私、性格悪いんですよね   作:Midoriさん

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24.彼女に鍛えられた伏黒恵は少しだけ性格が悪くなった

「虎杖」

 

「お、伏黒!」

 

 伏黒が地下室へ降りると虎杖が呪骸を抱き抱えながら映画を見ているところだった。

 空いていた一人掛けのソファに腰を下ろして伏黒もテレビに目を向ける。

 定番のアクション映画。

 屈強な元特殊部隊の隊員が単身で敵地に乗り込んで大立ち回りを繰り広げていた。

 

「どうだ、調子は?」

 

「おう、コツは掴めたっぽい。この映画見てる間一回も殴られてねぇよ」

 

「そうか」

 

 訓練を始めてまだ間もないのに意外と飲み込みが早い。

 しかし、伏黒が感心したのも束の間、虎杖の表情が曇っていく。

 

「でも体術がなぁ……俺、結構自信あったんだけど」

 

 虎杖の脳裏に《オマエは強いから人を助けろ》と言った祖父の顔が思い浮かぶ。

 喧嘩もスポーツも人並み以上にできた。

 呪霊を相手にしても体が竦んで動けないなんてこともなかった。

 ところが甚爾と組手をしてみれば、まるで歯が立たない。

 

「判断が遅ぇ」

 

 と殴られ。

 

「キレると動きが雑になるクセ何とかしろ」

 

 と蹴られ。

 

「勢いだけで突っ込むな。何も考えてねぇのが丸わかりなんだよ」

 

 と投げ捨てられた。

 訓練ということで手加減されてその様なのだ。

 もしも本気の甚爾と立ち会ったら……と虎杖は小さく震えた。

 

「もう毎日ボッコボコ。まだ一撃も当てられてねぇし」

 

「親父が特殊過ぎんだよ……普通に評価するならオマエの近接戦闘の才能は頭一つ抜けてる。禰々さんの座学はどうだ?」

 

「あー……言ってる内容はめちゃくちゃわかりやすいんだけど、どうにもテンションが合わないっていうか取っ付きにくい感じでさ……。この訓練のコツ聞いたときだって《私は呪力の制御より感情の制御が先でしたから……》って。どう考えても軽々しく突っ込んじゃダメな感じだったんだよな」

 

「オマエって……能天気でがさつだけど鈍くはねぇよな」

 

「あれ? バカにされてる?」

 

「褒めてんだよ」

 

 禰々にとって禪院家のこと、そこで過ごした過去のことを聞くのは禁忌に近い。

 迂闊に踏み込めば真っ黒なエピソードが延々と垂れ流されることになる。

 感情の制御云々の話もその一つ。

 禰々は術式判明以降、育児放棄の末に、ほとんど虐待のような日々を過ごしてきた。泣こうが喚こうが何一つ状況は好転せず、他人に甘えることすらできずに。そうして出来上がったのが極力感情を殺した禪院家での禰々だ。

 虎杖がやっているのは感情が大きく振れても呪力を一定に保つ訓練だが、禰々の場合は逆に感情が揺れ動かないことで結果的に呪力が安定したという何とも皮肉な話である。

 

「過去に色々あった──それで納得しておけ」

 

「おう」

 

 良くも悪くも素直だなコイツ……と思いながら伏黒はふと机の上に目を向けた。

 乱雑に詰まれたDVDの山。

 そこから少し離れたところに見終わったDVDが五、六枚積んである。

 一枚二時間の映画だとして今日だけで十時間以上見ているのか。

 しかも、その間に甚爾との組手と禰々の座学までこなして。

 伏黒の視線に気付いたのか虎杖は少し照れ臭そうに頬を掻いた。

 

「助けてもらったけどまたすぐ死にました、じゃ禰々さんにも伏黒達にも顔向けできねぇからさ」

 

 強くなるよ俺──と虎杖は呟いてグッと拳を握った。

 虎杖は伏黒と違って呪いに接してきた時間がほとんどない。

 そして、交流会まで後一ヶ月。

 経験も時間もないとなれば特訓の密度を上げて徹底的に鍛え上げるしかない。

 幸いにも体術、座学ともに指南役は最高峰の人間が揃っている。

 後は虎杖がどれだけ吸収できるか。

 これで無様に負けたりすれば甚爾と禰々からどんな罵詈雑言が飛んでくるかわからない。

 

「少しは術師らしくなってきたな」

 

「ああ。つーか、伏黒もめちゃくちゃハードな特訓してるだろ。薄くなってるけど頭に血の跡ついてるし。相当ざっくりいったんじゃねぇの?」

 

「これは……初対面でいきなり女の好みを聞いてくる筋肉モリモリマッチョマンの変態にボコボコにされた」

 

「え? マジで?」

 

「マジで」

 

 虎杖が困惑した顔を向けてくるが、他にうまく言い表せる言葉が思い浮かばなかったのだ。

 

「交流会で実際に見てみたら納得すると思うぞ」

 

「見たくねぇし、ボコられたくねぇんだけど……」

 

 誰だってそうだろう。

 伏黒だって好き好んであの手の人間に関わりたいとは思わない。

 そこで伏黒の頭に少しばかり悪い考えが閃いた。

 自分一人だけ理不尽に殴られたままというのも何だか癪な話である。

 東堂の性格からして交流会では確実にワンマンプレーに走るはずだ。

 団体戦の内容が何であれ、あの東堂を全員で相手するのは分が悪い。

 となると、それを足止めする捨て駒の人間が必要だ。

 虎杖の実力なら東堂相手に瞬殺されるなんてことはないだろうし、しれっと推薦しておこうと伏黒は密かに心に決めたのだった。

 

「さーて、次は何にするかな」

 

 伏黒がそんなことを考えているとは露知らず、虎杖は見終わったDVDを片付けて、次のDVDに手を伸ばす。

 

「まだ見るのか?」

 

「今日は五条先生に稽古つけてもらうはずだったんだけど……急に本場のじゃがバター食べたくなったから北海道行ってくるって言って出ていったんだよなー」

 

「自由過ぎるだろ……また禰々さんに痛い目見せられるぞ」

 

 いつものことと言えばいつものことだが。

 

「伏黒この後暇? 一緒に見ようぜ」

 

「ああ。何見るんだ?」

 

「砂漠の真ん中で地雷踏んで動けなくなる話」

 

度々禰々と原作キャラクターの関係を考察してくださっている方々がいるのでお聞きしたいんですが、皆さんのイメージで禰々が付き合うなら誰だと思いますか?

  • 惚れるなら一番強いヤツっしょ! 五条悟
  • 救済からの恋愛は“アリ”だ。夏油傑
  • 揺るぎない人間性以外は求めません。伏黒恵
  • 私がいたろ。何が独りだ馬鹿野郎。家入硝子
  • 信頼も信用も尊敬もしています。七海建人
  • その他登場人物
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