新しく伊地知君という新入生を迎えた年の夏。
ある日、五条先輩から《グラウンドに来い》とだけ書かれたメールが来たので行ってみると、グラウンドには五条先輩の他に夏油先輩と家入先輩が立っていました。
「あれ? 禰々も来たんだ」
「呼び出されたので。何の集まりなんです?」
「俺の新技のお披露目。よく見とけよ」
「いっくよー」
家入先輩の合図と同時に五条先輩めがけて投げつけられたボールペンと消しゴム。
しかし、ボールペンは五条先輩に当たる寸前で停止し、消しゴムだけが五条先輩に直撃します。
「うん。いけるね」
「げっ……何今の」
「術式対象の自動選択か」
五条先輩曰く、呪力の強弱、質量、速度、形状から物体の危険度を選別して自動的に防ぐようにしたのだとか。
そして術式を出しっぱなしにすることで脳にかかる負担は反転術式で相殺。
何ともうまくできているものですね。
「もうオマエのショボいトラップなんざ効かねぇって──」
「消しゴムなら通り抜けるんですね」
「ちょっ……オマエ……やめ……聞いてんのか……おい!」
ポイポイと消しゴムを投げつけていると、さすがに我慢できなくなって透過の判断を調整したらしく、防がれるようになってしまいました。
「自動選択は結構ですが、ショボいからこそ効く仕掛けもあるんですよ。粉のような軽くて形状にも危険がないものならすり抜けられますし、綿や羽毛もいけそうですね」
「チッ……オマエさ、そろそろ真面目に呪術で戦おうって気はないわけ?」
「呪術で戦うも何も……五条先輩は私の呪力そのものを弾く対象に入れてるじゃないですか。構築術式持ち相手にそれやられたら何もできませんよ」
構築術式で作られる物は術者の呪力から作られているのですから。
それに五条先輩に体術や武器術で挑むほど私は愚かではありません。まず手足の長さが違いすぎますし、武器を持ったところで返り討ちにされるのがオチでしょう。
「それに、わざわざ相手の得意な土俵で戦う理由はないですしね」
「オマエそれでも呪術師かよ……」
これでも呪術師ですよ。残念ながら。
呪術師らしくある程度イカレた人間です。
「あ、そうそう。昨日、五条先輩が借りてきた映画に出てくる超ムカつくヒロイン、最後派手に死ぬんですよ」
去り際に、さも今思い出したようにネタバレを投下すれば、五条先輩の顔がピシリと固まります。
術式対象の自動選択ができるようになったところで精神攻撃までは防げないでしょう。
「ちなみに黒幕は──」
「ネタバレは重罪だぞコラァ!」
青筋を露にする五条先輩に、べぇっ、と舌を出して私はそそくさとその場を後にします。
さて、より一層防御力が上がってしまったわけですが、今後はどう攻めていきましょうか。
◆ ◆ ◆
五条先輩の新技お披露目の翌日。
任務の前に飲み物を買っておこうと自販機に向かうと、そこには夏油先輩が立っていました。
「夏油先輩」
「禰々か……」
「顔色悪いですよ? 何かありました?」
「ただの夏バテさ。大丈夫」
大丈夫というには些か無理があると思いますが。
振り向いた夏油先輩の顔は完全に血の気が引いていました。明らかに夏バテでやられたというだけではないでしょう。
ですが、夏油先輩はそれ以上語ろうとはせず、無理矢理にいつも通りの笑いを浮かべてみせました。
「禰々は今から任務だろう? 気をつけて」
「はい」
去っていく夏油先輩の背を見ながら私は携帯を取り出して家入先輩に電話します。
「夏油がヤバそう?」
「明らかに顔色悪かったですよ。夏バテだって言われましたけど」
「私も最近会えてないんだよね。繁忙期だし。あ、ゴメン。急患」
家入先輩も中々時間がないようですね。他者に反転術式を施すなんて五条先輩にもできない技ですから仕方のないことですが。
「私も夏油に会えたら聞いてみるけど期待しないで」
「はい」