忘却の最弱ストライカーによるブルーロック 作:takenoko437
「それではチームZ第2試合、勝利を祝しまして…」
「「「かんぱ~い!!!」」」
「か…かんぱーい…」
ここはチームZの部屋。
布団を脇に寄せて作ったスペースの真ん中に置かれたテーブルに、二つのステーキが置かれている。
切り分けられたステーキを、みんながばくばくと食べていく。
今日は、チームYを破り生き残った記念としてゴールポイントと交換したステーキと、みんなのおかずを持ち寄ってちょっとしたパーティを開いているのだ。
2ゴール…我牙丸くんとボクが取ったゴールだ。
そう…ボクが取ったゴール…なんだけど…
「…どうした落雫?もっと喜ぶ立場だろ、お前。」
双咲くんが話しかけてくる。
やっぱバレるか…
「いや…なんか、これまではなんで点が取れてたかわかってたんだけど、今回のはなんで点が取れたかよくわかってなくて…」
ボクは悩みを吐露する。
あの、ラストのゴール…
あの時のボクは全て読めていたようだけど、ボクにはなぜ読めていたのかがわかっていなかった。
「へぇ…ま、俺にはわかんねーや。」
「…そういえば、あの試合は双咲くんに助けてもらってばっかだったね、ありがと!」
「どーもどーも、肉もうひとかけら貰っちまお」
誰かの分の肉を奪った双咲くんに苦笑いしながら、質問する。
「そういえば、双咲くんて読心術が得意なの?」
「まぁ、そうだな。読み合いが得意なのもそーいう感じ。」
なるほど…
フィジカルに頼らない技術面の武器…ちょっと参考にしたくはあるな。
今のボクの能力だと少し頼りない部分があるし…
「その技術って教えてくれたり…」
「するわけねーだろ。つか武器二個も欲しいのか欲張りめ。」
「べ、別に武器は一個までなんて決まってないし」
「そういう問題じゃねーわ。」
切り捨てられてしまった…
と、そこで今の会話を聞いていた様子の雷市くんが、
「チッ…こいつ大丈夫なのかよ?」
と突っかかってくる。
「ま、落雫のゴールで俺たちは勝てた。それが事実だろ。」
「そうだ、俺たちは生き残ったんだ…次も絶対勝つぞ!!」
國神くんと久遠くんが援護してくれる。
ありがたい…が、とはいえ、ゴールした理由がわかっていないのはよくない…
なんでかといえば、そのゴールが"まぐれの一発"で終わってしまうからだ。
色々サッカーの資料を漁っているときに思ったのだが、所謂スーパーゴールを決めた選手がそれっきりであることはまぁまぁある。
多分、自分ですらなぜゴールできたかわかっていないようなまぐれとも言えるゴールをしてしまったことが原因だ。
身の丈に合わない奇跡で調子に乗り、何も考えないでいるとそうなってしまう。
今のボクはそうなりかねない状況だ…
「………」
みんなが寝静まり、部屋には寝息といびきだけが満たされている。
ボクはずっと悩み続けていた。
「眠れない……」
もともと隣の白太刀くんの寝相が悪いのであまり寝つきはよくないのだが、やはり今日はいつもより眠れない…
「ボクが決めて…勝った…?」
この事実を確信できない自分がいた。どうにも後ろに疑問符がついてしまう。
いや、別に夢を見ていたと言いたいわけではないんだけど…
それに、試合終了の時に感じていたあの快感…そして既視感はなんだったんだろうか…
ていうか快感って…もしかしてボクって変態?
いやいやいやいや……
ボクはなぜか居ても立っても居られなくなり、部屋の外にた。
どうせだし、モニタールームで試合見て研究しよう…
【チームZ モニタールーム】
ボクがモニタールームに着いた時、すでにモニターはONになっており、そのモニターの前には一人座りこみ、映像を見ている人がいた。
「…千切くん?」
「落雫か…何しに来た?」
「あ~いや…ちょっと眠れなくて、今日の試合見返そうかなって」
ボクは質問に答えながら彼の隣に座る。
「そうか…俺も、お前のゴール見返してた。」
モニターの方を見てみれば、ボクのゴールシーンが流れていた。
「そりゃ寝れないよな…こんな気持ちいいの決めれば。ストライカーとして最高の瞬間だろ。」
「そう…だね。これまでのボクじゃあ絶対決められなかったゴールだし…多分このゴールは二度と"忘れない"んじゃないかな。」
「…"忘れない"、ね。」
「まぁ、正直まだ納得いってないんだけど…」
「そうだな…このゴールは、集中力って感じじゃなかった。」
その後、少しの間を開けてから質問される。
「お前さ、武器を言っていくときに覚えてないって言ってただろ?今は集中力が武器ってことになってるけど…あの時はなんだったの。」
そういえば、記憶喪失の話は國神くん以外に言っていない…國神くんも口外していないのかな。
質問された以上隠そうとは思わず、ボクは彼に簡単にすべてを話した。
「そうか…なんつーか、大変なことがあったんだな。」
「まぁね…そうだ、ねぇ、千切くんも自分の武器言ってなかったよね、あれってなんだったの?」
ボクはなんとなく質問してみる。
あの時の反応的に聞くだけなら地雷じゃない…ハズ。
「だから言ったでしょ…言いたくない。」
「そっか……どうしてもだめ…かな?」
「……はぁ…わかったよ。俺も教えてもらったしな…」
ボクが少し食い下がってみると、彼は重い口を開いた。
「…右膝前十字靭帯断裂。一年前、俺はケガをした…」
「医者には、もう一度同じ箇所をやったら選手生命は危ういって言われた…
だからケガが治った今でも、まだ同じようにプレーできない。」
彼は俯きながら立ち上がった。
「俺にもあったんだ、落雫…お前みたいな武器と、自分のゴールに酔いしれて眠れない夜と、世界一のストライカーを夢見てた瞬間が…」
「でも今は、あんなに気持ちよかったサッカーと夢を失うのが怖いんだ…」
「俺は"夢をあきらめる理由"を探しにブルーロックに来た。落雫、お前のゴールを見て俺は諦められる気がするよ。」
「待っ…!」
悲し気な背中を見せながら帰っていく彼に、ボクは思わず声を投げていた。
「キミは、ソレで"納得"しようと、いや、させようとしているように見える…」
言っていいのか、悪いのか、ボクにもわからないまま言葉を綴る。
「納得はいろんなことの礎だ…そのままじゃ、諦めることも、前に進むこともできないんじゃないかな…」
ボクは、だんだん小さくなっていく声で、どうにか言葉を言い切る。
それを聞いた彼は振り返ると、
「お前に…お前に俺の何がわかんだよ…!」
こちらをにらみつけ、怒りをにじませながら、そう言った。
ボクが謝る隙すら与えず廊下に出ていく彼は、怒りだけではない感情を見せていた。