私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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18.彼女は家を出る

 女中達が集う仕事部屋の襖が開けられた瞬間、誰かが小さく息を飲みました。

 目を向ければ、そこに立っていたのは禪院家現当主──禪院直毘人様。

 この家の最高権力者であるお方がどうしてこんなところに。

 まさか誰かが何かやらかしたのか? そんな探るような視線が女中の間で飛び交います。

 

「禰々はいるか?」

 

「はい」

 

 おかしいですね。ご当主様直々にお叱りを受けるような失態はしていませんし、簡単にバレるようなトラップも仕掛けていないはずなんですが。

 

「オマエに客だ。噸の間で待たせてある」

 

「私にですか……?」

 

 訪ねてくる相手に全く覚えがありません。

 しかし、ご当主様は「フン」と鼻を鳴らしただけですぐに去っていってしまいました。

 

「失礼します」

 

 呼ばれているのに行かないのはさすがにまずいと思い、噸の間の襖を開けると──

 

「や」

 

 目の前にいた白髪目隠し黒ずくめの大男を見てすぐさま襖を閉めたくなる衝動に駆られましたが何とか堪えます。

 

「……何のご用でしょうか」

 

「はぁ……たった一年会ってなかっただけでなんて目ェしてんの。まるで最初に会ったときみたいな無機質な目しちゃってさ」

 

 この家で明朗快活に生きていける女性がいたら見てみたいものですけどね。

 

「恵君の世話ができないから返すっていうのはなしですよ」

 

「単刀直入に言うよ。この家で一生虐げられながら過ごすか、それとも家を出て僕の手伝いをするか。どっちがいい?」

 

「……どういう気まぐれです? 私に仕事を手伝えなんて。女に後ろから刺されたい性癖でもあったんですか?」

 

「君は僕を何だと思ってんの?」

 

「クズですが」

 

「硝子と同じこと言うじゃん」

 

 初対面で何を言ったかこの人は忘れたのでしょうか。

 

「硝子に聞いたよ。オマエが家を出たがってたことも、七海達のために色々動いてたことも」

 

 そう言えば家入先輩には最後の飲み会でうっかり話してしまったのでした。

 もしも五条家に取り入ろうとしていることがバレたらろくでもない扱いを受けることはわかっていたので誰にも言うつもりはなかったのですが。

 

「それでわざわざここに?」

 

「上の連中は狡猾だ。だけど、オマエならそういうのを掻い潜ってうまくやってくれるでしょ」

 

「ザコと言った割りに随分と高く買ってくれるじゃないですか」

 

「……そうだね。これは最初に言うべきだった」

 

 五条先輩はそう呟いて珍しく真剣な顔でこちらを見ると──

 

「悪かった」

 

「おや……」

 

 まさか五条先輩が私に頭を下げるとは。

 

「ザコって言ったことは取り消す。埋め合わせしろって言うならできる限りのことはする。だから戻ってきてほしい」

 

「私一人のためにそこまでしますか」

 

「傑がいなくなったときに決めたんだよ。もう誰も独りにさせない」

 

 これは……断るのは無理そうですね。

 夏油先輩のことを持ち出すのはズルいでしょう。

 あのとき、もっとちゃんと見ていれば夏油先輩があんなことをするのを止められたのではないか──そういう思いはずっと残っているのですから。

 五条先輩も家入先輩も七海君、灰原君、伊地知君も同じでしょう。

 

「私を雇うってことは何かやらかしたらどうなるかわかってますよね?」

 

「……覚悟の上だよ」

 

「なら、その話受けますよ」

 

 そう言うと五条先輩はフッと表情を緩めました。

 

「じゃ、早速明日からよろしく。もう教員寮の部屋押さえてあるし。実を言うと、もう当主とも話はつけてあるんだよねー」

 

「はぁ……どのみち連れていくつもりだったんじゃないですか。二十分だけ待っててください」

 

 荷物をまとめ、その他諸々を済ませて門へ向かうとちょうど二十分。

 

「あれ? 荷物それだけ? 十分くらいでよかったんじゃないの?」

 

「他にも色々とやることがあったんですよ。さ、行きましょうか」

 

 すると、私が家を出て数歩進んだところで禪院家の中からご当主様の叫び声が響きました。

 意外と早かったですね。

 

「……何やったの?」

 

「荷物をまとめている最中に、ご当主様が何を勘違いしたのかニヤニヤと笑いながら《これを五条家との関係修復の契機だと望む声もある。精々仲良くやれ》なんてふざけたことを言ってきたので、あの人が録り溜めていたアニメを全部消去しただけですが?」

 

「うっわ……」

 

 ついでにご当主様秘蔵の日本酒も何本かかっぱらってきましたが。

 これは五条先輩に助言してくれた家入先輩へのお土産にしましょう。

 

「あのさぁ……助けてやったんだし、これで昔の件はチャラだよね?」

 

「助けられた恩はありますけど……それを差し引いても五条先輩に付けられた心の傷のほうが大きいんですが」

 

 五条先輩の話に乗ったのは禪院家に残ってもメリットがなかったというだけの話です。

 

「ちょっと悪態吐いただけじゃん。そこまで引きずる?」

 

「じゃあ、私が五条先輩のことを《負けたほうの最強》とか《非術師に負けた最強術師》とか《元最強1/2》とか言ってもいいんですか?」

 

 その途端、五条先輩はピクリと頬を引きつらせました。

 

「あ、あれは負けじゃないし……第二ラウンドの途中でアイツが逃げたからノーカンでしょ」

 

「五条先輩もめちゃくちゃ引きずってるじゃないですか。それに、とっくに十カウント過ぎてたって甚爾さんから聞きましたよ」

 

「うぐっ……」

 

 それがトドメだったのか五条先輩はガックリと膝をついて踞ります。

 往来のど真ん中で踞る白髪目隠し黒ずくめの大男なんて不審者以外の何者でもないのでやめてほしいのですが。

 

「禪院筋が後輩なんてマジありえねぇ発言と甚爾さんに滅多刺しにされたことは一生擦らせてもらいますね」

 

「過去の僕ぶん殴りてぇ……」

 

「大丈夫ですよ。どうせ五条先輩のことですからすぐに何かやらかして新たな黒歴史を作ることになるでしょうから」

 

「家出た途端生き生きしながら僕を苛めるのやめてくんない!?」




 私、性格悪いんですよね。十八話の読了ありがとうございました。
 これで過去編は一旦終了となります。夏油闇堕ち~禰々の復帰では暗めのシーンが多かったので、あまりイタズラを仕込めなかったのが少々心残りですね……。
 次回からは現代軸に戻って少年院~里桜高校くらいまで進められるといいなと思っています。そのあたりもあまり五条先生が出てこないのでイタズラの機会はあまりなさそうなんですが……。もしかしたらイタズラは原作ストーリーとは別に小話でも書いたほうが生かしやすいかもしれませんね。
 またストックができたら順に投稿していきますので読んでいただけると嬉しいです。
 感想や評価も楽しんで見ています。思いもよらないアイデアがあったり、色々な解釈があったり……後、面白いと言ってもらえるのは素直に嬉しいですね。
 では、また次回もどうぞよろしくお願いします。
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