「どんな女が
事の始まりはいきなり投げかけられたそんな質問からだった。
突拍子もない質問に混乱しながらも「その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません」と答えた伏黒。
しかし、東堂はその答えがひどく気に入らなかったらしい。
涙を流しながら「退屈だよ」と一蹴するや否や、ラリアットで伏黒を吹き飛ばし、そこからジャーマン・スープレックスで地面に叩きつけ、更に建物に押し付けて貫通させるというコンボを決めてみせたのだ。
幸いにも途中で駆け付けたパンダと狗巻が止めに入ったため、伏黒のケガは頭の傷と数ヶ所の打撲だけで済んだ。
東堂も
「乗り換えミスってもし会場に辿り着けなかったら俺は何しでかすかわからんぞ。付いてこい、真依」
脱ぎ捨てた上着を拾い上げ、踵を返して去ろうとしたそのときだった。
「ここまで暴れておいて、すんなり個握に行けると思ってるんですか?」
少し離れたところからかけられた声に東堂達がそちらへ目を向ける。
「み、Ms.禰々……!?」
「お久しぶりですね、東堂君」
そこにいたのは綺麗な笑みを浮かべた禰々。
それを見るなり、東堂の顔色がみるみる悪くなっていく。
「まだ交流会前だというのに随分派手に暴れてくれたじゃないですか」
「い、いや、これには深い事情があってだな……」
「誰が片付けの手配するんですかね? 修理費の計算は? 再建の段取りは?」
「そ、それは……」
禰々が一歩ずつ近付くごとに東堂は冷や汗をダラダラを流して今にも失神しそうな様子である。
あの東堂が完全に気圧されていた。
「縛り──覚えてますよね?」
「
さっきの獰猛な笑みはどこへ行ったのか。
涙を流しながら土下座する東堂。
それを見て禰々と付き合いの長い真希は何となく察した。
そして、
「個握の後でいいですから、瓦礫の片付けプラス修理費の負担、そして私の仕事の手伝い一回分で手を打ちましょう」
「わかった!」
その言葉に東堂は一も二もなく頷くと長居は無用とばかりに脱兎のごとく去っていった。
真依も禰々に小さく頭を下げると東堂の後に続いて高専を出ていく。
いきなり来たかと思えば暴れるだけ暴れて去っていくとは。
釘崎は呆気にとられた様子で二人が去っていった方向を見ていた。
「何だったのよアイツら……」
「嫌がらせだろうよ」
交流会に軽く牽制するつもりで後輩いびりに来たのだろう。
性格の悪い京都校の考えそうなことだ。
(もっとも……そんなのとは比べ物にならないくらい性格悪いのが目の前にいるけどな)
チラリと真希は禰々に目を向けた。
「禰々さん。東堂に何やったんだ? つーか、どういうつながりがあったんだよ?」
「実は一昨年、東堂君が入学してすぐに今回と同じようなことをしたらしいんです」
いきなり「どんな女が
クセの強い人間が大半の呪術界。
当然、教員達も荒事に慣れているが、東堂の実力が普通の学生とは比べ物にならないほどに抜きん出ていたのが誤算だった。
術式を使わずとも素手で一級呪霊を祓えるその実力で暴れに暴れ、止めに入った教員や生徒にまで同じ質問を投げかけて半殺しにした挙げ句、校舎を半壊させる始末。
そして、困り果てた京都校が白羽の矢を立てたのが禰々だ。
「何でそこで禰々さんが?」
「あの五条悟をどうにかできるなら東堂も何とかしてくれ、と」
「「ああ……」」
真希と釘崎の視線に哀れみが混じる。
別に禰々は問題児を扱うスペシャリストではないというのに。
「で、何やったんです?」
「シュールストレミング、キビヤック、
「「うっわ……」」
シュールストレミングだけでも犯罪的な臭いだというのに、他にも色々混ぜるとは。
真希と釘崎はその容赦のなさにドン引きするが、これには理由がある。
というのも禰々は五条の専属補助監督として多忙な日々を送っている。
何度も京都に通って東堂を矯正させる時間はない。
何としても一度でこの件を片付けなければならないと判断した結果、作り出されたのが例の団子だ。
余計な仕事を増やされたことによる腹いせの意味もあったのだろうが。
「いや、でもアイツ体格の割りにめちゃくちゃ俊敏でしたよ? そう簡単に捕まらないんじゃ……」
「ああ、さっき高田ちゃんって言ってましたよね? そのアイドルのパネルを校庭に立てて、今言った激臭団子をそれに向かって投げたら、ガードするために自分から飛び込んできてくれましたよ」
「どんだけ大事なんだよ……」
「元々臭いが付かないように保護していたんですけどね。私も防護服着てましたし」
しかし、保護されているのだとしても、東堂にとって高田ちゃんを汚されることは我慢ならないことなのだ。
最終的に合計三十個もの激臭団子を全身に受けながら、守るべきものを守れたのなら悔いはないとばかりにパネルの前で立ったまま気絶した東堂。
その執念にはさすがの禰々もドン引きしていた。
「その後は気絶した東堂君を拘束して、所有していた高田ちゃんのグッズを目の前でフリマサイトに売ろうかと思ったんですが、歌姫さんにそんなことをしたら後で何をしでかすかわからないからと止められまして。さすがに私も死にたくないですからね」
「確かに発狂してもおかしくねぇだろうな」
「ですから、その代わりに無駄に暴れて壊したり傷付けたものを弁償できなかった場合は所有しているグッズを全て売り払うという縛りを結ばせました」
東堂にとって高田ちゃんのグッズを手離すのは内臓を売る以上にダメージが大きい。
後で買い戻せるとしてもだ。
「東堂がその縛りを飲んだのか?」
「さっき使ったパネルを差し上げると言ったら何とか飲んでくれましたよ。非売品の一点物ですし。そのおかげでしばらくはおとなしくしていたようですが……やはり新入生を見ると聞かずにはいられないようで」
「そうだろうな。縛りがあるからっていつまでも縮こまってるようなヤツじゃねぇ」
そこで真希はふと気付いた。
何か壊したり傷付けた場合はグッズを全て売り払う──という縛りではなく、
それは逆に言えば弁償できるなら暴れても大丈夫ということだ。
「さては暴れることを見越して貸しを作れるようにしやがったな? さっきもしれっと仕事の手伝い追加してただろ」
「貴重な一級術師を下手に抑制して無用の長物にするなんてもったいないでしょう?」
「禰々さんって抜け目ないですよね」
「野薔薇、素直に性格悪いって言ってやれ」
さすが五条の補助監督をしているだけはある。
あの東堂を飼い慣らせる人間はそういない。
「真希さんだって性格悪いと思いますけど?」
「アンタほどじゃねぇよ」
禰々に比べれば真希の少々ひねくれた性格などかわいいものだ。
するとそのとき、禰々のスマホからメールの着信音が。
「あれ? 伊地知君から……?」
「何かあったか?」
「えーっと……五条さんが伊地知君を脅して夜蛾学長に偽のスケジュールを伝えたらしいです。どうせその間に楽巌寺学長を煽りにいったんでしょう」
「あー……水と油だもんな、あの二人」
「仕方ないですね……私はちょっと五条さんのところに行ってきます。釘崎さんは一応家入さんに診てもらってくださいね」
パキパキと指を鳴らしながら「さて、今日はどうしてくれましょうか……」と呟いて禰々は去っていった。
「禰々さんにやられた人ってどれくらいいるんですかね?」
「私の知ってる限りだとバカ目隠し、甚爾、直哉……ああ、現当主の直毘人も泣かされてたな」
「え? マジですか」
「これがマジなんだよなぁ」
里桜高校編が一向に進まないので、とりあえずその手前の書けたところまで投稿しようと思います。