ライラのアトリエ ~ブルネン家の錬金術師と秘密の石碑~ 作:ベレット
「おお、ようやく帰ってきたかライラ。 待ちわびたぞ、どこへ行っておったのだ」
「あっ、おじいちゃんだ」
クーケン島で最も高い位置に陣取るブルネン家の邸宅。
その門前でモリッツおじいちゃんが待ち構えていた。
「ただいまー。 んっとね、お母さんに採取のやり方を教えて貰ってたの」
「ほう。 ということは、本格的に錬金術の勉強を始めるのか」
「うん、そだよ。 ほら見ておじいちゃん、いっぱい素材取ってきたんだ」
背負ったかごに盛られた素材の数々を見せると、おじいちゃんはわたしにしか見せない優しい笑顔を浮かべる。
「これはまた大量だな。 どれ、貸しなさい。 おじいちゃんが運んであげよう」
「重いよ、大丈夫?」
結構重いから大丈夫かな、と思ったけど、おじいちゃんは軽々と持ち上げてしまった。
「ははは、まだまだこのくらい何てことないわ。任せておきなさい」
「はーい」
おじいちゃんは何がそんなに楽しいのか。
ニコニコしながらわたしの手を引いて、アトリエの方へと向かっていく。
その様子を眺めていた両親が、おじいちゃんに苦笑しながら、こんな事を呟いていた。
「ふふふ、モリッツさんも変わったよね。 昔だったら力仕事や子守りはランバーに任せっきりだったのに」
「それだけ孫が出来たのが嬉しいんだろ。 まっ、ライザの言うことも最もだがな」
ランバーおじさんに任せっきりかぁ。
今のおじいちゃんからは想像つかないや。
「ここで良いか?」
「あ、はい。 ありがとうございます、モリッツさん」
素材ボックスの近くにかごを置いたおじいちゃんにお母さんがお礼を告げると、おじいちゃんは鼻を鳴らして……。
「ふん、構わん。 可愛い孫の為ならこのくらいお安いご用だ」
「あはは、本当にモリッツさんって変わりましたよね。 昔と違って憎まれ口も言わなくなりましたし、雰囲気も柔らかくなった気がしますよ」
「いつの話をしておるのだ。 今や私も隠居の身、いつまでも偉ぶるつもりはない。 それにお前も今となってはブルネン家の一員。 ならば対等な立場として振る舞うのは当然の事ではないか?」
「……ですね」
「うむ。 ところで……」
おじいちゃんはそこで言葉を途切らせると、素材をボックスにしまうわたしをチラッと見ながら。
「ライラの錬金術の腕はどうなのだ。 上達しそうか?」
「どうでしょうね、それは本人次第なのでわたしにはなんとも。 わたしの持てる技術を全て継承するつもりではありますけど」
「ふむ、なら問題あるまい。 このクーケン島は錬金術師ライザリン・シュタウトのお陰で目覚ましい発展を遂げた。 そのお前が直々に教えるのだ。 心配する必要などないだろう」
「プレッシャーだなぁ」
お母さんは頬を掻きながら苦笑いを浮かべるが、やれないとは絶対言わない。
きっとわたしに期待してくれてるんだ。
ならもっと頑張らないと。
「お母さん! 素材も集まったんだし、早速錬金術教えてよ! わたし、お母さんみたいな錬金術師になりたい!」
「ライラ…………うん、じゃあやってみよっか」
と、予定通り中和剤を作る為、水やトーンを選別していたその時。
「こほん! あー、その前に少しよいか」
わざとらしく咳払いしたおじいちゃんが、こんな事を言ってきた。
「実はだな、最近腰痛が少々酷くてな。 薬を作ってくれると助かるのだが……どうだ、頼めるか」
それはわたしに対する初めての依頼だった。