どうしてこうなった?
「それで、さっきのアレはどういうつもりだったのかしら?
初めてのHRを終えたオレはいま、益々不機嫌になった堀北から尋問を受けている。
「あの場面は『お付き合いしてる』って言っても良かったのではなくて?思春期の生徒たちに恋バナを提供してあげるのも、教師の責務よ」
それは初耳だ。
「やめてくれ。妙な噂にでもなったら、後々面倒なだけだ」
「あら、私は別に構わなくってよ?お互いもう、成人なんだし」
「いや、そう言う問題じゃないだろ」
「ええ、だから私としては
高校生の頃より、更に一段と扱いにくくなった堀北。もう完全に、オレの手に負える代物ではない。下手に彼女の成長を促したのは、失敗だったのだろうか。
「おや、早速抜け駆けですか?
見ると、すぐ傍に目のハイライトが消えた坂柳が佇んでいた。こいつ・・・監視カメラを見てたな?
「おふたりは、どうしてあだ名で呼び合っているのですか」
そしてその横には、なぜか濁った眼差しの椎名も。勘弁してくれ・・・・
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜。オレたち同期5人は、ケヤキモールのバーに集まっていた。一之瀬の発案で実現した、ささやかな同窓会だ。
因みに坂柳の姿はない。理事長秘書という彼女の肩書きが、オレたち一般教職員との接触を妨げることになるとは・・・社会に出ると、負うべき責任と共に、失うものも増えてゆくらしい。
さて、数年振りの再会に、和気藹々とした雰囲気の中で会話は弾み・・・となるはずだったのだが・・・
「じゃあ、これは何かしら?」
またしてもオレは、堀北に責め立てられていた。彼女が手にしたスマートフォンに表示されていたのは・・・
◎『イケメン先生ランキング』ドーン!
しかもそこには、堂々の1位にオレの名前があったのだ。なぜだ?
「は?全く知らないぞ。初めて見た」
素直に答えたが、彼女には全く聞こえていないようだ。
「まだ入学初日よ。それなのにこんな低俗な代物のトップに躍り出るなんて、あなた教務を放り出して何をしていたの?!Dクラスには琴音も居るというのに・・・もっとしっかりしなさい!」
それを言うなら、むしろ入学初日にそんな代物を見つけ出すお前の方が・・・いや、何でもないです申し訳ございません・・・って、だから大型コンパスを出すな!
「ククク・・・じゃあ、これはどうなるんだ?鈴音」
そう言った龍園のスマートフォンには・・・
◎『巨乳先生ランキング』
◎『彼女にしたい先生ランキング』
◎『お嫁さんにしたい先生ランキング』
そこまでスクロールして、龍園は手を止めた。正しい判断だ。それ以上は危険すぎる。
「鈴音、お前の名前もあちこちにランクインしてるぜ?見てみるか?」
「下らないわ。所詮、子供の遊びよ。それよりその呼び方やめて。生徒たちに聞かれて妙な噂にでもなったら、後々面倒だわ」
「ククク・・・だとよ、綾小路。良かったじゃねえか」
意味深な視線を向けてくる龍園。頼むからここで振らないでくれ。他人を煽るのは勝手だが、お前に本気の堀北が葬れるのか?
「前にも言ったけど、私は武道の心得があるの。ここで一発受けてみる?ドラゴンティーチャーさん」
案の定、怒気を発する堀北。あとは任せたぞ。
「て、てめぇ、もし生徒たちの前でその呼び方しやがったら・・・」
「はい、ストーォップ!!それ以上は見過ごせないな」
一之瀬の取り成しでようやく場が収まると、龍園はオレにグラスを勧めてきた。
「済まないな。オレは呑まないんだ」
体質的なものなのか、オレは酒類が苦手だったのでそう答えたのだが・・・
「てめぇ・・・俺の入れた酒は呑めねぇってのか?!」
酔う前からこれかよ・・・
「龍園君、令和の時代にそれはさすがにマズイかな?」
マイルドに諌める一之瀬。優しい。
「パワハラ上司一直線の物言いね」
ストレートに斬り込む堀北。厳しい。
「どうしてもその言動を続けたいのなら、昭和時代末期にでも転生してみたら如何でしょうか」
実は一番容赦のない椎名。怖い。
で、色々と面倒になってきたオレは、つい口を滑らせてしまった。
「そう言えばお前の歌、酷かったな」ボソッ
実はさっき、Cクラスの監視カメラ映像を見たのだが、ヤツの歌唱力は壊滅的だったのだ。
「抜かせ。てめえは上手いこと美声で纏めやがって。相変わらずムカつく野郎だぜ。女子は即堕ちだったじゃねえか」
「どういうことかな?」
「どういうことかしら?」
「どういうことですか?」
急にハイライトの消えた目で責め口調に転じる、一之瀬に堀北、そして椎名。なんだ??
「こっちこそ、どういうことだ?龍園」
本当に分からなかったので問い返すと、
「はぁ・・・
「だな・・・」
「だね・・・」
「ですね・・・」
やけに息がぴったりの同級生たち。なんとなく不穏な空気を感じたオレは、話を戻すことにした。
「そんなことよりも、お前の
「ええ、確かに許容できる範囲を超えていました。まるでジャイアンのリサイタルです」
「椎名さん、さすがにそれは言い過ぎ・・・でもないかしら」
そう言いながら、肩を竦める堀北。ジャイアンとは何のことだろう?やはりまだまだ、オレの知識には偏りがあるようだ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言う。ここは素直に尋ねてみるか・・・
「なぁ、ジャイ・・・」
しかしオレが口を開くよりも早く、会話は流れてゆく。
「へっ!言ってくれるじゃねえか。あぁ、クラス全員にドン引きされたぜ。まあ、お子様たちには、まだ俺の歌は早すぎたってことよ」
「女子生徒の皆さんは、なにか痛々しいものを見るような目をしていましたよ」
ますます手厳しい椎名。
「チッ!そこまでチェックしたのかよ。監視カメラが多すぎるってのも、考えものだな」
「でも真面目な話、ずいぶん余裕綽々だけど大丈夫なの?第一印象が悪いと、後々クラス運営に響くわよ」
堀北も口を挟んだが、龍園は鼻で笑った。
「ククク・・・鈴音、俺を誰だと思っていやがる?何度負けたって、必ず這い上がってやるぜ。最後に勝つのは俺だ」
「取り敢えず、負けることは確定なんですね?」
「なっ?!」
椎名の天然が炸裂したところで、ささやかな同窓会はお開きとなった。そして・・・
初めての授業は、龍園のCクラスだった。遂に訪れた本番の時。否応なく不安やプレッシャーが押し寄せて来る。いま、オレは窮地なのか・・・?
そんなことを考えながら教室の入り口を開けると、頭上から何かが落下してきた。最低限の動作で回避し、落ちてきた物体をキャッチする。黒板消しだ。主に昭和から平成初期に行われていた、教師を揶揄う古典的な手法か・・・
「すげぇ・・・」
「か、カッコいい・・・」
「チッ!あれに反応するとかどういう反射神経してんだよ?!」
思わず動きを止めたオレの姿を見て、妙な空気に包まれる教室。ここで舐められてはならない。何事も、はじめが肝心なのだ。ゆえにオレは、最大限の殺気を乗せて言い放った。
「お前らは実に愚かだな」
疾風怒涛の3年間は、いま始まったばかりだ。
次回第6話:きよぽんの日常・・・