ライラのアトリエ ~ブルネン家の錬金術師と秘密の石碑~ 作:ベレット
クーケン島の港からいつも眺めていた、対岸の島。
お母さん達が若い頃に冒険したという、遺跡が眠る大地。
その憧れの地へと、今日、わたしは、遂に一歩踏み出した!
「──ふおぉ、プニだ。 プニが居る。 プニが砂場で日向ぼっこしてる。 やっぱりクーケン島とは全然違うなぁ。 プニなんて見ないもん」
「あっ、ずるいぞライラ! 俺が最初に上陸する筈だったのに!」
念願の対岸に降り立ったわたしとアルトは子供みたいに走り回る。
それを船上で眺めていたお母さんがクスクスと。
「あはは、昔のわたし達を見てるみたいだね。 懐かしいなぁ」
「俺をその中に入れるな。 いつまでも騒いでたのはお前らだけだっただろうが。 つっても、今も忙しないのは変わってないみたいだがな」
「なにをー!」
一見喧嘩してそうに見えるけど、あの二人はあれがいつも通り。
本気でいがみ合ってる訳ではなく、ただただじゃれあってるだけ。
仲が良い証拠だ。
「相変わらずライラん家って仲良いよな。 うちとは大違いだぜ」
「もしかしてまた喧嘩したの? レントお兄ちゃんとザムエルおじさん」
「まあなー。 くっだらない事で毎回喧嘩しててさ」
「そっかぁ」
ザムエルおじさんはちょっと粗暴だけど、根はいい人だ。
なんだかんだ言いながらわたし達みたいな子供の面倒もよくみてくれるし、お母さんの実家のシュタウト家での農作業も真面目にやってる。
レントお兄ちゃんがいちいちザムエルおじさんに突っかかる理由がよくわからない。
「早く仲直りするといいね」
「おう」
と、喋りながら森を眺めていると、お父さんが降りてきた。
左手に見える洞窟を眺めているお父さんの表情に、少しばかり陰りが産まれている気がする。
その違和感にお母さんも気が付いたのか。
隣に立って、ボソッと呟いた。
「やっぱりキロさんの事、まだ諦めきれない?」
キロさん、って誰だろ。
共通の友人、とか?
「……いや、そういう訳じゃない。 ただ懐かしんでただけだ。 だから心配しなくて良い。 お前とライラを置いて異界に行くつもりなんて、今の俺には毛頭ないからな」
「ボオス……」
何を話しているのか、何一つわからない。
いつかわたしにも教えてくれるかな。
教えてくれたら良いな。
「それに今は……」
「んぅ?」
いきなりお父さんが頭を撫でてきた。
お父さん力強いからあんまり撫でられたくない。
髪が乱れる。
「ちょっとお父さん、離してよぉ。 わたしもう子供じゃないんだから」
「あ、ああ……すまん」
「プッ、ププッ!」
「おいライザ、笑うな」
──妖精の森。
花が咲き乱れ、木々が生い茂り、木漏れ日が草花を照らすこの森の名前は、妖精の森と呼ばれている。
理由は単純明快、妖精さんが生息している森だからだ。
妖精さんって言っても、そんな可愛らしい存在じゃなくて、魔物の一種なんだけどね。
「ライラ、ここからは俺の傍を離れるなよ。 魔物が徘徊しているからな」
「うん、わかった」
言われなくても勝手に走り回るつもりはない。
お母さんみたいに錬金術で作り出したアイテムがあるなら別だけど。
「ライザ、お前もあまりうろうろするんじゃないぞ。 あんな魔物に負けるとは思わないが、万が一という事も……」
「おっ、アイヒェロアみっけ。 トーンも一緒に拾っとこっかな」
「………………」
いつもは口うるさいお父さんも、お母さんの自由奔放ぶりに呆れて物が言えなくなってしまっている。
それを知ってか知らずか、お母さんは暢気にお父さんの隣を素通りして、採取した大量の素材をわたしのかごに入れてきた。
「重いぃ……」
「あはは、そのうち慣れるから大丈夫だよ。 それよりほら、今度は自分で採取してみて」
と言われても、どこをどうすれば良いのか。
「先生、わからないのでヒントください!」
「ん……んんー、そうしてあげたいのは山々なんだけど……本当に山々なんだけど。 錬金術師にとって採取は、調合と同じくらい大事な仕事の一つなの。 自分自身の目と勘で、これが錬金術に使える素材かどうか、この素材の品質はどのくらいかを見極めなきゃならないからね。 だからこれはヒント無し。 自分の力だけでやること。 わかった?」
「うぅ……でもどれも同じに見えるもん……」
「……はぁ、わたしも甘いなぁ。 仕方ない、じゃあ一つだけ教えてあげる。 これは師匠のアンペルさんから教えてもらった事なんだけど────」