ようこそきよぽん先生の教室へ   作:いろはす@

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第8話:再びの無人島

「生徒諸君に告げる。この船は間もなく、目的地の島に到着予定だ。いまデッキに上がれば、非常に意義ある風景を見ることが出来るだろう」

 

 

アナウンスを終えると、オレは船内マイクのスイッチを切った。まさか自分が、このセリフを言うことになるとは・・・

 

 

「手慣れたものね。在学中の無気力陰キャ振りがウソのようだわ」

 

 

横に立つ堀北が、半ば呆れたように言い放つ。裏を返せば、だいぶまともになった、ということだな・・・(ポジティブシンキング)

 

 

「でも、まあいいわ。こうして本気のあなたと勝負出来るのだから」

 

 

瞳に勝ち気な光を宿す彼女へ、ため息まじりで言葉を返す。

 

 

「おい、分かっているとは思うが・・・今回のオレたちは、あくまでもオブザーバーだぞ?」

 

 

「ええ。でも、クラス対抗戦であることに変わりはないでしょう?」

 

 

1学期が終了した時点で、各クラスの順位に変動はなかった。だが、クラス間のポイント差はかなり縮まってきている。特にオレが担任を務めるDクラスは、恐ろしいほどの先読み能力を発揮する櫛田すみれと、冷静な判断力を見せる参謀役の堀北琴音のコンビが上手く機能し、着実にポイントを上乗せしていた。

 

 

ならばなぜ、いまだにDクラスのままなのか?そう、それはせっかく得た勝利の果実を、自由人高円寺転助が台無しにする、という展開が繰り返されたからだ。もしも、ヤツさえまともに動いてくれていたら、いまごろは確実にAクラスへ上がっていたことだろう。(無い物ねだり)

 

 

いま、豪華客船は高度育成高等学校の1年生たちを乗せ、小笠原諸島近海を航行中だ。目指すは例の無人島。これから、夏の特別試験が始まろうとしているのである。そしてオレたち教師陣は、試験本部を兼ねた客室に集まっていた。これが上陸前、最後の打ち合わせだ。

 

 

「それで、生徒たちの様子はどうだ?」

 

 

「なにも知らずに、はしゃいでいるわ。あの時の私たちみたいに」

 

 

確かに、無料の太平洋クルージングなど、一般家庭の子女にとっては夢のようなイベントだと言えるだろう。尤も、肝心の客船はオレたちの頃よりふた回りほど小型になっているし、船内の施設も明らかにグレードダウンしていたが。そして何より、試験自体が1週間から5日間に短縮されている。

 

 

「ごちゃごちゃ考えても始まらないぜ?俺たちゃ、学校の予算で無料バカンスを楽しめばいいんだよ」

 

 

いかにも、全員リタイア戦法を編み出した龍園らしい言い草だ。教職員としては最低な発想だが。(爆発)

 

 

「でも、頼みの予算は大幅に減らされているみたいですね。お陰で私たちは、カロリーメイトが主食になるようですし」

 

 

「ぐはぁっ・・・!俺の夢をぶち壊さないでくれ、ひより・・・」

 

 

「私は読書さえ出来れば良いです」

 

 

無人島生活という非日常を前にしても、椎名ひよりの日常は変わらないようだ。

 

 

「は?こんなところまで来といて、まだ本を読みてえのか?いつも図書館に入り浸ってんじゃねえかよ」

 

 

「はい。ですが最近やけに混み合うようになってきて、なかなか落ち着いて読めないんです」

 

 

整った顔に困惑を乗せて、ため息をつく椎名。どうやら、本当に気付いていないらしい。自身が『図書館の華』として、男子生徒から絶大な人気を集めていることに。

 

 

「はぁ・・・それはお前が居るからだぞ?椎名」

 

 

「え?なんのことですか?」

 

 

きょとんとして小首を傾げる、うら若き国語科教師。これが無自覚系ヒロイン・・・

 

 

「はぁ・・・そこまで分かるくせに、自分のことになるとポンコツなのね?綾小路君」

 

 

「え?なんのことだ?」

 

 

堀北のツッコミに、図らずもきょとんとして同じ返しをするオレ。これが無自覚系主人公・・・(?)

 

 

「だけど急な話で驚いたわ。確か、無人島試験は廃止になったと聞いていたから」

 

 

「読者サービスだろ、たぶん・・・」

 

 

堀北の呟きを拾うと、すかさず反応が返ってくる。

 

 

「あなた、時々おかしなことを言うのね」

 

 

「ククク・・・いまごろ気付いたのかよ。もとからコイツは、まともじゃないぜ?」

 

 

相変わらず口の悪い龍園。ずいぶんな言われようだ。

 

 

「コホン!そろそろ打ち合わせをしませんか?」

 

 

有無を言わせぬ椎名の言葉に、みんなでテーブルを囲む。そこには大きな冊子がひとつ。購入可能なアイテムを網羅したカタログと、ルールブックとを合冊にしたものだ。かなり分厚い。聞くところによると、歴代の試験結果をもとにブラッシュアップされた改訂新版だとか。

 

 

「通販生活のカタログみたいですね」

 

 

それを手にした椎名が、パラパラとページを捲りながら言った。どんな時でも揺るがないそのメンタルは、全生徒が見習うべきだろう。

 

 

試験の中身は、オレたちが知るものと大差ない。与えられたクラスポイントの消費を抑え、他クラスのリーダーを当ててボーナスポイントを得る。また、拠点となるベースキャンプを占有するには、定期的なスポットの更新作業が必要となる。他には・・・まぁ、あとはご存知の通りだ。(手抜き)

 

 

ふと、読み進める椎名の手が止まる。ちょうど冊子の巻末辺りだ。見ると、そこには気になる項目が記されていた。

 

 

≪追加ルール:以下の行為は禁止する。違反したクラスには、リタイア不可の10Km遠泳試験を課す≫

 

 

ほぅ・・・4月からの水泳授業が、まさにここで真価を発揮するということか。で、肝心の禁止行為とは・・・

 

 

 

 

○自クラスのリーダーに関する情報を他クラスへ漏らすこと

 

○全員リタイアすること

 

○他クラスの拠点で寝起きすること

 

○他クラスとポイントや物品の遣り取りをすること

 

○スポット占有用の機械に手を加えること

 

○異性の下着を盗むこと

 

○試験終了直前にリーダーを変えること

 

 

 

 

「容赦ないわね。確実に搦め手を潰しに来ているわ」

 

 

「ええ。これで目障りなオリ主たちは全滅でしょう・・・(笑)おそらくは、過去の実例に照らして追加されたルールかと。いわば卒業生の置き土産、負の遺産というわけです」

 

 

「とんでもない卒業生ね。顔を見てみたいものだわ」

 

 

何気ない会話を交わしながら、意味ありげな視線をこちらに向ける堀北と椎名。ここは早急に離脱を図る必要がありそうだ。触らぬ神に・・・

 

 

「「ぐえっ?!」」

 

 

龍園とふたり、そっと客室を出ようとしたが、首根っこを掴まれ仲良く引き戻される。ヤツと同時に呻いてしまったが、こんな男性二部合唱、需要があるわけがない。(あたりまえ)

 

 

「待ちなさい。本題はこれからよ」

 

 

「ゲホゲホ!ふぅ・・・あ、危うくリゼロするかと思ったぜ・・・」

 

 

りぜろ?聞き慣れない単語だが、何かの符牒か?

 

 

「龍園、お前、時々おかしなことを言うよな?」

 

 

「綾小路君、あなたまさか、いまごろ気付いたの?もとから彼は、まともじゃないわよ」

 

 

堀北の毒舌が炸裂して話題が逸れると、当の龍園が上手く割り込んで来た。

 

 

「ククク・・・言ってくれるじゃねえか。それよりも今回の試験、かつてのようにはいかないぜ?なんつったって、意図的なリタイアもリーダー交代も出来ねぇんだからよ。こりゃ、1位は俺のCクラスで決まりだな」

 

 

「真っ昼間から寝言はやめなさい、龍園君。勝つのは私のAクラスよ。そもそも、誰のせいで余計なルールが増えたと思っているのかしら」

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

勝敗を巡って早くも臨戦態勢のふたり。実はコイツら、結構気が合ってるんじゃないか?(正解)

 

 

「へっ・・・!おもしれぇ。なら総合順位で勝負するか?鈴音。で、俺のクラスが勝ったら、お前の()()()を頂くってのはどうだ?」

 

 

「なんっ?!だ、誰があなたなんかにっ・・・!」

 

 

真っ赤になって反論する堀北だったが、すでに自爆していることには気付かないのだろうか。

 

 

「おいおい、ホントに()()なのかよ・・・マジか?綾小路」

 

 

頼むからそこでオレに振らないでくれ、ドラゴンティーチャー。

 

 

「へ、変なこと言わないで!だから私と彼は、()()なにも・・・」

 

 

更に傷を深くする元生徒会長。て言うか、動揺しながらこっちを凝視してくるのはやめろ。あらぬ誤解が・・・

 

 

()()・・・?どういうことですか?綾小路君」

 

 

俄にどよんとした空気を纏う、元文学少女。ハイライトオフの濁った瞳が追いかけてくる。だから言わんこっちゃない。

 

 

「えっと、そのお話、もっと詳しく聞きたいかな」

 

 

「ふふふ・・・教えて下さるまでここから出しませんよ?」

 

 

振り向けば、入り口で一之瀬と坂柳が満面の笑みを浮かべていた。ただし、もちろん目だけ笑っていない。

 

 

ちなみに、今回の特別試験におけるこのふたりの肩書きは、それぞれメディカルアドバイザー(無人島のお医者様)シニアディレクター(無人島の女王様)である。なんでもかんでも横文字にする風潮は、そろそろ改めるべきではないだろうか。

 

 

・・・なぜか元同級生女子たちの刺すような視線を浴びながら、オレは窓越しに数年振りの無人島を眺めていた。




次回予告:ひさしぶりの無人島。待ち受けるのは大逆転勝利か、それとも・・・
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