覚めてしまいました。堀北さんの代わりに私をキャスティングしてくれていたら、最高だったのですが・・・次は是非とも『入学早々図書館のミステリーコーナーで背丈の違いを痛感したけど愛さえあれば関係ないよねっ』(仮題)をお願いしたいものです。リクエストを送っておきましょう」

 

 

互いに相手の作品を清隆のものと勘違いして欲情し、暴走の末に仲良く果てた、すずのん先生とひよりん先生なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ短編:歴代最高(学お兄ちゃん)の敗北】

 

 

「む?琴音を悪役令嬢、鈴音をその侍女にキャスティングしたヤンデレストーリーが浮かんで来たぞ!ふたりを弄ぶイケメン王子様役は、もちろんこの俺だ!」

 

 

独り言を言いながら、嬉々としてパソコンを開く堀北学。最近は仕事が忙しかったから、久し振りの更新だ。溜まりに溜まった妹たちへの想いを、この作品に込めて投稿するのである。きっとまた、絶賛の嵐が吹き荒れることだろう・・・

 

 

しかし次の瞬間、辺りに彼の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺のアカウントがぁぁぁあ~?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おわり)




最後までお読み頂き、有難うございました。明日より新作『ようこそ不良品だらけの教室へ』を投稿予定です。
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