私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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20.彼女は死亡ドッキリを仕掛ける

「悠仁!」

 

 ドアを突き破らんばかりの勢いで入ってきた五条さん。

 しかし、台の上に置かれた虎杖君を見て呆然とした様子で立ち尽くします。

 

「……何があった?」

 

「表向きは宿舎に取り残された受刑者五人の生存確認と救助。しかし、実際は特級を利用して虎杖君を始末するのが本命だったと考えられます。虎杖君は伏黒君と釘崎さんを逃がすために特級と孤軍奮闘の末に死亡とのことでした」

 

「犯人は?」

 

「突き止めてありますが、消したところで意味がないのはわかっているでしょう?」

 

 どうせ消したところで似たような人物が同じ椅子に座るだけですから。

 五条さんは拳を握ったまま俯いています。

 さて、五条さんは腐った上層部に怒り心頭のようですが、それよりもまずは自分がいかに怠慢だったか思い知ってもらいましょう。

 

「虎杖君の身体能力であれば、逃げに徹すればもう少し善戦できたはずなんですが……報告によると、()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「うっ……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さすがに呪力の扱いを知らないまま任務に挑むなんてバカな真似は普通しないでしょうし」

 

「あ、いや……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()というのにこんな形で虎杖君を死なせてしまって本当に申し訳ありません」

 

「うぐ……」

 

「禰々、君はそもそも五条の指示で休みだったんだ。気付けなくても仕方ないだろう。君だって万能じゃないんだから」

 

 私を自分のほうに向き直らせた家入さんが慰めるように優しく抱き締めてくれます。

 

()()()()()()()()()()()()()()()この結果になってしまったならどうしようもない。最強の教えを受けても無茶な相手だったってことだ」

 

「あの……その……」

 

 家入さんも楽しんでますね。

 笑いを堪えているせいで背中に回された腕が小刻みにプルプルと震えています。

 

「実は……さ……」

 

 そして、私達が互いに笑いを堪えているとは知らない五条さんがダラダラと汗を流しながら口を開きました。

 

「この二週間……悠仁には呪具で低級の呪霊を何体か祓わせてただけで……呪力の扱い方に関してはほぼ教えてない……んだよね。後、帳とか術式の専門的な知識も全然……」

 

「つまりは?」

 

「まだ大丈夫だと思って……何も教育してない……」

 

 シーン……と、まるでお通夜のような空気が流れます。

 まさか普通にサボっていただけだったとは……。

 五条さんがずっと高専にいるわけにはいかないのはわかりますが、それにしても虎杖君のことはアナタの持ち込んだ面倒事でしょうに。

 まだ大丈夫だと思って放っておいたら取り返しのつかないことになりました、なんて……夏休み最終日に宿題に追われる小学生じゃないんですから。

 

「はぁ……誰かを失う痛みは夏油さんの件で思い知ったでしょう。また同じ轍を踏んでどうするんです」

 

「っ……」

 

「五条、今回はマジで反省しろ。禰々が事前に警告までしてたんだろ。これじゃ虎杖だって浮かばれない」

 

 そもそも死んでませんから浮かぶも何もないんですけどね。

 しかし、夏油さんの名前を出したのがトドメだったのか、五条さんは今にも死にそうな顔でガックリと項垂れます。

 そろそろ頃合いでしょうか。

 

「ぶぇっくしゅ!」

 

「へ?」

 

「ああ、いいタイミングで起きてくれましたね」

 

「あー……あれ? いつの間にかマジで寝てた?」

 

 台の上に寝転んでいた虎杖君がムクリと上半身を起こしました。

 傷を強調するためとはいえ、上半身裸は少し寒かったでしょうか。

 もう虎杖君の役目は終わったので、あらかじめ用意してあったシャツを渡します。

 

「悠仁……?」

 

「お、五条先生! おかえり!」

 

 ポカンと口を開けて固まる五条さん。

 その五条さんににこやかな笑みを向ける虎杖君。

 その隣で大笑いしている家入さん。

 そして、最後に──

 

「ド、ドッキリ大成功~……」

 

 テッテレー、という定番の効果音とともにプラカードを持って現れた伊地知君。

 やはりドッキリの最後はこれがないといけませんからね。

 

「ドッキリ……?」

 

「ドッキリです」

 

「じゃあ、特級との戦闘は……」

 

「突入前に私が気付いて止めましたよ。代わりに甚爾さんを呼んで祓ってもらいました」

 

「あの傷は……」

 

「特殊メイクです」

 

 そこでようやく安心したのか五条さんは大きなため息を吐いて脱力しました。

 

「とりあえず伊地知はマジビンタね」

 

「何で私だけ!?」

 

 理不尽過ぎる五条さんの言葉に涙目になる伊地知君。

 彼には後で胃薬を渡しておきましょう。

 

「死亡ドッキリはマジでダメだって……」

 

「ドッキリどころか現実になりかけたんですけどね。誰かさんがサボっていたせいで。まあ、今回は呪力の扱い云々に加えて虎杖君の危機感のなさも問題なんですが」

 

「急に矛先がこっち向いたんだけど!?」

 

「危機感がある人間はクラスター弾の絨毯爆撃でトントンと説明された相手に無策で突っ込んでいったりしないんですよ」

 

 新しい制服の背中に特攻服よろしく《危機感》と金色の刺繍を大きく入れてあげましょうか。

 虎杖君はお祖父さんに《オマエは強いから人を助けろ》と言われたそうですが、まずはその認識を壊すところからですね。

 虎杖君にはちゃんと自分の弱さを知ってもらいましょう。

 

「上には虎杖君は特級と戦闘の末に死亡と報告してあります。交流会の頃に復帰させるとして、それまでおよそ二ヶ月間。最低限の力をつけるには十分でしょう」

 

「相変わらず仕事が早いね」

 

「アナタが遅いんですよ。二度目はないと思ってください」

 

「……わかってるよ」

 

「それではこれお願いしますね。甚爾さんに渡す報酬です」

 

 私が差し出した紙に書かれている金額を見て五条さんは露骨に顔をしかめます。

 

「アイツに渡したところでどうせギャンブルで溶かすだけだよ? しかも、この金って僕のポケットマネーから出せってことだよね?」

 

「表向きには甚爾さんも私もあの場にいなかったことになっていますからね。経費では落とせません。サボっていたツケだと思ってください」

 

「今回の件は完全に僕の落ち度だから払うのはいいけど、この金額はさぁ……もう少し減らしてもいいんじゃないかなって──」

 

「へぇ? 最強様は猿に払う金なんざねぇってか」

 

「うげ……何か来た」

 

 すると、いつの間にか甚爾さんが部屋の中に入ってきていました。

 甚爾さんにもさっきのドッキリに参加してもらいたかったのですが、何でここにコイツが? と五条さんに疑われてもいけませんでしたからね。

 代わりに後で録画を渡しておきましょう。

 

「別に俺は構わねぇよ? うっかり口が滑ってこのガキが生きてることを洩らしちまうかもしれねぇけどな」

 

「死にたいなら今すぐぶっ殺してあげるけど」

 

「おいおい、非術師は守るべき存在だろ?」

 

「オマエが正論唱えることほどムカつくこともないよね」

 

 バチバチと二人の間で火花が散っています。

 相変わらず仲悪いですね。

 

「大体、俺がいなきゃ今頃一年三人まとめてそこに並んでたんだぞ? 少しは感謝しろよ」

 

「チッ……わかったよ」

 

 五条さんはスマホを取り出すと、その場で甚爾さんの口座に報酬を振り込みます。

 

「毎度あり。さーて、今日は競艇に──」

 

「あ、甚爾さん。ちょっと待ってください」

 

「あ? まだ何かあんのか?」

 

「ええ。追加報酬を出すので虎杖君の指導をお願いできませんか?」

 

 五条さんの指導では絶対に大事な部分を適当に済ませるに決まっていますから。

 

「指導ねぇ? 報酬次第じゃ乗ってもいいが」

 

「禰々……一応聞くけどその追加報酬って……」

 

「アナタが出すんですよ」

 

「ですよねー……」

 

 乾いた笑いを洩らす五条さんを横目に私は袖口からスマホを取り出して甚爾さんの報酬を計算します。

 虎杖君の身体能力を考えると一番向いているのは基礎を徹底的に固めて殴る蹴るのゴリ押し。

 甚爾さんはその手のことは得意分野ですし、何より報酬さえ渡せば大抵のことはキッチリやってくれますからね。高い給料をもらっているクセに仕事をサボるどこかの誰かさんと違って。

 

「更に交流会まで他の生徒も鍛えてくれるなら……正式な依頼ということで高専からもこの金額まで出しますが。臨時教師ということで」

 

「お、さすがにオマエは話が早ぇ。金持ってるクセに渋る坊っちゃんとは大違いだな」

 

「あ?」

 

「おい、ここで暴れるな」

 

 家入先輩に解剖室から追い出された私達は、高専にある地下室の一つに場所を変えて、これからの動きを話し合うことにしました。

 

「《最強》を教えてくれ」

 

「フフッ、お目が高い」

 

「おい、コイツは別に最強じゃねぇぞ?」

 

「へ? そうなの?」

 

 また甚爾さんが余計なことを……。

 更にそれに五条さんが律儀に反応するものですから話が進みません。

 

「あのさぁ、いつまで過去の栄光にすがってるつもり? ってか、事前にザコ使って散々削りいれておいて自分の手柄って言ってるとかセコいにもほどがあるでしょ」

 

「負け犬の言葉はわかんねぇなぁ」

 

「あ゛あ゛ん?」

 

「なあ、何であの二人ってあんなに仲悪いの?」

 

「色々あるんですよ。訓練の説明をしますから座ってください」

 

 虎杖君にやってもらうのはどんな感情下でも呪力出力を一定に保つ訓練です。

 ソファに座った虎杖君に学長特製のボクシンググローブを着けた熊の呪骸を渡します。

 これは一定の呪力を流し続けないと強烈なパンチを繰り出してくる凶暴な代物です。

 映画を見て感情が動いた拍子に呪力の制御が乱れてはいけません。

 目標は呪骸を起こさずに無傷で映画を一本観通すこと。

 

「五条さんが趣味で集めた名作からC級ホラー、地雷のフランス映画までラインナップは選り取り見取りですよ。どれにします?」

 

「んー……そうだなぁ。何か禰々さんのおすすめってある?」

 

「私のおすすめ……ですか」

 

 あまり映画を見る時間がないので詳しくはないのですが。

 悩みながら乱雑に置かれたDVDの山をしばらく漁って私が取り出したのはクリスマスの定番映画。

 

「ホーム・アローンシリーズはお気に入りですよ」

 

「「だろうな」」

 

「何で今度は二人仲良く同じリアクション? マジでどういう関係かわかんねぇんだけど……」

 

 まあ、お二人はリアルでホーム・アローンの世界を体験していますからね。

 

「では、早速始めましょうか」

 

◆ ◆ ◆

 

 後日──

 

「禰々! アイツにドッキリの録画送ったってマジ!?」

 

 私が仕事をしていると五条さんがスマホを片手に部屋に飛び込んできました。

 さっき送ったばかりだというのに早いですね。

 

「コイツ、マジでショボくれてやがる! 笑い過ぎて腹痛ェ!」

 

 スピーカーにしているわけでもないのに、スマホから甚爾さんのゲラゲラという笑い声がよく聞こえます。

 

「何でよりによってアイツに送るの!? これでまた弄られるに決まってんじゃん!」

 

「痛みを知らないと反省しないでしょう?」

 

「痛みどころか致命傷だっての! ああもう最悪……」

 

「致命傷を負っても反転術式があるでしょうに」

 

「反転術式でも心の傷は治らないんだけど!?」

 

「惨めだなぁクソガキ! 仕事しねぇからこういうことになるんだよ!」

 

「ヒモが仕事を語るな!」

 

「今、仕事してるんだよなぁ残念ながら」

 

 すると電話の向こうで響く虎杖君の悲鳴。

 組手をしながら電話ですか。

 まあ、甚爾さんなら他の生徒達が束になっても敵わないでしょうね。

 

「あ、再起不能のケガは負わせないでくださいよ」

 

「誰に言ってんだ。そのくらいの加減はするっつーの。大体、コイツはそんな簡単に壊れねぇよ」

 

「壊れねぇからってタコ殴りにした挙げ句にぶん投げるのはどうかと思うんだけどおぉぉぉぉ!?」

 

「おー、飛んだ飛んだ」

 

 中々楽しくやっているようで。

 甚爾さんに任せて正解でした。

 本音を言えば私の中では五条さんより甚爾さんのほうが信用も信頼もしてるんですよね。

 五条さんが拗ねるので言えないですけど。

 

「あ、五条さん。今夜は学長と会食なので忘れないでくださいね」

宿儺へのイタズラは?

  • あり。ゲラゲラ笑ってやろう。
  • なし。宿儺様にイタズラなど認めない。
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