「Dクラス担任の綾小路だ。この暑さだから手短に話す。良く聞いてほしい」
じゃんけんという古典的な方法で教師代表に選ばれたオレは、炎天下の砂浜に整列した1年生を前に、バカンスの終了を宣言した。
「ただいまより、無人島サバイバル試験を開始する」
「は・・・?」
「なにそれ?!」
「まさかうそだよね・・・?」
居並ぶ生徒の間に、ざわめきが広がってゆく。また、あの過酷な日々が幕を開けるのだ。しかも今回は、教師としての参加である。
「この試験は、ジオニック社やアーガス社、フォア・リーブス・テクノロジーなど、数々の有名企業も社員研修カリキュラムとして採用している画期的なものだ。安全性については心配ない」
いまの会社名に反応した者は、隠れヲタクと見て間違いなさそうだ。(撒き餌)
と、ひとりの男子生徒が挙手した。ヤツだ。不発弾は、処理を誤ると暴発する。取り敢えず放っておきたいところだが、学年全員を前に無視するわけにもいかない。
「どうした高円寺、なにか質問か?」
やむなく指名する。
「その社員研修とやらの結末を、是非とも聞かせて貰いたいものだねぇ・・・」
コイツ・・・いきなり核心を突いてきたな。やはりあの兄貴の弟、ということか。
「・・・参加した社員の大半が、途中で脱落したそうだ」
仕方なく、簡潔に事実を告げる。これでどのクラスも、試験に臨む姿勢を改めるに違いない。てか、半分ネタバレしてるだろ、これ。
「ふははははっ!これは傑作だ!そんな素晴らしいカリキュラムを課されたら、私はいったいどうなってしまうのやら」
どうなってしまうのかに興味はないが、よもや兄貴と同じことを考えてはいないよな?(フラグ)
「・・・以上が試験の概要だ。ではみんな、行動を開始してくれ」
説明を終え、試験をスタートさせる。今回、オレたち教師の出番はほぼ無い。生徒たちを極限状態に置いて、心身両面からその成長を促す。そんな目的のもとに考案されたサバイバル試験である以上、彼ら彼女ら自身の力で状況を打開させる必要があるからだ。
バカンスが特別試験に変わるという、急転直下の展開。まずは各クラスのお手並み拝見、といこうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、男子はここで
驚いたことに、我がDクラスはいち早く砂浜を離れ、川沿いに拠点を築いていた。お決まりのトイレ論争にも時間をかけず、必要物資を手際よく買い揃えてゆく。オレも手近な場所に、自分専用のテントを設営した。これから5日間、生徒たちを見守りながらここで寝泊まりするのである。
さっき椎名も言っていたが、学校側から教職員に提供される食事は基本、カロリーメイトとミネラルウォーターのみ。しかしこれだけでは、生徒より先にこっちがリタイアしかねない。どうやら坂柳理事長は、オレたちにもサバイバル生活をさせたいようだ。
そして、そんな事態を避ける方法はただひとつ。ポイントで食料を購入することだけである。もちろん、あとで給与から天引きされるという鬼畜仕様だ。て言うか、ここまで切り詰めるくらいなら、こんなに費用が嵩む無人島試験なんて、最初からやらなければいいのに・・・(正論)
さて、その後もDクラスは実に見事なアプローチを見せている。飛び交う指示は的確であり、各自の動きにもムダがない。まるで、過去にこの試験をやったことがあるんじゃないか?と邪推したくなるほどである。そして、常にその中心に居るのは・・・
「体力に自信があるひとは、食料の探索をお願い。もしかしたら、自生の果物とか、お野菜なんかもあるかも知れないし」
たったいまも、食料確保の最善策を発案した美少女。櫛田すみれである。姉以上にあざとい言動が鼻につく承認欲求の塊だが、いまや不動のDクラスリーダーだ。入学初日から、この学校の秘密を正確に把握しているかのような立ち回りを見せ、クラスメートたちから絶対的な信頼を得た。もし彼女が同級生だったなら、オレでもかなりの苦戦を強いられたに違いない。しかし・・・
彼女はあまりにも
「今度の期末テストで赤点が出なければ、夏休みにクラス全員をバカンスに連れて行くと約束しよう。もちろん、費用は全額学校が負担する」
「マジすかっ?!」
「やったあ!」
「ふはははは!これは怪しさ満点の話だねぇ」
期末テストを控えたある日。夏のバカンスについて告知した際、盛り上がる生徒たちに混じって櫛田が発した、不用意なひとこと。
「うわぁ・・・
まだ行き先すら言っていないのに、どうして船の旅だと断言出来るんだ?そしてオレは確信した。彼女は全てを知っている、と。なるほどな・・・そう言うことか、櫛田桔梗。十中八九、すみれに事前情報を仕込んで送り出したのだろう。
本来なら、この時点で学校側に報告すれば、すみれは退学処分待ったなしである。だがオレは、敢えて彼女を泳がせた。そして結果的に、Dクラスは強力な駒を得たのだった・・・
そんな回想を巡らせていたオレの横を、拠点に簡易シャワーを設置し終えた専門スタッフさんたちが引き上げてゆく・・・
この試験、船のチャーター費用や各種物資の代金に加え、こうしたサポート要員の人件費もバカにならないはず。そして限られた予算の中、結果的にいちばん削られたのが、オレたち教職員の食費だったというわけか・・・なぜだ?
が、理不尽な現実を嘆いていたオレは、微かな違和感を覚えて振り返った。ん?いまのスタッフ・・・まさか?!?
「すみません、ちょっと宜しいでしょうか」
「ぎくうっ?!」
いきなりビンゴかよ?!オレが声をかけた相手は、眼鏡を押さえながらそっぽを向き、明らかに挙動不審である。
「で、なにをしているんだ?」
「・・・どうして分かった?」
その正体はなんと・・・!!(来週へ続く)
次回予告:無人島に現れた怪しい影。その正体は、あのシスコンだった・・・(すでにネタバレ)